説明

可変焦点レンズ

【課題】電気光学結晶の場所による屈折率の差を小さくして、レンズとしての収差を抑え、所望のレンズ特性を得ることを可能とする可変焦点レンズを提供する。
【解決手段】可変焦点レンズ1は、電気光学結晶50とレンズ基板30とを備える。電気光学結晶50の第1の面50aには第1のフレネルレンズ20が形成され、第2の面52には第2のフレネルレンズ21が形成される。レンズ基板30の第1の面30aには第2のフレネルレンズ21を反転した形状が形成され、第2の面30bは平坦に形成される。電気光学結晶50の第1の面50aには第1の電極40が形成され、レンズ基板30の第2の面30bには第2の電極41が形成される。電気光学結晶50とレンズ基板20とは、電気光学結晶50の第2の面50bとレンズ基板20の第1の面30aとで、間隙を有することなく貼り合わされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラ、眼鏡等の光学装置において、焦点距離の調整等に用いられる可変焦点レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、屈折率可変物質に印加する電圧を変えることで、焦点距離を制御することができる可変焦点レンズが知られている。この可変焦点レンズとして、屈折率可変物質として液晶を用い、液晶とレンズ形状とを組み合わせた液晶レンズがある。
【0003】
ここで、液晶とレンズ形状とを組み合わせた液晶レンズに関して従来技術を説明する。特許文献1〜3には、フレネルレンズ形状と液晶とを組み合わせ、電界印加により液晶の配向を変化させ、それによりフレネルレンズと液晶の界面による表面屈折効果を切替えて焦点距離を変化させる液晶レンズが記載されている。
【0004】
特許文献1、2には、フレネルレンズ面が形成された透明基板と、平らな透明基板とで液晶層を挟持した液晶レンズが記載されている。特許文献1に記載の液晶レンズは、フレネルレンズ面上に電極が形成され、特許文献2に記載の液晶レンズは、フレネルレンズ構造の液晶層と反対側の面に電極が形成される。
【0005】
特許文献3には、フレネルレンズ面が形成された2枚の透明基板で液晶層を挟持した液晶レンズが記載されている。特許文献3に記載の液晶レンズは、それぞれのフレネルレンズ面上に電極が形成される。
【0006】
また、特許文献4には、液晶に代わる屈折率可変物質として電気光学結晶(EO結晶)を用いた例を示している。電気光学結晶は、液晶のように屈折率が偏光方向に依存することがないため、偏光板を用いることなく可変焦点レンズを構成することができる。さらに電気光学結晶は、液晶と比べて電圧印加による屈折率変化速度が速いという利点がある。
特許文献4に記載される可変焦点レンズは、フレネルレンズ構造の屈折率可変物質と反対側の面に電極が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−323261号公報(第4頁、図5)
【特許文献2】特開2006−85801号公報(第8−9頁、図1)
【特許文献3】特開昭63−4222号公報(第3頁、図2)
【特許文献4】特開平10−26705号公報(第8頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、屈折率可変物質とレンズ形状とを組み合わせた可変焦点レンズの従来技術では、次のような問題がある。
以下の説明では、フレネルレンズ形状の一つ一つの刃形状をブレーズと呼ぶ。図5は、従来の可変焦点レンズの、一つのブレーズにおける半径方向の距離と屈折率可変物質にかかる電界強度との関係を示す図である。
【0009】
特許文献1に記載の可変焦点レンズでは、フレネルレンズ面上に形成された電極により屈折率可変物質に電圧が印加される。しかし、フレネルレンズ面の形状により、屈折率可
変物質の厚みが半径方向において変化するため、図5の符号Eで示すように、電圧を印加した際に半径方向で屈折率可変物質にかかる電界強度が異なる。
