説明

含気油脂食品

【課題】気泡が抜け難く、ふんわりとした食感が保持された含気油脂食品を提供する。
【解決手段】HLB5以下のデカグリセリンベヘン酸エステルと卵殻カルシウムが配合され、前記デカグリセリンベヘン酸エステル1部に対し卵殻カルシウムが0.1〜10部配合されている含気油脂食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造後時間が経過しても気泡が抜け難く、ふんわりとした食感が保持された含気油脂食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パンや菓子に伸展塗布して食されるピーナツクリーム等のスプレッド食品等において、気泡を含ませることによりふんわりとした食感とした商品が好まれている。
【0003】
上記のような食品として、例えば、特開平11−164671号公報(特許文献1)には、ホイップさせ、ソフトな食感を有するピーナッツバター加工食品が開示されている。
【0004】
しかしながら、ふんわりとした食感とするには、多量の気泡を含有させなければならず、この場合、保管中に気泡が抜けやすく、ふんわりとした食感が損なわれてべたついた食感になってしまう問題があった。また、フラワーペースト等の澱粉質の水溶液を含む気泡入り食品においては、例えば、特開2004−254611号公報(特許文献2)には、高HLBの乳化剤を配合することにより、気泡性を改善する技術が開示されているが、油脂食品について、気泡を抜け難くしてふんわりとした食感を保持することについては、従来あまり検討されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−164671号公報
【特許文献2】特開2004−254611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、製造後時間が経過しても気泡が抜け難く、ふんわりとした食感が保持された含気油脂食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく使用原料等、様々な諸条件について鋭意研究を重ねた結果、特定の乳化剤と卵殻カルシウムとを配合し、前記特定の乳化剤に対し卵殻カルシウムを特定量配合するならば、意外にも気泡が抜け難く、ふんわりとした食感が保持される含気油脂食品が得られることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)、製品の固さが3.0×10〜1.5×10N/mであり、未含気の製品容量に対し10〜40容量%の不活性ガスが含気された含気油脂食品において、HLB5以下のデカグリセリンベヘン酸エステルと卵殻カルシウムが配合され、前記デカグリセリンベヘン酸エステル1部に対し卵殻カルシウムが0.1〜10部配合されている含気油脂食品、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製造後時間が経過しても気泡が抜け難く、ふんわりとした食感が保持された気泡安定性を有する含気油脂食品を提供できることから、含気油脂食品の需要拡大に貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の含気油脂食品を詳述する。なお、本発明において「部」は「質量部」を意味する。
【0011】
本発明の含気油脂食品とは、ショートニング、バター、マーガリン、ラード、あるいは、ピーナツバター等の油脂原料を主原料とした食品に不活性ガスを吹き込む等して不活性ガスを含有させたものである。含気油脂食品の用途は、特に制限は無く、例えば、パン等に塗り広げて用いるパン用のスプレッドや、各種料理にトッピングしたり、フィリングとして使用するもの等が挙げられる。また、保存中の風味の劣化や油分離等の物性の変化を抑制できる点から、前記含気油脂食品の水分含量は好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。なお、前記組成物の水分含量は、栄養表示基準(平成15年4月24日厚生労働省告示第176号)別表第2の第3欄記載の減圧加熱乾燥法に準じて測定した値である。
【0012】
