説明

合金被覆装置及びメタライディング方法

所望の特性を強化し追加するために、酸素が実質的にない雰囲気(14)及び該雰囲気(14)内の電解浴(18)を使用するメタライディング方法により、材料(20)が被覆される。被覆すべき導電性基板(20)は互いに別個の組成を有する複数の陽極(26a、26b、26c)と共に、陰極(20)として浴(18)内に浸漬される。可変電源(30)が、別個に選択された電流密度を各陽極(26)に供給して、印加される電流密度に比例して各陽極材料(26a、26b、26c)で前記基板(20)を被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には基材金属組成物の被覆に関し、特に、溶融塩浴内で2種以上の予め選択された金属で基材金属組成物を拡散する工程を含むメタライディング(又は表層硬化)(metalliding)方法に関する。
【背景技術】
【0002】
当分野において既知であり、開示が参照により本明細書に援用されるNewell C.CookによりGeneral Electric Research and Development Centerでの研究に関してScientific American,August 1969年発行記事「Metalliding」に考察されているように、一金属を別の金属と結合させる(associate)ことにより、いずれかの単独の金属の特性よりも優れた特性になる。従来の合金化(溶融状態でダイ金属を混合する)及びメッキ(一金属を別の金属の表面に結着させる)に加えて、メタライディングは一金属の原子を別の金属の表面内に拡散させる。拡散した金属は、メッキの場合のようにただ表面に機械的に結着させるのではなく、別の金属の表面の一体部分になる。メタライディングは、合金が表面のみに存在することを除き、合金の一形態である。
【0003】
拡散は、高温電解方法により達成される。陽極として働く拡散金属及び陰極として働く受容金属が、溶融フッ化物塩浴内に懸垂される。直流電流が陽極から陰極に流れると、陽極材料が溶解し、陰極に運ばれる。陽極材料は陰極内に拡散し、合金表面を生じさせる。その結果、幾つかの望ましい特性変更が達成される。
【0004】
例えば、モリブデンの表面内にホウ素を拡散させると、ダイアモンドの硬度に近づく硬度を有する表面が生成する。ケイ素がモリブデン内に拡散した場合、得られる材料は、空気中で白熱状態で数百時間にわたって使用できるが、未処理のモリブデンは空気中でくすんだ赤熱状態で燃え、直ぐに破壊される。ベリリウムが銅内に拡散した場合、優れた導電性を保持しながら、銅の強度、弾性、硬度、抗酸化性が向上する。ホウ素を拡散させた鋼は、炭化タングステンと同程度に硬くすることができ、チタンを拡散させた銅は沸騰硝酸及び空気中で耐腐食性を有し、タンタルを拡散させたニッケルは、純粋なタンタルと略同じ耐腐食酸化性を持つようになる。
【0005】
Cookの記事に考察されるように、鋼及び他の金属を溶融したホウ素、ケイ素、クロム、チタン、タンタル等内に浸漬させることができる場合、多くの恩恵を達成できるが、これら金属は全て、鋼自体が浸漬時に溶融するような高温で溶融する。メタライディングは、金属表面を合金化する単純で実用的かつ広く適用可能な手段を提供する。
【0006】
更に、Cookにより開示された溶融塩技法は、拡散金属又は基板のいずれかとして周期表上の金属の大半と併せて使用可能である。溶融フッ化物のフラクシング作用により、陰極金属の表面から、金及び恐らくは白金以外の全ての金属上に空気中で形成される酸化膜が溶解する。金属表面の空気酸化膜は常に、基板内への他の金属の拡散のバリアである。フッ化物溶剤により作られるクリーンな表面により、原子を電解的に堆積させ、陰極の表面の原子と直接接触させることができ、拡散を最大速度で進めることができる。
【0007】
ホウ素及びケイ素は反応性が同様であるため、メタライディング剤としての用途範囲も同様である。結合しケイ化(silicidied)可能な金属としては、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、及び金が挙げられる。このリストは、馴染みのある構造用金属の大半を含む。層理(bedding)及びケイ化(siliciding)は、多数の塩混合物内で達成できるが、通常はフッ化リチウム、フッ化ナトリウム、及びフッ化カリウムのような三元組成中で行われる。
