説明

吊下げ用チェーン

【課題】引張強度の高い上に構造が簡易で、低コストの吊下げ用チェーンを提供すること。
【解決手段】内リンクプレート120と外リンクプレートと110とを連結ピン130により長手方向に交互に連結して上下方向へ移動可能な移動部材(310、410)に動力を伝達する吊下げ用チェーン100であって、内リンクプレート120が連結ピン130に回動自在に遊嵌され、内リンクプレート120の間に配設されたローラ140が連結ピン130の外周に回動自在に遊嵌されている吊下げ用チェーン100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両の立体駐車場において車両が載置される昇降台を垂直方向に沿って移動させる吊下げ用チェーンやフォークリフトのフォーク形昇降部を垂直方向に沿って移動させる吊下げ用チェーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、チェーンは、2又はそれ以上の回転軸間に巻回されて動力を伝達するために使用されるのみならず、物品を移動するためにも使用されている。
例えば、立体駐車場における、自動車、原動機付き自動二輪車、自転車などの車両を搭載する昇降台をアタッチメントを介して吊下げ、この昇降台を、垂直方向に沿って移動させるために使用される、吊下げ用チェーンがある。
【0003】
このような昇降台を駆動する吊下げ用チェーンは、立体駐車場の垂直方向に沿って架設されたレールに沿って吊下げ用チェーンが張設され、当該吊下げ用チェーンの適宜の位置に設置されたアタッチメントに昇降台が吊下されるとともに、当該アタッチメントに設けられた転動ローラが架設されたレールを走行するように設置され、当該吊下げ用チェーンと係合してこれを順方向あるいは逆方向に駆動するスプロケット付きモータなどにより駆動して、昇降台を立体駐車場の入出庫位置に移動させるようにしたものである(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような、立体駐車場などに使用される吊下げ用チェーンの場合、従前知られた動力伝達用チェーンとは異なり、チェーンの走行スピードは相当に低速度であるが、チェーンには、チェーンに吊下された昇降台及び、当該昇降台に搭載された車両の全ての荷重が作用することになるので、大きな引張強度が要求されるとともに立体駐車場が大型になるほどチェーンが長くなる。
【0005】
そして、従来は、図9及び図10に示されるような、両側に対峙して配置された1対の内リンクプレート520の長手方向前後に1対のブシュ550が圧入されてなる内リンクと、当該ブシュ550のそれぞれに貫通される連結ピン530を、両側に対峙して配置された1対の外リンクプレート520の長手方向の前後にそれぞれ圧入されてなる外リンクとを、チェーン長手方向に交互に連結され、それぞれのブシュ550にはローラ540が回動自在に外嵌されて構成されるような汎用のチェーン500を、吊下げ用として使用するのが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公平3−31794号公報(全文、全図)
【特許文献2】特開平5−287929号公報(図1乃至図10、図13乃至図18)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従前は汎用チェーンを昇降台の駆動に使用しているため、前述したような昇降台駆動の場合の使用状況を考慮すると、以下のような無駄あるいは問題点が生じていた。
すなわち、立体駐車場の昇降台駆動の場合、伝導チェーンの場合と異なり、引張荷重が非常に大きくなるため、チェーンの引張強度を高める必要があるが、昇降台の駆動は、高速で駆動するものでもなく、チェーンのブシュと連結ピンとの間で生ずる相互回転も、伝動チェーンの場合と比べると非常に少ないので、所謂疲労強度については特に考慮する必要はない。
しかし、汎用チェーンの場合引張強度と疲労強度とを併せ持つようなチェーンとして設計されているため、上述したような立体駐車場用の昇降台駆動に求められる強度要件とは完全に適合するものではなかった。
したがって、汎用チェーンを使用する場合には、厳しい要件である引張強度に適合した高性能のものを採用することとなり、不必要に疲労強度の高い、いわば設計上無駄の多いチェーンを使用することとなり、結果的に高コストとなってしまうという問題があった。
【0008】
また、立体駐車場では、垂直方向及び水平方向にチェーンを張り巡らすため循環軌道が長経路となり、個々のチェーンリンクの製造誤差、組立誤差が蓄積されてチェーン全体としては無視できないものとなってくるし、また、長経路となるとこれに吊下される昇降台、車両などの重量が大となり、長いチェーンに大荷重が印加されてチェーンに生ずる変形も相当大きくなってくるため、これらの結果生じた歪みにより、チェーンに横曲がりやねじれが生じて、チェーンを円滑に走行させ難くなるという問題があった。
