説明

合成ガスの製造方法

【課題】一定の品質を有する合成ガス含有生成物流が得られる合成ガスの製造法を提供すること。
【解決手段】(a)炭素質流及び酸素含有流を選択された酸素対炭素比(0/C比)でガス化反応器に供給する工程、(b)ガス化反応器中で炭素質流を部分酸化し、これにより少なくとも合成ガス、CO及びCHを含むガス状生成物流を得る工程、(c)工程(b)で得られた生成物流中のCOの含有量を測定する工程、(d)工程(c)で測定した含有量を、予定含有量と比較し、これにより、できる限り工程(c)で測定した含有量と予定含有量との差異値を得る工程、(e)工程(d)で得られた差異値に基づいて工程(a)における0/C比を調節する工程を含む、炭素質流の部分酸化による合成ガスの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質流の部分酸化による合成ガスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
部分酸化による合成ガスの製造方法は実際に周知である。
一般に石炭、褐炭、泥炭、木材、コークス、煤、又はその他のガス状、液体又は固体燃料又はそれらの混合物のような炭(化水)素質流は、ガス化反応器中でほぼ純粋な酸素、(任意に酸素豊富な)空気等の酸素含有ガスを用いて部分燃焼(さもなければ部分酸化)させると、合成ガス(即ち、CO及びH)、CO、その他を含む生成物流が得られる。
【0003】
生成物流は、通常、例えば急冷部で冷却したり、望ましくない成分を除去するため、更に処理される。また生成物流は、最終用途、或いは一部使用に応じて、シフト転化、湿潤ガスのスクラビング等を行なうことができる。
【0004】
従来の合成ガス製造法の問題は、得られる生成物流の品質が、例えばガス化反応器に供給される炭素質流及び酸素含有流の撹乱又は変化、炭素質流中の灰分の量等により、変化する恐れがあることである。炭素質流として例えば石炭を使用した場合、石炭中のHO含有量の変化により、ガス化反応器内のプロセス条件が変化する可能性があり、その結果、生成物流の組成も変化する。部分酸化法の制御には各種の方法が知られている。例えばGB−A−837074には、水蒸気流を制御するため、部分酸化法の生成物ガス中の二酸化炭素を測定する方法が記載されている。
【0005】
US−A−2941877には、部分酸化反応器中の酸素対炭素の供給原料比を制御する方法が記載されている。酸素対炭素の供給原料比は、赤外線測定法により生成物ガス中のメタン濃度を測定して制御される。制御入力としてメタンを使用する欠点は、信号がシャープな信号ではないので、制御の精度が低下することである。
【特許文献1】GB−A−837074
【特許文献2】US−A−2941877
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生成物流の(一部の)最終ユーザーが、極めて限定された変化しかない一定の品質を望むならば、前記問題はなお一層関連してくる。
本発明の目的は、前記問題を少なくとも最小限にすることである。
別の目的は、合成ガスの代替製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的又は他の目的の1つ以上は、本発明に従って、酸素対炭素比(0/C比)を用いて部分酸化を制御する、炭素質流の部分酸化による合成ガスの製造方法を提供することにより達成できる。この方法は、
(a)炭素質流及び酸素含有流を選択された酸素対炭素比(0/C比)でガス化反応器に供給する工程、
(b)ガス化反応器中で炭素質流を部分酸化し、これにより少なくとも合成ガス、CO及びCHを含むガス状生成物流を得る工程、
(c)工程(b)で得られた生成物流中のCOの含有量を測定する工程、
(d)工程(c)で測定した含有量を、予定含有量と比較し、これにより、できる限り工程(c)で測定した含有量と予定含有量との差異値を得る工程、
(e)工程(d)で得られた差異値に基づいて工程(a)における0/C比を調節する工程、
を含む。
【発明の効果】
【0008】
生成物流中のCOの含有量に基づいて0/C比を制御すると、ガス化反応器中のプロセス条件(例えばガス化温度)及びこれによる生成物流の品質が極めて簡単な方法で制御できることが意外にも見出された。
【0009】
