説明

可搬型締付工具の制御システム

【課題】可搬型締付工具による締付工程において、ボルト等のネジ部品が斜めに締め込まれることを防止して、歩留まりを高める。
【解決手段】インパクトレンチ1に、ネジ穴7の軸心L2(基準線)に対するインパクトレンチ1(可搬型締付工具)の回転軸2の軸心L2の傾斜角度θを検知するジャイロセンサ10(角度検知部)を取り付け、傾斜角度θが所定範囲内である場合はインパクトレンチ1を駆動可能とし、傾斜角度θが所定範囲を超えた場合はインパクトレンチ1を駆動不可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトやナット等のネジ部品を締め付ける可搬型締付工具の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の生産ラインでは、作業者が可搬型締付工具(インパクトレンチ等)を用いてナットやボルトの締付を行う場合がある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−50966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば自動車のエンジンEに部品Wを取り付けるにあたり、インパクトレンチによるボルトの締め付けは、以下のように行われる。まず、図2に示すように、インパクトレンチ1の回転軸2に取り付けられたソケット3の内周に、ボルト4をマグネット5で吸着する。次に、図3に示すように、ソケット3に装着したボルト4の先端をエンジンEのネジ穴7の開口部に押し付け、この状態でインパクトレンチ1のトリガー8を引いて、ボルト4をネジ穴7に締め付ける。
【0005】
上記のような締付工程において、ボルト4の先端をエンジンEのネジ穴7の開口部に押し付ける際に、図4に示すように、インパクトレンチ1の姿勢が傾いて回転軸2の軸心L1がネジ穴7の軸心L2に対して傾斜する場合がある。この状態のままボルト4をネジ穴7に締め付けると、ボルト4がネジ穴7に対して傾斜した状態で締め込まれてしまう。ボルトが斜めに締め込まれた製品(エンジンE)は締結不良品として廃棄されるため、歩留まりの低下を招く。
【0006】
従って、ボルトの締め付け作業は、ボルトとネジ穴とが同軸上に配された状態で行う必要がある。現状では、作業者の感覚でインパクトレンチの姿勢を調整している。例えば、ネジ穴が鉛直方向に延びる平面に形成されている場合は、ボルト及びインパクトレンチを水平方向に配すればよいため、感覚的にボルトとネジ穴との軸心を一致させやすい。しかし、ネジ穴が傾斜した平面や曲面に形成される場合は、ボルト及びインパクトレンチを傾斜した平面や曲面に対して直交する方向に配する必要がある。このような作業を、作業者の感覚のみで正確に行うことは非常に困難である。
【0007】
本発明の解決すべき課題は、可搬型締付工具による締付工程において、ボルト等のネジ部品がネジ穴に対して斜めに締め込まれることを防止して、歩留まりを高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためになされた本発明は、可搬型締付工具と、可搬型締付工具に取り付けられ、基準線に対する可搬型締付工具の傾斜角度を検知する角度検知部と、角度検知部で検知された可搬型締付工具の傾斜角度が、所定範囲内である場合は可搬型締付工具を駆動可能とし、所定範囲を超えた場合は駆動不可能とする駆動制御部とを備えた可搬型締付工具の制御システムである。
【0009】
このように、本発明に係る可搬型締結工具(以下、単に締付工具と言う。)の制御システムでは、基準線(例えばネジ穴の軸心)に対する締付工具の傾斜角度が所定範囲内である場合にのみ、締付工具を駆動可能としている。これにより、締付工具の傾斜角度が所定範囲を超えた状態、すなわち、締結工具に装着されたネジ部品(例えばボルト)の軸心と、ワークに設けられた取付部(例えばネジ穴)の軸心との間の角度が許容範囲を超えた状態では、締結工具は駆動されないため、ネジ部品がワークの取付部に対して斜めに締め込まれる事態を確実に防止できる。
【0010】
上記の締付工具の制御システムにおいて、締付工具の傾斜角度が所定範囲を超えて駆動不可能な状態となった場合、作業者により締結工具の角度を修正する必要がある。しかし、締結工具がどの方向にどの程度ずれているのかは分からないと、作業者の感覚により締付工具の角度を修正するしかなく、修正に手間取る恐れがある。そこで、上記の制御システムに、基準線に対する可搬型締付工具の傾斜角度及び傾斜方向を表示する表示部を設ければ、表示部に表示された傾斜角度及び傾斜方向を見ながら作業者が締付工具の姿勢を修正できるため、効率よく作業することができる。
【0011】
例えば、締付工具を移動させる際に、締付工具の傾斜角度が所定範囲内となったら、誤って締付工具が駆動されてしまう恐れがある。そこで、上記の角度検知部でさらに締付工具の角速度を検知し、駆動制御部で、角速度が所定範囲内である場合にのみ締付工具を駆動可能とし、角速度が所定範囲を超えたら締付工具を駆動不可能とすれば、締付工具が移動中に駆動される恐れを確実に回避することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明の締付工具の駆動管理システムによれば、締付工具によりボルト等のネジ部品が斜めに締め込まれることを防止することができるため、不良品の発生を抑えて歩留まりを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る締結工具の制御システムを含む生産ラインの平面図である。