さらに、上述したように、内リンクと外リンクとの間での相互回転の生ずる頻度が低いため、これに対処するブシュ等の部品の必要度は低いにも係わらず、汎用チェーンであるため、このような部品を具備したままであり、これがコストを低減できない一因となっているという問題もあった。
【0009】
本発明は、前述したような従来技術の問題点を解決するものであって、本発明の技術的課題、すなわち、本発明の目的は、引張強度の高い上に構造が簡易で、低コストの吊下げ用チェーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、内リンクプレートと外リンクプレートとを連結ピンにより長手方向に交互に連結して上下方向へ移動可能な移動部材に動力を伝達する吊下げ用チェーンであって、前記内リンクプレートが前記連結ピンに回動自在に遊嵌され、前記内リンクプレートの間に配設されたローラが前記連結ピンの外周に回動自在に遊嵌されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0011】
請求項2に係る発明の吊下げ用チェーンは、請求項1に記載の発明の構成に加えて、前記外リンクプレートと内リンクプレートとが、同一形状に形成されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0012】
請求項3に係る発明の吊下げ用チェーンは、請求項1又は請求項2に記載の発明の構成に加えて、前記内リンクプレートの両側端部の形状が円弧状に形成され、該端部の前記連結ピンが挿通する孔の内径をDとし、該端部の外周の半径と内周の半径との差をhとした場合、2h≧Dの関係が成立していることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0013】
請求項4に係る発明の吊下げ用チェーンは、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の発明の構成に加えて、前記内リンクプレートの両側端部の形状が円弧状に形成され、該端部の外周の半径と内周の半径との差をhとし、一方の端部と他方の端部との間の両端を結ぶ方向に対する幅をHとした場合、2h≧Hの関係が成立していることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0014】
請求項5に係る発明の吊下げ用チェーンは、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の発明の構成に加えて、前記内リンクプレートの両側端部の形状が円弧状に形成され、一方の端部と他方の端部との間の形がくびれ形状を呈し、端部の外周の半径をrとし、くびれ形状の弧の半径をRとした場合、r=Rの関係が成立していることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明は、内リンクプレートと外リンクプレートとを連結ピンにより長手方向に交互に連結して上下方向へ移動可能な移動部材に動力を伝達する吊下げ用チェーンであって、内リンクプレートが連結ピンに回動自在に遊嵌され、内リンクプレートの間に配設されたローラが連結ピンの外周に回動自在に遊嵌されていることにより、引張強度を向上するためにはとくに必要ではないブシュのような部材を設けずに吊下げ用チェーンを構成することができるため、部品点数を削減してチェーンの部品コストを低減させることができる。
【0016】
また、例えば、一方の外リンクプレート、一方の内リンクプレート、ローラ、他方の内リンクプレート及び他方の外リンクプレートを一列に配置して一度に連結ピンを貫通して連結作業を1度で行なう、というように、ブシュ付きの内リンクを製作した上で連結ピン貫通させて外リンクを組付けてチェーンを製作するというように従前2段階で行なわれていたチェーン製作作業を1段階で実行するというように、チェーン製作工程を簡素化することができるとともに、このような内リンク製作時に生じていた、内リンクプレートの横曲がりというような組立歪みを解消して、全体としてチェーンの製作精度を向上することができる。
【0017】
さらに、内リンクプレートにブシュを設けることがなくなり、内リンクプレートの連結ピン嵌合部周囲の面積を大きくしたため、内リンクプレートの引張強度が向上して、上下方向へ移動可能な移動部材の駆動に好適な、引張強度の高いチェーンとすることができる。
【0018】
