説明

含フッ素エーテル化合物を含む組成物

【課題】 極低温において粘度が低く保たれる組成物、および使用できる装置、温度範囲等の制限が少ない冷媒を提供する。
【解決手段】 F(CF24OCF(CF3)CF(CF3)O(CF24F等の下式(1)で表される化合物および添加剤を含み、−70℃において、粘度が1000cP以下である組成物。添加剤としては、下式(2)で表される化合物および下式(3)で表される化合物が好ましい。
F1OCFRF2CFRF2ORF1・・・(1)。
CF3(CF25H・・・(2)
CF3CF2CF2CF(CF32・・・(3)
ただしRF1は炭素数4〜7の直鎖ペルフルオロアルキル基、RF2はフッ素原子またはトリフルオロメチル基を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒等として有用である含フッ素エーテル化合物を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、含フッ素不活性媒体としては、C512、C818等のペルフルオロアルカン類、ぺルフルオロエーテル類、(C493N等のペルフルオロアルキルアミン類等が知られている。含フッ素不活性媒体は、エレクトロニクス分野における絶縁油、サーマルショックテスト、リークテスト等の媒体、医療分野における酸素運搬剤、工業分野における洗浄剤、水きり剤等に用いられる。
【0003】
含フッ素不活性媒体の多くは、原料の大量入手が困難であり、工業的な製造が困難である。また、炭素数が異なる複数の化合物の混合物が多く、単一組成でかつ高純度の含フッ素不活性媒体が求められる医療等の分野においては、使用できる含フッ素不活性媒体が限られる。
【0004】
該問題を解決する含フッ素不活性媒体としては、下式(1)で表される化合物が提案されている(特許文献1)。
F1OCFRF2CFRF2ORF1・・・(1)。
ただしRF1は炭素数4〜7の直鎖ペルフルオロアルキル基、RF2はフッ素原子またはトリフルオロメチル基を示す。
【0005】
式(1)で表される化合物は、単一組成でかつ高純度の化合物であり、前記用途だけではなく、不凍液、冷媒等としても有用である。しかし、式(1)で表される化合物は、極低温にすると、粘度が高くなる性質があり、使用できる装置、温度範囲等に制限がある。
【特許文献1】国際公開第2005/042456号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、極低温において粘度が低く保たれる組成物を提供する。また本発明は、使用できる装置や温度範囲等の制限が少ない冷媒を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下式(1)で表される化合物および添加剤を含み、−70℃において、粘度が1000cP以下である組成物である。
F1OCFRF2CFRF2ORF1・・・(1)。
ただしRF1は炭素数4〜7の直鎖ペルフルオロアルキル基、RF2はフッ素原子またはトリフルオロメチル基を示す。
【0008】
添加剤は、−70〜+150℃において、式(1)で表される化合物に溶解する化合物であることが好ましい。
式(1)で表される化合物は、下式(1a)で表される化合物であることが好ましい。
F(CF24OCF(CF3)CF(CF3)O(CF24F・・・(1a)。
添加剤は、フッ素原子を含有する化合物からなることが好ましい。
【0009】
添加剤は、下式(2)で表される化合物、または下式(3)で表される化合物であることが好ましい。
CF3(CF25H・・・(2)、
CF3CF2CF2CF(CF32・・・(3)。
【0010】
式(1)で表される化合物に対する添加剤量は、1〜99mol%であることが好ましい。
式(1)で表される化合物に対する式(2)で表される化合物量は、5〜95mol%であることが好ましい。
式(1)で表される化合物に対する式(3)で表される化合物量は、5〜95mol%であることが好ましい。
本発明の冷媒は、本発明の組成物からなる冷媒である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物は、極低温において粘度が低く保たれる。
本発明の冷媒は、使用できる装置、温度範囲等の制限が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
【0013】
本発明の組成物は、化合物(1)および添加剤を含み、−70℃において、粘度が1000cP以下である組成物である。
F1OCFRF2CFRF2ORF1・・・(1)。
ただしRF1は炭素数4〜7の直鎖ペルフルオロアルキル基である。ペルフルオロアルキル基とは、アルキル基中の炭素原子に結合した水素原子の全部がフッ素原子に置換された基である。RF1としては、−(CF24F、−(CF25Fまたは−(CF26Fが好ましく、−(CF24Fまたは−(CF26Fが特に好ましい。RF2はフッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、トリフルオロメチル基が好ましい。
【0014】
化合物(1)としては、冷媒としての有用性の点から、化合物(1a)または化合物(1b)が好ましく、化合物(1a)が特に好ましい。
F(CF24OCF(CF3)CF(CF3)O(CF24F・・・(1a)、
F(CF26OCF(CF3)CF(CF3)O(CF26F・・・(1b)。
【0015】
化合物(1)の製造方法としては、国際公開第2005/042456号パンフレットに記載の方法が挙げられる。