【0008】
ホウ化物被覆は極めて硬い。鋼上では、ホウ化物は通常、ヌープ尺度(Knoop scale)で1,500〜2,500であり、多くの場合、3,000を超える。単純な鋼及び多くの合金鋼上では、被覆は、ホウ素が拡散するにつれて、根のような締め具(attachment)を伸ばし、被覆はしっかりと係留され、材料がかなり変形した場合であっても一体性を保つ。通常、ホウ化物被覆は耐腐食性に劣るが(ステンレス鋼上を除く)、これは、ホウ化物層を軽くクロム化(chromiding)しケイ化することにより改善できる。現在の成長段階では、脆すぎて切断道具として使用できない。
【0009】
拡散する原子は元の構造を貫通し、その一部になるため、合金表面はしっかりと結合される。完全に高密度の基板の元の表面は非多孔性であり、新しい原子を含む際に、基板の構造は単に転移し膨張するため、被覆は決して多孔性ではない。合金被覆は通常、高度の電解効率で形成することができる。被覆厚の制御は、かなり精密にすることができる。被覆の大半は、2〜3時間で1ミル(0.001インチ)〜5ミルの厚さに形成される。被覆によっては、更に急速に成長し、僅か数分で数ミルの厚さになるものもあれば、かなり遅く形成され、1ミル又は2ミルの厚さを得るために2〜3日かかるものもある。略例外なく、温度を増大させると、被覆方法が加速化する。高い温度で形成される合金ほど、異なる特性を有することが多く、往々にして、低い温度で形成される合金よりも望ましくない。温度が基板金属又は形成中の合金表面の溶融点に近づくにつれて、拡散速度は通常、急激に増大する。
【0010】
フッ化物溶剤系は、幾つかの他の利点を有する。第1に、メタライディングイオンを溶液内に保持する。アルカリフッ化物及びアルカリ土類フッ化物は、他の全ての金属のフッ化物と結合して、可溶性で高度に安定したフルオメタ速度(fluometallate)アニオン(陰イオン)を生成する。したがって、メタライディング剤は、高い溶融点を有する固体であっても、又はガスであっても関わりなく、溶融フッ化物に溶解し、通常、メタライディング反応が行われるようにするために、溶剤フッ化物内に溶解する必要があるフッ化物はごく小量(1%未満)である。溶剤系は、所望の反応の種類に従って変更可能である。例えば、通常、ケイ化(siliciding)反応及びホウ化(boriding)反応のためにフッ化カリウム溶剤系に含むことが有利である。フルオロ珪酸塩イオン及びフルオロホウ酸塩イオンが、ナトリウムイオン及びリチウムイオンによるよりもカリウムイオンによる方が遥かにしっかりと保持される。
【0011】
第2に、アルカリフッ化物及びアルカリ土類フッ化物は、合金化反応を邪魔する溶剤陽イオンを形成しない。一般に、IA族及びIIA族の金属は、主にIA金属及びIIA金属が比較的大きな直径の原子を持たないため、構造用金属に溶融せず、又は構造用金属との化合物を形成しない。したがって、一般に塩から電解的に生成される金属原子は、陰極の表面内に溶融せず、又は陰極と反応しないため、これら金属のフッ化物塩は、大半のメタライディング反応に関して不活性溶剤である。陰極の表面から多数の原子の直径分を移動する前に、フルオメタ速度アニオンと衝突し、直ぐにフッ素原子を取り上げる。これは原子を遊離させ、次に、原子は陰極の表面内に拡散する。
【0012】
第3に、フッ化物溶剤は優れた導電体である。フッ化物溶剤は、溶融状態で完全にイオン化されるため、電流容量は決して、拡散被覆の形成における制限事項ではない。更に、溶剤フッ化物は本質的に、特に概して酸素がない場合、非腐食性である。フッ化物溶剤には更に他の利点がある。作動温度で低い蒸気圧を有し、陽極金属による置換反応に耐性を有し、高い表面張力を有する(したがって、木炭化された(coaled)個片がメタライディング浴から取り出される際、僅かしか落ちない)。
【0013】
フッ化物溶剤の特性及び機能は、メタライディング方法の顕著な技術的特徴である。大半のメタライディング反応は、内部生成される起電力の電池のような働きを通して持続するが、外部電流が通常、同じフロー方向で内部起電力に印加されて、電池の働きが提供する電流密度よりも均一で高い電流密度を達成する。このようにして、メタライディングは、合金化剤が陰極基板内に拡散できる速度を超えずに、自己生成する電池の働きを使用するよりも3〜10倍速く進むことができる。
【0014】
