説明

可変焦点型液体充填レンズ器械

可変焦点レンズ器械が少なくとも1つの硬質光学円板、少なくとも1つの軟質光学メンブレン及び流体チャネル及びリザーバと連通状態にある透明な流体の少なくとも1つの層を有する。眼鏡レンズに組み込まれると、このレンズシステムにより装用者は、各レンズの屈折力を調整し、それにより任意所望の物体平面での最大立体浮き上がり度及び両眼融像に合った好ましい両眼視性能を達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変焦点レンズの分野、特に、少なくとも一部は流体であり、或いは、液体で満たされた消費者用オフサルミックレンズ(ophthalmic lenses)に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の目の中の生まれつきの水晶体の焦点距離を調節し、即ち、これを変更する人間の目の能力は、歳と共に次第に低下することが知られている。人間の調節力は、35〜45歳の年齢では3D(ジオプタ)以下に低下する。この時点では、近くの物体(例えば、本又は雑誌の文章)を焦点にもってくることができるようにするためには読書用眼鏡又は他の何らかの形態の近視矯正手段が人間の目にとって必要になる。加齢により、調節力は、2Dを下回り、この時点では、コンピュータを使って仕事をしているとき又は中間距離で何らかの視作業を行う際に視力矯正が必要である。
【0003】
最善の結果及び最善の視覚上の快適さを得るためには、各々の目の焦点を同一の観察標的、例えばコンピュータスクリーン上に合わせることが必要である。多くの人には各目について互いに異なる視力矯正が必要である。不同視患者と呼ばれているこれらの人々については、最大の視覚的快適さを達成する一方で、読書をしたり又はコンピュータで作業をしたりするために、各目について互いに異なる視力矯正が必要である。不同視患者の2つの目の各々の焦点が同一の観察平面に合わない場合、結果として生じる不同視像のぼけにより、立体浮き上がり度(奥行覚)が失われてしまう。立体浮き上がり度が失われることは、両眼視機能が失われるということの最も良い指標の1つである。読書平面での両眼視性が失われることにより、読書速度及び理解速度が低下する場合があり、しかも、続けて読書をしたり又はコンピュータで仕事をする際に疲労の始まりが早められる場合がある。したがって、個々に調整可能な液体レンズを備えた読書用眼鏡は、両眼視機能が失われた人の視覚上の要望に合った唯一のものである。
【0004】
可変焦点レンズは、軟質透明なシート相互間に封入された或る量の液体の形態をしているのが良い。典型的には、1つがレンズ前面を形成し、もう1つがレンズ後面を形成するようになったかかる2枚のシートがこれらのエッジのところで直接互いに取り付けられ又はシート相互間のキャリアに取り付けられ、それにより、流体を収容した密閉チャンバが形成される。両方のシートは、軟質であっても良く、或いは、一方が軟質であり、もう一方が硬質であっても良い。流体をチャンバ内に導入し又はこれから取り出すことができ、それによりその容積が変化し、液体の量が変化すると、シートの曲率も変化し、かくしてレンズの屈折力(パワー)が変化する。したがって、液体レンズは、読書用眼鏡、即ち、老眼の人が読書のために用いる眼鏡に用いられるのに特に好適である。
【0005】
可変焦点液体レンズが少なくとも1958年代より知られている(これについては、例えば、ド・スワート(de Swart)に付与された米国特許第2,836,101号明細書を参照されたい)。最近の例は、タン等(Tang et al),「ダイナミカリ・リコンフィギュラブル・リキッド・コア・リキッド・クラッディング・レンズ・イン・ア・マイクロフルイディック・チャネル(Dynamically Reconfigurable Liquid Core Liquid Cladding Lens in a Microfluidic channel)」,ラボ・オン・ア・チップ(LAB ON A CHIP),2008年,Vol.8,No.3,p.395〜401及び国際公開第2008/063442号パンフレット(発明の名称:Liquid Lenses with Polycyclic Alkanes)に見受けられる。これら液体レンズは、典型的には、フォトニクス、ディジタルフォン及びカメラ技術並びにマイクロエレクトロニクス用である。
【0006】
