可変特性型信号変換装置および方法
【課題】離散データに対してユーザの好みに応じた音質や画質で信号の再生を行うことができる可変特性型信号変換装置および信号変換方法を提供すること。
【解決手段】信号変換処理部2では、制御標本化関数c0(t)の値に乗算される可変パラメータαの値を反映した補間値を算出することにより、可変パラメータαの値を変更することで標本化関数sN(t)で補間処理して得られるアナログ信号の特性を可変パラメータαに応じて調整することができる。これにより、音楽再生環境、音源、曲調等の各種条件に応じて、ユーザが可変パラメータαを適宜変更することで、アナログ信号の周波数特性が変化したユーザ所望の音質からなる高音質な音楽を再生することができる。
【解決手段】信号変換処理部2では、制御標本化関数c0(t)の値に乗算される可変パラメータαの値を反映した補間値を算出することにより、可変パラメータαの値を変更することで標本化関数sN(t)で補間処理して得られるアナログ信号の特性を可変パラメータαに応じて調整することができる。これにより、音楽再生環境、音源、曲調等の各種条件に応じて、ユーザが可変パラメータαを適宜変更することで、アナログ信号の周波数特性が変化したユーザ所望の音質からなる高音質な音楽を再生することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離散信号を連続信号に変換する変換装置および方法に関し、例えば所定のサンプリング周波数でサンプリングされた時間方向に並ぶ離散データ間を補間して、入力時のサンプリング周波数よりも高周波で離散データあるいはアナログ信号を生成する際に適用することができ、かつ、入力された信号の周波数特性を変化させた出力信号の周波数特性を得るのに好適な可変特性信号変換装置および方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、音響信号においては、音楽のジャンルや、リスナーの好みに応じて音質を変化させることに好適であり、写真や映像においては、画質調整に好適な技術である。
【0003】
なお、本明細書においては、高周波の離散間隔で離散データを生成することとアナログ信号を生成することを同一の処理として「アナログ信号の生成」と称して説明を行うものとする。また、関数の値が局所的な領域で0以外の有限の値を有し、それ以外の領域で0となる場合を「有限台」と称して説明を行うものとする。
【背景技術】
【0004】
従来、デジタルデータのような離散データからアナログ信号を生成する際には、シャノンの標本化定理に代表される標本化関数が広く用いられてきた。ここで、シャノンの標本化関数は、図14に示すように、t=0の標本位置のみで1になるとともに、他の全ての標本位置で0となり、理論的に−∞から+∞までその振動が無限に続く波形を示す。このため、実際に各種のプロセッサ等によって、シャノンの標本化関数を用いて離散データ間の補間処理を実行する際には、強制的に有限区間で処理が打ち切られている。その結果、打ち切りによる誤差が発生するという問題があった。このような問題を解決するために、打ち切り誤差がなく、さらに高次の帯域成分までも再生可能な、有限の範囲で収束する標本化関数が考え出されている(例えば、特許文献1参照。)。この標本化関数では、原点から前後2個先の標本位置で0に収束するため、少ない計算量で信号再生を行うことができ、さらに高周波まで帯域を有することが確かめられている。
【特許文献1】国際公開第99/38090号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の従来技術で用いられている標本化関数は、波形の形状が固定化されており、音質や画質の特性を変化させることができないという問題があった。難聴者や高齢者等の各種ユーザ等に対して、音楽再生環境、音源、曲調等の各種条件に応じて音質等を自由に調整し得るテーラーメイドの手法が望まれている。しかし、従来はこのような要請に対応できず、入力信号を周波数分析して、周波数帯域毎に音圧を調整するイコライザーが用いられている。この場合には、周波数帯域分離が必要となり、さらに周波数帯域毎の音圧調整のため、周波数が変化したときに連続的な調整をすることができず、滑らかさのない音質となる。また、映像や写真などの画像においては、人の視覚特性に応じた画質調整が必要であるが、専門家により色調整が行われている現状では、このような画質調整は困難である。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、離散データに対してユーザの好みに応じた音質や画質で信号の再生を行うことができる可変特性型信号変換装置および信号変換方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明の可変特性型信号変換装置は、それぞれが有限台の区分的多項式で表される基本標本化関数および制御標本化関数の線形結合で構成された標本化関数を用いて複数の離散データに対する畳み込み演算を行うことにより、前記離散データ間の補間値を算出する関数処理部を備えている。
【0008】
また、本発明の可変特性型信号変換方法は、それぞれが有限台の区分的多項式で表される基本標本化関数および制御標本化関数の線形結合で構成された標本化関数を用いて複数の離散データに対する畳み込み演算を行うことにより、離散データ間の補間値を関数処理部によって算出する関数処理ステップを有している。
【0009】
また、順次入力される複数の離散データの中から入力順番が連続する所定個数の離散データを抽出する離散データ抽出部をさらに備え、関数処理部は、離散データ抽出部によって抽出された所定個数の離散データを用いて補間値の算出を行うことが望ましい。あるいは、順次入力される複数の離散データの中から入力順番が連続する所定個数の離散データを離散データ抽出部によって抽出する離散データ抽出ステップをさらに有し、関数処理ステップでは、離散データ抽出ステップにおいて抽出された所定個数の離散データを用いて補間値の算出を行うことが望ましい。
【0010】
また、上述した基本標本化関数をf(t)、制御標本化関数をC(t)、ユーザによって任意に設定可能なパラメータをαとしたときに、関数処理部は、線形結合を、f(t)+αC(t)で演算することが望ましい。あるいは、上述した関数処理ステップでは、線形結合を、f(t)+αC(t)で演算することが望ましい。
【0011】
また、上述した関数処理部は、基本標本化関数を用いて複数の離散データに対する畳み込み演算を行う基本項演算部と、制御標本化関数を用いて複数の離散データに対する畳み込み演算を行う制御項演算部と、制御項演算部による算出結果にパラメータを乗算する係数乗算部とを備えることが望ましい。あるいは、上述した関数処理ステップは、基本標本化関数を用いて複数の離散データに対する畳み込み演算を基本項演算部によって行う基本項演算ステップと、制御標本化関数を用いて複数の離散データに対する畳み込み演算を制御項演算部によって行う制御項演算ステップと、制御項演算ステップにおける算出結果にパラメータを乗算する演算を係数乗算部によって行う係数乗算ステップとを備えることが望ましい。
【0012】
また、上述した関数処理部は、パラメータの値が指定されたときに、基本標本化関数と制御標本化関数とを線形結合して得られる標本化関数を特定し、この標本化関数を用いて、離散データに対する畳み込み演算を行うことにより補間値を算出することが望ましい。あるいは、上述した関数処理ステップでは、パラメータの値が指定されたときに、基本標本化関数と制御標本化関数とを線形結合して得られる標本化関数を特定し、この標本化関数を用いて、離散データに対する畳み込み演算を行うことにより補間値を算出することが望ましい。
【0013】
また、ユーザの指示に応じてパラメータの値を任意に設定するパラメータ設定部をさらに備えることが望ましい。あるいは、ユーザの指示に応じてパラメータの値をパラメータ設定部によって任意に設定するパラメータ設定ステップをさらに有することが望ましい。
【0014】
また、ユーザが操作することにより、予め設定されたパラメータの複数の値の中から一つが選択されるセレクタをさらに備えることが望ましい。あるいは、ユーザの操作指示に応じて、予め設定されたパラメータの複数の値の中から一つを選択するパラメータ選択ステップをさらに有することが望ましい。
【0015】
また、上述した基本標本化関数は、離散データの標本位置の区間[−1,1]において1回だけ微分可能な区分的多項式で、他の区間は恒等的に0で表される関数であり、制御標本化関数は、離散データの標本位置の区間[−2、2]において1回だけ微分可能な区分的多項式で、他の区間では恒等的に0となる関数であることが望ましい。
【0016】
また、上述した離散データの標本位置をtとしたとき、基本標本化関数f(t)は、
【0017】
【数5】
【0018】
で表され、
制御標本化関数をC0(t)=Cr(t)+Cr(−t)としたときに、Cr(t)は、
【0019】
【数6】
【0020】
で表されることが望ましい。
【0021】
また、ユーザの指定したプログラムデータに基づいて、ユーザ所望の制御形態でなる演算構成を形成するプログラマブル信号処理プロセッサにプログラミングされることが望ましい。
【0022】
また、上述した基本標本化関数および制御標本化関数のそれぞれは、離散データ間の所定の区分数に応じて予め計算された関数値がテーブル化されてテーブル値として保持されており、このテーブル化された関数値を用いて離散データに対する畳み込み演算が行われることが望ましい。あるいは、上述した関数化処理ステップでは、このテーブル化された関数値を用いて離散データに対する畳み込み演算が行われることが望ましい。
【0023】
また、上述した離散データ間の異なる複数の区分数について、それらの区分数の最小公倍数の区分数に対応するテーブル値が予め演算されて保持されていることが望ましい。
【0024】
本発明では、標本化関数を基本標本化関数と制御標本化関数の線形結合で構成することにより、制御標本化関数に関する項を変形することで標本化関数全体を変形することが容易となり、離散データに対してユーザの好みに応じた音質や画質で信号の再生を行うことが可能となる。
【0025】
特に、基本標本化関数をf(t)、制御標本化関数をC(t)、ユーザによって任意に設定可能なパラメータをαとしたときに、上記の線形結合をf(t)+αC(t)で演算することにより、パラメータαの値を変更することで標本化関数の形状を変えることができ、得られる補間値の特性を変更することが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を適用した一実施形態の可変特性型信号変換装置について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0027】
(1)本発明の基本概念
図1は、本発明の補間処理に用いられる標本化関数を構成する基本標本化関数f(t)と制御標本化関数c0(t)の波形形状を示す図である。図1において、横軸は離散データの標本位置tを、縦軸は各標本関数値をそれぞれ示している。当該離散データの標本位置[−2,2]間での基本標本化関数f(t)および制御標本化関数c0(t)からなる標本化関数s2(t)は、次式で表される。
【0028】
【数7】
【0029】
一般的に、制御標本化関数をck(t)とし、ck(t)=cr(t−k)+cr(−t−k)とおくと、当該離散データの標本位置[−N,N]間で標本化関数sN(t)が次式で表される。
【0030】
【数8】
【0031】
なお、αkは可変パラメータを示し、ユーザによって設定可能な任意の値を有する。α1=α2=α3・・・のようにkによって値が可変しないものであってもよい。
【0032】
基本標本化関数f(t)は、微分可能性に着目した有限台の区分多項式関数であり、例えば全域において1回だけ微分可能であって、横軸に沿った標本位置tが−1から+1(すなわち、区間[−1,1])にあるときに0以外の有限な値を有し、他の区間では恒等的に0で表される関数である。具体的には、基本標本化関数f(t)は、区間[−1,1]内を2以上に区分した各小区間においてn次多項式関数であって、各小区間の境界で連続(値と傾きのそれぞれが連続)な関数である。この基本標本化関数f(t)は、全範囲でn−1回(nは2以上の整数)だけ微分可能な凸形状の波形形状を示し、t=0の標本位置でのみ1になり、t=±1に向けて0に収束し、t=±2の標本位置までそのまま0の値を維持するという特徴を有する。
【0033】
また、この基本標本化関数f(t)は、有限台のインパルス応答波形の関数でもよく、あるいは、標本位置区間の任意の位置で少なくとも1回微分可能で連続なn次の区分多項式関数でもよい。
【0034】
具体例として、2次の区分多項式関数で表した基本標本化関数f(t)は、次式で表される。
【0035】
【数9】
【0036】
そして、この基本標本化関数f(t)を用いて各離散データに基づく重ね合わせを行うことにより、離散データ間の任意の点における値を仮補間することができる。
【0037】
一方、制御標本化関数c0(t)は、微分可能性に着目した有限台の区分多項式関数であり、基本標本化関数と同じくn次多項式関数で表される。例えば、全域において1回だけ微分可能であって、横軸に沿った標本位置tが−2から+2(すなわち、区間[−2,2])にあるときに0以外の有限な値を有し、他の区間では恒等的に0で表される関数である。また、制御標本化関数c0(t)は、全範囲で1回だけ微分可能な波形を示し、t=0、±1、±2の各標本位置で0なるという特徴を有する。
【0038】
また、この制御標本化関数c0(t)は、有限台のインパルス応答波形の関数でよく、標本位置区間の任意の位置で少なくとも1回微分可能で連続なn次の区分多項式関数で良い。
【0039】
ここで、制御標本化関数c0(t)は、上述したように制御標本化関数c0(t)=cr(t)+cr(−t)で表される。このcr(t)は、例えば2次の区分多項式で表現すると、次式で表される。
【0040】
【数10】
【0041】
この制御標本化関数c0(t)を用いて各離散データに基づく重ね合わせを行うことにより、離散データ間の値を仮補間することができる。
【0042】
このようにして、基本標本化関数f(t)に基づいて算出した仮の補間値(以下、これを「基本補間値」と呼ぶ)と、制御標本化関数c0(t)に基づいて算出した仮の補間値(以下、これを「制御補間値」と呼ぶ)とを線形加算することにより、離散データ間の任意の点における値を補間することができる。
【0043】
因みに、2次の区分多項式関数で表した標本化関数の場合、基本標本化関数f(t)と制御標本化関数c0(t)との線形結合では、下記の6つの条件が成立する。
・第1としては、S2(0)=1、S2(±1)=S2(±2)=0となること。
・第2としては、偶関数、すなわちy軸に関して対称となること。
・第3としては、標本位置区間[−∞,−2]、[2,+∞]で恒等的に0であること。
・第4としては、各区間[n/2,(n+1)/2](−4≦n≦3)においては高々二次の多項式であること。
・第5としては、全区間で連続、かつ、一回微分可能であること。
・第6としては、標本位置区間[−1/2,1/2]において、次式で表されること。
【0044】
【数11】
【0045】
なお、N=2のときの標本化関数s2(t)については、説明の便宜上、単に標本化関数sN(t)として、以下の説明を行うものとする。
【0046】
また、これに加えて、このとき制御標本化関数c0(t)には、任意の数値が設定された可変パラメータαを乗算する。これにより、制御標本化関数c0(t)は、t=0、±1、±2の標本位置で0としたまま、標本位置−2から+2までの間で当該可変パラメータαの数値に応じてその波形の振幅を変形することができる。その結果、制御標本化関数c0(t)を用いた畳み込み演算による算出結果を変更させることができる。このように、可変パラメータαは、数値が変更されることで、標本化関数sN(t)によって算出して得られたアナログ信号の周波数特性を変化させ、信号の変化状態を調整することができるという特徴を有する。
【0047】
したがって、本発明では、基本標本化関数f(t)の算出結果と、制御標本化関数c0(t)の算出結果とを線形加算して補間値を求める際に、当該制御標本化関数c0(t)に乗算される可変パラメータαによって補間値を調整することができる。これにより、これら離散データ間を補間値で補間したアナログ信号の周波数特性を、可変パラメータαによって自由に調整することが可能になる。
【0048】
(2)可変特性型信号変換装置の全体構成
次に、上述した標本化関数sN(t)用いて補間処理を実行する可変特性型信号変換装置について説明する。
【0049】