加えて、内リンクプレートが連結ピンに対して回動自在に遊嵌されていることにより、ブシュをなくしたにも係わらず連結ピンと内リンクプレートとが相互に回動自在であるため、吊下げ用チェーンをスプロケットに掛け回して回転させる場合にも内リンクプレートと連結ピン及び外リンクプレートとの相対回動が円滑に行なわれて吊下げ用チェーンを円滑に走行させることができる。
【0019】
請求項2に係る発明の吊下げ用チェーンは、請求項1に記載の発明が奏する効果に加えて、前記外リンクプレートと内リンクプレートとが同一形状に形成されていることにより、従前の汎用チェーンのように内リンクプレートと外リンクプレートとの寸法が異なることなく、内リンクプレートと外リンクプレートとを同じ寸法、大きさの部品で構成できるため、チェーンを製作するための部品種類が減少して、製作作業、製作コスト及び部品管理負担を低減させることができる。
【0020】
請求項3に係る発明の吊下げ用チェーンは、請求項1又は請求項2に記載の発明が奏する効果に加えて、内リンクプレートの両側端部の形状が円弧状に形成され、端部の連結ピンが挿通する孔の内径をDとし、端部の外周の半径と内周の半径との差をhとした場合、2h≧Dの関係が成立していることにより、従来の2h<Dの関係が成立する構成と比較して、容易に内リンクプレートの端部の内外径差を大きくとることができて内リンクプレートの面積を広くすることができるため、内リンクプレートの引張強度を向上させることができる。
【0021】
請求項4に係る発明の吊下げ用チェーンは、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の発明が奏する効果に加えて、内リンクプレートの両側端部の形状が円弧状に形成され、端部の外周の半径と内周の半径との差をhとし、一方の端部と他方の端部との間の両端を結ぶ方向に対する幅をHとした場合、2h≧Hの関係が成立していることにより、従来の2h<Hの関係が成立する構成と比較して、容易に内リンクプレートの端部の内外径差を大きくとることができて内リンクプレートの面積を広くすることができるため、内リンクプレートの引張強度を向上させることができる。
【0022】
請求項5に係る発明の吊下げ用チェーンは、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の発明が奏する効果に加えて、内リンクプレートの両側端部の形状が円弧状に形成され、一方の端部と他方の端部との間の形がくびれ形状を呈し、端部の外周の半径をrとし、くびれ形状の弧の半径をRとした場合、r=Rの関係が成立していることにより、一枚の金属プレート等から複数の内リンクプレートを打ち抜く製造工程において一の内リンクプレートのくびれ形状の部分と他の内リンクプレートの端部とを隙間無く隣接させると同時に一の内リンクプレートの端部と他の内リンクプレートのくびれ形状の部分とを隙間無く隣接させて打ち抜くことができるため、歩留まり率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の1実施例である吊下げ用チェーンの部分平面図。
【図2】図1に示す吊下げ用チェーンの部分側面図。
【図3】本発明の内リンクプレートおよび従来技術の内リンクプレートの平面図。
【図4】本発明の内リンクプレートを打ち抜く製造工程のレイアウト図。
【図5】図1に示す吊下げ用チェーンを適用した立体駐車場の概略側面図。
【図6】図5に示す立体駐車場の吊下げ用チェーンの引き回しを示す概略斜視図。
【図7】図1に示す吊下げ用チェーンを適用したフォークリフトの概略斜視図。
【図8】本発明の第2実施例である吊下げ用チェーンの部分平面図。
【図9】従来技術である吊下げ用チェーンの部分平面図
【図10】従来技術である吊下げ用チェーンの部分側面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、内リンクプレートと外リンクプレートとを連結ピンにより長手方向に交互に連結して上下方向へ移動可能な移動部材に動力を伝達する吊下げ用チェーンであって、内リンクプレートが連結ピンに回動自在に遊嵌され、内リンクプレートの間に配設されたローラが連結ピンの外周に回動自在に遊嵌されていて、引張強度の高い上に構造が簡易で低コストのものであれば、その具体的な態様は、いかなるものであっても何ら構わない。
【0025】
すなわち、吊下げ用チェーンを構成するチェーン自体の素材は、通常温度で引張強度に優れたものであれば、鉄系あるいは被鉄系の金属材料などいかなる材料でも構わないが、相当の引張強度を要すること、内外リンクプレート、連結ピン及びローラなどの部品は、引張強度及び防蝕性などを考慮すると、鋼系の材料で形成することが望ましい。
【0026】
吊下げ用チェーンとしては、ローラをも省略した内外リンクプレートと連結ピンとから構成されるような、最大限部品点数を減らしたものも考えられる。