〔方法1〕化合物(4)を液相中でフッ素と反応させてフッ素化する方法。
〔方法2〕化合物(4)を高原子価金属フッ化物によってフッ素化する方法。
〔方法3〕化合物(4)を電気化学的フッ素化反応によってフッ素化する方法。
〔方法4〕2分子の化合物(5)、または化合物(6)および化合物(7)からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物の2分子をカップリング反応させる方法。
1OCX12CX22OR1・・・(4)、
F1OCFRF2COF・・・(5)、
F1OCFRF2COOH・・・(6)、
F1OCFRF2COOM・・・(7)。
【0016】
ただしRF1およびRF2は前記と同じ意味を表し、X1およびX2は、それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子を表す。R1とRF1、R2とRF2はそれぞれ対応し、R1はRF1中のフッ素原子の一部または全部が水素原子に置換された基、または該置換された基の炭素−炭素結合が不飽和結合になった基を表す。RF2がフッ素原子である場合のR2は水素原子であり、RF2がトリフルオロメチル基である場合のR2はメチル基である。Mはアルカリ金属原子を表す。
【0017】
化合物(1)は、−70℃において1200cP以上の粘度を有する化合物である。粘度は、溶融粘弾性装置を用いて測定される粘度である。
【0018】
添加剤は、通常は化合物(1)よりも粘度が低い化合物から選ばれる。添加剤としては、−70℃〜+150℃において、粘度が750cP以下の化合物が好ましく、100cP以下の化合物がより好ましく、10cP以下の化合物が特に好ましい。
添加剤の粘度は、−70℃において0cPを超え750cP以下が好ましく、0cPを超え200cP以下がより好ましく、1〜20cPが特に好ましい。
【0019】
添加剤としては、化合物(1)と相溶性がある化合物が好ましい。相溶性があるとは、化合物(1)に1mol%以上、好ましく50mol%以上、より好ましくは上限なく溶解しうることを意味する。
本発明の組成物を冷媒として用いる場合、添加剤は、−70〜+150℃において、化合物(1)に1mol%以上溶解しうる化合物が好ましく、50mol%以上溶解しうる化合物がより好ましく、無限に溶解しうる化合物が特に好ましい。
【0020】
添加剤としては、高度にフッ素化された炭化水素、高度にフッ素化されたエーテルまたはポリエーテル、高度にフッ素化されたアルキルアミン等が挙げられる。高度にフッ素化されたとは、ペルフルオロ化された、または、水素原子が1または2個残る割合でフッ素化された、ことを意味する。
【0021】
上記粘度および相溶性を有する添加剤としては、化合物(2)、化合物(3)、3M社製の下記商品、ソルベイソレクシス社製の下記商品、F2ケミカル社製の下記商品等が挙げられ、極低温における組成物の粘度を低く保つ効果が高い点から、化合物(2)または化合物(3)が好ましい。
CF3(CF25H・・・(2)、
CF3CF2CF2CF(CF32・・・(3)、
3M社製商品:フロリナ−トFC−87、フロリナ−トFC−72、フロリナ−トFC−84、、フロリナ−トFC−77、
ソルベイソレクシス社製商品:ガルデンHT−55、ガルデンHT−70、ガルデンHT−90、ガルデンHT−110、ガルデンHT−135、ガルデンHT−170、ガルデンHT−200、ガルデンHT−230、
F2ケミカル社製商品:フルテックPP−50、フルテックPP−3、フルテックPP−9、フルテックPP−1C。
【0022】
添加剤の純度は、90mol%以上が好ましく、95mol%以上がより好ましく、98%以上が特に好ましい。純度の上限は100%である。
【0023】
化合物(1)は、他の化合物を溶解しにくい化合物であるため、化合物(1)に対する添加剤量({添加剤[mol]/化合物(1)[mol]}×100)は、1〜99mol%が好ましく、5〜95mol%が特に好ましい。
添加剤として化合物(2)を用いる場合、化合物(1)に対する量は、5〜95mol%が好ましく、10〜70mol%が特に好ましい。
添加剤として化合物(3)を用いる場合、化合物(1)に対する量は、5〜95mol%が好ましく、10〜70mol%が特に好ましい。
添加剤の種類は、1種であっても2種以上であってもよく、1種が好ましい。
【0024】
本発明の組成物は、化合物(1)および添加剤以外に他の化合物を含んでいてもよい。ただし、医療用の冷媒に用いる場合、他の化合物は含まないことが好ましい。
【0025】
本発明の組成物の粘度は、−70℃において1000cP以下であり、800cP以下が好ましい。本発明の組成物の粘度は、0cP超が好ましく、1cP以上がより好ましい。
本発明の組成物は、高温になるほど粘度が低くなるため、−70℃において粘度が1000cP以下である組成物は、通常の使用温度範囲である−70℃〜+150℃においても粘度は1000cP以下である。
【0026】
本発明の組成物は、冷媒として用いる場合、とりわけ極低温の冷媒として用いる場合、使用できる装置、温度範囲等に制限なく、広範囲に使用できる。該冷媒としては、医療用の冷媒が好ましい。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。実施例において、ガスクロマトグラフィーをGC、ガスクロマトグラフィー質量分析をGC−MSと略記する。
【0028】
〔例1〕エステル化反応による化合物(10)の合成例
【0029】
【化1】