図2は、一実施形態の可変特性型信号変換装置の構成を示す図である。図2において、1は可変特性型信号変換装置を示し、信号変換処理部2がプログラマブル信号処理プロセッサ3にプログラミングされて設けられている。このプログラマブル信号処理プロセッサ3は、複数個の回路ブロックと配線ブロックとが半導体チップ上に規則的に並べられ、これらの回路ブロックおよび配線ブロックの内部には回路の電気的な接続または非接続をプログラムできるデバイスが多数配置され、ユーザがこれらのデバイスをプログラム(定義)することによりブロック内部とブロック間の接続をフィールド(利用現場)にて設計できるようになっている。
【0050】
この可変特性型信号変換装置1は、外部インタフェース(外部I/F)4を介してパーソナルコンピュータ(PC)5によって、上述した数9、数10で示した基本標本化関数および制御標本化関数や、これらとは全く異なる標本化関数等、種々の標本化関数がプログラミングされることにより、プログラマブル信号処理プロセッサ3の回路ブロックおよび配線ブロック間の接続状態を変更して各種標本化関数による補間処理を実行しうるハードウエアに回路構成を変更できるようになっている。これにより、この可変特性型信号変換装置1では、プログラマブル信号処理プロセッサ3を単にプログラミングするだけで、ユーザ所望の回路構成に変更できるので、最適な標本化関数を模索する際に、各種標本化関数に応じてその都度、回路基板を実際に作製する必要がなく、その分だけコスト低減を図ることができる。
【0051】
なお、上述した実施形態において、図2においてはプログラマブル信号処理プロセッサ3での実現方法を示しているが、本発明はこれに限らず、FPGA(フイールドプログラマブルゲートアレイ)やDSP(Digital Signal Processor)のようなプログラマブルな信号処理デバイスで実現することも可能である。例えば、CPU(Central Processing Unit)およびメモリ等から構成された演算装置を用いるようにしてもよい。
【0052】
本実施形態の可変特性型信号変換装置1では、外部インタフェース4を介してパーソナルコンピュータ5から上述した数8で示した標本化関数sN(t)の条件を満たす、数9で示した基本標本化関数f(t)と、cr(t)が数10で表される制御標本化関数c0(t)とがプログラマブル信号処理プロセッサ3にプログラミングされる。
【0053】
これにより、可変特性型信号変換装置1では、プログラマブル信号処理プロセッサ3が所定のプログラムに従って全体を統括制御することにより、入力部6によって例えばCDやDVD等の種々の記録媒体を再生し、その結果得られる時間方向に並ぶ複数の離散データを信号変換処理部2へ順次送出する。因みに、離散データとは、例えば滑らかに変化する連続的な信号を一定の時間間隔で標本化し、その結果得られたサンプリングデータを量子化することにより得られた離散的なデータである。
【0054】
プログラマブル信号処理プロセッサ3には、ユーザの指示に応じて自由に可変パラメータαの数値を任意に設定することができるパラメータ設定部7が接続されている。ユーザがパラメータ設定部7により可変パラメータαを任意の数値に設定すると、設定された数値を示す情報がパラメータ設定部7から信号変換処理部2に送出される。信号処理装置としての信号変換処理部2は、標本化関数sN(t)を用いて離散データ間を補間して擬似的にサンプリング周波数を上げるいわゆるオーバーサンプリング処理を実行し、可変パラメータαの数値が反映された補間値を算出して出力部8へ向けて送出する。
【0055】
出力部8は、例えばデジタル−アナログ変換器、増幅器、スピーカを含んで構成されており、信号変換処理部2から所定の周期で補間値が入力されると、この補間値をこれに対応するアナログ信号に変換し、このアナログ信号に基づく音声や音楽等を出力する。
【0056】
このように、本実施形態の可変特性型信号変換装置1は、可変パラメータαの数値を変更することより、この可変パラメータαの数値が反映されたユーザ所望の特性を有するアナログ信号を生成することができる。
【0057】
また、プログラマブル信号処理プロセッサ3には、複数のセレクタボタン9a、9b、9cを備えたセレクタ10が接続されている。このセレクタ10には、異なる数値の可変パラメータαが各セレクタボタン9a、9b、9cのそれぞれに対応付けられており、ユーザの操作によってセレクタボタン9a、9b、9cのいずれか1つが選択されると、選択されたセレクタボタンに対応する可変パラメータαの値が制御標本化関数c0(t)に乗算され、標本化関数sN(t)による補間処理が実行されるようになっている。
【0058】
具体的には、本実施形態の場合、例えばセレクタボタン9aが選択されると、可変パラメータαを−1.5とした標本化関数sN(t)によって補間処理が実行される。他のセレクタボタン9bが選択されると、可変パラメータαを−0.25とした標本化関数sN(t)によって補間処理が実行される。さらに他のセレクタボタン9cが選択されると、可変パラメータαを1.5とした標本化関数sN(t)によって補間処理が実行される。
【0059】
これにより、この可変特性型信号変換装置1では、ユーザがパラメータ設定部7によって可変パラメータαを任意の数値に設定することができるとともに、セレクタボタン9a、9b、9cのいずれか1つを選択するだけで、パラメータ設定部7による可変パラメータαの細かな設定をその都度行うことなく、所望の可変パラメータαを用いた補間処理を容易に実行することができる。
【0060】
(3)信号変換処理部の回路構成
(3−1)信号変換処理部における補間処理の概略説明
図3は、プログラマブル信号処理プロセッサ3内の信号変換処理部2の構成を示す図である。この信号変換処理部2は、所定数(この場合4つ)の離散データを順次抽出して保持する離散データ抽出部15と、離散データ抽出部15で抽出保持された所定数の離散データを一度に受け取り、これらの離散データを用いて補間処理を実行する関数処理部14とから構成されており、入力部6から順次入力される離散データ間を所定の時間間隔でデータ補間する。
【0061】
関数処理部14は、離散データを基に標本化関数sN(t)のうち基本標本化関数f(t)の項を演算処理する基本項演算部16と、離散データを基に標本化関数sN(t)のうち制御標本化関数c0(t)の項を演算処理する制御項演算部17と、制御項演算部17の算出結果に可変パラメータαを乗算する係数乗算部18と、基本項演算部16の算出結果と係数乗算部18の算出結果とを線形加算する線形加算部19とから構成されている。
【0062】
この実施形態の場合、離散データ抽出部15は、順次入力される離散データの中から直前の4つの離散データを抽出し、次に新たな離散データが入力されるまでこの4つの離散データを保持して、これら4つの離散データを基本項演算部16および制御項演算部17へそれぞれ送出する。
【0063】
基本項演算部16は、所定の記憶手段(図示せず)に基本標本化関数f(t)を記憶しており、離散データ間の補間位置が指定されると、この補間位置と離散データとの間の距離に基づいて基本標本化関数f(t)の値を計算する。この基本項演算部16は、離散データ抽出部15から送出される4つの離散データ毎に、それぞれ基本標本化関数f(t)の値を計算する。また、基本項演算部16は、離散データ毎に得られた4つの基本標本化関数f(t)の値毎に、それぞれ対応する離散データの値を乗算した後、これら4つの離散データに対応する畳み込み演算を行い、この畳み込み演算の算出結果を線形加算部19へ送出する。
【0064】
また、制御項演算部17は、所定の記憶手段(図示せず)に制御標本化関数c0(t)を記憶しており、補間位置が指定されると、この補間位置と離散データとの間の距離に基づいて制御標本化関数c0(t)の値を計算する。この制御項演算部17は、離散データ抽出部15から送出される4つの離散データ毎に、それぞれ制御標本化関数c0(t)の値を計算する。また、制御項演算部17は、離散データ毎に得られた4つの制御標本化関数c0(t)の値毎に、それぞれ対応する離散データの値を乗算した後、これらを加算することにより4つの離散データに対応する畳み込み演算を行い、この畳み込み演算の算出結果を係数乗算部18へ送出する。
【0065】
係数乗算部18は、制御項演算部17から受け取った制御標本関数c0(t)の畳み込み演算の算出結果に可変パラメータαを乗算し、その結果得られた可変パラメータ乗算結果を線形加算部19へ送出する。線形加算部19は、基本項演算部16から受け取った基本標本化関数f(t)の畳み込み演算の算出結果と、係数乗算部18から受け取った可変パラメータ乗算結果とを線形加算することにより、4つの離散データに対応する線形加算結果を得る。この線形加算によって得られる値は、所定の2つの離散データ間の補間位置における補間値となる。この補間位置は、予め設定された所定の時間間隔、具体的には離散データの入力間隔に対応する周期Tの1/Nの周期(=T/N)毎にその値が更新される。
【0066】
上述した関数処理部14による処理が関数処理ステップの動作に、離散データ抽出部15による処理が離散データ抽出ステップの動作に、基本項演算部16による処理が基本項演算ステップの動作に、制御項演算部17による処理が制御項演算ステップの動作に、係数乗算部18による処理が係数乗算ステップの動作に、パラメータ設定部7を用いたパラメータ設定処理がパラメータ設定ステップの動作に、セレクタ10を用いたパラメータ設定処理がパラメータ選択ステップの動作にそれぞれ対応する。
【0067】
(3−2)4つの離散データに基づいて補間値を求める具体例
次に、時間的に連続して並ぶ4つの離散データに基づいて所定の2つの離散データ間の補間値を算出する補間処理について説明する。
【0068】
図4は、連続する4つの離散データと、補間位置である着目点との位置関係を示す図である。以下では、標本位置t1、t2、t3、t4のそれぞれに対応して順次入力される離散データd1、d2、d3、d4の各値をY(t1)、Y(t2)、Y(t3)、Y(t4)とし、標本位置t2及びt3間の所定位置t0(t2から距離b)を補間位置としてこの補間位置に対応した補間値yを求める場合を考える。
【0069】
本実施形態で用いる標本化関数sN(t)は、t=±2の標本位置で0に収束するため、t=±2までの離散データd1、d2、d3、d4を考慮に入れればよい。したがって、図4に示す補間値yを求める場合には、t=t1、t2、t3、t4に対応した4つの離散データd1、d2、d3、d4のみを考慮すればよいことになり、演算量を大幅に削減することができる。しかも、t=±3以上の各離散データ(図示せず)については、本来考慮すべきであるが演算量や精度等を考慮して無視しているというわけではなく、理論的に考慮する必要がないため、打ち切り誤差は発生しない。
【0070】
図5は、信号変換処理部2の具体的な構成を示す図である。図5に示すように、離散データ抽出部15は、縦続接続された3つのシフト回路20a、20b、20cを備えている。連続する離散データが入力されると、各シフト回路20a、20b、20c毎に離散データを例えばCDのサンプリング周期(44.1kHz)でシフトし、各シフト回路20a、20b、20cで、直前の離散データd1、d2、d3、d4をそれぞれ1つ抽出して保持する。
【0071】
すなわち、離散データ抽出部15は、連続する4つの離散データd1、d2、d3、d4が入力されると、最新の離散データd4をそのまま基本項演算部16の基本項計算回路21aおよび制御項演算部17の制御項計算回路22aへそれぞれ送出する。
【0072】
また、離散データ抽出部15は、連続する4つの離散データd1、d2、d3、d4からなる離散データ列をシフト回路20aに送出し、このシフト回路20aによって離散データ列をシフトして最新の離散データd4から1つ前の離散データd3を抽出し、これを基本項演算部16の基本項計算回路21bおよび制御項演算部17の制御項計算回路22bへそれぞれ送出する。
【0073】
さらに、離散データ抽出部15は、残りのシフト回路20b、20cにも離散データ列を順次送出してゆき、シフト回路20bで離散データ列をさらにシフトさせて最新の離散データd4から2つ前の離散データd2を基本項計算回路21cおよび制御項計算回路22cへそれぞれ送出するとともに、シフト回路20cで離散データ列をさらにシフトさせて最新の離散データd4から3つ前の離散データd1を基本項計算回路21dおよび制御項計算回路22dへそれぞれ送出する。
【0074】
図6は、基本項演算部16における所定の補間位置t0に対する補間処理の概略を示す図である。また、図7は、制御項演算部17における所定の補間位置t0に対する補間処理の概略を示す図である。
【0075】
補間処理の内容としては、上述したように先ず始めに、基本項演算部16における基本補間値を算出する演算処理(以下、この演算処理を「基本補間値算出処理」と呼ぶ)と、制御項演算部17および係数乗算部18における制御補間値を算出する演算処理(以下、この演算処理を「制御補間値算出処理」と呼ぶ)とが実行される。以下、図6および図7を用い、基本補間値算出処理と制御補間値算出処理について説明する。
【0076】
(3−2−1)基本補間値算出処理
基本補間値算出処理の内容としては、図6(A)〜(D)に示すように、各標本位置t1、t2、t3、t4毎に、基本標本化関数f(t)のt=0(中心位置)におけるピーク高さを一致させ、このときの補間位置t0におけるそれぞれの基本標本化関数f(t)の値を求めることになる。
【0077】
図6(A)に示す標本位置t1における離散データd1に着目すると、補間位置t0と標本位置t1との距離は1+bとなる。したがって、標本位置t1に基本標本化関数f(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における基本標本化関数の値はf(1+b)となる。実際には、離散データd1の値Y(t1)に一致するように基本標本化関数f(t)の中心位置のピーク高さを合わせるため、上述したf(1+b)をY(t1)倍した値f(1+b)・Y(t1)が求めたい値となる。f(1+b)の計算は基本項演算部16の基本項計算回路21aで行われ、f(1+b)にY(t1)を乗算する計算は基本項演算部16の基本項乗算回路23aで行われる(図5)。
【0078】
同様に、図6(B)に示す標本位置t2における離散データd2の値Y(t2)に着目すると、補間位置t0と標本位置t2との距離はbとなる。したがって、標本位置t2に基本標本化関数f(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における基本標本化関数の値はf(b)となる。実際には、離散データd2の値Y(t2)に一致するように基本標本化関数f(t)の中心位置のピーク高さを合わせるため、上述したf(b)をY(t2)倍した値f(b)・Y(t2)が求めたい値となる。f(b)の計算は基本項演算部16の基本項計算回路21bで行われ、f(b)にY(t2)を乗算する計算は基本項演算部16の基本項乗算回路23bで行われる(図5)。
【0079】
図6(C)に示す標本位置t3における離散データd3の値Y(t3)に着目すると、補間位置t0と標本位置t3との距離は1−bとなる。したがって、標本位置t3に基本標本化関数f(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における基本標本化関数の値はf(1−b)となる。実際には、離散データの値Y(t3)に一致するように基本標本化関数f(t)の中心位置のピーク高さを合わせるため、上述したf(1−b)をY(t3)倍した値f(1−b)・Y(t3)が求めたい値となる。f(1−b)の計算は基本項演算部16の基本項計算回路21cで行われ、f(1−b)にY(t3)を乗算する計算は基本項演算部16の基本項乗算回路23cで行われる(図5)。
【0080】
図6(D)に示す標本位置t4における離散データd4の値Y(t4)に着目すると、補間位置t0と標本位置t4との距離は2−bとなる。したがって、標本位置t4に基本標本化関数f(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における基本標本化関数の値はf(2−b)となる。実際には、離散データd4の値Y(t4)に一致するように基本標本化関数f(2−b)の中心位置のピーク高さを合わせるため、上述したf(2−b)をY(t4)倍した値f(2−b)・Y(t4)が求めたい値となる。f(2−b)の計算は基本項演算部16の基本項計算回路21dで行われ、f(2−b)にY(t4)を乗算する計算は基本項演算部16の基本項乗算回路23dで行われる(図5)。
【0081】
次に、基本項演算部16では、補間位置t0の着目点に対応して得られた4つの値f(1+b)・Y(t1)、f(b)・Y(t2)、f(1−b)・Y(t3)、f(2−b)・Y(t4)を、基本項畳み込み回路24によって畳み込み演算し、着目点に対応する基本補間値yaが計算される。なお、基本項演算部16全体によって行われる演算が畳み込み演算であり、基本項畳み込み回路24では、各基本項乗算回路23a〜23dの乗算結果を単純に加算している。また、本実施形態の場合、補間位置t0の着目点に対応して得られた値f(1+b)・Y(t1)およびf(2−b)・Y(t4)は、図6(A)及び(D)に示すように0となるため、基本補間値yaは、(f(b)・Y(t2))+(f(1−b)・Y(t3))となる。