また、消費者用オフサルミック用途向けの液体レンズが提案された。これについては、例えば、フロイド(Floyd)に付与された米国特許第5,684,637号明細書及び同第6,715,876号明細書並びにシルバー(Silver)に付与された米国特許第7,085,065号明細書を参照されたい。これら特許文献は、弾性メンブレン表面の曲率を変化させ、かくして、液体レンズの焦点を変えるためのレンズチャンバに対する液体の吸入排出(ポンピング)を教示している。例えば、米国特許第7,085,065号明細書(発明の名称:Variable Focus Optical Apparatus)は、2枚のシートから成る流体エンベロープで作られた可変焦点レンズを教示しており、これら2枚のシートのうちの少なくとも一方は、軟質である。軟質シートは、2つのリング相互間の定位置に保持され、これらリングは、例えば接着剤、超音波溶接又は任意の類似のプロセスにより互いに直接的に固定され、他方の硬質シートは、リングのうちの一方に直接固定される場合がある。軟質メンブレンと硬質シートとの間のキャビティを透明な流体で満たすことができるようにするために組立て状態のレンズを貫通して穴が開けられている。
【0007】
液体レンズは、多くの利点を有し、かかる利点としては、ダイナミックレンジが広いこと、適応矯正が可能であること、ロバストネスであること、安価であることが挙げられる。しかしながら、全ての場合において、液体レンズの利点は、その欠点、例えば、アパーチュアサイズが制限されること、漏れの恐れがあること、性能に一貫性がないことに対してバランスが取られる必要がある。具体的に説明すると、発明者シルバーは、オフサルミック用途で用いられるべき液体レンズ内への流体の効果的な収容に関する幾つかの改良例及び実施例(これらには限定されない)を開示している(例えば、シルバーに付与された米国特許第6,618,208号明細書及び引用文献)。液体レンズの屈折力調整は、追加の流体をレンズキャビティ内に注入すること、エレクトロウェッティング(electrowetting)、超音波インパルスの適用及び膨潤剤、例えば水の導入時に膨潤力を架橋ポリマーに利用することによって行われている。
【0008】
液体レンズの商業化は、上述の欠点のうちの幾つかを改善することができれば、近い将来に行われることが期待される。さらに、先行技術の液体レンズの構造は、嵩張っていて、消費者にとって審美的に適しておらず、消費者は、薄いレンズを備えた眼鏡及び嵩張ったフレームなしの眼鏡を望んでいる。レンズの本体中への液体の注入又は圧送によって動作するレンズの場合、通常、複雑な制御システムが必要であり、それにより、かかるレンズは嵩張ると共に高価になり、しかも振動の影響を受けやすくなる。
【0009】
加うるに、今日まで、液体をレンズチャンバ内に導入し又は液体をレンズチャンバから取り出して消費者自体がレンズの屈折力を変化させるためにその容量を変化させることができる性能を消費者に提供しているような従来型液体レンズは存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第2,836,101号明細書
【特許文献2】国際公開第2008/063442号パンフレット
【特許文献3】米国特許第5,684,637号明細書
【特許文献4】米国特許第6,715,876号明細書
【特許文献5】米国特許第7,085,065号明細書
【特許文献6】米国特許第6,618,208号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】タン等(Tang et al),「ダイナミカリ・リコンフィギュラブル・リキッド・コア・リキッド・クラッディング・レンズ・イン・ア・マイクロフルイディック・チャネル(Dynamically Reconfigurable Liquid Core Liquid Cladding Lens in a Microfluidic channel)」,ラボ・オン・ア・チップ(LAB ON A CHIP),2008年,Vol.8,No.3,p.395〜401
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的によれば、消費者、オフサルミック用途向きの液体充填レンズが提供される。レンズは、ガラス又はプラスチックで作られた光学部品によって提供される硬質の前側部材、硬質光学部品のエッジ上に引き延ばされた軟質メンブレンから成る後面及び前側光学部品と軟質メンブレンとの間に形成されたキャビティを満たす流体を有している。液体充填レンズは、1つ又は2つ以上の液体充填キャビティを有するのが良く、これらキャビティは、対応した枚数のメンブレンで構成されている。各液体充填キャビティは、密閉されていて、メンブレンを引き延ばし状態に維持するために正圧下にある。前側光学部品は、球面の幾何学的形状を有すると共にメニスカス形状を有するのが良い。
【0013】
