説明

可変重力装置

【課題】 従来の吊り下げ上下式可変重力装置は、はずみ車を必要とし、大型化に伴い、回転機器固有の配慮のため、製造費の負担が大きくなり、また適正な加速、減速を実現するための、トルク変換機構では正逆両方向の回転を伝達するため、特殊仕様の紐を調達しなければならず、製品の低費用化の障害であった。
【解決手段】 はずみ車に代えて、カプセルとほぼ同一質量の運動体を、交互に往復上下運動させる方式とした。そのため、大質量の回転体への配慮は不要である。また、それぞれを懸垂する紐は同軸の2つの螺旋滑車で巻き取り、巻き戻される仕組みで、基本的に、重力で常に張力がかかっているので、普通に市販されている高抗張力紐が使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復上下運動を利用し、単純な落下運動のみで実現できる低重力時間の倍増化を図った可変重力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の微小重力装置は、高い塔からの落下時間装置内にもたらされる低重力環境を利用したもので、長秒時化の要望を満たすには、塔の高さが時間の二乗に比例するので、装置が大掛かりとなり、経済的にも、技術的にもこれに伴う困難な課題に直面する。特に、高速で落下する装置を許容される減速度で制動し、受け止める仕組みには、幾つかの固有の工夫が凝らされてきた。にもかかわらず、その保守、運用には多くの人手と費用を必要とし装置の利用普及の妨げとなっている。
【0003】
落下のみでなく、上昇から下降の間の放物運動中を通じて、装置内にもたらされる低重力環境の利用は、同じ高度差で、落下運動のみの場合の二倍の秒時の間、低重力環境が利用できることは、以前より知られていたが、実際には航空機の弾道飛行のみが国内外(国内:ダイアモンドエアサービス)で実用されている。しかし、一般的利便性には欠しい。
【0004】
落下塔内で、打ち上げ方式を考案し、垂直上下運動を試みている施設(ドイツ、ブレーメン)はあるが、軌道の分散に問題があり、操作も複雑で、実用の域には至っていない。
【0005】
発明者らは、実験カプセルを紐で吊るし、ヨーヨーの運動原理を応用し、紐の長さを操作することで、出来る限りエネルギーを保存しながら、カプセルの上下運動を繰り返す方式を考案し、教育用に室内型短時間無重力装置を開発し、特許を得ている。
【0006】
以下、従来型として、最も本発明に関連する、ヨーヨー型無重力装置について、図4.図5により説明する。図において、10はカプセルを吊るす紐で、他端は11において、ヨーヨー滑車に結ばれる。カプセルはこの紐の巻き取り、巻き戻しに連動して運動する。その、変速機構が12の滑車系である。この滑車は、一対の円錐螺旋滑車により、構成されているが、正逆両方向に回転するので、動力を相互間に伝えるために、13のように正逆に応じて張力を担う紐を2本必要とする。ここで一方に張力が掛かるとき、他方は弛緩しており、普通の撓みのない紐では、滑車溝から外れる虞があるので、非線形な引っ張り特性をもつ紐を特製しなければならない。
【0007】
また、カプセル最下点においては、全エネルギーは、はずみ車の回転エネルギーとして保存されるので、大型化に伴い、高速で回転する大型のはずみ車を設計製作しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4391266号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Akiba.R.et al.,A New Low Gravity Device Applying the Yo−Yo Princile,JSTS vol.25 no.1(日本ロケット協会英文誌)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上述べた従来の上下運動を利用する無重力装置は、大型にあっては、操作性と利便性に問題がある。最近の発明である、ヨーヨー型では、小型としてはこれらの欠点を解決したけれども、大型化については対処しなければならない2つの課題を抱えている。第1は、原理的に落下のエネルギーをはずみ車の回転エネルギーと交換することで、上下運動を反復しているため、大型化に伴いはずみ車も大型となり、動つりあいに配慮した大型のはずみ車を設計製作しなければならない。第2は、トルク変換部の滑車に掛かる紐を正転、逆転方向に装備しなければならないので、張力の掛からない側の紐の弛みを防止する目的で、特殊な非線形性を張力特性に持たせねばならない。このため、特殊仕様の高抗張力紐が必要となる。このような特性の紐は需要が限られるので、製作費用が嵩む。
【0011】