メタライディングセルが電池として作動している場合、陰極の極性は実際には、陽極と比較してプラスである一方で、メッキ中、陰極は常に陽極よりもマイナスである。メタライディングにおいて、追加の電流が十分に低い電流(アンペア数)で外部ソースから印加され、拡散が急速で行われた場合、陰極をマイナスにせずに、反応全体を行うことができる。電流の流れが、印加電流の反応中に中断される場合、陰極が正極に急速に戻ることは、拡散が堆積に遅れずについていっていることを示す。陰極が正極に戻らないことは、陽極金属が、陰極内に拡散するのではなく陰極をメッキし始めていることを示す。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、基材金属組成物をメタライディングする改良方法に関する。本発明は、基材金属組成物に2種以上の予め選択された金属を溶融塩浴内で被覆する、及び/又は拡散させる方法に更に関する。酸素が実質的にない雰囲気及び雰囲気内の電解浴を利用するメタライディング方法を通して材料を被覆し、所望の特性を強化し追加することができる。被覆すべき導電性基板が、互いに別個の組成を各々有する複数の陽極と共に、陰極として浴内に浸漬される。可変電源が、別個に選択された電流密度を各陽極に供給して、印加される電流密度に比例して各陽極材料で基板を被覆する。極めて硬く、耐腐食浸食性を有し、均一で付着性の合金被覆を、複数の低電流密度、即ち、0.05〜10アンペア/dmの範囲の合計電流密度を利用して特定の金属群上に形成し、又は特定の金属群内に拡散させることが可能なことが見出された。
【0016】
本発明は、酸素が実質的にない雰囲気及び雰囲気内の電解浴を含み得る装置としてここで説明される。表面を有する導電性基板が、少なくとも部分的に、複数の要素と同様に浴内に浸漬される。各要素は導電性であり、互いに別個の組成を各々有する。外部電源が、基板及び複数の各要素と共に作動可能である。電源は、選択された電流密度を各要素及び基板に供給して、印加される電流密度に比例して、浴内で複数の各要素からの材料で基板を被覆する。
【0017】
基板に被覆を塗布する本発明方法の態様は、酸素が実質的にない雰囲気及び該雰囲気内に電解浴を供給する工程、導電性基板を浴内に浸漬する工程、互いに別個の組成を各々有する複数の導電性要素を浴内に浸漬する工程、及び電流密度を複数の各要素に供給する工程を含んでよい。複数の各要素に印加される電流密度に比例して、浴内の複数の各要素からの材料で基板を被覆するのに十分な電流密度が印加される。
【0018】
例えば、2つ以上の陽極への複数の外部電気接続を有する回路を通して参加する陰極として金属組成物を含む電気セルを形成することにより、ニオブ、タンタル、チタン、ケイ素、及び他の金属のホウ化物の金属間被覆並びに合金被覆及び拡散を金属基板組成物上に形成し得る。ここで説明される実施形態の例として、1つの陽極はホウ素であってよく、1つ又は複数のその他の陽極は、合金の形成に必要な1つ又は複数の金属を含有してよい。予め選択された溶融電解質が使用され、例えば600°C以上であるが、金属組成物の溶融点未満の温度に保持してよい。このセルは電気を生成するが、別個の可変電磁場又は可変電磁力(EMF)を各陽極回路部分に印加して、陰極金属に堆積する各陽極金属の合金の割合を確立する。
【0019】
直流電流の波形を変更することが、特定の用途では有利なことが証明された。合計陰極電流密度は、好ましくは、10アンペア/dmを超えない。陽極金属は基材金属内及び/又は基材金属上に拡散して、陽極金属及び/又は基板金属で構成される基板上又はその基板内に合金被覆又は拡散を形成する。この方法は、基板金属を被覆するのに有用である。
【0020】
本発明の完全な理解のために、本発明の種々の実施形態を示す添付図面と併せて行われる以下の詳細な説明を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】電圧コントローラと共に各々作動可能であり、陰極としての基板上に予め選択された合金を被覆する陽極を形成する複数の要素を含む本発明の一実施形態の概略線図である。
【図2】ステンレス鋼タービンブレードを被覆するための一方はホウ素であり、他方はニオブである浴内の2要素陽極を含む一実施形態の概略図である。
【図3】鋼上のニオブ及びホウ素を示す本発明の教示による2要素合金の概略的な顕微鏡写真画像である。
【図4】本発明の教示による合金被覆を有するシングルブレードの斜視図である。
