可視スペクトル用の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子
【課題】
埋め込まれた、または封入されたときに最適に機能するワイヤ・グリッド偏光子が必要とされている。さらに、特に広い波長帯域幅を必要とする可視光システムで使用される、上記のようなワイヤ・グリッド偏光子が必要とされている。
【解決手段】
可視スペクトル用の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子(10)は、第1および第2の層(1、3)の間に挟まれた平行に離間した細長い要素(5)のアレイを含む。要素は、第1の層の屈折率より低い屈折率を提供する複数のギャップ(7)を要素間に形成する。要素と第1および/または第2の層との間に、これらの層の屈折率より低い屈折率を提供する領域を設けることができる。これらの領域は、膜層で形成することも、層に形成したリブ/溝で形成することもできる。
埋め込まれた、または封入されたときに最適に機能するワイヤ・グリッド偏光子が必要とされている。さらに、特に広い波長帯域幅を必要とする可視光システムで使用される、上記のようなワイヤ・グリッド偏光子が必要とされている。
【解決手段】
可視スペクトル用の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子(10)は、第1および第2の層(1、3)の間に挟まれた平行に離間した細長い要素(5)のアレイを含む。要素は、第1の層の屈折率より低い屈折率を提供する複数のギャップ(7)を要素間に形成する。要素と第1および/または第2の層との間に、これらの層の屈折率より低い屈折率を提供する領域を設けることができる。これらの領域は、膜層で形成することも、層に形成したリブ/溝で形成することもできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明は、電磁スペクトルの可視部分で使用される偏光光学素子に関する。特に、本発明は、特定の偏光を効率的に透過させながら、その直交偏光を効率的に反射する、埋込みまたは沈埋型ワイヤ・グリッド偏光子に関する。
【背景技術】
【0002】
2.従来技術
ワイヤ・グリッド偏光子は波長に敏感な光学デバイスであるので、1より大きな屈折率を有する材料または媒体中に偏光子を埋め込むと、この偏光子の性能は、同じ構造で空気中で利用可能な偏光子より、常に変動することになる。通常は、この変動により偏光子は所期の適用業務に適さなくなる。しかし、偏光子を埋め込むことには、その他の光学的な利点がある。例えば、偏光子を埋め込むと、その他の有利な光学的特性を得ることができ、偏光子自体の性能、すなわち偏光には悪影響があるが、偏光子を保護することができる。したがって、このような埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の最適な性能を得ることが望ましい。
【0003】
ワイヤ・グリッドは、通常はガラスなどの基板の外側表面上に配置される。ワイヤ・グリッドには、基板材料、すなわちガラス中に完全に封入されているものもある。例えば、1940年12月10日にBrownに発行された米国特許第2,224,214号には、ワイヤの周りに詰めた粉末状ガラスを溶融させ、次いでそのガラスおよびワイヤを引き伸ばすことによって偏光子を形成することが開示されている。同様に、1981年9月15日にGarvin他に発行された米国特許第4,289,381号には、基板上に金属被覆層を堆積させてグリッドを形成し、次いでそのグリッドを覆うように基板材料を堆積させることによって偏光子を形成することが開示されている。いずれの場合も、ワイヤまたはグリッドは基板と同じ材料で取り囲まれている。上述のように、このようにワイヤまたはグリッドを封入することは、グリッドの光学性能に悪影響を与える。
【0004】
1998年5月5日にTamada他に発行された米国特許第5,748,368号には、基板上に配置されたグリッド、およびグリッドを覆うように配置された光学くさびガラス板を有する狭帯域幅偏光子が開示されている。これらの素子の上には、基板と同じ屈折率を有するように整合された整合オイルも塗布されている。したがって、整合オイルが同じ屈折率を有することから、グリッドは実質的に基板すなわちガラス中に封入されることになる。この場合もやはり、このようにグリッドを封入することで、グリッドの光学性能には悪影響がある。
【0005】
平行な導電性ワイヤのアレイを使用して電波を偏波させることは、110年以上も前から行われている。一般に透明基板によって支持された薄い平行導体のアレイの形態をしたワイヤ・グリッドも、電磁スペクトルの赤外部分のための偏光子として使用されている。
【0006】
出願人の以前の出願に記載のように、ワイヤ・グリッド偏光子の性能を決定する重要な要素は、平行なグリッド要素の中心間間隔すなわち周期と入射放射の波長との関係である。グリッド間隔すなわち周期が波長より長い場合には、グリッドは、偏光子としてではなく回折格子として機能し、周知の原理に従ってどちらの偏光も回折する(必ずしも等しい効率ではない)。グリッド間隔すなわち周期が波長よりはるかに短いときには、グリッドは、グリッド要素と平行に偏光した電磁放射を反射し、その直交偏光の放射を透過させる偏光子として機能する。
【0007】
グリッド周期が波長のほぼ2分の1から2倍の範囲となる遷移領域の特徴は、グリッドの透過および反射の特性が急激に変化することである。特に、グリッド要素に対して直角に偏光した光の反射率の急激な増大、およびそれに対応した透過率の低下が、任意の所与の入射角で1つまたは複数の特定の波長で起こることになる。こうした影響は、1902年にWoodによって最初に報告され(Philosophical Magazine、1902年9月)、しばしば「Wood異常」と呼ばれる。その後、レイリーがウッドのデータを解析し、これらの異常がより高い回折次数が現れる波長と角度の組合せで起こることを発見した(Philosophical Magazine、vol.14(79)、60から65ページ、1907年7月)。レイリーは、異常(この文献では一般に「レイリー共鳴」とも呼んでいる)の位置を予測する方程式を編み出した。
【0008】
この角度依存の影響は、角度が増大するにつれて透過領域をより波長の長い領域にシフトさせるものである。これは、偏光子を偏光ビーム・スプリッタまたは偏光反射ミラーとして使用しようとするときに重要となる。
【0009】
ワイヤ・グリッド偏光子は、基板によって支持された複数の平行導電性電極で構成される。このようなデバイスは、導体のピッチまたは周期、個々の導体の幅、および導体の厚さによって特徴付けられる。光源が発生させた光ビームは、法線に対して角度θをなして偏光子に入射し、その入射面は導電性要素に対して直交している。ワイヤ・グリッド偏光子は、このビームを、鏡面反射成分と非回折透過成分とに分割する。最長の共鳴波長より波長が短い場合には、少なくとも1つのより高次の回折成分も存在することになる。S偏光およびP偏光の通常の定義を使用すると、S偏光状態の光は入射面に対して直交する偏光ベクトルを有し、したがって導電性要素に対して平行となる。逆に、P偏光状態の光は入射面に対して平行な偏光ベクトルを有し、したがって導電性要素に対して直交する。
【0010】
一般に、ワイヤ・グリッド偏光子は、グリッドのワイヤに平行な電界ベクトルを有する光を反射し、グリッドのワイヤに垂直な電界ベクトルを有する光を透過することになるが、ここで述べたように、入射面はグリッドのワイヤに対して直交していても直交していなくてもよい。
【0011】
ワイヤ・グリッド偏光子は、S偏光など一方の偏光に対しては完璧なミラーとして機能し、P偏光など他方の偏光に対しては完全に透過性となることが理想である。しかし、実際には、ミラーとして使用される最も反射性の高い金属でも、入射光の一部を吸収してしまい、90%から95%しか反射せず、平らなガラスは、表面反射により入射光を100%は透過しない。
【0012】
出願人の以前の出願には、P偏光についてのみ偏光子の特性に大きな影響を与える2つの共鳴があるワイヤ・グリッド偏光子の透過および反射が示されている。S方向に偏光した入射光については、偏光子の性能は理想的なものに近い。S偏光についての反射効率は、0.4μmから0.7μmの可視スペクトル全域にわたって90%超である。この波長帯域では、透過するS偏光は2.5%未満であり、残りは吸収される。このわずかな透過成分を除けば、ワイヤ・グリッド偏光子のS偏光についての特性は連続アルミニウム・ミラーのそれに非常に類似している。
【0013】
P偏光については、ワイヤ・グリッドの透過効率および反射効率は、約0.5μm未満の波長では、共鳴効果によって左右される。0.5μmより長い波長では、ワイヤ・グリッド構造は、P偏光に対して損失の大きな誘電体層として機能する。この層における損失と表面での反射とが組み合わさって、P偏光の透過を制限する。
【0014】
出願人の以前の出願には、Tamadaによる米国特許第5,748,368号に記載の別のタイプの従来技術のワイヤ・グリッド偏光子の算出性能も示されている。上述のように、グリッドを一定屈折率の媒体で取り囲むように、2つの基板の間で屈折率整合流体を使用している。このワイヤ・グリッド構造は、波長約0.52μmで単一の共鳴を示す。P偏光の反射率が極めてゼロに近くなる、0.58から0.62μmまでの狭い波長領域が存在する。米国特許第5,748,368号には、この効果を利用して、高い消光比を有する狭帯域ワイヤ・グリッド偏光子を実現するワイヤ・グリッド偏光子が記載されている。Tamadaの特許明細書で与えられている例では、550nmのグリッド周期を使用し、グリッドの厚さ、導体の幅および形状、ならびに入射角に応じて800から950nmの共鳴波長を生成していた。Tamadaが利用した共鳴効果は、その位置を上記で述べた共鳴とは異なる。2つの共鳴は一致していてもよいが、必ずしも一致する必要があるわけではない。Tamadaは、この第2の共鳴を利用している。さらに、薄膜干渉効果の影響が出ることもある。直交偏光に対する反射率が数パーセント未満となる偏光子の帯域幅は、通常は中心波長の5%である。このタイプの狭帯域偏光子にもいくつかの適用分野があるが、液晶ディスプレイなど多くの可視光システムは、400nmから700nmの可視スペクトルの波長にわたって一様な特性を有する偏光光学素子を必要としている。
