説明

合紙及びその製造方法

【課題】平板状ガラスと重ね合わせた状態における作業性が良好であるとともに、平板状ガラスの吸引を利用して搬送するに際して好適な合紙及びその製造方法を提供する。
【解決手段】合紙11は、セルロース系繊維を含有して構成された基材シート12の片面に、その片面の滑り性を抑制する滑り抑制層13が設けられて構成されている。この滑り抑制層13を設けることにより、同滑り抑制層13の形成する面の静摩擦係数は、平板状ガラス21を試験片とした測定において0.5以上となるように構成されている。さらに合紙11の透気抵抗度(ガーレー)は、100秒/100cc以下となるように構成されている。この合紙11は、滑り抑制層13に平板状ガラス21を重ね合わせて使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平板状ガラスを保護するための合紙及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平板状ガラスを積層した状態で載置する際には、平板状ガラスの表面に傷、汚れ等の不具合が発生することを抑制することを目的として、平板状ガラスの間に合紙が挟み込まれる。こうした合紙としては、例えば合紙に含まれる樹脂分を0.2重量%以下にすることで、合紙自体から発生する汚染物質を低減したものが提案されている(特許文献1参照)。また、合紙の嵩比重を0.55g/cm以下にすることで、合紙の吸湿性を向上させるとともに平板状ガラスへの水分の付着を抑制した構成が提案されている(特許文献2参照)。特許文献2の合紙は、平板状ガラスの表面において、水分の付着を起因とする汚れが発生することを抑制する。また、合紙と平板状ガラスとの接触に起因して平板状ガラスの表面に撥水性等が発現することを抑制したものが知られている(特許文献3参照)。特許文献3の合紙は、無塵紙の表面を水溶性樹脂で覆うことにより、その水溶性樹脂が平板状ガラスの表面に転移したとしても、その水溶性樹脂は水洗で容易に除去されるとしている。
【特許文献1】特公平4−79914号公報
【特許文献2】特公平1−32171号公報
【特許文献3】特開平9−170198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、平板状ガラスの運搬時等において、平板状ガラスから合紙がずれてしまうと、平板状ガラスの面が部分的に露出してしまうことになり、合紙の保護機能が好適に発揮されなくなる。上述した合紙は、繊維の集合体であるため、平板状ガラスに重ね合わせた際に、例えば平板状ガラスとの間に形成される微細な空気層等が要因となり、平板状ガラスの面上において滑り易い。このため、平板状ガラスから合紙がずれ易く、その結果、運搬等における作業性が十分に得られないという問題があった。そこで、基材となる紙面全体に、例えば樹脂層を形成し、その樹脂層によって平板状ガラスの滑りを抑制するといった構成が考えられる。このように構成すれば、樹脂層と平板状ガラスとの密着性を利用して合紙のずれが抑制される。
【0004】
一方、平板状ガラスをコンベヤにて搬送するに際して、平板状ガラスは合紙を介してコンベヤ上に載置される。こうした搬送では、コンベヤ上の平板状ガラスに対してコンベヤ及び合紙を通じた吸引を行うことにより、コンベヤ上の平板状ガラスを所定の位置に保持することが行われている。ところが、上述したように平板状ガラスの滑りを抑制した構成を採用した場合、合紙の通気性が損なわれることになる。このため、主として合紙が吸引されることで平板状ガラスが十分に吸引されず、その結果、合紙上に載置されている平板状ガラスが所定の位置からずれてしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、平板状ガラスと重ね合わせた状態における作業性が良好であるとともに、平板状ガラスの吸引を利用して搬送するに際して好適な合紙及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の発明の合紙は、平板状ガラス用の合紙であって、セルロース系繊維を含有して構成された基材シートの少なくとも片面に、その少なくとも片面の滑り性を抑制する滑り抑制層を設けることにより、該滑り抑制層の形成する面の静摩擦係数を、前記平板状ガラスを試験片とした測定において0.5以上とし、かつ前記合紙の透気抵抗度(ガーレー)を100秒/100cc以下とし、前記滑り抑制層に前記平板状ガラスを重ね合わせて使用されることを要旨とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の合紙において、前記滑り抑制層が、前記基材シートの少なくとも片面において、不連続に形成されていることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の合紙において、前記滑り抑制層を形成する材料として、その材料から連続面を形成した際において前記平板状ガラスを試験片とした場合の静摩擦係数が1.0以上の材料を用いたことを要旨とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の合紙において、前記滑り抑制層の付着量が、2〜20g/mであることを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の合紙において、前記平板状ガラスが、フラットディスプレイ用の板ガラスであることを要旨とする。
【0009】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の合紙の製造方法であって、前記基材シートに前記滑り抑制層を塗布液の塗工によって設ける工程を備え、該工程は、計量された塗布液を前記基材シートに転写することにより、前記滑り抑制層を形成することを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、平板状ガラスと重ね合わせた状態における作業性が良好であるとともに、平板状ガラスの吸引を利用して搬送するに際して好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1に示すように本実施形態における合紙11は、平板状ガラス21を保護するためのものである。この合紙11は、セルロース系繊維を含有して構成された基材シート12の片面に、同片面の滑り性を抑制する滑り抑制層13が設けられたものである。そして滑り抑制層13を設けることによって、同滑り抑制層13の形成する面の静摩擦係数は平板状ガラス21を試験片とした測定において0.5以上として構成される。さらに滑り抑制層13は、合紙11の透気抵抗度(ガーレー)が100秒/100cc以下となるように構成されている。この合紙11は、滑り抑制層13に平板状ガラス21を重ね合わせて使用される。
【0012】
基材シート12は、セルロース系繊維を含有することで、適度な吸湿性を有している。この基材シート12の吸湿性により、平板状ガラス21への水分の付着が抑制されることで、平板状ガラス21の表面において、水分の付着を要因とした汚れの発生が抑制される。さらにセルロース系繊維を含有することで、基材シート12の強度は水素結合によって高まり易い。このため、基材シート12において、紙力増強剤、結合剤等の添加剤を極力削減することができる。さらに、そうした添加剤を配合せずに、基材シート12を構成することにより、基材シート12の清浄性を確保することが容易である。なお、基材シート12中のセルロース系繊維の含有量は、吸湿性を高めるという観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0013】
基材シート12を構成するセルロース系繊維としては、木材パルプ、マニラ麻、三椏、楮等の天然セルロース系繊維、レーヨン、リヨセル等の合成セルロース系繊維等が挙げられる。これらのセルロース系繊維は、単独で配合してもよいし、複数種を組み合わせて配合してもよい。また、基材シート12には、セルロース系繊維以外の繊維を配合することもできる。セルロース系繊維以外の繊維としては、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリアミド繊維等の合成繊維が挙げられる。セルロース系繊維以外の繊維は、単独で配合してもよいし、複数種を組み合わせて配合してもよい。
【0014】
このような基材シート12は、湿式不織布、又は乾式不織布として構成される。湿式不織布は、紙、湿式スパンレース不織布等が挙げられる。こうした湿式不織布は、長網、短網、円網、傾斜ワイヤ等の周知の抄紙機を用いて製造することができる。なお、湿式不織布は、単独の抄紙機を用いた単層構造であってもよいし、複数の抄紙機を用いた複層構造であってもよい。乾式不織布としては、ケミカルボンド、サーマルボンド、ニードルパンチ等の周知のものを使用することができる。
【0015】
