説明

合成繊維の製造方法

【課題】
合成繊維の製造において、複数の延伸熱処理ローラ群を用いて未延伸糸を延伸熱処理して延伸糸を製造するに際し、延伸熱処理ローラ表面に堆積する汚れを効率的に除去することにより、糸切れや毛羽の発生などの不具合を解消して合成繊維の延伸熱処理を長期間安定に維持すると共に、ロ−ラ停機を少なくして稼働率を向上し、生産効率を改善する。
【解決手段】
合成繊維を延伸熱処理する複数組のローラと、該複数組のローラの各組に対応するように設けられた複数個の洗浄液吹付ノズルと、前記複数個の洗浄液吹付ノズルに接続された共通の洗浄液供給配管と、該洗浄液供給配管に設けられた圧力計および開度調整弁とを有する装置を用い、前記合成繊維が走行している最中に前記洗浄液吹付ノズルから洗浄液を吹き付け前記ローラの洗浄を行うとともに、各洗浄液吹付ノズルから吹き出される洗浄液の圧力が所定圧力に対して±0.1MPaの範囲内となるように、前記圧力計および前記開度調整弁を用いて制御する合成繊維の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は延伸熱処理ロ−ラの洗浄を行いながら合成繊維を製造する方法に関する。詳しくは、合成繊維の製造において、複数の延伸熱処理ローラ群を用いて未延伸糸を延伸熱処理して延伸糸を製造するに際し、延伸熱処理ローラ表面に堆積する汚れを効率的に除去することにより、糸切れや毛羽の発生などの不具合を解消して合成繊維の延伸熱処理を長期間安定に維持すると共に、ロ−ラ停機を少なくして稼働率を向上し、生産効率を改善する合成繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維、特に産業用合成繊維の製造においては、複数の延伸熱処理ローラ群を用いて、未延伸糸を高倍率かつ高張力下で熱延伸する方法が一般的に採用されているが、この熱延伸工程においては、経時的に延伸熱処理ローラの表面に汚れ物が付着堆積し、延伸状態が異常になり、この現象が繊維の品質・品位や生産効率に重大な影響を及ぼす原因となっている。
【0003】
すなわち、ここでいう延伸状態の異常とは、延伸熱処理ローラ表面に付着堆積した汚れ物が原因で走行糸条とローラ表面の摩擦力が高くなるため、該ロ−ラ表面での糸条の延伸速度勾配が変化して高くなり、毛羽の発生や糸切れが頻発するようになる。
【0004】
また、別の延伸状態の異常として、高温の延伸熱処理ローラ上に付着堆積した異物が、延伸熱処理ローラと糸条との間の熱伝達を妨げ、その結果糸条の熱処理が十分に行われなくなり、得られた延伸糸の収縮率が経時的に変化するといった障害も生じることがあった。
【0005】
さらにまた別の延伸状態の異常としては、延伸熱処理ローラ上に付着堆積した異物が、時々走行糸条に付着して原糸の汚れとなったり、また該原糸を用いて製織・染色した製品の表面に染色斑が発生し、製品欠点の原因となることもあった。
【0006】
なお、上記延伸熱処理ローラ上に付着堆積する汚れ物とは、主に糸条に付与した油剤が延伸熱処理ローラ上で熱酸化劣化することにより生じた固着物と、糸条から析出したオリゴマ類、およびそれらの熱酸化劣化物などである。
【0007】
上記延伸熱処理ローラ表面の汚れ物は、ロ−ラ温度が高いほど短時間で発生し上記延伸状態の異常を生ずるため、定期的或いは異常状態を検知するごとに、糸条を強制的に切断し、延伸装置を停機してローラを洗浄しなければならなかった。特に240℃以上の高温のホットロ−ラを用い、高張力で高温の延伸熱処理をして高強力糸を製造する場合は、1日も持たずにローラ汚れによって毛羽の発生や糸切れを起こすため、ローラ洗浄の頻度が多くなり、生産効率の低下と製品の品位低下の問題を抱えていた。
【0008】
上記問題の改善のため、紡糸油剤の組成を耐熱性の優れたものに改良する方法や、比較的耐熱性の劣る活性剤成分を油剤組成物から除き、製糸後巻き取り直前の糸条に活性剤成分などを付与する方法等、様々な工夫が従来からなされてきたが、これらの方法では十分な改善はできなかった。
【0009】
また、合成繊維の延伸熱処理ローラ表面の汚れ防止手段として、従来から種々の方法が提案されており、最近の画期的な技術として特許文献1が開示されている。
【0010】
特許文献1では、延伸熱処理ロ−ラ表面に堆積する付着物を効率的に洗浄することにより、延伸熱処理ロ−ラ表面の汚れを洗浄し、ロ−ラ洗浄のための停機を少なくして稼働率を改善する合成繊維の延伸熱処理方法、およびそのために使用する延伸熱処理装置を提供することを課題とし、該課題は、合成繊維を延伸熱処理ロ−ラを用いて延伸熱処理するに際し、延伸熱処理ロ−ラ表面の汚れの進行と共に増加する糸条の毛羽量を検知し、予め設定した毛羽量に達した時または予め設定した時間に達した時に延伸熱処理ロ−ラを洗浄することを特徴とする合成繊維の延伸熱処理方法およびそれに用いる延伸熱処理装置であって、特に、予め設定した糸条の毛羽量に達した時または予め設定した時間に達した時に、製糸の延伸倍率を低下させ、または製糸速度を減速させることにより、一旦糸条を切断することなく、製糸を継続させながら延伸熱処理ロ−ラを清掃することによって解決されるとしている。
【0011】
該特許文献技術は極めて有効な技術であり、従来から抱えていた問題を解決できるものであったが、実際の生産の場においては、まだ一部の重要な問題点を有していたため、該技術の効果を十分に活かすことができず、更なる改善が求められていた。
