説明

合成スメクタイトペースト、合成スメクタイト自立膜、合成スメクタイト膜及び合成スメクタイト膜の製造方法

【課題】 十分な膜形成性を有し、可とう性及び耐水性に優れたスメクタイト膜の形成を可能とする合成スメクタイトペースト、並びに、これを用いた合成スメクタイト自立膜、合成スメクタイト膜及び合成スメクタイト膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の合成スメクタイトペーストは、ナトリウムイオンの含有量が10ppm以下である3八面体型合成スメクタイトと、ナトリウムイオンの含有量が10ppm以下である水溶性高分子と、を含有し、3八面体型合成スメクタイトと水溶性高分子との質量比が95/5〜50/50であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成スメクタイトペースト、並びに、これを用いた合成スメクタイト自立膜、合成スメクタイト膜及び合成スメクタイト膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スメクタイトと呼ばれる粘土鉱物には、土壌から産出される天然スメクタイト、もしくは水熱合成法などの手法によって人工的に合成される合成スメクタイトがある(例えば、非特許文献1参照)。これらのスメクタイトは、水などの溶媒に混合することによって膨潤し、チキソトロピー性を有するスメクタイト分散液に変化する性質を有するが、合成スメクタイト分散液は、天然スメクタイト分散液よりも高い透明性を有することが知られている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0003】
近年、合成スメクタイトを主成分とする透明粘土膜が開発されている。例えば、下記特許文献3には、粘土膜の全固形分に対して粘土を70質量%以上含有し、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、高い耐熱性(最大450℃)とガスバリア性(酸素ガス透過係数:3.2×10−11cm−1cmHg−1未満)を達成する粘土膜が開示されている。また、下記特許文献4には、粘土の含有率が70質量%以上で高い透明性(全透過率80%以上)、および柔軟性を有する粘土膜が開示されている。
【0004】
上記の透明粘土膜は、合成スメクタイトを主成分として含有する分散液(合成スメクタイトペースト)を、金属板及びポリマーフィルムなどの基材上で乾燥し、溶媒を除去することによって作製される。合成スメクタイトは水中で膨潤して均一な合成スメクタイトペーストになることから、合成スメクタイトの分散液を塗布し、乾燥することによって粘土の層が均一に積層した膜を形成できる(例えば、非特許文献2を参照)。上記透明粘土膜は、粘土単独でも成膜性を有する合成スメクタイトを用いることで、粘土を多く含有する場合でも、透明粘土膜の形成が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−292616号公報
【特許文献2】特開昭58−181718号公報
【特許文献3】特開2005−313604号公報
【特許文献4】特開2009−274924号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本粘土学会編、「粘土ハンドブック第二版」、技報堂出版、206頁
【非特許文献2】Clay Science 13 (2007) 159
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水等の分散媒に対するスメクタイトの膨潤性は、粘土膜形成に重要な性質である。しかし、一方で、水等への高い分散性及び膨潤性は、形成した粘土膜の耐水性を低下させる原因となる。また、形成した粘土膜を、例えば食品用包装材、フレキシブルディスプレイ用基材として使用する場合、スメクタイト膜には可とう性が要求される。
【0008】
本発明は、十分な膜形成性を有し、可とう性及び耐水性に優れたスメクタイト膜の形成を可能とする合成スメクタイトペースト、並びに、これを用いた合成スメクタイト自立膜、合成スメクタイト膜及び合成スメクタイト膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討した結果、ナトリウムイオン含有量が特定の濃度以下である合成スメクタイトと、ナトリウムイオン含有量が特定の濃度以下である水溶性高分子とを、特定の割合で配合して得られるペーストが、樹脂フィルム及びガラス基板のいずれの基材上にも良好な膜を形成でき、しかも樹脂フィルムに追従可能な可とう性を有し、耐水性に優れたスメクタイト膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の合成スメクタイトペーストは、ナトリウムイオンの含有量が10ppm以下である3八面体型合成スメクタイトと、ナトリウムイオンの含有量が10ppm以下である水溶性高分子と、を含有し、3八面体型合成スメクタイトと水溶性高分子との質量比が95/5〜50/50であることを特徴とする。
【0011】
本発明の合成スメクタイトペーストによれば、上記構成を有することにより、基材上に所望の厚みを有する膜を良好に形成することができ、しかも可とう性及び耐水性に優れたスメクタイト膜を形成することができる。また本発明の合成スメクタイトペーストによれば、膜の形成後に加熱処理を施すことにより、更に高水準の耐水性を有するスメクタイト膜が実現可能となる。
【0012】
なお、3八面体型合成スメクタイトのナトリウムイオンの含有量が10ppmを超えると優れた耐水性を得ることができなくなる。また水溶性高分子のナトリウムイオンの含有量が10ppmを超える場合も、3八面体型合成スメクタイトと混合した際にスメクタイトの結晶構造内にナトリウムが含有されることにより、結果として、優れた耐水性を得ることができなくなる。
【0013】