【図5】鋼上のタンタル及びホウ素を示す本発明の教示による2要素合金の概略的な顕微鏡写真画像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について、本発明の代替の実施形態が示される添付図面を参照して更に十分に説明される。しかし、本発明は、多くの異なる形態で具体化することができ、ここで説明される実施形態に限定されるものとして解釈すべきではない。むしろ、これら実施形態は、本開示が完全で完璧であり、本発明の範囲を当業者に完全に伝えるように適用される。
【0023】
まず図1を参照すると、本発明の一実施形態は、ここでは、酸素が実質的にない雰囲気14を内部に有するハウジング12を備える装置10として説明される。不活性雰囲気及び真空は、メタライディング方法をサポートする効率的な環境を提供することが見出された。ハウジング12内部に配置された容器16は電解浴18を含む。導電性基板20が、浴18内に浸漬された被覆すべき表面22を含む。この図に示されるように、基板20は電気回路24の陰極であり、複数の導電性要素26が回路内の陽極である。陽極の各要素26a、26b、26cは、更に詳細に後述するように、互いに別個の組成を有し、浴18内に浸漬された表面28を各々有する。
【0024】
引き続き図1を参照すると、電源30が基板(陰極)20及び複数の各要素(陽極)26に接続される。更にまた、電源30は、予め選択された電流を複数の各要素26に別個に供給するため、加減抵抗器32と共に作動可能である。例えば、これら加減抵抗器32a、32b、32cは、ここでは、各要素26及び基板20に電流密度を生じさせるように、各陽極要素26a、26b、26cに予め選択された電流を供給するものとして説明される。その結果、メタライディング反応が生じ、複数の各要素26に印加された電流密度に比例して、浴18内で複数の各要素26から基板20上に拡散した金属が基板20に被覆される。当業者には理解されるように、別個の各陽極要素26に個々の電源を利用してもよい。更にまた、電流を印加するために必要な時間は、電源プロファイルに依存する。例えば、半波DC電源では通常、全波DC電源よりも2倍の時間にわたって電流密度を印加する必要がある。
【0025】
例えば、陽極を形成する要素26としては、原子、金属、非金属材料、及び/又は合金を含んでよい。
【0026】
本発明の教示によれば、引き続き図1を参照すると、ここで更に詳細に後述するように、1つの方法は、陽極26として利用され、アルカリ金属フッ化物の混合物又はアルカリ金属フッ化物とフッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、又はフッ化リチウムとの混合物を含むと共に、0.1モル%〜15モル%の適切な陽極フッ化物を含む溶融塩浴内に浸漬された、予め選択された金属を含む。一実施形態では、電解浴はフッ化物塩を含む。浴は、例えばカルシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムのフッ化物であってもよい。
【0027】
使用される陰極20は、所望の塗布を行うべき基材金属である。このような条件下で、溶融塩浴内に溶解した陽極金属及び陽極金属イオンは、基材金属陰極の表面で放電し、表面に合金堆積を形成し、及び/又は基材金属上もしくは基材金属内に拡散して、金属又は金属間の被覆及び/又は拡散が形成される。上記参照したNewell C.Cookの尽力によりサポートされるように、メタライディング反応に使用される図1の装置10は、溶融フッ化物浴18内に溶解し、電子を捕獲する溶剤内のフッ化物の傾向により、正イオンになる、陽極26として働くメタライディング剤を含む。浸漬された被覆すべき金属を含む陰極20において、装置を通して外部を流れる電流からの電子が、イオンを陽極金属の原子に還元し、次に、原子は陰極20の表面22内に拡散し、陰極/基板20に新しい特性を付与する。例えば、2つの陽極要素を使用した例をここで以下に提示するが、複数の陽極要素を所望に応じて利用してよいことが当業者には理解される。
【0028】
堆積材料の溶解及び堆積の速度(rate)は、各陽極材料要素26からの基材金属陰極20上及び基材金属陰極20内への堆積速度が、外部から印加される個々の電流に依存するという点で自己調整式ではない。
【0029】