本発明は、このような従来の構成が有していた問題を解決しようとするものであり、はずみ車を用いずに、落下体を2基一対で構成し、相互間でエネルギーを交換し、両者間のトルク変換伝達部の滑車を常に緩みのない紐で駆動できる機構として、実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記を達成するため、これまでのはずみ車の回転運動エネルギーに代わり、一対の上昇落下体相互間で併進運動とポテンシャルエネルギーを交換する仕組みとした。
【0013】
その問題解決手段はシーソーの原理を応用し、共通軸上に螺旋滑車を対向して180°の位相差で配置し、これに、1対の上昇落下体それぞれに繋がる紐を巻きつける。したがって、両者の紐は、常に軸周りに反対方向のトルクを与えている。
【0014】
問題解決手段による作用は次の通りである。一対の紐が螺旋滑車の部分で、軸に対し等しい半径位置にあるときにトルクは等しくなり、静止すれば釣り合う。上昇落下体をこの静止位置からずらせば、トルクが発生し、シーソーの原理で、この位置に戻るような振動が誘起される。この振幅を大きくしてやると、やがて紐が、それぞれ最大半径と最小半径の円柱滑車に掛かるようになる。
【0015】
紐が両半径位置に掛かった後、大半径側の運動体は螺旋滑車で得た速度で上昇し、半径比分だけ1gより少ない一定加速度を受け、頂点に達し一且静止する。ついで、同じ一定加速度で螺旋滑車に紐が掛かるまで落下運動をする。この間において、運動体内部は低重力環境となり実験に利用される。この上下運動の間、頂点を除けば、紐には常に張力がかかった状態であるので、紐にたるみは出ないので、第2の課題が克服できる。
【0016】
その後、大半径側の紐は、減速を受けつつ最小半径側に向かい、もう1方の最小半径に掛かっていた紐では他方の運動体が加速され、入れ替わって、大半径側に向い、エネルギー損失がなければ、繰り返し運動となる。すなわち、この1周期の間エネルギーは2つの運動体相互間で移行し、回転体のエネルギーを必要としない。この運動体は、併進運動のみを考慮すればいいので、第1の課題が克服できる。
【発明の効果】
【0017】
上述したように本発明の無重力装置は、大きな慣性モーメントを持つ回転部分を含まないので、回転部固有の問題が無い。
【0018】
また、動作中滑車部に掛かるすべての紐には張力がかかり、弛緩することはない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】 本発明の実施形態を示す装置の全体図
【図2】 シーソー螺旋滑車と紐(静止平衡位置)
【図3】 運動体の最高、最低点におけるシーソー螺旋滑車と紐位置
【図4】 従来型としてのヨーヨー型無重力装置全体図
【図5】 ヨーヨー型無重力装置の駆動螺旋滑車系
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図3に基づいて説明する。
【0021】
図1において、1はカプセル、2はそれと釣り合わせるための質量で、それぞれは、変向滑車を介し、3の滑車系に繋がる。
【0022】
図2、図3では、単純化し変向滑車を省き、両質量が軸を共有する滑車に巻きつく様子を示してある。紐の固定端は4である。二つの螺旋滑車5、6は正対し、180°の位相差をもって取り付けられているので、図示7、8のようにそれぞれの紐は、軸に対し逆方向のトルクを加える。シーソーの原理で、紐の掛かる螺旋位置の半径が等しいとき両質量は釣り合う。図2はこの平衡位置における紐の掛かり方を示す。同様に、平衡位置からずれた位置における紐の掛かり方を最高点、最低点を例にとって図3示してある。
【0023】
図1において、変向滑車9、10を滑車系と離して配置することで、紐の水平方向の運動が吸収されるので、両質量は垂直な上下動となる。これにより、はずみ車に代わり、カプセルとバランス質量の上下運動を交互に反復することで、カプセルの上下運動を実現できる。
【符号の説明】
1 カプセル
2 バランス質量
3 滑車系
4,5 180°の位相差で正対する二つの螺旋滑車
6,7 螺旋滑車に掛かる紐の位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紐により吊るされた2つの物体の紐が、同一滑車軸に取り付けた、2基の螺旋滑車を有し、シーソーの運動原理により、操作されることで、運動エネルギーを相互に交換し、吊るされた物体に上下運動を交互に行わせる機構を備えた可変重力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−30765(P2012−30765A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181936(P2010−181936)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(510330622)株式会社宇宙利用工学研究所 (1)