【0010】
また、特許文献2及び特許文献4に記載の可変焦点レンズでは、フレネルレンズ構造の屈折率可変物質と反対側の面に形成された電極により屈折率可変物質に電圧が印加される。このような構成では電極間の距離は半径方向において一定である。しかし、フレネルレンズ構造を、例えば紫外線硬化樹脂や熱硬化樹脂で形成したとすると、それらの樹脂の誘電率は、電気光学結晶等の屈折率可変物質の誘電率と比較してかなり小さいため、屈折率可変物質にかかる電界強度がフレネルレンズ構造の厚みで変化する。このため、図5の符号Eで示すように、電圧を印加した際に半径方向で屈折率可変物質にかかる電界強度が異なる。
【0011】
さらに、特許文献3に記載の可変焦点レンズでは、フレネルレンズ面上に電極が構成された2枚の基板で屈折率可変物質を狭持する構成であるため、屈折率可変物質の厚みの半径方向の変化は、特許文献1に記載の可変焦点レンズより大きくなる。このため、図5の符号Eで示すように、電圧を印加した際に生じる半径方向での屈折率可変物質にかかる電界強度の差も大きくなる。
【0012】
ここで、特許文献1〜4に記載の可変焦点レンズで、各ブレーズにおけるフレネルレンズ構造の厚みを、最も厚い箇所で8.5μm、最も薄い箇所で1.5μmとし、フレネルレンズ構造が最も厚い箇所(屈折率可変物質が最も薄い箇所)の屈折率可変物質の厚みが5μmとなる構成について、屈折率可変物質にかかる電界強度を計算する。
【0013】
このような構成では、フレネルレンズ構造が最も薄い箇所(屈折率可変物質が最も厚い箇所)の屈折率可変物質の厚みは、フレネルレンズ面が形成された透明基板と平らな透明基板とで屈折率可変物質を挟持した特許文献1、2、4に記載の可変焦点レンズでは12μmとなり、フレネルレンズ面が形成された2枚の透明基板で屈折率可変物質を挟持した特許文献3に記載の可変焦点レンズでは19μmとなる。
また、フレネルレンズ構造を形成する樹脂の誘電率を2.36とし、屈折率可変物質としてニオブ酸リチウムを用い、この平均誘電率を28として計算する。
【0014】
このとき、特許文献1に記載の可変焦点レンズにおいて、対向する2つの電極の間に10[V]を印加すると、屈折率可変物質にかかる電界強度は、フレネルレンズ構造が最も厚い箇所で2.0[V/μm]となり、フレネルレンズ構造が最も薄い箇所で0.83[V/μm]となる。よってフレネルレンズ構造の最も薄い箇所と最も厚い箇所とで、屈折率可変物質にかかる電界強度の差は1.17[V/μm]となる。
【0015】
また、特許文献2及び特許文献4に記載の可変焦点レンズにおいて、同様に、対向する2つの電極の間に10[V]を印加すると、屈折率可変物質にかかる電界強度は、フレネルレンズ構造が最も厚い箇所で0.094[V/μm]となり、フレネルレンズ構造が最も薄い箇所で0.34[V/μm]となる。よってフレネルレンズ構造の最も薄い箇所と最も厚い箇所とで、屈折率可変物質にかかる電界強度の差は0.25[V/μm]となる。
【0016】
さらに、特許文献3に記載の可変焦点レンズにおいて、同様に、対向する2つの電極の間に10[V]を印加すると、屈折率可変物質にかかる電界強度は、フレネルレンズ構造が最も厚い箇所で2.0[V/μm]となり、フレネルレンズ構造が最も薄い箇所で0.53[V/μm]となる。よってフレネルレンズ構造の最も薄い箇所と最も厚い箇所とで、屈折率可変物質にかかる電界強度の差は1.47[V/μm]となる。
【0017】
このように、従来の可変焦点レンズにおいては、電圧を印加した際に半径方向で屈折率可変物質にかかる電界強度の差が大きく異なる。これにより、場所により屈折率可変物質の屈折率の差が生じ、レンズとして収差の原因になる問題がある。
【0018】