【0012】
具体的には主に以下の(1)〜(3)の問題点を抱えていた。
【0013】
(1)延伸熱処理ロ−ラ清掃装置を複数同時に洗浄しようとした時に洗浄ノズルの配管の圧力が設定あるより低下あるいは変動すると洗浄ノズルより液垂れが発生し走行糸条に過剰に冷却してしまい糸条を切断してしまうこと。
【0014】
(2)延伸熱処理ロ−ラ清掃装置を複数同時に洗浄しようとした時に、洗浄液や洗浄水の吹き出しが不均一となり、洗浄効果が落ちてしまうこと。
【0015】
(3)糸切れした時に、糸の切れ端が洗浄液吹き出しノズルに巻き付き、その処置に時間と労力がかかること。
【特許文献1】特開平11−200171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、前記従来技術が抱えていた生産管理上の幾つかの不都合な問題点を改善して、一層改善された合成繊維の製造方法を確立せんとするものである。具体的には、前記した(1)〜(3)の問題点を解決し、該従来技術が本来有している効果を十分に発揮させることを課題とするものである。
【0017】
即ち、糸条を一旦切断することなく、製糸を継続しながら延伸熱処理ロ−ラを自動清掃することによって得られる生産効率および生産収率向上の効果を最大にするための改善された合成繊維載の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達成するために、本発明の合成繊維の製造方法は主に以下の構成からなる。
(1)合成繊維を延伸熱処理する複数組のローラと、該複数組のローラの各組に対応するように設けられた複数個の洗浄液吹付ノズルと、前記複数個の洗浄液吹付ノズルに接続された共通の洗浄液供給配管と、該洗浄液供給配管に設けられた圧力計および開度調整弁とを有する装置を用い、前記合成繊維が走行している最中に前記洗浄液吹付ノズルから洗浄液を吹き付け前記ローラの洗浄を行うとともに、各洗浄液吹付ノズルから吹き出される洗浄液の圧力が所定圧力に対して±0.1MPaの範囲内となるように、前記圧力計および前記開度調整弁を用いて制御することを特徴とする合成繊維の製造方法。
(2)前記開度調整弁をフィードフォワード制御により開度調整して、前記洗浄液供給配管内の圧力を前記所定圧力に対して±0.07MPaの範囲内とし、その後前記開度調整弁をフィードバック制御により開度調整して、前記洗浄液供給配管内の圧力を前記所定圧力に対して±0.05MPaの範囲内とする、前記(1)記載の合成繊維の製造方法。
(3)合成繊維を延伸熱処理するに際し糸条の毛羽数を検知して予め設定した毛羽数に達した時に、または、予め設定した時間に達した時に、前記ロ−ラの洗浄を行う、前記(1)または(2)記載の合成繊維の製造方法。
(4)前記ローラの洗浄を行う際に、延伸倍率を低下させ、および/或いは延伸速度を減速させる、前記(1)〜(3)いずれかに記載の合成繊維の製造方法。
(5)前記装置が前記複数組のロ−ラを囲むボックスを有するものであり、ローラ洗浄をしている最中に5〜30m/分の速度で前記ボックス内の気体を排気するとともに、前記ボックスの内側の天井面に付着する液摘を除去する、前記(1)〜(4)いずれかに記載の合成繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法によれば、従来技術の欠点であった以下の問題点が改善される。
(1)延伸熱処理ロ−ラを洗浄しようとした時に、使用する洗浄液吹付ノズルの数により配管の圧力が設定値より低下あるいは変動することで、洗浄液吹付ノズルより液垂れが発生し走行糸条に過剰に冷却してしまい糸条を切断してしまうこと。
(2)延伸熱処理ロ−ラを複数同時に洗浄しようとした時に、洗浄液や洗浄水の吹き出しが不均一となり、洗浄効果が落ちてしまうこと。
(3)糸切れした時に、糸の切れ端が洗浄液吹き出しノズルに巻き付き、その処置に時間と労力がかかること。
【0020】
そして、上記問題点が解決されることによって、本発明によれば、糸条を一旦切断することなく、製糸を継続しながら延伸熱処理ロ−ラを自動清掃することも可能となり、生産効率および生産収率向上の効果を最大にすることができる。
【0021】
また、本発明の好ましい態様によれば、以下の点も改善される。
(4)延伸熱処理ロ−ラを洗浄する時、洗浄液や洗浄水の蒸発で排煙ボックス内の天井部に水滴が無数に発生し、生産時に該水滴が走行糸上にすることで糸条を切断してしまうこと。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は具体的には、合成繊維糸状を断糸させることなく、延伸熱処理ロ−ラの表面を自動的に洗浄液および洗浄水を吹き付けるにあたり好適な、洗浄ノズル装置が延伸熱処理ロ−ラ毎に複数設置された洗浄ノズル装置を用いて合成繊維を製造する方法であって、具体的には、合成繊維を延伸熱処理する複数組のローラと、該複数組のローラの各組に対応するように設けられた複数個の洗浄液吹付ノズルと、前記複数個の洗浄液吹付ノズルに接続された共通の洗浄液供給配管と、該洗浄液供給配管に設けられた圧力計および開度調整弁とを有する装置を用い、前記合成繊維が走行している最中に前記洗浄液吹付ノズルから洗浄液を吹き付け前記ローラの洗浄を行うとともに、各洗浄液吹付ノズルから吹き出される洗浄液の圧力が所定圧力に対して±0.1MPaの範囲内となるように、前記圧力計および前記開度調整弁を用いて制御することを特徴とする合成繊維の製造方法である。かかる構成によれば、複数組の延伸熱処理ロ−ラを同時に洗浄しても、また、それら複数組の延伸熱処理ロ−ラのうちの一部を順次洗浄しても、共通する洗浄液供給配管の圧力変動を抑制することができ、洗浄液吹付ノズルより洗浄液を均質な霧状にして噴霧できるため液垂れを防止でき、走行糸条の過剰冷却や糸条切断の発生を防ぐことができる。また、圧力制御により充分な洗浄効果が得られ、洗浄不良(汚れ残し)が大幅に改善されるので、その点からも製糸糸切れが改善される。
