可視スペクトル用の広帯域ワイヤグリッド偏光子
【課題】
全可視スペクトルにわたって高い透過と反射の効率を提供できる、改良されたワイヤグリッド偏光子を提供する。
【解決手段】
第1の表面と屈折率とを有する透明基板を提供するステップと、記基板の第1の表面上に平行な素子であって、マスクを画定する素子のアレイを形成するステップと、素子の間で基板をエッチングして、基板から伸び、基板の屈折率より小さな屈折率を伴う領域を画定するリブを形成するステップと、を含む、可視スペクトル用の広帯域ワイヤグリッド偏光子を作成する方法。
全可視スペクトルにわたって高い透過と反射の効率を提供できる、改良されたワイヤグリッド偏光子を提供する。
【解決手段】
第1の表面と屈折率とを有する透明基板を提供するステップと、記基板の第1の表面上に平行な素子であって、マスクを画定する素子のアレイを形成するステップと、素子の間で基板をエッチングして、基板から伸び、基板の屈折率より小さな屈折率を伴う領域を画定するリブを形成するステップと、を含む、可視スペクトル用の広帯域ワイヤグリッド偏光子を作成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.発明の属する技術分野
本発明は、電磁スペクトルの可視的な部分で使用する偏光光素子に関する。より具体的には、本発明は、特定の偏光の光を効率的に透過するとともに、直交する偏光の光を効果的に反射する広帯域幅ワイヤグリッド偏光子に関する。
【背景技術】
【0002】
2.従来技術
平行な導電ワイヤのアレイを使用して無線波を偏光することは、110年以上も前にさかのぼる。一般には透明基板によって支持される薄い平行な導体のアレイの形態であるワイヤグリッドも、電磁スペクトルの赤外線部分に関する偏光子として使用されてきた。
【0003】
ワイヤグリッド偏光子の性能を決定する鍵となる要因は、平行なグリッド素子の中心間の距離または周期と、入射する放射の波長の間の関係である。グリッドの間隔または周期が波長に比べて長いと、グリッドは偏光子ではなく回折格子として機能し、よく知られた原理に従って両方の偏光を回折する(必ずしも同じ効率ではない)。グリッドの間隔または周期が波長よりずっと短い時は、グリッドはグリッド素子に対して平行に偏光された電磁放射を反射し、直交する偏光の放射を透過する偏光子として機能する。
【0004】
遷移領域、すなわちグリッドの周期が波長のほぼ2分の1から2倍の範囲にある領域は、グリッドの透過特性と反射特性の間で急激に変化するという特徴を有する。特に反射率が急激に増大し、これに対応して透過が減少する。これは入射光の所与の角度でグリッド素子に対して直交に偏光された光が、1つまたは複数の特定の波長において発生することになるからである。これらの効果は最初に、1902年にウッドによって報告され(Philosophical Magazine、1902年9月)、しばしば「ウッド異常(Wood's anomaly)」と呼ばれる。続いて、レイリーはウッドのデータを分析して、この異常は、より高い回折オーダが現れる波長と角度の組合せで発生するという洞察を得た(Philosophical Magazine, vol.14(79)、60〜65ページ,1907年7月)。レイリーは、異常の場所を予想する次の等式を開発した(これは文献では一般に「レイリー共鳴」と呼ばれる)。
【0005】
【数1】
式中、εは格子周期、
nは格子を囲む媒体の屈折率、
kは現れている回折された項(term)のオーダに対応する整数、
およびλとΘは共鳴が発生する波長と入射角(どちらも空気中で測定される)である。
【0006】
誘電基板の一方の側で形成された格子に関しては、上記の等式のnは、1か、あるいは基板材料の屈折率に等しい場合がある。共鳴が発生する最も長い波長は次の公式で与えられることに留意されたい。
【0007】
【数2】
式中、nは基板の屈折率として設定される。
【0008】
角度依存の効果は、角度が大きくなるにつれ透過領域がより大きな波長にシフトすることである。偏光子が偏光ビームスプリッタまたは偏光反射鏡として使用される目的である場合、このことは重要である。
【0009】
図1は従来技術の基本的なワイヤグリッド偏光子を示し、従来技術と本発明に関する一連の例の中で使用される用語を定義する。ワイヤグリッド偏光子100は誘電基板120によって支持される多数の平行な導電電極110からなる。このデバイスはpと示された導体のピッチまたは周期、wと示された個別の導体の幅、およびtと示された導体の厚さによって特徴づけられる。光源132によって生成される光ビーム130は、垂線からΘの角度で偏光子に入射し、入射平面は導電素子に直交する。ワイヤグリッド偏光子100はこのビームを、反射された(specularly reflected)成分140と、回折されないで透過される成分150に分割する。等式2によって与えられる最も長い共鳴波長よりも短い波長に関しては、少なくとも1つのよりオーダの高い回折された成分160がある。SとPの偏光に関して通常の定義を使用すると、S偏光を伴う光は、入射面に直交する偏光ベクトルを有するので、導電素子に対して平行である。逆に、P偏光を伴う光は、入射面に平行な偏光ベクトルを有するので、導電素子に直交する。
【0010】
一般に、ワイヤグリッド偏光子は、グリッドのワイヤに平行な電界ベクトルを伴う光を反射し、グリッドのワイヤに垂直な電界ベクトルを伴う光を透過するが、ここに説明するように、入射面はグリッドのワイヤに対して垂直である場合もあれば垂直ではない場合もある。ここでは明確に説明するために幾何学構造を選択している。
【0011】
理想的には、ワイヤグリッド偏光子は、偏光されたS光など1つの光の偏光に関して完全な鏡として機能し、偏光されたP光などの他の偏光に関しては完全に透過的である。しかし実際には、鏡として使用される最も反射性のある金属でさえ、入射光の一部を吸収し、90%から95%しか反射せず、板ガラス(plane glass)でも表面の反射があるため、入射光を100%透過するわけではない。
【0012】
図2は、入射角Θが45度に等しい、従来技術のワイヤグリッド偏光子の回折されないかまたはゼロオーダの、計算された透過と反射を示す。これらのデータは、テキサス州Allen、P.O.Box 353のGrating Solver Development Companyから市販されているGsolver格子分析ソフトウェアツールを使用して計算された。このソフトウェアツールは、精密に結合された波の分析とモーダル法(modal method)を実行する。この分析方法とその結果は、文献に報告されたものと同じである(「Coupled-wave analysis of lamellar metal transmission gratings for the visible and the infrared」、Journal of the Optical Society of America A, Vol. 12 No.5, 1995年5月、1118〜1127ページ)。この分析では、アルミニウムグリッドの周期はp=0.2μm、導体の幅はw=0.1μm、導体の厚さはt=0.1μm、および基板の屈折率はn=1.525と仮定している。等式1によって予想されるように、2つの共鳴が約0.34μmの波長と約0.445μmの波長で発生することに留意されたい。また、これらの共鳴は、P偏光の偏光子特性にもっぱら著しく影響を与えることに留意されたい。
【0013】
S方向に偏光された入力光に関して、従来技術の偏光子の性能は理想に近い。S偏光に関する反射効率は、0.4μmから0.7μmの可視スペクトルにわたって90%よりも大きい。この波長帯にわたって偏光されたS光のうち2.5%未満の光が透過され、その差(balance)は吸収されてしまう。わずかに透過される成分を除いては、S偏光に関するワイヤグリッド偏光子の特性は、連続的なアルミニウム鏡の特性に非常に似ている。
【0014】
P偏光に関しては、ワイヤグリッドの透過と反射の効率は、約0.5μm未満の波長においては共鳴効果によって支配される。0.5μmより長い波長では、ワイヤグリッド構造は偏光されたP光に関して、損失のある導電層として機能する。この層の損失と、表面からの反射とが結びついて、0.5μmから0.7μmの波長帯にわたって偏光されたP光の透過が、約80%に制限される。
【0015】
図3は、米国特許第5,748,368号でTamadaが説明したような、従来技術のワイヤグリッド偏光子の異なるタイプについて計算された性能を示す。この場合、グリッドが一定の屈折率の媒体によって囲まれるように、屈折率が一致する流体または接着剤を使用して2つの基板の間のグリッド構造を接着する(laminate)。この例では、n=1.525であり、他のグリッドパラメータは前の例と同じである。このワイヤグリッド構造は、等式1によって予想されるように、約0.52μmの波長で単一の共鳴を示す。約0.58μmから0.62μmの間に、P偏光に関する反射率がほぼゼロである狭い波長領域があることに留意されたい。米国特許第5、748、368号は、この効果を利用して高い吸収率を伴う狭い帯域幅のワイヤグリッド偏光子を実現するワイヤグリッド偏光子を説明している。Tamada特許の仕様で与えられた例は、550nmのグリッド周期を使用し、グリッドの厚さ、導体の幅と形状、および入射角度に応じて800nm〜950nmの共鳴波長を生成した。Tamada特許は、偏光の方向に関して、通常とは異なる定義を使用していることに留意されたい(従来の定義とは異なり、P偏光はグリッド素子に対して平行であり、したがって、入射平面とは直交しているものとして定義されている)。Tamadaが使用する共鳴効果は、等式1によってその位置が予想される共鳴とは異なる。2つの共鳴が一致する場合もあるが、これらは必ずしも一致する必要はない。Tamadaはこの第2の共鳴を使用している。さらに、効果を示す場合のある薄膜干渉効果がある。直交で偏光された光の反射率が数パーセント未満の偏光子の帯域幅は、典型的には中心波長の5%である。このタイプの狭帯域偏光子は光メモリと光通信システム内で用途を有する場合もあるが、液晶ディスプレイなどの多くの可視光のシステムでは、400nm〜700nmの可視スペクトルの波長にわたって均一な特性を伴う偏光光学素子が必要である。