ただし、大きな引張荷重の下で吊下げ用チェーンをスプロケットの係合歯に係合して駆動することを考慮すると、スプロケット係合歯と係合する箇所にはある程度の大きさ(径)が必要であること、及び、連結ピンを大径とすると連結ピンを挿通する内外リンクプレートの端部径なども大きくする必要があることなどを考慮すると、ローラを介してスプロケットと係合するようにすることが適切である。
【0027】
また、本吊下げ用チェーンの長寿命化、メンテナンスフリー化を図って、ローラ内周面、及び/又はリンクプレートの摺動面に潤滑剤を保留するような無給油形のチェーンを採用して構成してもよい。
【0028】
またさらに、本吊下げ用チェーンは、上下方向へ移動可能な移動部材に動力を伝達することができるように接続されていればよく、無端状でも有端状でもよい。
吊下げ用チェーンによって移動可能な移動部材を上下方向へ移動させる機構は、吊下げ用チェーンが引き回されている方向が上下方向のみではなく、上下方向に加えて横方向にも引き回されていてもよい。
言い換えると、上下方向へ移動可能な移動部材の自重が吊下げ用チェーンに作用する機構であればよい。
【実施例1】
【0029】
以下、本発明の第1実施例である吊下げ用チェーン100について図1乃至図7を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施例である吊下げ用チェーンの部分平面図であり、図2は、図1に示す吊下げ用チェーンの部分側面図であり、図3(A)は、本発明の内リンクプレートの平面図であり、図3(B)は、従来技術の内リンクプレートの平面図であり、図4は、本発明の内リンクプレートを打ち抜く製造工程のレイアウト図であり、図5は、図1に示す吊下げ用チェーンを適用した立体駐車場の概略側面図であり、図6は、図5に示す立体駐車場の吊下げ用チェーンの引き回しを示す概略斜視図であり、図7は、図1に示す吊下げ用チェーンを適用したフォークリフトの概略斜視図である。
【0030】
本実施例の吊下げ用チェーン100は、図1に示すように、チェーンの長手方向とに亘って対峙して交互に配置された一対の内リンクプレート120及び外リンクプレート110とを、連結ピン130を貫通させて長手方向に交互に連結して、吊下げ用チェーン100が形成される。
外リンクプレート110及び内リンクプレート120は、いずれも同形に形成されているので、部品の製作において、2種類の打抜型を用意する必要がなく、製作コストや部品保管コストを低減できるとともに、部品の誤組み付けの可能性が減少するので生産性を一層向上させることができる。
もちろん、汎用チェーンのように外リンクプレートを内リンクプレートより小さく構成しての車載ケージを駆動するという機能において何ら問題はない。
【0031】
本第1実施例の吊下げ用チェーン100ではブシュを省略しているので、図2において右端の内リンクプレート120に示されるように、円弧状に形成された内リンクプレート120端部の外周の半径と内周の半径との差h、すなわち内リンクプレート120端部の面積を大きくできる。
より詳細に説明すると、従来の吊下げ用チェーン500の場合には、図10において右端の内リンクプレート520に示されるように、円弧状の内リンクプレート520端部にはブシュ550が圧入されるため、内リンクプレート520自体はその外周の半径と内周の半径との差h’が、ブシュ550の厚みだけ小さくならざるを得ない。
これに対し、本実施例のようにブシュを省略すると、前述のとおり、内リンクプレート120端部の外周の半径と内周の半径との差hを大きくとることができるので、内リンクプレート120の面積が増大して内リンクプレート120の引張強度を向上させることができる。
【0032】
したがって本第1実施例のようにブシュを無くしたことにより、吊下げ用チェーン100の外径寸法は変わらなくても、その引張強度を向上して、吊下げの用途に適合した特性を備える吊下げ用チェーン100を、低コストで製作することができる。
あるいは、内リンクプレート120を従来より小寸法として、同程度の引張強度を備える吊下げ用チェーンをより小寸法に構成するようにしてもよい。
【0033】
また、連結ピン130は、外リンクプレート110に対して相互回動不能に装着して形態安定性を保つようにしているが、内リンクプレート120とは、わずかのクリアランスを設けて回動自在に遊嵌しているので、内リンクプレート120と外リンクプレート110とは相対回動が自在であり、チェーンとして必要な屈曲自在性が確保されている。