或る特定の実施形態では、本発明は、可変焦点光学器械であって、硬質の湾曲した透明な光学コンポーネントと、硬質光学コンポーネントとの間にキャビティを構成するよう硬質光学コンポーネントの周囲に取り付けられた少なくとも1枚の透明な伸張性(distensible)メンブレンと、キャビティを満たす可変量の流体と、追加の流体を収容していて、キャビティと流体連通状態にあるリザーバとを有し、リザーバは、力又は衝撃に応答してキャビティ内への流体の注入又はキャビティからの流体の抜き出しを可能にするよう動作可能であることを特徴とする可変焦点光学器械を提供する。
【0014】
連通チャネルがリザーバとキャビティを流体連通させ、それにより密閉システムが形成される。リザーバとキャビティを流体連通させる連通チャネルは、リング内に位置するのが良く、メンブレン及び硬質光学コンポーネントの周囲は、連通チャネルへの取り付けのために少なくとも部分的にリング内に位置する。
【0015】
他の実施形態では、本発明は、2つのキャビティを構成するよう硬質光学コンポーネントの周囲に取り付けられた2枚のメンブレン、キャビティの各々を満たす可変量の流体及びキャビティのうちの少なくとも一方と流体連通状態にあるリザーバを備えた可変焦点光学器械を提供することができる。
【0016】
他の実施形態では、本発明は、少なくとも1つの可変焦点レンズ、リザーバアクチュエータ及びフレームを備えたオフサルミック用途用の1組の単眼鏡を提供することができ、レンズのうちの少なくとも一方の光学屈折力は、装用者により別個に調整可能である。眼鏡の或る特定の実施形態では、リザーバは、フレーム内に位置するのが良く、かかるリザーバは、レンズのうちの少なくとも一方の光学屈折力を調整するようアクチュエータによって動作可能である。眼鏡の或る特定の実施形態では、連通チャネルは、リザーバとキャビティを流体連通させた状態でフレーム内に位置するのが良い。
【0017】
液体充填レンズは、最大4.00Dの範囲にわたり光学屈折力を変化させることができる。
【0018】
本発明の内容は、特定の実施形態の以下の詳細な説明及びかかる実施形態を図示すると共に例示する添付の図面を参照すると良好に理解されよう。
【0019】
本発明の実施形態は、図と関連して行われる以下の詳細な説明から完全に理解され、図は、縮尺通りにはなっておらず、図中、同一の参照符号は、対応の、類似の又はほぼ同じ要素を示している。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】眼鏡等に用いられる液体充填レンズの第1の実施形態の概略断面図である。
【図1B】眼鏡等に用いられる液体充填レンズの第2の実施形態の概略断面図である。
【図2】液体充填レンズを利用した眼鏡器具の一実施形態の概略分解組み立て断面図である。
【図3A】液体充填レンズの性能のソフトウェア分析グラフ図である。
【図3B】液体充填レンズの性能のソフトウェア分析グラフ図である。
【図4A】液体充填レンズの性能のソフトウェア分析グラフ図である。
【図4B】液体充填レンズの性能のソフトウェア分析グラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面によって例示される以下の好ましい実施形態は、本発明の例示であり、本願の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を制限するものではない。
【0022】
図1Aは、可変焦点レンズ10の形態をした光学器械の第1の好ましい実施形態の断面図であり、装用者は、この可変焦点レンズ10を介して矢印Aの方向に見る。レンズ10は、2つの光学コンポーネント、即ち、実質的に硬質の前側(即ち、装用者に対して前側)光学部品11及び液体である後側(即ち、装用者に対して後側)光学部品15の複合体である。
【0023】
前側光学部品11は、好ましくは、硬質で透明の基材、例えば透明プラスチック又はポリカーボネート、ガラス板、透明な水晶板又は透明な硬質ポリマー、例えばビスフェノールAカーボネート又はCR‐39ポリカーボネート(ジエチレングリコールビスアリルカーボネート)で作られた実質的に硬質なレンズである。前側光学部品11は、耐衝撃性ポリマーで作られるのが良く且つ耐引き掻き性膜又は反射防止膜を有するのが良い。
【0024】
好ましい実施形態では、前側光学部品11は、メニスカス形状を有し、即ち、その前側が凸状であり且つその後側が凹状である。かくして、前側光学部品11の前面と後面の両方は、同一方向に湾曲している。しかしながら、老眼(焦点の調節ができないこと)を矯正する全てのレンズの場合と同様、前側光学部品11は、中心のところが厚く且つエッジのところが薄く、即ち、前側光学部品11の前面の曲率半径は、前側光学部品11の後面の曲率半径よりも小さく、その結果、前側光学部品11の前面と後面のそれぞれの曲率半径及びかくして前面と後面はこれら自体、互いに交差するようになっている。前側光学部品11の前面と後面の公差部は、前側光学部品11の周方向エッジ16のところである。