【図2】インパクトレンチでボルトをネジ穴に締め付ける様子を示す断面図である。
【図3】インパクトレンチでボルトをネジ穴に締め付ける様子を示す断面図である。
【図4】インパクトレンチの回転軸の軸心が、ネジ穴の軸心に対して傾斜した様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
本発明の一実施形態に係る締結工具の制御システム100は、例えば図1に示すように、コンベアCで搬送される自動車のエンジンEに対して、所定の部品W(エキゾーストマニホールドなど)をボルトで取り付ける生産ラインに適用される。この制御システム100は、締結工具としてのインパクトレンチ1と、インパクトレンチ1に固定された角度検知部としてのジャイロセンサ10と、ジャイロセンサ10に接続されたジャイロセンサコントローラ20と、ジャイロセンサコントローラ20に接続され、インパクトレンチ1の駆動を制御する駆動制御部30と、ジャイロセンサコントローラ20に接続された表示部40とを備える。尚、インパクトレンチ1は、上述した図2〜4に示すものと同様であるため、構成及び使用方法の重複説明は省略する。
【0016】
ジャイロセンサ10は、インパクトレンチ1の基準線に対する傾斜角度を検知する。本実施形態では、図4に示すように、ジャイロセンサは、エンジンEに設けられたネジ穴7の軸心L2を基準線として、この基準線に対するインパクトレンチ1の回転軸2の軸心L1の傾斜角度θ(図4参照)及び傾斜方向を検知する。ジャイロセンサ10は、さらに、インパクトレンチ1の角速度を検知する。ジャイロセンサ10で検知されたインパクトレンチ1の傾斜角度θ、傾斜方向、及び角速度の信号が、ジャイロセンサコントローラ20に伝達される。
【0017】
ジャイロセンサコントローラ20は、インパクトレンチ10の傾斜角度θが所定範囲内(例えば5°以内)であるか否かを判別し、その判別結果に基づいて駆動制御部30に指令を出す。具体的には、傾斜角度θが所定範囲内であれば、駆動制御部30に対してインパクトレンチ1に電源を供給するように指令して、インパクトレンチ1を駆動可能な状態とする。一方、傾斜角度θが所定範囲を超えている場合は、駆動制御部30に対してインパクトレンチ1への電源の供給を遮断するように指令し、インパクトレンチ1のトリガー8を引いても駆動不可能な状態とする。これにより、ボルト4がネジ穴7に対して斜めに締め込まれる事態を回避できる。
【0018】
また、ジャイロセンサコントローラ20は、インパクトレンチ1の角速度が所定値以下であるか否かを判別し、その判別結果に基づいて駆動制御部30に指令を出す。具体的には、インパクトレンチ1の角速度が所定値以下であれば、駆動制御部30に対してインパクトレンチ1に電源を供給するように指令し、インパクトレンチ1を駆動可能な状態とする。一方、インパクトレンチ1の角速度が所定値を超えている場合は、駆動制御部30に対してインパクトレンチ1への電源の供給を遮断するように指令し、インパクトレンチ1を駆動不可能な状態とする。これにより、インパクトレンチ1の移動中に誤ってトリガー8を引いた場合でも、インパクトレンチ1が駆動されることを防止できる。
【0019】
表示部40は、ジャイロセンサコントローラ20と接続され、インパクトレンチ1の姿勢に関する情報が表示される。具体的には、インパクトレンチ1の傾斜角度θ及び傾斜方向が表示される。傾斜角度θが所定範囲を超えてインパクトレンチ1が駆動不可能な状態となったら、作業者は、表示部40に表示された傾斜角度θ及び傾斜方向を見ながらインパクトレンチ1の姿勢を修正することができるため、効率よく作業することができる。図示例では、表示部40がジャイロセンサコントローラ20から独立して設けられ、これにより表示部40を作業者から見やすい位置に自由に配置することができる。
【符号の説明】
【0020】
1 インパクトレンチ(可搬型締付工具)
2 回転軸
3 ソケット
4 ボルト
5 マグネット
7 ネジ穴
8 トリガー
10 ジャイロセンサ(角度検知部)
20 ジャイロセンサコントローラ
30 駆動制御部
40 表示部
100 制御システム
E エンジン
W エンジンに取り付けられる部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可搬型締付工具と、可搬型締付工具に取り付けられ、基準線に対する可搬型締付工具の傾斜角度を検知する角度検知部と、角度検知部で検知された可搬型締付工具の傾斜角度が、所定範囲内である場合は可搬型締付工具を駆動可能とし、所定範囲を超えた場合は駆動不可能とする駆動制御部とを備えた可搬型締付工具の制御システム。
【請求項2】
基準線に対する可搬型締付工具の傾斜角度及び傾斜方向を表示する表示部を設けた請求項1の可搬型締付工具の制御システム。
【請求項3】
角度検知部が、さらに可搬型締付工具の角速度を検知し、駆動制御部が、角度検知部で検知された角速度が所定範囲内である場合は可搬型締付工具を駆動可能とし、角度検知部で検知された角速度が所定範囲を超えた場合は可搬型締付工具を駆動不可能とする請求項1又は2の可搬型締付工具の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−115941(P2012−115941A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267170(P2010−267170)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】