なお、本第1実施例では外リンクプレート110を、連結ピン130を圧入するなどの方法で連結ピン130に対し固定し、内リンクプレート120を連結ピン130に対し回動自在に遊嵌しているが、例えば、連結ピン130の両側、最外部止め輪若しくは止めピンを配置するなどして外リンクプレート110が脱落することがないように手当を講ずるのであれば、内リンクプレート120に連結ピン130を固定し、外プレート110と連結ピン130とを遊嵌するようにしてもよいし、内外両リンクプレート110、120ともに連結ピン130に対し回動自在に遊嵌することも可能である。
【0034】
さらに、本第1実施例の吊下げ用チェーン100では、連結ピン130の外側にローラ140を回動自在に外嵌しており、スプロケットとはローラ140を介して係合するので、小径の連結ピン130の表面の一部にスプロケットの係合歯から過大な牽引力が作用することはなく、ローラ140の外周面全体でスプロケットの駆動力を受けるようにしている。
これにより、吊下げ用チェーン100の損傷する可能性を大きく減じて、長期に亘り円滑に稼働できるようにしている。
【0035】
また、本第1実施例の吊下げ用チェーン100では、図3(A)に示されるように内リンクプレート120の端部における連結ピン130が挿通する孔の内径をDとし、端部の外周の半径と内周の半径との差をhとした場合、2h≧Dの関係が成立するように内リンクプレート120が形成されている。
これに対して、従来の吊下げ用チェーン500では、図3(B)に示されるように内リンクプレート520の端部における連結ピン130が挿通する孔の内径をD’とし、端部の外周の半径と内周の半径との差をh’とした場合、2h’<D’の関係が成立するように内リンクプレート520が形成されていた。
この違いにより、本第1実施例の吊下げ用チェーン100では、従来の構成と比較して、容易に内リンクプレート120の端部の内外径差を大きくとることができて内リンクプレート120の面積を広くすることができるため、内リンクプレート120の引張強度を向上させることができる。
【0036】
さらに、本第1実施例の吊下げ用チェーン100では、図3(A)に示されるように内リンクプレート120の一方の端部と他方の端部との間の両端を結ぶ方向に対する幅をHとした場合、2h≧Hの関係が成立するように内リンクプレート120が形成されている。
これに対して、従来の吊下げ用チェーン500では、図3(B)に示されるように内リンクプレート520の一方の端部と他方の端部との間の両端を結ぶ方向に対する幅をH’とした場合、2h’<H’の関係が成立するように内リンクプレート520が形成されていた。
この違いにより、本第1実施例の吊下げ用チェーン100では、従来の構成と比較して、容易に内リンクプレート120の端部の内外径差を大きくとることができて内リンクプレート120の面積を広くすることができるため、内リンクプレート120の引張強度を向上させることができる。
【0037】
また、本第1実施例の吊下げ用チェーン100では、図3(A)に示されるように内リンクプレート120の一方の端部と他方の端部との間の形がくびれ形状を呈し、端部の外周の半径をrとし、くびれ形状の弧の半径をRとした場合、r=Rの関係が成立するように内リンクプレート120が形成されている。
これに対して、従来の吊下げ用チェーン500では、図3(B)に示されるように内リンクプレート520の一方の端部と他方の端部との間の形がくびれ形状を呈していたが、端部の外周の半径をr’とし、くびれ形状の弧の半径をR’とした場合、r’<R’の関係が成立するように内リンクプレート520が形成されていた。
【0038】
この違いにより、従来は、一枚の金属プレート等から複数の内リンクプレート520を打ち抜く製造工程において、一の内リンクプレート520と他の内リンクプレート520とを隣接させた場合であっても一の内リンクプレート520と他の内リンクプレート520との間に無駄な隙間が生じていたため、歩留まり率が低く十分ではなかった。
一方、本発明の内リンクプレート120の場合、図4に示されるように一枚の金属プレートPL等から複数の内リンクプレート120を打ち抜く製造工程において、一の内リンクプレート120のくびれ形状の部分と他の内リンクプレート120の端部とを隙間無く隣接させると同時に一の内リンクプレート120の端部と他の内リンクプレート120のくびれ形状の部分とを隙間無く隣接させて打ち抜くことができるため、従来と比較して歩留まり率を向上させることができる。
【0039】
吊下げ用チェーン100自体は上述したように構成されていて、さらに、これに例えば図示しないアタッチメントを介して上下方向へ移動可能な移動部材が吊下げられている。
吊下げ用チェーン100が、例えば図5および図6に示されるように立体駐車場300に張設されている。
そして、柱380に沿って上下方向へ移動可能な移動部材の一例である昇降台310が吊下げ用チェーン100の一部と接続されて吊下げ用チェーン100に吊下げられ、昇降台310には車両が載置される。