【0025】
或る特定の実施形態では、前側光学部品11の前面は、球面であり、このことは、この前面が従来型眼鏡用レンズの場合と同様、その表面全体にわたって同一のカーブを有することを意味している。好ましい実施形態では、前側光学部品11は、非球面であり、この前側光学部品は、注視角度の関数としてスリムな輪郭形状及び所望の屈折力プロフィールを提供するようレンズの中心からエッジまで次第に変化した複雑な前面曲率を有し、注視角度は、本明細書においては、実際の視線とレンズの主軸とのなす角度として定義される。
【0026】
後側光学部品15は、流体14で構成された液体レンズである。流体14は、前側光学部品11の後面と前側光学部品11のエッジに取り付けられたメンブレン13との間に形成されたキャビティ内に封入されている。メンブレン13は、好ましくは、軟質で透明な且つ水不浸透性の材料、例えば透明且つ弾性のポリオレフィン、ポリシクロ脂肪族化合物、ポリエーテル、ポリエステル、ポリイミド及びポリウレタン、例えばポリ塩化ビニル膜で作られ、かかるポリ塩化ビニル膜としては、市販のフィルム又は膜、例えばMylar(登録商標)又はSaran(登録商標)として製造されている膜が挙げられる。ポリエチレンテレフタレートで作られた所有権付きの明澄透明な膜がメンブレンに関する好ましい一選択肢であることが判明した。
【0027】
図1Aの前側光学部品11の後面とメンブレン13との間のキャビティは、メンブレン13を前側光学部品11の周囲又は周方向エッジ16に封着することにより形成されている。メンブレン13は、任意公知の方法、例えばヒートシール、接着シール又はレーザ溶接により前側光学部品11に封着可能である。メンブレン13は、少なくとも一部が、前側光学部品11の周囲に結合されている支持要素に結合される。メンブレン13は、好ましくは、封着時に好ましくは扁平であるが、特定の曲率又は球面幾何学的形状に熱成形されるのが良い。
【0028】
メンブレン13と前側光学部品11の後面との間に封入された流体14は、好ましくは、無色である。しかしながら、流体14は、用途に応じて、例えば、意図した用途がサングラス用のものである場合、着色されても良い。流体充填レンズに用いられるのに適した適当な屈折率及び粘度を備えた流体14としては、例えば、とりわけ流体充填レンズ用として一般に知られており又は用いられている脱泡(ガス抜き)水、鉱油、グリセリン及びシリコーン製品が挙げられる。好ましい流体14の1つは、704拡散ポンプ油(これは、一般に、シリコーン油とも呼ばれている)という名称でダウ・コーニング(Dow Corning (登録商標))社により製造されている。
【0029】
或る特定の実施形態では、メンブレン13は、それ自体、その光学的性質に関して制約がない。他の実施形態では、メンブレン13は、その光学的性質、例えば屈折率に関し、流体14の光学的性質にマッチした制約がある。
【0030】
使用にあたり、少なくとも1枚のレンズ10が装用者により使用される1本の眼鏡又は眼鏡フレーム内に嵌め込まれる。図1Aに示されているように、輪郭形状で見て、レンズ10により、ユーザは、前側光学部品11と後側光学部品15の両方を通して見ることができ、これら前側光学部品と後側光学部品は、一緒になって、前側光学部品11だけよりもレンズ10の中心のところに厚い輪郭形状を提供すると共に強力な老視矯正をもたらす。装用者には、後側光学部品15内の流体14の量を調整し、それによりレンズ10の屈折力を調節することができる能力が与えられる。或る特定の実施形態では、以下に説明するように、フレームは、過剰流体14のリザーバ及びリザーバをレンズ10の後側光学部品15に通じさせる流体ラインを備えている眼鏡フレームは、好ましくは、装用者が後側光学部品15内の流体14の量を自分で調整して流体14をリザーバ内に動かし又はリザーバから追い出して後側光学部品15内に入れ、それにより必要に応じてレンズ10の屈折力を調整できるようにする調整機構体を更に有する。
【0031】
図1Bは、可変焦点レンズ20の形態をした光学器械の第2の好ましい実施形態の断面図であり、装用者は、この可変焦点レンズ20を介して矢印Aの方向に注視する。2つの光学コンポーネントの複合体である図1Aのレンズ10とは異なり、図1Bのレンズ20は、3つの光学コンポーネント、即ち、実質的に硬質である前側光学部品21、液体である中間光学部品25及び液体である後側光学部品35の複合体である。
【0032】