【0023】
本発明に於ける洗浄液の前記所定圧力は、0.5〜0.65MPaの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは0.55〜0.6MPaの範囲内である。0.5±0.1MPaの下限となる0.4MPa未満では、噴射力が弱く油剤等の熱劣化による汚れの落ちが良くなく、またボックス内にローラが回転することで発生する随伴気流に洗浄液吹付ノズルからの噴射圧力が負けてしまいローラ表面にまで洗浄液や水洗水が届かなく、目標とする洗浄効果が得られない。一方0.65MPa±0.1MPaの上限となる0.75MPa超過では、大量の洗浄液或いは洗浄水で走行糸条が冷却され断糸が頻繁に発生し実質的な設備稼働率の低下となる。
【0024】
本発明においては、上記条件が満たされる設備形態で有れば特に設備構成を制限することはないが、延伸熱処理ロ−ラの清掃を行う、洗浄液吹付ノズルを含むローラの洗浄手段としては、例えば次のような構成を例示できる。すなわち、シリンダと内部に洗剤や水等の洗浄液の配管を配置したシリンダピストンからなる駆動部、前記シリンダピストンの先端部に連結部材を介して設けた洗浄液吹付ノズル、および前記配管に洗浄液を送り込む洗浄液供給部からなる手段で、前記洗浄液吹付ノズルから洗浄液が時間間隔をおいて該延伸熱処理ロ−ラの表面に向かって噴射できるように配置されていることが好ましい。
一般的に延伸熱処理ローラは上下一対或いは左右一対からなり、その対のローラ構成が1本の糸条に対して複数段数配置されている。したがって、例えば対のローラを3段有する装置では、一段目ローラを洗浄するとローラ表面の汚れが糸条に転移されるが、その糸条が2段目、3段目の延伸熱処理ローラ周囲を走行する際、該2段目、3段目の延伸熱処理ローラは高温であるため、糸条の水分が蒸発し該糸条に転移していた1段目の延伸熱処理ローラの汚れが、2段目、3段目の延伸熱処理ローラの表面に転移しやすい。従って、上記洗浄液吹付ノズルは該対の延伸熱処理ローラ毎に対応するように設けられることが好ましい。そして、洗浄液の吹き付けにあたっては、複数組の対のローラに同時に洗浄液を噴射させたり、一対のローラ毎に洗浄液を噴射させる方法があるが、一気に大量の洗浄液をローラ表面に拭きかけるとローラの温度制御下にありながら、洗浄液で急激にローラ表面が冷却され、延伸時に必要な熱を走糸に与えることが出来ず断糸してしまうおそれがある。したがって、このような理由からも、洗浄液吹付ノズルは対の延伸熱処理ローラに対応するように設け、対のローラ毎に洗浄液を噴射出来るものとすることが好ましい。
【0025】
そして、合成繊維を延伸熱処理する対のローラが複数組配置されている場合、一対ずつ洗浄する時と、同時に複数対洗浄する時と、或いはこれらをランダムに洗浄する時とでは、実際に使用に供される洗浄液吹付ノズルの数が異なり、ノズルから噴射させる時のローラ洗浄リクエスト数によって噴射量が大幅に変動する。そのため、延伸熱処理する複数組のローラの洗浄システムとしては、例えば図5に示すような構成を具備するものであることも好ましい。
【0026】
図5は、本発明において好適なローラ洗浄システムの詳細を示すエンジニアリングフローダイヤグラム(以下EFDと記す)である。
【0027】
かかるシステムを構成するにあたっては、まず洗剤や水等の洗浄液の最大使用量を決め、該量を送液可能な例えばカスケードポンプやプランジャーポンプを選定する。この際送液仕様が満たされたものであれば特にポンプタイプは制限されない。これらのポンプは定格で動かすため、常に洗浄液の最大使用量が吐出される。
【0028】
しかしながら、例えば10L/minの吐出能力のポンプを用い0.55MPaで吐出し2対のローラの設備を2つの洗浄液吹付ノズルで各5L/minずつ噴射させ洗浄するシステムがあったと仮定する。このシステムを用いて例えば1対のローラだけ洗浄しようとすると一対のローラへ全能力分吐出されるようになり圧力は2倍かかってしまうことになる。そこで、これら複数個の洗浄液吹付ノズルに接続された共通の洗浄液供給配管に圧力計と開度調整弁とを設け制御することが好ましい。
【0029】