【0016】
図2に示されたデータを再び参照すると、広帯域偏光子に関して必要な要件は、最も長い波長共鳴ポイントを抑圧するか、使用する目的のスペクトルより短い波長にシフトしなければならないことであることが分かるであろう。等式2を再び参照すると、最も長い波長の共鳴ポイントは3通りの方法で低減できることが分かるであろう。第1に、グリッド周期εを低減することが可能である。しかし、グリッド周期を低減すると、特に、グリッド素子の厚さを維持して、反射された偏光の反射率を適切にしなければならないため、グリッド構造の製造の困難さが増す。第2に、入射角はほとんど垂直な入射に拘束することが可能である。しかし、入射角を拘束すると偏光子デバイスの用途が著しく低減し、45度を中心とした広い角度の帯域幅が望ましい投影液晶ディスプレイなどに応用できなくなる。第3に、基板の屈折率を低減することが可能である。しかし、偏光子デバイスの量産に使用可能なコスト効果の高い基板は、Corningタイプ1737FまたはSchottタイプAF45などのいくつかの種類の薄い板ガラスのみであり、これらはいずれも、可視スペクトルにわたって1.5と1.53の間で変化する屈折率を有する。
【0017】
したがって、特に広い波長帯域幅を必要とする可視光システムで使用する、改良されたワイヤグリッド偏光子に対するニーズが存在する。さらに、約45度の入射角で使用する、かかる改良されたワイヤグリッド偏光子に対するニーズが存在する。特に、最も長い波長の共鳴ポイントを除去するか、またはより短い波長にシフトできる偏光子構造に対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
発明の目的および概要
本発明の目的は、全可視スペクトルにわたって高い透過と反射の効率を提供できる、改良されたワイヤグリッド偏光子を提供することである。
【0019】
本発明の別の目的は、広い範囲の入射角にわたって使用された時に、このような高い効率を提供することのできるワイヤグリッド偏光子を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、このような偏光子の製造に関する工程を提供することである。
本発明のこれらの目的と利点および他の目的と利点は、基板上に支持される平行な導電素子のグリッドを含み、グリッド素子と基板との間に挿入される、屈折率が低く厚さが制御された領域を伴う偏光子デバイスで実現される。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様によれば、屈折率が低い領域は基板から伸びるリブ(rib)からなる。このリブは、グリッド素子を自己整合マスク(self-aligning mask)として使用して、スロットを基板にエッチングすることによって形成され得る。
【0022】
本発明の別の態様によれば、屈折率が低い領域は、グリッド素子と基板との間に挿入された屈折率の低い1つまたは複数の誘電膜からなる。
本発明の別の態様によれば、グリッド素子は,グリッド素子と基板との間に挿入された1つまたは複数の誘電膜の中、または誘電膜を通してエッチングすることによって形成されるリブによって支持される。
【0023】
本発明の別の態様によれば、このような偏光子デバイスを製造する工程が提供される。
本発明のこれらの、また別の目的、特徴、利点、および代替の態様は、添付する図面と共に次の詳細な説明を考察することにより、当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来技術のワイヤグリッド偏光子の斜視図である。
【図2】従来技術のワイヤグリッド偏光子の、波長と、透過率と反射率の間の関係を示すグラフ図である。
【図3】従来技術のワイヤグリッド偏光子の、波長と、透過率と反射率の間の関係を示すグラフ図である。
【図4】図4は、本発明のワイヤグリッド偏光子の好ましい実施形態の断面図である。 図4aは、本発明のワイヤグリッド偏光子の代替的な実施形態の部分断面図である。 図4bは、本発明のワイヤグリッド偏光子の代替的な実施形態の部分断面図である。 図4cは、本発明のワイヤグリッド偏光子の代替的な実施形態の部分断面図である。
【図5】本発明のワイヤグリッド偏光子の好ましい実施形態の、P偏光に関する波長と、透過率と反射率の間の関係を示すグラフ図である。
【図6】本発明のワイヤグリッド偏光子の代替的な実施形態の、P偏光に関する波長と、透過率と反射率の間の関係を示すグラフ図である。
【図7】本発明のワイヤグリッド偏光子の代替的な実施形態の概念的な断面図である。
【図8】本発明のワイヤグリッド偏光子の代替的な実施形態の、P偏光に関する波長と、透過率と反射率の間の関係を示すグラフ図である。
【図9】本発明のワイヤグリッド偏光子の別の代替的な実施形態の概念的な断面図である。
【図10】本発明のワイヤグリッド偏光子の別の代替的な実施形態の、P偏光に関する波長と、透過率と反射率の間の関係を示すグラフ図である。
【図11】本発明のワイヤグリッド偏光子を作成する、好ましい方法の工程ステップの概念的な断面図である。
【図12】本発明ワイヤグリッド偏光子を作成する、代替的な方法の工程ステップの概念的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
次に図面を参照するが、この中では本発明の種々の要素は数字を与えられ、本発明は当業者が本発明を作成し使用できるように説明されている。
【0026】
本発明は、低い屈折率と制御された厚さを有する領域によって支持基板から分離された平行な導電素子のアレイからなる広帯域幅のワイヤグリッド偏光子である。ワイヤグリッドを基板から分離する屈折率の低い領域は、偏光子デバイスの中で2つの目的を果たす。第1に、低い屈折率の存在は、最も長い波長共鳴ポイントをより短い波長にシフトする。第2に、低い屈折率の領域は、偏光子から反射された偏光されたP光の一部を低減するように設計された、制御された厚さの1つまたは複数の層として実装することが可能である。
【0027】
図4では、本発明のワイヤグリッド偏光子の好ましい実施形態が全体として400として示されている。偏光子400は、透明基板410によって支持される複数の平行な細長い導電素子420からなる。基板410は、第1の表面414および屈折率nSを有する。次に説明するように、基板はガラスである場合もあり、約1.5の屈折率nSを有する場合もある。
【0028】
素子の大きさと素子の構成の大きさは、使用する波長によって決定され、広いスペクトルの可視光線または全スペクトルの可視光線用に調節される。素子420は比較的長く、薄い。好ましくは、各素子420は一般に、可視光の波長よりも長い長さを有する。したがって、素子420は少なくとも約0.7μm(マイクロメータまたはミクロン)の長さを有する。しかし、典型的な長さはもっと長い場合もある。
【0029】
さらに、素子420は一般に、光の波長より短い、素子の間隔、ピッチまたは周期Pを伴う平行な構成で置かれる。したがって、ピッチは0.4μm(マイクロメータまたはミクロン)未満であろう。上記に示したように、所与の入射角に関して共鳴が発生する最も長い波長を低減する1つの方法は、周期を低減することである。しかし周期を低減すると製造が困難になる。したがって、ピッチPは好ましくは光の波長の約半分、つまり約0.2μmである。ここで再び、(光の波長の約2倍つまり1.4μmよりも大きい)長い周期を伴うグリッドは回折格子として動作し、(光の波長の約2分の1つまり0.2μmよりも小さい)短い周期を伴うグリッドは偏光子として動作し、(約0.2μmと1.4μmの間の)遷移領域の周期を伴うグリッドも回折格子として機能し、共鳴と呼ばれる急激な変化つまり異常(anomaly)によって特徴づけられることに留意されたい。上記に示したように、可視光スペクトル内の共鳴によって特徴づけられる従来技術のデバイスは、可視スペクトル内の種々の波長で発生する異常のために、狭い動作範囲を有する。この遷移領域は、ワイヤグリッドの挙動を理解する際に重要な概念である。本発明の広い帯域幅の偏光子は、目的の用途のスペクトルにわたって広い帯域幅性能を得るために、必ずこの遷移領域の外側にとどまるように設計しなければならない。したがって、この遷移領域の境界は、本発明のワイヤグリッドの周期の上限を定義するのに有効である。
【0030】
言及したように、等式1に与えられた角度依存性は、入射角が増加すると、遷移領域をより長い波長にシフトする。ピッチを減少することによってこのシフトをさらに増加することが可能である。屈折率が1の基板で垂直な(normal)入射光では、遷移領域は約0.5λ≦p≦2λによって与えられる。屈折率がnSの基板で、垂線に対して角度θで入射する光では、周期の下限は等式1で導出された係数だけ低減する必要がある。
【0031】
【数3】
屈折率が1.7で角度が75度という非常に屈折率の高いガラスについては、等式3は0.19λ≦pになる。そこで、可視スペクトルに関して任意の入射角と任意の従来の基板材料に関する有効な遷移領域は、約0.19λ≦p≦2λの範囲内である。
【0032】
さらに、各素子420は、ピッチPの10%〜90%の範囲に渡る得る幅Wを有する。素子420はまた、約200Åつまり20nmよりも大きい厚さtを有し、現実的な製造の制限により、約300nm未満となるだろう。さらに、素子420は好ましくは規則正しい間隔または等間隔である。
【0033】