前側光学部品21は、構造及び設計が図1Aに示されている実施形態の前側光学部品11とほぼ同じ実質的に硬質のレンズである。図1Aの前側光学部品11の場合と同様、前側光学部品21も又、メニスカス形状を有し、即ち、前側光学部品21の前面と後面の両方は、同一方向に湾曲しており、前側光学部品21の前面の曲率半径は、前側光学部品21の後面の曲率半径よりも小さく、その結果、前側光学部品21の前面と後面の交差部は前側光学部品21の周方向エッジ26であるようになっている。しかしながら、前側光学部品21の後面の曲率半径は、図1Aの前側光学部品11の後面の曲率半径よりも大きい。同様に、図1Aの前側光学部品11と比較して、前側光学部品21は、図1Aのレンズ10と比較して、レンズ20の全体として同一の厚さを維持するよう図1Aの前側光学部品11よりも幾分薄いのが良い。
【0033】
中間光学部品25は、図1Aを参照して説明した流体13とほぼ同じ流体24で構成された液体レンズであり、この流体24は、前側光学部品21の後面と前側光学部品21のエッジ26に取り付けられているメンブレン23との間に形成されたキャビティ内に封入され、メンブレン23は、構造及び設計が図1Aに示された実施形態のメンブレン13とほぼ同じである。流体24は、選択された屈折率(n23)を有する。
【0034】
中間光学部品25も又、その前面と後面の両方が同一方向に湾曲するようメニスカス形状を有することが好ましい。当然のことながら、硬質前側光学部品21の後面は、製造中、曲率を備えた状態で形成するのが良い。しかしながら、メンブレン23の凹状曲率は、メンブレン23が前側光学部品21のエッジ26に封着されているときにメンブレン23を特定の曲率又は球面幾何学的形状に熱成形することにより達成されるのが良い。これは、メンブレン23と前側光学部品21の後面との間に形成された密閉キャビティ内の圧力を減少させることにより達成できる。かくして、前側光学部品21の後面の曲率半径は、メンブレン23の曲率半径よりも小さく、前側光学部品21の後面とメンブレン23の交差部は、前側光学部品21の周方向エッジ26である。
【0035】
後側光学部品35は、図1Aを参照して説明した流体13とほぼ同じ流体34で構成された液体レンズであり、この流体34は、メンブレン23とメンブレン33との間に形成されたキャビティ内に封入されている。流体34は、選択された屈折率(n34)を有する。
【0036】
メンブレン33は、構造及び設計が図1Aに示された実施形態に関して説明したメンブレン13とほぼ同じである。メンブレン33も又、前側光学部品21のエッジ26に取り付けられるのが良いが、取り付け状態のメンブレン23の後側に又はそのエッジ上に取り付けられるのが良い。変形例として、メンブレン23及びメンブレン33を封着させるための着座部を提供するよう1つ又は2つ以上のリング又はリング半部を用いても良い。
【0037】
メンブレン33は、封着時に好ましくは扁平であるが、特定の曲率又は球面幾何学的形状に熱成形されるのが良い。好ましい実施形態では、中間光学部品25内の正圧は、後側光学部品35内の正圧よりも低い。後側光学部品35内の正圧が高いと、かかる圧力は、メンブレン23の形状を制御すると共に前側光学部品21の後面とメンブレン23との間のキャビティ内の中間光学部品25の屈折力及びメンブレン23とメンブレン33との間のキャビティ内の後側光学部品35の屈折力を制御する。
【0038】
使用にあたり、少なくとも1枚のレンズ20を装用者により使用されるオフサルミック用途向けに設計された1本の眼鏡又は眼鏡フレーム内に嵌め込む。図1Bに示されているように、輪郭形状で見て、レンズ20により、ユーザは、前側光学部品21、中間光学部品25及び後側光学部品35の全てを通して見ることができ、これら部品は、一緒になって、前側光学部品21だけよりもレンズ20の中心のところに厚い輪郭形状を提供すると共に強力な老視矯正をもたらす。或る特定の実施形態では、装用者には、中間光学部品25内の流体24の量又は後側光学部品35内の流体34の量又はこれら両方内の流体の量を調整し、それによりレンズ20の屈折力を調節することができる能力が与えられる。或る特定の実施形態では、以下に説明するように、フレームは、流体24のリザーバ若しくは流体34のリザーバ又はこれら両方及びそれぞれのリザーバをレンズ20の中間光学部品25又は後側光学部品35に連結する流体ラインを備えている。眼鏡フレームは、好ましくは、装用者が中間光学部品25及び後側光学部品35内のそれぞれの流体24及び流体34の量を自分で調整して流体24及び流体34をそれぞれのリザーバ内に動かし又はそのリザーバから追い出して中間光学部品25及び後側光学部品25内に入れ、それにより必要に応じてレンズ20の屈折力を調整できるようにする1つ又は2つ以上のアクチュエータ又は調整機構体を更に有する。
【0039】