具体的には、例えば図5に示すように、洗浄液として洗剤と該洗剤を中和する水とを用いるシステムにおいては、洗浄液吹付ノズル5の近傍の洗剤供給配管に圧力伝送付き圧力計18を設けるとともに、水洗水供給配管に圧力伝送付き圧力計19を設置し、ローラ洗浄作業時、常に配管内の圧力を検知しその情報を洗剤槽14、或いは水洗水槽16の近傍に設置の洗剤圧力制御弁15或いは水洗水圧力制御弁17へ送り、圧力伝送付き圧力計18、19が所望する設定圧(例えば0.55)±0.1MPaの範囲内になるように圧力制御する。従って最大使用量に満たない量のリクエスト、つまりポンプの吐出能力に対し洗浄するローラの数が少ない時は、洗浄液吹付ノズル5近傍の圧力伝送付き圧力計18、19が配管内圧力を検知し洗剤圧力制御弁15或いは水洗水圧力制御弁17へ送り、かかる制御弁が流路の開度調整を行う。圧力を下げる時は洗剤槽14或いは水洗槽16へ流体を帰還させ配管内部圧が常に設定圧になるよう制御する。逆に配管内の圧力を上げる時は洗剤槽14或いは水洗槽16へ流体の帰還量を絞る制御となる。
【0030】
所望する設定圧に対し圧力差を±0.1MPaの範囲内にするためには、常に配管内圧力のフィードバック制御により圧力調節弁を制御するのではなく、あらかじめ圧力調節弁をフィードフォワード制御により設定圧近傍に配管内圧力が近づく様に開度調整し、該圧力が設定圧に対し±0.07MPa以下になると、PID制御等によるフィードバック制御を用いて開度を微調整することが好ましい。従ってフィードバック制御が補正する偏差は小さくて済むため制御ハンチングを抑制し、設定圧に対する圧力差を最小に安定させることができる。
【0031】
フィードフォワード制御の開度指令値は配管内圧力を一定にするために必要な流量を変数とした比例演算式から求められる値とする。
【0032】
また、洗浄するローラの台数の増減に応じて洗浄液の必要な流量が増減した場合には、PID制御等によるフィードバック制御からフィードフォワード制御にスイッチングし、設定圧に対し±0.10MPaの範囲内(好ましくは±0.07MPaの範囲内、さらに好ましくは±0.05MPaの範囲内)になると、再びPID制御等によるフィードバック制御を用いて開度を微調整する。
【0033】
このような方法により、洗浄するローラの台数が増減しても、所望する設定圧近傍に洗浄液供給配管内の圧力が近づく様に直ちに圧力調節弁の開度を切り替えて合わせることができるため、連続的にフィードバック制御をする場合のような偏差変動による制御ハンチングや制御応答の遅れを低減でき、すばやく所望する圧力に追従させることが可能な安定した圧力制御が行える。その結果、ローラの洗浄時であっても断糸せずに、また、同時に複数マシンの清掃や生産品種毎の洗浄条件を多様に設定できる。
【0034】
なお、該比例演算式の変数は流量でなくともローラ洗浄台数やノズル数に置き換えてもよく、配管圧損を加味した式にしてもよい。さらには、該比例演算式でなくとも流量増減に対して所定の圧力を得ることができた開度指令値の実績値2点以上を直線補間または曲線補間した式にしてもよい。
【0035】
このような本発明の合成繊維の製造方法においては、合成繊維の走行糸道に毛羽検知器を設置し、検知された毛羽の累積数が予め設定した毛羽数に達した時に電気信号を発信したり、或いは予め設定した時間に達した時に電気信号を発信したりするようにし、それら信号に基づいてローラの洗浄を自動的に作動するよう構成することが好ましい。
【0036】
該システムの一例を図5のEFD、延伸機の正面図である図3、図3の延伸機の上面図である図4に基づいて説明する。洗浄液吹付ノズルは、150℃〜260℃に加熱される対となる延伸熱処理ローラと、該対となるローラに規定回数捲回された糸条に囲まれるスペースに設置される。
【0037】
また製糸時の毛羽の発生数を検知すべく毛羽カウンターを任意の位置に設置し、毛羽の発生数をカウントしながら糸条を巻取機で巻き取る。該毛羽カウンターには、例えば(株)キーエンス製のセンサーGH513とアンプGA245の組み合わせ、或いは英国メイナーズーデル(Meiners−del)社製BFD−8P−B型等を用いると良い。またこれら装置を制御する制御盤は延伸熱処理ローラの温度制御盤と該ローラの速度を制御する制御盤と巻取機の一連の制御を行う制御盤と自動洗浄装置および毛羽検知機を制御する制御盤などからなる。
【0038】
毛羽検知機では2種類の制御が選択できるよう予めプログラムされてあり、1つ目は毛羽数をオンラインでカウントしながら予め設定した毛羽数に達したときに、該自動洗浄装置が作動し出すようにするものと、2つ目は時間制御でローラ洗浄サイクルを任意の時間で作動しだすものとがある。始めに任意から選ばれた一定の毛羽数に達したときにローラ自動洗浄装置が作動するシステムについて説明すると、例えば延伸速度3500m/secで製糸する設備では、該条件で延伸熱処理ローラおよび巻取機の速度或いは張力が制御され、毛羽検知機で毛羽数を自動的にセンサーでカウントし、該カウント数が制御盤で記憶され、設定された毛羽数を越えると、毛羽検知機の制御盤より指令が巻取機制御盤に出力され巻取機が糸切り替えを開始する。次に巻取機の制御盤より自動洗浄装置へ巻取機の糸切り替えの完了後、巻き上げられた製品をドフィングする。該ドフィング完了信号の出力で洗浄液送液ポンプが稼働し定格分、一定量送液が開始されノズルより洗浄液が所定圧力±0.1MPaで噴射される。
【0039】
数秒後に洗浄液吹付ノズルユニットのシリンダ機構が5〜15cm/secで制御されながら水平方向の往復運動を開始する。洗浄液を洗浄液吹付ノズルから噴射している間、洗浄液吹付ノズルユニットはローラ表面全体に洗浄液が付与されるように停止することなく噴射を続けてるとともに往復運動を継続することが好ましい。なお、シリンダ機構を往復運動させなくても全洗浄液吹出ノズルをローラセンターに対しネルソン角度分だけ角度をつけると、噴射液が重なり合わないラップ状態で糸条があるローラ表面の全面に流体を吹き付けることが可能となる。