3八面体型合成スメクタイトと水溶性高分子との質量比が95/5を超える、すなわち、水溶性高分子の配合量が本発明に係る範囲よりも少ないと、樹脂フィルムなどの基材上への濡れ性が低下することに伴い、基材上での膜形成性が十分でなくなる。一方、3八面体型合成スメクタイトと水溶性高分子との質量比が50/50を下回る、すなわち、水溶性高分子の配合量が本発明に係る範囲よりも多いと、フィルム形成性を有するスメクタイト成分の低下に伴い、ガラス基板などの基材上での膜形成性が十分でなくなる。
【0014】
本発明の合成スメクタイトペーストにおいて、3八面体型合成スメクタイトと同様に水への分散性を有し、均一相として混合可能であるという観点から、上記水溶性高分子がカルボキシメチルセルロースアンモニウムであることが好ましい。
【0015】
本発明の合成スメクタイトペーストにおいて、上記3八面体型合成スメクタイトが下記一般式(1)で表されるスチーブンサイトを含む合成スメクタイトであることが好ましい。
LiMgSi10(OH) …(1)
式(1)中、xは0.3<x<0.7の関係を満たし、yは2.6<y<3.0の関係を満たす。
【0016】
また、樹脂フィルム基材もしくはガラス基材上に塗布したときのフィルム形成性及び塗れ性の理由から、上記3八面体型合成スメクタイトは、1質量%の水溶液としたときの20℃における粘度が300〜600mPa・sとなるものであることが好ましい。
【0017】
本発明はまた、本発明の合成スメクタイトペーストを用いて形成される合成スメクタイト自立膜を提供する。本発明の合成スメクタイト自立膜は、本発明の合成スメクタイトペーストを用いて形成されることにより、均一性に優れ、耐水性に優れたものになり得る。また酸素存在下で加熱処理された場合には、更に高水準の耐水性を得ることができる。
【0018】
本発明はまた、本発明の合成スメクタイトペーストを用いて形成される合成スメクタイト膜を提供する。本発明の合成スメクタイト膜は、本発明の合成スメクタイトペーストを用いて形成されることにより、均一性に優れ、耐水性に優れたものになり得る。
【0019】
本発明の合成スメクタイト膜は、酸素存在下で加熱されたものであることが好ましい。この場合、更に高水準の耐水性を有することができる。この理由を本発明者らは、水溶性高分子が燃焼することによる発熱によって合成スメクタイトに対する加熱温度が上昇し、合成スメクタイトに含有されるリチウムイオンの結晶構造中への固定化が促進された結果、耐水性が更に向上したものと考えている。
【0020】
更に、上記加熱により水溶性高分子が全て除去されていることが好ましい。
【0021】
本発明はまた、基材上に、本発明の合成スメクタイトペーストを塗布、又は、予め得られている本発明の合成スメクタイト自立膜を貼付することにより被加熱膜を形成し、当該被加熱膜を酸素存在下、300〜500℃で加熱する、合成スメクタイト膜の製造方法を提供する。
【0022】
本発明の合成スメクタイト膜の製造方法によれば、優れた耐水性を有する合成スメクタイト膜を形成することができる。この理由を本発明者らは、水溶性高分子が燃焼することによる発熱によって合成スメクタイトに対する加熱温度が上昇し、合成スメクタイトに含有されるリチウムイオンの結晶構造中への固定化が促進された結果、耐水性が更に向上したものと考えている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、十分な膜形成性を有し、可とう性及び耐水性に優れたスメクタイト膜の形成を可能とする合成スメクタイトペースト、並びに、これを用いた合成スメクタイト自立膜、合成スメクタイト膜及び合成スメクタイト膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】合成例1で得られた合成スメクタイトのXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<合成スメクタイトペースト>
本発明の合成スメクタイトペーストは、ナトリウムイオンの含有量が10ppm以下である3八面体型合成スメクタイトと、ナトリウムイオンの含有量が10ppm以下である水溶性高分子と、を含有し、3八面体型合成スメクタイトと水溶性高分子との質量比が95/5〜50/50であることを特徴とする。
【0026】
本発明で用いるナトリウムイオンの含有量が10ppm以下である3八面体型合成スメクタイトとしては、例えば、下記一般式(1)で表されるスチーブンサイトを含む合成スメクタイトが挙げられる。
LiMgSi10(OH) …(1)
式(1)中、xは0.3<x<0.7の関係を満たし、yは2.6<y<3.0の関係を満たす。
【0027】
3八面体型合成スメクタイトは、マグネシウムおよび水酸イオンからなる八面体シート1枚をケイ素および酸素からなる四面体シート2枚で挟んだ単位構造が積層した層状構造間に、アルカリ金属イオンもしくはアルカリ土類金属イオンが層間イオンとして存在する構造を有する。
【0028】
上記一般式(1)で表されるスチーブンサイトを含む合成スメクタイトを用いることにより、ナトリウムイオンの含有量が10ppm以下である3八面体型合成スメクタイトを用意することができる。
【0029】
合成スメクタイトのナトリウムイオンの含有量は、ICPによって測定することができる。具体的には、合成スメクタイト0.1mgを、25℃の1質量%酢酸アンモニウム水溶液10g中で24時間浸透させた後、遠心分離などの方法で固液分離した上澄み液についてICP測定し、上澄み中に含有されるナトリウム量を定量することによって、合成スメクタイトのナトリウムイオンの含有量を測定することができる。
【0030】
なお、ナトリウムの含有量が10ppmを超える3八面体型合成スメクタイトを含有する合成スメクタイトペーストでは、得られる合成スメクタイト自立膜又は合成スメクタイト膜の耐水性が不十分であり、それらを加熱処理しても耐水性を向上させることができない。
【0031】