方法により使用されるアルカリ金属フッ化物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムのフッ化物を含んでよい。しかし、入手できる場合、共融混合物を使用して、この方法を比較的低温で行うことが望ましい。アルカリ金属フッ化物とフッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、又はフッ化バリウムとの混合物は、本発明の方法において溶融塩として使用することもできる。
【0030】
望ましい被覆及び/又は拡散を得るべき場合、浴18の化学組成に注目することが望ましい。例えば、出発塩は、可能な限り無水であり、かつ不純物は全てないことが必要であるか、或いは溶融工程中に簡単な加熱により容易に乾燥又は精製される必要がある。酸素は方法を妨害するため、この方法は、望ましくは、酸素の実質的な不存在下で実施される。上述したように、この方法は、不活性ガス雰囲気内又は真空内で実施し得る。用語「酸素の実質的な不存在」とは、大気中の酸素も金属の酸化物も、溶融塩浴内に実質的に存在しないことを意味する。更なる例として、試薬等級の塩を使用すると共に、真空又は不活性ガス雰囲気内で、例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、窒素、又はキセノン内で方法を実施することにより、望ましい結果が得られた。
【0031】
市販の試薬等級の塩であっても、メタライディング方法を望ましく行うために、更に精製できることが判明した。この精製は、金属くずの小片を陰極として利用し、追加に印加される電圧の有り又は無しで初期クリーニングを実施し、これにより、高品質の被覆の形成を邪魔する不純物を析出して浴から除去することにより、容易に行うことができる。
【0032】
本発明の方法により被覆される基材金属としては、500°Cを超える溶融温度を有する全ての金属又はそれら金属の合金が含まれてよい。陽極の形は重要ではない。
【0033】
適度に高速のメッキ速度にすると共に、基材金属上及び/又は基材金属内に金属を被覆及び/又は拡散させて確実に合金を形成するために、約500°C〜1100°Cの温度で方法を行うことが望ましい。600°C〜1100°Cの温度で行うことが有用である。方法を行なう温度は一般に、使用される特定の溶融塩浴にある程度依存する。したがって、例えば、600°Cという低い温度が望ましい場合、フッ化カリウム及びフッ化リチウムの共融混合物を使用することができる。多くの被覆に対して好ましい作動範囲は900°C〜1100°Cであるため、溶融塩としてフッ化リチウムを使用することが好ましい。ここでも図1を参照して示したように、ヒーター34が、浴18を保持する容器16と共に作動可能である。
【0034】
各要素26に印加される電流の量は、電流計を使用して測定することができ、これにより、基材金属陰極に堆積され、合金層に転化している陽極材料の量を容易に計算することができる。被覆/メッキされている物品(基板20)の面積及び電気特性を知ることで、形成された被覆の厚さを特定することができ、これにより、任意の所望の厚さの層を得るように方法を正確に制御することができる。
【0035】
印加される電圧ひいては電流を変更して、反応中に可変電流密度を供給できる上、基材金属陰極内及び基材金属上への陽極材料の拡散速度及び合金化速度を超えずに、堆積中の合金成分被覆の堆積速度を増大させ制御することができる。例えば、1つのメタライディング方法中、電圧は1.0ボルトを超えず、0.1〜0.5ボルトであってよい。
【0036】
陰極内及び陰極上への種々の陽極材料の拡散速度及び被覆速度は、温度及び形成されている被覆の厚さに伴って材料毎に異なるため、通常、使用し得る電流密度の上限は変動する。したがって、高効率かつ高品質の被覆を得るべき場合には、合金化剤の堆積速度は、基板材料内又は基板材料上の合金化剤の拡散速度及び被覆速度を超えないように調整される。本開示で上記温度範囲内で行われる場合、望ましい合金被覆及び/又は拡散に対する最大電流密度は10アンペア/dmである。
【0037】
更なる例として、拡散速度及び被覆速度が低く、非常に薄い表面溶液又は非常に薄い被覆が望まれる場合、それに対応して比較的低い電流密度(0.01〜0.1アンペア/dm)を使用することが多い。拡散被覆の組成は、個々の陽極の電流密度を変更して、ある用途に適した組成物を生成することにより変更される。要素の広範囲の原子サイズを含む要因により、一要素を別の要素の上に堆積させることにより、極めて硬く、耐腐食浸食性を有する合金は作成できず、正確な割合で原子毎に陰極基板に送られて、所望の合金被覆を生成しなければならない。本発明の教示は、このような望ましい合金被覆を提供する。