出願人は更に、COの含有量は、赤外線で測定したCH信号に比べて、シャープな信号を示すので、本方法を制御するのに一層適していることを見出した。更に出願人は、極めて限定された変化しかない一定の品質を有する生成物流を得るには、水蒸気流を制御するよりも、0/C比を制御する方が遥かに効率的であることを見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明では炭素質流は、部分酸化により合成ガス含有生成物流を得るのに好適ないかなる液体、ガス状又は固体流(スラリーを含む)であってもよい。用語“炭素質”は、“炭化水素質”を含むことも意味する。本発明方法は、炭素質流として、好ましくは固体粒状高炭素含有供給原料を用いると、特に好適であることが見出された。好ましい原料は固体炭素質原料である。このような原料の例は、石炭、バイオマス、例えば木材及び廃棄物、好ましくは石炭である。更に好ましくは固体炭素質原料は、実質的に、即ち、>90重量%、天然産の石炭又は合成(石油)コークスからなる。好適な石炭としては、亜炭、瀝青炭、亜瀝青炭、無煙炭、及び褐炭が挙げられる。固体炭素質原料は、水スラリーとして、更に好ましくは原料と好適な担体ガスとの混合物としてプロセスに供給してよい。好適な担体ガスは窒素である。
【0011】
酸素含有流としてはいかなる好適な流れも使用できる。通常は、ほぼ純粋な酸素(例えば空気分離ユニットを用いて得られる)が使用される。しかし、空気又は酸素豊富な空気も使用できる。
【0012】
当業者ならば、工程(a)に供給する特定の炭素質流に対し所望の選択されたO/C比を選択方法を容易に理解しよう。本発明ではO/C比は以下の意味を有する。“O”は、酸素含有流中に存在する分子状酸素Oの重量流であり、“C”は、スラリーの場合、任意の担体ガス又は水を除く炭素質原料の重量流である。所望の選択されたO/C比は、例えば供給原料の発熱量J/kgのような特定の炭素質原料についての既知のエネルギー含有量データを用いて測定できる。通常、所望の選択されたO/C比を測定した場合、酸素含有流中のO含有量は測定され、また炭素質流及び酸素含有流についての好適な流速は、所望のO/C比を得るために画定される。
【0013】
CO含有量は赤外線により測定することが好ましいが、他の測定法も使用できる。CO含有量は、明確な制御のため、できるだけ部分酸化工程に近いガス流中で測定することが好ましい。しかし、出願人は、CO含有量を水性ガススクラバーの下流で測定した場合でも、なお本方法は効率的に制御できることを見出した。スクラブしたガスは、更に僅かな酸を含有するので、この方法は分析を簡素化する。また当業者ならば、工程(c)における含有量の測定法を理解しているので、ここでは更に検討しない。
【0014】
生成物流中の含有量と、工程(d)における予定含有量との比較は、手書きで行なうことができる。しかし、普通は、例えば好適なコンピュータープログラムが使用される。予定の含有量は、通常、変化又は撹乱が起こらなければ、選択されたO/C比に基づいて得られた予測の生成物組成(又はその成分の1種以上の予測含有量)に相当する。生成物流中の実際の含有量と予定含有量とに差異(即ち、差異値)が存在すれば、例えば原料流の流速を調節することにより、O/C比は或る程度まで調節される。O/C比を調節した結果、実際の含有量が所望の値になるまで、プロセス条件は変化される(また工程(c)〜(e)が繰り返される)。
【0015】
当業者ならば、この差異値が予め選択された値を超える場合、所望に応じてO/C比を調節するだけであると理解しよう。更に、O/C比の調節は、生成物流の組成が予定の組成からどの程度逸れているかに依存する。
本発明によれば、生成物流中のCO含有量は、比較目的には特に好適であることが見出された。したがって、工程(c)で、できるだけ得られる差異値は、生成物中のCO含有量と、予定のCO含有量との比較に基づいて得ることが好ましい。
【0016】
本発明では差異値が生じた場合(任意に、設定値よりも高い場合)、工程(a)に供給された炭素質流及び酸素含有流の一方又は両方の流速を調節することにより、工程(e)におけるO/C比を調節することが好ましい。工程(e)において炭素質流を調節することが好ましい。
【0017】
他の一局面では本発明は、請求項1及びその従属請求項の1項以上に記載の方法を実施するのに好適なシステムを提供する。このシステムは、少なくとも、
酸素含有流用入口と、炭素質流用入口と、ガス化反応器の下流に該ガス化反応器中で製造された生成物流用出口とを有するガス化反応器;
酸素含有流のガス化反応器への流れを制御するための第一流れ制御器;
炭素質流のガス化反応器への流れを制御するための第二流れ制御器;