また、基材シート12の原料として古紙を利用することにより、基材シート12の経済性を確保することが容易となる。古紙を原料とする場合には、平板状ガラス21の汚染を抑制するという観点から、その古紙から不純物を抽出、洗浄等で取り除くことにより、基材シート12の清浄性を確保することが好ましい。
【0016】
基材シート12の透気抵抗度(ガーレー)は、合紙11の透気抵抗度(ガーレー)を100秒/100cc以下にすることが可能な範囲であればよい。すなわち、基材シート12の透気抵抗度は、100秒/100cc以下である。なお、本明細書でいう透気抵抗度(ガーレー)は、JIS P 8117−1998(紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法)に準拠して測定された値であり、以下、「透気抵抗度(ガーレー)」は、単に「透気抵抗度」と記載する。基材シート12の透気抵抗度は、繊維の種類、繊維長、繊維径、基材シート12の密度、厚さ等に依存するため、その透気抵抗度は原料、製造条件等を適宜選択することにより設定される。合紙11の強度が十分に得られ易いという観点から、基材シート12の坪量は15g/m以上であることが好ましい。
【0017】
基材シート12に設けられる滑り抑制層13は、同滑り抑制層13に重ね合わせられた平板状ガラス21の滑りを抑制する。滑り抑制層13は、同滑り抑制層13の形成されている片面の静摩擦係数を0.5以上とするべく設けられている。なお、本明細書でいう静摩擦係数は、JIS P 8147−1994(紙及び板紙の摩擦係数試験方法)に準拠して測定された値である。さらに滑り抑制層13は、合紙11の透気抵抗度を100秒/100cc以下とするべく設けられている。本実施形態の滑り抑制層13は、基材シート12の片面において、直線状をなすとともに離間した複数部位から形成されている。すなわち、滑り抑制層13が不連続に形成されることにより、基材シート12の露出した部位が存在するため、合紙11が所定の通気性を有するように構成されている。なお、滑り抑制層13を構成する複数部位の形状は、曲線状、点状、その他不連続模様を形成する形状に変更してもよい。すなわち、滑り抑制層13は、それを構成する部位の形状、材料等を適宜変更することにより、合紙11は上述した静摩擦係数及び透気抵抗度に設定される。
【0018】
滑り抑制層13の材料としては、その材料から連続面を形成した場合の静摩擦係数について、比較的大きな材料を用いることが好適であり、具体的には連続面を形成した場合の静摩擦係数が1.0以上である材料を用いること好適である。すなわち、連続面を形成した場合の静摩擦係数が1.0未満の材料を用いた場合には、上述した片面の静摩擦係数を0.5以上に設定することが困難となる。ここでいう連続面は、材料を基材シート12上にキスロールコータを用いて塗布して形成した面であり、連続面の静摩擦係数は、平板状ガラス21を試験片としてJIS P 8147−1994(紙及び板紙の摩擦係数試験方法)に準拠して測定された値である。
【0019】
なお、片面の静摩擦係数は、滑り抑制層13の表面状態にも依存するため、連続面を形成した場合の静摩擦係数が1.0未満の材料を用いた場合であっても、上述した片面の静摩擦係数を0.5以上に設定することも可能である。すなわち、本実施形態の滑り抑制層13について、材料及び表面状態で規定するのは不適であるため、上述した静摩擦係数によって規定している。
【0020】
滑り抑制層13を構成する材料としては、高分子材料が好適であり、高分子材料としては、オレフィン、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル等を単量体とする単独重合体、その単量体からなる共重合体等が挙げられる。さらに、滑り抑制層13の表面を例えば粗面化することにより、片面の静摩擦係数を調整することもできる。滑り抑制層13を粗面化する方法としては、高分子材料に対する充填剤の配合、発泡性マイクロカプセルによる滑り抑制層13の形成等が挙げられる。合紙11に対して、低発塵性が要求される場合には、充填剤を含まない材料が好適であるため、発泡性マイクロカプセルにより滑り抑制層13を形成することが好適である。
【0021】