【0015】
出願人の以前の出願に記載のように、広帯域偏光子の必要要件は、最長波長共鳴点を所期の使用スペクトルより短い波長に抑制またはシフトしなければならないことである。最長波長共鳴点の波長は、3通りの方法で低下させることができる。第1に、グリッド周期を縮小することができる。ただし、グリッド周期を縮小すると、特に反射偏光の適当な反射率を保証するためにグリッド要素の厚さを維持しなければならないので、グリッド構造の作製難度が高くなる。第2に、入射角を法線方向に近い入射に制限することができる。ただし、入射角を制限すると、偏光子デバイスの可用性が大幅に低下し、45度を中心とする広い角度帯域幅が望ましい投射液晶ディスプレイなど、応用分野で使用できなくなる。第3に、基板の屈折率を低下させることもできる。ただし、偏光子デバイスの大量生産に利用できる対費用効果の高い基板は、Corningタイプ1737FやSchottタイプAF45など数種類の薄いガラス・シートだけであり、これらは全て、可視スペクトルにわたって1.5から1.53の間で変化する屈折率を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、埋め込まれた、または封入されたときに最適に機能するワイヤ・グリッド偏光子が必要とされている。さらに、特に広い波長帯域幅を必要とする可視光システムで使用される、上記のようなワイヤ・グリッド偏光子が必要とされている。さらに、最長波長共鳴点を解消する、またはより短い波長にシフトさせることができる、このような偏光子構造が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明の目的および概要
本発明の目的は、可視スペクトル全域にわたって高い透過および反射の効率を提供することができる埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子を提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、広範囲の入射角にわたって使用されるときに上記のような高い効率を提供することができる上記のような埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子を提供することである。
【0019】
本発明の以上その他の目的および利点は、第1の層と第2の層の間に挟まれた平行に離間した細長い要素のアレイを含む埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子において実現される。これらの要素は、各要素の間に複数のギャップを形成し、これらのギャップが、第1または第2の層の屈折率より低い屈折率を提供する。これらのギャップは空気を含むか、または真空であることが好ましい。
【0020】
この要素アレイは、可視スペクトルの光の電磁波と相互作用して、一般に第1の偏光状態の光の大部分を反射し、第2の偏光状態の光の大部分を透過するように構成される。これらの要素は、0.3ミクロン未満の周期および0.15ミクロン未満の幅を有することが好ましい。
【0021】
本発明の一態様によれば、偏光子は、素子と第1および/または第2の層との間に、これらの層の屈折率より低い屈折率を提供する領域を有するので有利である。第1および/または第2の層の各素子の間に、より低い屈折率を提供する複数の溝を形成することができる。第1および/または第2の層と素子との間に、層の屈折率より低い屈折率を有する膜を配置することができる。
【0022】
本発明の別の態様によれば、素子と第1および/または第2の層の間に配置することができる膜または溝は、偏光子の性能をさらに向上させるために使用することができる光学薄膜効果を提供する。この向上は、これらの膜または溝の厚さおよび/または数および/または光学特性を、所望の偏光子全体の性能に到達するまで適切に調節することによって得ることができる。
【0023】
本発明の別の態様によれば、要素は、立方体中に配置し、その立方体表面の少なくとも1つに対して斜めになるように配向することができる。別法として、要素は、一対の透明板の間に配置し、これらと平行になるように配向することもできる。
【0024】
本発明の別の態様によれば、アレイは、可視光スペクトル内で一方または両方の層と組み合わさって通常なら共鳴効果を生じる構成を有することができ、要素もまた、そのようなサイズを有することができる。一方または両方の層の屈折率より低い屈折率を有するギャップならびに/あるいは膜および/または溝は、通常通り起こる共鳴効果をより低い波長にシフトさせるので有利である。したがって、共鳴効果が起こらない可視波長の帯域が広くなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の好ましい実施形態の断面図である。
【図2】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の代替実施形態の断面図である。
【図3】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の代替実施形態の断面図である。
【図4】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の代替実施形態の断面図である。
【図5】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の代替実施形態の断面図である。
【図6】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の代替実施形態の断面図である。
【図7】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の代替実施形態の断面図である。
【図8】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の代替実施形態の断面図である。
【図9】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の代替実施形態の断面図である。
【図10】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子を組み込んだ立方体の側面図である。
【図11】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子を組み込んだ一対のガラス板の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の以上その他の目的、特徴、利点および代替態様は、以下の詳細な説明を添付の図面と合わせて考慮すれば、当業者には明らかになるであろう。
発明の詳細な説明
次に、本発明の様々な要素に参照番号を付け、当業者が本発明を作製および使用することができるように本発明について述べた図面を参照する。
【0027】
図1に示すように、本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の好ましい実施形態を一般に10で示す。偏光子10は、第1の光学媒体、材料、層または基板1と、第2の光学媒体、材料または層3と、第1の層1と第2の層3の間に挟まれた複数の介在する細長要素5とを含む。上記で示したように、要素を封入する、または埋め込むことによってある一定の利点は得られるが、要素の偏光または性能は悪影響を受ける。したがって、以下で述べるように、本発明の偏光子10は、埋め込まれたときに性能を最適にするように設計される。
【0028】
第1の層1の第1の表面2および第2の層3の第2の表面4は、互いに、かつ要素5に向き合っている。層1および3、またはこれらの層の材料はそれぞれ、第1および第2の屈折率を有する。第1の光学媒体1および第2の光学媒体3はそれぞれ厚さtL1およびtL2を有し、光学的に厚いと考えられる。これらは、例えば、ガラスまたは高分子のシート、光学品質オイルまたはその他の流体、あるいはその他同様の光学材料にすることができる。厚さtL1またはtL2は、数ミクロンからほぼ無限大までの範囲のどの値でもよい。層1および3の厚さtL1およびtL2は、1ミクロンより大きいことが好ましい。光学媒体1および3は、2枚のガラス・シートなど同じ材料にすることもできるし、材料3をオイルにして材料1をガラスにするなど、異なる材料から選択することもできる。要素5は、第1の層または基板1によって支持することができる。
【0029】
介在する要素5のアレイは、複数の平行に離間した細長い導電性要素5を含む。要素5は、第1および第2の対向する表面5aおよび5bを有し、第1の表面5aは第1の表面2すなわち第1の層1の方向に向き、第2の表面5bは第2の表面4すなわち第2の層3の方向に向いている。図1に示すように、要素5の第1の表面5aは、第1の層1の第1の表面2と接触し、これと結合することができ、第2の表面5bは第2の層3の第2の表面4と接触し、これと結合することができる。要素5のアレイは、可視スペクトルの光の電磁波と相互作用して、一般に第1の偏光状態の光の大部分を反射し、第2の偏光状態の光の大部分を透過するように構成される。
【0030】
要素5の寸法および要素5の配列の寸法は、使用する波長によって決定され、広いまたは完全なスペクトルの可視光に合わせて調整される。要素5は、比較的長く、かつ薄い。各要素5は、一般に可視光の波長より長い長さを有することが好ましい。したがって、要素5は、少なくとも約0.7μm(マイクロメータまたはミクロン)の長さを有する。ただし、通常の長さは、これよりはるかに長くなることもある。さらに、要素5は、光の波長より短い要素間隔、ピッチまたは周期Pで、一般に平行な配列で位置付けられる。したがって、ピッチは0.4μm(マイクロメータまたはミクロン)未満となる。