素子の幅Wは、特定の用途に関して偏光子デバイスの性能を最適化するように選択することが可能である。ピッチに対して素子の幅を増大すると、平行な偏光に関する反射率を100%近くまで増大し、また直交する偏光に関する反射率を理想的な値の0%より上に増大する。したがって、素子の幅と間隔の比が高いと、透過される光には高い吸収率が提供されるが(平行な偏光は透過されないため)、必ずしも高い効率が提供されるとは限らない(直交する偏光の一部が反射されるため)。逆に、素子の幅とピッチの比が低いと、反射されたビームに関しては高い吸収率が提供されるが、必ずしも高い効率が提供されるとは限らない。平行ビームの反射率と直交ビームの透過率の積によって定義される最も高い合計の効率は、素子の幅とピッチの比が40%〜60%である時に得られる可能性が高い。
【0034】
素子420の構成はスケール通りに描かれておらず、明確に表すために非常に誇張されている。事実、素子の構成は裸眼には見えず、極端に拡大しないで観察した時には、部分的に反映する表面として見える。素子420は金属など広いスペクトルの鏡に形成することのできる任意の材料で形成される。好ましくは、可視光で使用するために、材料は銀またはアルミニウムである。
【0035】
好ましい実施形態では、導電素子420は、有利には基板410または第1の表面414から伸びるリブ430の上で支持される。リブ430は、基板410と同じ材料である場合もあり、基板と一体として形成される場合もある。たとえば、次により詳細に論じるように、素子420をマスクとして使用して、素子420の間に露出した基板410の一部をエッチングして除くことによってリブ430を形成する場合がある。
【0036】
リブ430は高さまたは厚さhRを有し、またリブ430は全体として434で示され、素子420と基板410との間、または表面414の間に配置される、素子420を基板410から分離する領域を画定する。リブ430によって作成される領域434は、有利には平均屈折率nRを有し、nRは基板の屈折率nSよりかなり小さいか、またはリブ434と基板410はnR<nSという条件を満足する。たとえば、リブ430はガラスであって、1.525の屈折率nSを有し得る。幅が等しいリブと溝に有効な中間屈折率に関するBruggemanの方法を使用すると(Ann. Phys(Leip.)、Vol.24、636ページ(1935年))、nRは約1.41の値を有する。
【0037】
領域434はtRによって示される厚さを有し、これは好ましい実施形態においてリブ430の高さhRによって画定される。素子420は、領域の厚さtRに等しい距離だけ、基板410または表面414から分離される。リブ430の高さhRまたは領域434の厚さtRを変更して、偏光子400の性能を調節することが可能である。以下でより詳しく論じるように、素子420を基板410または表面414から分離し、基板410より低い屈折率を有する領域434を挿入することは、短い波長における偏光子410のp偏光透過効率を増大し、偏光子410が有用な最小波長を低くするかまたは、最も高い共鳴ポイントを短い波長にシフトさせるという点で有利である。
【0038】
さらに、リブ430は440で示されるように方形または矩形である場合がある断面の形状か、または、444で示されるように全体として台形である場合がある断面の形状を有する場合がある。台形のリブ444はリブ444の間に、部分的にV字型の溝448を形成する場合がある。また、以下でより詳細に論じるように、リブ430の形状は偏光子410の効率にも影響を与える。図4bに示されるように、リブ452の間の溝450の底はV字型である場合がある。さらに、図4cに示されるように、素子460はリブ462よりも広い場合もあり、または、基板468の溝464は、素子460の間の溝470よりも広い場合もある。別法としては、図4aに示されるように、素子480はリブ482よりも狭い場合もあり、基板486の中の溝484は素子480の間の間隔488よりも狭い場合もある。
【0039】
図5は、従来技術に関して、4つの異なるリブの高さhRまたは領域の厚さtR、すなわち、0.005、0.01、0.04および0.1μmに関して、入射ビームの波長と図4の偏光子デバイス410のp偏光透過効率の間の計算された関係を示す。分析の仮定は、以前の例と同様であって、格子ピッチまたは周期p=0.2μm、導体の幅w=0.1μm、導体の厚さt=0.1μm、入射角度は45度、基板の屈折率は1.525である。選択された基板の屈折率は、Corningタイプ1737と、SchottタイプAF45を含む、市販の手ごろな値段の板ガラス材料を表す。この分析では、導電素子の間で基板を非等方性にエッチングすることによって形成された方形の断面のリブを仮定している。
【0040】
図5に示されるように、0.005μmと0.10μmの間のリブの高さhR、すなわち領域の厚さtRは、このデバイスが有用な最小の波長をはっきりと低くする。0.04ミクロンの高さのリブが存在することにより、全可視スペクトルに渡る偏光子デバイスの透過効率も改善されることに注意されたい。
【0041】
図5では、0.005μmから0.1μmまで描かれている各エッチの深さは、従来技術と比較して本発明の性能を向上させていることに特に注意されたい。0.005μmという浅い溝でも、モデルとなっている特定のワイヤグリッド偏光子構造に関して青の短い波長における性能に大きな影響を与えていることは注目すべきである。この結果は、最初の実験ならびに多くの同様な計算で観察され、効果はより小さな周期でさらに明白になった。1nm〜2nmという低い高さのリブでさえ、所定の特定のワイヤグリッド偏光子構造には有益であることが判明すると思われる。
【0042】
リブの正確な形状は偏光子の性能に副次的な効果を有する。図6は、導電素子が、基板にエッチングされたV字型の溝によって分離された台形のリブ上で支持されている偏光子に関して、波長とp偏光の透過効率の間の計算された関係を示す。台形リブの効果は先に説明された矩形のリブの効果と似ているが、矩形のリブほど有利ではない。
【0043】
図7は、本発明の代替の実施形態の断面図である。偏光子700は、透明基板710によって支持される複数の平行な、長い導電素子720からなる。誘電材料の1つまたは複数の層または膜740は、導電素子720と基板710の間に挿入される。層または膜740は厚さtF、屈折率nFを有し、厚さがtRの領域734を画定する。共鳴ポイントを短い波長にシフトする所望の効果を出すために、これらの誘電層740のうち少なくとも1つが、基板710の屈折率nSよりかなり小さい屈折率nFを有するか、または条件nF<nSを満足させなければならない。
【0044】
図8は、従来技術に関して、基板と導電素子の間に3つの異なる厚さtF、つまり0.04μm、0.1μmおよび0.22μmの、n=1.38の、フッ化マグネシウム(MgF2)の単一の層が挿入された時の、波長と、ワイヤグリッド偏光子のP偏光の透過効率との間の計算された関係を示す。分析の他の仮定は、前の例と同じである。MgF2の厚さを0から0.22μmに増加していくと、最も長い波長の共鳴ポイントは約0.445μmから0.41μmにしだいにシフトし、偏光子デバイスが有用である帯域幅が増大する。また、0.22ミクロンの膜の存在により、全可視スペクトルにわたる偏光子の透過も改善される。
【0045】
Auton(Applied Optics, Volume 6, No.6, 1967年6月、1023〜1027ページ)はすでに、ワイヤグリッドと支持基板の間に、単一の層の反射防止被膜を使用することを説明し、これに「ブルーミング層(blooming layer)」という名前を付けた。彼の分析は、簡単なインピーダンス・マッチング公式と完全に導電性のある薄い金属ストリップに基づいたもので、この層は基板の屈折率の平方根に等しい屈折率と、目的の波長の4分の1の光学的な厚さ(optical thickness)を有しなければならないことを示している。Autonは、この方法で製造されたワイヤグリッドの性能は、特に「単一の波長における動作しか必要とされないレーザ用途」の、支持のないグリッドの性能と等しいと結論づけている。Autonは共鳴効果に気づかなかったか、グリッドの間隔が目的の波長よりもはるかに小さいと仮定することにより共鳴効果を無視したかのいずれかであった。さらに、ブルーミング層に関する条件は、等式1によって予想される共鳴を移動または抑圧するために必要な条件とは異なる。Autonが提案したようなインピーダンス・マッチング・ブルーミング層は、狭い範囲のパラメータでは効果的だが、本発明の実施形態は、広い範囲のパラメータに渡って効果的である。したがって、Autonは、本発明の第2の実施形態を教示していないことになる。
【0046】
図9は、本発明のさらに別の実施形態の断面図であり、この中で偏光子デバイス900はリブ940によって支持される導電素子920からなる。リブ940は1つまたは複数の誘電層944にエッチングし、さらに、導電素子920の間に露出した基板910にまでエッチングすることによって形成される場合がある。したがって、リブ940は、950と960に示されるように、1つまたは複数の膜層944、または膜層944の一部によって形成される場合がある。さらに、リブ940は多数の膜層944によって形成される場合もある。膜層944は、単一の材料での所望の厚さまたは高さを達成するために、同じ材料の多数の層である場合がある。膜層944はまた、異なる効果または性能特性を達成するために種々の異なる材料である場合がある。
【0047】