また、3八面体型合成スメクタイトとしては、Li、Mg及びSiを含み、Li/Si=0.08〜0.17、Mg/Si=0.65〜0.72の範囲であるスチーブンサイトを含む2:1型3八面体型合成スメクタイトを用いることができる。係る2:1型3八面体型合成スメクタイトは、Siを有する一対の四面体層(四面体シート)が頂点を向かい合わせて配置し、前記一対の四面体層に挟まれるように、Mgを有する八面体層(八面体シート)位置し、層間陽イオンとしてLiを配置した構造となる。この場合、Li/Siの値は、結晶性が高く、より質の高いスメクタイトとなる観点から、0.10〜0.17であることが好ましい。
【0032】
なお、本実施形態おけるLi/Si及びMg/Siは下記の方法により算出した値を示す。すなわち、Li/Siは、合成原料に入れたSiの量に対して、層間イオン又は層内に入ったLiを測定し計算する。層間イオンとしてのLi量は、メチレンブルー吸着法を用いて層間のLiと交換されたメチレンブルーの量を測定し、換算する。一方、層内に入ったLiの量は合成原料に添加したLi量とICP測定で検出されたLi量の差から算出する。Mg/SiはEDX元素分析を用いて測定する。
【0033】
上記の2:1型3八面体型合成スメクタイトには、上記スチーブンサイトの構成元素としてではなく、不純物としてリチウム塩がLi/Si<0.15の範囲で含まれていてもよい。3八面体型合成スメクタイトの合成は、求めるスメクタイトの理論組成比に従って原料を配合し合成を行うのが一般的である。しかし、後述する本実施形態に係る2:1型3八面体型合成スメクタイトの合成方法の一例においては、理論組成比に従って原料を配合しても、理論組成のスメクタイトの合成が出来ない場合がある。これは、本実施形態に係る2:1型3八面体型合成スメクタイトの合成方法の一例においては、スメクタイト合成の促進剤として機能するナトリウムを含まない原料を用いるためと考えられる。本実施形態に係る2:1型3八面体型合成スメクタイトの合成方法の一例においては、層間イオンであるリチウムイオンの量を理論組成比よりも過剰にすることが好ましい。リチウムイオンが過剰の環境下においては、ナトリウムが存在しなくてもスチーブンサイトを含む2:1型3八面体型合成スメクタイトが合成できると考えられる。
【0034】
上記リチウムイオンの過剰な条件下での合成においては、合成後に過剰に存在するリチウムは粘土の構成元素としてではなく、塩の形で生成することになる。このリチウム塩は、合成後に、例えば、洗浄を行うことによって除去しても良いが、洗浄を行わなくても上記範囲内(Li/Si<0.15)であれば本発明の効果に大きく影響を与えない。一方、不純物として含まれるリチウム塩が、Li/Siで0.15以上となると、スメクタイト合成の時にスメクタイトの結晶化が妨害される可能性がある。
【0035】
なお、不純物としてのLi/Siは下記の方法により算出した値を示す。不純物としてのLi量は、添加したLi量から層間イオンとしてのLiと層内に入ったLiの量を引いた値である。層間イオンとしてのLi量は、メチレンブルー吸着法を用いて層間のLiと交換されたメチレンブルーの量を測定し、換算する。層内に入ったLiの量は合成原料に添加したLi量とICP測定で検出されたLi量の差から算出する。Li/Siは、合成原料に入れたSiの量と不純物としてのLi量の比から計算することができる。
【0036】
本発明で用いる3八面体型合成スメクタイトはNaを含まないことが好ましい。Naを含まないとは、合成スメクタイトの層間イオンをICPによって測定した際に、検出限界値においてもNaが検出されないことであり、測定誤差程度でNaが検出されることは意図しない。上記2:1型3八面体型合成スメクタイトの場合、Naを含まないことによって、層間に存在する陽イオン(層間陽イオン)はほぼ全てがリチウムイオンとなり、加熱処理をすることによって層間のリチウムイオンが粘土の八面体層内に移動し、層間陽イオン成分が減少することにより耐水性が向上する。加熱温度としては、300〜500℃であることが好ましい。リチウムイオンはイオン半径が小さいため、リチウムイオンが上記加熱処理によって粘土の八面体層内に移動し、固定される。この反応は非可逆的な反応であり、一旦、層内に移動したリチウムイオンは、再び粘土の層間に戻ることはなくなる。これによって、粘土の層電荷は低下し、水中で膨潤しにくくなる(耐水性が向上する)。一方、ナトリウムイオンは半径が大きいため、加熱処理を行っても八面体層内に移動することができず、上記のような粘土の層電荷変化は起こらない。
【0037】
加熱を、酸素存在下、300〜500℃、好ましくは400〜500℃、より好ましくは450〜500℃で行った場合には、更に耐水性を向上させることが可能となる。これは、上記水溶性高分子が燃焼することによる発熱によって合成スメクタイトに対する加熱温度が上昇し、合成スメクタイトに含有されるリチウムイオンの結晶構造中への固定化が促進されたことによるものと考えられる。
【0038】
また、樹脂フィルム基材もしくはガラス基材上に塗布したときのフィルム形成性および塗れ性の理由から、上記3八面体型合成スメクタイトは、1質量%の水溶液としたときの20℃における粘度が300〜600mPa・sとなるものであることが好ましい。
【0039】
上記水溶液の粘度が300mPa・sを下回ると、合成スメクタイトに含有される未反応の成分、たとえば非晶質の二酸化ケイ素などの含有量が多くなる。その結果、合成スメクタイトペーストの透明性が低下し、合成スメクタイトペーストから得られる合成スメクタイト自立膜、及び合成スメクタイト膜の光学特性が低下する傾向にある。一方、上記水溶液の粘度が600mPa・sを超えると、合成スメクタイトに含有されるナトリウムの量が本発明で規定する上限値を超える傾向にある。その結果、合成スメクタイトペーストから得られる合成スメクタイト自立膜、及び合成スメクタイト膜を加熱処理しても耐水性が向上しにくくなる。
【0040】
なお、上記粘度は、B型粘度計を用い、上記水溶液100gを100mLトールビーカに入れて、粘度上限1000mPa・sでの測定が可能な回転子を使用して測定された値を指す。
【0041】
2:1型3八面体型合成スメクタイトの合成方法の一例を説明する。2:1型3八面体型合成スメクタイトは、水熱法により合成することができる。以下、水熱法の各工程について詳細に説明する。
【0042】
(第1工程)
スメクタイトのシリカ源となるケイ素化合物及びマグネシウム源となるマグネシウム化合物を含有する水溶液を調製する。この水溶液は、例えば、それぞれの化合物を含有する水溶液を常温(15〜25℃)にて混合することによって調整することができる。
【0043】
ケイ素化合物を含有する水溶液としては、例えば、コロイダルシリカ、アモルファスシリカ、珪酸エチル、二酸化ケイ素等を含有する水溶液または非結晶質シリカが挙げられる。これらは、一種又は二種以上を組み合わせて用いても構わない。一般的には、水ガラスがシリカ源となるが、水ガラスは酸化ナトリウムを9〜10%程度含有するため、本発明の効果が得られにくい傾向があり好ましくない。本発明で用いる合成スメクタイトの合成においては、原料の段階からナトリウムを含有しない材料を用いることが好ましい。ケイ素化合物を含有する水溶液を調整する際には、pHを5以下とすることが好ましく、必要に応じて、硝酸、塩酸、硫酸等の鉱酸によって調整してもよい。
【0044】
また、マグネシウム化合物を含有する水溶液としては、例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム等を含有する水溶液が挙げられる。これらは、一種又は二種以上を組み合わせて用いても構わない。
【0045】
次に、ケイ素化合物及びマグネシウム化合物を含有する水溶液に、常温(15〜25℃)にてアルカリ水溶液を滴下することにより均質複合沈殿物を含む分散液を得る。
【0046】
アルカリ水溶液としては、例えば、アンモニア水、水酸化リチウム水溶液等が挙げられるが、水酸化リチウム水溶液にはリチウムイオンが含まれるため、スメクタイトの層間イオンの量に影響を及ぼす可能性があるため、アンモニア水を用いることが好ましい。
【0047】
アルカリ水溶液の滴下は、撹拌をしながらゆっくりとアルカリ水溶液を混合し、全体に均一な状態とすることが好ましい。また、アルカリ水溶液の滴下は、pHが10以上になるまで行うことが好ましい。滴下終了後、必要に応じて、数時間放置することによって、均質複合沈殿物の生成を充分なものとすることができる。
【0048】
得られた均質複合沈殿物は、水洗浄を繰り返し行うことにより、NH、NO、Cl等の副生電解質を充分に除去することが好ましく、例えば、アルカリ水溶液としてアンモニア水を用いた場合は、アンモニア臭が無くなるまで水洗浄を繰り返すことが好ましい。水洗浄は、均質複合沈殿物へ蒸留水を添加後、振盪し、固液分離を行うことが挙げられる。洗浄後の均質複合沈殿物は、水と混合して次工程に用いる分散液とすることができる。
【0049】
(第2工程)
第1工程にて得られた均質複合沈殿物の分散液に、リチウムイオン源となるリチウム化合物を含有する水溶液を混合し出発原料スラリーを得る。
【0050】
リチウム化合物の水溶液としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化リチウム一水和物、水素化リチウム、過酸化リチウム等を含有する水溶液が挙げられる。これらは、一種又は二種以上を組み合わせて用いても構わない。リチウム化合物の添加量は、シリカ源として用いられるケイ素化合物中のSiを4とした場合、リチウム化合物中のLiが、(0.45〜1.20であることが好ましい。Liの添加量が、前記範囲内であれば、後述する第3の工程において洗浄を行わずとも、目的のスメクタイトが得られやすい傾向がある。
【0051】
(第3の工程)
第3の工程は、第2の工程で得られた出発原料スラリーの水熱反応を行う。この工程では、出発原料スラリーをオートクレーブに仕込み、水熱反応をさせる。水熱反応の温度は、100〜300℃であることが好ましい。水熱反応の時間は、24時間以上であることが好ましい。出発原料スラリーをオートクレーブに仕込む前に、また、水熱反応終了後に、必要に応じて、出発原料スラリー中に不純物として含まれるリチウム塩を洗浄することも可能である。
【0052】
(第4の工程)
第3の工程の水熱反応後、オートクレーブ内の内容物を取り出し、15〜150℃の温度で乾燥、適宜粉砕することにより、2:1型3八面体型合成スメクタイトを得ることができる。
【0053】
なお、得られたスメクタイトは、EDX、ICP、XRD等の測定を行うことにより、スチーブンサイトを含む3八面体型合成スメクタイトであることが確認できる。具体的には、EDXによって、スメクタイトのSiとMgの比率又は不純物成分を確認することができる。ICPによって、層間イオンの種類・量又は層間・層内のLiイオン量を確認することができる。XRDによって、スメクタイトの種類、配向性、結晶化度、結晶系不純物を確認することができる。
【0054】
本発明で用いるナトリウムの含有量が10ppm以下である水溶性高分子としては、例えば、ポリアクリル酸アンモニウム、カルボキシメチルセルロースアンモニウムなどが挙げられる。3八面体型合成スメクタイトと同様に水への分散性を有し、均一相として混合可能であるという観点から、カルボキシメチルセルロースアンモニウムが好ましい。
【0055】
上記水溶性高分子は、重量平均分子量が10000〜100000が好ましく、15000〜80000がより好ましく、30000〜60000がさらに好ましい。
【0056】
本発明の合成スメクタイトペーストにおいて上記3八面体型合成スメクタイトと上記水溶性高分子との質量比は95/5〜50/50であるが、フィルム形成性および基材への塗れ性の観点から、好ましくは93/7〜50/50であり、より好ましくは90/10〜50/50である。また、加熱による耐水性向上の観点から、上記質量比は93/7〜50/50が好ましく、90/10〜50/50がより好ましい。
【0057】
本発明の合成スメクタイトペーストにおける上記3八面体型合成スメクタイトの含有量は、ペースト全量基準で0.1〜3質量%が好ましく、0.1〜2質量%がより好ましい。含有量が上記の範囲内であれば、自立膜の形成、樹脂フィルム基材もしくはガラス基材上への膜形成が容易にできる。
【0058】
本発明の合成スメクタイトペーストは、水に上記3八面体型合成スメクタイト及び上記水溶性高分子を混合したものであることが好ましい。水以外の分散媒としては、エタノール、メタノールなどのアルコールを用いることができる。
【0059】
本発明の合成スメクタイトペーストは、ナトリウムイオン含有量が10ppm以下であることが好ましい。ナトリウムイオン含有量が10ppmを超えると、例えば本発明の合成スメクタイトペースト、本発明の合成スメクタイトペーストから得られる合成スメクタイト自立膜及び合成スメクタイト膜を電子デバイス用途に使用した場合、絶縁特性などの電気特性が低下する傾向にある。
【0060】
本発明の合成スメクタイトペーストに含有されるナトリウムイオン量の定量には、例えば高周波誘導プラズマ発光分光分析法(ICP)、イオンクロマトグラフ法などの定量分析方法を好適に用いることができる。
【0061】
本発明の合成スメクタイトペーストの作製には、マグネチックスターラー、及び自転・公転ミキサーなどの混合方法を好適に適用することができる。
【0062】
<合成スメクタイト自立膜>
本発明の合成スメクタイトペーストを用いて合成スメクタイト自立膜を得ることができる。より具体的には、本発明の合成スメクタイトペーストを、任意の基材上に展開し、合成スメクタイトペーストに含有される水分を乾燥などの方法で除去し、基材から剥離することによって、単独でもハンドリング可能なフィルム強度を有する合成スメクタイト自立膜を好適に得ることができる。
【0063】
基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミドなどの樹脂フィルム、ソーダガラス、石英ガラスなどのガラス基材、アルミニウム、ステンレス、シリコンなどの金属基材が挙げられる。
【0064】
ペーストを基材上に展開する方法としては、例えば、キャスト法が挙げられる。
【0065】
合成スメクタイト自立膜の膜厚は、5〜200μmであることが好ましく、8〜150μであることがより好ましく、10〜100μmであることがさらに好ましい。合成スメクタイト自立膜の膜厚は、例えばマイクロメーターのような装置によって好適に測定できる。
【0066】
合成スメクタイト自立膜の膜厚が5μmを下回ると、上記の基材への接着が強固になる。その結果、基材からの剥離が困難となり、単独でもハンドリング可能なフィルム強度を有する合成スメクタイト自立膜が得られにくくなる。一方、合成スメクタイト自立膜の膜厚が200μmを超えると、上記の基材に展開後の水分除去が困難となる。その結果、合成スメクタイト自立膜が得られにくくなる。
【0067】
本発明の合成スメクタイト自立膜は、加熱処理を施すことによって耐水性を更に向上させることが可能である。
【0068】
加熱温度としては、350〜500℃であることが好ましい。300℃を下回ると、層間イオンが層状構造内に十分に固定されず、合成スメクタイト自立膜の耐水性を向上させることができない。一方、加熱温度が500℃を超えると、耐水性は向上するものの、合成スメクタイト自立膜の透明性が低下する傾向にある。また、加熱時間としては、6時間以上であれば特に制限はない。
【0069】
本発明においては、酸素存在下、300〜500℃で加熱することが好ましく、400〜500℃で加熱することがより好ましく、450〜500℃で加熱することが更により好ましい。このような加熱を行うことにより、耐水性を更に向上させることが可能となる。加熱処理としては、例えば大気雰囲気式箱型電気炉を用い、500℃、12時間の加熱をする方法が挙げられる。
【0070】
本発明の合成スメクタイト自立膜は、上記の加熱が施されることにより、例えば85℃−85%RHの高温高湿庫中に5時間放置した際の吸湿率を5%以下に低減することが可能である。
【0071】
<合成スメクタイト膜>
本発明の合成スメクタイトペーストを用いて合成スメクタイト膜を得ることができる。より具体的には、本発明の合成スメクタイトペーストを、任意の基材上に展開し、合成スメクタイトペーストに含有される水分を乾燥などの方法で除去することによって、合成スメクタイトの薄膜を好適に得ることができる。
【0072】
基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミドなどの樹脂フィルム、ソーダガラス、石英ガラスなどのガラス基材、アルミニウム、ステンレス、シリコンなどの金属基材が挙げられる。
【0073】
ペーストを基材上に展開する方法としては、例えば、バーコート、スリットコート等の手段でコーティングする方法、合成スメクタイトペースト中に基材をディッピングする方法などが挙げられる。
【0074】
また、合成スメクタイト膜の基材上への接着性を向上させるために、例えば、プラズマ処理、紫外線照射などの表面処理を基材にあらかじめ施してから合成スメクタイト膜を形成してもよい。
【0075】
合成スメクタイト膜の膜厚は、0.05〜5μmであることが好ましく、0.08〜2μmであることがより好ましく、0.15〜1.5μmであることがさらに好ましい。合成スメクタイト膜の膜厚は、例えばマイクロメーター、走査型電子顕微鏡を用いた薄膜断面観察のような手法によって好適に測定できる。
【0076】
合成スメクタイト膜の膜厚が0.05μmを下回ると、薄膜にピンホールなどの欠陥を生ずるようになる。その結果、例えばガスバリア用フィルムとして合成スメクタイト薄膜を応用する場合、ガスバリア性の低下などを招く原因となる。一方、合成スメクタイト膜の膜厚が5μmを超えると、合成スメクタイト薄膜が上記の基材から剥離するようになる。その結果、例えば上記の基材のコーティング材料として合成スメクタイト薄膜を応用することが困難となる。
【0077】
本発明の合成スメクタイト膜は、加熱処理を施すことによって耐水性を更に向上させることが可能である。
【0078】
加熱温度としては、300〜500℃であることが好ましい。300℃を下回ると、層間イオンが層状構造内に十分に固定されず、合成スメクタイト膜の耐水性を向上させることができない。一方、加熱温度が500℃を超えると、耐水性は向上するものの、合成スメクタイト膜の透明性が低下する傾向にある。また、加熱時間としては、6時間以上であれば特に制限はない。
【0079】
本発明においては、酸素存在下、300〜500℃で加熱することが好ましく、400〜500℃で加熱することがより好ましく、450〜500℃で加熱することが更により好ましい。このような加熱を行うことにより、耐水性を更に向上させることが可能となる。加熱処理としては、例えば大気雰囲気式箱型電気炉を用い、500℃、12時間の加熱をする方法が挙げられる。
【0080】
本発明の合成スメクタイト膜は、上記の加熱が施されることにより、例えば85℃−85%RHの高温高湿庫中に5時間放置した際の吸湿率を5%以下に低減することが可能である。また、本発明の合成スメクタイト膜は、上記の加熱が施されることにより、例えば合成スメクタイト膜を25℃−50%RHの室温中に24時間放置した後、昇温脱離ガス分析法(TDS)により測定される全圧ピーク値を1.0×10−6Pa未満に低減することが可能である。本発明による上記特性を有する合成スメクタイト膜が形成できるという効果は、水溶性高分子を含む合成スメクタイトペーストを用いていることを鑑みると予想外のものであるといえる。
【0081】
<合成スメクタイト膜の製造方法>
本発明の合成スメクタイトペーストを用いて合成スメクタイト膜を製造する方法について説明する。
【0082】
本実施形態の合成スメクタイト膜の製造方法は、基材上に、本発明の合成スメクタイトペーストを塗布、又は、予め得られている本発明の合成スメクタイト自立膜を貼付することにより被加熱膜を形成し、当該被加熱膜を酸素存在下、300〜500℃で加熱する工程を備えるものである。
【0083】
基材としては上述したものが用いられ、本実施形態においてはガラス基材、金属基材を好適に使用できる。
【0084】
合成スメクタイトペーストを塗布する方法としては、バーコート、スリットコート、ディップコートなどが挙げられる。合成スメクタイト自立膜を貼付する方法としては、転写法が挙げられる。
【0085】
また、合成スメクタイト膜の基材上への接着性を向上させるために、例えば、プラズマ処理、紫外線照射などの表面処理を基材にあらかじめ施してから被加熱膜を形成してもよい。
【0086】
本実施形態においては、本発明に係る合成スメクタイトペーストにおける上記3八面体型合成スメクタイトと上記水溶性高分子との質量比が90/10〜50/50であり、加熱後に得られる合成スメクタイト膜の膜厚が50〜100μmであることが好ましい。この場合、加熱処理前の優れた可とう性と、加熱処理後の優れた耐水性とを両立することができる。
【0087】
本発明の合成スメクタイト自立膜及び合成スメクタイト膜は、食品包装材、ディスプレイ用基材、太陽電池用基材などに用いることができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例及び比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
<3八面体型合成スメクタイトの合成>
(合成例1)
コロイダルシリカ(Ludox TM 50、SigmaAldrich社製)60gと蒸留水120mlとを混合した分散液に硝酸20mlを添加した。これに硝酸マグネシウム(一級試薬)91gと蒸留水128mlとを混合した溶液を入れて攪拌しながら、アンモニア水(28%水溶液)をゆっくりと滴下した。pH10になったところで滴下を止め、室温で一晩熟成させ、均一複合沈殿を得た。その後、蒸留水の添加、振盪、固液分離の過程による水洗浄をアンモニア臭がなくなるまで繰り返した。充分に洗浄を行った均一複合沈殿の分散液に、10質量%の水酸化リチウム水溶液を25.4ml添加し、よく混合し、出発原料スラリーを得た。出発原料スラリーをオートクレーブに仕込み、200℃で48時間水熱反応させた。冷却後、オートクレーブ内の反応生成物を取り出し、60℃で乾燥した後、粉砕し、2:1型3八面体型合成スメクタイトを得た。得られたスメクタイトについて下記各種評価を行った。
【0090】
[2:1型3八面体合成スメクタイトの確認]
XRDのパターン(Bruker/MacScience M21X)から目的のスメクタイトが生成しているかを確認した。得られたスメクタイトの水分散液(2.5質量%)をガラス基板上に滴下し、乾燥してできたスメクタイト膜のXRDパターンを測定した。目的のスメクタイトが得られている場合、図1に示すようなd(001)ピークが2θ=6℃付近に現れるスメクタイトのパターンを示す。このd(001)ピークの有無によって目的のスメクタイトが得られているかどうかを判断した。結果を表1に示す。
【0091】
[Li/Si及びMg/Siの算出]
下記の方法により、Li/Si及びMg/Siの算出を行った。
【0092】
Li/Siは、合成原料に入れたSiの量に対して、層間イオン又は層内に入ったLiを測定し計算した。層間イオンとしてのLi量は、メチレンブルー吸着法を用いて層間のLiと交換されたメチレンブルーの量を測定し、換算した。具体的には、得られたスメクタイトを110℃で1時間乾燥し0.02gを秤量し、濃度1.5×10−6mol/mlのメチレンブルー水溶液30ml中に添加し、撹拌しながら3日間室温にて放置した。その後、孔径0.45μmのフィルターを用いて、スメクタイトと溶液を分離した。分離した溶液0.1mlに蒸留水3mlを添加し希釈した後、希釈溶液のメチレンブルー濃度を測定した。濃度の測定は、分光光度計((株)島津製作所製 MPS−2450)を用い波長665nmで測定し、スメクタイト100gあたりのメチレンブルー吸着量を算出した。ここで算出されたメチレンブルー吸着量を、層間イオンとして存在するLiの量とした。
【0093】
一方、層内に入ったLiの量は合成原料に添加したLi量とICP測定で検出されたLi量の差から算出した。具体的には、得られたスメクタイト0.1mgを10mlの酢酸アンモニウム溶液(1N)に入れ、100rpmで一晩振とうした。その後、上澄みを孔径0.45μmのフィルターに通して、ICP分析(ICP発光分析装置(セイコー電子(株)製 SPS−1500R))を行った。
【0094】
Mg/SiはEDX元素分析((株)日立製作所製 S−800)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0095】
[不純物としてのLi/Siの算出]
下記の方法により、Li/Siの算出を行った。
【0096】
不純物としてのLi量は、添加したLi量から層間イオンとしてのLiと層内に入ったLiの量を引いた値である。層間イオンとしてのLi量は、上記と同様にメチレンブルー吸着法を用いて層間のLiと交換されたメチレンブルーの量を測定し、換算した。層内に入ったLiの量は上記と同様に合成原料に添加したLi量とICP測定で検出されたLi量の差から算出した。Li/Siは、合成原料に入れたSiの量と不純物としてのLi量の比から計算した。結果を表1に示す。
【0097】
[ナトリウム含有量]
スメクタイトに含まれているナトリウムイオン量を測定した。酢酸アンモニウム溶液(1N)に得られたスメクタイト0.1mgを入れ、一晩100rpmで振とうした。その後、上澄みをフィルター(気孔0.45μm)に掛けてから、ICP分析(ICP発光分光分析装置(セイコー電子社製/SPS−1500R)を行った。結果を表1に示した。上記装置の検出限界値(1ppm)以下の場合はN.D.と記載した。
【0098】
[1質量%分散水溶液の粘度]
1質量%分散水溶液100gを100mLトールビーカに入れ、B型粘度計(東機産業製、TV−22)を用いて20℃における粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0099】
(合成例2)
10質量%水酸化リチウム水溶液を33.2ml添加し、水熱合成を200℃で48時間行った以外は合成例1と同様にして、2:1型3八面体型合成スメクタイトを合成した。得られたスメクタイトについて、合成例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
(比較合成例1)
3号水ガラス(SiO:28%、NaO:9%、小宗化学薬品社製)200gと蒸留水1000mlとを混合した分散液に硝酸70mlを添加した。これに硝酸マグネシウム(一級試薬)182gと蒸留水182mlとを混合した溶液を入れて攪拌しながら、水酸化ナトリウム水溶液(20質量%水溶液)をゆっくりと滴下した。pH10になったところで滴下を止め、室温で一晩熟成させ、均一複合沈殿を得た。その後、蒸留水の添加、振盪、固液分離の過程による水洗浄を繰り返した。得られた出発原料スラリーをオートクレーブに仕込み,200℃で48時間水熱反応させた。冷却後、オートクレーブ内の反応生成物を取り出し、60℃で乾燥した後、粉砕した。評価は合成例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0101】
<合成スメクタイトペーストの作製>
(実施例1)
容器内に、合成例1で得られた合成スメクタイト0.9g、及び、水溶性高分子としてアンモニウム型カルボキシメチルセルロース(ダイセル化学工業社製、DN−800H)0.1gを入れ、蒸留水を添加して全質量100gとした後、自転・公転ミキサー(シンキー社製、ARE−310)を用いて2000rpm、10分混合、2200rpm10分脱泡を行った。こうして、合成スメクタイト/水溶性高分子の固体質量比90/10、濃度1質量%の合成スメクタイトペーストを得た。
【0102】
(実施例2)
合成スメクタイト/水溶性高分子の固体質量比を80/20とした以外は実施例1と同様にして、合成スメクタイトペーストを作製した。
【0103】
(実施例3)
合成スメクタイト/水溶性高分子の固体質量比を60/40とした以外は実施例1と同様にして、合成スメクタイトペーストを作製した。
【0104】
(実施例4)
合成スメクタイト/水溶性高分子の固体質量比を50/50とした以外は実施例1と同様にして、合成スメクタイトペーストを作製した。
【0105】
(実施例5)
合成例2で得られた合成スメクタイトを用いた以外は実施例1と同様にして、合成スメクタイトペーストを作製した。
【0106】
(比較例1)
合成スメクタイト/水溶性高分子の固体質量比を100/0とした以外は実施例1と同様にして、合成スメクタイトペーストを作製した。
【0107】
(比較例2)
合成スメクタイト/水溶性高分子の固体質量比を0/100とした以外は実施例1と同様にして、合成スメクタイトペーストを作製した。
【0108】
(比較例3)
合成スメクタイト/水溶性高分子の固体質量比を40/60とした以外は実施例1と同様にして、合成スメクタイトペーストを作製した。
【0109】
(比較例4)
合成例1で得られた合成スメクタイトに代えて、比較合成例1で得られた合成スメクタイトを用いた以外は実施例2と同様にして、合成スメクタイトペーストを作製した。
【0110】
(比較例5)
アンモニウム型カルボキシメチルセルロースに代えて、カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセル化学工業社製、品番1350)を用いた以外は実施例1と同様にして、合成スメクタイトペーストを作製した。
【0111】
(比較例6)
合成スメクタイト/水溶性高分子の固体質量比を80/20とした以外は比較例5と同様にして、合成スメクタイトペーストを作製した。
【0112】
<合成スメクタイトペーストの評価>
[ナトリウム含有量の確認]
上記で得られた合成スメクタイトペーストをフィルター(気孔0.45μm)にかけて分取した液体成分を、イオンクロマトグラフィー(ダイオネクス社製、DX100、320型)にかけ、ナトリウムイオンに帰属するピーク面積からナトリウム含有量を算出した。結果を表2に示す。
【0113】
[合成スメクタイトペーストの粘度]
1質量%分散水溶液である合成スメクタイトペーストの20℃における粘度を、B型粘度計(東機産業製、TV−22)を用いて、粘度上限1000mPa・sでの測定が可能な回転子を使用して測定した。結果を表2に示す。
【0114】
<合成スメクタイト自立膜の作製>
上記で得られた合成スメクタイトペースト50gをポリプロピレン製のトレー(300×210×37mm)に展開し、40℃で24時間乾燥させて水分を除去した。乾燥後、フィルム状成形体が得られた場合を「○」、鱗片状でフィルム状成形体が得られない場合を「×」と目視で判定した作製結果を表2に示す。なお、フィルム状成形体が得られた場合は、マイクロメーター(ミツトヨ社製、MDC−SB)で測定した膜厚を表2に示す。
【0115】
<合成スメクタイト自立膜の耐水性評価>
上記で作製した合成スメクタイト自立膜を、大気中、500℃で12時間熱処理し、吸湿処理前の重量を測定した。その後、合成スメクタイト自立膜を85℃−85%RHの高温高湿庫中に5時間放置してから取り出して吸湿処理後の重量を測定した。下記式により吸湿率(%)を算出した。結果を表2に示す。
吸湿率(%)=[(吸湿処理後の重量)−(吸湿処理前の重量)]/(吸湿処理前の重量)×100
【0116】
<合成スメクタイト膜(薄膜)の作製>
上記で得られた合成スメクタイトペーストを、ポリエチレンテレフタレート(東洋紡社製、A4100)及び石英ガラス(アズワン社製)上にそれぞれ展開した後、バーコート(wet厚:12μm)にて塗布し、室温(25℃)で24時間乾燥させて水分を除去し、ポリエチレンテレフタレートに接着した合成スメクタイト薄膜及び石英ガラスに接着した合成スメクタイト薄膜をそれぞれ得た。
【0117】
乾燥後、それぞれの基板上に合成スメクタイト薄膜が均一に形成された場合を「○」、ピンホールなどの欠陥が見られる場合を「×」と目視で判定した作製結果を表2に示す。なお、合成スメクタイト薄膜が均一に形成された場合は、基板断面の走査型電子顕微鏡写真(日立製作所製、TM−1000)を用いて測定した膜厚を表2に示す。
【0118】
<合成スメクタイト膜の可とう性評価>
合成スメクタイト膜の可とう性を、ISO1519に準拠して、マンドレル測定器(コーテック株式会社製、製品名:BD−2000)を用いて測定した。マンドレル棒の直径16mmとしたときに、合成スメクタイト膜にクラックが発生しない場合を、可とう性が「有る」として評価した。その結果を表2に示す。
【0119】
<合成スメクタイト膜(薄膜)の耐水性評価>
石英ガラス上に接着した合成スメクタイト薄膜を、大気中、500℃で12時間熱処理し、吸湿処理前の合成スメクタイト薄膜を設けた石英ガラスの重量を測定した。その後、合成スメクタイト薄膜を設けた石英ガラスを85℃−85%RHの高温高湿庫中に5時間放置してから取り出して吸湿処理後の重量を測定した。下記式により吸湿率(%)を算出した。結果を表2に示す。
吸湿率(%)=[(吸湿処理後の重量)−(吸湿処理前の重量)]/(吸湿処理前の重量)×100
【0120】
<合成スメクタイト膜(薄膜)の昇温脱離ガス分析>
石英ガラス上に接着した合成スメクタイト薄膜を、大気中、500℃で12時間熱処理した。その後、合成スメクタイト薄膜を設けた石英ガラスを25℃−50%RHの室温雰囲気中に24時間放置してから、昇温脱離ガス分析装置(Rigaku製、TPDtypeV)を用いて、100℃〜400℃まで10℃/分の昇温レートで加熱した際の脱ガス量を測定し、全圧ピーク値を定量した。結果を表2に示す。
【0121】
【表1】



【0122】
【表2】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムイオンの含有量が10ppm以下である3八面体型合成スメクタイトと、ナトリウムイオンの含有量が10ppm以下である水溶性高分子と、を含有し、
前記3八面体型合成スメクタイトと前記水溶性高分子との質量比が95/5〜50/50である、合成スメクタイトペースト。
【請求項2】
前記水溶性高分子がカルボキシメチルセルロースアンモニウムである、請求項1に記載の合成スメクタイトペースト。
【請求項3】
前記3八面体型合成スメクタイトが下記一般式(1)で表されるスチーブンサイトを含む合成スメクタイトである、請求項1又は2に記載の合成スメクタイトペースト。
LiMgSi10(OH) …(1)
[式(1)中、xは0.3<x<0.7の関係を満たし、yは2.6<y<3.0の関係を満たす。]
【請求項4】
前記3八面体型合成スメクタイトは、1質量%分散水溶液としたときの20℃における粘度が300〜600mPa・sとなるものである、請求項1〜3にいずれか一項に記載の合成スメクタイトペースト。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の合成スメクタイトペーストを用いて形成される、合成スメクタイト自立膜。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の合成スメクタイトペーストを用いて形成される、合成スメクタイト膜。
【請求項7】
酸素存在下で加熱された、請求項6に記載の合成スメクタイト膜。
【請求項8】
前記加熱により前記水溶性高分子が全て除去されている、請求項7に記載の合成スメクタイト膜。
【請求項9】
基材上に、請求項1〜4のいずれか一項に記載の合成スメクタイトペーストを塗布、又は、予め得られている請求項5に記載の合成スメクタイト自立膜を貼付することにより被加熱膜を形成し、当該被加熱膜を酸素存在下、300〜500℃で加熱する、合成スメクタイト膜の製造方法。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−148946(P2012−148946A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10963(P2011−10963)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】