説明

可撓性を有する加熱要素を備えた嚢切開装置

嚢切開装置(10)が抵抗加熱要素(12)を具備し、抵抗加熱要素(12)は、ループ状に形成された、電気抵抗の超弾性ワイヤ(14)から形成される。滑らかな円形又は長円形の嚢部分が取り除かれるように、このループの裸の面が前嚢に適用され且つ切開境界線を画成すべく電気的に加熱される。いくつかの実施形態では、超弾性ワイヤはループを含むように形成され、且つ、超弾性ワイヤは、ワイヤの第1端部及び第2端部がリード区域を形成すべく互いに近接し且つループから離れて延在するように形成される。超弾性ワイヤの第1端部及び第2端部が電気的に隔てられるように、電気絶縁材料(17)がワイヤの第1端部及び第2端部を完全に又は部分的に取り囲むことができる。ループ形状の加熱要素が前房の内外に移動せしめられるように、ハンドル(19)がリード区域の少なくとも一部分と係合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して白内障手術の分野に関し、特に嚢切開(capsularhexis)を行うための方法及び器具に関する。
【背景技術】
【0002】
白内障の治療法について認容された治療法は、外科的に水晶体を取り除いてその水晶体機能を人工水晶体(IOL)に置き換えることである。米国では、白内障の水晶体の大部分は水晶体超音波乳化吸引術と呼ばれる外科技術によって取り除かれる。白内障の水晶体を取り除く前に、前嚢において、穴又は切開が作られなければならない。水晶体超音波乳化吸引術の際、水晶体核が乳化される間に前嚢切開の切り口に多大な張力が存在する。従って、「片(tag)」が無い連続的な切断又は切裂(切開)は安全且つ効率的な水晶体超音波乳化吸引術の手術において極めて重要なステップである。
【0003】
多数の小さい嚢の裂け目を用いて嚢が開かれる場合、残っている小片は嚢の径方向の裂け目を導くことがあり、嚢の径方向の裂け目は後嚢内にまで延び得る。斯かる径方向の裂け目は、白内障を更に取り除くことと、手術中に後で水晶体嚢内に人工水晶体を安全に設置することとについて、水晶体を不安定にするので、合併症を構成する。更に、その後、後嚢に穴が開けられると、硝子体液が眼の前房にアクセスし得るようになる。このことが起きた場合、専用器具を用いた追加処置によって硝子体液を取り除かなければならない。硝子体液の喪失は、後に起きる網膜剥離及び/又は眼の感染症の比率増加とも関係する。これら合併症によって失明する可能性があることは重大である。
【0004】
水晶体超音波乳化吸引術に使用される従来の機器は、付属の切断用チップを備えた超音波駆動されるハンドピースを含む。これらハンドピースのいくつかでは、作動部分、すなわち一組の圧電結晶体に直接取り付けられた中空の共鳴棒(resonating bar)又は中空のホーン(horn)が中央に配設される。結晶体は、水晶体超音波乳化吸引術の間、ホーン及び付属の切断用チップの両方を駆動するために超音波振動を供給する。
【0005】
嚢切開手術に使用される従来技術の装置及び方法では、外科医の一部は、連続的な円形嚢穴を作り出すために豊富な技術を必要とする。このことは、装置の切断用チップの進路を制御するのが極端に困難であることによる。例えば、典型的な手術は、切開刀(例えば上述されたような切断用チップ)で作られた嚢の切開創から始まる。その後、切開刀を切断式(cutting fashion)よりもむしろ楔(wedge)として使用して嚢における切開創の前縁を押すことによって、この切開創は円形又は長円形の形状に誘導される。代替的に、細径鉗子を用いて前縁を把持して切断を進めることによって、初期の嚢の切開創が円形状に切り裂かれてもよい。これら手法のいずれも非常に手腕の問われる操作を含み、且つ切裂動作は、最も経験を積んだ熟練者においてでさえも、水晶体の背面に向かった、水晶体の望ましくない裂け目を導く場合がある。
【0006】
更に、片が無い滑らかな嚢穴が最終的に作り出された場合でさえも、嚢穴の大きさ及び/又は位置が問題を起こすことがある。例えば、過度に小さい嚢穴は、水晶体核及び皮質を安全に取り除くのを遅らせ且つ水晶体嚢に人工水晶体を適切に挿入するのを妨げ得る。小さい嚢穴又は誤って設置された嚢穴を用いて手術を遂行するのに必要な追加の圧力は、毛様小帯及び嚢の破損についてのリスクを眼に与える。これら合併症のどちらも、手術の長さ及び複雑さを増加させることがあり得るだろうし且つ硝子体液の喪失をもたらすかもしれない。
【0007】