さらに970で示されるように、リブ940は異なる材料の層で形成される場合もある。層のうち1つは基板910と同じ材料であり、基板910と一体として形成される場合もある。たとえば970で示されるように、層の1つは上記に説明され図4に示されるようにリブ430と同じで、全リブ940の一部を形成する部分的な基板のリブ948を画定する場合もある。したがって、リブ940は膜層944と、基板910の中に形成された基板リブ948の両方によって形成され、膜層944は970で示されたように基板リブ948に堆積している場合がある。上記に示したように、リブ940は、素子920の間の層944と基板910にエッチングすることによって形成される場合がある。
【0048】
ここで再び、領域934はリブ940によって画定され、リブ940は膜層944によるか、または膜層944と基板リブ948によって膜層944の中に形成される場合がある。この構成は、有利には、屈折率が低い層の効果とリブの付いた基板の効果を組み合わせる可能性を有する。リブ940の全体の高さhRは、950に示されるように誘電層944の厚さtFの一部でしかない場合もあり、960で示されるように誘電層944の厚さtFに等しい場合もあり、または970で示されるように誘電層944の厚さtFを超える場合もある。したがって、970で示されるように、領域の厚さtRとリブ940の全体の高さhRは、層944の厚さtFと基板リブ948の高さhSによって形成される。基板リブ948は、基板リブ948と膜層944によって形成された組み合わされたリブ940に関するサブ構造となり、基板リブ948は各々、そこに配置された複数の膜層944を有する。
【0049】
図10は、基板と導電素子の間に単一のMgF2の層を有すことにより、基板リブの高さhSとMgF2の膜の厚さtFを3種類に組み合わせて製造された偏光子デバイスの、波長とp偏光の透過率の間の関係を示す。2つの場合では、基板リブの高さhSとMgF2膜の厚さtFは同じである。第1の場合では、基板リブの高さhSと膜の厚さtFは両方とも0.04μmであり、リブの高さhRと領域の厚さtRは0.08μmである。第2の場合では、基板リブの高さhSと膜の厚さtFは両方とも0.10μmであり、リブの高さhRと領域の厚さtRは0.20μmである。第3の場合では、MgF2膜の厚さtFは0.22μmで基板リブの高さhSは0.04μmしかなく、領域の厚さtRは0.26μmである。従来技術の偏光子と比較すると、この後者の組合せは50%の透過率のポイントを約0.46μmから約0.41μmにシフトし、可視スペクトルにわたる偏光子の透過率の平均を約6%だけ増加させる。
【0050】
図11は、前に図4に示された偏光子デバイスを製造する工程を示す。第1のステップは、平行な導電素子1120のアレイを基板1110上に形成することである。これらの素子1120の形成は、いくつかの一般に知られた工程のうち任意の工程により可能である。たとえば、米国特許第4、049、944号のGarvin、米国特許第4、514、479号のFerranteは両方とも、ホログラフィ干渉リトグラフィを使用してフォトレジスト内に微細な格子構造を形成し、次にイオンビームエッチングによってこの構造を下にある金属膜に転写する方法を説明している。Stenkamp(「Grid polarizer for the visible spectral region」、Proceedings of the SPIE、vol. 2213、288〜296ページ)は、直接eビームリトグラフィを使用してレジストパターンを形成し、次にリアクティブイオンエッチング(reactive ion etching)によってパターンを金属膜に転写する方法を説明している。極紫外線リトグラフィとX線リトグラフィを含む他の高解像度のリトグラフィ技法を使用して、レジストパターンを作成することも可能である。他のエッチングメカニズムとリフトオフ(lift off)プロセスを含む他の技法を使用して、レジストから金属膜へパターンを転写することも可能である。平行な導電素子のアレイを形成するために使用する厳密なプロセスは、本発明にとっては重要ではない。
【0051】
平行な導電素子1120を形成した後の第2のステップは、導電素子1120をマスクとして使用して基板1110をエッチングし、導体1120を支持するリブ1130を作成することである。基板1110の材料に応じた適切な化学的性質のイオンビームエッチングまたはリアクティブイオンエッチングを使用して、溝を基板1110にエッチングすることが可能である。
【0052】
図12は、図7と図9に先に示された偏光子デバイスを製造する工程を示す。第1の工程ステップは、透明基板1210の1つの表面上に透明誘電材料1230の1つまたは複数の膜を堆積させることである。第2のステップは、先に説明したように平行な導電素子1220のアレイを形成することである。第3のステップは、導電素子1220をマスクとして使用し、その下にある層1230をエッチングすることによって導電素子を支持するリブ1240を形成することである。エッチングの深さは誘電膜層1230の厚さの一部に限定される場合もあり、誘電膜層1230を通じて伸びる場合もあり、必要に応じて、誘電膜層1230を介して基板1210まで伸びる場合もある。
【0053】
本発明の説明された実施形態は例示的なものであり、当業者であればその修正形態を思いつくであろうことを理解されたい。たとえば、本発明は入射角が45度である例で説明されたが、本発明を、偏光子デバイスの物理的なパラメータを適切に調節して他の入射角にも同様に適用することが可能である。さらに、本発明の第1の利点は、偏光子デバイスの有用な帯域幅を可視スペクトルの短い波長に広げることであるが、本発明はまた、赤外線など他のスペクトルの領域で使用するために偏光子デバイスの透過を改善するために使用される場合もある。従来技術と比較して、設計上、本発明によって柔軟性が大幅に増大されたことを考えると、他の代替形態も当業者であればすぐに思いつくであろう。したがって、本発明は開示された実施形態に限定されるものではなく、首記の請求項によって定義されたようにのみ限定されるものと見なすべきである。
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.発明の属する技術分野
本発明は、電磁スペクトルの可視的な部分で使用する偏光光素子に関する。より具体的には、本発明は、特定の偏光の光を効率的に透過するとともに、直交する偏光の光を効果的に反射する広帯域幅ワイヤグリッド偏光子に関する。
【背景技術】
【0002】
2.従来技術
平行な導電ワイヤのアレイを使用して無線波を偏光することは、110年以上も前にさかのぼる。一般には透明基板によって支持される薄い平行な導体のアレイの形態であるワイヤグリッドも、電磁スペクトルの赤外線部分に関する偏光子として使用されてきた。
【0003】
ワイヤグリッド偏光子の性能を決定する鍵となる要因は、平行なグリッド素子の中心間の距離または周期と、入射する放射の波長の間の関係である。グリッドの間隔または周期が波長に比べて長いと、グリッドは偏光子ではなく回折格子として機能し、よく知られた原理に従って両方の偏光を回折する(必ずしも同じ効率ではない)。グリッドの間隔または周期が波長よりずっと短い時は、グリッドはグリッド素子に対して平行に偏光された電磁放射を反射し、直交する偏光の放射を透過する偏光子として機能する。
【0004】
遷移領域、すなわちグリッドの周期が波長のほぼ2分の1から2倍の範囲にある領域は、グリッドの透過特性と反射特性の間で急激に変化するという特徴を有する。特に反射率が急激に増大し、これに対応して透過が減少する。これは入射光の所与の角度でグリッド素子に対して直交に偏光された光が、1つまたは複数の特定の波長において発生することになるからである。これらの効果は最初に、1902年にウッドによって報告され(Philosophical Magazine、1902年9月)、しばしば「ウッド異常(Wood's anomaly)」と呼ばれる。続いて、レイリーはウッドのデータを分析して、この異常は、より高い回折オーダが現れる波長と角度の組合せで発生するという洞察を得た(Philosophical Magazine, vol.14(79)、60〜65ページ,1907年7月)。レイリーは、異常の場所を予想する次の等式を開発した(これは文献では一般に「レイリー共鳴」と呼ばれる)。
【0005】
【数1】
式中、εは格子周期、
nは格子を囲む媒体の屈折率、
kは現れている回折された項(term)のオーダに対応する整数、
およびλとΘは共鳴が発生する波長と入射角(どちらも空気中で測定される)である。
【0006】
誘電基板の一方の側で形成された格子に関しては、上記の等式のnは、1か、あるいは基板材料の屈折率に等しい場合がある。共鳴が発生する最も長い波長は次の公式で与えられることに留意されたい。
【0007】
【数2】
式中、nは基板の屈折率として設定される。
【0008】
角度依存の効果は、角度が大きくなるにつれ透過領域がより大きな波長にシフトすることである。偏光子が偏光ビームスプリッタまたは偏光反射鏡として使用される目的である場合、このことは重要である。
【0009】
図1は従来技術の基本的なワイヤグリッド偏光子を示し、従来技術と本発明に関する一連の例の中で使用される用語を定義する。ワイヤグリッド偏光子100は誘電基板120によって支持される多数の平行な導電電極110からなる。このデバイスはpと示された導体のピッチまたは周期、wと示された個別の導体の幅、およびtと示された導体の厚さによって特徴づけられる。光源132によって生成される光ビーム130は、垂線からΘの角度で偏光子に入射し、入射平面は導電素子に直交する。ワイヤグリッド偏光子100はこのビームを、反射された(specularly reflected)成分140と、回折されないで透過される成分150に分割する。等式2によって与えられる最も長い共鳴波長よりも短い波長に関しては、少なくとも1つのよりオーダの高い回折された成分160がある。SとPの偏光に関して通常の定義を使用すると、S偏光を伴う光は、入射面に直交する偏光ベクトルを有するので、導電素子に対して平行である。逆に、P偏光を伴う光は、入射面に平行な偏光ベクトルを有するので、導電素子に直交する。