発泡性マイクロカプセルは、低沸点炭化水素からなる芯部分と高分子材料からなる壁部分とから構成され、加熱によって低沸点炭化水素が揮発することにより多孔質の層を形成するものである。芯部分となる低沸点炭化水素としては、n−ブタン、ペンタン、ネオペンタン等が挙げられる。壁部分となる高分子材料としては、低沸点炭化水素に不溶な高分子材料が挙げられ、塩化ビニリデン、塩化ビニル、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン等を単量体とする単独重合体、又は共重合体が挙げられる。発泡性マイクロカプセルは、一般に、水分散体として市販されている。発泡性マイクロカプセルの具体例としては、エクスパンセル(商品名)DE、同DU、同WU、フィライト(商品名)、松本マイクロスフェアー(商品名)F−30、同F−50、同F−80(松本油脂製薬(株)製)等が挙げられる。滑り抑制層13を発泡性マイクロカプセルから形成することで、滑り抑制層13の表面が容易に粗面化されるため、その表面の静摩擦係数を容易に高めることができる。発泡性マイクロカプセルの中でも、連続面を形成した場合の静摩擦係数が1.0以上である発泡性マイクロカプセルを用いることが好適である。ここでいう発泡性マイクロカプセルの連続面とは、発泡性マイクロカプセルを基材シート12上にキスロールコータを用いて塗布して形成した後、加熱によって発泡させた後の面をいう。
【0022】
上述した発泡性マイクロカプセルを基材シート12に接着するにはバインダーが使用される。バインダーは、水分散性バインダー、水溶性バインダー、油溶性バインダー等に分類される。
【0023】
水分散性バインダーとしては、スチレン・ブタジエン(SBR)系ラテックス、アクリロニトリル・ブタジエン系(NBR)系ラテックス、メチルメタクリレート・ブタジエン(MBR)系ラテックス、アクリル酸エステル系ラテックス、塩化ビニル系ラテックス、エチレン・酢酸ビニル(EVA)系ラテックス等のラテックス、及びそのラテックスのカルボキシル変性体が挙げられる。水溶性バインダーとしては、ゼラチン、カゼイン等のプロテイン類、澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、酸化澱粉等の澱粉類、カルボキシメチルセルロース誘導体、アルギン酸ソーダ、アラビアゴム等の天然由来の高分子化合物、ポリビニルアルコール、ポリアクリロアミド、ポリビニルピロリドン、マレイン酸共重合体等の合成高分子化合物が挙げられる。油溶性バインダーとしては、各種ロジン、コーパル、ダルマン等の天然樹脂、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、重合ロジン、エステルガム等の半合成樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、尿素樹脂、石油樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、ポリアミド樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂等の合成樹脂等が挙げられる。
【0024】
滑り抑制層13の付着量は、2〜20g/mであることが好ましい。滑り抑制層13の付着量が2g/m未満の場合、上述した静摩擦係数に設定することが困難となる。一方、滑り抑制層13の付着量が20g/mを超える場合、基材シート12に滑り抑制層13を形成するに際して、基材シート12の面が連続した薄膜で被覆され易くなり、結果として合紙11を上述した所定の透気抵抗度に設定することが困難となる。
【0025】
滑り抑制層13は、その材料を含む塗布液を基材シート12に塗工することにより形成することができる。塗布液の塗工としては、塗布又は散布が挙げられる。滑り抑制層13は、静摩擦係数及び透気抵抗度を調整することが容易であるという観点から、計量された塗布液を基材シート12に転写することにより形成されることが好適である。計量された塗布液を基材シート12に転写するための塗工機としては、各種コータの他に印刷機が挙げられる。
【0026】
コータとしては、リバースロールコータ、トランスファーロールコータ、グラビアコータ、キスロールコータ、キャストコータ、スプレイコータ、カーテンコータ、カレンダーコータ、押出コータ等が挙げられる。これらのコータは、本来、塗工対象物を塗膜で被覆するといった塗工に用いられることが多いため、例えばキスロールコータを用いる場合には、マイヤーバー巻線径を大きくしたり、また例えばカーテンコータを用いる場合にはスリットを断続的に配置したりする等して、静摩擦係数及び透気抵抗度が上述した範囲となるように調整する。このように、計量された塗布液を基材シート12に転写する塗工機を用いることにより、塗布液の塗布量が安定化されるため、例えば塗布液の粘度を高めることによって、滑り抑制層13を不連続に形成し、合紙11の透気抵抗度を調整することも容易である。