生成物流のCO含有量を測定すると共に、これを、予定CO含有量と比較し、これによりできる限り差異値を得るための品質制御器;
を備え、品質制御器は、第一及び第二流れ制御器と機能的に連結し、前記差異値に基づいて第一及び第二の流れ制御器中の流速の少なくとも1つを調節できる。
【0018】
本発明を添付の非限定的図面を参照して実施例により説明する。
図1は本発明方法を実施するためのシステムを示す。この説明目的のため、単一符号は、1つのライン及びこのラインで運ばれる流れに整合させた。同一符号は同様な構造部品を示す。
【0019】
図1を参照すると、図1は、合成ガスの製造システム1の概略図である。ガス化反応器2において、石炭のような炭素質流20及び空気のような酸素含有流10は、それぞれ選択されたO/C比で入口4、3に供給できる。図1に示す実施態様では、選択されたO/C比は、第一及び第二流れ制御器7、8により得られる。第一及び第二流れ制御器7、8は操作可能に接続されている(点線21で示す)。更に、第一及び第二流れ制御器7、8の両方とも、符号11、12で示すバルブを有する。
【0020】
石炭20は、ガス化反応器2内で少なくとも部分的に酸化され、これにより少なくとも合成ガス(即ち、CO+H)、CO及びCHを含むガス状生成物流30が得られる。この目的のため、通常、ガス化反応器2内には数個のバーナーが存在する(図示せず)。炭素質流20として石炭が使用されるので、スラグも形成されるが、スラグは更に処理するため、ライン50経由で除去される。
【0021】
通常、ガス化反応器2における部分酸化は、1200〜1800℃の範囲の温度及び1〜200バールの範囲、通常、40バールの圧力で行なわれる。
図1の実施態様では、製造された合成ガス含有生成物流30は、急冷部6に供給され、ここで生成物流30は、通常、約350℃に冷却される。急冷部6は、いかなる形状のものでもよいが、通常は管状形態である。
【0022】
当業者ならば、急冷部6を出る合成ガス含有生成物流30は更に処理できることは容易に理解しよう。この目的のため、生成物流は、例えば乾燥固体除去ユニット(図示せず)、湿潤ガススクラバー(図示せず)、シフトコンバーター(図示せず)等に供給できる。
【0023】
急冷部6を出る、好ましくは、更に下流の湿潤ガススクラバーを出る合成ガス含有生成物流30は、品質制御器9に供給され、ここで生成物流30中のCO含有量が測定され、予定のCO含有量と比較される。所定のCO含有量は、例えば、変化又は撹乱が起こらなければ、選択されたO/C比に基づいて得られた生成物流30中の予測CO含有量に相当する。
【0024】
生成物流30の組成が、予定のCO含有量から逸れている場合、酸素含有流10と炭素質流20とのO/C比は調節され、またこれによりガス化反応器2中のプロセス条件は影響を受ける。当業者ならば、前記逸れ(即ち、差異値)が設定値を超える場合、所望に応じてO/C比を調節するだけでよいことを理解しよう。
【0025】
酸素含有流10と炭素質流20とのO/C比を所望通りに調節するため、品質制御器9は、流れ制御器7、8(点線22、23で示す)を操作し、その結果、流れ10及び/又は20の流速は変更され、またこれにより生成物流30中のCO含有量は変更される。生成物流30中のCO含有量が予定のCO含有量から逸れている限り、このようなO/C比の調節を行なってよい。
以下に本発明方法の非限定的実施例について説明する。
【実施例1】
【0026】
図1に一般的に示す配列を用いて、固体粒状石炭流の部分酸化により合成ガスを製造した。まず、この石炭流をガス化反応器に供給した。酸素含有流として、ほぼ純粋な酸素(ASUから得た)を用いた。
【0027】
約0.713の選択されたO/C比を(試験的に)得るため、前記石炭流及び酸素流を供給した。ガス化反応器中、約1500℃の温度及び約40バールの圧力で石炭流を部分酸化後、ガス状生成物流が得られた。このガス状生成物の組成を測定し、第I表に示す(“実際の組成物”として示す)。
【0028】
本実施例では生成物流中のCO含有量は、赤外線測定法により測定し、生成物流中の(計算した)予定CO含有量(第I表にも示す)と比較した。その結果、実際の組成中のCO含有量及び予定組成物中のCO含有量(casu 0.74モルで)との差異値が得られた。COの差異値は高すぎる(予定含有量の例えば1%の予め選択された値を超える)とみなされたので、酸素流の流速は一定に維持しながら、炭素質流の流速を修正することにより、ガス化反応器に供給した石炭流及び酸素流のO/C比を調節した。生成物中の実際のCO含有量と、予定のCO含有量との差異値が1%の予め選択された値よりも低い限り、この調節を繰り返した。
