説明

含フッ素ポリアセチレン誘導体

【課題】 同一分子内に、含フッ素有機基とポリアセチレンを有すると共に、酸素原子、エステル基、アミド基及びリン含有基から選ばれる基を有し、広範な分野に利用可能で良好な界面活性能等を有する新規な有機化合物を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)
−(C≡C)−R−X−R (1)
(式中、Rはフッ素原子を含む有機基を示し、Rは有機基を示し、Rは水素原子または有機基を示す。Xは、酸素原子、エステル結合、アミド基結合及びリン原子含有基から選ばれる基を示す。nは2から6の整数である。)で表される含フッ素ポリアセチレン誘導体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面活性剤等として有用な含フッ素ポリアセチレン誘導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアセチレンは、その炭素−炭素結合がすべて直線状になって剛直な構造を採り得るものである。またジアセチレン含有化合物は、紫外線照射されるとより安定な共重合体を形成することが知られている。
一方、チオール化合物やジスルフイド化合物は、金又はその他の貴金属表面に、これら化合物が有する硫黄結合を介して選択的に吸着され、その表面に密な構造体を形成する自己組織化膜が得られることも知られている。このチオール含有化合物と金の結合は、金−チオール結合として有名である。チオール部位を有するジイン化合物も、金表面の被膜に使用されており、この2つを組み合わせたチオールとジインを含有する化合物の合成及び金表面の被膜として利用できることが報告されている(例えば、特許文献1〜3、非特許文献1参照)。
【0003】
また、生体膜類似化合物としては、天然リン脂質を模倣したチオール含有化合物があり、天然リン脂質のアルキル末端にチオールを導入したものが知られている。この方法で得られるベシクロを利用した研究が行われている。ジアセチレン含有化合物は、紫外線照射されると、より安定な共重合体が形成されるが、なかでも、一方の末端にカルボン酸、水酸基、チオール基などを有する共重合体を形成できるジアセチレン化合物は、金表面の被膜に使用されており、この2つを組み合わせたチオールとジアセチレンを含有する化合物の合成及び金表面の被膜として利用できることが報告されている(非特許文献2、3参照)。
【0004】
Leeらは、F(CF(CHSH(m=1〜4、n=9〜15)を合成しており、またそのチオール基を水酸基に置き換えた化合物も合成しているが、カルボン酸基やポリアセチレン部位を導入したものは製造していない。また、Calasらも、F(CF(CHSH(m=6,8、n=2,11)とそのチオール基が水酸基になったものを合成しているが、同様にカルボン酸基やポリアセチレン部位の導入には成功していない(非特許文献4、5参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−253867号公報
【特許文献2】特開2001−253884号公報
【特許文献3】特開2001−247540号公報
【非特許文献1】Tetrahedron Lett.、1994、p9501
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.、1985、p42
【非特許文献3】J.Macromol.Sci.Chem.、1981,p701
【非特許文献4】J.Fluorine Chem.,93(1999)p107−115
【非特許文献5】J.Fluorine Chem.,104(2000)p173−183
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、同一分子内に、含フッ素有機基とポリアセチレンを有すると共に、さらに酸素原子、エステル基、アミド基及びリン含有基から選ばれる基を有し、広範な分野に利用可能で良好な界面活性能等を有する新規な有機化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、特定の原料を用いて数段階の反応工程を経ることにより、所望の含フッ素ポリアセチレン誘導体を容易に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、一般式(1)
−(C≡C)−R−X−R (1)
(式中、Rはフッ素原子を含む有機基を示し、Rは有機基を示し、Rは水素原子または有機基を示す。Xは、酸素原子、エステル結合、アミド基結合及びリン原子含有基から選ばれる基を示す。nは2から6の整数である。)で表される含フッ素ポリアセチレン誘導体が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の含フッ素ポリアセチレン誘導体は、簡易な製法により得られるものであり、疎水性部位と親水性部位とを有すると同時に、主鎖にポリアセチレンを持つ特異な構造体であることから、重合性や剛直性を有する界面活性剤などとして広範な分野に使用できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の含フッ素ポリアセチレン誘導体は、下記一般式(1)で表されるものである。
−(C≡C)−R−X−R (1)
上記式(1)において、Rは、フッ素原子を少なくとも1個を含む1価もしくは2価の有機基であるが、Rは2価の有機基であり、またR は1価の有機基である。これらの有機基に含まれる炭素数は、100以下、好ましくは50以下、さらに好ましくは25以下である。
【0011】
前記R〜Rを構成する有機基(1価または2価有機基)には、脂肪族炭化水素基が包含される。脂肪族炭化水素基には、鎖状(枝分かれを含む)及び環状のものが包含され、さらに、飽和及び不飽和のものが包含される。鎖状脂肪族基には、アルキル基及びアルケニル基が包含され、環状脂肪族基には、シクロアルキル基及びシクロアルケニル基が包含される。