【0040】
より詳しく説明すると、立体駐車場300は、モータ320と、ドライブチェーン340と、回転軸330と、一対の第1スプロケット350と、一対の第2スプロケット360と、一対の第3スプロケット370と、昇降台310と、4本の吊下げ用チェーン100と、柱380とを備えている。
そして、操作ボタンによってモータ320が回転し、モータ320の動力がドライブチェーン340を介して回転軸330へ伝達され、回転軸330と一体回転するように設けられた一対の第1スプロケット350および一対の第3スプロケット370が回転する。
ここで、一対の第1スプロケット350および一対の第3スプロケット370には、4本の吊下げ用チェーン100がそれぞれ掛け回されている。
【0041】
このうち、一対の第1スプロケット350に掛け回されている2本の吊下げ用チェーン100は、一対の第2スプロケット360にもそれぞれ掛け回され、一端が昇降台310における車両の入り口側である前側の左右とそれぞれ接続されている。
他端は、第1スプロケット350が昇降台310側の吊下げ用チェーン100を巻き取った際に駆動の邪魔にならないように図示しない部材と接続されているものとする。
また、一対の第3スプロケット370に掛け回されている2本の吊下げ用チェーン100の一端は、昇降台310における後側の左右とそれぞれ接続されている。
他端は、第2スプロケット360が昇降台310側の吊下げ用チェーン100を巻き取った際に駆動の邪魔にならないように図示しない部材と接続されているものとする。
そして、モータ320が一の方向へ回転したとき、昇降台310が柱380に沿って上昇し、モータ320が逆方向へ回転したとき、昇降台310が柱380に沿って下降する。
なお、図5および図6は、立体駐車場300の機構の大要を概略的に示すものであり、実際の配置としては、様々な形態が考えられる。
【0042】
また、吊下げ用チェーン100が、例えば図7に示されるようにフォークリフト400に張設されている。
そして、マスト430に沿って上下方向へ移動可能な移動部材の一例であるフォーク形昇降部410が吊下げ用チェーン100の一部と接続されて吊下げ用チェーン100に吊下げられ、フォーク形昇降部410にはコンテナ等の荷物が載置される。
より詳しく説明すると、フォークリフト400は、図示しないスプロケット付モータと、スプロケット420と、フォーク形昇降部410と、吊下げ用チェーン100と、マスト430とを備えている。
【0043】
そして、操縦者の操作によってスプロケット付モータが回転し、スプロケット420に掛け回された吊下げ用チェーン100に動力が伝達される。
ここで、吊下げ用チェーン100の一部がフォーク形昇降部410と接続されている。
なお、吊下げ用チェーン100が有端状である場合は一端がフォーク形昇降部410と接続され、吊下げ用チェーン100が無端状である場合は一部がフォーク形昇降部410と接続されていればよい。
そして、スプロケット付モータが一の方向へ回転したとき、フォーク形昇降部410がマスト430に沿って上昇し、スプロケット付モータが逆方向へ回転したとき、フォーク形昇降部410がマスト430に沿って下降する。
【実施例2】
【0044】
次に、本発明の第2実施例である吊下げ用チェーン200について、図8を参照して以下に説明する。
図8は、本発明の第2実施例である吊下げ用チェーン200の部分平面図である。
第2実施例の吊下げ用チェーン200は、第1実施例の吊下げ用チェーン100を複列としたものであり、多くの要素について第1実施例の吊下げ用チェーン100と共通するので、共通する事項については詳しい説明を省略し、下2桁を共通する200番代の符号を付すのみとする。
【0045】
本第2実施例の吊下げ用チェーン200は、より引張強度を向上するように2列としたものであり、両側に外リンクプレート210及び内リンクプレート220を交互に配置し、中央部に中間外リンクプレート281及び中間内リンクプレート282を配置し、これらの内外リンクプレート210、220を、連結ピン230を貫通させて長手方向に交互に連結して、無端状の吊下げ用チェーン200としている。
また、内リンクプレート220と中間内リンクプレート282との間にそれぞれローラ240が回動自在に遊嵌されていて、ブシュが省略されていることも第1実施例の吊下げ用チェーン100の場合と同様である。
【0046】
本第2実施例の吊下げ用チェーン200の場合、両側と中央部に4枚のプレートが配置されているため、両側に2枚のプレートが配置されている第1実施例の吊下げ用チェーン100に比べて、略2倍の引張強度を実現することができる。