【0027】
印刷機としては、平版印刷機、凸版印刷機、凹版印刷機、孔版印刷機等が挙げられる。これらの塗工機の中でも、付着量及び塗布パターンの調整が容易であることに加えて、塗布液の選択範囲が広いという観点から、グラビアコータ又はグラビア印刷機が好適である。
【0028】
合紙11において、滑り抑制層13の形成されている片面の静摩擦係数は0.5以上、好ましくは0.6以上である。この静摩擦係数が0.5未満であると、平板状ガラス21の滑りを好適に抑制することができないため、平板状ガラス21を重ね合わせた状態における作業において、平板状ガラス21のずれが生じ易くなる。
【0029】
合紙11の透気抵抗度は、100秒/100cc以下、好ましくは95秒/100cc以下である。この透気抵抗度が100秒/100ccを超えると、合紙11の通気性が十分に確保されない結果、平板状ガラス21を重ね合わせた状態において、合紙11を通じて平板状ガラス21を吸引するに際して、平板状ガラス21の吸引力が十分に得られない。
【0030】
このように構成された合紙11は、複数の平板状ガラス21を積層した状態で、例えば一時的に保管するに際して、平板状ガラス21と平板状ガラス21との間に挟み込んで使用される。この合紙11において滑り抑制層13の形成する面の静摩擦係数は0.5以上である。このため、滑り抑制層13に平板状ガラス21を重ね合わせた状態で、平板状ガラス21を運搬するに際して、平板状ガラス21から合紙11がずれてしまうという不具合が好適に抑制される。さらに、合紙11の透気抵抗度は、100秒/100cc以下である。このため、滑り抑制層13に平板状ガラス21を重ね合わせた状態で、合紙11を通じて平板状ガラス21を吸引するに際して、平板状ガラス21の吸引力が好適に確保される。ここで、平板状ガラス21は、例えばコンベヤ上に合紙11を介して載置された状態で、そのコンベヤによって搬送されることがある。こうした搬送では、コンベヤ上の平板状ガラス21に対してコンベヤを通じた吸引を行うことにより、コンベヤ上の平板状ガラス21を所定の位置に保持することが行われている。このように平板状ガラス21を搬送するに際して、合紙11を通じた平板状ガラス21の吸引力が好適に確保されるとともに、滑り抑制層13によって平板状ガラス21のずれも好適に抑制される。
【0031】
また最近では、フラットディスプレイ用の平板状ガラス21は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等の需要の急激な向上に伴って生産効率の向上が要求されている。このようなフラットディスプレイ用の平板状ガラス21について、本実施形態の合紙11を使用することが好適である。本実施形態の合紙11をフラットディスプレイ用の平板状ガラス21に使用することにより、合紙11をさらに有効に活用することができる。
【0032】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 基材シート12には滑り抑制層13が設けられ、平板状ガラス21を試験片とした場合の滑り抑制層13の形成する面の静摩擦係数は0.5以上である。このため、平板状ガラス21から合紙11がずれてしまうという不具合が好適に抑制される結果、平板状ガラス21の運搬等における作業性が良好となる。
【0033】
さらに、その滑り抑制層13は、合紙11の透気抵抗度(ガーレー)が100秒/100cc以下となるよう設けられている。このため、滑り抑制層13に平板状ガラス21を重ね合わせた状態で、合紙11を通じて平板状ガラス21を吸引するに際して、平板状ガラス21の吸引力が好適に確保される。加えて、そうした搬送においても、合紙11が平板状ガラス21からずれてしまうという不具合は、上述した滑り抑制層13によって好適に抑制される。その結果、合紙11を通じた平板状ガラス21の吸引を利用して、平板状ガラス21を好適に搬送することができる。
【0034】
・ 滑り抑制層13は、基材シート12の少なくとも片面において、不連続に形成されていることが好ましい。このように構成した場合、上述した透気抵抗度に容易に設定することができる。
【0035】
・ 滑り抑制層13を形成する材料として、その材料から連続面を形成した際において、静摩擦係数が1.0以上の材料を用いることが好ましい。このように構成した場合、滑り抑制層13の形成する面の静摩擦係数を0.5以上に設定することが容易である。