【0012】
アルキル基において、その主鎖を構成する炭素原子数は1〜60、好ましくは1〜25である。またアルケニル基において、その主鎖を構成する炭素原子数は2〜50、好ましくは2〜25である。シクロアルキル基及びシクロアルケニル基において、その環数は1個又は複数個(2〜4個、好ましくは2〜3個)のものである。その分子中に含まれる全炭素原子数は5〜60、好ましくは6〜25である。
【0013】
〜Rが脂肪族炭化水素基である場合、その具体例としては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、2−メチルブチル、1−メチルブチル、n−へキシル、イソヘキシル、3−メチルペンチル、2−メチルペンチル、1−メチルペンチル、ヘプチル、オクチル、イソオクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オタタデシル、エイコシル、シクロペンチル、シクロへキシル、アダマンチル、ビニル、プロペニル、ブテニル、アクリル、メタクリル、オクチニル、ドデセニル、ウンデセニル、シクロヘキセニルなどが挙げられる。
【0014】
また、R〜Rを構成する有機基は、本発明の合成反応に関与しない不活性な置換基を有していてもよい。このような置換基としては、置換あるいは未置換アリール基、カルボニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、アルキルまたはアリールスルホニル基、ニトロ基、ハロゲン(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、よう素原子)等が挙げられる。
【0015】
また、有機基には、その主鎖中に異種原子(へテロ原子)を含有していても良い。その異種原子としては、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、ケイ素原子等が挙げられる。
【0016】
さらに、有機基には、金属原子を含有していてもよい.この場合、金属原子としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどのアルカリ金属、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土頚金属、ホウ素、アルミニウム、チタン、錫、鉄などの金属原子が挙げられる。これらの金属原子は、通常、炭素一金属の結合やイオン結合等の結合形態で有機基中に含まれる。
【0017】
さらに、前記Rは、上記した1価の有機基であるほか、有機基の水素原子の1個以上がフッ素原子で置換したもの、あるいはすべての水素原子がフッ素原子で置換したものであることが必要である。
【0018】
前記−(C≡C)−(nは2〜6の整数である。)で示されるポリアセチレンは、ジアセチレン、トリアセチレン、テトラアセチレンなどの連続したアセチレン結合からなるものである。
【0019】
前記Xは、酸素原子(O)、エステル結合(COO)、アミド基結合(CONH)及びリン原子含有基から選ばれる基である。そのリン原子含有基としては、P、PO、PO、PO、OPOなどが挙げられる。
【0020】
は、上記した1価の有機基または次式(2)〜(4)で示すものである。
−A (2)
−A−B (3)
−A−B−C (4)
上記式(2)〜(4)において、Aは、リン酸またはホスホコリンから選ばれるリン酸含有基である。またBは、糖残基またはアミノ酸残基である。糖は、特に制限されるものではないが、通常、単糖類、オリゴ糖類である。
単糖類としては、ペントース、ヘキソース、デオキシヘキソース、ヘプトース、アミノ糖が挙げられ、具体的にはアラビノース、リバース、キシロース、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラムノース、フコース、ジギトキソース、チマロース、オレアンドロース、ジギタロース、アピオース、ハマメロース、ストレプトース、セドヘプチュロース、コリオース、グルコサミン、ガラクトサミン、2−デオキシ−2−メチルアミノグルコースなどが例示される。オリゴ糖類としては、非還元性オリゴ糖、還元性オリゴ糖が挙げられ、具体的にはショ糖、トレハロース、ゲンチアノース、ラフィノース、乳糖、セルビオース、麦芽糖、ゲンチオビオースなどが例示される。これらの糖は、通常、1級水酸基を介してリン酸に結合しているものであるが、2級水酸基を介して結合することもできる。
【0021】
アミノ酸類としては、具体的にはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、リジン、オルニチン、アルギニン、ヒスチジン、ヒドロキシリジン、システイン、シスチン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、4−ヒドロキシプロリン、トリコロミン酸、イボテン酸、キスカリン酸、カナバニン、カイニン酸、ドモイ酸、1−アミノシクロプロパンカルボン酸、2−(メチレンシクロプロピル)グリシン、ヒポグリシンA、3−シアノアラニン、アベナ酸、ムギネ酸、ミモシン、レボドパ、β−ヒドロキシ−γ−メチルフルタミン酸、5−ヒドロキシトリプトファン、パントテン酸、ラミニン、ベタシアニンなどが例示される。また、タウリンなどのスルホン酸基を有するアミン類なども挙げられる。これらのアミノ酸類は、水酸基またはアミノ基を介してリン酸に結合している。
【0022】