したがって、適切に定置された連続的な円形孔が極めて望ましい。なぜならば、適切に定置された連続的な円形孔は、(1)径方向の裂け目及び前嚢における片の著しい減少、(2)水晶体プロテーゼ(lens prosthesis)の適切なセンタリングのために必要な嚢の完全性(integrity)、(3)安全且つ効果的なハイドロダイセクション(hydrodissection)、及び(4)視覚化が不十分な嚢及び/又は小さい瞳孔を有する患者に対する嚢手術の安全な使用をもたらすからである。加えて、後嚢混濁(「PCO」)とも呼ばれる後発白内障の可能性を低下させるために、移植されるIOLの直径に対して、且つ、提案される調節性IOL設計を用いた使用について、嚢切開は適切に寸法が決められるべきである。それ故に、前房の嚢切開を行うための改良された装置についての必要性が引き続き存在する。
【発明の概要】
【0008】
本発明の実施形態は嚢切開装置を含み、嚢切開装置は抵抗加熱要素を具備し、抵抗加熱要素は、ループ状に形成された、電気抵抗の超弾性ワイヤから形成される。このループの裸の面が前嚢に適用され且つ電流で加熱されることができるので、局所加熱がもたらされ、又は嚢が「焼かれる」。この焼かれた局所的な範囲は、滑らかな円形又は長円形の嚢部分が径方向の裂け目のリスクがほとんどない状態で取り除かれることができるように、切開境界線を画成する。
【0009】
このため、いくつかの実施形態では、嚢切開装置の抵抗加熱要素は電気抵抗の超弾性ワイヤを具備し、超弾性ワイヤは第1端部及び第2端部を有し、ここで、超弾性ワイヤはループを含むように形成される。ワイヤの第1端部及び第2端部はリード区域を形成すべく互いに近接し且つループから離れて延在する。超弾性ワイヤの第1端部及び第2端部が電気的に隔てられるように、電気絶縁材料を具備する絶縁部分が、リード区域において又はリード区域の近くで、ワイヤの第1端部及び第2端部を完全に又は部分的に取り囲むことができる。嚢切開を行うためにループ形状の加熱要素が眼の前房の内外に移動せしめられるように、ハンドルがリード区域の少なくとも一部分と係合する。
【0010】
いくつかの実施形態では、嚢切開装置はチューブ状挿入カートリッジも含むことができ、チューブ状挿入カートリッジはハンドル部分の周りに適合するように構成される。これら実施形態におけるチューブ状挿入カートリッジは、加熱要素が挿入カートリッジ内に押し込まれ又は格納されるときに加熱要素の圧潰されるループのほぼ全体を収容するように寸法が決められることができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、超弾性ワイヤがニッケルチタン合金から形成され、ニッケルチタン合金は超弾性特性を示す。一般的には、抵抗加熱要素のループは、眼の水晶体前嚢に対して設置されるための下面と、下面とは反対側の上面とを有する。しかしながら、いくつかの実施形態では、抵抗加熱要素は、少なくとも上面に配置されるが下面には存在しない断熱層を更に含むことができる。これら実施形態のいくつかでは、断熱層が、ループ全体の周りにおいて又はほぼループ全体の周りにおいて、超弾性ワイヤの三つの側面上に配置されるように、超弾性ワイヤは、ループ全体の周りにおいて又はほぼループ全体の周りにおいて長方形断面を有してもよい。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態に係る、嚢切開装置を利用するための例示的な方法は、眼の前房内に又は眼の前房の近くにチューブ状挿入カートリッジの一方の端部を定置することから始まる。チューブ状挿入カートリッジは抵抗加熱要素を収容し、抵抗加熱要素は電気抵抗の超弾性ワイヤを具備し、超弾性ワイヤは第1端部及び第2端部を有し、超弾性ワイヤはループを含むように形成され、且つ、超弾性ワイヤは、第1端部及び第2端部がリード区域を形成すべく近接し且つループから離れて延在するように形成される。リード区域の少なくとも一部分と堅く係合するハンドルを使用して、抵抗加熱要素のループはチューブ状挿入カートリッジから前房内に押し出されて眼の水晶体前嚢と接触して定置される。抵抗加熱要素は、押し出されたループに沿って水晶体嚢を焼くために電気的に加熱され、その後、抵抗加熱要素のループは、眼から取り外される前に、チューブ状挿入カートリッジ内に格納される。いくつかの実施形態では、押し出されたループを眼の水晶体前嚢に接触させて定置することが、所望の接触力に対応した予め定められた角度とほぼ等しい作動角度にループとハンドルとの間のリード区域の一部分が曲げられるように、押し出されたループを水晶体前嚢に接触させて定置することを含むことができる。