【0036】
・ 滑り抑制層13の付着量は、2〜20g/mであることが好ましい。このように構成した場合、静摩擦係数及び透気抵抗度の両者を上記範囲に設定することが容易である。
【0037】
・ 合紙11をフラットディスプレイ用の平板状ガラス21に使用することにより、その生産性の向上に貢献することができる。
・ 計量された塗布液を基材シート12に転写することにより、滑り抑制層13を形成することにより、静摩擦係数及び透気抵抗度の両者を上記範囲に設定することが容易であるため、合紙11の生産性を確保することができる。
【0038】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成してもよい。
・ 前記実施形態の合紙11では、基材シート12の片面に滑り抑制層13が設けられている。この他に、基材シート12の両面に滑り抑制層13を設けて、合紙を構成してもよい。この場合、平板状ガラス21と平板状ガラス21との間に挟み込んで使用するに際して、上下に配置される平板状ガラス21のずれを抑制することができる。
【0039】
・ 合紙11の形状及び寸法は特に限定されず、平板状ガラス21の形状及び寸法に応じて適宜変更することができる。
次に、上記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0040】
・ 前記滑り抑制層を発泡性マイクロカプセルから形成した前記合紙。
・ 前記合紙の使用方法であって、前記平板状ガラスを吸引手段により吸引して前記平板状ガラスを搬送するに際して、前記平板状ガラスに前記滑り抑制層を密着させた状態で、前記合紙を通じて前記吸引を実施する合紙の使用方法。
【実施例】
【0041】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
ダブルディスクリファイナーにてカナダ標準ろ水度(CSF)が660となるまで叩解した木材パルプを原料として、傾斜ワイヤにて湿紙を形成した。その湿紙について多筒乾燥機にて乾燥を行うことにより、坪量50g/mの基材シートを作製した。作製した基材シートの片面にグラビアコータを使用して塗布液を塗布した後、130℃で3分間乾燥することによって合紙を作製した。なお、塗布液は、アクリル酸エステル共重合体エマルジョン(ポリゾール(商品名)SUM−4002、昭和高分子(株)製)75重量部と水25重量部とを混合調製したものである。
【0042】
(実施例2)
塗布液を変更した以外は、実施例1と同様にして合紙を作製した。実施例2における塗布液は、発泡性マイクロカプセルとして松本マイクロスフェアー(商品名)F−30(松本油脂製薬(株)製)20重量部と、バインダーとしてケミパール(商品名)S−100(三井化学(株)製)80重量部とを混合した後、さらに水50重量部を混合調製したものである。なお、ケミパール(商品名)S−100は、ポリオレフィンの微粒子を水性分散剤に分散したものである。
【0043】
(実施例3)
基材シートを変更した以外は、実施例1と同様にして合紙を作製した。実施例3における基材シートは、セルロース繊維からなる湿式不織布の太閤TCF(商品名)#408(フタムラ化学(株)製)である。
【0044】
(実施例4)
塗工機を変更した以外は、実施例1と同様にして合紙を作製した。実施例4における塗工機は、空気と塗布液とを噴射する二流体スプレーである。
【0045】
(実施例5)
基材シートを変更した以外は、実施例1と同様にして合紙を作製した。実施例5では、ダブルディスクリファイナーにてカナダ標準ろ水度(CSF)が430となるまで叩解した木材パルプを原料として、円網抄紙機にて湿紙を形成した。次いで、その湿紙について多筒乾燥機にて乾燥を行うことにより、坪量50g/mの基材シートを作製した。
【0046】
(比較例1)
比較例1では、実施例1の基材シートを合紙として用いた。
(比較例2)
ダブルディスクリファイナーにてカナダ標準ろ水度(CSF)が660となるまで叩解した木材パルプを原料として、傾斜ワイヤにて湿紙を形成した。その湿紙について多筒乾燥機にて乾燥を行うことにより、坪量50g/mの基材シートを作製した。作製した基材シートの片面にキスロールコータを使用して塗布液を塗布した後、130℃で3分間乾燥することによって合紙を作製した。なお、塗布液は、アクリル酸エステル共重合体エマルジョン(ポリゾール(商品名)SUM−4002、昭和高分子(株)製)である。
【0047】
(比較例3)