【0031】
要素5の周期、ならびに光学媒体1および3の材料の選択は全て、光線9、11および13との所望の相互作用が得られ、かつその相互作用を向上させるように行われる。光線9は、通常は、当技術分野ではS偏光およびP偏光と呼ばれるほぼ等しい量の2つの偏光を含む非偏光ビームである。ただし、特定の適用分野では、光線9も、部分的にまたは大部分がいずれかの偏光状態となるように改変することができる。要素5の周期Pは、ワイヤ・グリッドがS偏光11の光の大部分を鏡面反射し、P偏光13の大部分を透過するように選択される。光学材料も、このプロセスの助けとなるように選択される。例えば、S偏光を吸収する、またはその他の方法でP偏光の透過およびS偏光の反射を助ける光学材料3を選択しながら、光学材料1はS偏光およびP偏光の両方に対して透過性が等しくなるように選択することができる。好ましい実施形態では、層1および3を構成する光学材料はガラスである。特定の適用分野によっては、その他の材料も適している。
【0032】
介在する細長要素5はそれほど長くはない。これらは、通常は、0.3μm程度またはそれ未満の周期Pを有し、リブ5の幅wRおよび要素を分離する間隔またはギャップ7の幅wSを0.15μm程度またはそれ未満にした、規則正しく整然としたアレイとして配列されることになる。要素5および間隔7の幅は、所望の光学性能効果を達成するように変化させることができるが、これについては以下でさらに述べる。これらの要素5の高さまたは厚さtRは、通常は、要素が光学的に不透明になるのに必要な高さ(アルミニウムの場合は約40nm)から、おそらくは1μmの高さまでとなる。上限は、製造の実現性ならびに光学性能を考慮して設定される。好ましい実施形態では、偏光子を可視スペクトル全体にわたって使用する場合には、要素5は、通常はアルミニウムや銀などの材料で構成される。ただし、特定の場合に、赤色光などスペクトルの一部で機能する偏光子を提供しさえすればよい場合には、銅や金などその他の材料を使用することもできる。
【0033】
埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子10の最適な性能を得るための重要な要素は、間隔またはギャップ7内に配置する材料である。要素5の間に形成されたギャップ7は、第1の層1など、層1および3の少なくとも一方の屈折率より低い屈折率を提供するので有利である。出願人は、ギャップ7がより低い屈折率を提供するときに、一定屈折率の材料中にワイヤ・グリッドを完全に封入した場合より偏光子10の性能が改善されることを発見した。好ましい実施形態では、この材料は空気または真空であるが、特定の適用分野では、実現性または性能上の理由から、その他の材料が使用されることがある。この材料は、製造性などその他の必要な設計上の制約を満たしながら、可能な限り低い屈折率nを有することが望ましい。こうしたその他の制約により、細長要素5の間の間隔7を満たす材料が光学材料1および3のいずれかまたは両方を構成する材料と同じ材料であることが必要となることがある。あるいは、細長要素5の間の間隔7を満たす材料は、光学材料1および3とは異なる材料となるように選択されることもある。上述のように、好ましい実施形態では、間隔7中の材料は空気または真空となる。使用可能なその他の材料としては、水(屈折率1.33)、蒸着、スパッタリングまたはその他の様々な化学蒸着プロセスを用いて堆積することができるフッ化マグネシウム(屈折率1.38)またはその他一般的な光学薄膜材料、光学オイル、ナフサやトルエンなどの液体炭化水素、あるいは適当な低い屈折率を有するその他の材料が挙げられる。
【0034】
上述の好ましい実施形態の他に、特定の目的のために特定の実施形態で実施することができるいくつかの改良形態がある。これらの改良形態は、要素5と第1および/または第2の層1および3との間に、これらの層の一方の屈折率より低い屈折率を与える領域を設けることを含む。図2から図9を参照すると、要素5の第1の表面5aは、第1の表面5aを横切って延びる第1の仮想平面16を画定している。同様に、要素5の第2の表面5bは、第2の表面5bを横切って延びる第2の仮想平面17を画定している。第1の領域18は、要素5の第1の表面5aを横切って延びる第1の仮想平面16と、第1の層1の屈折率より低い屈折率を含むまたは提供する第1の層1の第1の表面2の間に配置することができる。同様に、第2の領域19は、要素5の第2の表面5bを横切って延びる第2の仮想平面17と、第2の層3の屈折率より低い屈折率を含むまたは提供する第2の層3の第2の表面4の間に配置することができる。
【0035】
次に図2を参照すると、1つのこのような改良は、各細長要素の間に、光学媒体(1および/または3)の片側または反対側に延びる溝21を設けることである。これらの溝21は、製作過程中に反応性イオン・エッチングなどのプロセスによって形成することができる。溝21の深さdは、適切な性能を得るために重要である。所望の光の帯域幅、透過率、消光などに応じて、溝の深さdが約1nmから3000nmまで変化することを期待することができる。
【0036】
通常は、溝21の幅wgは、細長要素5の間隔と同じとなる。しかし、実際の製作プロセスおよび問題では、この幅が細長要素5の間の幅wSよりもある程度細くなることが期待することができる。本発明は、将来の技術の進歩により、細長要素5の間の間隔7とは異なる幅に溝を作製することが実用化されることも見込んでいる。図3は、底部溝21の他に上部溝25を追加することによる概念の拡張を示す。これらの溝の目的は、基本光学材料1および3の光の屈折率より低い、有効な光の屈折率を生み出すことである。細長要素5の近くの領域18および19の低い光の屈折率は、埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の性能をさらに向上させる。図2および図3の溝は長方形として示してあるが、これが唯一の有用な、または望ましい形状であることを表すものではない。実際には、製造プロセスでは、完全な長方形ではなく台形形状(図4の21a)にする可能性が高く、V字型の溝(図5の21b)を使用することもできる。
【0037】
図6は、それを配置する光学材料3より低い光の屈折率を有する材料の薄膜31を追加することによって細長要素5の近くの領域19の低い光の屈折率の利点を得る、代替の方法を示す。この膜は、通常は1.0から1.7の間の光の屈折率nを有することになる。また、通常は10nmから5000nmの間の厚さtLを有することになる。好ましい材料はフッ化マグネシウムであるが、その他の一般的な誘電体光学材料も様々な適用分野で適している。図面にはただ1つの層しか示してないが、単一層の光学膜以外は不可能であると考えるべきではない。適用分野の要件に応じて、複数層の薄い光学膜を設けると有利である。また、図7に示すように、細長要素5の上部だけではなく底部にも、1層または複数層の低屈折率膜35を導入することができる。
【0038】
図8は、図2および図6に示す概念の組合せにおいて薄膜材料をエッチングした、本発明のさらに別の改良形態を示す。光学材料の残りのリブ41は、それが配置される光学材料3より低い光の屈折率を有することができる材料で構成される。あるいは、支持光学材料3より大幅に低い屈折率は持たないが、エッチングのし易さなど、製造の際に助けとなるその他の特性を有する材料も好ましいことがある。1つの好ましいリブ41の材料は、フッ化マグネシウムである。その他の好ましい材料としては、高分子材料や二酸化ケイ素が挙げられる。これらは両方とも多くの技術を使用して容易にエッチングすることができる。この場合も、膜中でエッチングされたリブは、要素のどちら側にも形成することができる。
【0039】
図9は、複数の薄膜を準備し、完全または部分的にエッチングした、本発明のさらに別の改良形態を示す。光学材料のリブ41は、上述のものと同じである。光学膜51は、光学材料1より低い屈折率、およびエッチングおよびパターン形成の容易さの一方または両方を有するように選択される。光学膜51にエッチングした溝55は、膜全体にわたって、また場合によってはその下の光学材料1中までエッチングすることができ、あるいは図示のように中間点で止めることもできる。図示のように溝55を止めた場合、偏光子の性能を全体として同調する際に有利になることがある二重層光学薄膜スタックを生じる効果がある。光学膜51の厚さtFは、通常は約10nmから5000nmの間となる。膜51を構成する光学材料の屈折率は、通常は1.0から1.7の間となるが、異常な状況ではさらに高い屈折率が有益であることがある。膜51にエッチングした溝55は、通常は細長要素5の間の間隔7にほぼ等しい幅を有することになるが、その他の様々な厚さの値ももちろん可能であり、適用分野の必要によってはそれらが好ましいこともある。この場合も、上述のように、溝55は長方形として示してあるが、台形またはV字型にすることもでき、その場合でもかなりの利点を提供する。
【0040】
さらに、要素5と第1の層1および/または第2の層3との間に配置することができる膜または溝も、偏光子10の性能をさらに向上させるために使用することができる光学薄膜効果を提供する。この向上は、偏光子10の所望の全体的性能に達するようにこれらの膜または溝の厚さおよび/または数および/または光学特性を適切に調節することによって得ることができる。
【0041】
上記の本発明は、多くの光学的適用分野で使用することができる。例えば、図10に示すように、埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子は、偏光ビーム・スプリッタ・キューブ100中で使用することができる。このキューブは、一般的なMacNeille型プリズムと同様に機能するが、いくつかの利点がある。このワイヤ・グリッド偏光子は、MacNeille型プリズムより広い開口角を有し、またキューブの中央で偏光界面61に入射する円錐形の光線が合成角によって最もよく記述される開口のコーナでの性能がはるかに改善されている。埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子を含む偏光界面61は、光ビーム63のS偏光65の大部分を反射し、P偏光67の大部分を透過する。この界面61は、上述の改良点のうち任意のいくつかまたは全てを含むことができる。このようにして、埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子は、MacNeille型偏光キューブ・ビーム・スプリッタに優るいくつかの性能上の利点を有する代替の偏光キューブ・ビーム・スプリッタを生み出す。