【0040】
本発明において、延伸熱処理ローラの洗浄は、糸条を断糸せず、糸条を走行させながら行える。そのため、洗浄時間を大幅に短縮でき、結果製品の収率向上および設備稼働率を向上できる。また、ローラ表面の汚れは洗浄液の油剤洗浄剤の効果に加えて糸条とローラ表面との摩擦力を利用して洗浄することができるので、洗浄効果も高い。なお、この場合、洗浄作業でローラから除去された汚れは糸条に持ち出され巻取機で巻き取られる。
【0041】
本発明において、洗浄液としては、洗剤や水を用いることが好ましい。洗剤としては特に限定されるものではないが、水酸化ナトリウム水溶液やトリエチルアミン溶液、製糸油剤等を用いることが可能である。また、水としては純水が好ましい。そして、本発明においては、洗剤により洗浄の後にローラ表面に付着残存している該洗剤の中和を目的として水により洗浄を行うことが好ましい。
【0042】
このような洗浄の後は、該洗浄液吹付ノズルに圧空0.4〜0.7MPaを導入し、ローラ表面にエアーブローする。該エアーの配管ラインと、後述する図3に示すボックス1の天井面に配置するエアーブロー配管は繋がっており、同制御で連動している。その後、エアーブローの終了の信号、すなわち洗浄作業の終了が巻取機制御盤へ出力され、巻取機は汚れたパッケージを自動で糸切り替えし、作業は終了となる。汚れを巻き取ったパッケージはオートドッファー或いは人でドフィング(取り除く)され通常制御に入る。
【0043】
上記の説明は毛羽の発生量が一定に達したときの制御であったが、一定の時間に達したときに洗浄を行う制御の時は、上述した毛羽検知システムにおいて毛羽数をカウントせず、予め設定したタイマーで洗浄作業が稼働するようにプログラムしその後の一連の制御は同様である。
【0044】
本発明においては、毛羽検知器が予め設定した糸条の累積毛羽数に達した時、或いは予め設定した時間に達した時に延伸熱処理ロ−ラを洗浄するに際し、延伸倍率を低下させ、および/或いは延伸速度を減速せしめ、延伸倍率の低下および/または減速が完了した電気信号等よりローラの洗浄作業が開始するように制御することも好ましい。
【0045】
具体的には、例えば設定された毛羽数を越えた時に、毛羽検知機の制御盤より巻取機制御盤に指令が出力され、巻取機が糸切り替えを開始し、糸切り替えの完了の信号を延伸ローラの制御盤に出力し、延伸速度を徐々に10%〜40%減速つまり延伸倍率を低下させるように構成し、減速完了後、ノズルより洗浄液を所定圧力±0.1MPaの範囲内で噴射させる。
【0046】
さらに、本発明においては、複数組のロ−ラの周囲をボックスで囲み、ローラ洗浄をしている最中に、5〜30m/分の速度で前記ボックス内の気体を排気するとともに、前記ボックスの内側の天井面に付着する液摘を除去することが好ましい。複数組のロ−ラの周囲をボックスで囲むことで、上昇気流を制御したり、糸に付与する油剤等が延伸ローラ上で蒸発する際に発生する白煙が広がることを防いだり、また、放熱や所望しない箇所への熱の伝達を防ぐことができる。さらに、ボックス内部に設置してあるエアーガイドから吹き出されるエアー音の消音効果や万が一糸切れした際の飛散による災害防止効果も奏する。
【0047】
また、例えば150℃〜260℃程度の高温ローラに洗浄液を噴射させると大量の水蒸気が発生し、ローラを囲うボックスの内部表面、特に天井面に多くの水滴が発生し、かかる水滴が走行糸条に滴下して走行糸条が急冷され切断されたり、該水蒸気で近傍に配置する油剤がゲル化され粘度変化し、走行糸条への油剤添加量が不安定になるなど悪影響を及ぼす。そのためローラ洗浄中に発生する水蒸気を積極的に排気することが重要である。排気量は5〜30m/分が好ましい。5m/分未満であると水蒸気排気量より水蒸気の発生が過多になりローラボックスの内壁の天井面或いは側面に水滴を大量に発生させてしまい、ローラ洗浄後の通常条件の生産時に天井面や側面の水滴がローラボックス内に発生する随伴気流により刺激され走行糸条に滴下し断糸してしまうおそれがある。5m/分以上であれば天井面や側面に水滴がほとんど発生せず、高温ローラの熱で比較的はやく蒸発する。一方、強制排気が異常な過多になってしまうとローラボックス内が冷却されローラの表面温度が下がり、最悪断糸してしまうか、ローラの昇温が積極的に行われエネルギーロスの起因になってしまう。したがって、排気量は30m/分以下であることが好ましい。このように延伸熱処理ロ−ラを囲むボックスは、10〜30m/分の排気能力を有するものが好ましい。
【0048】
排気装置は、該排気能力に見合った市販のブロワを選定すればよい。該ブロワとローラボックスはダクトで結合するが、ダクト内で水蒸気が冷却され結露するのでダクトの繋ぎ目部にはコーキングにより気密性を高めることが好ましく、また、排気ダクトも保温材(グラスウール)などで保温し、出来るだけ気体の冷却を抑制する対策をとることが好ましい。また該ダクトは一定の勾配をとり上記冷却防止対策を実施しても発生したドレンをドレンポットで回収できるような配管構成をとると良い。
【0049】