ダブルディスクリファイナーにてカナダ標準ろ水度(CSF)が660となるまで叩解した木材パルプに対してサイズ剤(CS1700、星光PMC(株)製)を原料として、傾斜ワイヤにて湿紙を形成した。その湿紙について多筒乾燥機にて乾燥を行うことにより、坪量50g/mの基材シートを作製した。作製した基材シートの片面にグラビアコータを使用して塗布液を塗布した後、130℃で3分間乾燥することによって合紙を作製した。なお、塗布液は、アクリル酸エステル共重合体エマルジョン(ポリゾール(商品名)SUM−4002、昭和高分子(株)製)20重量部と水75重量部とを混合調製したものである。
【0048】
(比較例4)
ダブルディスクリファイナーにてカナダ標準ろ水度(CSF)が660となるまで叩解した木材パルプを原料として、傾斜ワイヤにて湿紙を形成した。その湿紙について多筒乾燥機にて乾燥を行うことにより、坪量50g/mの基材シートを作製した。作製した基材シートの片面にグラビアコータを使用して塗布液を塗布した後、130℃で3分間乾燥することによって合紙を作製した。なお、塗布液は、スチレン/ブタジエンラテックス(LX−415、日本ゼオン(株)製)75重量部と水25重量部を混合調製したものである。
【0049】
(比較例5)
ダブルディスクリファイナーにてカナダ標準ろ水度(CSF)が390となるまで叩解した木材パルプを原料として、円網抄紙機にて湿紙を形成した。その湿紙について多筒乾燥機にて乾燥を行うことにより、坪量50g/mの基材シートを作製した。作製した基材シートの片面にグラビアコータを使用して塗布液を塗布した後、130℃で3分間乾燥することによって合紙を作製した。なお、塗布液は、アクリル酸エステル共重合体エマルジョン(ポリゾール(商品名)SUM−4002、昭和高分子(株)製)75重量部と水25重量部とを混合調製したものである。
【0050】
<静摩擦係数の測定>
各実施例及び各比較例の合紙について、JIS P 8147−1994(紙及び板紙の摩擦係数試験方法)の水平方法に準拠して静摩擦係数を測定した。なお、測定に使用するおもりの底面には、おもりと同じ外形寸法で、厚さが0.7mmの板ガラスを試験片として貼付した。また、各実施例及び比較例2〜5における静摩擦係数は滑り抑制層の形成面を測定し、比較例1における静摩擦係数は実施例1において滑り抑制層を設けた面と同じ面について測定した。測定結果を表1の「合紙」欄に示す。
【0051】
また、各実施例及び比較例2〜5の塗布液について、材料自体の静摩擦係数を測定した。この測定は、塗布液を基材シート上にキスロールコータを用いて塗布した後、乾燥することにより、連続面を形成し、この連続面について上記と同様にして静摩擦係数を測定した。なお、実施例2では、発泡性マイクロカプセルを加熱によって発泡させた後に、測定した値である。材料自体の静摩擦係数の測定結果を表1の「材料」欄に併記した。
【0052】
<透気抵抗度の測定>
各実施例及び各比較例の合紙について、JIS P 8117−1998(紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法)に準拠して透気抵抗度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0053】
<付着量の測定>
各実施例及び比較例2〜5の合紙について、予め測定した基材シートの坪量と、合紙の坪量との差を算出し、その算出値を滑り抑制層の付着量とした。なお坪量は、JIS P 8124−1998(紙及び板紙−坪量測定方法)に準拠して測定した。測定結果を表1に示す。
【0054】
<付着形態の確認>
各実施例及び比較例2〜5の合紙について、1%メチレンブルー溶液を体積基準で2倍に希釈してものを、滑り抑制層を形成した面に塗布して、基材シートと滑り抑制層との染色度合いの違いを利用して目視にて滑り抑制層の形状を確認した。確認された付着形態を表1に示す。
【0055】
<吸引試験>