またCは、核酸、5炭糖もしくは6炭糖から選ばれる糖類、またはアミノ酸類である。核酸としては、ヌクレオシド、ヌクレオチド、もしくはヌクレオチド単位のポリマー鎖が挙げられる。ヌクレオシドは、シトシン、チミン、アデニン、グアニンのうち塩基と2−デオキシリボースまたはリボースの糖が結合したものであり、ヌクレオチドは、ヌクレオシドの糖にリン酸基が結合したものであり、チミンにはウラシルも含まれる。
【0023】
次に、本発明の含フッ素ポリアセチレン誘導体は、例えば、下記に示す合成経
路などを用いて製造することができる。
【化1】

【実施例】
【0024】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、その要旨を越えない限りこれらに限定されるものではない。実施例中の化合物番号は、全て上記化1に付した化合物番号で示す。
【0025】
[化合物1の合成]
3−メチル−1−ブチン−3−オール(1.2eq)のテトラヒドロフラン−ヘキサメチルホスホラミドの混合溶液に、−40℃で1.57Mのブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(3eq)を滴下した。その後、さらに−20℃で6−ブロモ−1−ヘキセン(1eq)のヘキサメチルホスホラミド溶液を滴下し、室温で18時間撹拌した。この溶液に氷水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。これを濾過し濃縮させた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=3:7)で精製し、化合物1を68〜88%の収率で得た。
【0026】
[化合物2の合成]
化合物1(1eq)とパーフルオロブチルヨーダイド(1.2eq)のアセトニトリル−水の混合溶液に無水炭酸水素ナトリウム(0.5eq)およびハイドロサルファナトリウム(0.5eq)を加え、室温で4時間攪拌した。この溶液に水を加えて希釈し、塩化メチレンで抽出した。有機層を水洗後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。これを濾過し濃縮させた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=15:85)で精製し、化合物2を62〜82%の収率で得た。
【0027】
[化合物3の合成]
亜鉛(5eq)と塩化ニッケル・6水和物(0.1eq)のテトラヒドロフラン−水の混合懸濁液に化合物2のテトラヒドロフラン溶液を滴下し、室温で18時間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、濾過した後、エーテルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。これを濾過し濃縮させた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=3:7)で精製し、化合物3を84〜99%の収率で得た。
【0028】
[化合物4の合成]
化合物3(1eq)のベンゼン溶液に水酸化カリウム(10eq)を加え、1.5時間加熱還流した。これを濾過し濃縮させた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)で精製し、化合物4を56〜76%の収率で得た。
【0029】
[化合物5の合成]
モルホリン(1eq)とヨウ素(1.4eq)のベンゼン懸濁液を室温で30分攪拌した後、化合物4(1eq)のベンゼン溶液を加えた。この溶液を45℃で7時間攪拌した後、濾過した。濾液をチオ硫酸ナトリウム、飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。これを濾過し濃縮させた後、化合物5(未精製)を得た。
【0030】
[化合物6の合成]
1−ウンデセン−11−オール(2eq)と塩化第一銅(0.1eq)のピロリジン溶液に、−20℃で化合物5のトルエン溶液を加えた。30分後、氷と飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、エーテルで抽出し、さらに飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。これを濾過し濃縮させた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=3:7)で精製し、化合物6を32〜64%の収率(化合物4から2段階)で得た。
【0031】
得られた化合物6について、H−NMR及び19F−NMRスペクトルにより同定した。
H−NMR(TMS、CDCl3):3.64(2H、t、J=6.5Hz)、5.79(4H、dt、J=11.0、6.8Hz)、2.05(2H、m)、1.64−1.48(8H、m)、1.47−1.29(15H、m)。
19F−NMR(CFCl、CDCl3):−81.57(3F、t、J=10.7Hz)、−115.11(2F、m)、−124.98(2F、bs)、−126.55(2F、m)。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の含フッ素ポリアセチレン誘導体は、多様な化学的特性を持つものであって、特に界面活性剤として有効であり、化粧品、農薬、工業薬品などとして幅広い産業分野に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
−(C≡C)−R−X−R (1)
(式中、Rはフッ素原子を含む有機基を示し、Rは有機基を示し、Rは水素原子または有機基を示す。Xは、酸素原子、エステル結合、アミド基結合及びリン原子含有基から選ばれる基を示す。nは2から6の整数である。)で表される含フッ素ポリアセチレン誘導体。
【請求項2】
有機基が、脂肪族炭化水素基または置換基を有する脂肪族炭化水素基である請求項1に記載の含フッ素ポリアセチレン誘導体。