フレネルレンズ構造に対して屈折率可変物質を相対的に厚くすれば、場所による屈折率可変物質にかかる電界強度の差を小さくすることは可能である。しかし、屈折率可変物質を厚くすると屈折率可変物質の屈折率を変化させるのに必要な電界強度が大きくなり、フレネルレンズ構造を薄くするとレンズパワーが小さくなり、電気光学的な可変焦点レンズに要求される性能を低下させることになり好ましくない。
【0019】
そこで、この発明は上述した従来技術による問題を解消し、屈折率可変物質の場所による屈折率の差を小さくして、レンズとしての収差を抑え、所望のレンズ特性を得ることを可能とする可変焦点レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述した課題を解決して目的を達成するため、本発明の可変焦点レンズは、基本的に下記記載の構成を採用するものである。
【0021】
本発明に係る可変焦点レンズは、第1の面に第1のレンズが形成され、第2の面に第2のレンズが形成された電気光学結晶と、第1の面に第2のレンズを反転した形状が形成され、第2の面が平坦に形成されたレンズ基板と、を備え、電気光学結晶の第2の面と、レンズ基板の第1の面とが貼り合わされ、電気光学結晶の第1の面に第1の電極が形成され、レンズ基板の第2の面に第2の電極が形成されたことを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る可変焦点レンズは、第1のレンズ及び第2のレンズとしてフレネルレンズが形成され、第1のレンズ及び第2のレンズのフレネルレンズの分割された各レンズ面が、互いに向かい合って位置することを特徴とする。
【0023】
さらに、本発明に係る可変焦点レンズは、電気光学結晶の誘電率をεEo、レンズ基板を形成する部材の誘電率をεとし、レンズ基板の第2の面からレンズ基板の第1の面までの距離をL、レンズ基板の第2の面から電気光学結晶の第1の面までの距離をL、Kを定数としたとき、レンズ有効径領域のそれぞれの位置で、K=ε/{εEo×L+ε×(L−L)}の関係式を満たすことを特徴とする。
【0024】
本発明の可変焦点レンズは、レンズ基板が厚く、レンズ基板による電圧降下が大きい箇所は、電気光学結晶に印加される電圧は小さいが、電気光学結晶が薄いために電気光学結晶の単位電圧当たりの電界強度は大きい。これに対して、レンズ基板が薄く、レンズ基板による電圧降下が小さい箇所は、電気光学結晶に印加される電圧は大きいが、電気光学結晶が厚いために電気光学結晶の単位電圧当たりの電界強度は小さい。
よって、本発明の可変焦点レンズでは、レンズ基板の厚さによる電圧降下の違いが、電気光学結晶の厚さの違いにより相殺され、電圧を印加した際の半径方向の電気光学結晶の電界強度の差を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の可変焦点レンズによれば、電圧を印加した際の半径方向の電気光学結晶にかかる電界強度の差を小さくし、電気光学結晶の場所による屈折率の差を小さくして、レンズとしての収差を抑え、所望のレンズ特性を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態の可変焦点レンズの構成を示す断面図である。
【図2】本発明の可変焦点レンズの、一つのブレーズにおける半径方向の距離と、電気光学結晶にかかる電界強度との関係を示す図である。
【図3】本発明の実施形態の可変焦点レンズの断面の拡大図である。
【図4】本発明の他の実施形態の可変焦点レンズの構成を示す断面図である。
【図5】従来の可変焦点レンズの、一つのブレーズにおける半径方向の距離と、屈折率可変物質にかかる電界強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に図面を参照して、本発明の可変焦点レンズの好適な実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態の可変焦点レンズ1の構成を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の可変焦点レンズ1は、ニオブ酸リチウムなどの電気光学結晶50とレンズ基板30とを備える。