【0010】
一般に、ワイヤグリッド偏光子は、グリッドのワイヤに平行な電界ベクトルを伴う光を反射し、グリッドのワイヤに垂直な電界ベクトルを伴う光を透過するが、ここに説明するように、入射面はグリッドのワイヤに対して垂直である場合もあれば垂直ではない場合もある。ここでは明確に説明するために幾何学構造を選択している。
【0011】
理想的には、ワイヤグリッド偏光子は、偏光されたS光など1つの光の偏光に関して完全な鏡として機能し、偏光されたP光などの他の偏光に関しては完全に透過的である。しかし実際には、鏡として使用される最も反射性のある金属でさえ、入射光の一部を吸収し、90%から95%しか反射せず、板ガラス(plane glass)でも表面の反射があるため、入射光を100%透過するわけではない。
【0012】
図2は、入射角Θが45度に等しい、従来技術のワイヤグリッド偏光子の回折されないかまたはゼロオーダの、計算された透過と反射を示す。これらのデータは、テキサス州Allen、P.O.Box 353のGrating Solver Development Companyから市販されているGsolver格子分析ソフトウェアツールを使用して計算された。このソフトウェアツールは、精密に結合された波の分析とモーダル法(modal method)を実行する。この分析方法とその結果は、文献に報告されたものと同じである(「Coupled-wave analysis of lamellar metal transmission gratings for the visible and the infrared」、Journal of the Optical Society of America A, Vol. 12 No.5, 1995年5月、1118〜1127ページ)。この分析では、アルミニウムグリッドの周期はp=0.2μm、導体の幅はw=0.1μm、導体の厚さはt=0.1μm、および基板の屈折率はn=1.525と仮定している。等式1によって予想されるように、2つの共鳴が約0.34μmの波長と約0.445μmの波長で発生することに留意されたい。また、これらの共鳴は、P偏光の偏光子特性にもっぱら著しく影響を与えることに留意されたい。
【0013】
S方向に偏光された入力光に関して、従来技術の偏光子の性能は理想に近い。S偏光に関する反射効率は、0.4μmから0.7μmの可視スペクトルにわたって90%よりも大きい。この波長帯にわたって偏光されたS光のうち2.5%未満の光が透過され、その差(balance)は吸収されてしまう。わずかに透過される成分を除いては、S偏光に関するワイヤグリッド偏光子の特性は、連続的なアルミニウム鏡の特性に非常に似ている。
【0014】
P偏光に関しては、ワイヤグリッドの透過と反射の効率は、約0.5μm未満の波長においては共鳴効果によって支配される。0.5μmより長い波長では、ワイヤグリッド構造は偏光されたP光に関して、損失のある導電層として機能する。この層の損失と、表面からの反射とが結びついて、0.5μmから0.7μmの波長帯にわたって偏光されたP光の透過が、約80%に制限される。
【0015】
図3は、米国特許第5,748,368号でTamadaが説明したような、従来技術のワイヤグリッド偏光子の異なるタイプについて計算された性能を示す。この場合、グリッドが一定の屈折率の媒体によって囲まれるように、屈折率が一致する流体または接着剤を使用して2つの基板の間のグリッド構造を接着する(laminate)。この例では、n=1.525であり、他のグリッドパラメータは前の例と同じである。このワイヤグリッド構造は、等式1によって予想されるように、約0.52μmの波長で単一の共鳴を示す。約0.58μmから0.62μmの間に、P偏光に関する反射率がほぼゼロである狭い波長領域があることに留意されたい。米国特許第5、748、368号は、この効果を利用して高い吸収率を伴う狭い帯域幅のワイヤグリッド偏光子を実現するワイヤグリッド偏光子を説明している。Tamada特許の仕様で与えられた例は、550nmのグリッド周期を使用し、グリッドの厚さ、導体の幅と形状、および入射角度に応じて800nm〜950nmの共鳴波長を生成した。Tamada特許は、偏光の方向に関して、通常とは異なる定義を使用していることに留意されたい(従来の定義とは異なり、P偏光はグリッド素子に対して平行であり、したがって、入射平面とは直交しているものとして定義されている)。Tamadaが使用する共鳴効果は、等式1によってその位置が予想される共鳴とは異なる。2つの共鳴が一致する場合もあるが、これらは必ずしも一致する必要はない。Tamadaはこの第2の共鳴を使用している。さらに、効果を示す場合のある薄膜干渉効果がある。直交で偏光された光の反射率が数パーセント未満の偏光子の帯域幅は、典型的には中心波長の5%である。このタイプの狭帯域偏光子は光メモリと光通信システム内で用途を有する場合もあるが、液晶ディスプレイなどの多くの可視光のシステムでは、400nm〜700nmの可視スペクトルの波長にわたって均一な特性を伴う偏光光学素子が必要である。
【0016】
図2に示されたデータを再び参照すると、広帯域偏光子に関して必要な要件は、最も長い波長共鳴ポイントを抑圧するか、使用する目的のスペクトルより短い波長にシフトしなければならないことであることが分かるであろう。等式2を再び参照すると、最も長い波長の共鳴ポイントは3通りの方法で低減できることが分かるであろう。第1に、グリッド周期εを低減することが可能である。しかし、グリッド周期を低減すると、特に、グリッド素子の厚さを維持して、反射された偏光の反射率を適切にしなければならないため、グリッド構造の製造の困難さが増す。第2に、入射角はほとんど垂直な入射に拘束することが可能である。しかし、入射角を拘束すると偏光子デバイスの用途が著しく低減し、45度を中心とした広い角度の帯域幅が望ましい投影液晶ディスプレイなどに応用できなくなる。第3に、基板の屈折率を低減することが可能である。しかし、偏光子デバイスの量産に使用可能なコスト効果の高い基板は、Corningタイプ1737FまたはSchottタイプAF45などのいくつかの種類の薄い板ガラスのみであり、これらはいずれも、可視スペクトルにわたって1.5と1.53の間で変化する屈折率を有する。
【0017】
したがって、特に広い波長帯域幅を必要とする可視光システムで使用する、改良されたワイヤグリッド偏光子に対するニーズが存在する。さらに、約45度の入射角で使用する、かかる改良されたワイヤグリッド偏光子に対するニーズが存在する。特に、最も長い波長の共鳴ポイントを除去するか、またはより短い波長にシフトできる偏光子構造に対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
発明の目的および概要
本発明の目的は、全可視スペクトルにわたって高い透過と反射の効率を提供できる、改良されたワイヤグリッド偏光子を提供することである。
【0019】
本発明の別の目的は、広い範囲の入射角にわたって使用された時に、このような高い効率を提供することのできるワイヤグリッド偏光子を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、このような偏光子の製造に関する工程を提供することである。
本発明のこれらの目的と利点および他の目的と利点は、基板上に支持される平行な導電素子のグリッドを含み、グリッド素子と基板との間に挿入される、屈折率が低く厚さが制御された領域を伴う偏光子デバイスで実現される。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様によれば、屈折率が低い領域は基板から伸びるリブ(rib)からなる。このリブは、グリッド素子を自己整合マスク(self-aligning mask)として使用して、スロットを基板にエッチングすることによって形成され得る。
【0022】
本発明の別の態様によれば、屈折率が低い領域は、グリッド素子と基板との間に挿入された屈折率の低い1つまたは複数の誘電膜からなる。
本発明の別の態様によれば、グリッド素子は,グリッド素子と基板との間に挿入された1つまたは複数の誘電膜の中、または誘電膜を通してエッチングすることによって形成されるリブによって支持される。
【0023】
本発明の別の態様によれば、このような偏光子デバイスを製造する工程が提供される。
本発明のこれらの、また別の目的、特徴、利点、および代替の態様は、添付する図面と共に次の詳細な説明を考察することにより、当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来技術のワイヤグリッド偏光子の斜視図である。
【図2】従来技術のワイヤグリッド偏光子の、波長と、透過率と反射率の間の関係を示すグラフ図である。
【図3】従来技術のワイヤグリッド偏光子の、波長と、透過率と反射率の間の関係を示すグラフ図である。
【図4】図4は、本発明のワイヤグリッド偏光子の好ましい実施形態の断面図である。 図4aは、本発明のワイヤグリッド偏光子の代替的な実施形態の部分断面図である。 図4bは、本発明のワイヤグリッド偏光子の代替的な実施形態の部分断面図である。 図4cは、本発明のワイヤグリッド偏光子の代替的な実施形態の部分断面図である。
【図5】本発明のワイヤグリッド偏光子の好ましい実施形態の、P偏光に関する波長と、透過率と反射率の間の関係を示すグラフ図である。
【図6】本発明のワイヤグリッド偏光子の代替的な実施形態の、P偏光に関する波長と、透過率と反射率の間の関係を示すグラフ図である。
【図7】本発明のワイヤグリッド偏光子の代替的な実施形態の概念的な断面図である。
【図8】本発明のワイヤグリッド偏光子の代替的な実施形態の、P偏光に関する波長と、透過率と反射率の間の関係を示すグラフ図である。