【0082】
(3−2−2)制御補間値算出処理
一方、制御補間値算出処理の内容としては、図7(A)〜(D)に示すように、各標本位置t1、t2、t3、t4毎に、制御標本化関数c0(t)のt=0(中心位置)を一致させて、各制御標本化関数c0(t)に対応した離散データd1、d2、d3、d4の値Y(t1)、Y(t2)、Y(t3)、Y(t4)を乗算し、このときの補間位置t0におけるそれぞれの制御標本化関数c0(t)の値を求めることになる。
【0083】
図7(A)に示す標本位置t1における離散データd1の値Y(t1)に着目すると、補間位置t0と標本位置t1との距離は1+bとなる。したがって、標本位置t1に制御標本化関数c0(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における制御標本化関数の値はc0(1+b)となる。実際には、離散データd1の値Y(t1)に対応させて制御標本化関数c0(t)の波形高さを合わせるため、上述したc0(1+b)をY(t1)倍した値c0(1+b)・Y(t1)が求めたい値となる。c0(1+b)の計算は制御項演算部17の制御項計算回路22aで行われ、c0(1+b)にY(t1)を乗算する計算は制御項演算部17の制御項乗算回路25aで行われる(図5)。
【0084】
同様に、図7(B)に示す標本位置t2における離散データd2の値Y(t2)に着目すると、補間位置t0と標本位置t2との距離はbとなる。したがって、標本位置t2に制御標本化関数c0(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における制御標本化関数の値はc0(b)となる。実際には、離散データd2の値Y(t2)に対応させて制御標本化関数c0(t)の波形高さを合わせるため、上述したc0(b)をY(t2)倍した値c0(b)・Y(t2)が求めたい値となる。c0(b)の計算は制御項演算部17の制御項計算回路22bで行われ、c0(b)にY(t2)を乗算する計算は制御項演算部17の制御項乗算回路25bで行われる(図5)。
【0085】
図7(C)に示す標本位置t3における離散データd3の値Y(t3)に着目すると、補間位置t0と標本位置t3との距離は1−bとなる。したがって、標本位置t3に制御標本化関数c0(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における制御標本化関数の値はc0(1−b)となる。実際には、離散データd3の値Y(t3)に対応させて制御標本化関数c0(t)の波形高さを合わせるため、上述したc0(1−b)をY(t3)倍した値c0(1−b)・Y(t3)が求めたい値となる。c0(1−b)の計算は制御項演算部17の制御項計算回路22cで行われ、c0(1−b)にY(t3)を乗算する計算は制御項演算部17の制御項乗算回路25cで行われる(図5)。
【0086】
図7(D)に示す標本位置t4における離散データd4の値Y(t4)に着目すると、補間位置t0と標本位置t4との距離は2−bとなる。したがって、標本位置t4に制御標本化関数c0(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における制御標本化関数の値はc0(2−b)となる。実際には、離散データd4の値Y(t4)に対応させて制御標本化関数c0(2−b)の波形高さを合わせるため、上述したc0(2−b)をY(t4)倍した値c0(2−b)・Y(t4)が求めたい値となる。c0(2−b)の計算は制御項演算部17の制御項計算回路22dで行われ、c0(2−b)にY(t4)を乗算する計算は制御項演算部17の制御項乗算回路25dで行われる(図5)。
【0087】
次に、制御項演算部17では、補間位置t0の着目点に対応して得られた4つの値c0(1+b)・Y(t1)、c0(b)・Y(t2)、c0(1−b)・Y(t3)、c0(2−b)・Y(t4)を、制御項畳み込み回路26によって畳み込み演算し、係数乗算部18によって可変パラメータαを乗算し、これにより着目点に対応する制御補間値ybが計算される。なお、制御項演算部17全体によって行われる演算が畳み込み演算であり、制御項畳み込み回路26では、各制御項乗算回路25a〜25dの乗算結果を単純に加算している。
【0088】
(3−2−3)補間値演算処理
線形加算部19は、基本項演算部16により算出された着目点に対応する基本補間値yaと、制御項演算部17および係数乗算部18により算出された着目点に対応する制御補間値ybとを線形加算することにより、補間位置t0における補間値yを出力する。
【0089】
(3−3)可変パラメータの数値を変更したときの補間処理結果
上述した構成に加えて、信号変換処理部2では、パラメータ設定部7によって係数乗算部18の可変パラメータαの数値が変更されることにより標本化関数sN(t)の値が変更され、その結果、補間値yが変動してアナログ信号の周波数特性が変化するようになっている。以下では、可変パラメータαを変更した際に、標本化関数sN(t)がどのように変化するかについて、図1に示した基本標本化関数f(t)が示す波形と、制御標本化関数c0(t)が示す波形とを合成した波形に着目して説明する。
【0090】
図8は、標本化関数sN(t)の波形を示す図である。図8に示すように、基本標本化関数f(t)が示す波形と、制御標本化関数c0(t)が示す波形とを合成した標本化関数sN(t)の波形は、可変パラメータαの数値によって大きく異なるものとなる。本実施形態の場合、可変パラメータαを−1.5、−0.25、1.5の順に変化させてゆくと、−2≦t≦−1の領域と、1≦t≦2の領域とでは、標本化関数sN(t)の波長の振幅が次第に高くなり波形の極性が反転することを確認した。一方、−1≦t≦0の領域と、0≦t≦1の領域とでは、標本化関数sN(t)の波形の振幅が次第に低くなり波形の極性が反転することを確認した。
【0091】
次に、テスト曲としてCDに記録されたヴァイオリン曲「Zigeunerweisen(ツィゴイナーヴァイゼン)」を、可変特性型信号変換装置1において約23秒間再生した。このとき、信号変換処理部2では、可変パラメータαを−0.25、−1.5および1.5にそれぞれ設定し、約23秒の間に入力された離散データを補間処理した。そして、このときの各標本化関数sN(t)で補間処理したアナログ信号の周波数特性について比較したところ、図9に示すような結果が得られた。図9は、複数の可変パラメータαと補間処理によって得られたアナログ信号の周波数特性との関係を示す図である。
【0092】
図9に示したように、可変パラメータαの数値を変えた各標本化関数sN(t)による補間処理では、可変パラメータαの数値を変化させても、いずれも20kHz以上の高音域で信号レベルが上昇し、従来のシャノンの標本化関数を用いた場合に比べて高域成分を再生できることが確認できた。また、可変パラメータαを1.5に設定したときには、約26kHz未満で信号レベルが低下したものの、約26kHz以上の高音域で、44.1kHz付近を除き信号レベルが上昇し、可変パラメータαを−0.25および−1.5に設定した場合に比べて高域成分が再生できることが確認できた。
【0093】
一方、可変パラメータαを−1.5に設定したときには、約26kHz付近で信号レベルが急激に低下したものの、約26kHz未満で信号レベルが全体的に上昇するとともに、44.1kHz付近を除き約26kHzよりも高い領域でも信号レベルが上昇し、可変パラメータαを−0.25および−1.5に設定した場合に比べて異なる信号レベルで高域成分を再生できることが確認できた。
【0094】
さらに、可変パラメータαを−0.25に設定したときには、44.1kHz付近を除いて全体的に信号レベルが上昇し、可変パラメータαを1.5及び−1.5に設定した場合に比べて異なる信号レベルで高域成分を再生できることが確認できた。
【0095】
次に、テスト曲として再生周波数を10kHzおよび20kHzに固定した音を、可変特性型信号変換装置1で再生した。このとき、信号変換処理部2は、可変パラメータαの数値を−5〜5まで順次切り換えてゆき、入力部6から順次入力された離散データを補間処理した。そして、このときの可変パラメータαが異なる各標本化関数sN(t)で補間処理して得たアナログ信号の信号レベルについて比較したところ、図10に示すような結果が得られた。図10は、再生周波数を固定して可変パラメータの値を変更したときの信号レベルを示す概略図である。
【0096】
図10に示したように、10kHzの再生周波数では、可変パラメータαを大きくしてゆくと、信号レベルが次第に下降してゆき、可変パラメータαが2と3の間のときに信号レベルが急速に下降し、その後、再び信号レベルが急激に上昇することが確認できた。一方、20kHZの再生周波数では、可変パラメータαを大きくしてゆくと、信号レベルが次第に下降してゆき、可変パラメータαが4付近のときに信号レベルが急速に下降し、その後、再び信号レベルが急激に上昇することが確認できた。このように、信号変換処理部2では、可変パラメータαを変動させることにより、同じ再生周波数でも異なる信号レベルで再生できることが確認できた。
【0097】
(4)動作および効果
このように、本実施形態の信号変換処理部2では、基本項演算部16に基本標本化関数f(t)を記憶しておき、離散データ抽出部15によって抽出された各離散データd1、d2、d3、d4毎に補間位置t0までの距離をtとして基本標本化関数f(t)の値を計算し、離散データd1、d2、d3、d4のそれぞれに対応させた基本標本化関数f(t)の値を畳み込み演算することより、補間位置t0での基本補間値yaを計算している。
【0098】
また、信号変換処理部2では、制御項演算部17に制御標本化関数c0(t)を記憶しておき、離散データ抽出部15によって抽出された各離散データd1、d2、d3、d4毎に補間位置t0での距離をtとして制御標本化関数c0(t)の値を計算し、離散データd1、d2、d3、d4のそれぞれに対応させた制御標本化関数c0(t)の値を畳み込み演算した後、ユーザによって任意の数値に設定された可変パラメータαを、制御標本化関数c0(t)の畳み込み演算結果に乗算することにより、補間位置t0での制御補間値ybを計算している。
【0099】
そして、この信号変換処理部2では、このようにして算出した基本補間値yaと制御補間値ybとを線形加算して離散データ間の補間値yを計算することにより、制御御標本化関数c0(t)の値に乗算される可変パラメータαの数値が反映された補間値yを算出している。
【0100】
したがって、信号変換処理部2では、可変パラメータαの数値が変更されることにより、標本化関数sN(t)で補間処理して得られる補間値yが可変パラメータαに応じて調整できる。すなわち、音楽再生環境、音源、曲調等の各種条件に応じてユーザが可変パラメータαを適宜変更することで、アナログ信号の周波数特性が調整されたユーザ所望の音質からなる高音質な音楽を再生することが可能となる。
【0101】
また、信号変換処理部2では、標本化関数sN(t)として全域で1回だけ微分可能な有限台の基本標本化関数f(t)および制御標本化関数c0(t)を用い、制御標本化関数c0(t)に可変パラメータαを乗算しているため、従来のシャノンの標本化関数を用いた場合に比べて離散データ間の補間処理に必要な演算量を大幅に減らすことができる。また、シャノンの標本化関数を用いた場合に生じる打ち切り誤差が発生せず、折り返し歪みの発生を防止することができる。
【0102】
本実施形態では、特に補間位置t0を挟んで前後2つずつの標本位置と同じかそれよりも狭い範囲において標本化関数sN(t)の波形の値を0に収束させることが可能になるため、この標本化関数sN(t)を用いてデータ補間等を行う際に、着目位置の前後2つずつ合計4つの離散データを用いるだけでよくなり、シャノンの標本化関数を用いた場合に比べて処理負担の格段的な軽減が可能になる。
【0103】
また、本実施形態では、標本化関数sN(t)を、基本標本化関数f(t)と制御標本化関数c0(t)とに分離して別々に記憶し、それぞれ個別に離散データに対して畳み込み演算を行い、制御標本化関数c0(t)と離散データとの畳み込み演算結果に対して可変パラメータαを乗算して、これに基本標本化関数sN(t)と離散データとの畳み込み演算結果を加算して出力信号を得るようにしているため、制御標本化関数c0(t)は一つ保持すればよく、制御標本化関数c0(t)を極力単純化させることができ、制御標本化関数c0(t)の可変制御を容易に行うことができる。
【0104】
(5)他の実施の形態
なお、上述した実施形態においては、基本項演算部16および制御項演算部17によって、離散データ間にある複数の補間値を1つずつ順次算出してゆくようにした場合について説明したが、本発明はこれに限らず、離散データ間にある複数の補間値を一括で算出するようにしてもよい。
【0105】
図11は、複数の補間値を一括で算出する変形例を示す図である。図11では、図5と共通する構成については同じ符号が付されている。図11に示すように、信号変換処理部30は、離散データ抽出部15と変換関数行列演算部31とから構成されている。変換関数行列演算部31において、離散データd1、d2、d3、d4の値Y(t1)、Y(t2)、Y(t3)、Y(t4)と、変換行列A(後述する)とを乗算することにより、離散データ間の複数の補間値yk−2(1)、yk−2(2)、…、yk−2(n)を順次又は一括して算出する。
【0106】
この変形例では、図12のように、連続する4つの離散データd1、d2、d3、d4のうち過去2番目の離散データd2と過去3番目の離散データd3との間を1〜nまで区分けして所定の区分数(この場合、n+1)で区切り、各位置での補間値yk−2(1)、yk−2(2)、…、yk−2(n)が算出される。
【0107】
ここで、変換行列Aは次式により表される。
【0108】
【数12】
【0109】
この変換行列Aは、4つの離散データd1、d2、d3、d4を用いて標本化関数sN(t)を算出し、離散データd2およびd3の間のn個の補間値yk−2(1)、yk−2(2)、・・・、yk−2(n)を算出するために、標本化関数sN(t)を要素としてn行4列からなる。そして、変換行列Aは、離散データd1、d2、d3、d4の値Y(t1)、Y(t2)、Y(t3)、Y(t4)を要素とした1列の行列Xが乗算されることにより補正値yk−2(1)、yk−2(2)、・・・、yk−2(n)を求めることができる。すなわち、補正値yk−2(1)、yk−2(2)、・・・、yk−2(n)は、次式により求めることができる。
【0110】
【数13】
【0111】
ここで、変換行列Aは、次式の基本項行列Bと、可変パラメータαを乗算した次式の制御項行列Cとの和であり、A=B+αCで表される。
【0112】
【数14】
【0113】
【数15】
【0114】
基本項行列Bは基本標本化関数f(t)を要素とし、制御項行列Cは制御標本化関数c(t)を要素としている(tは補間点と標本位置との距離を示す)。したがって、補間値yk−2(1)、yk−2(2)、・・・、yk−2(n)は、次式により表される。
【0115】
【数16】
【0116】
実際上、変換関数行列演算部31は、図13に示すように、基本項行列Bおよび行列Xの演算を実行する基本項行列演算回路32と、制御項行列Cおよび行列Xの演算を実行する制御項行列演算回路33と、制御項行列演算回路33の算出結果に可変パラメータαを乗算する複数の係数乗算部18a1、18a2、・・・、18anと、基本項行列演算回路32からの算出結果と係数乗算部18a1、18a2、・・・、18anからの算出結果とを線形加算する複数の線形加算部19a1、19a2、・・・、19anとから構成されている。
【0117】
基本項行列演算回路32は、離散データ間の区分数に応じて基本標本化関数としての基本項行列Bを予め計算しておき、これにより得られた演算値をテーブル化した基本項行列Bを所定の記憶手段に記憶している。また、基本項行列演算回路32は、離散データ抽出部15から離散データd1、d2、d3、d4を受け取ると、所定の記憶手段に予め記憶されたテーブル値としての基本項行列Bに、離散データd1、d2、d3、d4の値Y(t1)、Y(t2)、Y(t3)、Y(t4)を一列の行列Xとして乗算する。そして、基本項行列演算回路32は、その結果得られた行列の各行の値を、それぞれ対応する線形加算部19a1、19a2、・・・、19anへ送出する。すなわち、基本項行列演算回路32は、算出結果として得られた行列の1行目の(f1(n+1)・Y(t1))+(f2(1)・Y(t2))+(f3(n−1)・Y(t3))+(f4(2n−1)・Y(t4))を線形加算部19a1に送出し、次の2行目の(f1(n+2)・Y(t1))+(f2(2)・Y(t2))+(f3(n−2)・Y(t3))+(f4(2n−2)・Y(t4))を次の線形加算部19a2に送出し、以後3行目〜n行目までの各値をそれぞれ異なる線形加算部19a3、・・・、19anへ送出する。