【0042】
この埋込み型偏光子は、図11に示すような平板形態110でも使用することができる。この実施形態は、通常は、図示のように、埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子を含む偏光界面71を取り囲むガラス板79および81からなる。この界面71は、上述の改良点のうち任意のいくつかまたは全てを含むことができる。偏光子は、反対の偏光を有する光ビーム75を鏡面角で反射することにより、第1のガラス板79に入射する光ビームを偏光する働きをする。これらの光ビーム73、75および77は、垂直入射として示してあるが、これは単なる便宜的なものである。この場合も、埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子は、大きな開口角を有し、様々な角度で入射してくる光ビームに対して機能する。
【0043】
帯域幅の広いワイヤ・グリッド偏光子が、参照により本明細書に組み込む出願人の米国特許出願第09/337,970号に記載されている。この偏光子も、屈折率が低く厚さが制御された領域によって支持基板から分離された平行な導電性要素のアレイを含む。ワイヤ・グリッドを基板から分離する低屈折率領域は、偏光子デバイス中で2つの役割を果たす。第1に、低い屈折率が存在することにより、最長波長共鳴点がより短い波長にシフトする。第2に、低屈折領域は、P偏光の偏光子によって反射される部分を減少させるように厚さの制御された1つまたは複数の層として実装することができる。
【0044】
所与の入射角に対して共鳴が起こる最長波長を低下させる1つの方法は、周期を減少させることである。しかし、周期を減少させると、製造上の難点が生じる。したがって、ピッチPを光の波長の約2分の1、すなわち約0.2μmにすると好ましい。この場合も、より長い周期(光の波長の約2倍すなわち1.4μm超)を有するグリッドは回折格子として動作し、より短い周期(光の波長の約半分すなわち0.2μm未満)を有するグリッドは偏光子として動作し、遷移領域(約0.2から1.4μmの間)の周期を有するグリッドも回折格子として動作し、かつ急激な変化または共鳴と呼ばれる異常を特徴とすることに留意されたい。上記で示したように、可視スペクトルの範囲内で共鳴を特徴とする従来技術のデバイスは、可視スペクトル内の様々な波長で起こる異常により、狭い動作範囲を有する。この遷移領域は、ワイヤ・グリッドの挙動を理解する上で重要な概念である。帯域幅の広い偏光子は、所期の用途のスペクトルにわたって広帯域幅性能を得るために、必ずこの遷移領域の外側にとどまるように設計しなければならない。したがって、この遷移領域の境界は、本発明のワイヤ・グリッドの周期の上限を規定する上で有用である。
【0045】
溝、リブまたは膜層は、ある高さすなわち厚さを有し、要素と各層との間に配置される領域を画定する。溝、リブまたは膜層によって生み出された領域は、層の屈折率より大幅に低い平均屈折率を有するので有利である。この領域は、リブの高さすなわち厚さ、溝の深さ、または膜の厚さによって規定される厚さを有する。この領域の高さすなわち厚さを変えて、偏光子の性能を調節することができる。出願人の以前の出願でより完全に論じられているように、要素を層から分離し、層より低い屈折率を有する領域をその間に挿置することにより、より短い波長で偏光子のP偏光透過効率が向上する、偏光子が有効になる最小波長が低くなる、または最高共鳴点がより短い波長にシフトするので有利である。
【0046】
要素5のアレイは、一定比率で図示したものではなく、分かりやすくするためにかなり誇張してあることに留意されたい。実際には、要素の配列は、裸眼では見ることができず、大きく拡大せずに観察すると一部が鏡面になった表面として見える。
【0047】
上述の本発明の実施形態は、単なる例示的なものであり、当業者ならその修正形態を思いつくことができることを理解されたい。さらに、本発明の主な特典は、可視スペクトルにおける埋込み型偏光子の性能を改善することであるが、本発明は、赤外線などその他のスペクトル領域で使用される偏光子デバイスの透過性を改善するために使用することもできる。本発明によって達成された従来技術に優る設計の柔軟性における大幅な向上により、当業者ならその他の変更も確実に思いつくであろう。したがって、本発明は、開示の実施形態に限定されるものと見なすべきでなく、添付の特許請求の範囲の定義によってのみ限定されるものとする。
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明は、電磁スペクトルの可視部分で使用される偏光光学素子に関する。特に、本発明は、特定の偏光を効率的に透過させながら、その直交偏光を効率的に反射する、埋込みまたは沈埋型ワイヤ・グリッド偏光子に関する。
【背景技術】
【0002】
2.従来技術
ワイヤ・グリッド偏光子は波長に敏感な光学デバイスであるので、1より大きな屈折率を有する材料または媒体中に偏光子を埋め込むと、この偏光子の性能は、同じ構造で空気中で利用可能な偏光子より、常に変動することになる。通常は、この変動により偏光子は所期の適用業務に適さなくなる。しかし、偏光子を埋め込むことには、その他の光学的な利点がある。例えば、偏光子を埋め込むと、その他の有利な光学的特性を得ることができ、偏光子自体の性能、すなわち偏光には悪影響があるが、偏光子を保護することができる。したがって、このような埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の最適な性能を得ることが望ましい。
【0003】
ワイヤ・グリッドは、通常はガラスなどの基板の外側表面上に配置される。ワイヤ・グリッドには、基板材料、すなわちガラス中に完全に封入されているものもある。例えば、1940年12月10日にBrownに発行された米国特許第2,224,214号には、ワイヤの周りに詰めた粉末状ガラスを溶融させ、次いでそのガラスおよびワイヤを引き伸ばすことによって偏光子を形成することが開示されている。同様に、1981年9月15日にGarvin他に発行された米国特許第4,289,381号には、基板上に金属被覆層を堆積させてグリッドを形成し、次いでそのグリッドを覆うように基板材料を堆積させることによって偏光子を形成することが開示されている。いずれの場合も、ワイヤまたはグリッドは基板と同じ材料で取り囲まれている。上述のように、このようにワイヤまたはグリッドを封入することは、グリッドの光学性能に悪影響を与える。
【0004】
1998年5月5日にTamada他に発行された米国特許第5,748,368号には、基板上に配置されたグリッド、およびグリッドを覆うように配置された光学くさびガラス板を有する狭帯域幅偏光子が開示されている。これらの素子の上には、基板と同じ屈折率を有するように整合された整合オイルも塗布されている。したがって、整合オイルが同じ屈折率を有することから、グリッドは実質的に基板すなわちガラス中に封入されることになる。この場合もやはり、このようにグリッドを封入することで、グリッドの光学性能には悪影響がある。
【0005】
平行な導電性ワイヤのアレイを使用して電波を偏波させることは、110年以上も前から行われている。一般に透明基板によって支持された薄い平行導体のアレイの形態をしたワイヤ・グリッドも、電磁スペクトルの赤外部分のための偏光子として使用されている。
【0006】
出願人の以前の出願に記載のように、ワイヤ・グリッド偏光子の性能を決定する重要な要素は、平行なグリッド要素の中心間間隔すなわち周期と入射放射の波長との関係である。グリッド間隔すなわち周期が波長より長い場合には、グリッドは、偏光子としてではなく回折格子として機能し、周知の原理に従ってどちらの偏光も回折する(必ずしも等しい効率ではない)。グリッド間隔すなわち周期が波長よりはるかに短いときには、グリッドは、グリッド要素と平行に偏光した電磁放射を反射し、その直交偏光の放射を透過させる偏光子として機能する。
【0007】
グリッド周期が波長のほぼ2分の1から2倍の範囲となる遷移領域の特徴は、グリッドの透過および反射の特性が急激に変化することである。特に、グリッド要素に対して直角に偏光した光の反射率の急激な増大、およびそれに対応した透過率の低下が、任意の所与の入射角で1つまたは複数の特定の波長で起こることになる。こうした影響は、1902年にWoodによって最初に報告され(Philosophical Magazine、1902年9月)、しばしば「Wood異常」と呼ばれる。その後、レイリーがウッドのデータを解析し、これらの異常がより高い回折次数が現れる波長と角度の組合せで起こることを発見した(Philosophical Magazine、vol.14(79)、60から65ページ、1907年7月)。レイリーは、異常(この文献では一般に「レイリー共鳴」とも呼んでいる)の位置を予測する方程式を編み出した。
【0008】
この角度依存の影響は、角度が増大するにつれて透過領域をより波長の長い領域にシフトさせるものである。これは、偏光子を偏光ビーム・スプリッタまたは偏光反射ミラーとして使用しようとするときに重要となる。
【0009】
ワイヤ・グリッド偏光子は、基板によって支持された複数の平行導電性電極で構成される。このようなデバイスは、導体のピッチまたは周期、個々の導体の幅、および導体の厚さによって特徴付けられる。光源が発生させた光ビームは、法線に対して角度θをなして偏光子に入射し、その入射面は導電性要素に対して直交している。ワイヤ・グリッド偏光子は、このビームを、鏡面反射成分と非回折透過成分とに分割する。最長の共鳴波長より波長が短い場合には、少なくとも1つのより高次の回折成分も存在することになる。S偏光およびP偏光の通常の定義を使用すると、S偏光状態の光は入射面に対して直交する偏光ベクトルを有し、したがって導電性要素に対して平行となる。逆に、P偏光状態の光は入射面に対して平行な偏光ベクトルを有し、したがって導電性要素に対して直交する。