【0038】
一般に、主観的に望ましい品質の合金被覆及び/又は拡散を形成する電流密度は、ここで開示される温度の範囲の場合、0.5〜10アンペア/dmである。作動時間を短縮するために、更なる電圧を回路に印加することが望ましい場合、合計電流密度は、例えば、10アンペア/dmを超えない。
【0039】
電源30(例えば、電池又は他の直流電流源)は、マイナス端子が被覆中の基材金属である陰極20に接続され、プラス端子が陽極26に接続されるように、回路24内に接続される。このようにして、両ソースの電圧は代数的に加算である。当業者には容易に明らかなように、方法の制御を助けるために、電圧計、電流計、抵抗、タイマー等の測定機器を回路内に備えてよい。
【0040】
被覆及び拡散の極めて硬く、強く、孔がなく、付着性を有し、腐食及び浸食に対する耐性を有する特性は、処理領域全体にわたって均一であるため、ここで説明されるメタライディング方法により準備される被覆金属組成物は、広範囲の用途を有する。例えば、上述した装置10は、摩耗及び腐食に対する耐性のためのニオブ、チタン、タンタル、及びジルコニウムのホウ化物等の原子結合された表面、核燃料棒積層ホウ化ジルコニウム用途、及び当業者に容易に明らかになる多くの他の用途並びに上記教示に照らして本発明の他の変更及び変形に使用し得る。
【0041】
例えば、図2を参照すると、本発明の一実施形態では、基板20としてガスタービンブレード38の表面にホウ化ニオブ被覆を提供する、一方はニオブ26(Nb)で他方がホウ素26(B)である2要素の陽極要素を含む。このようなタービンブレード38は通常、エンジンの前部コンプレッサー部内に配置される。本発明の教示を使用して塗布されるホウ化ニオブ被覆40は、図3を参照して示されるように1015ステンレス鋼基板/陰極20上に、ホウ化ニオブ合金(NbB)としてニオブとホウ素の厚い原子結合被覆を提供する。この被覆20は、図4を参照して示されるマルテンサイト系ステンレスブレード及びチタンブレードの両方の被覆に有用である。
【0042】
例えば、ホウ化ニオブ(NbB)としてのニオブ及びホウ素の合金被覆が望まれる場合、同じ電流密度が各陽極26(Nb)、26(B)に印加される。浴内で同じ表面積を有する陽極の場合、同じ電流が印加される。或いは、二ホウ化ニオブとも呼ばれるホウ化ニオブ(NbB)の合金被覆も所望してよい。この場合、ホウ素陽極26(B)の電流密度は一般に、ニオブ陽極26(Nb)に印加される電流密度の2倍である。結果は、電流密度が一般に、適用される陽極材料の量に対して線形関係を有することを示した。
【0043】
航空業界へのこの被覆の経済的な恩恵はかなりのものである。航空機のタービンエンジンは、製造、型式、及び古さに応じて8,000〜15,000時間毎に再建する(建造し直すこと)必要がある。新しいものから再建したもの又は再建したものから再建したものへのコンプレッサー効率の損失による消費電量の増大は、この期間にわたって5%又は2.5%である。この損失は、コンプレッサーブレードの翼(airfoil)特性の浸食に起因する。この浸食は、特に離着陸中の空中粒子の吸い込みによる。NbBの耐摩耗性は、保護されていないブレードの約10倍であり、特定の技術的事柄(被覆が原子結合されること)により、2ヶ月未満でFAA認定が認められるであろう。この燃料節減により、米国の航空会社だけで(航空機700機)毎年約3億ドルを節約することになろう。
【0044】
チタンへのNbB被覆は、他の潜在的な用途も有する。チタンは郊外の材料であるが、耐食性が非常に悪く、また若干の腐食及び摩擦(耐性)の問題を有する。NbBは炭化タングステンより遥かに硬く、非常に高い耐腐食性を有するため、2千分の1の被覆で、これら問題の多くを解消するであろう。更に図5を参照して示したように、鋼基板20へのホウ化タンタル被覆40は望ましい結果を与える。実際の顕微鏡写真画像からの図3及び図5の両概略顕微鏡写真画像において、被覆された基板をテストする際に使用した固定具42も示したが、本発明の特許請求の範囲の部分を形成することを意図するものではない。
【0045】