【0118】
一方、制御項行列演算回路33は、離散データ間の区分数に応じて制御標本化関数としての制御項行列Cを予め計算しておき、これにより得られた演算値をテーブル化した制御項行列Cを所定の記憶手段に記憶している。また、制御項行列演算回路33は、離散データ抽出部15から離散データd1、d2、d3、d4を受け取ると、所定の記憶手段に予め記憶されたテーブル値としての制御項行列Cに、離散データd1、d2、d3、d4の値Y(t1)、Y(t2)、Y(t3)、Y(t4)を一列の行列Xとして乗算する。そして、制御項行列演算回路33は、その結果得られた行列の各行の値を、それぞれ対応する係数乗算部18a1、18a2、・・・、18anへ送出する。すなわち、制御項行列演算回路33は、演算結果として得られた行列の1行目の(c1(n+1)・Y(t1))+(c2(1)・Y(t2))+(c3(n−1)・Y(t3))+(c4(2n−1)・Y(t4))を係数乗算部18a1に送出し、次の2行目の(c1(n+2)・Y(t1))+(c2(2)・Y(t2))+(c3(n−2)・Y(t3))+(c4(2n−2)・Y(t4))を次の係数乗算部18a2に送出し、以後3行目〜n行目までの各値をそれぞれ異なる係数乗算部18a3、・・・、18anへ送出する。
【0119】
各係数乗算部18a1、18a2、・・・、18anは、パラメータ設定部7でユーザにより設定された可変パラメータαを、制御項行列演算回路33で算出された行列の各行の値に乗算し、これを対応する線形加算部19a1、19a2、・・・、19anへ送出する。各線形加算部19a1、19a2、・・・、19anは、基本項行列演算回路32から受け取った算出結果と、係数乗算部18a1、18a2、・・・、18anから受け取った算出結果とを同じ行毎に線形加算し、これにより補間値yk−2(1)、yk−2(2)、・・・、yk−2(n)を出力する。
【0120】
このように、信号変換処理部30では、上述した実施の形態と同様の効果に加えて、基本項行列演算回路32に基本項行列Bを記憶しておくとともに、制御項行列演算回路33に制御項行列Cを記憶しておき、離散データd1、d2、d3、d4の値Y(t1)、Y(t2)、Y(t3)、Y(t4)を一列の行列Xとして乗算するようにしたことにより、連続する4つの離散データd1、d2、d3、d4のうち所定の離散データd2およびd3の間の補間位置1〜nまでの補間値yk−2(1)、yk−2(2)、・・・、yk−2(n)を一括して容易に算出することができる。
【0121】
なお、上述した実施形態においては、着目する離散データ間の区分数がn+1で一定数である離散データ列に適用する基本項行列Bおよび制御項行列Cを用いる場合について説明したが、本発明はこれに限らず、着目する離散データ間の区分数が異なる複数の離散データ列に適用可能な基本項行列および制御項行列を用いるようにしてもよい。すなわち、この場合、変換関数行列演算部では、区分数が異なる複数の離散データ列に適用するため、これら複数の区分数の最小公倍数の区分数で基本項行列Bおよび制御項行列Cを予め演算してテーブル化しておき、離散データの入力開始時に設定される区分数に応じて、基本項行列Bおよび制御項行列Cのうちから当該区分数に対応した演算値をテーブル値として選択して、選択したテーブル値と離散データとの畳み込み演算を実行する。これにより、変換関数行列演算部では、1つの基本項行列B及び制御項行列Cのみを予め記憶しているだけで、区分数が異なる複数の離散データ列に対応することができることから、記憶手段での記憶容量を減らし、装置全体としての処理負担を低減することができる。例えば、区分数2(離散データの間に1つの補間値を生成する場合)と区分数3(離散データの間に2つの補間値を生成する場合)とを考えると、これらの区分数の最小公倍数は6であるため、区分数6に対応するテーブル値(関数値)を保持しておけば、区分数2と区分数3の両方の畳み込み演算をこの一つのテーブルを用いて行うことが可能になる。
【0122】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、標本化関数sN(t)を全域で1回だけ微分可能な有限台の関数としたが、微分可能回数を2回以上に設定してもよい。
【0123】
また、上述した実施形態においては、標本化関数sN(t)を用いて補間処理を行うことによりアナログ信号を生成するようにした場合についてのべたが、本発明はこれに限らず、標本化関数sN(t)を用いて補間処理を行うことにより単にオーバーサンプリングし、その後にアナログデジタル変換器でアナログ信用を生成するようにしてもよい。
【0124】
さらに、上述した実施形態においては、標本化関数sN(t)はt=±2で0に収束するようにしたが、本発明はこれに限らず、t=±3以上で0に収束するようにしてもよい。例えば、t=±3で0に収束するようにした場合には、離散データ抽出部15によって直前の6つの離散データを抽出し、関数処理部14によってこれら6つの離散データに対して標本化関数sN(t)の値が計算される。
【0125】
さらに、上述した実施形態においては、基本項演算部16に基本標本化関数f(t)を記憶し、これとは別に制御項演算部17に制御標本化関数c0(t)を記憶しておき、それぞれ基本標本化関数f(t)および制御標本化関数c0(t)毎に離散データd1、d2、d3、d4に対する畳み込み演算を行って基本補間値yaと制御補間値ybとを算出した後、基本補間値yaと制御補間値ybとの線形和加算で補間値yを算出するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、関数処理部14は、基本標本化関数f(t)に可変パラメータαと制御標本化関数c0(t)とを乗算した結果を加算してこれらの線形結合を行うことにより、この可変パラメータαに対応する具体的な標本化関数sN(t)を特定し、この標本化関数sN(t)を用いて、離散データd1、d2、d3、d4に対する畳み込み演算を行って補間値yを直接算出するようにしてもよい。これにより、関数処理部14では、基本標本化関数f(t)および制御標本化関数c0(t)のそれぞれを用いて別々に畳み込み演算する場合に比べて乗算回数が少なくなり、演算時間の低減や、乗算器の低減を図ることができ、処理速度の遅い演算デバイスを用いる場合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の補間処理に用いられる標本化関数を構成する基本標本化関数と制御標本化関数の波形形状を示す図である。
【図2】一実施形態の可変特性型信号変換装置の構成を示す図である。
【図3】プログラマブル信号処理プロセッサ内の信号変換処理部の構成を示す図である。
【図4】連続する4つの離散データと、補間位置である着目点との位置関係を示す図である。
【図5】信号変換処理部の具体的な構成を示す図である。
【図6】基本項演算部における所定の補間位置に対する補間処理の概略を示す図である。
【図7】制御項演算部における所定の補間位置に対する補間処理の概略を示す図である。
【図8】標本化関数の波形を示す図である。
【図9】複数の可変パラメータαと補間処理によって得られたアナログ信号の周波数特性との関係を示す図である。
【図10】再生周波数を固定して可変パラメータの値を変更したときの信号レベルを示す概略図である。
【図11】複数の補間値を一括で算出する変形例を示す図である。
【図12】4つの離散データと着目点との位置関係と、補間位置を示す概略図である。
【図13】他の実施の形態による信号変換処理部の詳細構成を示すブロック図である。
【図14】従来におけるシャノンの標本化関数の波形を示す概略図である。
【符号の説明】
【0127】
2 信号変換処理部
3 プログラマブル信号処理プロセッサ
10 セレクタ
14 関数処理部
15 離散データ抽出部
16 基本項演算部
17 制御項演算部
18 係数乗算部
19 線形加算部
32 基本項行列演算回路
33 制御項行列演算回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、離散信号を連続信号に変換する変換装置および方法に関し、例えば所定のサンプリング周波数でサンプリングされた時間方向に並ぶ離散データ間を補間して、入力時のサンプリング周波数よりも高周波で離散データあるいはアナログ信号を生成する際に適用することができ、かつ、入力された信号の周波数特性を変化させた出力信号の周波数特性を得るのに好適な可変特性信号変換装置および方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、音響信号においては、音楽のジャンルや、リスナーの好みに応じて音質を変化させることに好適であり、写真や映像においては、画質調整に好適な技術である。
【0003】
なお、本明細書においては、高周波の離散間隔で離散データを生成することとアナログ信号を生成することを同一の処理として「アナログ信号の生成」と称して説明を行うものとする。また、関数の値が局所的な領域で0以外の有限の値を有し、それ以外の領域で0となる場合を「有限台」と称して説明を行うものとする。
【背景技術】
【0004】
従来、デジタルデータのような離散データからアナログ信号を生成する際には、シャノンの標本化定理に代表される標本化関数が広く用いられてきた。ここで、シャノンの標本化関数は、図14に示すように、t=0の標本位置のみで1になるとともに、他の全ての標本位置で0となり、理論的に−∞から+∞までその振動が無限に続く波形を示す。このため、実際に各種のプロセッサ等によって、シャノンの標本化関数を用いて離散データ間の補間処理を実行する際には、強制的に有限区間で処理が打ち切られている。その結果、打ち切りによる誤差が発生するという問題があった。このような問題を解決するために、打ち切り誤差がなく、さらに高次の帯域成分までも再生可能な、有限の範囲で収束する標本化関数が考え出されている(例えば、特許文献1参照。)。この標本化関数では、原点から前後2個先の標本位置で0に収束するため、少ない計算量で信号再生を行うことができ、さらに高周波まで帯域を有することが確かめられている。
【特許文献1】国際公開第99/38090号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の従来技術で用いられている標本化関数は、波形の形状が固定化されており、音質や画質の特性を変化させることができないという問題があった。難聴者や高齢者等の各種ユーザ等に対して、音楽再生環境、音源、曲調等の各種条件に応じて音質等を自由に調整し得るテーラーメイドの手法が望まれている。しかし、従来はこのような要請に対応できず、入力信号を周波数分析して、周波数帯域毎に音圧を調整するイコライザーが用いられている。この場合には、周波数帯域分離が必要となり、さらに周波数帯域毎の音圧調整のため、周波数が変化したときに連続的な調整をすることができず、滑らかさのない音質となる。また、映像や写真などの画像においては、人の視覚特性に応じた画質調整が必要であるが、専門家により色調整が行われている現状では、このような画質調整は困難である。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、離散データに対してユーザの好みに応じた音質や画質で信号の再生を行うことができる可変特性型信号変換装置および信号変換方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明の可変特性型信号変換装置は、それぞれが有限台の区分的多項式で表される基本標本化関数および制御標本化関数の線形結合で構成された標本化関数を用いて複数の離散データに対する畳み込み演算を行うことにより、前記離散データ間の補間値を算出する関数処理部を備えている。
【0008】
また、本発明の可変特性型信号変換方法は、それぞれが有限台の区分的多項式で表される基本標本化関数および制御標本化関数の線形結合で構成された標本化関数を用いて複数の離散データに対する畳み込み演算を行うことにより、離散データ間の補間値を関数処理部によって算出する関数処理ステップを有している。
【0009】
また、順次入力される複数の離散データの中から入力順番が連続する所定個数の離散データを抽出する離散データ抽出部をさらに備え、関数処理部は、離散データ抽出部によって抽出された所定個数の離散データを用いて補間値の算出を行うことが望ましい。あるいは、順次入力される複数の離散データの中から入力順番が連続する所定個数の離散データを離散データ抽出部によって抽出する離散データ抽出ステップをさらに有し、関数処理ステップでは、離散データ抽出ステップにおいて抽出された所定個数の離散データを用いて補間値の算出を行うことが望ましい。
【0010】
また、上述した基本標本化関数をf(t)、制御標本化関数をC(t)、ユーザによって任意に設定可能なパラメータをαとしたときに、関数処理部は、線形結合を、f(t)+αC(t)で演算することが望ましい。あるいは、上述した関数処理ステップでは、線形結合を、f(t)+αC(t)で演算することが望ましい。
【0011】
また、上述した関数処理部は、基本標本化関数を用いて複数の離散データに対する畳み込み演算を行う基本項演算部と、制御標本化関数を用いて複数の離散データに対する畳み込み演算を行う制御項演算部と、制御項演算部による算出結果にパラメータを乗算する係数乗算部とを備えることが望ましい。あるいは、上述した関数処理ステップは、基本標本化関数を用いて複数の離散データに対する畳み込み演算を基本項演算部によって行う基本項演算ステップと、制御標本化関数を用いて複数の離散データに対する畳み込み演算を制御項演算部によって行う制御項演算ステップと、制御項演算ステップにおける算出結果にパラメータを乗算する演算を係数乗算部によって行う係数乗算ステップとを備えることが望ましい。
【0012】
また、上述した関数処理部は、パラメータの値が指定されたときに、基本標本化関数と制御標本化関数とを線形結合して得られる標本化関数を特定し、この標本化関数を用いて、離散データに対する畳み込み演算を行うことにより補間値を算出することが望ましい。あるいは、上述した関数処理ステップでは、パラメータの値が指定されたときに、基本標本化関数と制御標本化関数とを線形結合して得られる標本化関数を特定し、この標本化関数を用いて、離散データに対する畳み込み演算を行うことにより補間値を算出することが望ましい。
【0013】
また、ユーザの指示に応じてパラメータの値を任意に設定するパラメータ設定部をさらに備えることが望ましい。あるいは、ユーザの指示に応じてパラメータの値をパラメータ設定部によって任意に設定するパラメータ設定ステップをさらに有することが望ましい。
【0014】
また、ユーザが操作することにより、予め設定されたパラメータの複数の値の中から一つが選択されるセレクタをさらに備えることが望ましい。あるいは、ユーザの操作指示に応じて、予め設定されたパラメータの複数の値の中から一つを選択するパラメータ選択ステップをさらに有することが望ましい。
【0015】
また、上述した基本標本化関数は、離散データの標本位置の区間[−1,1]において1回だけ微分可能な区分的多項式で、他の区間は恒等的に0で表される関数であり、制御標本化関数は、離散データの標本位置の区間[−2、2]において1回だけ微分可能な区分的多項式で、他の区間では恒等的に0となる関数であることが望ましい。
【0016】
また、上述した離散データの標本位置をtとしたとき、基本標本化関数f(t)は、
【0017】
【数5】
【0018】
で表され、
制御標本化関数をC0(t)=Cr(t)+Cr(−t)としたときに、Cr(t)は、
【0019】
【数6】
【0020】
で表されることが望ましい。
【0021】
また、ユーザの指定したプログラムデータに基づいて、ユーザ所望の制御形態でなる演算構成を形成するプログラマブル信号処理プロセッサにプログラミングされることが望ましい。
【0022】
また、上述した基本標本化関数および制御標本化関数のそれぞれは、離散データ間の所定の区分数に応じて予め計算された関数値がテーブル化されてテーブル値として保持されており、このテーブル化された関数値を用いて離散データに対する畳み込み演算が行われることが望ましい。あるいは、上述した関数化処理ステップでは、このテーブル化された関数値を用いて離散データに対する畳み込み演算が行われることが望ましい。
【0023】
また、上述した離散データ間の異なる複数の区分数について、それらの区分数の最小公倍数の区分数に対応するテーブル値が予め演算されて保持されていることが望ましい。
【0024】