【0010】
一般に、ワイヤ・グリッド偏光子は、グリッドのワイヤに平行な電界ベクトルを有する光を反射し、グリッドのワイヤに垂直な電界ベクトルを有する光を透過することになるが、ここで述べたように、入射面はグリッドのワイヤに対して直交していても直交していなくてもよい。
【0011】
ワイヤ・グリッド偏光子は、S偏光など一方の偏光に対しては完璧なミラーとして機能し、P偏光など他方の偏光に対しては完全に透過性となることが理想である。しかし、実際には、ミラーとして使用される最も反射性の高い金属でも、入射光の一部を吸収してしまい、90%から95%しか反射せず、平らなガラスは、表面反射により入射光を100%は透過しない。
【0012】
出願人の以前の出願には、P偏光についてのみ偏光子の特性に大きな影響を与える2つの共鳴があるワイヤ・グリッド偏光子の透過および反射が示されている。S方向に偏光した入射光については、偏光子の性能は理想的なものに近い。S偏光についての反射効率は、0.4μmから0.7μmの可視スペクトル全域にわたって90%超である。この波長帯域では、透過するS偏光は2.5%未満であり、残りは吸収される。このわずかな透過成分を除けば、ワイヤ・グリッド偏光子のS偏光についての特性は連続アルミニウム・ミラーのそれに非常に類似している。
【0013】
P偏光については、ワイヤ・グリッドの透過効率および反射効率は、約0.5μm未満の波長では、共鳴効果によって左右される。0.5μmより長い波長では、ワイヤ・グリッド構造は、P偏光に対して損失の大きな誘電体層として機能する。この層における損失と表面での反射とが組み合わさって、P偏光の透過を制限する。
【0014】
出願人の以前の出願には、Tamadaによる米国特許第5,748,368号に記載の別のタイプの従来技術のワイヤ・グリッド偏光子の算出性能も示されている。上述のように、グリッドを一定屈折率の媒体で取り囲むように、2つの基板の間で屈折率整合流体を使用している。このワイヤ・グリッド構造は、波長約0.52μmで単一の共鳴を示す。P偏光の反射率が極めてゼロに近くなる、0.58から0.62μmまでの狭い波長領域が存在する。米国特許第5,748,368号には、この効果を利用して、高い消光比を有する狭帯域ワイヤ・グリッド偏光子を実現するワイヤ・グリッド偏光子が記載されている。Tamadaの特許明細書で与えられている例では、550nmのグリッド周期を使用し、グリッドの厚さ、導体の幅および形状、ならびに入射角に応じて800から950nmの共鳴波長を生成していた。Tamadaが利用した共鳴効果は、その位置を上記で述べた共鳴とは異なる。2つの共鳴は一致していてもよいが、必ずしも一致する必要があるわけではない。Tamadaは、この第2の共鳴を利用している。さらに、薄膜干渉効果の影響が出ることもある。直交偏光に対する反射率が数パーセント未満となる偏光子の帯域幅は、通常は中心波長の5%である。このタイプの狭帯域偏光子にもいくつかの適用分野があるが、液晶ディスプレイなど多くの可視光システムは、400nmから700nmの可視スペクトルの波長にわたって一様な特性を有する偏光光学素子を必要としている。
【0015】
出願人の以前の出願に記載のように、広帯域偏光子の必要要件は、最長波長共鳴点を所期の使用スペクトルより短い波長に抑制またはシフトしなければならないことである。最長波長共鳴点の波長は、3通りの方法で低下させることができる。第1に、グリッド周期を縮小することができる。ただし、グリッド周期を縮小すると、特に反射偏光の適当な反射率を保証するためにグリッド要素の厚さを維持しなければならないので、グリッド構造の作製難度が高くなる。第2に、入射角を法線方向に近い入射に制限することができる。ただし、入射角を制限すると、偏光子デバイスの可用性が大幅に低下し、45度を中心とする広い角度帯域幅が望ましい投射液晶ディスプレイなど、応用分野で使用できなくなる。第3に、基板の屈折率を低下させることもできる。ただし、偏光子デバイスの大量生産に利用できる対費用効果の高い基板は、Corningタイプ1737FやSchottタイプAF45など数種類の薄いガラス・シートだけであり、これらは全て、可視スペクトルにわたって1.5から1.53の間で変化する屈折率を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、埋め込まれた、または封入されたときに最適に機能するワイヤ・グリッド偏光子が必要とされている。さらに、特に広い波長帯域幅を必要とする可視光システムで使用される、上記のようなワイヤ・グリッド偏光子が必要とされている。さらに、最長波長共鳴点を解消する、またはより短い波長にシフトさせることができる、このような偏光子構造が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明の目的および概要
本発明の目的は、可視スペクトル全域にわたって高い透過および反射の効率を提供することができる埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子を提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、広範囲の入射角にわたって使用されるときに上記のような高い効率を提供することができる上記のような埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子を提供することである。
【0019】
本発明の以上その他の目的および利点は、第1の層と第2の層の間に挟まれた平行に離間した細長い要素のアレイを含む埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子において実現される。これらの要素は、各要素の間に複数のギャップを形成し、これらのギャップが、第1または第2の層の屈折率より低い屈折率を提供する。これらのギャップは空気を含むか、または真空であることが好ましい。
【0020】
この要素アレイは、可視スペクトルの光の電磁波と相互作用して、一般に第1の偏光状態の光の大部分を反射し、第2の偏光状態の光の大部分を透過するように構成される。これらの要素は、0.3ミクロン未満の周期および0.15ミクロン未満の幅を有することが好ましい。
【0021】
本発明の一態様によれば、偏光子は、素子と第1および/または第2の層との間に、これらの層の屈折率より低い屈折率を提供する領域を有するので有利である。第1および/または第2の層の各素子の間に、より低い屈折率を提供する複数の溝を形成することができる。第1および/または第2の層と素子との間に、層の屈折率より低い屈折率を有する膜を配置することができる。
【0022】
本発明の別の態様によれば、素子と第1および/または第2の層の間に配置することができる膜または溝は、偏光子の性能をさらに向上させるために使用することができる光学薄膜効果を提供する。この向上は、これらの膜または溝の厚さおよび/または数および/または光学特性を、所望の偏光子全体の性能に到達するまで適切に調節することによって得ることができる。
【0023】
本発明の別の態様によれば、要素は、立方体中に配置し、その立方体表面の少なくとも1つに対して斜めになるように配向することができる。別法として、要素は、一対の透明板の間に配置し、これらと平行になるように配向することもできる。
【0024】
本発明の別の態様によれば、アレイは、可視光スペクトル内で一方または両方の層と組み合わさって通常なら共鳴効果を生じる構成を有することができ、要素もまた、そのようなサイズを有することができる。一方または両方の層の屈折率より低い屈折率を有するギャップならびに/あるいは膜および/または溝は、通常通り起こる共鳴効果をより低い波長にシフトさせるので有利である。したがって、共鳴効果が起こらない可視波長の帯域が広くなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の好ましい実施形態の断面図である。
【図2】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の代替実施形態の断面図である。
【図3】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の代替実施形態の断面図である。
【図4】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の代替実施形態の断面図である。
【図5】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の代替実施形態の断面図である。
【図6】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の代替実施形態の断面図である。
【図7】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の代替実施形態の断面図である。
【図8】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の代替実施形態の断面図である。
【図9】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の代替実施形態の断面図である。
【図10】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子を組み込んだ立方体の側面図である。
【図11】本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子を組み込んだ一対のガラス板の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の以上その他の目的、特徴、利点および代替態様は、以下の詳細な説明を添付の図面と合わせて考慮すれば、当業者には明らかになるであろう。