【0013】
当然のことながら、当業者は、本発明が上記の特徴、利点、文脈、又は例に限定されるものではないことを理解し、且つ、以下の詳細な説明を読み且つ添付の図面を見ることによって追加の特徴及び利点に気付くであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明のいくつかの実施形態に係る装置の部分上面図である。
【図2】図2は、抵抗加熱要素がチューブ状挿入カートリッジ内に格納される、いくつかの実施形態に係る嚢切開装置を示す。
【図3A】図3Aは、白内障手術中の、嚢切開装置の挿入を示す。
【図3B】図3Bは、白内障手術中の、嚢切開装置の挿入を示す。
【図3C】図3Cは、白内障手術中の、嚢切開装置の挿入を示す。
【図3D】図3Dは、白内障手術中の、嚢切開装置の除去を示す。
【図4】図4は、例示的な嚢切開装置のリード部分を所定角度に曲げることを示す。
【図5A】図5Aは、本発明のいくつかの実施形態に係る例示的な抵抗加熱要素の断面図である。
【図5B】図5Bは、本発明のいくつかの実施形態に係る例示的な抵抗加熱要素の断面図である。
【図6】図6は、嚢切開装置を利用するための例示的な方法を示すプロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の様々な実施形態では、嚢切開を行うための器具と、対応する使用方法が提供される。特に、本発明は、手術道具、いわゆる嚢切開装置に関し、嚢切開装置は、嚢切開又は切嚢術(capsulotomy)を行うために、小さい切開創を通して眼の前房内に定置されることができる。この手順は白内障の水晶体の水晶体超音波乳化吸引術及び人工水晶体(IOL)の挿入を促進する。
【0016】
米国特許出願公開第2006/010061号明細書には、エラストマー、アクリル材料、又は熱可塑性材料から製造される円形可撓リングを具備する嚢切開装置が記述される。この可撓リングには様々な実施形態のそれぞれにおいて抵抗加熱要素又は一対の双極電極のいずれかが組み込まれ、抵抗加熱要素又は一対の双極電極は円形リング内において嚢の部分を容易に剥離するための弱くされた境界線を画成するように前嚢に局所加熱を生成すべく公知技術に従って通電される。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態によれば、可撓リング構造を、超弾性ワイヤから製造された少なくとも部分的に裸の抵抗加熱要素に置き換えることができる。ワイヤ材料の超弾性と比較的高い電気抵抗との組み合わせによって、圧潰可能なリング形状の加熱要素が局所加熱によって切嚢術を行うように構成されることができる。加熱要素は、圧潰可能であるので、角膜における小さい切開創(例えば2mm)を通して眼に容易に挿入されることができる。
【0018】
加熱要素として裸のワイヤを使用することの実現可能性は、前房が、切嚢術の前に、低い熱拡散率を有する流体で膨張せしめられうるという事実と、ワイヤの超弾性特性との組合せに起因し、ワイヤの超弾性特性は、ワイヤが挿入中に圧潰され且つ使用中に予め形成された円形又は長円形に戻ることを可能とする。前房を膨張させるのに使用される粘弾性物質は、十分低い熱拡散率を有するので、加熱要素の周りにおいて断熱材として働くことができ、この結果、加熱要素の直近において、高度に集中された、熱的に影響される区画の形成が促進される。この区画の集中によって、近くの組織への二次的損傷が最小化される。実際には、加熱要素と嚢との間に粘弾性材料の薄いフィルムが捕捉されることを回避できないかもしれないが、流体フィルムの薄い厚み(例えば10μm)のおかげで、それでもなお、嚢上に画成された小さい範囲が加熱要素における温度上昇に十分早く反応するであろうから、二次的損傷は回避される。
【0019】
以下、図を参照すると、本発明のいくつかの実施形態に係る嚢切開装置の平面図が図1において示される。他のいくつかの添付図と同様に、図1が正確な縮尺ではなく且ついくつかの特徴が本発明の特徴をより明確に示すために誇張されていることが当業者によって理解されるであろう。例示される構造が単なる例であって限定されるものではないことも当業者によって理解されるであろう。
【0020】