本発明では、標本化関数を基本標本化関数と制御標本化関数の線形結合で構成することにより、制御標本化関数に関する項を変形することで標本化関数全体を変形することが容易となり、離散データに対してユーザの好みに応じた音質や画質で信号の再生を行うことが可能となる。
【0025】
特に、基本標本化関数をf(t)、制御標本化関数をC(t)、ユーザによって任意に設定可能なパラメータをαとしたときに、上記の線形結合をf(t)+αC(t)で演算することにより、パラメータαの値を変更することで標本化関数の形状を変えることができ、得られる補間値の特性を変更することが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を適用した一実施形態の可変特性型信号変換装置について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0027】
(1)本発明の基本概念
図1は、本発明の補間処理に用いられる標本化関数を構成する基本標本化関数f(t)と制御標本化関数c0(t)の波形形状を示す図である。図1において、横軸は離散データの標本位置tを、縦軸は各標本関数値をそれぞれ示している。当該離散データの標本位置[−2,2]間での基本標本化関数f(t)および制御標本化関数c0(t)からなる標本化関数s2(t)は、次式で表される。
【0028】
【数7】
【0029】
一般的に、制御標本化関数をck(t)とし、ck(t)=cr(t−k)+cr(−t−k)とおくと、当該離散データの標本位置[−N,N]間で標本化関数sN(t)が次式で表される。
【0030】
【数8】
【0031】
なお、αkは可変パラメータを示し、ユーザによって設定可能な任意の値を有する。α1=α2=α3・・・のようにkによって値が可変しないものであってもよい。
【0032】
基本標本化関数f(t)は、微分可能性に着目した有限台の区分多項式関数であり、例えば全域において1回だけ微分可能であって、横軸に沿った標本位置tが−1から+1(すなわち、区間[−1,1])にあるときに0以外の有限な値を有し、他の区間では恒等的に0で表される関数である。具体的には、基本標本化関数f(t)は、区間[−1,1]内を2以上に区分した各小区間においてn次多項式関数であって、各小区間の境界で連続(値と傾きのそれぞれが連続)な関数である。この基本標本化関数f(t)は、全範囲でn−1回(nは2以上の整数)だけ微分可能な凸形状の波形形状を示し、t=0の標本位置でのみ1になり、t=±1に向けて0に収束し、t=±2の標本位置までそのまま0の値を維持するという特徴を有する。
【0033】
また、この基本標本化関数f(t)は、有限台のインパルス応答波形の関数でもよく、あるいは、標本位置区間の任意の位置で少なくとも1回微分可能で連続なn次の区分多項式関数でもよい。
【0034】
具体例として、2次の区分多項式関数で表した基本標本化関数f(t)は、次式で表される。
【0035】
【数9】
【0036】
そして、この基本標本化関数f(t)を用いて各離散データに基づく重ね合わせを行うことにより、離散データ間の任意の点における値を仮補間することができる。
【0037】
一方、制御標本化関数c0(t)は、微分可能性に着目した有限台の区分多項式関数であり、基本標本化関数と同じくn次多項式関数で表される。例えば、全域において1回だけ微分可能であって、横軸に沿った標本位置tが−2から+2(すなわち、区間[−2,2])にあるときに0以外の有限な値を有し、他の区間では恒等的に0で表される関数である。また、制御標本化関数c0(t)は、全範囲で1回だけ微分可能な波形を示し、t=0、±1、±2の各標本位置で0なるという特徴を有する。
【0038】
また、この制御標本化関数c0(t)は、有限台のインパルス応答波形の関数でよく、標本位置区間の任意の位置で少なくとも1回微分可能で連続なn次の区分多項式関数で良い。
【0039】
ここで、制御標本化関数c0(t)は、上述したように制御標本化関数c0(t)=cr(t)+cr(−t)で表される。このcr(t)は、例えば2次の区分多項式で表現すると、次式で表される。
【0040】
【数10】
【0041】
この制御標本化関数c0(t)を用いて各離散データに基づく重ね合わせを行うことにより、離散データ間の値を仮補間することができる。
【0042】
このようにして、基本標本化関数f(t)に基づいて算出した仮の補間値(以下、これを「基本補間値」と呼ぶ)と、制御標本化関数c0(t)に基づいて算出した仮の補間値(以下、これを「制御補間値」と呼ぶ)とを線形加算することにより、離散データ間の任意の点における値を補間することができる。
【0043】
因みに、2次の区分多項式関数で表した標本化関数の場合、基本標本化関数f(t)と制御標本化関数c0(t)との線形結合では、下記の6つの条件が成立する。
・第1としては、S2(0)=1、S2(±1)=S2(±2)=0となること。
・第2としては、偶関数、すなわちy軸に関して対称となること。
・第3としては、標本位置区間[−∞,−2]、[2,+∞]で恒等的に0であること。
・第4としては、各区間[n/2,(n+1)/2](−4≦n≦3)においては高々二次の多項式であること。
・第5としては、全区間で連続、かつ、一回微分可能であること。
・第6としては、標本位置区間[−1/2,1/2]において、次式で表されること。
【0044】
【数11】
【0045】
なお、N=2のときの標本化関数s2(t)については、説明の便宜上、単に標本化関数sN(t)として、以下の説明を行うものとする。
【0046】
また、これに加えて、このとき制御標本化関数c0(t)には、任意の数値が設定された可変パラメータαを乗算する。これにより、制御標本化関数c0(t)は、t=0、±1、±2の標本位置で0としたまま、標本位置−2から+2までの間で当該可変パラメータαの数値に応じてその波形の振幅を変形することができる。その結果、制御標本化関数c0(t)を用いた畳み込み演算による算出結果を変更させることができる。このように、可変パラメータαは、数値が変更されることで、標本化関数sN(t)によって算出して得られたアナログ信号の周波数特性を変化させ、信号の変化状態を調整することができるという特徴を有する。
【0047】
したがって、本発明では、基本標本化関数f(t)の算出結果と、制御標本化関数c0(t)の算出結果とを線形加算して補間値を求める際に、当該制御標本化関数c0(t)に乗算される可変パラメータαによって補間値を調整することができる。これにより、これら離散データ間を補間値で補間したアナログ信号の周波数特性を、可変パラメータαによって自由に調整することが可能になる。
【0048】
(2)可変特性型信号変換装置の全体構成
次に、上述した標本化関数sN(t)用いて補間処理を実行する可変特性型信号変換装置について説明する。
【0049】
図2は、一実施形態の可変特性型信号変換装置の構成を示す図である。図2において、1は可変特性型信号変換装置を示し、信号変換処理部2がプログラマブル信号処理プロセッサ3にプログラミングされて設けられている。このプログラマブル信号処理プロセッサ3は、複数個の回路ブロックと配線ブロックとが半導体チップ上に規則的に並べられ、これらの回路ブロックおよび配線ブロックの内部には回路の電気的な接続または非接続をプログラムできるデバイスが多数配置され、ユーザがこれらのデバイスをプログラム(定義)することによりブロック内部とブロック間の接続をフィールド(利用現場)にて設計できるようになっている。
【0050】
この可変特性型信号変換装置1は、外部インタフェース(外部I/F)4を介してパーソナルコンピュータ(PC)5によって、上述した数9、数10で示した基本標本化関数および制御標本化関数や、これらとは全く異なる標本化関数等、種々の標本化関数がプログラミングされることにより、プログラマブル信号処理プロセッサ3の回路ブロックおよび配線ブロック間の接続状態を変更して各種標本化関数による補間処理を実行しうるハードウエアに回路構成を変更できるようになっている。これにより、この可変特性型信号変換装置1では、プログラマブル信号処理プロセッサ3を単にプログラミングするだけで、ユーザ所望の回路構成に変更できるので、最適な標本化関数を模索する際に、各種標本化関数に応じてその都度、回路基板を実際に作製する必要がなく、その分だけコスト低減を図ることができる。
【0051】
なお、上述した実施形態において、図2においてはプログラマブル信号処理プロセッサ3での実現方法を示しているが、本発明はこれに限らず、FPGA(フイールドプログラマブルゲートアレイ)やDSP(Digital Signal Processor)のようなプログラマブルな信号処理デバイスで実現することも可能である。例えば、CPU(Central Processing Unit)およびメモリ等から構成された演算装置を用いるようにしてもよい。
【0052】
本実施形態の可変特性型信号変換装置1では、外部インタフェース4を介してパーソナルコンピュータ5から上述した数8で示した標本化関数sN(t)の条件を満たす、数9で示した基本標本化関数f(t)と、cr(t)が数10で表される制御標本化関数c0(t)とがプログラマブル信号処理プロセッサ3にプログラミングされる。
【0053】
これにより、可変特性型信号変換装置1では、プログラマブル信号処理プロセッサ3が所定のプログラムに従って全体を統括制御することにより、入力部6によって例えばCDやDVD等の種々の記録媒体を再生し、その結果得られる時間方向に並ぶ複数の離散データを信号変換処理部2へ順次送出する。因みに、離散データとは、例えば滑らかに変化する連続的な信号を一定の時間間隔で標本化し、その結果得られたサンプリングデータを量子化することにより得られた離散的なデータである。
【0054】
プログラマブル信号処理プロセッサ3には、ユーザの指示に応じて自由に可変パラメータαの数値を任意に設定することができるパラメータ設定部7が接続されている。ユーザがパラメータ設定部7により可変パラメータαを任意の数値に設定すると、設定された数値を示す情報がパラメータ設定部7から信号変換処理部2に送出される。信号処理装置としての信号変換処理部2は、標本化関数sN(t)を用いて離散データ間を補間して擬似的にサンプリング周波数を上げるいわゆるオーバーサンプリング処理を実行し、可変パラメータαの数値が反映された補間値を算出して出力部8へ向けて送出する。
【0055】
出力部8は、例えばデジタル−アナログ変換器、増幅器、スピーカを含んで構成されており、信号変換処理部2から所定の周期で補間値が入力されると、この補間値をこれに対応するアナログ信号に変換し、このアナログ信号に基づく音声や音楽等を出力する。
【0056】
このように、本実施形態の可変特性型信号変換装置1は、可変パラメータαの数値を変更することより、この可変パラメータαの数値が反映されたユーザ所望の特性を有するアナログ信号を生成することができる。
【0057】
また、プログラマブル信号処理プロセッサ3には、複数のセレクタボタン9a、9b、9cを備えたセレクタ10が接続されている。このセレクタ10には、異なる数値の可変パラメータαが各セレクタボタン9a、9b、9cのそれぞれに対応付けられており、ユーザの操作によってセレクタボタン9a、9b、9cのいずれか1つが選択されると、選択されたセレクタボタンに対応する可変パラメータαの値が制御標本化関数c0(t)に乗算され、標本化関数sN(t)による補間処理が実行されるようになっている。
【0058】
具体的には、本実施形態の場合、例えばセレクタボタン9aが選択されると、可変パラメータαを−1.5とした標本化関数sN(t)によって補間処理が実行される。他のセレクタボタン9bが選択されると、可変パラメータαを−0.25とした標本化関数sN(t)によって補間処理が実行される。さらに他のセレクタボタン9cが選択されると、可変パラメータαを1.5とした標本化関数sN(t)によって補間処理が実行される。
【0059】
これにより、この可変特性型信号変換装置1では、ユーザがパラメータ設定部7によって可変パラメータαを任意の数値に設定することができるとともに、セレクタボタン9a、9b、9cのいずれか1つを選択するだけで、パラメータ設定部7による可変パラメータαの細かな設定をその都度行うことなく、所望の可変パラメータαを用いた補間処理を容易に実行することができる。
【0060】
(3)信号変換処理部の回路構成
(3−1)信号変換処理部における補間処理の概略説明
図3は、プログラマブル信号処理プロセッサ3内の信号変換処理部2の構成を示す図である。この信号変換処理部2は、所定数(この場合4つ)の離散データを順次抽出して保持する離散データ抽出部15と、離散データ抽出部15で抽出保持された所定数の離散データを一度に受け取り、これらの離散データを用いて補間処理を実行する関数処理部14とから構成されており、入力部6から順次入力される離散データ間を所定の時間間隔でデータ補間する。
【0061】
関数処理部14は、離散データを基に標本化関数sN(t)のうち基本標本化関数f(t)の項を演算処理する基本項演算部16と、離散データを基に標本化関数sN(t)のうち制御標本化関数c0(t)の項を演算処理する制御項演算部17と、制御項演算部17の算出結果に可変パラメータαを乗算する係数乗算部18と、基本項演算部16の算出結果と係数乗算部18の算出結果とを線形加算する線形加算部19とから構成されている。
【0062】
この実施形態の場合、離散データ抽出部15は、順次入力される離散データの中から直前の4つの離散データを抽出し、次に新たな離散データが入力されるまでこの4つの離散データを保持して、これら4つの離散データを基本項演算部16および制御項演算部17へそれぞれ送出する。
【0063】
基本項演算部16は、所定の記憶手段(図示せず)に基本標本化関数f(t)を記憶しており、離散データ間の補間位置が指定されると、この補間位置と離散データとの間の距離に基づいて基本標本化関数f(t)の値を計算する。この基本項演算部16は、離散データ抽出部15から送出される4つの離散データ毎に、それぞれ基本標本化関数f(t)の値を計算する。また、基本項演算部16は、離散データ毎に得られた4つの基本標本化関数f(t)の値毎に、それぞれ対応する離散データの値を乗算した後、これら4つの離散データに対応する畳み込み演算を行い、この畳み込み演算の算出結果を線形加算部19へ送出する。
【0064】
また、制御項演算部17は、所定の記憶手段(図示せず)に制御標本化関数c0(t)を記憶しており、補間位置が指定されると、この補間位置と離散データとの間の距離に基づいて制御標本化関数c0(t)の値を計算する。この制御項演算部17は、離散データ抽出部15から送出される4つの離散データ毎に、それぞれ制御標本化関数c0(t)の値を計算する。また、制御項演算部17は、離散データ毎に得られた4つの制御標本化関数c0(t)の値毎に、それぞれ対応する離散データの値を乗算した後、これらを加算することにより4つの離散データに対応する畳み込み演算を行い、この畳み込み演算の算出結果を係数乗算部18へ送出する。
【0065】
係数乗算部18は、制御項演算部17から受け取った制御標本関数c0(t)の畳み込み演算の算出結果に可変パラメータαを乗算し、その結果得られた可変パラメータ乗算結果を線形加算部19へ送出する。線形加算部19は、基本項演算部16から受け取った基本標本化関数f(t)の畳み込み演算の算出結果と、係数乗算部18から受け取った可変パラメータ乗算結果とを線形加算することにより、4つの離散データに対応する線形加算結果を得る。この線形加算によって得られる値は、所定の2つの離散データ間の補間位置における補間値となる。この補間位置は、予め設定された所定の時間間隔、具体的には離散データの入力間隔に対応する周期Tの1/Nの周期(=T/N)毎にその値が更新される。
【0066】
上述した関数処理部14による処理が関数処理ステップの動作に、離散データ抽出部15による処理が離散データ抽出ステップの動作に、基本項演算部16による処理が基本項演算ステップの動作に、制御項演算部17による処理が制御項演算ステップの動作に、係数乗算部18による処理が係数乗算ステップの動作に、パラメータ設定部7を用いたパラメータ設定処理がパラメータ設定ステップの動作に、セレクタ10を用いたパラメータ設定処理がパラメータ選択ステップの動作にそれぞれ対応する。
【0067】
(3−2)4つの離散データに基づいて補間値を求める具体例
次に、時間的に連続して並ぶ4つの離散データに基づいて所定の2つの離散データ間の補間値を算出する補間処理について説明する。
【0068】
図4は、連続する4つの離散データと、補間位置である着目点との位置関係を示す図である。以下では、標本位置t1、t2、t3、t4のそれぞれに対応して順次入力される離散データd1、d2、d3、d4の各値をY(t1)、Y(t2)、Y(t3)、Y(t4)とし、標本位置t2及びt3間の所定位置t0(t2から距離b)を補間位置としてこの補間位置に対応した補間値yを求める場合を考える。
【0069】