上記説明及び関連の図面において提示された教示の恩恵を有する当業者ならば、本発明の多くの変更及び他の実施形態を思いつくであろう。したがって、本発明が開示された特定の実施形態に限定すべきではなく、また変更及び代替の実施形態がここに提示した特許請求の範囲内に含まれることを意図することを理解されたい。
【符号の説明】
【0046】
10 装置
12 ハウジング
14 酸素が実質的にない雰囲気
16 容器
18 電解浴
20 陰極又は導電性基板
22 被覆すべき表面
24 電気回路
26 陽極又は導電性要素
28 浸漬された表面
30 可変電源
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0047】
【非特許文献1】Newell C.CookによりGeneral Electric Research and Development Centerでの研究に関してScientific American,August 1969年発行記事「Metalliding」

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素が実質的にない雰囲気と、
前記雰囲気内の電解浴と、
前記浴内に浸漬された表面を有する導電性基板と、
各要素は導電性であり、各々互いに別個の組成を有すると共に、各々前記浴内に浸漬された表面を有する複数の要素と、
前記基板及び前記複数の各要素と共に作動可能な電源であって、電流密度を前記各要素及び前記基板に供給して、印加される前記電流密度に比例して前記浴内の前記複数の各要素からの材料により前記基板が被覆される、該電源と、
を備える装置。
【請求項2】
前記複数の要素のうちの少なくとも1つは、原子、金属、非金属材料、及び合金のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記要素は、ケイ素(Si)、ニオブ(Nb)、ホウ素(B)、及びタンタル(Ta)よりなる原子群から選択される、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記複数の要素は、ホウ素である第1の要素と、ニオブである第2の要素とを含む2つの要素を有し、前記第1及び第2の要素に印加される前記電流密度は、ホウ化ニオブの合金被覆を前記基板に付与する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記基板は鋼を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記電解浴はフッ化物塩を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記フッ化物塩は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムのフッ化物よりなる群から選択される、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記雰囲気は、不活性雰囲気及び真空のうちの少なくとも一方を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記基板及び前記複数の要素と共に作動可能な前記電源は、電気回路を形成し、前記複数の要素は陽極を構成し、前記基板は陰極を構成する、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
基板に被覆を塗布する装置であって、
酸素が実質的にない雰囲気を内部に有するハウジングと、
前記ハウジング内に担持される電解浴と、
前記浴内に浸漬された表面を有する導電性基板と、
各要素は互いに別個の組成を有すると共に、各々前記浴内に浸漬された表面を有する複数の導電性要素と、
陽極を形成する前記複数の要素を有する電気回路と、該電気回路内に陰極を形成する前記基板とを形成するために前記基板及び前記複数の各要素に接続された電源であって、該電源は、予め選択された電流を前記複数の各要素に別個に供給して、前記各要素及び前記基板に電流密度を生じさせるために作動可能であり、メタライディング反応により、前記複数の各要素に印加される電流密度に比例して前記浴内の前記複数の要素から前記基板上に拡散した材料で前記基板が被覆される、電源と、
を備える前記装置。
【請求項11】