【0028】
電気光学結晶50の第1の面50aには、同心円状に分割されたレンズ面(分割レンズ面20a)が段差を介して接続された形状の第1のフレネルレンズ20が形成される。また、電気光学結晶50の第2の面50bには、同様に、同心円状に分割されたレンズ面(分割レンズ面21a)が段差を介して接続された形状の第2のフレネルレンズ21が形成される。
【0029】
第1のフレネルレンズ20の各分割レンズ面20aと第2のフレネルレンズ21の各分割レンズ面21aは、それぞれ互いに向かい合って位置し、光軸が一致している。また、電気光学結晶50の第1の面50aには、レンズ有効径領域に、透明電極材料で第1の電極40が形成されている。透明電極材料とはレンズ作用を期待する光の波長範囲において透過率が高い材料で、可視光の範囲であればインジウム・スズ酸化物などが用いられる。
【0030】
レンズ基板30は、例えば樹脂により形成された基板であり、第1の面30aに第2のフレネルレンズ21を反転した形状が形成される。レンズ基板30の第2の面30bは平坦に形成されている。レンズ基板30の第2の面30bには、レンズ有効径領域に、透明電極材料で第2の電極41が形成されている。
【0031】
このような構成を備える電気光学結晶50とレンズ基板30とは、電気光学結晶50の第2の面50bとレンズ基板30の第1の面30aとで、間隙を有することなく貼り合わされている。
【0032】
次に、本実施形態の可変焦点レンズにおいて、各電極に電圧を印加した際の電気光学結晶にかかる電界強度について説明する。図2は、本発明の可変焦点レンズと、従来の可変焦点レンズとにおける、一つのブレーズにおける半径方向の距離と電気光学結晶にかかる電界強度との関係を示す図である。図2において、符号E、E、Eは、それぞれ前述した特許文献1〜4に記載の可変焦点レンズの電界強度を示す。
【0033】
本実施形態の可変焦点レンズ1では、レンズ基板30が厚い箇所は、基板材料による電圧降下が大きく、電気光学結晶50に印加される電圧が小さい。しかし、レンズ基板30が厚い箇所は、電気光学結晶50が薄いため、電気光学結晶50にかかる単位電圧当たりの電界強度は大きい。
これに対して、レンズ基板30が薄い箇所は、レンズ基板30の基板材料による電圧降下が小さく、電気光学結晶50に印加される電圧が大きい。しかし、レンズ基板30が薄い箇所は、電気光学結晶50が厚いため、電気光学結晶50にかかる単位電圧当たりの電界強度は小さい。
【0034】
よって、本実施形態の可変焦点レンズ1では、レンズ基板30の厚さによる電圧降下の
違いが、電気光学結晶50の厚さの違いにより相殺され、図2のEに示すように、E〜Eで示す従来の可変焦点レンズと比較して、電圧を印加した際の半径方向の屈折率可変物質にかかる電界強度の差を小さくすることができる。なお、Eについては後述する。
【0035】
ここで、図1に示す実施形態の可変焦点レンズ1で、第1のフレネルレンズ20と第2のフレネルレンズを同じレンズ形状とし、レンズ基板30の厚みを、最も厚い箇所で8.5μm、最も薄い箇所で1.5μmとし、レンズ基板30が最も厚い箇所(電気光学結晶50が最も薄い箇所)の電気光学結晶50の厚みが5μmとなる構成について、電気光学結晶50にかかる電界強度を計算する。このような構成では、レンズ基板30が最も薄い箇所(電気光学結晶50が最も厚い箇所)の電気光学結晶の厚みは19μmとなる。
また、レンズ基板30を形成する樹脂として一般的なUV硬化樹脂を用い、この誘電率を2.36とし、屈折率可変物質としてニオブ酸リチウムを用い、この平均誘電率を28として計算する。
【0036】
このとき、図1に示す実施形態の可変焦点レンズ1において、対向する2つの電極の間に10[V]を印加すると、電気光学結晶50にかかる電界強度は、レンズ基板30が最も厚い箇所で0.094[V/μm]となり、レンズ基板30が最も薄い箇所で0.27[V/μm]となる。よってレンズ基板30の最も薄い箇所と最も厚い箇所とで、電気光学結晶50にかかる電界強度の差は0.18[V/μm]となる。