本実施形態で用いる標本化関数sN(t)は、t=±2の標本位置で0に収束するため、t=±2までの離散データd1、d2、d3、d4を考慮に入れればよい。したがって、図4に示す補間値yを求める場合には、t=t1、t2、t3、t4に対応した4つの離散データd1、d2、d3、d4のみを考慮すればよいことになり、演算量を大幅に削減することができる。しかも、t=±3以上の各離散データ(図示せず)については、本来考慮すべきであるが演算量や精度等を考慮して無視しているというわけではなく、理論的に考慮する必要がないため、打ち切り誤差は発生しない。
【0070】
図5は、信号変換処理部2の具体的な構成を示す図である。図5に示すように、離散データ抽出部15は、縦続接続された3つのシフト回路20a、20b、20cを備えている。連続する離散データが入力されると、各シフト回路20a、20b、20c毎に離散データを例えばCDのサンプリング周期(44.1kHz)でシフトし、各シフト回路20a、20b、20cで、直前の離散データd1、d2、d3、d4をそれぞれ1つ抽出して保持する。
【0071】
すなわち、離散データ抽出部15は、連続する4つの離散データd1、d2、d3、d4が入力されると、最新の離散データd4をそのまま基本項演算部16の基本項計算回路21aおよび制御項演算部17の制御項計算回路22aへそれぞれ送出する。
【0072】
また、離散データ抽出部15は、連続する4つの離散データd1、d2、d3、d4からなる離散データ列をシフト回路20aに送出し、このシフト回路20aによって離散データ列をシフトして最新の離散データd4から1つ前の離散データd3を抽出し、これを基本項演算部16の基本項計算回路21bおよび制御項演算部17の制御項計算回路22bへそれぞれ送出する。
【0073】
さらに、離散データ抽出部15は、残りのシフト回路20b、20cにも離散データ列を順次送出してゆき、シフト回路20bで離散データ列をさらにシフトさせて最新の離散データd4から2つ前の離散データd2を基本項計算回路21cおよび制御項計算回路22cへそれぞれ送出するとともに、シフト回路20cで離散データ列をさらにシフトさせて最新の離散データd4から3つ前の離散データd1を基本項計算回路21dおよび制御項計算回路22dへそれぞれ送出する。
【0074】
図6は、基本項演算部16における所定の補間位置t0に対する補間処理の概略を示す図である。また、図7は、制御項演算部17における所定の補間位置t0に対する補間処理の概略を示す図である。
【0075】
補間処理の内容としては、上述したように先ず始めに、基本項演算部16における基本補間値を算出する演算処理(以下、この演算処理を「基本補間値算出処理」と呼ぶ)と、制御項演算部17および係数乗算部18における制御補間値を算出する演算処理(以下、この演算処理を「制御補間値算出処理」と呼ぶ)とが実行される。以下、図6および図7を用い、基本補間値算出処理と制御補間値算出処理について説明する。
【0076】
(3−2−1)基本補間値算出処理
基本補間値算出処理の内容としては、図6(A)〜(D)に示すように、各標本位置t1、t2、t3、t4毎に、基本標本化関数f(t)のt=0(中心位置)におけるピーク高さを一致させ、このときの補間位置t0におけるそれぞれの基本標本化関数f(t)の値を求めることになる。
【0077】
図6(A)に示す標本位置t1における離散データd1に着目すると、補間位置t0と標本位置t1との距離は1+bとなる。したがって、標本位置t1に基本標本化関数f(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における基本標本化関数の値はf(1+b)となる。実際には、離散データd1の値Y(t1)に一致するように基本標本化関数f(t)の中心位置のピーク高さを合わせるため、上述したf(1+b)をY(t1)倍した値f(1+b)・Y(t1)が求めたい値となる。f(1+b)の計算は基本項演算部16の基本項計算回路21aで行われ、f(1+b)にY(t1)を乗算する計算は基本項演算部16の基本項乗算回路23aで行われる(図5)。
【0078】
同様に、図6(B)に示す標本位置t2における離散データd2の値Y(t2)に着目すると、補間位置t0と標本位置t2との距離はbとなる。したがって、標本位置t2に基本標本化関数f(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における基本標本化関数の値はf(b)となる。実際には、離散データd2の値Y(t2)に一致するように基本標本化関数f(t)の中心位置のピーク高さを合わせるため、上述したf(b)をY(t2)倍した値f(b)・Y(t2)が求めたい値となる。f(b)の計算は基本項演算部16の基本項計算回路21bで行われ、f(b)にY(t2)を乗算する計算は基本項演算部16の基本項乗算回路23bで行われる(図5)。
【0079】
図6(C)に示す標本位置t3における離散データd3の値Y(t3)に着目すると、補間位置t0と標本位置t3との距離は1−bとなる。したがって、標本位置t3に基本標本化関数f(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における基本標本化関数の値はf(1−b)となる。実際には、離散データの値Y(t3)に一致するように基本標本化関数f(t)の中心位置のピーク高さを合わせるため、上述したf(1−b)をY(t3)倍した値f(1−b)・Y(t3)が求めたい値となる。f(1−b)の計算は基本項演算部16の基本項計算回路21cで行われ、f(1−b)にY(t3)を乗算する計算は基本項演算部16の基本項乗算回路23cで行われる(図5)。
【0080】
図6(D)に示す標本位置t4における離散データd4の値Y(t4)に着目すると、補間位置t0と標本位置t4との距離は2−bとなる。したがって、標本位置t4に基本標本化関数f(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における基本標本化関数の値はf(2−b)となる。実際には、離散データd4の値Y(t4)に一致するように基本標本化関数f(2−b)の中心位置のピーク高さを合わせるため、上述したf(2−b)をY(t4)倍した値f(2−b)・Y(t4)が求めたい値となる。f(2−b)の計算は基本項演算部16の基本項計算回路21dで行われ、f(2−b)にY(t4)を乗算する計算は基本項演算部16の基本項乗算回路23dで行われる(図5)。
【0081】
次に、基本項演算部16では、補間位置t0の着目点に対応して得られた4つの値f(1+b)・Y(t1)、f(b)・Y(t2)、f(1−b)・Y(t3)、f(2−b)・Y(t4)を、基本項畳み込み回路24によって畳み込み演算し、着目点に対応する基本補間値yaが計算される。なお、基本項演算部16全体によって行われる演算が畳み込み演算であり、基本項畳み込み回路24では、各基本項乗算回路23a〜23dの乗算結果を単純に加算している。また、本実施形態の場合、補間位置t0の着目点に対応して得られた値f(1+b)・Y(t1)およびf(2−b)・Y(t4)は、図6(A)及び(D)に示すように0となるため、基本補間値yaは、(f(b)・Y(t2))+(f(1−b)・Y(t3))となる。
【0082】
(3−2−2)制御補間値算出処理
一方、制御補間値算出処理の内容としては、図7(A)〜(D)に示すように、各標本位置t1、t2、t3、t4毎に、制御標本化関数c0(t)のt=0(中心位置)を一致させて、各制御標本化関数c0(t)に対応した離散データd1、d2、d3、d4の値Y(t1)、Y(t2)、Y(t3)、Y(t4)を乗算し、このときの補間位置t0におけるそれぞれの制御標本化関数c0(t)の値を求めることになる。
【0083】
図7(A)に示す標本位置t1における離散データd1の値Y(t1)に着目すると、補間位置t0と標本位置t1との距離は1+bとなる。したがって、標本位置t1に制御標本化関数c0(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における制御標本化関数の値はc0(1+b)となる。実際には、離散データd1の値Y(t1)に対応させて制御標本化関数c0(t)の波形高さを合わせるため、上述したc0(1+b)をY(t1)倍した値c0(1+b)・Y(t1)が求めたい値となる。c0(1+b)の計算は制御項演算部17の制御項計算回路22aで行われ、c0(1+b)にY(t1)を乗算する計算は制御項演算部17の制御項乗算回路25aで行われる(図5)。
【0084】
同様に、図7(B)に示す標本位置t2における離散データd2の値Y(t2)に着目すると、補間位置t0と標本位置t2との距離はbとなる。したがって、標本位置t2に制御標本化関数c0(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における制御標本化関数の値はc0(b)となる。実際には、離散データd2の値Y(t2)に対応させて制御標本化関数c0(t)の波形高さを合わせるため、上述したc0(b)をY(t2)倍した値c0(b)・Y(t2)が求めたい値となる。c0(b)の計算は制御項演算部17の制御項計算回路22bで行われ、c0(b)にY(t2)を乗算する計算は制御項演算部17の制御項乗算回路25bで行われる(図5)。
【0085】
図7(C)に示す標本位置t3における離散データd3の値Y(t3)に着目すると、補間位置t0と標本位置t3との距離は1−bとなる。したがって、標本位置t3に制御標本化関数c0(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における制御標本化関数の値はc0(1−b)となる。実際には、離散データd3の値Y(t3)に対応させて制御標本化関数c0(t)の波形高さを合わせるため、上述したc0(1−b)をY(t3)倍した値c0(1−b)・Y(t3)が求めたい値となる。c0(1−b)の計算は制御項演算部17の制御項計算回路22cで行われ、c0(1−b)にY(t3)を乗算する計算は制御項演算部17の制御項乗算回路25cで行われる(図5)。
【0086】
図7(D)に示す標本位置t4における離散データd4の値Y(t4)に着目すると、補間位置t0と標本位置t4との距離は2−bとなる。したがって、標本位置t4に制御標本化関数c0(t)の中心位置を合わせたときの補間位置t0における制御標本化関数の値はc0(2−b)となる。実際には、離散データd4の値Y(t4)に対応させて制御標本化関数c0(2−b)の波形高さを合わせるため、上述したc0(2−b)をY(t4)倍した値c0(2−b)・Y(t4)が求めたい値となる。c0(2−b)の計算は制御項演算部17の制御項計算回路22dで行われ、c0(2−b)にY(t4)を乗算する計算は制御項演算部17の制御項乗算回路25dで行われる(図5)。
【0087】
次に、制御項演算部17では、補間位置t0の着目点に対応して得られた4つの値c0(1+b)・Y(t1)、c0(b)・Y(t2)、c0(1−b)・Y(t3)、c0(2−b)・Y(t4)を、制御項畳み込み回路26によって畳み込み演算し、係数乗算部18によって可変パラメータαを乗算し、これにより着目点に対応する制御補間値ybが計算される。なお、制御項演算部17全体によって行われる演算が畳み込み演算であり、制御項畳み込み回路26では、各制御項乗算回路25a〜25dの乗算結果を単純に加算している。
【0088】
(3−2−3)補間値演算処理
線形加算部19は、基本項演算部16により算出された着目点に対応する基本補間値yaと、制御項演算部17および係数乗算部18により算出された着目点に対応する制御補間値ybとを線形加算することにより、補間位置t0における補間値yを出力する。
【0089】
(3−3)可変パラメータの数値を変更したときの補間処理結果
上述した構成に加えて、信号変換処理部2では、パラメータ設定部7によって係数乗算部18の可変パラメータαの数値が変更されることにより標本化関数sN(t)の値が変更され、その結果、補間値yが変動してアナログ信号の周波数特性が変化するようになっている。以下では、可変パラメータαを変更した際に、標本化関数sN(t)がどのように変化するかについて、図1に示した基本標本化関数f(t)が示す波形と、制御標本化関数c0(t)が示す波形とを合成した波形に着目して説明する。
【0090】
図8は、標本化関数sN(t)の波形を示す図である。図8に示すように、基本標本化関数f(t)が示す波形と、制御標本化関数c0(t)が示す波形とを合成した標本化関数sN(t)の波形は、可変パラメータαの数値によって大きく異なるものとなる。本実施形態の場合、可変パラメータαを−1.5、−0.25、1.5の順に変化させてゆくと、−2≦t≦−1の領域と、1≦t≦2の領域とでは、標本化関数sN(t)の波長の振幅が次第に高くなり波形の極性が反転することを確認した。一方、−1≦t≦0の領域と、0≦t≦1の領域とでは、標本化関数sN(t)の波形の振幅が次第に低くなり波形の極性が反転することを確認した。
【0091】
次に、テスト曲としてCDに記録されたヴァイオリン曲「Zigeunerweisen(ツィゴイナーヴァイゼン)」を、可変特性型信号変換装置1において約23秒間再生した。このとき、信号変換処理部2では、可変パラメータαを−0.25、−1.5および1.5にそれぞれ設定し、約23秒の間に入力された離散データを補間処理した。そして、このときの各標本化関数sN(t)で補間処理したアナログ信号の周波数特性について比較したところ、図9に示すような結果が得られた。図9は、複数の可変パラメータαと補間処理によって得られたアナログ信号の周波数特性との関係を示す図である。
【0092】
図9に示したように、可変パラメータαの数値を変えた各標本化関数sN(t)による補間処理では、可変パラメータαの数値を変化させても、いずれも20kHz以上の高音域で信号レベルが上昇し、従来のシャノンの標本化関数を用いた場合に比べて高域成分を再生できることが確認できた。また、可変パラメータαを1.5に設定したときには、約26kHz未満で信号レベルが低下したものの、約26kHz以上の高音域で、44.1kHz付近を除き信号レベルが上昇し、可変パラメータαを−0.25および−1.5に設定した場合に比べて高域成分が再生できることが確認できた。
【0093】
一方、可変パラメータαを−1.5に設定したときには、約26kHz付近で信号レベルが急激に低下したものの、約26kHz未満で信号レベルが全体的に上昇するとともに、44.1kHz付近を除き約26kHzよりも高い領域でも信号レベルが上昇し、可変パラメータαを−0.25および−1.5に設定した場合に比べて異なる信号レベルで高域成分を再生できることが確認できた。
【0094】
さらに、可変パラメータαを−0.25に設定したときには、44.1kHz付近を除いて全体的に信号レベルが上昇し、可変パラメータαを1.5及び−1.5に設定した場合に比べて異なる信号レベルで高域成分を再生できることが確認できた。
【0095】
次に、テスト曲として再生周波数を10kHzおよび20kHzに固定した音を、可変特性型信号変換装置1で再生した。このとき、信号変換処理部2は、可変パラメータαの数値を−5〜5まで順次切り換えてゆき、入力部6から順次入力された離散データを補間処理した。そして、このときの可変パラメータαが異なる各標本化関数sN(t)で補間処理して得たアナログ信号の信号レベルについて比較したところ、図10に示すような結果が得られた。図10は、再生周波数を固定して可変パラメータの値を変更したときの信号レベルを示す概略図である。
【0096】
図10に示したように、10kHzの再生周波数では、可変パラメータαを大きくしてゆくと、信号レベルが次第に下降してゆき、可変パラメータαが2と3の間のときに信号レベルが急速に下降し、その後、再び信号レベルが急激に上昇することが確認できた。一方、20kHZの再生周波数では、可変パラメータαを大きくしてゆくと、信号レベルが次第に下降してゆき、可変パラメータαが4付近のときに信号レベルが急速に下降し、その後、再び信号レベルが急激に上昇することが確認できた。このように、信号変換処理部2では、可変パラメータαを変動させることにより、同じ再生周波数でも異なる信号レベルで再生できることが確認できた。
【0097】
(4)動作および効果
このように、本実施形態の信号変換処理部2では、基本項演算部16に基本標本化関数f(t)を記憶しておき、離散データ抽出部15によって抽出された各離散データd1、d2、d3、d4毎に補間位置t0までの距離をtとして基本標本化関数f(t)の値を計算し、離散データd1、d2、d3、d4のそれぞれに対応させた基本標本化関数f(t)の値を畳み込み演算することより、補間位置t0での基本補間値yaを計算している。
【0098】