さらに多くの光学コンポーネントを備えた光学器械の他の実施形態も又実現可能である。1つの硬質光学部品及び1つの液体光学部品の複合体である図1Aのレンズ10及び1つの硬質光学部品及び2つの液体光学部品の複合体である図1Bのレンズ20に加えて、光学器械は、1つの硬質光学部品及び3つ以上の液体光学部品の複合体であっても良い。ここには図示していないかかる実施形態は、ユーザに種々の利点をもたらすことができると共に図1A及び図1Bに記載された実施形態よりも洗練され且つ複雑精巧なオフサルミック調整を可能にする。
【0040】
したがって、好ましい実施形態では、レンズ10又はレンズ20は、眼鏡用途に使用可能である。左目及び右目用のレンズ10又はレンズ20は、別々に設計されると共に装用者による別々の各眼鏡レンズの調整が可能である。かかる場合、別個の液体リザーバは、各レンズと流体連通状態にあり、即ち、それ自体の液体ラインにより各レンズに連結されることが好ましい。液体レンズ組立体は、その最も好ましい実施形態では、液体レンズ、リザーバ及び上述の液体を含み、これらは一緒になって、密閉システムを構成し、かくして水の侵入又は液体の蒸発若しくは漏れが最小限に抑えられる。流体は、屈折力の調整が望ましい場合にはユーザのもたらす或る程度の力により駆動され、かくして、それぞれのリザーバ内に動かされ又はかかるリザーバから追い出されて流体光学部品内に入る。液体レンズの屈折力の調整の仕組みは、キャビティとリザーバとの間の液体輸送によるものである。
【0041】
図2は、液体充填レンズを利用した1組の単眼鏡又は1本の眼鏡1の実施形態の概略分解組み立て断面図である。眼鏡1は、可変焦点レンズが嵌め込まれたフレーム又は支持体5を有している。簡単にするため、図2は、2つの単眼鏡を、即ち、各目について1つずつの単眼鏡を備えた1本の眼鏡の一方の側(左側)のみを示している。加うるに、図2は、例えば図1Aのレンズ10の場合と同様、流体光学部品を1つだけ備えた可変焦点レンズを示している。
【0042】
前側光学部品1及びメンブレン13は、図2の分解組み立て図で見え、前側光学部品1とメンブレン13との間に形成されたキャビティと流体連通状態にあるリザーバ6が示されている。簡単にするために、本明細書において、図2を1つの流体光学部品を備えたレンズ10の実施形態に関して説明する。他の実施形態では、例えば図1Bのレンズ20において眼鏡1が2つ以上の流体光学部品を有する場合には、各々がそれぞれのキャビティと流体連通状態にある2つ以上のリザーバが必要になる。
【0043】
幾つかの実施形態では、フレーム5に取り付けられ又はフレーム5内に位置したリザーバ6は、レンズ10内に注入可能な余分の流体14を収容した中空キャビティを有する。リザーバ14内の余分の流体14は、好ましくは、流体14をレンズ10から追い出してこれをリザーバ6内に入れることができるようリザーバ6を完全には満たしていない。リザーバ6は、流体を液体レンズ光学部品内に入れたり出したりし、或いは、液体レンズ光学部品から追い出すための仕組み又はアクチュエータを有する。一実施形態では、リザーバ6は、硬質材料で作られ、このリザーバは、調節機構体又はアクチュエータ、例えばサムホイール、バレル、クランプ又はレバーに機械的に結合されたピストンを備え、この調節機構体又はアクチュエータは、リム若しくはレンズホルダ又はレンズホルダに取り付けられたフレームに取り付けられるのが良い。流体14をリザーバ5に出入りさせ又はリザーバ5からキャビティ内に移すアクチュエータは、図2には示されていない。或る特定の実施形態では、レンズ10の光学屈折力がアクチュエータによりいったん調整されると、アクチュエータは、装用者によるレンズ10の光学的性質のそれ以上の調整を阻止するよう変更されるのが良い。
【0044】
リザーバ6は、幾つかの機能を実行する上述の中空リング(図示せず)に連結されるのが良い。密閉軟質メンブレンの着座部としてのこのリングは、メンブレン13が結合される規定された幅及び傾きのプラットフォームとなる。リングは又、リングの内側に位置する中空空間の形態をした流体チャネルを構成することができる。一実施形態では、フレーム又はレンズ支持体5内に配置されるのが良いリングは、一連の半径方向に配置された穴又は開口部を備えるのが良く、流体は、これら穴又は開口部を通って液体レンズキャビティに流入する。この一連の穴は、流体を制御された速度でキャビティ内に送り出すよう一定の角度間隔を置いて配置されるのが良い。
【0045】
例えば図1Bのレンズ20に設けられた2つ以上の流体光学部品を備える眼鏡1の実施形態では、各液体レンズキャビティは、好ましくは、独特のリザーバを備え、各液体レンズキャビティは、好ましくは、独特のリングを備え、その結果、液体チャネルは、各キャビティについて分離状態のままである。
【0046】