また、ボックスの内側の天井面には、液摘を捕集しかつ排出するための傾斜板を設置することも好ましい。本発明においては、例えば一定の時間毎に、延伸熱処理ロ−ラに洗浄液を噴射して該延伸熱処理ロ−ラを洗浄する。該延伸熱処理ロ−ラは回転しており、かつ高温であるため洗浄終了後まもなく乾燥するが、該延伸熱処理ロ−ラボックス内に飛び散った洗浄液はロ−ラボックス内壁に付着し、直ぐには落下したり蒸発したりしないものの、正常な製糸を開始してから時々液滴が落下し、糸切れや毛羽発生を引き起こすことがある。そのため、ボックスの内側の天井面に傾斜板を設ける事が好ましい。
【0050】
かかる傾斜板は、延伸熱処理ロ−ラ洗浄時に吹き付ける洗浄液や洗浄液から発生する水蒸気が天井面に付着し、次いで液滴となって落下するのを防ぐためのものである。その設置場所および形状等は、たとえば図1に示す通りである。該傾斜板は、一定に傾斜加工したものが天井面に取り付けられ、天井で凝縮した液滴は延伸熱処理ローラ上に落下することなく該傾斜板を伝わって外部に排除される。好ましくは10°以上の角度であれば天井にある水滴はローラー上へ滴下することもなくスムースに排除できる。それ以上であれば効果は一定であり、角度を大きく設定するほどボックス寸法が高さ方向へ大きくなってしまい設備費と云う観点からもメリットがあるとは言えない。
【0051】
更に、本発明においては、ボックスの天井で凝縮した液滴を強制的に排除させるため、該ボックスの内側の天井面に、液摘を強制排出するためのエア−ブローノズル装置を設置する。図2に、取り付け位置、形状等を例示する。ボックスの天井面に例えば銅チューブと砲金継ぎ手とブローノズルとで構成されたエアーブロー装置を設置する。延伸熱処理ローラを自動洗浄した後、天井面に付着凝縮した液滴を0.4〜0.7MPaの範囲でエアーブローして積極的に排除することが好ましい。
【0052】
また、該延伸熱処理ロ−ラを囲むボックスの内壁表面には弗素樹脂などの離型性処理を施してあることが好ましい。延伸熱処理ロ−ラの表面から揮発した油剤成分の一部がボックスの内壁に付着し、長時間高温に曝されるため熱酸化劣化し、固着物として該ボックスの内壁を汚してしまう。場合によっては、該ボックスの内壁に付着し、十分固化する前の熱酸化汚れ物が走行糸条に落下し糸条を汚すこともある。そのために、延伸熱処理ロ−ラ全体を囲むボックスの内壁の表面を弗素樹脂で被覆し、汚れが付着し難くし、簡単な清掃によって付着物が取れ、常に綺麗なボックス内壁を維持することができるようにすることが好ましい。
【0053】
該ボックスに被覆する弗素コーティングは通常の方法によればよい。弗素樹脂としては、酸化分解温度280℃までのものを採用することが好ましい。延伸熱処理時のローラ表面温度は通常最高でも260℃程度であり、該ローラと直接接触しないボックスの内壁温度は260℃以下である。従って、ボックス内壁のコ−テイングに用いる弗素樹脂は酸化分解温度280℃以上で有れば十分である。具体的には、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)或いはPFA(ポリテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニールエーテル共重合体)等を用いることができる。
【0054】
以上のように、本発明によれば、延伸熱処理ローラ上の汚物や異物に対し洗浄液を噴射して飛散除去させることにより、延伸熱処理ローラ上に汚物や異物を実質的に堆積させないようにすることができるため、延伸熱処理ローラを長時間初期の状態で維持することができるばかりか、ローラ洗浄のための停機を少なくして稼働率および生産効率を高めることが可能であり、しかも糸切れや毛羽の発生などの不具合を解消して品質・品位のすぐれた合成繊維を製造することが可能である。
【0055】
なお、本発明において製造される合成繊維は、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、アラミド繊維など、延伸熱処理ローラを用いて延伸熱処理する素材の繊維であればいずれでもよいが、特に、高融点で高温の延伸熱処理を必要とする産業資材用高強力糸を製造する際に有効である。なかでも産業資材用ポリアミドおよびポリエステルの高強力繊維を、高速の直接紡糸延伸法で製造する際に用いることが有利である。なお、ここでいう高強力繊維の高速直接紡糸延伸法とは、強度が8.3cN/dtex以上、とくに8.8cN/dtex以上の繊維を2000m/分以上の速度で製造することを意味する。
【実施例】
【0056】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0057】
なお、以下の実施例における各特性の評価は次の方法にしたがって行った。
【0058】
[自動洗浄時の洗浄液供給配管の圧力変動量]
自動洗浄中の洗浄液供給配管の圧力変動量を図5のEFDの圧力伝送付圧力計18、19で測定しその変動幅のmax値を示した。
【0059】
[ローラ汚れ]
延伸工程を開始してから24時間後の延伸熱処理ローラ表面の汚物・異物の付着状態を目視観察し、次のとおり評価した。
◎:汚れ全くなし
○:汚れほとんどなし
△:汚れややあり
×:汚れありと評価した。
【0060】
[単糸切れ]