また、信号変換処理部2では、制御項演算部17に制御標本化関数c0(t)を記憶しておき、離散データ抽出部15によって抽出された各離散データd1、d2、d3、d4毎に補間位置t0での距離をtとして制御標本化関数c0(t)の値を計算し、離散データd1、d2、d3、d4のそれぞれに対応させた制御標本化関数c0(t)の値を畳み込み演算した後、ユーザによって任意の数値に設定された可変パラメータαを、制御標本化関数c0(t)の畳み込み演算結果に乗算することにより、補間位置t0での制御補間値ybを計算している。
【0099】
そして、この信号変換処理部2では、このようにして算出した基本補間値yaと制御補間値ybとを線形加算して離散データ間の補間値yを計算することにより、制御御標本化関数c0(t)の値に乗算される可変パラメータαの数値が反映された補間値yを算出している。
【0100】
したがって、信号変換処理部2では、可変パラメータαの数値が変更されることにより、標本化関数sN(t)で補間処理して得られる補間値yが可変パラメータαに応じて調整できる。すなわち、音楽再生環境、音源、曲調等の各種条件に応じてユーザが可変パラメータαを適宜変更することで、アナログ信号の周波数特性が調整されたユーザ所望の音質からなる高音質な音楽を再生することが可能となる。
【0101】
また、信号変換処理部2では、標本化関数sN(t)として全域で1回だけ微分可能な有限台の基本標本化関数f(t)および制御標本化関数c0(t)を用い、制御標本化関数c0(t)に可変パラメータαを乗算しているため、従来のシャノンの標本化関数を用いた場合に比べて離散データ間の補間処理に必要な演算量を大幅に減らすことができる。また、シャノンの標本化関数を用いた場合に生じる打ち切り誤差が発生せず、折り返し歪みの発生を防止することができる。
【0102】
本実施形態では、特に補間位置t0を挟んで前後2つずつの標本位置と同じかそれよりも狭い範囲において標本化関数sN(t)の波形の値を0に収束させることが可能になるため、この標本化関数sN(t)を用いてデータ補間等を行う際に、着目位置の前後2つずつ合計4つの離散データを用いるだけでよくなり、シャノンの標本化関数を用いた場合に比べて処理負担の格段的な軽減が可能になる。
【0103】
また、本実施形態では、標本化関数sN(t)を、基本標本化関数f(t)と制御標本化関数c0(t)とに分離して別々に記憶し、それぞれ個別に離散データに対して畳み込み演算を行い、制御標本化関数c0(t)と離散データとの畳み込み演算結果に対して可変パラメータαを乗算して、これに基本標本化関数sN(t)と離散データとの畳み込み演算結果を加算して出力信号を得るようにしているため、制御標本化関数c0(t)は一つ保持すればよく、制御標本化関数c0(t)を極力単純化させることができ、制御標本化関数c0(t)の可変制御を容易に行うことができる。
【0104】
(5)他の実施の形態
なお、上述した実施形態においては、基本項演算部16および制御項演算部17によって、離散データ間にある複数の補間値を1つずつ順次算出してゆくようにした場合について説明したが、本発明はこれに限らず、離散データ間にある複数の補間値を一括で算出するようにしてもよい。
【0105】
図11は、複数の補間値を一括で算出する変形例を示す図である。図11では、図5と共通する構成については同じ符号が付されている。図11に示すように、信号変換処理部30は、離散データ抽出部15と変換関数行列演算部31とから構成されている。変換関数行列演算部31において、離散データd1、d2、d3、d4の値Y(t1)、Y(t2)、Y(t3)、Y(t4)と、変換行列A(後述する)とを乗算することにより、離散データ間の複数の補間値yk−2(1)、yk−2(2)、…、yk−2(n)を順次又は一括して算出する。
【0106】
この変形例では、図12のように、連続する4つの離散データd1、d2、d3、d4のうち過去2番目の離散データd2と過去3番目の離散データd3との間を1〜nまで区分けして所定の区分数(この場合、n+1)で区切り、各位置での補間値yk−2(1)、yk−2(2)、…、yk−2(n)が算出される。
【0107】
ここで、変換行列Aは次式により表される。
【0108】
【数12】
【0109】
この変換行列Aは、4つの離散データd1、d2、d3、d4を用いて標本化関数sN(t)を算出し、離散データd2およびd3の間のn個の補間値yk−2(1)、yk−2(2)、・・・、yk−2(n)を算出するために、標本化関数sN(t)を要素としてn行4列からなる。そして、変換行列Aは、離散データd1、d2、d3、d4の値Y(t1)、Y(t2)、Y(t3)、Y(t4)を要素とした1列の行列Xが乗算されることにより補正値yk−2(1)、yk−2(2)、・・・、yk−2(n)を求めることができる。すなわち、補正値yk−2(1)、yk−2(2)、・・・、yk−2(n)は、次式により求めることができる。
【0110】
【数13】
【0111】
ここで、変換行列Aは、次式の基本項行列Bと、可変パラメータαを乗算した次式の制御項行列Cとの和であり、A=B+αCで表される。
【0112】
【数14】
【0113】
【数15】
【0114】
基本項行列Bは基本標本化関数f(t)を要素とし、制御項行列Cは制御標本化関数c(t)を要素としている(tは補間点と標本位置との距離を示す)。したがって、補間値yk−2(1)、yk−2(2)、・・・、yk−2(n)は、次式により表される。
【0115】
【数16】
【0116】
実際上、変換関数行列演算部31は、図13に示すように、基本項行列Bおよび行列Xの演算を実行する基本項行列演算回路32と、制御項行列Cおよび行列Xの演算を実行する制御項行列演算回路33と、制御項行列演算回路33の算出結果に可変パラメータαを乗算する複数の係数乗算部18a1、18a2、・・・、18anと、基本項行列演算回路32からの算出結果と係数乗算部18a1、18a2、・・・、18anからの算出結果とを線形加算する複数の線形加算部19a1、19a2、・・・、19anとから構成されている。
【0117】
基本項行列演算回路32は、離散データ間の区分数に応じて基本標本化関数としての基本項行列Bを予め計算しておき、これにより得られた演算値をテーブル化した基本項行列Bを所定の記憶手段に記憶している。また、基本項行列演算回路32は、離散データ抽出部15から離散データd1、d2、d3、d4を受け取ると、所定の記憶手段に予め記憶されたテーブル値としての基本項行列Bに、離散データd1、d2、d3、d4の値Y(t1)、Y(t2)、Y(t3)、Y(t4)を一列の行列Xとして乗算する。そして、基本項行列演算回路32は、その結果得られた行列の各行の値を、それぞれ対応する線形加算部19a1、19a2、・・・、19anへ送出する。すなわち、基本項行列演算回路32は、算出結果として得られた行列の1行目の(f1(n+1)・Y(t1))+(f2(1)・Y(t2))+(f3(n−1)・Y(t3))+(f4(2n−1)・Y(t4))を線形加算部19a1に送出し、次の2行目の(f1(n+2)・Y(t1))+(f2(2)・Y(t2))+(f3(n−2)・Y(t3))+(f4(2n−2)・Y(t4))を次の線形加算部19a2に送出し、以後3行目〜n行目までの各値をそれぞれ異なる線形加算部19a3、・・・、19anへ送出する。
【0118】
一方、制御項行列演算回路33は、離散データ間の区分数に応じて制御標本化関数としての制御項行列Cを予め計算しておき、これにより得られた演算値をテーブル化した制御項行列Cを所定の記憶手段に記憶している。また、制御項行列演算回路33は、離散データ抽出部15から離散データd1、d2、d3、d4を受け取ると、所定の記憶手段に予め記憶されたテーブル値としての制御項行列Cに、離散データd1、d2、d3、d4の値Y(t1)、Y(t2)、Y(t3)、Y(t4)を一列の行列Xとして乗算する。そして、制御項行列演算回路33は、その結果得られた行列の各行の値を、それぞれ対応する係数乗算部18a1、18a2、・・・、18anへ送出する。すなわち、制御項行列演算回路33は、演算結果として得られた行列の1行目の(c1(n+1)・Y(t1))+(c2(1)・Y(t2))+(c3(n−1)・Y(t3))+(c4(2n−1)・Y(t4))を係数乗算部18a1に送出し、次の2行目の(c1(n+2)・Y(t1))+(c2(2)・Y(t2))+(c3(n−2)・Y(t3))+(c4(2n−2)・Y(t4))を次の係数乗算部18a2に送出し、以後3行目〜n行目までの各値をそれぞれ異なる係数乗算部18a3、・・・、18anへ送出する。
【0119】
各係数乗算部18a1、18a2、・・・、18anは、パラメータ設定部7でユーザにより設定された可変パラメータαを、制御項行列演算回路33で算出された行列の各行の値に乗算し、これを対応する線形加算部19a1、19a2、・・・、19anへ送出する。各線形加算部19a1、19a2、・・・、19anは、基本項行列演算回路32から受け取った算出結果と、係数乗算部18a1、18a2、・・・、18anから受け取った算出結果とを同じ行毎に線形加算し、これにより補間値yk−2(1)、yk−2(2)、・・・、yk−2(n)を出力する。
【0120】
このように、信号変換処理部30では、上述した実施の形態と同様の効果に加えて、基本項行列演算回路32に基本項行列Bを記憶しておくとともに、制御項行列演算回路33に制御項行列Cを記憶しておき、離散データd1、d2、d3、d4の値Y(t1)、Y(t2)、Y(t3)、Y(t4)を一列の行列Xとして乗算するようにしたことにより、連続する4つの離散データd1、d2、d3、d4のうち所定の離散データd2およびd3の間の補間位置1〜nまでの補間値yk−2(1)、yk−2(2)、・・・、yk−2(n)を一括して容易に算出することができる。
【0121】
なお、上述した実施形態においては、着目する離散データ間の区分数がn+1で一定数である離散データ列に適用する基本項行列Bおよび制御項行列Cを用いる場合について説明したが、本発明はこれに限らず、着目する離散データ間の区分数が異なる複数の離散データ列に適用可能な基本項行列および制御項行列を用いるようにしてもよい。すなわち、この場合、変換関数行列演算部では、区分数が異なる複数の離散データ列に適用するため、これら複数の区分数の最小公倍数の区分数で基本項行列Bおよび制御項行列Cを予め演算してテーブル化しておき、離散データの入力開始時に設定される区分数に応じて、基本項行列Bおよび制御項行列Cのうちから当該区分数に対応した演算値をテーブル値として選択して、選択したテーブル値と離散データとの畳み込み演算を実行する。これにより、変換関数行列演算部では、1つの基本項行列B及び制御項行列Cのみを予め記憶しているだけで、区分数が異なる複数の離散データ列に対応することができることから、記憶手段での記憶容量を減らし、装置全体としての処理負担を低減することができる。例えば、区分数2(離散データの間に1つの補間値を生成する場合)と区分数3(離散データの間に2つの補間値を生成する場合)とを考えると、これらの区分数の最小公倍数は6であるため、区分数6に対応するテーブル値(関数値)を保持しておけば、区分数2と区分数3の両方の畳み込み演算をこの一つのテーブルを用いて行うことが可能になる。
【0122】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、標本化関数sN(t)を全域で1回だけ微分可能な有限台の関数としたが、微分可能回数を2回以上に設定してもよい。
【0123】
また、上述した実施形態においては、標本化関数sN(t)を用いて補間処理を行うことによりアナログ信号を生成するようにした場合についてのべたが、本発明はこれに限らず、標本化関数sN(t)を用いて補間処理を行うことにより単にオーバーサンプリングし、その後にアナログデジタル変換器でアナログ信用を生成するようにしてもよい。
【0124】
さらに、上述した実施形態においては、標本化関数sN(t)はt=±2で0に収束するようにしたが、本発明はこれに限らず、t=±3以上で0に収束するようにしてもよい。例えば、t=±3で0に収束するようにした場合には、離散データ抽出部15によって直前の6つの離散データを抽出し、関数処理部14によってこれら6つの離散データに対して標本化関数sN(t)の値が計算される。
【0125】
さらに、上述した実施形態においては、基本項演算部16に基本標本化関数f(t)を記憶し、これとは別に制御項演算部17に制御標本化関数c0(t)を記憶しておき、それぞれ基本標本化関数f(t)および制御標本化関数c0(t)毎に離散データd1、d2、d3、d4に対する畳み込み演算を行って基本補間値yaと制御補間値ybとを算出した後、基本補間値yaと制御補間値ybとの線形和加算で補間値yを算出するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、関数処理部14は、基本標本化関数f(t)に可変パラメータαと制御標本化関数c0(t)とを乗算した結果を加算してこれらの線形結合を行うことにより、この可変パラメータαに対応する具体的な標本化関数sN(t)を特定し、この標本化関数sN(t)を用いて、離散データd1、d2、d3、d4に対する畳み込み演算を行って補間値yを直接算出するようにしてもよい。これにより、関数処理部14では、基本標本化関数f(t)および制御標本化関数c0(t)のそれぞれを用いて別々に畳み込み演算する場合に比べて乗算回数が少なくなり、演算時間の低減や、乗算器の低減を図ることができ、処理速度の遅い演算デバイスを用いる場合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の補間処理に用いられる標本化関数を構成する基本標本化関数と制御標本化関数の波形形状を示す図である。
【図2】一実施形態の可変特性型信号変換装置の構成を示す図である。
【図3】プログラマブル信号処理プロセッサ内の信号変換処理部の構成を示す図である。
【図4】連続する4つの離散データと、補間位置である着目点との位置関係を示す図である。
【図5】信号変換処理部の具体的な構成を示す図である。
【図6】基本項演算部における所定の補間位置に対する補間処理の概略を示す図である。
【図7】制御項演算部における所定の補間位置に対する補間処理の概略を示す図である。
【図8】標本化関数の波形を示す図である。
【図9】複数の可変パラメータαと補間処理によって得られたアナログ信号の周波数特性との関係を示す図である。
【図10】再生周波数を固定して可変パラメータの値を変更したときの信号レベルを示す概略図である。
【図11】複数の補間値を一括で算出する変形例を示す図である。
【図12】4つの離散データと着目点との位置関係と、補間位置を示す概略図である。
【図13】他の実施の形態による信号変換処理部の詳細構成を示すブロック図である。
【図14】従来におけるシャノンの標本化関数の波形を示す概略図である。
【符号の説明】
【0127】
2 信号変換処理部
3 プログラマブル信号処理プロセッサ
10 セレクタ
14 関数処理部
15 離散データ抽出部
16 基本項演算部
17 制御項演算部
18 係数乗算部
19 線形加算部
32 基本項行列演算回路
33 制御項行列演算回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが有限台の区分的多項式で表される基本標本化関数および制御標本化関数の線形結合で構成された標本化関数を用いて複数の離散データに対する畳み込み演算を行うことにより、前記離散データ間の補間値を算出する関数処理部を備えることを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項2】
請求項1において、
順次入力される複数の前記離散データの中から入力順番が連続する所定個数の離散データを抽出する離散データ抽出部をさらに備え、
前記関数処理部は、前記離散データ抽出部によって抽出された所定個数の前記離散データを用いて補間値の算出を行うことを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記基本標本化関数をf(t)、前記制御標本化関数をC(t)、ユーザによって任意に設定可能なパラメータをαとしたときに、
前記関数処理部は、前記線形結合を、
f(t)+αC(t)
で演算することを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記関数処理部は、
前記基本標本化関数を用いて複数の前記離散データに対する畳み込み演算を行う基本項演算部と、
前記制御標本化関数を用いて複数の前記離散データに対する畳み込み演算を行う制御項演算部と、
前記制御項演算部による算出結果に前記パラメータを乗算する係数乗算部と、