【0030】
2LのハステロイC製オートクレーブに、化合物(8)(400g)を入れて撹拌し、窒素シ−ル下、内温が30℃以下に保たれるように、ゆっくりと化合物(9)(1850g)を導入した。化合物(9)を全量導入した後、さらに50℃で5時間の反応を行った。ついで、窒素バブリングによって副生したHFを系外に追い出し、生成物を得た。生成物をGCによって分析した結果、99%の収率で化合物(10)が得られており、未反応の化合物(8)は検出されなかった。生成物は精製することなく、以下の反応に使用した。
【0031】
〔例2〕フッ素化反応による化合物(11)の合成例
【0032】
【化2】

【0033】
3Lのニッケル製オートクレーブに、フッ素化反応溶媒として化合物(12)(4200g)を入れて撹拌し、25℃に保った。オートクレーブガス出口には−10℃に保持した冷却器を設置した。窒素ガスを1時間吹き込んだ後、窒素ガスで50%に希釈したフッ素ガス(以下、50%希釈フッ素ガスと記す。)を、流速107L/hで1時間吹き込んだ。ついで、50%希釈フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例1で得た化合物(10)を含む生成物(1500g)を30.0時間かけて導入し、その後、反応粗液(5480g)を抜き出した。反応粗液をGC−MSによって分析した結果、95%の収率で化合物(11)が得られており、化合物(11)に対して0.5%の化合物(13)が不純物として生成した。反応粗液は、化合物(12)を除去することなく、以下の反応に使用した。
CF3(CF22OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COF・・・(12)、
(CF32CFCF2OCOCF(CF3)OCF2CF2CF3・・・(13)。
【0034】
〔例3〕エステル結合の分解反応による化合物(14)の合成例
【0035】
【化3】