いかなる場合でも、図1の嚢切開装置10は、細い超弾性ワイヤ14から製造された裸の加熱要素12を含む。特に、ワイヤ14は一般的にはニチノールとして公知なニッケルチタン合金から形成されることができ、ニッケルチタン合金は超弾性特性及び形状記憶特性を示す。ニチノールが超弾性(この用語は技術的にやや正確な用語「擬弾性」の同意語として本明細書では意図される)を有するので、ニチノールから製造された物は、荷重が印加されているとき、かなりの量の変形に耐えることができ、且つ、荷重が取り除かれると、その元の形状に戻る。(「形状記憶」とは、材料の変態温度より低い温度において変形される物体が変態温度よりも高い温度に温められるとその前の形状に戻る、いくつかの材料によって示される特性を指し、超弾性が形状記憶に関連はするが形状記憶とは異なることが当業者によって理解されるであろう。)ニチノールは両方の特性を示し、超弾性は変態温度よりも高い温度において示される。更に、ニチロールは、抵抗であり、この結果、電流を用いて加熱せしめられることができるので、図1において示される抵抗加熱要素12を形成するのに役立つ。当然のことながら、本発明のいくつかの実施形態において、ニチロールの代わりに抵抗であり且つ超弾性を有する他の材料が使用されてもよいことが当業者によって理解されるであろう。
【0021】
図1の抵抗加熱要素12は、超弾性ワイヤ14から形成されたループを含む。リード区域を形成すべくループから離れて延在する、ワイヤ14の端部は、可撓性を有する電気絶縁材料17を用いて、電気的に隔てられた状態に保たれる。描かれた実施形態では、絶縁材料17はリード区域の一部分を完全に取り囲む。しかしながら、いくつかの実施形態では、ループから離れてハンドル19内へ延在する二本のリードが、電流を抵抗加熱要素12のループに通すことができるように電気的に隔てられた状態に保たれるならば、絶縁材料17が、一方のリードのみを取り囲んでもよく、又はいずれか一方又は両方のリードを部分的にのみ取り囲んでもよいことが当業者によって理解されるであろう。好ましくは、絶縁材料17は、生体適合性及び高い耐熱性を有する材料、例えばポリイミド又はテフロン(登録商標)を含んで成る。
【0022】
描かれた実施形態におけるハンドル19は、リード区域の一部分と堅く係合する平らなチューブ又は円筒形チューブであり、絶縁材料17を含む。この結果、以下に更に詳細に記述されるように、ハンドル19は、嚢切開手術の間、加熱要素12を眼に挿入し且つその後に格納するのに使用されることができる。熱可塑性材料のような安価な材料から製造されることができるハンドル19は、加熱要素12が加熱用電源に選択的に接続されるように、電気コネクタ及び/又は接続線を収容してもよい。いくつかの実施形態では、ハンドル19、絶縁材料17、及び抵抗加熱要素14は使い捨てのユニットを形成し、使い捨てのユニットは、電流を供給できるハンドピース又は他の器具に使用中に選択的に接続されることができる。
【0023】
加熱要素12は、その超弾性特性のおかげで、眼の前房への挿入のために圧潰されることができ、前房内では、予め画成されたその形状を取り戻すことができる。従って、本発明のいくつかの実施形態は挿入チューブを含み又は挿入チューブを用いて使用されることができ、加熱要素12は挿入チューブを通って押される。図2において描かれる例では、チューブ状挿入カートリッジ22内において、格納位置における圧潰された加熱要素12が示される。加熱要素12は、挿入カートリッジ内に格納されるときには圧潰可能であり、且つ、カートリッジから押し出されるときにはその元の形状に拡張可能である。いくつかの実施形態では、挿入カートリッジ22の内部は、ハンドル19を収めるように寸法が決められるので、加熱要素12によって形成されたループは、使用中にカートリッジから完全に押し出されることができる。
【0024】
図3A〜図3Dは、挿入カートリッジ22を使用した、加熱要素12の眼32への挿入を示す。加熱要素12のループは、手術前に挿入カートリッジ内に引っ込められていたので、図3Aでは、カートリッジ22内にほぼ完全に収容される。この結果、図3Aにおいて示されるように、器具の先端部は小さな切開創を通って眼32の前房34に挿入されることができる。
【0025】
図3Bにおいて示されるように、ハンドル19を使用して、圧潰された加熱要素12は前房34内に完全に位置するまでカートリッジ22内を通って押される。図3Cにおいて示されるように、加熱要素12のループは、その後その予め決められた形状を取り戻し、更に嚢36に対して定置される。その後、加熱要素12は例えば電流の短パルス又は電流の一連のパルスを用いて通電される。上述されたように、この加熱は嚢36を焼き焦がし、滑らか且つ連続的な切断が嚢において効果的に生成される。図3Dにおいて示されるように、加熱要素12は、その後、挿入カートリッジ22内に格納されることができ、更に、眼32から取り除かれる。鉗子のような従来の手術道具を使用して、嚢の切断部分を容易に取り除くことができる。