発明の詳細な説明
次に、本発明の様々な要素に参照番号を付け、当業者が本発明を作製および使用することができるように本発明について述べた図面を参照する。
【0027】
図1に示すように、本発明の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の好ましい実施形態を一般に10で示す。偏光子10は、第1の光学媒体、材料、層または基板1と、第2の光学媒体、材料または層3と、第1の層1と第2の層3の間に挟まれた複数の介在する細長要素5とを含む。上記で示したように、要素を封入する、または埋め込むことによってある一定の利点は得られるが、要素の偏光または性能は悪影響を受ける。したがって、以下で述べるように、本発明の偏光子10は、埋め込まれたときに性能を最適にするように設計される。
【0028】
第1の層1の第1の表面2および第2の層3の第2の表面4は、互いに、かつ要素5に向き合っている。層1および3、またはこれらの層の材料はそれぞれ、第1および第2の屈折率を有する。第1の光学媒体1および第2の光学媒体3はそれぞれ厚さtL1およびtL2を有し、光学的に厚いと考えられる。これらは、例えば、ガラスまたは高分子のシート、光学品質オイルまたはその他の流体、あるいはその他同様の光学材料にすることができる。厚さtL1またはtL2は、数ミクロンからほぼ無限大までの範囲のどの値でもよい。層1および3の厚さtL1およびtL2は、1ミクロンより大きいことが好ましい。光学媒体1および3は、2枚のガラス・シートなど同じ材料にすることもできるし、材料3をオイルにして材料1をガラスにするなど、異なる材料から選択することもできる。要素5は、第1の層または基板1によって支持することができる。
【0029】
介在する要素5のアレイは、複数の平行に離間した細長い導電性要素5を含む。要素5は、第1および第2の対向する表面5aおよび5bを有し、第1の表面5aは第1の表面2すなわち第1の層1の方向に向き、第2の表面5bは第2の表面4すなわち第2の層3の方向に向いている。図1に示すように、要素5の第1の表面5aは、第1の層1の第1の表面2と接触し、これと結合することができ、第2の表面5bは第2の層3の第2の表面4と接触し、これと結合することができる。要素5のアレイは、可視スペクトルの光の電磁波と相互作用して、一般に第1の偏光状態の光の大部分を反射し、第2の偏光状態の光の大部分を透過するように構成される。
【0030】
要素5の寸法および要素5の配列の寸法は、使用する波長によって決定され、広いまたは完全なスペクトルの可視光に合わせて調整される。要素5は、比較的長く、かつ薄い。各要素5は、一般に可視光の波長より長い長さを有することが好ましい。したがって、要素5は、少なくとも約0.7μm(マイクロメータまたはミクロン)の長さを有する。ただし、通常の長さは、これよりはるかに長くなることもある。さらに、要素5は、光の波長より短い要素間隔、ピッチまたは周期Pで、一般に平行な配列で位置付けられる。したがって、ピッチは0.4μm(マイクロメータまたはミクロン)未満となる。
【0031】
要素5の周期、ならびに光学媒体1および3の材料の選択は全て、光線9、11および13との所望の相互作用が得られ、かつその相互作用を向上させるように行われる。光線9は、通常は、当技術分野ではS偏光およびP偏光と呼ばれるほぼ等しい量の2つの偏光を含む非偏光ビームである。ただし、特定の適用分野では、光線9も、部分的にまたは大部分がいずれかの偏光状態となるように改変することができる。要素5の周期Pは、ワイヤ・グリッドがS偏光11の光の大部分を鏡面反射し、P偏光13の大部分を透過するように選択される。光学材料も、このプロセスの助けとなるように選択される。例えば、S偏光を吸収する、またはその他の方法でP偏光の透過およびS偏光の反射を助ける光学材料3を選択しながら、光学材料1はS偏光およびP偏光の両方に対して透過性が等しくなるように選択することができる。好ましい実施形態では、層1および3を構成する光学材料はガラスである。特定の適用分野によっては、その他の材料も適している。
【0032】
介在する細長要素5はそれほど長くはない。これらは、通常は、0.3μm程度またはそれ未満の周期Pを有し、リブ5の幅wRおよび要素を分離する間隔またはギャップ7の幅wSを0.15μm程度またはそれ未満にした、規則正しく整然としたアレイとして配列されることになる。要素5および間隔7の幅は、所望の光学性能効果を達成するように変化させることができるが、これについては以下でさらに述べる。これらの要素5の高さまたは厚さtRは、通常は、要素が光学的に不透明になるのに必要な高さ(アルミニウムの場合は約40nm)から、おそらくは1μmの高さまでとなる。上限は、製造の実現性ならびに光学性能を考慮して設定される。好ましい実施形態では、偏光子を可視スペクトル全体にわたって使用する場合には、要素5は、通常はアルミニウムや銀などの材料で構成される。ただし、特定の場合に、赤色光などスペクトルの一部で機能する偏光子を提供しさえすればよい場合には、銅や金などその他の材料を使用することもできる。
【0033】
埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子10の最適な性能を得るための重要な要素は、間隔またはギャップ7内に配置する材料である。要素5の間に形成されたギャップ7は、第1の層1など、層1および3の少なくとも一方の屈折率より低い屈折率を提供するので有利である。出願人は、ギャップ7がより低い屈折率を提供するときに、一定屈折率の材料中にワイヤ・グリッドを完全に封入した場合より偏光子10の性能が改善されることを発見した。好ましい実施形態では、この材料は空気または真空であるが、特定の適用分野では、実現性または性能上の理由から、その他の材料が使用されることがある。この材料は、製造性などその他の必要な設計上の制約を満たしながら、可能な限り低い屈折率nを有することが望ましい。こうしたその他の制約により、細長要素5の間の間隔7を満たす材料が光学材料1および3のいずれかまたは両方を構成する材料と同じ材料であることが必要となることがある。あるいは、細長要素5の間の間隔7を満たす材料は、光学材料1および3とは異なる材料となるように選択されることもある。上述のように、好ましい実施形態では、間隔7中の材料は空気または真空となる。使用可能なその他の材料としては、水(屈折率1.33)、蒸着、スパッタリングまたはその他の様々な化学蒸着プロセスを用いて堆積することができるフッ化マグネシウム(屈折率1.38)またはその他一般的な光学薄膜材料、光学オイル、ナフサやトルエンなどの液体炭化水素、あるいは適当な低い屈折率を有するその他の材料が挙げられる。
【0034】
上述の好ましい実施形態の他に、特定の目的のために特定の実施形態で実施することができるいくつかの改良形態がある。これらの改良形態は、要素5と第1および/または第2の層1および3との間に、これらの層の一方の屈折率より低い屈折率を与える領域を設けることを含む。図2から図9を参照すると、要素5の第1の表面5aは、第1の表面5aを横切って延びる第1の仮想平面16を画定している。同様に、要素5の第2の表面5bは、第2の表面5bを横切って延びる第2の仮想平面17を画定している。第1の領域18は、要素5の第1の表面5aを横切って延びる第1の仮想平面16と、第1の層1の屈折率より低い屈折率を含むまたは提供する第1の層1の第1の表面2の間に配置することができる。同様に、第2の領域19は、要素5の第2の表面5bを横切って延びる第2の仮想平面17と、第2の層3の屈折率より低い屈折率を含むまたは提供する第2の層3の第2の表面4の間に配置することができる。
【0035】
次に図2を参照すると、1つのこのような改良は、各細長要素の間に、光学媒体(1および/または3)の片側または反対側に延びる溝21を設けることである。これらの溝21は、製作過程中に反応性イオン・エッチングなどのプロセスによって形成することができる。溝21の深さdは、適切な性能を得るために重要である。所望の光の帯域幅、透過率、消光などに応じて、溝の深さdが約1nmから3000nmまで変化することを期待することができる。
【0036】
通常は、溝21の幅wgは、細長要素5の間隔と同じとなる。しかし、実際の製作プロセスおよび問題では、この幅が細長要素5の間の幅wSよりもある程度細くなることが期待することができる。本発明は、将来の技術の進歩により、細長要素5の間の間隔7とは異なる幅に溝を作製することが実用化されることも見込んでいる。図3は、底部溝21の他に上部溝25を追加することによる概念の拡張を示す。これらの溝の目的は、基本光学材料1および3の光の屈折率より低い、有効な光の屈折率を生み出すことである。細長要素5の近くの領域18および19の低い光の屈折率は、埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子の性能をさらに向上させる。図2および図3の溝は長方形として示してあるが、これが唯一の有用な、または望ましい形状であることを表すものではない。実際には、製造プロセスでは、完全な長方形ではなく台形形状(図4の21a)にする可能性が高く、V字型の溝(図5の21b)を使用することもできる。
【0037】
図6は、それを配置する光学材料3より低い光の屈折率を有する材料の薄膜31を追加することによって細長要素5の近くの領域19の低い光の屈折率の利点を得る、代替の方法を示す。この膜は、通常は1.0から1.7の間の光の屈折率nを有することになる。また、通常は10nmから5000nmの間の厚さtLを有することになる。好ましい材料はフッ化マグネシウムであるが、その他の一般的な誘電体光学材料も様々な適用分野で適している。図面にはただ1つの層しか示してないが、単一層の光学膜以外は不可能であると考えるべきではない。適用分野の要件に応じて、複数層の薄い光学膜を設けると有利である。また、図7に示すように、細長要素5の上部だけではなく底部にも、1層または複数層の低屈折率膜35を導入することができる。