【図9】本発明のワイヤグリッド偏光子の別の代替的な実施形態の概念的な断面図である。
【図10】本発明のワイヤグリッド偏光子の別の代替的な実施形態の、P偏光に関する波長と、透過率と反射率の間の関係を示すグラフ図である。
【図11】本発明のワイヤグリッド偏光子を作成する、好ましい方法の工程ステップの概念的な断面図である。
【図12】本発明ワイヤグリッド偏光子を作成する、代替的な方法の工程ステップの概念的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
次に図面を参照するが、この中では本発明の種々の要素は数字を与えられ、本発明は当業者が本発明を作成し使用できるように説明されている。
【0026】
本発明は、低い屈折率と制御された厚さを有する領域によって支持基板から分離された平行な導電素子のアレイからなる広帯域幅のワイヤグリッド偏光子である。ワイヤグリッドを基板から分離する屈折率の低い領域は、偏光子デバイスの中で2つの目的を果たす。第1に、低い屈折率の存在は、最も長い波長共鳴ポイントをより短い波長にシフトする。第2に、低い屈折率の領域は、偏光子から反射された偏光されたP光の一部を低減するように設計された、制御された厚さの1つまたは複数の層として実装することが可能である。
【0027】
図4では、本発明のワイヤグリッド偏光子の好ましい実施形態が全体として400として示されている。偏光子400は、透明基板410によって支持される複数の平行な細長い導電素子420からなる。基板410は、第1の表面414および屈折率nSを有する。次に説明するように、基板はガラスである場合もあり、約1.5の屈折率nSを有する場合もある。
【0028】
素子の大きさと素子の構成の大きさは、使用する波長によって決定され、広いスペクトルの可視光線または全スペクトルの可視光線用に調節される。素子420は比較的長く、薄い。好ましくは、各素子420は一般に、可視光の波長よりも長い長さを有する。したがって、素子420は少なくとも約0.7μm(マイクロメータまたはミクロン)の長さを有する。しかし、典型的な長さはもっと長い場合もある。
【0029】
さらに、素子420は一般に、光の波長より短い、素子の間隔、ピッチまたは周期Pを伴う平行な構成で置かれる。したがって、ピッチは0.4μm(マイクロメータまたはミクロン)未満であろう。上記に示したように、所与の入射角に関して共鳴が発生する最も長い波長を低減する1つの方法は、周期を低減することである。しかし周期を低減すると製造が困難になる。したがって、ピッチPは好ましくは光の波長の約半分、つまり約0.2μmである。ここで再び、(光の波長の約2倍つまり1.4μmよりも大きい)長い周期を伴うグリッドは回折格子として動作し、(光の波長の約2分の1つまり0.2μmよりも小さい)短い周期を伴うグリッドは偏光子として動作し、(約0.2μmと1.4μmの間の)遷移領域の周期を伴うグリッドも回折格子として機能し、共鳴と呼ばれる急激な変化つまり異常(anomaly)によって特徴づけられることに留意されたい。上記に示したように、可視光スペクトル内の共鳴によって特徴づけられる従来技術のデバイスは、可視スペクトル内の種々の波長で発生する異常のために、狭い動作範囲を有する。この遷移領域は、ワイヤグリッドの挙動を理解する際に重要な概念である。本発明の広い帯域幅の偏光子は、目的の用途のスペクトルにわたって広い帯域幅性能を得るために、必ずこの遷移領域の外側にとどまるように設計しなければならない。したがって、この遷移領域の境界は、本発明のワイヤグリッドの周期の上限を定義するのに有効である。
【0030】
言及したように、等式1に与えられた角度依存性は、入射角が増加すると、遷移領域をより長い波長にシフトする。ピッチを減少することによってこのシフトをさらに増加することが可能である。屈折率が1の基板で垂直な(normal)入射光では、遷移領域は約0.5λ≦p≦2λによって与えられる。屈折率がnSの基板で、垂線に対して角度θで入射する光では、周期の下限は等式1で導出された係数だけ低減する必要がある。
【0031】
【数3】
屈折率が1.7で角度が75度という非常に屈折率の高いガラスについては、等式3は0.19λ≦pになる。そこで、可視スペクトルに関して任意の入射角と任意の従来の基板材料に関する有効な遷移領域は、約0.19λ≦p≦2λの範囲内である。
【0032】
さらに、各素子420は、ピッチPの10%〜90%の範囲に渡る得る幅Wを有する。素子420はまた、約200Åつまり20nmよりも大きい厚さtを有し、現実的な製造の制限により、約300nm未満となるだろう。さらに、素子420は好ましくは規則正しい間隔または等間隔である。
【0033】
素子の幅Wは、特定の用途に関して偏光子デバイスの性能を最適化するように選択することが可能である。ピッチに対して素子の幅を増大すると、平行な偏光に関する反射率を100%近くまで増大し、また直交する偏光に関する反射率を理想的な値の0%より上に増大する。したがって、素子の幅と間隔の比が高いと、透過される光には高い吸収率が提供されるが(平行な偏光は透過されないため)、必ずしも高い効率が提供されるとは限らない(直交する偏光の一部が反射されるため)。逆に、素子の幅とピッチの比が低いと、反射されたビームに関しては高い吸収率が提供されるが、必ずしも高い効率が提供されるとは限らない。平行ビームの反射率と直交ビームの透過率の積によって定義される最も高い合計の効率は、素子の幅とピッチの比が40%〜60%である時に得られる可能性が高い。
【0034】
素子420の構成はスケール通りに描かれておらず、明確に表すために非常に誇張されている。事実、素子の構成は裸眼には見えず、極端に拡大しないで観察した時には、部分的に反映する表面として見える。素子420は金属など広いスペクトルの鏡に形成することのできる任意の材料で形成される。好ましくは、可視光で使用するために、材料は銀またはアルミニウムである。
【0035】
好ましい実施形態では、導電素子420は、有利には基板410または第1の表面414から伸びるリブ430の上で支持される。リブ430は、基板410と同じ材料である場合もあり、基板と一体として形成される場合もある。たとえば、次により詳細に論じるように、素子420をマスクとして使用して、素子420の間に露出した基板410の一部をエッチングして除くことによってリブ430を形成する場合がある。
【0036】
リブ430は高さまたは厚さhRを有し、またリブ430は全体として434で示され、素子420と基板410との間、または表面414の間に配置される、素子420を基板410から分離する領域を画定する。リブ430によって作成される領域434は、有利には平均屈折率nRを有し、nRは基板の屈折率nSよりかなり小さいか、またはリブ434と基板410はnR<nSという条件を満足する。たとえば、リブ430はガラスであって、1.525の屈折率nSを有し得る。幅が等しいリブと溝に有効な中間屈折率に関するBruggemanの方法を使用すると(Ann. Phys(Leip.)、Vol.24、636ページ(1935年))、nRは約1.41の値を有する。
【0037】
領域434はtRによって示される厚さを有し、これは好ましい実施形態においてリブ430の高さhRによって画定される。素子420は、領域の厚さtRに等しい距離だけ、基板410または表面414から分離される。リブ430の高さhRまたは領域434の厚さtRを変更して、偏光子400の性能を調節することが可能である。以下でより詳しく論じるように、素子420を基板410または表面414から分離し、基板410より低い屈折率を有する領域434を挿入することは、短い波長における偏光子410のp偏光透過効率を増大し、偏光子410が有用な最小波長を低くするかまたは、最も高い共鳴ポイントを短い波長にシフトさせるという点で有利である。
【0038】
さらに、リブ430は440で示されるように方形または矩形である場合がある断面の形状か、または、444で示されるように全体として台形である場合がある断面の形状を有する場合がある。台形のリブ444はリブ444の間に、部分的にV字型の溝448を形成する場合がある。また、以下でより詳細に論じるように、リブ430の形状は偏光子410の効率にも影響を与える。図4bに示されるように、リブ452の間の溝450の底はV字型である場合がある。さらに、図4cに示されるように、素子460はリブ462よりも広い場合もあり、または、基板468の溝464は、素子460の間の溝470よりも広い場合もある。別法としては、図4aに示されるように、素子480はリブ482よりも狭い場合もあり、基板486の中の溝484は素子480の間の間隔488よりも狭い場合もある。
【0039】
図5は、従来技術に関して、4つの異なるリブの高さhRまたは領域の厚さtR、すなわち、0.005、0.01、0.04および0.1μmに関して、入射ビームの波長と図4の偏光子デバイス410のp偏光透過効率の間の計算された関係を示す。分析の仮定は、以前の例と同様であって、格子ピッチまたは周期p=0.2μm、導体の幅w=0.1μm、導体の厚さt=0.1μm、入射角度は45度、基板の屈折率は1.525である。選択された基板の屈折率は、Corningタイプ1737と、SchottタイプAF45を含む、市販の手ごろな値段の板ガラス材料を表す。この分析では、導電素子の間で基板を非等方性にエッチングすることによって形成された方形の断面のリブを仮定している。
【0040】
図5に示されるように、0.005μmと0.10μmの間のリブの高さhR、すなわち領域の厚さtRは、このデバイスが有用な最小の波長をはっきりと低くする。0.04ミクロンの高さのリブが存在することにより、全可視スペクトルに渡る偏光子デバイスの透過効率も改善されることに注意されたい。
【0041】