図2(a)に示すように、A4判の合紙11と同じ寸法の枠を備えた振とう用治具31を準備した。次に、合紙11の滑り抑制層13に、A4判で厚さ0.7mmの平板状ガラス21を重ね合わせるとともに、平板状ガラス21と振とう用治具31の枠との間に合紙11を挟み込んだ状態で、枠に平板状ガラス21を載置した。一方で、直径7cmの真空吸着パッド32を準備し、図2(b)及び図2(c)に示すように、合紙11の中央部に真空吸着パッド32を当接し、アスピレータ(WP−15、ヤマト科学(株)製、図示省略)を用いて真空吸着パッド32内を減圧することにより、合紙11を介して平板状ガラス21を吸引した。次いで、振とう用治具31を図2(b)及び図2(c)に矢印で示すように、左右に水平となるように1分間振とうさせた。なお、振とう用治具31の振とうは、振とう式恒温水槽(BT−25、ヤマト科学(株)製)の振とう部に振とう用治具31を固定することで行うとともに、真空吸着パッド32も同じく振とうされるように振とう用治具31に固定している。こうした振とう操作後における合紙11に対する平板状ガラス21の位置ずれについて、左右方向に沿った位置ずれ、及び前後方向に沿った位置ずれを実測した。左右方向及び前後方向の少なくとも一方の位置ずれが5mm以内の場合を合格(○)、同じく少なくとも一方の位置ずれが5mmを超える場合を不合格(×)として、吸引試験の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1の結果から明らかなように、各実施例では静摩擦係数が0.5以上であるため、平板状ガラスから合紙がずれてしまうという不具合を好適に抑制することができることがわかる。さらに各実施例では、透気抵抗度が100秒/100cc以下であるため、吸引試験の評価結果はいずれも合格であった。
【0058】
これに対し、比較例1、3及び4では、透気抵抗度が100秒/100cc以下であるものの、静摩擦係数が0.5未満である。このため、平板状ガラスから合紙がずれてしまうという不具合を好適に抑制することができない。よって、比較例1、3及び4では、吸引試験の評価結果はいずれも不合格であった。一方、比較例2及び5では、静摩擦係数は0.5以上であるものの、透気抵抗度が100秒/100ccを超えるため、合紙を通じた平板状ガラスの吸引力は確保されない。このため、比較例2及び5では、吸引試験の評価結果はいずれも不合格であった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本実施形態の合紙及び板ガラスを模式的に示す断面図。
【図2】(a)及び(b)は吸引試験の測定方法の概要を示す斜視図、(c)は(b)のA−A線断面図。
【符号の説明】
【0060】
11…合紙、12…基材シート、13…滑り抑制層、21…平板状ガラス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状ガラス用の合紙であって、
セルロース系繊維を含有して構成された基材シートの少なくとも片面に、その少なくとも片面の滑り性を抑制する滑り抑制層を設けることにより、
該滑り抑制層の形成する面の静摩擦係数を、前記平板状ガラスを試験片とした測定において0.5以上とし、かつ前記合紙の透気抵抗度(ガーレー)を100秒/100cc以下とし、前記滑り抑制層に前記平板状ガラスを重ね合わせて使用されることを特徴とする合紙。
【請求項2】
前記滑り抑制層が、前記基材シートの少なくとも片面において、不連続に形成されている請求項1に記載の合紙。
【請求項3】
前記滑り抑制層を形成する材料として、その材料から連続面を形成した際において前記平板状ガラスを試験片とした場合の静摩擦係数が1.0以上の材料を用いた請求項1又は請求項2に記載の合紙。
【請求項4】
前記滑り抑制層の付着量が、2〜20g/mである請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の合紙。
【請求項5】
前記平板状ガラスが、フラットディスプレイ用の板ガラスである請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の合紙。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の合紙の製造方法であって、前記基材シートに前記滑り抑制層を塗布液の塗工によって設ける工程を備え、該工程は、計量された塗布液を前記基材シートに転写することにより、前記滑り抑制層を形成する合紙の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−101282(P2008−101282A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282741(P2006−282741)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(000207665)大福製紙株式会社 (7)
【Fターム(参考)】