張力調整ローラ後の糸道変更ガイドの直後に毛羽検出装置を設置し、繊維1万m当たりの単糸切れ数を測定し、以下要領で判定した。
○:0個/1万m
△:0〜1個/1万m
×:2〜3個/1万m。
【0061】
[糸切れ回数]
張力調整ローラ後の糸道変更ガイドの直後に毛羽検出装置を設置し、繊維1t当たりの糸切れ回数を示した。
【0062】
[洗浄時間]
ローラ洗浄から次のローラ洗浄までの時間を示す。
【0063】
[ローラボックスの天井における水滴の発生]
ローラ洗浄直後にボックス扉を開き天井面の水滴状態を確認し、次のように評価した。
◎:水滴なし
○:水滴がほとんどない
△:水滴ややあり
×:大量水滴あり。
【0064】
[自動洗浄による糸切れ発生率]
自動洗浄を50回実施したときの洗浄中或いは洗浄後5分以内での糸切れ回数を洗浄実施回数で割り返したものを示す。
【0065】
[原糸繊度]
原糸の繊度:JIS L−1017(2002)の8.3 a)の方法で正量繊度を測定した。
検尺機で糸長100mをサンプリングして、重量を測定し算出した。
【0066】
[原糸強度、伸度]
JIS L1017(2002)の8.5 a)標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。オリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100を用い、試料を掴み間隔25cmでセットし、引張り速度30cm/分で評価した。また試験回数は30回とし、その平均値を求めた。なお、伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0067】
[沸騰水収縮率]
JIS L1017(2002年)の8.14に従って初荷重0.045cN/dtexで測定した。測定回数は30回とし、その平均値を求めた。
【0068】
<実施例1〜5、比較例1〜3>
[合成繊維の基本製造条件]
硫酸相対粘度:3.6のナイロン66チップを、横型紡糸機を用いて溶融紡糸した。紡糸温度は295℃とし、10μmの空隙を有する金属フィルタを通して濾過し、細孔0. 25mmφで孔数204の口金を通して紡糸した。紡出糸条は口金面から約25cm間の300℃の高温雰囲気下を通過させた後、約20℃の冷風を吹きつけて冷却固化せしめた。
【0069】
次いで、糸条に水系エマルジョンタイプの紡糸油剤を予備給油した後、非加熱の引き取りローラに捲回させて引き取り、引き続き給糸ローラとの間で5%のストレッチをかけながら平滑剤を主成分とし、微量の制電剤を含む非水系紡糸油剤を付与した。紡糸油剤は延伸熱処理後の糸条への付着量が0.6重量%となるよう調整した。
【0070】
次いで、得られた未延伸糸条を一旦巻き取ることなく連続して、3組の対のネルソンローラに捲回しながら3段延伸し、全延伸倍率6.20倍とした。 延伸熱処理後の糸条を巻き取る直前に、活性剤成分を主成分とする油剤を付与した。油剤は、延伸巻き取り後の原糸に対し0.8重量%となるよう、約0.3重量%付着させた。
【0071】
各ローラ温度は、給糸ローラ:45℃、1段延伸ローラ:120℃、2段延伸ローラ:235℃、3段延伸ローラ:250℃とした。また、各ローラへの糸条の捲回数は、引き取りローラ:2回、給糸ローラ:3回、1段延伸ローラ:3回、2段延伸ローラ:5回、3段延伸ローラ:6回とした。
【0072】
引き続いて、延伸熱処理された糸条を130℃に加熱した張力調整ローラに4回捲回して10%の弛緩を与えた後、ワインダーで巻き取った。
【0073】
なお、製糸速度は、延伸速度が最大となる3段延伸ローラの速度として3500m/分とした。
【0074】
[延伸熱処理ローラの洗浄手段の基本構成]
図1〜図3に示すように、3段延伸ローラのそれぞれに対応する位置に洗浄液吹付ノズルを取り付けた。なお、図1は側面図、図2は平面図、図3は正面図である。また、かかる洗浄手段のエンジニアリングフローダイヤグラム(EFD)を図5に示す。
【0075】
そして、糸を切り上げることなくオンラインで毛羽の発生数を検知し毛羽数20個/hrに達したときに洗浄作業が自動的に開始されるプログラムを用いた。
【0076】
また、設定毛羽数を越えると毛羽検知機の制御盤より指令が巻取機制御盤に出力され巻取機が糸切り替えを開始し、糸切り替えの完了の信号を延伸ローラの制御盤に出力し、延伸速度を徐々に30%減速するように構成するとともに、
減速完了信号を受けて洗浄液送液ポンプが稼働し送液が開始されノズルより洗浄液が噴射されるように構成した。
【0077】
洗浄液には、洗剤として水酸化ナトリウム水溶液を用い、該洗剤を中和洗浄するための水洗水として純水を用いた。
【0078】
そして、洗剤による洗浄、水洗の後には、ローラ表面をエアーブローし、エアブロー終了の信号を受けて速度が1minかけ徐々に生産速度へ回復(昇速)するように構成した。生産速度に達したら巻取機の制御盤へ洗浄作業の終了を出力し、巻取機は汚れたパッケージを自動で糸切り替えするように構成した。汚れを巻き取ったパッケージはオートドッファーでドフィング(取り除く)し通常制御に自動で切り替えた。
【0079】