また、中間外リンクプレート281及び中間内リンクプレート282についても、外リンクプレート210及び内リンクプレート220と同一形状のものを使用すると、部品製作や保管コストを低減することができる。
【0047】
以上のようにして得られた本発明の実施例である吊下げ用チェーン100、200は、内リンクプレート120、220が連結ピン130、230に回動自在に遊嵌され、内リンクプレート120、220の間に配設されたローラ140、240が前記連結ピン130、230の外周に回動自在に遊嵌されていることにより、不要な部品を減殺しながらも、引張強度を向上させつつ製作コストを低減させることができる。
【0048】
また、部品点数が減少したことで、チェーンの製作工程を簡素化して生産性を向上することができるとともに、省略された組立工程において生じていた組立誤差を解消して吊下げ用チェーン100、200全体の組立精度を向上させることができる。
さらに、外リンクプレート110、210と内リンクプレート120、220とが同一形状に形成されていることにより、部品製作コスト及び部品管理コストを低減することができるなど、その効果は甚大である。
【0049】
また、内リンクプレート120において、前述した2h≧Dの関係、および2h≧Hの関係の少なくとも一方が成立していることにより、成立していない場合と比較して、内リンクプレート120の引張強度を向上させることができる。
さらに、内リンクプレート120において、前述したr=Rの関係が成立していることにより、成立していない場合と比較して、歩留まり率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0050】
100、200、500 ・・・ 吊下げ用チェーン
110、210、510 ・・・ 外リンクプレート
120、220、520 ・・・ 内リンクプレート
130、230、530 ・・・ 連結ピン
140、240、540 ・・・ ローラ
281 ・・・ 中間外リンクプレート
282 ・・・ 中間内リンクプレート
300 ・・・ 立体駐車場
310 ・・・ 昇降台
320 ・・・ モータ
330 ・・・ 回転軸
340 ・・・ ドライブチェーン
350 ・・・ 第1スプロケット
360 ・・・ 第2スプロケット
370 ・・・ 第3スプロケット
380 ・・・ 柱
400 ・・・ フォークリフト
410 ・・・ フォーク形昇降部
420 ・・・ スプロケット
430 ・・・ マスト
550 ・・・ ブシュ
PL ・・・ 金属プレート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内リンクプレートと外リンクプレートとを連結ピンにより長手方向に交互に連結して上下方向へ移動可能な移動部材に動力を伝達する吊下げ用チェーンであって、
前記内リンクプレートが前記連結ピンに回動自在に遊嵌され、
前記内リンクプレートの間に配設されたローラが前記連結ピンの外周に回動自在に遊嵌されていることを特徴とする吊下げ用チェーン。
【請求項2】
前記外リンクプレートと内リンクプレートとが、同一形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の吊下げ用チェーン。
【請求項3】
前記内リンクプレートの両側端部の形状が円弧状に形成され、該端部の前記連結ピンが挿通する孔の内径をDとし、該端部の外周の半径と内周の半径との差をhとした場合、
2h≧D
の関係が成立していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の吊下げ用チェーン。
【請求項4】
前記内リンクプレートの両側端部の形状が円弧状に形成され、該端部の外周の半径と内周の半径との差をhとし、一方の端部と他方の端部との間の両端を結ぶ方向に対する幅をHとした場合、
2h≧H
の関係が成立していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の吊下げ用チェーン。
【請求項5】
前記内リンクプレートの両側端部の形状が円弧状に形成され、一方の端部と他方の端部との間の形がくびれ形状を呈し、端部の外周の半径をrとし、くびれ形状の弧の半径をRとした場合、
r=R
の関係が成立していることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の吊下げ用チェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−72547(P2013−72547A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214588(P2011−214588)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)