【0038】
図8は、図2および図6に示す概念の組合せにおいて薄膜材料をエッチングした、本発明のさらに別の改良形態を示す。光学材料の残りのリブ41は、それが配置される光学材料3より低い光の屈折率を有することができる材料で構成される。あるいは、支持光学材料3より大幅に低い屈折率は持たないが、エッチングのし易さなど、製造の際に助けとなるその他の特性を有する材料も好ましいことがある。1つの好ましいリブ41の材料は、フッ化マグネシウムである。その他の好ましい材料としては、高分子材料や二酸化ケイ素が挙げられる。これらは両方とも多くの技術を使用して容易にエッチングすることができる。この場合も、膜中でエッチングされたリブは、要素のどちら側にも形成することができる。
【0039】
図9は、複数の薄膜を準備し、完全または部分的にエッチングした、本発明のさらに別の改良形態を示す。光学材料のリブ41は、上述のものと同じである。光学膜51は、光学材料1より低い屈折率、およびエッチングおよびパターン形成の容易さの一方または両方を有するように選択される。光学膜51にエッチングした溝55は、膜全体にわたって、また場合によってはその下の光学材料1中までエッチングすることができ、あるいは図示のように中間点で止めることもできる。図示のように溝55を止めた場合、偏光子の性能を全体として同調する際に有利になることがある二重層光学薄膜スタックを生じる効果がある。光学膜51の厚さtFは、通常は約10nmから5000nmの間となる。膜51を構成する光学材料の屈折率は、通常は1.0から1.7の間となるが、異常な状況ではさらに高い屈折率が有益であることがある。膜51にエッチングした溝55は、通常は細長要素5の間の間隔7にほぼ等しい幅を有することになるが、その他の様々な厚さの値ももちろん可能であり、適用分野の必要によってはそれらが好ましいこともある。この場合も、上述のように、溝55は長方形として示してあるが、台形またはV字型にすることもでき、その場合でもかなりの利点を提供する。
【0040】
さらに、要素5と第1の層1および/または第2の層3との間に配置することができる膜または溝も、偏光子10の性能をさらに向上させるために使用することができる光学薄膜効果を提供する。この向上は、偏光子10の所望の全体的性能に達するようにこれらの膜または溝の厚さおよび/または数および/または光学特性を適切に調節することによって得ることができる。
【0041】
上記の本発明は、多くの光学的適用分野で使用することができる。例えば、図10に示すように、埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子は、偏光ビーム・スプリッタ・キューブ100中で使用することができる。このキューブは、一般的なMacNeille型プリズムと同様に機能するが、いくつかの利点がある。このワイヤ・グリッド偏光子は、MacNeille型プリズムより広い開口角を有し、またキューブの中央で偏光界面61に入射する円錐形の光線が合成角によって最もよく記述される開口のコーナでの性能がはるかに改善されている。埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子を含む偏光界面61は、光ビーム63のS偏光65の大部分を反射し、P偏光67の大部分を透過する。この界面61は、上述の改良点のうち任意のいくつかまたは全てを含むことができる。このようにして、埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子は、MacNeille型偏光キューブ・ビーム・スプリッタに優るいくつかの性能上の利点を有する代替の偏光キューブ・ビーム・スプリッタを生み出す。
【0042】
この埋込み型偏光子は、図11に示すような平板形態110でも使用することができる。この実施形態は、通常は、図示のように、埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子を含む偏光界面71を取り囲むガラス板79および81からなる。この界面71は、上述の改良点のうち任意のいくつかまたは全てを含むことができる。偏光子は、反対の偏光を有する光ビーム75を鏡面角で反射することにより、第1のガラス板79に入射する光ビームを偏光する働きをする。これらの光ビーム73、75および77は、垂直入射として示してあるが、これは単なる便宜的なものである。この場合も、埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子は、大きな開口角を有し、様々な角度で入射してくる光ビームに対して機能する。
【0043】
帯域幅の広いワイヤ・グリッド偏光子が、参照により本明細書に組み込む出願人の米国特許出願第09/337,970号に記載されている。この偏光子も、屈折率が低く厚さが制御された領域によって支持基板から分離された平行な導電性要素のアレイを含む。ワイヤ・グリッドを基板から分離する低屈折率領域は、偏光子デバイス中で2つの役割を果たす。第1に、低い屈折率が存在することにより、最長波長共鳴点がより短い波長にシフトする。第2に、低屈折領域は、P偏光の偏光子によって反射される部分を減少させるように厚さの制御された1つまたは複数の層として実装することができる。
【0044】
所与の入射角に対して共鳴が起こる最長波長を低下させる1つの方法は、周期を減少させることである。しかし、周期を減少させると、製造上の難点が生じる。したがって、ピッチPを光の波長の約2分の1、すなわち約0.2μmにすると好ましい。この場合も、より長い周期(光の波長の約2倍すなわち1.4μm超)を有するグリッドは回折格子として動作し、より短い周期(光の波長の約半分すなわち0.2μm未満)を有するグリッドは偏光子として動作し、遷移領域(約0.2から1.4μmの間)の周期を有するグリッドも回折格子として動作し、かつ急激な変化または共鳴と呼ばれる異常を特徴とすることに留意されたい。上記で示したように、可視スペクトルの範囲内で共鳴を特徴とする従来技術のデバイスは、可視スペクトル内の様々な波長で起こる異常により、狭い動作範囲を有する。この遷移領域は、ワイヤ・グリッドの挙動を理解する上で重要な概念である。帯域幅の広い偏光子は、所期の用途のスペクトルにわたって広帯域幅性能を得るために、必ずこの遷移領域の外側にとどまるように設計しなければならない。したがって、この遷移領域の境界は、本発明のワイヤ・グリッドの周期の上限を規定する上で有用である。
【0045】
溝、リブまたは膜層は、ある高さすなわち厚さを有し、要素と各層との間に配置される領域を画定する。溝、リブまたは膜層によって生み出された領域は、層の屈折率より大幅に低い平均屈折率を有するので有利である。この領域は、リブの高さすなわち厚さ、溝の深さ、または膜の厚さによって規定される厚さを有する。この領域の高さすなわち厚さを変えて、偏光子の性能を調節することができる。出願人の以前の出願でより完全に論じられているように、要素を層から分離し、層より低い屈折率を有する領域をその間に挿置することにより、より短い波長で偏光子のP偏光透過効率が向上する、偏光子が有効になる最小波長が低くなる、または最高共鳴点がより短い波長にシフトするので有利である。
【0046】
要素5のアレイは、一定比率で図示したものではなく、分かりやすくするためにかなり誇張してあることに留意されたい。実際には、要素の配列は、裸眼では見ることができず、大きく拡大せずに観察すると一部が鏡面になった表面として見える。
【0047】
上述の本発明の実施形態は、単なる例示的なものであり、当業者ならその修正形態を思いつくことができることを理解されたい。さらに、本発明の主な特典は、可視スペクトルにおける埋込み型偏光子の性能を改善することであるが、本発明は、赤外線などその他のスペクトル領域で使用される偏光子デバイスの透過性を改善するために使用することもできる。本発明によって達成された従来技術に優る設計の柔軟性における大幅な向上により、当業者ならその他の変更も確実に思いつくであろう。したがって、本発明は、開示の実施形態に限定されるものと見なすべきでなく、添付の特許請求の範囲の定義によってのみ限定されるものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視スペクトル用の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子であって、
ある屈折率を有する第1の層と、
第1の層から分離した、ある屈折率を有する第2の層と、
第1の層と第2の層の間に挟まれ、要素間に複数のギャップを形成した、平行に離間した細長い要素のアレイであって、ギャップが第1の層の屈折率より低い屈折率を提供する、アレイと、
を含み、
前記各層が透明であり、
前記要素が導電性であり、
第1の層と要素との間に配置され、第1の層の屈折率より低い屈折率を有する膜をさらに含むことを特徴とする偏光子。
【請求項2】
要素間のギャップが空気を含むことを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項3】
要素間のギャップが真空を有することを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項4】
要素間のギャップが、第1および第2の層の材料とは異なる材料を含むことを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項5】
要素間のギャップが、第1および第2の層の一方の材料と同じ材料を含むことを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項6】
要素間のギャップが水を含むことを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項7】
要素間のギャップがフッ化マグネシウムを含むことを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項8】