【0029】
所望ならば、1%とは異なる予め選択された値(例えば0.5%のように)を選択できることは言うまでもない。予め選択された値は、好ましくは0.5〜5%である。
【0030】
【表1】

【0031】
当業者ならば、特許請求の範囲に定義した範囲を逸脱することなく、各種方法で本発明を改変できることは容易に理解しよう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明方法を実施するための合成ガス製造システムである。
【符号の説明】
【0033】
1 合成ガス製造システム
2 ガス化反応器
3 酸素含有流用入口
4 炭素質流用入口
5 生成物流用出口
6 急冷部
7 第一流れ制御器
8 第二流れ制御器
9 品質制御器
10 酸素含有流
20 炭素質流
11 バルブ
12 バルブ
20 石炭
30 生成物流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素対炭素比(0/C比)を用いて部分酸化を制御する、炭素質流の部分酸化による合成ガスの製造方法であって、
(a)炭素質流及び酸素含有流を選択された0/C比でガス化反応器に供給する工程、
(b)ガス化反応器中で炭素質流を部分酸化し、これにより少なくとも合成ガス、CO及びCHを含むガス状生成物流を得る工程、
(c)工程(b)で得られた生成物流中のCOの含有量を測定する工程、
(d)工程(c)で測定した含有量を、予定含有量と比較し、これにより、できる限り工程(c)で測定した含有量と予定含有量との差異値を得る工程、
(e)工程(d)で得られた差異値に基づいて工程(a)における0/C比を調節する工程、
を含む該方法。
【請求項2】
工程(d)でできる限り得られた差異値が、生成物流中のCO含有量と予定CO含有量との比較に基づいて得られる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
差異値は、予定CO含有量に対する、生成物流中のCO含有量と予定CO含有量との絶対差の百分率として表されると共に、工程(e)は、差異値が0.5〜5%の予め選択された値を超えた場合に行なわれる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)に供給された炭素質流が粒状石炭を含有する請求項1〜3の1項以上に記載の方法。
【請求項5】
0/C比が、工程(a)に供給された炭素質流及び酸素含有流又はそれらの組合わせ流の1つの流速を調節することにより、工程(e)において調節される請求項1〜4の1項以上に記載の方法。
【請求項6】
0/C比が、酸素含有流を一定に保持しながら、炭素質流の流速を調節することにより、調節される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6の1項以上に記載の方法を実施するのに好適なシステム(1)であって、少なくとも、
酸素含有流(10)用入口(3)と、炭素質流(20)用入口(4)と、ガス化反応器(2)の下流に該ガス化反応器(2)中で製造された生成物流(30)用出口(5)とを有するガス化反応器(2);
酸素含有流(10)のガス化反応器(2)への流れを制御するための第一流れ制御器(7);
炭素質流(20)のガス化反応器(2)への流れを制御するための第二流れ制御器(8);
生成物流(30)のCO含有量を測定すると共に、これを、予定CO含有量と比較し、これによりできる限り差異値を得るための品質制御器(9);
を備え、品質制御器(9)は、第一及び第二流れ制御器(7、8)と機能的に連結し、前記差異値に基づいて第一及び第二の流れ制御器(7、8)中の流速の少なくとも1つを調節できる該システム。

【図1】
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【公表番号】特表2009−519370(P2009−519370A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−544982(P2008−544982)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【国際出願番号】PCT/EP2006/069573
【国際公開番号】WO2007/068684
【国際公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP