説明

合成樹脂製の摩擦伝動ベルト

【課題】背側に上コグが設けられたベルトにおいて、回転変動を少なくしたウレタン製摩擦伝動ベルト提供する。
【解決手段】上面側にコグを形成した摩擦伝動ベルトにおいて、コグが傾斜しているウレタン製摩擦伝動ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、背側にコグを備えた合成樹脂製の摩擦伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、背側にコグを設けたウレタン製の摩擦伝動ベルトを工作機械、ポンプ、洗濯機、印刷機、木工機械、電動工具、事務機・自動化機器、繊維機械、回転電気機器、小型工作機、包装機などの用途にむけて、製造、販売している。
高速で円滑な伝動が可能で、小さなプーリ径で使用可能で、速比も大きくとれ、伝動系が軽量かつコンパクトに設計できる。例えば、一般Vベルトでは2段減速していた装置を1段減速することが可能となる。柔軟性の高い伝動ベルトを提供することができ、電動工具や回転電気機器、事務機器、小型工作機械などにも適している。
上コグが設けられたこれらのウレタン製摩擦伝動ベルトは、コグの形状の凹部が設けられた内金型と外金型によって形成されたキャビティにウレタンプレポリマーを注型する注型法を利用して製造できるので、一般のゴム系のベルトに比べて作業工程を少なくすることができる。具体的には、ベルト構造上、心線位置が、ベルトの外側(上側)へ埋設される必要があるため、ベルトは使用形態とは異なって、二重円筒を用いて形成したキャビティの内側にベルトの背側を配置した逆成形の製造方法となっている。逆成形の場合、上コグ形状の凹部を設けた内型に心線をスパイラルに巻き付けた後、ベルトのリブ形状が外型内面に加工されている外型を型組する。その後、ウレタンプレポリマー注型、架橋、脱型、ベルト幅にカットし、ベルトを反転し、(裏返して)使用する。上コグを設けたウレタン製摩擦伝動ベルトとして、例えば、特許文献1(特開2001−152009号公報)があげられる。
【0003】
【特許文献1】特開2001−152009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上コグを設けた合成樹脂製の摩擦伝動ベルトは、上コグを設けないベルトに比べて回転変動や騒音が問題になることがある。本発明は、背側に上コグが設けられた合成樹脂製の摩擦伝動ベルトにおいて、回転変動を少なくした摩擦伝動ベルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の主な構成は次のとおりである。
(1)上面側にコグを形成した合成樹脂製の摩擦伝動ベルトにおいて、コグが傾斜していることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
(2)合成樹脂が熱硬化性ウレタンであることを特徴とする(1)記載の摩擦伝動ベルト。
(3)コグの傾斜角度θは、55°以下とすることを特徴とする(1)又は(2)記載の摩擦伝動ベルト。
(4)コグの傾斜角度θは、30〜45°とすることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
(5)コグの傾斜角度θは、ベルト幅W・Tanθ/コグの幅PC=0.2〜1.7を満足する角度であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
(6)コグの傾斜角度θは、ベルト幅W・Tanθ/コグの幅PC=0.8〜1.2を満足する角度であることを特徴とする(5)記載の摩擦伝動ベルト。
(7)コグの傾斜方向は、右傾斜又は左傾斜とすることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
(8)摩擦伝動ベルトがVリブドベルトであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
(9)摩擦伝動ベルトがVベルトであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
(10)摩擦伝動ベルトが結合Vベルトであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のウレタン製摩擦伝動ベルト。
(11)コグの傾斜によって生ずるスラスト力を相殺する方向に心線のスパイラル方向及び/又は心線の撚り方向を特定したことを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【発明の効果】
【0006】
本発明のコグを斜めに設けた合成樹脂製の摩擦伝動ベルトを用いることにより、速度の変動を少なくすることができ、ベルトの走行性能が安定し、耐久性を向上することができる。速度の変動を押さえることができるので、ベルトの振動や騒音を小さくすることができる。通常、上コグは、ベルト幅方向と平行(ベルト長手方向に対して直角に)、等間隔に設けられているが、上コグの方向を傾斜させることによって、ベルトがプーリにスムースに巻き付くことになる。これにより、ベルトの速度変動が小さくなる。ベルトの走行速度が安定することにより、ベルトの振動を小さくし、走行騒音を小さくし、耐久性を向上させることができる。さらに、ベルトによって駆動される作業機器の駆動も安定する。
【0007】
走行速度安定性に関しては、コグの傾斜角度は、10〜55°において従来例よりも優れた作用効果を示し、特に、30〜45°において顕著な効果を発揮する。傾斜して設けられた前後のコグは、ベルトの幅方向から見て、コグが連続している状態が最も望ましく、20%程度の隙間あるいは重複があっても優れた効果を示し、80%程度の隙間あるいは重複でも安定性に向上に寄与することが判明した。即ち、コグ重複率ε(ベルト幅W・Tanθ/コグの幅PC)は、0.2〜1.7の間で、回転変動の安定化に寄与し、0.8〜1.2の間で顕著な安定性を発揮する。
【0008】
耐久性に関しては、コグの傾斜角度は、10〜40°において従来例よりも優れた作用効果を示し、特に、15〜38°において顕著な効果を発揮する。傾斜して設けられた前後のコグは、ベルトの幅方向から見て、コグが連続している状態が最も望ましく、40%程度の隙間あるいは重複があっても優れた効果を示し、70%程度の隙間あるいは50%程度の重複でも耐久性向上に寄与する。即ち、コグ重複率ε(ベルト幅W・Tanθ/コグの幅PC)は、0.31〜1.48の間で、耐久性を向上させ、0.47〜1.35の間で顕著な向上を発揮する。
【0009】
速度安定性及び耐久性向上の2つの観点からみると、コグの傾斜は、40°以内において効果を発揮し、特に、30〜38°で優れている。コグ重複率ε(ベルト幅W・Tanθ/コグの幅PC)は、1.5以内で効果を発揮し、特に、0.8〜1.2の間で顕著な効果を発揮する。横方向から見てコグがとぎれる間隔あるいは重複する間隔が小さい状態でプーリに接触することとなるので、個々のコグが断続して接触、離反する影響が少なくすることができる。
【0010】
上コグの傾斜によってプーリとの接触時に発生するスラスト力を、撚り線からなる心線に加わる緊張によって減少させることができる。上コグを傾斜させると幅方向の曲げ抵抗が不均一となり、プーリに対する接触始端において、スラスト力が生ずることとなるが、一方、心線は子線が撚られた撚り線であって、この撚りが緊張することにより締め込まれる方向に回転する力が心線に発生することとなる。この回転力はコグの傾斜によって生ずるスラスト力の相殺に活用することができる。コグの傾斜方向にあわせて、心線はS撚りとZ撚りを組み合わせる。また、心線は連続して螺旋状にベルト内に埋設されているので、スパイラルの巻き方向が、緊張によって幅方向に偏ったベクトルを発生させるので、これと上コグの傾斜によって生ずるスラスト力を相殺する方向に活用することができる。
本発明は、上コグを設けた合成樹脂製の摩擦伝動ベルトであって、特に、Vベルト、Vリブドベルト、結合Vベルトに適用することができる。本発明の合成樹脂製摩擦伝動ベルトは、従来の用途に適用することができ、機器の耐久性の向上、安定した作業性、低騒音による作業環境の改善に寄与することができる。本発明の合成樹脂の摩擦伝動ベルトは、従来の注型法を活用し、内金型に設けるコグ形成用凹部を螺旋状に設けることにより製造することができるので、ウレタンなどの合成樹脂組成や製造工程に大きな変更を加える必要がないので、製造コストを従来と同程度とすることができる。
本発明に用いる合成樹脂は、熱硬化性であって、熱硬化性ウレタンが適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の合成樹脂製の摩擦伝動ベルトは、下ゴム、心線、背ゴム及び背側に上コグを設けた従来の上コグ付きの合成樹脂製の摩擦伝動ベルトと同様の構成である。本発明の合成樹脂製の摩擦伝動ベルトは、一般に熱硬化性ポリウレタンなどの熱硬化性合成樹脂製であって、注型法によって製造され、下ゴム、背ゴム、上コグは注型によって、同じ合成樹脂によって成形される。
本発明は、従来と同様の基本構成とする背側にコグを設けた合成樹脂製の摩擦伝動ベルトであって、上コグの配置を傾斜させたものである。上コグの方向を傾斜させることによって、ベルトがプーリなどにスムースに巻き付くこととなり、ベルトの速度変動を小さくすることができ、且つ、ベルトの振動を小さくすることができ、耐久性を向上させることができる。このコグの傾斜方向は、左右どちらの傾斜でも良い。横方向から見てコグがとぎれる間隔あるいは重複する間隔を小さい状態で、プーリに接触することとなるので、個々のコグが断続して接触、離反する影響を少なくすることができる。
本発明のVベルト10の例を図1に模式的に示す。下ゴム1に埋設された心線2の背側に上コグ3が設けられている。この上コグ3をVベルト10の幅方向に対して傾斜角度θを設ける。上コグ3の幅をPCとし、ベルトの幅をWとする。
【0012】
ベルトの幅方向に対するコグの傾斜角度をθは、55°以内、特に、45°以内、さらには、30〜40°が望ましい。
ベルトの幅方向に対するコグの傾斜角度をθとし、ベルトの幅をW、コグの幅をPCとすると、コグの傾斜角度θは、ベルト幅W・Tanθ/コグの幅PC=0.2〜1.7を満足する角度であることが適している。特に、0.5〜1.4、更に望ましくは、0.8〜1.2が望ましい。「ベルト幅W・Tanθ/コグの幅PC」は、ベルトの横方向から見て、前後のコグの間隔あるいは重なり程度になるので、本明細書では簡略化して、コグの重複率εとして表記することがある。
このベルト幅に関し、リブを複数備えたVリブドベルトの場合、ベルト幅Wは、全体をベルト幅とする。また、Vベルトを複数結合した結合Vベルトの場合は、一つのVベルトに対応した幅をベルト幅Wとして扱う。
これは、心線の影響がリブ単位で影響するので、リブに対応する上コグによって緩和することができるからである。結合Vベルトの場合は、個別のVベルトが連結されているものと見なすことができるので、ベルト幅Wを1つのリブ対応幅と設定することができる。これに対して、浅いV溝を形成したVリブドベルトは、一つのリブの底に対してV条の切れ込みを形成したものであって、このV条の切れ込みによって心線がベルトに与える影響は左右されないので、ベルト幅Wは、全体で一つのリブに対応する幅として扱うのが適している。なお、上コグ付きベルトに及ぼす心線の影響ついては、射出成形される合成樹脂製の摩擦伝動ベルトの製法と密接に関連するので、製法に関する後述で具体的に触れる。
また、コグの傾斜角度θは、55°以下とすることが好ましい。ベルトの長手方向とコグ方向が平行に近づくと、上コグがベルトに与える屈曲柔軟性が損なわれるので、コグの傾斜角度θを大きくすることは好ましくなく、ベルトの走行変動を抑制するには55°以下とすることが好ましい。
傾斜した上コグを設ける伝動ベルトは、摩擦伝動ベルトであるVベルト、結合Vベルト、Vリブドベルトが適している。下コグを設けることもできるが、下コグは傾斜する必要はない。
【0013】
本発明は、二重筒の中間に設けたキャビティにウレタンプレポリマー等の熱硬化性合成樹脂製を注型して製造される合成樹脂製の摩擦伝動ベルトに適用することが好ましい。二重筒を構成する内側円筒金型には、多数のコグの形状に相当する凹部が軸方向に設けられている。この内金型に心線が螺旋状に連続して巻き付けられる。心線には、金型の円弧に接触する部分と凹部の空中を通過する部分が発生する。したがって、凹部を通過する部分は直線状となり、金型円弧に接触する部分は内筒外径に相当する弧状となる。このように心線を巻き付けた後に、外筒を被せてキャビティを形成し、このキャビティ内にウレタンプレポリマー等を注入し、架橋・硬化した後に、脱型して、円筒状のベルト前駆体を得、それをベルトの所定幅に輪切りする。輪切りして得た輪を裏返すことにより、内金型に形成されたコグをベルトの背側の上コグとすることができる。リブの形成は、外金型となる円筒の内周面に凹部を設けることにより形成することができる。あるいは、脱型後に研削することにより形成することができる。
【0014】
本発明者は、上コグ付きのウレタン製摩擦伝動ベルトに生ずる速度変動(速度ムラ)や振動(騒音)について、その原因を究明してきたところ、従来の上コグ付き摩擦伝動ベルトは、ベルト幅方向と平行に(ベルト長手方向に対して直角に)等間隔に形成されている上コグが断続的にプーリに接触及び離反する影響が回転速度変動に現れると想定した。さらに、製法について着目し、子細に検討した結果、心線の張りの状態が影響しているのではないかと考えた。即ち、前述のように注型法によって製造された上コグ付きのウレタン製摩擦伝動ベルトの心線は、上コグの部分では弧の弦の位置となる直線状に埋め込まれており、コグ間では内金型の外周に沿って弧状に埋め込まれているので、円筒形の金型に巻き付けられた状態では、心線はコグの部位では内側に存在し、コグ間では外側に存在している。これをベルトとして使用する場合は、コグが背側になるように裏返すので、コグの箇所では心線は直線上であって、外側に位置することになり、コグ間では弧状に内側に位置することとなる。
図2及び図3を参照して概略を説明する。コグを成形するコグ形成用の凹部42を設けた内金型41に心線2を巻き付けると、心線はコグ形成用の凹部42を通る部分2bでは直線状に張られ、内金型の外周に接する部分2aでは弧状に張られることとなる。この状態で、ウレタンポリプレマーなどの樹脂が充填されて固定されることになる。これをVベルトの幅にカットした状態のベルトの断面を図3に模式的に示すと、ベルト使用状態では、内金型側が外側になるので、内金型の外周に接する部分2aはベルトの内側に埋設しており、コグ形成用の凹部42を通る部分2bはベルトの外側に埋設していることになって、ギャップΔdが生じることとなる。このような状態のベルトをプーリに巻き付けると、波打つように埋設された心線にしたがって速度変動や振動が発生することとなると考えられる。
このように横断面における心線の位置が異なるベルトをプーリに巻き付けて、周回させると、速度変動や振動が発生すると想定し、その結果、ベルトに埋設されている心線位置がコグ間隔の周期で、上下方向に変化することとなり、このことが原因により、特に高速回転で使用される一般汎用機械(工作機械、家庭用電器機械など)で、回転変動、振動や騒音が大きくなる問題につながると想定した。
この原因の解明に基づき、コグの設計及び製法に関し、研究開発を行い、本発明を提案した。製法に関しては、内金型に設けるコグ形成用の凹部をコグの傾斜角に合わせて螺旋状に設けることにより、脱型して得られる円筒状のウレタン製のベルト前駆体の内周面に傾斜したコグ用の凸状部を設けることができ、その後の所定幅カットする以降は従前と同様にできる。
合成樹脂は、ウレタンを例に述べたが、注型法によって製造される熱硬化性合成樹脂に適用できる。
【0015】
本発明は、コグをベルトの幅方向に対して傾斜させて設けることにより、従来製法に伴う心線の不均一を分散させることができ、影響を小さくすることができるので、ベルト走行速度の変動を減少させ、従動機(作業機)の作動を安定にすることができる。走行速度の変動を小さくすることができるので、それに伴う振動や騒音を減少させることができ、ベルトの耐久性を向上させることができる。
走行速度安定性に関しては、コグの傾斜角度は、10〜55°において従来例よりも優れた作用効果を示し、特に、30〜45°において顕著は効果を発揮する。傾斜して設けられた前後のコグは、ベルトの幅方向から見て、コグが連続している状態が最も望ましく、20%程度の隙間あるいは重複があっても優れた効果を示し、80%程度の隙間あるいは重複でも安定性に向上に寄与することが判明した。即ち、コグ重複率ε(ベルト幅W・Tanθ/コグの幅PC)は、0.2〜1.7の間で、回転変動を減少させ、回転の安定化に寄与し、0.8〜1.2の間で顕著な安定性を発揮する。
耐久性に関しては、コグの傾斜角度は、10〜40°において従来例よりも優れた作用効果を示し、特に、15〜38°において顕著は効果を発揮する。傾斜して設けられた前後のコグは、ベルトの幅方向から見て、コグが連続している状態が最も望ましく、40%程度の隙間あるいは重複があっても優れた効果を示し、70%程度の隙間あるいは50%程度の重複でも耐久性向上に寄与することが判明した。即ち、コグ重複率ε(ベルト幅W・Tanθ/コグの幅PC)は、0.31〜1.48の間で、耐久性を向上させ、0.47〜1.35の間で顕著な向上を発揮する。
速度安定性及び耐久性向上の2つの観点からみると、コグの傾斜は、40°以内において効果を発揮し、特に、30〜38°で優れている。コグ重複率ε(ベルト幅W・Tanθ/コグの幅PC)は、1.5以内で効果を発揮し、特に、寄与し、0.8〜1.2の間で顕著な効果を発揮する。
【0016】
本発明のベルトに用いられる熱硬化性合成樹脂は、ポリエステル、ポリカーボネートポリウレタン等が適用できる。熱硬化性ポリウレタン樹脂が一般に用いられており、その組成は従来と同様である。例えば、特開2002−234928号公報、特開2002−226700号公報があげられる。 例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエーテルグリコール等のポリオールとトリレンジイソシアネート等のポリイソシアネートとを合成した液状のウレタンプレポリマーに、3,3’−ジアミノジフェニルメタン等の硬化剤及びその他の配合剤を混合したベルト成形用ウレタン組成物を注型用金型に注入して硬化反応させることにより成形されるものである。この際、上記配合剤には可塑剤が含まれ、それによってウレタンプレポリマーの粘度が低下して注型加工性が向上すると共に、ベルトを構成するポリウレタン組成物の硬度や摩擦係数といった物性の調整が図られることとなる。そして、この可塑剤として、ジ−(2−エチルヘキシル)フタレート(「DOP」と称する)などが用いられる。
【0017】
また、心線素材もアラミド繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、ナイロン繊維などからなる撚り線を用いることは従来と同様である。ポリエステル繊維等の撚糸により形成される心線は、エポキシ樹脂溶液への浸漬及び加熱による接着処理が施されている。撚り方向は、S撚り、Z撚りのいずれか又は組み合わせて用いることができる。
螺旋状に連続して埋設されている心線のスパイラル方向及び撚りの方向がベルトの走行に及ぼす影響を勘案して、コグの傾斜方向と関連づけて配置することにより、本発明の摩擦伝動ベルトの性能向上が期待できる。即ち、コグの傾斜によってプーリとの接触によりスラスト力が生ずる危険があり、心線のスパイラル方向及び/又は心線の撚り方向を特定することにより、このスラスト力の相殺が期待できる。
上コグの傾斜によってプーリとの接触時に発生するスラスト力を、撚り線からなる心線に加わる緊張によって減少できる可能性がある。上コグを傾斜させると幅方向の曲げ抵抗が不均一となり、プーリに対する接触始端において、スラスト力が生ずる危険がある。一方、心線は子線が撚られた撚り線であって、この撚りが緊張することにより締め込まれる方向に回転する力が心線に発生することとなる。この回転力はコグの傾斜によって生ずるスラスト力の相殺に活用することができる。コグの傾斜方向にあわせて、心線はS撚りとZ撚りを組み合わせる。また、心線は連続して螺旋状にベルト内に埋設されているので、スパイラルの巻き方向が、緊張によって幅方向に偏ったベクトルを発生させるので、これと上コグの傾斜によって生ずるスラスト力を相殺する方向に活用することができる。
なお、一般のベルトでは、心線の撚りの影響を減殺するために、S撚りの心線とZ撚りの心線を組み合わせて用いることもあるが、本発明では、この撚りの特性を積極的に有利に活用するものである。なお、本出願人は、この撚りの特性をハス歯ベルトのストラス力軽減に応用した提案(特許第3859640号公報参照)を行った。
【0018】
本発明の合成樹脂製の摩擦伝動ベルトは、振動のない安定した伝動、高速で円滑な伝動、水平掛け運転に適しており、軽量かつコンパクトな設計ができる。そして、耐摩耗性のポリウレタンゴムでは、摩擦によるゴム落ちがほとんどないので、周辺をきれいに保つことができる。
【0019】
具体的には、比較的低負荷で高速回転が求められ、制動が頻繁な機器として、電気カンナやグラインダー等の電動工具、タイプライターやシュレッダー等の事務機、券売機、自動改札機、貨幣処理機等の自動化機、仮撚機、精紡機、高速ワインダー等の繊維機械、電気餅つき器、製麺機、ジューサーミキサー、電気調理器、電気芝刈り機、電気あんま機、ミシン、映写機等の回転電気機器、卓上旋盤、リベッター、パンチングマシン、刻印機、ミニボール盤、スピンドルユニット等の小型工作機、食品切断機、小型巻き線機、包装機などに用いられる。
また、比較的高負荷用の機器として、流体攪拌機、ブロアー、遠心ポンプ、小型コンプレッサー、ファン、軽量コンベヤ、砂・穀物運搬コンベヤ、練りミキサー、洗濯機、発電機、ロータリーポンプ、ラインシャフト、工作機、印刷機、回転・振動篩い、煉瓦加工機械、バケットエレベーター、励磁機、ピストンポンプ、コンプレッサー、製紙用ミル、ビーター、強制移動ブロワー、ソーミル、木工機械、織物機械、サンドポンプ、クラッシャー、ミル、ホイスト、ゴム用カレンダ、押し出し機等の産業用機器に用いられる。
【実施例1】
【0020】
[Vリブドベルトの例]
本実施例は、リブの底側に浅いV溝を複数設けたウレタン製摩擦伝動ベルトの例である。浅いV溝であるので底ゴム1は一体であり、リブドベルト20を構成するリブは1つである。本実施例のVリブドベルト20を図4に示す。
コグ3の傾斜角度θを0〜60°の間で9例設け、表1に示す。バンドー化学社製バンコランポリバンロープ215H−3山を基礎仕様とし、ベルト幅W4.8mm、コグの幅PC4.0mm、ベルトピッチライン長547.0mmとし、コグ傾斜角を変化させた。
コグ重複率ε=ベルト幅W・Tanθ/コグの幅PCを表1に表示する。
回転変動率を下記の回転変動試験機により行った。駆動源として餅つき器駆動部を用い、駆動側プーリ1aの径は20mm、回転数1800rpmとし、従動側プーリ1bの径は95mmとした。
回転変動率とコグ重複率εの関係を、回転変動率のグラフとして図5に示す。
【0021】
<回転変動試験>
駆動側プーリと従動側プーリ間にこれらのベルトを掛け渡して、動力を伝動して従動プーリに現れる変動を回転変動率として求めた。回転変動率試験機Sの構成は、図8に示すように、軸130、131に取り付けられたプーリ101a、101b相互間にベルト102を掛け渡し、プーリ101aを図示しないモータにより回転駆動し、従動側のプーリ101bの回転変動率を非接触速度ムラ計132により測定した。
【0022】
<振動及び騒音試験>
試験例1、試験例3、試験例5、試験例9について、振動及び騒音に対する官能評価を行った。結果を表1に示す。従来例相当の試験例1に比較して、振動及び騒音が小さくなっていると判断したものに「△」、著しく改善されているものに「◎」を付した。
【0023】
【表1】

【0024】
[考察]
本実施例では、従動プーリの回転変動は、従来例に相当する試験例1に比べて、試験例2〜8において、少なくなっていることを示し、コグの傾斜角10〜55°において効果が認められる。コグ重複率ε(ベルト幅W・Tanθ/コグの幅PC)は、0.2〜1.7の間で、回転変動の安定化に寄与している。
特に、回転変動率は、試験例3と試験例4の間、試験例6と試験例7の間で顕著な差が現れており、試験例4,5,6の3例では回転変動率が2.0%以下と小さく安定していることが分かる。この3例のコグの傾斜角度θは、30〜45°であり、コグ重複率ε=ベルト幅W・Tanθ/コグの幅PC=0.8〜1.2である。
振動及び騒音に関しても、コグを傾斜することにより、改善されていることが分かる。特に、コグ重複率εが1において、優れた効果を示している。なお、傾斜角度60°では、従動プーリの回転変動率は従来例相当の試験例1と同程度あったが、振動及び騒音については、改善効果が認められている。これは、従来例では幅方向に平行に多数設けられたコグが断続してプーリに接触あるいは離脱することも振動や騒音の原因となっていることを示している。コグを傾斜することにより、プーリとの接触状態を、コグの縁全体が同時にプーリに接触あるいは離脱する従来例に比べて緩和していることを示している。
【実施例2】
【0025】
[結合Vベルトの例]
本実施例は、2つのVベルトを結合したタイプのウレタン製摩擦伝動ベルトの例である(図6参照)。この実施例では、心線2の接着ゴム層から背ゴムにかけて連続しているが、心線は結合部には存在していない結合空間によって、上コグの影響は非常に小さくなるので、個別のVベルトを2本連結したVベルトに相当する。下ゴム1を備えた2つのVベルトを結合した、結合Vベルト30を示し、傾斜角θを設けた幅PCを備えた上コグ3が多数設けられている。ベルト幅Wは、Vベルト1本分とする。
コグの傾斜角度を0〜50°の間で10例設け、表2に示す。バンドー化学社製バンフレスクラム2−5ms−487を基礎仕様とし、ベルトの全幅(2W)は9.8mmであるが結合空間を除き、1つのVベルト当たりの幅は4.4mmとなり、コグ幅PCは2.5mm 、ベルトピッチライン長484.0mmとし、コグ傾斜角を変化させた。コグ重複率ε=ベルト幅W・Tanθ/コグの幅PCを表2に表示する。
耐久性試験を、工作機械用駆動装置を用いて行った。駆動側プーリの径は100mm、回転数5000rpm、負荷4.2kwとし、従動側プーリの径は50mmとした。連続回転して、ベルトに破損などの不良が発生した時間を走行時間として表2に示す。また、この走行時間とコグの重複率εの関係を示す走行耐久性を図7に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
[考察]
耐久性を示す走行時間は、従来例に相当する試験例10に比較して、傾斜角10〜40°において上回っており、コグの傾斜によって耐久性を向上させることができることが分かる。コグ重複率ε(ベルト幅W・Tanθ/コグの幅PC)は、0.3〜1.5の間で、耐久性向上に寄与している。
特に、試験例11と試験例12の間、試験例16と試験例17の間で顕著な差が現れており、試験例12〜16の5例では、走行時間ほぼ300時間以上の耐久性を示しているが、他の例では240時間以下である。特に、従来のベルトに相当するコグをベルト長手方向に直角に設けた試験例10は204時間であるのに対して、50%以上の耐久性の向上を図ることができる。この耐久性試験では、コグ重複率ε=ベルト幅W・Tanθ/コグの幅PC=0.5〜1.4において顕著な耐久性向上が認められ、コグの傾斜角は15〜38°である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】傾斜上コグを設けたVベルトの斜視図。
【図2】内金型に巻き付けられた心線の状態を示す模式図。
【図3】上コグを備えた摩擦伝動ベルトの心線の配置状態を説明する図。
【図4】実施例1の摩擦伝動ベルトの概略図。
【図5】実施例1の回転変動率を示すグラフ。
【図6】実施例2の摩擦伝動ベルトの概略図。
【図7】実施例2の走行耐久性を示すグラフ。
【図8】回転変動試験機の模式図。
【図9】上コグを設けたVベルトの従来例。
【符号の説明】
【0029】
1 下ゴム
2 心線
3 上コグ
10 Vベルト
20 Vリブドベルト
21 溝
30 結合Vベルト
31 リブ
101a、101b プーリ
102 ベルト
130、131 軸
132 非接触速度ムラ計


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面側にコグを形成した合成樹脂製の摩擦伝動ベルトにおいて、コグが傾斜していることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項2】
合成樹脂が熱硬化性ウレタンであることを特徴とする請求項1記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項3】
コグの傾斜角度θは、55°以下とすることを特徴とする請求項1又は2記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項4】
コグの傾斜角度θは、30〜45°とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項5】
コグの傾斜角度θは、ベルト幅W・Tanθ/コグの幅PC=0.2〜1.7を満足する角度であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項6】
コグの傾斜角度θは、ベルト幅W・Tanθ/コグの幅PC=0.8〜1.2を満足する角度であることを特徴とする請求項5記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項7】
コグの傾斜方向は、右傾斜又は左傾斜とすることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項8】
摩擦伝動ベルトがVリブドベルトであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項9】
摩擦伝動ベルトがVベルトであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項10】
摩擦伝動ベルトが結合Vベルトであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のウレタン製摩擦伝動ベルト。
【請求項11】
コグの傾斜によって生ずるスラスト力を相殺する方向に心線のスパイラル方向及び/又は心線の撚り方向を特定したことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−53912(P2010−53912A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217583(P2008−217583)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)