【0036】
20℃の還流器を備えた5Lのフラスコ内に、例2で得た化合物(11)を含む反応粗液(5400g)をKF粉末(20g)とともに仕込み、熱媒温度を100〜130℃に保って加熱撹拌を行った。生成するガスは、−78℃に冷却したステンレス(SUS316)製トラップにて回収した。反応が進行してガスの生成が見られなくなったところで反応を終了した。反応後にトラップの質量測定、およびGCによる分析を行った結果、99%の収率で化合物(14)が得られており、化合物(14)に対して0.5%の化合物(15)が不純物として生成した。
(CF32CFCOF・・・(15)。
【0037】
〔例4〕化合物(14)の蒸留精製
−10℃の還流器を備えたSUS製蒸留塔の釜(1L)に、例3で得た化合物(14)を含む生成物(700g)を仕込み、内圧を0.3MPa(ゲージ圧)、熱媒温度を40〜50℃に保って精密蒸留を行った。その結果、純度が99.9%であり、0.1%の化合物(15)を含む化合物(14)が670g得られた。
【0038】
〔例5〕化合物(1a)の合成
例4で得た化合物(14)を用い、国際公開第2005/042456号パンフレットの実施例の例1−1、例2−1および例2−2に記載の方法に従って化合物(1a)の合成を行った。
まず、化合物(14)とヘキサフルオロプロピレンオキシドとを反応させて、化合物(5a)を得た。
【0039】
【化4】

【0040】
ついで、化合物(5a)の加水分解反応を行い化合物(6a)を得た。
【0041】
【化5】

【0042】
ついで、化合物(6a)の電解カップリング反応より、純度が99.9%の化合物(1a)を得た。
【0043】
【化6】

【0044】
〔例6〕粘度測定
例5で得た化合物(1a)と、化合物(2)または化合物(3)とを、表1に示すモル比で混合して組成物1〜6を調整し、−70℃における粘度を測定した。粘度の測定には、レオメトリック社製の溶融粘弾性装置を用いた。また参考例として、化合物(1a)、化合物(2)および化合物(3)のそれぞれの単独での−70℃における粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の組成物は、冷媒、特に医療用の冷媒として有用である。とりわけ極低温の冷媒として用いる場合に、使用できる装置、温度範囲等に制限なく、広範囲に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される化合物および添加剤を含み、−70℃において、粘度が1000cP以下である組成物。
F1OCFRF2CFRF2ORF1・・・(1)
ただしRF1は炭素数4〜7の直鎖ペルフルオロアルキル基、RF2はフッ素原子またはトリフルオロメチル基を示す。
【請求項2】
添加剤が、−70〜+150℃において、式(1)で表される化合物に溶解する化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
式(1)で表される化合物が、下式(1a)で表される化合物である請求項1または2に記載の組成物。
F(CF24OCF(CF3)CF(CF3)O(CF24F・・・(1a)
【請求項4】
添加剤が、フッ素原子を含有する化合物からなる請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
添加剤が、下式(2)で表される化合物、または下式(3)で表される化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
CF3(CF25H・・・(2)
CF3CF2CF2CF(CF32・・・(3)
【請求項6】
式(1)で表される化合物に対する添加剤量が、1〜99mol%である請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
式(1)で表される化合物に対する式(2)で表される化合物量が、5〜95mol%である請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
式(1)で表される化合物に対する式(3)で表される化合物量が、5〜95mol%である請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の組成物からなる冷媒。

【公開番号】特開2007−77361(P2007−77361A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270494(P2005−270494)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)