液体レンズの光学的且つ機械的設計により、液体レンズの主機能は、見栄え、耐久性又は像品質にそれほど影響を与えないでできるだけ広い範囲にわたって光学的屈折力を調整する能力を発揮することができる。設計上の技術的労力の目的は、好ましくは液体レンズの厚さを減少させることにより液体レンズの容積を最小限に抑えることにある。液体レンズの厚さは、前側光学部品11の後面の曲率半径及び前側光学部品11の直径で決まる。したがって、前側光学部品11の後面のカーブは、前側光学部品11により提供されるべき光学屈折力の仕様と一致してできるだけ大きい(従って、前側光学部品11の後面は、できるだけ平坦である)ことが必要である。前側光学部品11の光学屈折力の仕様は、液体レンズの設計対象である光学屈折力の範囲に基づいている。
【0047】
例えば1.0Dから5.0Dの範囲に関し、この範囲における光学的性能及び見栄えに適合した曲率半径を備えていて、−1.0Dから+0.75Dの屈折力範囲、より好ましくは−0.5D〜+0.5Dの屈折力範囲、最も好ましくは0.0Dの屈折力の前側光学部品を用いることにある。硬質前側光学部品11の前側カーブ(曲率半径)は、遠くに位置する箇所での最適の像面湾曲を達成するために与えられるべき視力矯正範囲に関連付けられることが知られている。例えば、急峻な曲率は、遠視矯正を行うために用いられ、平坦なカーブは、近視矯正のために用いられる。
【0048】
ベースカーブの選択の光学的原理は、周知である(例えば、エム・ジャリー(M.Jalie),「ザ・プリンシプルズ・オブ・オフサルミック・レンジズ(The Principles of Ophthalmic Lenses)」,ジ・アソシエーション・オブ・ブリティッシュ・ディスペンシング・オプティシャンズ(The Association of British Dispensing Opticians),ロンドン,1988年,第4版,チャプター18及びアイ・エム・ボリッシュ(I.M.Borish),「クリニカル・リフラクション(Clinical Refraction)」,ジ・プロフェッショナル・プレス・インコーポレイテッド(The Professional Press Inc.),ニューヨーク,1970年,第3版,チャプター26を参照されたい)。
【0049】
1.0D〜5.0Dの範囲の屈折矯正の場合、前側光学部品11の曲率半径の好ましい範囲は、前側光学部品11を製作するために用いられる材料の屈折率に応じて100〜700mm、より好ましくは、500〜550mmであり、厚さの好ましい範囲は、0.7〜2.5mm、より好ましくは1.0〜1.5mmである。光学部品によりその中心から遠ざかって提供される有効屈折力に影響を及ぼす球面収差は、注視角度及び中心のところの屈折力で決まる。最大注視角度が20°であり、光学部品の直径が30〜40mmであり、近軸屈折力範囲が1.0D〜5.0Dの場合、屈折力の軸外し偏差は、約0.25〜0.50Dであると予想される。
【0050】
好ましい実施形態としてのレンズ10は、屈折力がゼロである前側光学部品11を有し、その厚さは、1.2mmに等しい。前側光学部品11の前面は、好ましくは、球面であり、従って、前側光学部品11の屈折力は、10mmの半径にわたり0.25Dだけ連続的に減少するようになる。レンズ10全体は、中心のところに1.21Dに等しい屈折力を有し、後側光学部品15、即ち、液体層は、中心のところで0.32mmの厚さを有し、メンブレン13の曲率半径は、メンブレン13が平べったい状態で結合されているので、無限である。
【0051】
レンズ10の屈折力は、液体をリザーバ6からキャビティ内に注入することにより液体14の圧力を増大させると、増大する。メンブレン13の曲率半径は、レンズ屈折力が3.25Dに達すると、274mmである。メンブレン13の所要レベルの変形(膨らみ)を生じさせるのに必要な正圧レベルに達成するには300マイクロリットルの流体が必要である。
【0052】
ZEMAXは、ワシントン州ベレビュー所在のゼマックス・デベロップメント・コーポレイション(Zemax Development Corporation)により市販されている普及型の光学設計プログラムであり、これは、光学システムの設計及び分析のために用いられている。本発明者は、ZEMAXソフトウェアを用いて、ベースラインにおける且つ2.0Dを超える増大屈折力にわたりレンズ10の性能を試験することができた。図3A及び図3Bは、ベースラインにおけるレンズ10(前側光学部品11及び後側液体光学部品15)の軸上(図3A)及び20°軸外し(図3B)性能のZEMAXソフトウェアによる分析結果を示している。図4A及び図4Bは、屈折力増大が2.0Dを超える場合におけるレンズ10(前側光学部品11及び後側液体光学部品15)の軸上(図4A)及び20°軸外し(図4B)性能のZEMAX分析結果を示している。図3及び図4に示されているように、光学性能は、軸上と軸外しの両方において矢状方向屈折力と接線方向屈折力の差は、20°の注視角度では0.1D未満である。
【0053】