以上の基本的条件で、延伸熱処理ローラの洗浄を行いながら合成繊維を製造するとともに、洗浄作業で除去された汚れを糸条に持ち出させ巻取機で巻き取った。このとき、実施例では、表1に示す噴射圧力で洗浄液が吹き出されるように、実施例1〜5では圧力制御システムを用い、さらに実施例1〜4ではフィードフォワード制御とフィードバック制御を用い、実施例5ではフィードバック制御を用いた。一方、比較例では該圧力制御システムを適応させないで実施した。
【0080】
なお、ボックスの天井面には、ボックス内部で発生する水蒸気を積極的に排気するため、表に示す排煙能力を有する局所排気ダクトを、実施例1〜5および比較例1〜3に設置した。さらに実施例1、2、4、5においては、天井に付着した水滴を積極的に除去するために、表に示す噴射圧力のエアーブローノズルを設置した。また、実施例1、3〜5においては、ボックス内部の天井面に、表に示す傾斜角度を有する傾斜版を配置した。
【0081】
条件および評価結果を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
本発明にかかる実施例1〜5では、表1に示すように、洗浄効果が高く、自動洗浄時の配管内部の圧力変動が小さく、およびローラの周囲を囲むボックスからの水滴や汚れの滴下がないため、洗浄不良や断糸の発生が少なく、実質的な設備の稼働率が向上した。一方、比較例1〜3では、本発明の方法を用いず、最初に開度調整弁を調整して洗浄液が洗浄液吹付ノズルから比較例1では0.35MPa、比較例2では0.8MPa、比較例3では0.6MPaで噴射されるように設定し、洗浄を実施した結果、自動洗浄時の洗浄液供給配管内部の圧力変動が大きく、液垂れが発生した。また噴射圧の低い比較例1では充分な洗浄効果が得られず糸切れ回数も多いことが分かる。一方、噴射圧の高い比較例1では、噴射された洗浄液で延伸ローラの表面が急激に冷却されたことで、走糸も充分な熱を得られず糸切れが増加した。さらに比較例3でも、最初に流量調整弁の開度を調整し噴射圧力を0.6MPaになるよう設定しただけであるため、自動洗浄時の洗浄液供給配管内部の圧力変動が大きく、自動洗浄による糸切発生率が増加した。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明に用いられる合成繊維の製造装置の一実施形態を示す概略側面図である。
【図2】図1に示す装置の概略一部上面図である。
【図3】図1に示す装置の正面図である。
【図4】図1に示す装置において洗浄液吹付ノズルから噴射される液体の範囲を示す図である。
【図5】本発明において好適なローラ洗浄システムの詳細を示すエンジニアリングフローダイヤグラムである。
【符号の説明】
【0085】
1 ボックス
2 延伸モータ
3 傾斜板
4 ブローノズル
5 洗浄液吹付ノズル
6 延伸熱処理ローラ
7 排出管
8 噴射孔
9 浄液吹付ノズルから噴射される液体の状態
10 延伸熱処理ローラ(上段ローラ)
11 延伸熱処理ローラ(下段ローラ)
12 保護カバー
13 エアー
14 洗剤槽
15 洗剤圧力制御弁
16 水洗水槽
17 水洗圧力制御弁
18 圧力伝送付圧力計
19 圧力伝送付圧力計
20 洗剤送液ポンプ
21 水洗水送液ポンプ
22 ボックス内部天井エアーブローノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維を延伸熱処理する複数組のローラと、該複数組のローラの各組に対応するように設けられた複数個の洗浄液吹付ノズルと、前記複数個の洗浄液吹付ノズルに接続された共通の洗浄液供給配管と、該洗浄液供給配管に設けられた圧力計および開度調整弁とを有する装置を用い、前記合成繊維が走行している最中に前記洗浄液吹付ノズルから洗浄液を吹き付け前記ローラの洗浄を行うとともに、各洗浄液吹付ノズルから吹き出される洗浄液の圧力が所定圧力に対して±0.1MPaの範囲内となるように、前記圧力計および前記開度調整弁を用いて制御することを特徴とする合成繊維の製造方法。
【請求項2】
前記開度調整弁をフィードフォワード制御により開度調整して、前記洗浄液供給配管内の圧力を前記所定圧力に対して±0.07MPaの範囲内とし、その後前記開度調整弁をフィードバック制御により開度調整して、前記洗浄液供給配管内の圧力を前記所定圧力に対して±0.05MPaの範囲内とする、請求項1記載の合成繊維の製造方法。
【請求項3】
合成繊維を延伸熱処理するに際し糸条の毛羽数を検知して予め設定した毛羽数に達した時に、または、予め設定した時間に達した時に、前記ロ−ラの洗浄を行う、請求項1または2記載の合成繊維の製造方法。
【請求項4】
前記ローラの洗浄を行う際に、延伸倍率を低下させ、および/或いは延伸速度を減速させる、請求項1〜3いずれかに記載の合成繊維の製造方法。
【請求項5】
前記装置が前記複数組のロ−ラを囲むボックスを有するものであり、ローラ洗浄をしている最中に5〜30m/分の速度で前記ボックス内の気体を排気するとともに、前記ボックスの内側の天井面に付着する液摘を除去する、請求項1〜4いずれかに記載の合成繊維の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−235646(P2009−235646A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85869(P2008−85869)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】