要素間のギャップが油を含むことを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項9】
要素間のギャップが炭化水素を含むことを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項10】
第1および第2の層がそれぞれ1ミクロン超の厚さを有し、要素が0.04から1ミクロンの間の厚さを有することを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項11】
要素が0.3ミクロン未満の周期を有し、要素が0.15ミクロン未満の幅を有し、ギャップが0.15ミクロン未満の幅を有することを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項12】
第1の層が、要素と向き合う第1の表面をさらに有し、各要素が、第1の層と向き合う第1の表面をさらに有し、要素の第1の表面を横切って延びる仮想平面を画定することを特徴とし、
仮想平面と第1の層の第1の表面との間に、第1の層の屈折率より低い屈折率を提供する領域と、
をさらに含む、請求項1に記載の偏光子。
【請求項13】
第1の層が第1の表面を有し、要素が第1の層の第1の表面上に配置されていることを特徴とし、
各要素の間になるように第1の層の第1の表面に形成された複数の溝と、
をさらに含む、請求項1に記載の偏光子。
【請求項14】
溝が0.001から3ミクロンの間の深さを有することを特徴とする、請求項13に記載の偏光子。
【請求項15】
第1の層およびが第2の層が、それぞれ第1の表面及び第2の表面を有し、それらの間に要素が配置されていることを特徴とし、
各要素の間になるように第1の層の第1の表面に形成された第1の複数の溝と、
各要素の間になるように第2の層の第2の表面に形成された第2の複数の溝と、
をさらに含む、請求項1に記載の偏光子。
【請求項16】
膜の屈折率が1から1.7の間であることを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項17】
膜の厚さが0.01から5ミクロンの間であることを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項18】
膜が誘電体材料を含むことを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項19】
膜の誘電体材料がフッ化マグネシウムを含むことを特徴とする、請求項18に記載の偏光子。
【請求項20】
第2の層と要素との間に配置された、第2の層の屈折率より低い屈折率を有する第2の膜、をさらに含む、請求項1に記載の偏光子。
【請求項21】
各要素の間になるように膜に形成された複数の溝をさらに含む、請求項1に記載の偏光子。
【請求項22】
膜が第1の層の屈折率より低い屈折率を有することを特徴とする、請求項21に記載の偏光子。
【請求項23】
膜が1から1.7の間の屈折率を有することを特徴とする、請求項21に記載の偏光子。
【請求項24】
膜が0.01から5ミクロンの間の厚さを有することを特徴とする、請求項21に記載の偏光子。
【請求項25】
要素が、立方体中に配置され、少なくとも1つの立方体表面に対して斜めになるように配向されていることを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項26】
要素が、一対の透明板の間に配置され、それらに対して平行になるように配向されていることを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項1】
可視スペクトル用の埋込み型ワイヤ・グリッド偏光子であって、
ある屈折率を有する第1の層と、
第1の層から分離した、ある屈折率を有する第2の層と、
第1の層と第2の層の間に挟まれ、要素間に複数のギャップを形成した、平行に離間した細長い要素のアレイであって、ギャップが第1の層の屈折率より低い屈折率を提供する、アレイと、
を含み、
前記各層が透明であり、
前記要素が導電性であり、
第1の層と要素との間に配置され、第1の層の屈折率より低い屈折率を有する膜をさらに含むことを特徴とする偏光子。
【請求項2】
要素間のギャップが空気を含むことを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項3】
要素間のギャップが真空を有することを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項4】
要素間のギャップが、第1および第2の層の材料とは異なる材料を含むことを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項5】
要素間のギャップが、第1および第2の層の一方の材料と同じ材料を含むことを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項6】
要素間のギャップが水を含むことを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項7】
要素間のギャップがフッ化マグネシウムを含むことを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項8】
要素間のギャップが油を含むことを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項9】
要素間のギャップが炭化水素を含むことを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項10】
第1および第2の層がそれぞれ1ミクロン超の厚さを有し、要素が0.04から1ミクロンの間の厚さを有することを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項11】
要素が0.3ミクロン未満の周期を有し、要素が0.15ミクロン未満の幅を有し、ギャップが0.15ミクロン未満の幅を有することを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項12】
第1の層が、要素と向き合う第1の表面をさらに有し、各要素が、第1の層と向き合う第1の表面をさらに有し、要素の第1の表面を横切って延びる仮想平面を画定することを特徴とし、
仮想平面と第1の層の第1の表面との間に、第1の層の屈折率より低い屈折率を提供する領域と、
をさらに含む、請求項1に記載の偏光子。
【請求項13】
第1の層が第1の表面を有し、要素が第1の層の第1の表面上に配置されていることを特徴とし、
各要素の間になるように第1の層の第1の表面に形成された複数の溝と、
をさらに含む、請求項1に記載の偏光子。
【請求項14】
溝が0.001から3ミクロンの間の深さを有することを特徴とする、請求項13に記載の偏光子。
【請求項15】
第1の層およびが第2の層が、それぞれ第1の表面及び第2の表面を有し、それらの間に要素が配置されていることを特徴とし、
各要素の間になるように第1の層の第1の表面に形成された第1の複数の溝と、
各要素の間になるように第2の層の第2の表面に形成された第2の複数の溝と、
をさらに含む、請求項1に記載の偏光子。
【請求項16】
膜の屈折率が1から1.7の間であることを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項17】
膜の厚さが0.01から5ミクロンの間であることを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項18】
膜が誘電体材料を含むことを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項19】
膜の誘電体材料がフッ化マグネシウムを含むことを特徴とする、請求項18に記載の偏光子。
【請求項20】
第2の層と要素との間に配置された、第2の層の屈折率より低い屈折率を有する第2の膜、をさらに含む、請求項1に記載の偏光子。
【請求項21】
各要素の間になるように膜に形成された複数の溝をさらに含む、請求項1に記載の偏光子。
【請求項22】
膜が第1の層の屈折率より低い屈折率を有することを特徴とする、請求項21に記載の偏光子。
【請求項23】
膜が1から1.7の間の屈折率を有することを特徴とする、請求項21に記載の偏光子。
【請求項24】
膜が0.01から5ミクロンの間の厚さを有することを特徴とする、請求項21に記載の偏光子。
【請求項25】
要素が、立方体中に配置され、少なくとも1つの立方体表面に対して斜めになるように配向されていることを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【請求項26】
要素が、一対の透明板の間に配置され、それらに対して平行になるように配向されていることを特徴とする、請求項1に記載の偏光子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−70219(P2011−70219A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280064(P2010−280064)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【分割の表示】特願2001−552123(P2001−552123)の分割
【原出願日】平成13年1月11日(2001.1.11)
【出願人】(501218636)モックステック・インコーポレーテッド (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【分割の表示】特願2001−552123(P2001−552123)の分割
【原出願日】平成13年1月11日(2001.1.11)
【出願人】(501218636)モックステック・インコーポレーテッド (16)
【Fターム(参考)】
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