【0037】
このように、本実施形態の可変焦点レンズ1では、従来の可変焦点レンズに比べて、電気光学結晶50にかかる電界強度分布の幅を小さくすることができる。これにより、電気光学結晶50の場所による屈折率の差を小さくして、レンズとしての収差を抑え、所望のレンズ特性を得ることが可能となる。
【0038】
次に、電気光学結晶にかかる電界強度の半径方向の差をより小さくするための、電気光学結晶50及びレンズ基板30の構成について説明する。図3は、図1に示す実施形態の可変焦点レンズ1の断面の拡大図である。なお、図3においては、理解を容易にするために、寸法などは誇張をして記載している。ここで、図3に示すように、レンズ有効径領域のある位置における、第2の電極41が形成されたレンズ基板30の第2の面30bからレンズ基板30の第1の面30aまでの距離をLとする。また、第2の電極41が形成されたレンズ基板30の第2の面30bから第1の電極40が形成された電気光学結晶50の第1の面50aまでの距離をLとする。また、電気光学結晶50の誘電率をεEO、レンズ基板30を形成する材料の誘電率をεとする。レンズ基板30を形成する材料として例えば樹脂を用いた場合、電気光学結晶50の誘電率εEOは、レンズ基板30を形成する材料誘電率をεより大きくなる。
【0039】
このとき、第1の電極40と第2の電極41との間に電圧Vを印加すると、電気光学結晶50にかかる電界強度Eは、以下の式(1)となる。
E=ε×V/{εEO×L+ε×(L−L)}・・・(1)
よって、Kを定数とすると、半径方向のそれぞれの位置で、LとLとが以下の式(2)をほぼ満たすとき、図2のEに示すように、電圧を印加した際の半径方向の電気光学結晶にかかる電界強度の差をより小さくすることができる。
K=ε/{εEO×L+ε×(L−L)}・・・(2)
【0040】
ここで、レンズ基板30の厚みを、最も厚い箇所で2.1μm、最も薄い箇所で1.5μmとし、レンズ基板30が最も厚い箇所(電気光学結晶50が最も薄い箇所)の電気光学結晶50の厚みが5μmとなる構成について、上述した式(2)を満たす電気光学結晶50の構成を計算する。レンズ基板30を形成する樹脂として一般的なUV硬化樹脂を用
い、この誘電率を2.36とし、電気光学結晶50としてニオブ酸リチウムを用い、この平均誘電率を28として計算する。
【0041】
電気光学結晶50の最も厚い箇所と最も薄い箇所とで計算すると、上述した式(2)を満たす電気光学結晶50の構成は、最も薄い箇所の厚み5μmに対して、最も厚い箇所の厚みを12.6μmとすることができる。
このとき第1の電極40と第2の電極41の間に、例えば10[V]を印加すると、レンズ基板30が最も厚い箇所と最も薄い箇所との電気光学結晶50にかかる電界強度は、それぞれ0.09[V/μm]となる。
【0042】
上述した、計算例では、電気光学結晶50の最も厚い箇所と最も薄い箇所とについて形状を求めた。電気光学結晶50の構成を、ブレーズのそれぞれの位置において式(2)を満たす形状とすることにより、ブレーズのそれぞれ位置における電気光学結晶50にかかる電界強度の差を小さくすることが可能となる。
【0043】
本実施形態の可変焦点レンズ1は、上述した式(2)をほぼ満たすことにより、図2の符号Eで示すように、電圧を印加した際の半径方向の電気光学結晶にかかる電界強度の差を小さくし、電気光学結晶の場所による屈折率の差を無くして、レンズとしての収差を抑え、所望のレンズ特性を得ることが可能となる。
【0044】
図4は、本発明の他の実施形態の可変焦点レンズの構成を示す断面図である。図1及び図3では、電気光学結晶およびレンズ基板にそれぞれフレネルレンズが形成された例を示した。しかし本発明はこれに限定されるものではなく、図4に示すように、電気光学結晶およびレンズ基板に分割されていないレンズが形成された構成であってもよい。