かくして、液体充填レンズが提供された。当業者であれば理解されるように、本発明は、本発明を限定するものではなく例示目的で提供されている上述の実施形態以外の実施形態によって実施でき、本発明の内容は、以下の特許請求の範囲の記載にのみ基づいて定められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変焦点光学器械であって、
硬質の湾曲した透明な光学コンポーネントと、
前記硬質光学コンポーネントとの間にキャビティを構成するよう前記硬質光学コンポーネントの周囲に取り付けられた少なくとも1枚の透明な伸張性メンブレンと、
前記キャビティを満たす可変量の流体と、
追加の流体を収容していて、前記キャビティと流体連通状態にあるリザーバとを有し、前記リザーバは、力又は衝撃に応答して前記キャビティ内への流体の注入又は前記キャビティからの流体の抜き出しを可能にするよう動作可能である、可変焦点光学器械。
【請求項2】
前記リザーバと前記キャビティを流体連通させる連通チャネルを更に有する、請求項1記載の可変焦点光学器械。
【請求項3】
前記キャビティ、前記リザーバ、及び前記連通チャネルは、密閉系を構成する、請求項2記載の可変焦点光学器械。
【請求項4】
前記メンブレンは、少なくとも一部が接着シール又はレーザ溶接によって前記硬質光学コンポーネントの前記周囲に取り付けられている、請求項1記載の可変焦点光学器械。
【請求項5】
前記メンブレンは、少なくとも一部が、前記硬質光学コンポーネントの前記周囲に結合されている支持要素に結合されている、請求項1記載の可変焦点光学器械。
【請求項6】
前記メンブレンは、少なくとも一部が、前記硬質光学コンポーネントへの取り付け手段となるリング内で前記硬質光学コンポーネントの前記周囲に着座している、請求項1記載の可変焦点光学器械。
【請求項7】
前記リングは、前記リザーバと前記キャビティとを流体連通させる連通チャネルを有する、請求項6記載の可変焦点光学器械。
【請求項8】
前記硬質光学コンポーネントは、メニスカス形状に湾曲している、請求項1記載の可変焦点光学器械。
【請求項9】
前記硬質光学コンポーネントの前面の幾何学的形状は、非球面である、請求項8記載の可変焦点光学器械。
【請求項10】
前記硬質光学コンポーネントは、前記可変焦点光学器械により提供されるよう設計された屈折力範囲のうちの最小値又はこれ以下の光学屈折力を有する、請求項8記載の可変焦点光学器械。
【請求項11】
2つのキャビティを構成するよう前記硬質光学コンポーネントの周囲に取り付けられた2枚の透明な伸張性メンブレンを有し、前記キャビティのうちの第1のキャビティは、前記硬質光学コンポーネントと前記2枚のメンブレンのうちの第1のメンブレンとの間に構成され、第2のキャビティは、第1のメンブレンと第2のメンブレンとの間に構成され、
前記キャビティの各々を満たす可変量の流体を有し、
前記リザーバは、前記キャビティのうちの一方と流体連通状態にある、請求項1記載の可変焦点光学器械。
【請求項12】
請求項1記載の可変焦点光学器械を少なくとも1つ有すると共にアクチュエータ及びフレームを有する、オフサルミック用途向きに設計された1組の単眼鏡。
【請求項13】
前記眼鏡のレンズのうちの少なくとも1つの光学屈折力は、装用者によって別個に調整可能である、請求項12記載の1組の単眼鏡。
【請求項14】
前記リザーバは、前記フレーム内に位置していて、前記アクチュエータにより動作可能である、請求項12記載の1組の単眼鏡。
【請求項15】
前記レンズのうちの少なくとも1つの光学屈折力は、前記アクチュエータディスペンサによって調整可能であり、しかる後、それ以上の調整を阻止するよう変更される、請求項14記載の1組の単眼鏡。
【請求項16】
前記フレーム内に設けられていて、前記リザーバと前記キャビティを流体連通させる連通チャネルを更に有する、請求項14記載の1組の単眼鏡。
【請求項17】
前記硬質光学コンポーネントは、耐衝撃性ポリマー、耐引き掻き性膜、又は反射防止膜で作られている、請求項1記載の可変焦点光学器械。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2012−518197(P2012−518197A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550216(P2011−550216)
【出願日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/023830
【国際公開番号】WO2010/093751
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(511136256)アドレンズ ビーコン インコーポレイテッド (7)