前記電源は、前記複数の要素と共に作動可能であり、予め選択された電流を、前記陽極を形成する前記各要素に印加する複数の電源を含む、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記電解浴と共に作動可能であり、前記電解浴を加熱するためのヒーターを更に備える、請求項10に記載の装置。
【請求項13】
前記陽極を形成する前記複数の要素のうちの少なくとも1つは、原子、金属、非金属材料、及び合金のうちの少なくとも1つを含む、請求項10に記載の装置。
【請求項14】
前記基板は、金属タービンブレード及びシングルブレードのうちの少なくとも一方を含み、前記陽極を形成する前記複数の要素は、ニオブを含む第1の陽極と、ホウ素を含む第2の陽極とを含む、請求項10に記載の装置。
【請求項15】
前記電解浴はフッ化物塩を含み、前記フッ化物塩は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムのフッ化物よりなる群から選択される、請求項10に記載の装置。
【請求項16】
前記雰囲気は不活性雰囲気及び真空のうちの少なくとも一方を含む、請求項10に記載の装置。
【請求項17】
基板に被覆を塗布する方法であって、
酸素が実質的にない雰囲気及び前記雰囲気内の電解浴を供給する工程、
導電性基板を前記浴内に浸漬する工程、
各要素は互いに別個の組成を有する複数の導電性要素を前記浴内に浸漬する工程、
電流密度を前記複数の各要素に印加する工程、及び
前記複数の各要素に印加される電流密度に比例して、前記浴内で前記複数の各要素からの材料で前記基板を被覆するのに十分な電流密度を印加する工程、
を含む前記方法。
【請求項18】
前記複数の各要素を、原子、金属、非金属材料、及び合金のうちの少なくとも1つから選択する工程を更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記電流密度を印加する工程は、前記電解浴内に前記複数の各要素を陽極として形成し、前記基板を陰極として形成する工程を含み、前記電解浴は溶融フッ化物塩を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記陰極は金属タービン式ブレード及びシングルブレードのうちの少なくとも一方を含み、前記陽極を形成する前記複数の導電性要素は、ニオブを含む第1の陽極と、ホウ素を含む第2の陽極とを含み、こうして前記方法は、前記金属ブレードにニオブとホウ素との合金を被覆する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記複数の要素は、ホウ素である第1の要素と、ニオブである第2の要素とを含む2つの要素を有し、前記電流密度を印加する工程は、前記第1及び第2の各要素に電流密度を印加して、前記基板にホウ化ニオブの合金を被覆する工程を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
ホウ素である前記第1の要素に印加される電流密度は、ニオブである前記第2の要素に印加される電流密度に略等しく、これにより、前記基板にNbBである合金被覆を形成する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ホウ素である前記第1の要素に印加される電流密度は、ニオブである前記第2の要素に印加される電流密度の2倍であり、これにより、前記基板にNbBである合金被覆を形成する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記電流密度を印加する工程中に、前記電解浴を加熱すると共に前記電解浴の温度を制御する工程を更に含む、請求項17に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−504192(P2012−504192A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529206(P2011−529206)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際出願番号】PCT/US2009/058154
【国際公開番号】WO2010/036758
【国際公開日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(511080557)