【0045】
図4に示す可変焦点レンズ2は、電気光学結晶51の第1の面51aに分割されていない第1のレンズ22が形成され、第2の面51bに分割されていない第2のレンズ23が形成される。また、レンズ基板31の第1の面31aに第2のレンズ23を反転した形状が形成され、第2の面31bは平坦に形成されている。その他の構成は図1及び図3に示す例と同じである。電気光学結晶51とレンズ基板31とは、電気光学結晶51の第2の面51bとレンズ基板31の第1の面31aとで、間隙を有することなく貼り合わされている。
【0046】
図4に示す分割されていないレンズが形成された構成であっても、図1及び図3に示す構成と同様に、レンズ基板31の厚さによる電圧降下の違いが、電気光学結晶51の厚さの違いにより相殺され、電圧を印加した際の半径方向の電気光学結晶51にかかる電界強度の差を小さくし、電気光学結晶51の場所による屈折率の差を小さくして、レンズとしての収差を抑えることが可能となる。
【0047】
本発明の可変焦点レンズでは、電気光学結晶として、例えば、ニオブ酸リチウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸カリウム、タンタル酸リチウム、タンタル酸ニオブ酸カリウム等を用いることができる。
【0048】
上述した各実施形態では、電気光学結晶に第1及び第2のレンズとして凸レンズが形成された例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1及び第2のレンズが凹レンズであってもよい。
また、本発明は、上述した各実施の形態に限らず種々変更可能である。例えば、実施の形態中に記載した寸法や特性値などの値は一例であり、本発明はそれらの値に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0049】
1、2 可変焦点レンズ
20 第1のフレネルレンズ
20a 分割レンズ面
21 第2のフレネルレンズ
21a 分割レンズ面
22 第1のレンズ
23 第2のレンズ
30、31 レンズ基板
30a、31a 第1の面
30b、31b 第2の面
40 第1の電極
41 第2の電極
50、51 電気光学結晶
50a、51a 第1の面
50b、51b 第2の面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面に第1のレンズが形成され、第2の面に第2のレンズが形成された電気光学結晶と、
第1の面に前記第2のレンズを反転した形状が形成され、第2の面が平坦に形成されたレンズ基板と、を備え、
前記電気光学結晶の前記第2の面と、前記レンズ基板の前記第1の面とが貼り合わされ、
前記電気光学結晶の前記第1の面に第1の電極が形成され、
前記レンズ基板の前記第2の面に第2の電極が形成された
ことを特徴とする可変焦点レンズ。
【請求項2】
前記第1のレンズ及び前記第2のレンズとしてフレネルレンズが形成され、
前記第1のレンズ及び前記第2のレンズのフレネルレンズの分割された前記各レンズ面が、互いに向かい合って位置する
ことを特徴とする請求項1に記載の可変焦点レンズ。
【請求項3】
前記電気光学結晶の誘電率をεEo、前記レンズ基板を形成する部材の誘電率をεとし、
前記レンズ基板の前記第2の面から前記レンズ基板の前記第1の面までの距離をL、前記レンズ基板の前記第2の面から前記電気光学結晶の前記第1の面までの距離をL、Kを定数としたとき、レンズ有効径領域のそれぞれの位置で、
K=ε/{εEo×L+ε×(L−L)}の関係式を満たす
ことを特徴とする請求項1または2に記載の可変焦点レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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