図5では、0.005μmから0.1μmまで描かれている各エッチの深さは、従来技術と比較して本発明の性能を向上させていることに特に注意されたい。0.005μmという浅い溝でも、モデルとなっている特定のワイヤグリッド偏光子構造に関して青の短い波長における性能に大きな影響を与えていることは注目すべきである。この結果は、最初の実験ならびに多くの同様な計算で観察され、効果はより小さな周期でさらに明白になった。1nm〜2nmという低い高さのリブでさえ、所定の特定のワイヤグリッド偏光子構造には有益であることが判明すると思われる。
【0042】
リブの正確な形状は偏光子の性能に副次的な効果を有する。図6は、導電素子が、基板にエッチングされたV字型の溝によって分離された台形のリブ上で支持されている偏光子に関して、波長とp偏光の透過効率の間の計算された関係を示す。台形リブの効果は先に説明された矩形のリブの効果と似ているが、矩形のリブほど有利ではない。
【0043】
図7は、本発明の代替の実施形態の断面図である。偏光子700は、透明基板710によって支持される複数の平行な、長い導電素子720からなる。誘電材料の1つまたは複数の層または膜740は、導電素子720と基板710の間に挿入される。層または膜740は厚さtF、屈折率nFを有し、厚さがtRの領域734を画定する。共鳴ポイントを短い波長にシフトする所望の効果を出すために、これらの誘電層740のうち少なくとも1つが、基板710の屈折率nSよりかなり小さい屈折率nFを有するか、または条件nF<nSを満足させなければならない。
【0044】
図8は、従来技術に関して、基板と導電素子の間に3つの異なる厚さtF、つまり0.04μm、0.1μmおよび0.22μmの、n=1.38の、フッ化マグネシウム(MgF2)の単一の層が挿入された時の、波長と、ワイヤグリッド偏光子のP偏光の透過効率との間の計算された関係を示す。分析の他の仮定は、前の例と同じである。MgF2の厚さを0から0.22μmに増加していくと、最も長い波長の共鳴ポイントは約0.445μmから0.41μmにしだいにシフトし、偏光子デバイスが有用である帯域幅が増大する。また、0.22ミクロンの膜の存在により、全可視スペクトルにわたる偏光子の透過も改善される。
【0045】
Auton(Applied Optics, Volume 6, No.6, 1967年6月、1023〜1027ページ)はすでに、ワイヤグリッドと支持基板の間に、単一の層の反射防止被膜を使用することを説明し、これに「ブルーミング層(blooming layer)」という名前を付けた。彼の分析は、簡単なインピーダンス・マッチング公式と完全に導電性のある薄い金属ストリップに基づいたもので、この層は基板の屈折率の平方根に等しい屈折率と、目的の波長の4分の1の光学的な厚さ(optical thickness)を有しなければならないことを示している。Autonは、この方法で製造されたワイヤグリッドの性能は、特に「単一の波長における動作しか必要とされないレーザ用途」の、支持のないグリッドの性能と等しいと結論づけている。Autonは共鳴効果に気づかなかったか、グリッドの間隔が目的の波長よりもはるかに小さいと仮定することにより共鳴効果を無視したかのいずれかであった。さらに、ブルーミング層に関する条件は、等式1によって予想される共鳴を移動または抑圧するために必要な条件とは異なる。Autonが提案したようなインピーダンス・マッチング・ブルーミング層は、狭い範囲のパラメータでは効果的だが、本発明の実施形態は、広い範囲のパラメータに渡って効果的である。したがって、Autonは、本発明の第2の実施形態を教示していないことになる。
【0046】
図9は、本発明のさらに別の実施形態の断面図であり、この中で偏光子デバイス900はリブ940によって支持される導電素子920からなる。リブ940は1つまたは複数の誘電層944にエッチングし、さらに、導電素子920の間に露出した基板910にまでエッチングすることによって形成される場合がある。したがって、リブ940は、950と960に示されるように、1つまたは複数の膜層944、または膜層944の一部によって形成される場合がある。さらに、リブ940は多数の膜層944によって形成される場合もある。膜層944は、単一の材料での所望の厚さまたは高さを達成するために、同じ材料の多数の層である場合がある。膜層944はまた、異なる効果または性能特性を達成するために種々の異なる材料である場合がある。
【0047】
さらに970で示されるように、リブ940は異なる材料の層で形成される場合もある。層のうち1つは基板910と同じ材料であり、基板910と一体として形成される場合もある。たとえば970で示されるように、層の1つは上記に説明され図4に示されるようにリブ430と同じで、全リブ940の一部を形成する部分的な基板のリブ948を画定する場合もある。したがって、リブ940は膜層944と、基板910の中に形成された基板リブ948の両方によって形成され、膜層944は970で示されたように基板リブ948に堆積している場合がある。上記に示したように、リブ940は、素子920の間の層944と基板910にエッチングすることによって形成される場合がある。
【0048】
ここで再び、領域934はリブ940によって画定され、リブ940は膜層944によるか、または膜層944と基板リブ948によって膜層944の中に形成される場合がある。この構成は、有利には、屈折率が低い層の効果とリブの付いた基板の効果を組み合わせる可能性を有する。リブ940の全体の高さhRは、950に示されるように誘電層944の厚さtFの一部でしかない場合もあり、960で示されるように誘電層944の厚さtFに等しい場合もあり、または970で示されるように誘電層944の厚さtFを超える場合もある。したがって、970で示されるように、領域の厚さtRとリブ940の全体の高さhRは、層944の厚さtFと基板リブ948の高さhSによって形成される。基板リブ948は、基板リブ948と膜層944によって形成された組み合わされたリブ940に関するサブ構造となり、基板リブ948は各々、そこに配置された複数の膜層944を有する。
【0049】
図10は、基板と導電素子の間に単一のMgF2の層を有すことにより、基板リブの高さhSとMgF2の膜の厚さtFを3種類に組み合わせて製造された偏光子デバイスの、波長とp偏光の透過率の間の関係を示す。2つの場合では、基板リブの高さhSとMgF2膜の厚さtFは同じである。第1の場合では、基板リブの高さhSと膜の厚さtFは両方とも0.04μmであり、リブの高さhRと領域の厚さtRは0.08μmである。第2の場合では、基板リブの高さhSと膜の厚さtFは両方とも0.10μmであり、リブの高さhRと領域の厚さtRは0.20μmである。第3の場合では、MgF2膜の厚さtFは0.22μmで基板リブの高さhSは0.04μmしかなく、領域の厚さtRは0.26μmである。従来技術の偏光子と比較すると、この後者の組合せは50%の透過率のポイントを約0.46μmから約0.41μmにシフトし、可視スペクトルにわたる偏光子の透過率の平均を約6%だけ増加させる。
【0050】
図11は、前に図4に示された偏光子デバイスを製造する工程を示す。第1のステップは、平行な導電素子1120のアレイを基板1110上に形成することである。これらの素子1120の形成は、いくつかの一般に知られた工程のうち任意の工程により可能である。たとえば、米国特許第4、049、944号のGarvin、米国特許第4、514、479号のFerranteは両方とも、ホログラフィ干渉リトグラフィを使用してフォトレジスト内に微細な格子構造を形成し、次にイオンビームエッチングによってこの構造を下にある金属膜に転写する方法を説明している。Stenkamp(「Grid polarizer for the visible spectral region」、Proceedings of the SPIE、vol. 2213、288〜296ページ)は、直接eビームリトグラフィを使用してレジストパターンを形成し、次にリアクティブイオンエッチング(reactive ion etching)によってパターンを金属膜に転写する方法を説明している。極紫外線リトグラフィとX線リトグラフィを含む他の高解像度のリトグラフィ技法を使用して、レジストパターンを作成することも可能である。他のエッチングメカニズムとリフトオフ(lift off)プロセスを含む他の技法を使用して、レジストから金属膜へパターンを転写することも可能である。平行な導電素子のアレイを形成するために使用する厳密なプロセスは、本発明にとっては重要ではない。
【0051】
平行な導電素子1120を形成した後の第2のステップは、導電素子1120をマスクとして使用して基板1110をエッチングし、導体1120を支持するリブ1130を作成することである。基板1110の材料に応じた適切な化学的性質のイオンビームエッチングまたはリアクティブイオンエッチングを使用して、溝を基板1110にエッチングすることが可能である。
【0052】
図12は、図7と図9に先に示された偏光子デバイスを製造する工程を示す。第1の工程ステップは、透明基板1210の1つの表面上に透明誘電材料1230の1つまたは複数の膜を堆積させることである。第2のステップは、先に説明したように平行な導電素子1220のアレイを形成することである。第3のステップは、導電素子1220をマスクとして使用し、その下にある層1230をエッチングすることによって導電素子を支持するリブ1240を形成することである。エッチングの深さは誘電膜層1230の厚さの一部に限定される場合もあり、誘電膜層1230を通じて伸びる場合もあり、必要に応じて、誘電膜層1230を介して基板1210まで伸びる場合もある。
【0053】