【0026】
超弾性ワイヤ14が可撓性を有し、いくつかの実施形態では絶縁材料17も同様に可撓性を有するので、ハンドル19は、加熱要素12が嚢36に対して設置されるときに上方に曲げられることができる。ワイヤ14(及び、いくつかの場合、絶縁体17)の変形特性を、与えられた装置について容易に決定することができるので、加熱要素12の平面に対して形成される曲げ角度は、加熱要素12によって嚢36に印加される力の目安として用いられることができる。この結果、許容できる曲げ角度の範囲が嚢36の最適な焼灼(cauterization)のための所望の印加力の範囲に対応するように特定の装置について定められることができる。従って、外科医が、図4において示されるように、予め定められた角度θに一致させ又はほぼ一致させるように曲げ角度を単純に操作することによって、加熱要素12と嚢36との間に所望の接触力を得ることができるのは便利である。
【0027】
上述されたように、本発明のいくつかの実施形態は、ニチノール(又は他の超弾性材料)から製造される裸のワイヤを含む。加熱要素の近くの組織に対するあらゆる潜在的な二次的損傷を更に減らすために、本発明のいくつかの実施形態は、嚢切開の手術中に嚢に対して配置される底面が裸のままであるように、抵抗加熱要素12によって形成されたループの少なくとも上面に配置される断熱層を含むことができる。斯かる一つの実施形態の断面図が図5Aにおいて描かれており、図5Aには断熱層55で部分的に取り囲まれた丸いワイヤ14の断面が示される。いくつかの実施形態では、超弾性ワイヤ14は、図5Bにおいて示されるように、正方形又は長方形の断面を有してもよく、この場合、断熱材料55をワイヤ14の三つの側面上に配置できることは便利である。いずれかの場合も、断熱材料55は、抵抗加熱要素12のループ全体又はほぼループ全体の周りにおいてワイヤ14に配置されてもよい。
【0028】
上述された装置の形態を考慮すると、図6が、本発明のいくつかの実施形態に係る嚢切開装置を利用するための方法を示すことが当業者によって理解されるであろう。示された手順は、ブロック61に示されるような、挿入カートリッジを眼に定置すること、及び、ブロック62に示されるような、加熱要素のループを眼の前房に押し出すことから始まる。本明細書において記述される加熱要素12が圧潰されることができるので、挿入カートリッジは、加熱要素のループの拡張された直径よりもかなり小さい切開創を通り抜けるように寸法が決められることができる。
【0029】
加熱要素のループは、一旦眼の中に押し出されると、ブロック63に示されるように、水晶体前嚢に対して定置されることができる。本発明のいくつかの実施形態では、加熱要素のリード区域における曲げを評価することによって、加熱要素と嚢との間に印加された力を計測することができる。言い換えれば、正確な力が印加されることを確実なものとするために、ブロック64に示されるように、加熱要素によって形成された平面と、ハンドルとの間の角度を予め定められた角度に一致させることができる。
【0030】
ブロック65に示されるように、加熱要素が嚢に対して正確に定置された後に電流の印加によって通電されるので、ループは加熱せしめられ且つ水晶体嚢を「焼く」ことができる。嚢を焼くのが完了した時点で、加熱要素は、ブロック66に示されるように挿入カートリッジ内に格納されてブロック67に示されるように眼から取り除かれることができる。
【0031】
簡単に上述されたように、抵抗加熱要素を通電することが電流の短パルス(例えば20ms)又は一連のパルス(例えば各1ms)を含むことは有利である。取り除かれるべき部分を取り囲んでいる嚢の部分に対する二次的損傷を最小化しつつ、嚢における連続的且つ円形(又は長円形)の貫通切断(through-cut)が実現されるように、特定の加熱要素の形態について、出力の設定値(例えば、電圧、電流、パルス幅、パルスの数等)が制定されるべきであることが当業者によって理解されるであろう。本明細書において記述される実施形態に係る特定の加熱要素について出力の設定値を決定するとき、当業者は、複合的な作用メカニズムが嚢の「切断」に寄与し得ると考えるべきである。例えば、嚢材料の熱的破壊に加えて、加熱要素の急速な加熱によってもたらされる、粘弾性材料における蒸気「爆発」が嚢の貫通切断に寄与し得る。