を備えることを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記関数処理部は、前記パラメータの値が指定されたときに、前記基本標本化関数と前記制御標本化関数とを線形結合して得られる前記標本化関数を特定し、この標本化関数を用いて、前記離散データに対する前記畳み込み演算を行うことにより前記補間値を算出することを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項6】
請求項4または5において、
ユーザの指示に応じて前記パラメータの値を任意に設定するパラメータ設定部をさらに備えることを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項7】
請求項4または5において、
ユーザが操作することにより、予め設定された前記パラメータの複数の値の中から一つが選択されるセレクタをさらに備えることを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかにおいて、
前記基本標本化関数は、前記離散データの標本位置の区間[−1,1]において1回だけ微分可能な区分的多項式で、他の区間は恒等的に0で表される関数であり、
前記制御標本化関数は、前記離散データの標本位置の区間[−2、2]において1回だけ微分可能な区分的多項式で、他の区間では恒等的に0となる関数であることを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかにおいて、
前記離散データの標本位置をtとしたとき、
前記基本標本化関数f(t)は、
【数1】
で表され、
前記制御標本化関数をC0(t)=Cr(t)+Cr(−t)としたときに、前記Cr(t)は、
【数2】
で表されることを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかにおいて、
ユーザの指定したプログラムデータに基づいて、ユーザ所望の制御形態でなる演算構成を形成するプログラマブル信号処理プロセッサにプログラミングされることを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかにおいて、
前記基本標本化関数および前記制御標本化関数のそれぞれは、前記離散データ間の所定の区分数に応じて予め計算された関数値がテーブル化されてテーブル値として保持されており、
このテーブル化された関数値を用いて前記離散データに対する畳み込み演算が行われることを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記離散データ間の異なる複数の区分数について、それらの区分数の最小公倍数の区分数に対応する前記テーブル値が予め演算されて保持されていることを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項13】
それぞれが有限台の区分的多項式で表される基本標本化関数および制御標本化関数の線形結合で構成された標本化関数を用いて複数の離散データに対する畳み込み演算を行うことにより、前記離散データ間の補間値を関数処理部によって算出する関数処理ステップを有することを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項14】
請求項13において、
順次入力される複数の前記離散データの中から入力順番が連続する所定個数の離散データを離散データ抽出部によって抽出する離散データ抽出ステップをさらに有し、
前記関数処理ステップでは、前記離散データ抽出ステップにおいて抽出された所定個数の前記離散データを用いて補間値の算出を行うことを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項15】
請求項13または14において、
前記基本標本化関数をf(t)、前記制御標本化関数をC(t)、ユーザによって任意に設定可能なパラメータをαとしたときに、
前記関数処理ステップでは、前記線形結合を、
f(t)+αC(t)
で演算することを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項16】
請求項15において、
前記関数処理ステップは、
前記基本標本化関数を用いて複数の前記離散データに対する畳み込み演算を基本項演算部によって行う基本項演算ステップと、
前記制御標本化関数を用いて複数の前記離散データに対する畳み込み演算を制御項演算部によって行う制御項演算ステップと、
前記制御項演算ステップにおける算出結果に前記パラメータを乗算する演算を係数乗算部によって行う係数乗算ステップと、
を備えることを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項17】
請求項15において、
前記関数処理ステップでは、前記パラメータの値が指定されたときに、前記基本標本化関数と前記制御標本化関数とを線形結合して得られる前記標本化関数を特定し、この標本化関数を用いて、前記離散データに対する前記畳み込み演算を行うことにより前記補間値を算出することを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項18】
請求項16または17において、
ユーザの指示に応じて前記パラメータの値をパラメータ設定部によって任意に設定するパラメータ設定ステップをさらに有することを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項19】
請求項16または17において、
ユーザの操作指示に応じて、予め設定された前記パラメータの複数の値の中から一つを選択するパラメータ選択ステップをさらに有することを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項20】
請求項13〜19のいずれかにおいて、
前記基本標本化関数は、前記離散データの標本位置の区間[−1,1]において1回だけ微分可能な区分的多項式で、他の区間は恒等的に0で表される関数であり、
前記制御標本化関数は、前記離散データの標本位置の区間[−2、2]において1回だけ微分可能な区分的多項式で、他の区間では恒等的に0となる関数であることを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項21】
請求項13〜20のいずれかにおいて、
前記離散データの標本位置をtとしたとき、
前記基本標本化関数f(t)は、
【数3】
で表され、
前記制御標本化関数をC0(t)=Cr(t)+Cr(−t)としたときに、前記Cr(t)は、
【数4】
で表されることを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項22】
請求項13〜21のいずれかにおいて、
前記基本標本化関数および前記制御標本化関数のそれぞれは、前記離散データ間の所定の区分数に応じて予め計算された関数値がテーブル化されてテーブル値として前記関数処理部に保持されており、
前記関数化処理ステップでは、このテーブル化された関数値を用いて前記離散データに対する畳み込み演算が行われることを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項23】
請求項22において、
前記離散データ間の異なる複数の区分数について、それらの区分数の最小公倍数の区分数に対応する前記テーブル値が予め演算されて前記関数処理部に保持されていることを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項1】
それぞれが有限台の区分的多項式で表される基本標本化関数および制御標本化関数の線形結合で構成された標本化関数を用いて複数の離散データに対する畳み込み演算を行うことにより、前記離散データ間の補間値を算出する関数処理部を備えることを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項2】
請求項1において、
順次入力される複数の前記離散データの中から入力順番が連続する所定個数の離散データを抽出する離散データ抽出部をさらに備え、
前記関数処理部は、前記離散データ抽出部によって抽出された所定個数の前記離散データを用いて補間値の算出を行うことを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記基本標本化関数をf(t)、前記制御標本化関数をC(t)、ユーザによって任意に設定可能なパラメータをαとしたときに、
前記関数処理部は、前記線形結合を、
f(t)+αC(t)
で演算することを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記関数処理部は、
前記基本標本化関数を用いて複数の前記離散データに対する畳み込み演算を行う基本項演算部と、
前記制御標本化関数を用いて複数の前記離散データに対する畳み込み演算を行う制御項演算部と、
前記制御項演算部による算出結果に前記パラメータを乗算する係数乗算部と、
を備えることを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記関数処理部は、前記パラメータの値が指定されたときに、前記基本標本化関数と前記制御標本化関数とを線形結合して得られる前記標本化関数を特定し、この標本化関数を用いて、前記離散データに対する前記畳み込み演算を行うことにより前記補間値を算出することを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項6】
請求項4または5において、
ユーザの指示に応じて前記パラメータの値を任意に設定するパラメータ設定部をさらに備えることを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項7】
請求項4または5において、
ユーザが操作することにより、予め設定された前記パラメータの複数の値の中から一つが選択されるセレクタをさらに備えることを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかにおいて、
前記基本標本化関数は、前記離散データの標本位置の区間[−1,1]において1回だけ微分可能な区分的多項式で、他の区間は恒等的に0で表される関数であり、
前記制御標本化関数は、前記離散データの標本位置の区間[−2、2]において1回だけ微分可能な区分的多項式で、他の区間では恒等的に0となる関数であることを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかにおいて、
前記離散データの標本位置をtとしたとき、
前記基本標本化関数f(t)は、
【数1】
で表され、
前記制御標本化関数をC0(t)=Cr(t)+Cr(−t)としたときに、前記Cr(t)は、
【数2】
で表されることを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかにおいて、
ユーザの指定したプログラムデータに基づいて、ユーザ所望の制御形態でなる演算構成を形成するプログラマブル信号処理プロセッサにプログラミングされることを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかにおいて、
前記基本標本化関数および前記制御標本化関数のそれぞれは、前記離散データ間の所定の区分数に応じて予め計算された関数値がテーブル化されてテーブル値として保持されており、
このテーブル化された関数値を用いて前記離散データに対する畳み込み演算が行われることを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記離散データ間の異なる複数の区分数について、それらの区分数の最小公倍数の区分数に対応する前記テーブル値が予め演算されて保持されていることを特徴とする可変特性型信号変換装置。
【請求項13】
それぞれが有限台の区分的多項式で表される基本標本化関数および制御標本化関数の線形結合で構成された標本化関数を用いて複数の離散データに対する畳み込み演算を行うことにより、前記離散データ間の補間値を関数処理部によって算出する関数処理ステップを有することを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項14】
請求項13において、
順次入力される複数の前記離散データの中から入力順番が連続する所定個数の離散データを離散データ抽出部によって抽出する離散データ抽出ステップをさらに有し、
前記関数処理ステップでは、前記離散データ抽出ステップにおいて抽出された所定個数の前記離散データを用いて補間値の算出を行うことを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項15】
請求項13または14において、
前記基本標本化関数をf(t)、前記制御標本化関数をC(t)、ユーザによって任意に設定可能なパラメータをαとしたときに、
前記関数処理ステップでは、前記線形結合を、
f(t)+αC(t)
で演算することを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項16】
請求項15において、
前記関数処理ステップは、
前記基本標本化関数を用いて複数の前記離散データに対する畳み込み演算を基本項演算部によって行う基本項演算ステップと、
前記制御標本化関数を用いて複数の前記離散データに対する畳み込み演算を制御項演算部によって行う制御項演算ステップと、
前記制御項演算ステップにおける算出結果に前記パラメータを乗算する演算を係数乗算部によって行う係数乗算ステップと、
を備えることを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項17】
請求項15において、
前記関数処理ステップでは、前記パラメータの値が指定されたときに、前記基本標本化関数と前記制御標本化関数とを線形結合して得られる前記標本化関数を特定し、この標本化関数を用いて、前記離散データに対する前記畳み込み演算を行うことにより前記補間値を算出することを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項18】
請求項16または17において、
ユーザの指示に応じて前記パラメータの値をパラメータ設定部によって任意に設定するパラメータ設定ステップをさらに有することを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項19】
請求項16または17において、
ユーザの操作指示に応じて、予め設定された前記パラメータの複数の値の中から一つを選択するパラメータ選択ステップをさらに有することを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項20】
請求項13〜19のいずれかにおいて、
前記基本標本化関数は、前記離散データの標本位置の区間[−1,1]において1回だけ微分可能な区分的多項式で、他の区間は恒等的に0で表される関数であり、
前記制御標本化関数は、前記離散データの標本位置の区間[−2、2]において1回だけ微分可能な区分的多項式で、他の区間では恒等的に0となる関数であることを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項21】
請求項13〜20のいずれかにおいて、
前記離散データの標本位置をtとしたとき、
前記基本標本化関数f(t)は、
【数3】
で表され、
前記制御標本化関数をC0(t)=Cr(t)+Cr(−t)としたときに、前記Cr(t)は、
【数4】
で表されることを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項22】
請求項13〜21のいずれかにおいて、
前記基本標本化関数および前記制御標本化関数のそれぞれは、前記離散データ間の所定の区分数に応じて予め計算された関数値がテーブル化されてテーブル値として前記関数処理部に保持されており、
前記関数化処理ステップでは、このテーブル化された関数値を用いて前記離散データに対する畳み込み演算が行われることを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【請求項23】
請求項22において、
前記離散データ間の異なる複数の区分数について、それらの区分数の最小公倍数の区分数に対応する前記テーブル値が予め演算されて前記関数処理部に保持されていることを特徴とする可変特性型信号変換方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−93433(P2010−93433A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259780(P2008−259780)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
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