本発明の説明された実施形態は例示的なものであり、当業者であればその修正形態を思いつくであろうことを理解されたい。たとえば、本発明は入射角が45度である例で説明されたが、本発明を、偏光子デバイスの物理的なパラメータを適切に調節して他の入射角にも同様に適用することが可能である。さらに、本発明の第1の利点は、偏光子デバイスの有用な帯域幅を可視スペクトルの短い波長に広げることであるが、本発明はまた、赤外線など他のスペクトルの領域で使用するために偏光子デバイスの透過を改善するために使用される場合もある。従来技術と比較して、設計上、本発明によって柔軟性が大幅に増大されたことを考えると、他の代替形態も当業者であればすぐに思いつくであろう。したがって、本発明は開示された実施形態に限定されるものではなく、首記の請求項によって定義されたようにのみ限定されるものと見なすべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の表面と屈折率とを有する透明基板を提供するステップと、
前記基板の前記第1の表面上に平行な素子であって、マスクを画定する素子のアレイを形成するステップと、
前記素子の間で前記基板をエッチングして、該基板から伸び、該基板の前記屈折率より小さな屈折率を伴う領域を画定するリブを形成するステップと、
を含む、可視スペクトル用の広帯域ワイヤグリッド偏光子を作成する方法。
【請求項2】
前記第1の表面上に誘電膜の層を堆積させてから前記素子を形成するステップをさらに含み、前記基板をエッチングするステップはさらに、前記素子の間の膜をエッチングするステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
誘電膜の層を堆積させるステップが、フッ化マグネシウムの層を堆積させるステップを含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記平行な素子のアレイを形成するステップは、0.076μmと0.2μmの間の周期を有する素子を形成するステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記基板をエッチングするステップは、0.001μmと0.3μmの間の深さに該基板をエッチングするステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記素子のアレイは可視スペクトルの光の電磁波と相互作用し、一般には第1の偏光の光のほとんどを反射し、第2の偏光の光のほとんどを透過するように構成され、
前記アレイは、前記可視スペクトル内で通常は第2の偏光のかなりの量が透過されるのではなく反射されるような共鳴効果を形成するような構成を有し、
前記素子は、前記可視スペクトル内で通常は第2の偏光のかなりの量が透過されるのではなく反射されるような共鳴効果を形成するような大きさを有し、
前記基板の屈折率よりも低い屈折率を伴う前記領域は、通常は発生する共鳴効果をより短い波長にシフトさせ、これによって共鳴効果が発生しない可視波長の帯域を広げることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
基板であって、前記基板から伸びる複数のリブを形成するエッチングされた表面を有し、当該基板の屈折率より小さい平均屈折率を有する領域を規定する基板と、
前記リブの上に配置された平行な細長い素子のアレイと、
を備える可視スペクトル用の広帯域ワイヤグリッド偏光子。
【請求項8】
前記基板は、0.001μmと0.3μmの間の深さにエッチングされることを特徴とする、請求項7に記載の偏光子。
【請求項9】
前記素子は0.076μmと0.2μmの間の周期を有することを特徴とする、請求項7に記載の偏光子。
【請求項10】
前記素子のアレイは可視スペクトルの光の電磁波と相互作用し、一般には第1の偏光の光のほとんどを反射し、第2の偏光の光のほとんどを透過するように構成され、
前記アレイは、前記可視スペクトル内で通常は第2の偏光のかなりの量が透過されるのではなく反射されるような共鳴効果を形成するような構成を有し、
前記素子は、前記可視スペクトル内で通常は第2の偏光のかなりの量が透過されるのではなく反射されるような共鳴効果を形成するような大きさを有し、
前記基板の屈折率よりも低い屈折率を伴う前記領域は、通常は発生する共鳴効果をより短い波長にシフトさせ、これによって共鳴効果が発生しない可視波長の帯域を広げることを特徴とする、
請求項7に記載の偏光子。
【請求項11】
前記リブの各々は前記基板の材料とは異なる材料の少なくとも1つの層を備えることを特徴とする、請求項7に記載の偏光子。
【請求項12】
前記材料の少なくとも1つの層は、フッ化マグネシウムであることを特徴とする、請求項11に記載の偏光子。
【請求項13】
素子のアレイが、基板をエッチングして複数のリブを形成するために使用されるマスクを規定する、請求項7に記載の偏光子。
【請求項1】
第1の表面と屈折率とを有する透明基板を提供するステップと、
前記基板の前記第1の表面上に平行な素子であって、マスクを画定する素子のアレイを形成するステップと、
前記素子の間で前記基板をエッチングして、該基板から伸び、該基板の前記屈折率より小さな屈折率を伴う領域を画定するリブを形成するステップと、
を含む、可視スペクトル用の広帯域ワイヤグリッド偏光子を作成する方法。
【請求項2】
前記第1の表面上に誘電膜の層を堆積させてから前記素子を形成するステップをさらに含み、前記基板をエッチングするステップはさらに、前記素子の間の膜をエッチングするステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
誘電膜の層を堆積させるステップが、フッ化マグネシウムの層を堆積させるステップを含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記平行な素子のアレイを形成するステップは、0.076μmと0.2μmの間の周期を有する素子を形成するステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記基板をエッチングするステップは、0.001μmと0.3μmの間の深さに該基板をエッチングするステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記素子のアレイは可視スペクトルの光の電磁波と相互作用し、一般には第1の偏光の光のほとんどを反射し、第2の偏光の光のほとんどを透過するように構成され、
前記アレイは、前記可視スペクトル内で通常は第2の偏光のかなりの量が透過されるのではなく反射されるような共鳴効果を形成するような構成を有し、
前記素子は、前記可視スペクトル内で通常は第2の偏光のかなりの量が透過されるのではなく反射されるような共鳴効果を形成するような大きさを有し、
前記基板の屈折率よりも低い屈折率を伴う前記領域は、通常は発生する共鳴効果をより短い波長にシフトさせ、これによって共鳴効果が発生しない可視波長の帯域を広げることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
基板であって、前記基板から伸びる複数のリブを形成するエッチングされた表面を有し、当該基板の屈折率より小さい平均屈折率を有する領域を規定する基板と、
前記リブの上に配置された平行な細長い素子のアレイと、
を備える可視スペクトル用の広帯域ワイヤグリッド偏光子。
【請求項8】
前記基板は、0.001μmと0.3μmの間の深さにエッチングされることを特徴とする、請求項7に記載の偏光子。
【請求項9】
前記素子は0.076μmと0.2μmの間の周期を有することを特徴とする、請求項7に記載の偏光子。
【請求項10】
前記素子のアレイは可視スペクトルの光の電磁波と相互作用し、一般には第1の偏光の光のほとんどを反射し、第2の偏光の光のほとんどを透過するように構成され、
前記アレイは、前記可視スペクトル内で通常は第2の偏光のかなりの量が透過されるのではなく反射されるような共鳴効果を形成するような構成を有し、
前記素子は、前記可視スペクトル内で通常は第2の偏光のかなりの量が透過されるのではなく反射されるような共鳴効果を形成するような大きさを有し、
前記基板の屈折率よりも低い屈折率を伴う前記領域は、通常は発生する共鳴効果をより短い波長にシフトさせ、これによって共鳴効果が発生しない可視波長の帯域を広げることを特徴とする、
請求項7に記載の偏光子。
【請求項11】
前記リブの各々は前記基板の材料とは異なる材料の少なくとも1つの層を備えることを特徴とする、請求項7に記載の偏光子。
【請求項12】
前記材料の少なくとも1つの層は、フッ化マグネシウムであることを特徴とする、請求項11に記載の偏光子。
【請求項13】
素子のアレイが、基板をエッチングして複数のリブを形成するために使用されるマスクを規定する、請求項7に記載の偏光子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−65183(P2011−65183A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265887(P2010−265887)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【分割の表示】特願2001−505225(P2001−505225)の分割
【原出願日】平成12年6月22日(2000.6.22)
【出願人】(501218636)モックステック・インコーポレーテッド (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【分割の表示】特願2001−505225(P2001−505225)の分割
【原出願日】平成12年6月22日(2000.6.22)
【出願人】(501218636)モックステック・インコーポレーテッド (16)
【Fターム(参考)】
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