【0032】
嚢切開装置及び嚢切開装置を利用するための方法の種々の実施形態の前述の説明は、例示及び例を目的として与えられた。当然のことながら、本発明の本質的特徴から逸脱することなく、本明細書において具体的に説明された実施形態とは別の態様において、本発明を実施できることが当業者によって理解されるであろう。この結果、本実施形態はあらゆる点において例示としてみなされるべきであり且つ限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲の意味及び均等範囲において行われる全ての変更が本明細書に包含されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嚢切開装置であって、
電気抵抗の超弾性ワイヤを具備する抵抗加熱要素であって、該超弾性ワイヤが第1端部及び第2端部を有し、該超弾性ワイヤがループを含むように形成され、且つ、該超弾性ワイヤが、前記第1端部及び第2端部がリード区域を形成すべく近接し且つ前記ループから離れて延在するように形成される、抵抗加熱要素と、
前記超弾性ワイヤの第1端部及び第2端部を隔てる電気絶縁材料を具備する絶縁部分と、
前記リード区域の少なくとも一部分と固定されるように係合するハンドルと
を具備する、嚢切開装置。
【請求項2】
前記ハンドル部分の周りに適合し、且つ、前記抵抗加熱要素が格納位置にあるときに該抵抗加熱要素をほぼ収容するように構成されるチューブ状挿入カートリッジを更に具備する、請求項1に記載の嚢切開装置。
【請求項3】
前記超弾性ワイヤがニッケルチタン合金から形成される、請求項1に記載の嚢切開装置。
【請求項4】
前記ループが、眼の水晶体前嚢に対して設置されるための下面と、該下面とは反対側の上面とを有し、且つ、前記抵抗加熱要素が、少なくとも前記上面には配置されるが前記下面には存在しない断熱層を更に含む、請求項1に記載の嚢切開装置。
【請求項5】
前記超弾性ワイヤが少なくともほぼループ全体の周りにおいて長方形断面を有し、且つ、前記断熱層が、少なくともほぼループ全体の周りにおいて、前記超弾性ワイヤの三つの側面上に配置される、請求項1に記載の嚢切開装置。
【請求項6】
嚢切開装置を使用するための方法であって、
眼の前房内に又は眼の前房の近くにチューブ状挿入カートリッジの一方の端部を定置するステップであって、該チューブ状挿入カートリッジが抵抗加熱要素を収容し、該抵抗加熱要素が電気抵抗の超弾性ワイヤを具備し、該超弾性ワイヤが第1端部及び第2端部を有し、該超弾性ワイヤがループを含むように形成され、且つ、該超弾性ワイヤが、前記第1端部及び第2端部がリード区域を形成すべく近接し且つ前記ループから離れて延在するように形成される、ステップと、
前記リード区域の少なくとも一部分と堅く係合するハンドルを使用して前記チューブ状挿入カートリッジから前記前房内に前記抵抗加熱要素のループを押し出すステップと、
該押し出されたループを前記眼の水晶体前嚢に接触させて定置し、且つ、前記押し出されたループに沿って前記水晶体嚢を焼くために前記抵抗加熱要素を電気的に加熱するステップと、
前記抵抗加熱要素のループを、前記眼から取り除く前に、前記チューブ状挿入カートリッジ内に格納するステップと
を含む、方法。
【請求項7】
前記押し出されたループを前記眼の水晶体前嚢に接触させて定置することは、所望の接触力に対応した予め定められた角度とほぼ等しい作動角度に前記ループと前記ハンドルとの間の前記リード区域の一部分が曲げられるように前記押し出されたループを前記水晶体前嚢に接触させて定置することを含む、請求項6に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−505067(P2012−505067A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532122(P2011−532122)
【出願日】平成21年9月22日(2009.9.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/057836
【国際公開番号】WO2010/044988
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(508185074)アルコン リサーチ, リミテッド (160)