本発明の含気油脂食品における不活性ガスの含気量は、未含気の製品容量に対して10〜40容量%、好ましくは20〜40容量%である。ここで不活性ガスとは、窒素、アルゴンガス、炭酸ガス等の無味無臭の気体が挙げられる。含気量が前記範囲であることにより、ふんわりとした食感が得られる。
【0013】
また、本発明の含気油脂食品は、製品の固さが3.0×10〜1.5×10N/m、より好ましくは5.0×10〜1.0×10N/mであり、これにより気泡が抜け難く、ふんわりとした食感が保持された含気油脂食品とすることができる。ここで、上述の固さは、クリープメーター((株)山電社製、RE−3305)用いて、品温20℃で測定した値である。具体的には、製品を直径40mm×深さ15mmのステンレスシャーレにすり切りいっぱいまで入れ、これを測定テーブルに置き、直径20mm円柱プランジャーを使用し、テーブル移動速度10mm/secの条件で製品を10mm移動した際の固さを測定した値である。
【0014】
本発明の含気油脂食品は、HLB5以下のデカグリセリンベヘン酸エステルと卵殻カルシウムが配合され、前記デカグリセリンベヘン酸エステル1部に対し卵殻カルシウムが0.1〜10部、好ましくは0.5〜8部配合されていることを特徴とする。これにより、製造後時間が経過しても気泡が抜け難く、ふんわりとした食感が保持された含気油脂食品が得られる。これに対して、前記デカグリセリンベヘン酸エステル及び卵殻カルシウムの両者を配合しないと油脂食品中に気泡を長時間保ち難い。また、これらを配合していても、デカグリセリンベヘン酸エステルに対する卵殻カルシウムの配合割合が前記割合より少ないと油脂食品中に気泡を長期間保ち難く、一方、前記割合より多いと卵殻特有の風味が強く好ましくない場合がある。
【0015】
本発明に用いる前記デカグリセリンベヘン酸エステルとは、平均重合度が10であるポリグリセリンにベヘン酸をエステル結合させたものである。本発明においては、HLB(親水性親油性バランス)が5以下であるデカグリセリンベヘン酸エステルを用い、HLB4以下であるとより気泡を長時間保ちやすく好ましい。なお、HLBの下限は工業的生産性により1以上である。
【0016】
また、本発明に用いる前記卵殻カルシウムとは、鳥類一般の卵殻を割卵して卵黄と卵白を取り出し、洗浄、乾燥させて粉末状や顆粒状に加工したものであり、通常食品に用いられているものであればよい。卵殻はその主成分が炭酸カルシウムであり、2質量%程度のタンパク質を含む。油脂食品中の気泡を保つメカニズムは定かではないが、このタンパク質が気泡の保持に何らかの影響を与えているのではないかと推測される。
【0017】
本発明のHLBが5以下のデカグリセリンベヘン酸エステルの配合量は、製品に対して好ましくは0.01〜1質量%、より好ましくは0.05〜1質量%である。前記配合量より少ないと気泡を油脂食品中に長期間保てず、一方、前記配合量より多いと、気泡を油脂食品中に保つことができるものの、製品全体が固くなってしまい好ましくないためである。
【0018】
なお、本願発明の含気油脂食品には、種々の品質改良等を目的とし、本願発明の効果を損なわない範囲で、前記HLB5以下のデカグリセリンベヘン酸エステル以外の乳化剤を配合してもよいが、親水性の乳化剤を多く配合すると気泡を保持する本願発明の効果が得られ難くなる場合があることから、製品に配合する全ての乳化剤の平均HLBを1〜10とすることが好ましく、1〜8とすることがより好ましい。
【0019】
また、本発明の油脂食品に配合する油脂原料としては、一般的な油脂食品に配合する油脂原料であれば特に制限はなく、例えば、菜種油、コーン油、オリーブ油、サフラワー油、綿実油、大豆油、米油、トウモロコシ油、これらを精製したサラダ油等の植物油脂や、バター、ラード、牛脂、卵黄油等の動物油脂、あるいは、ピーナッツペースト、アーモンドペースト、ゴマペースト等の油糧種子のペースト状物等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を配合することができる。本発明においては、これら油脂原料の中でも、特に、上昇融点が30℃以上の前記植物油脂を製品に対して好ましくは10〜95質量%、より好ましくは20〜70質量%配合すると常温流通される際にも適度な保形性を有して気泡を保持する効果が得られやすい点から好ましい。上昇融点が30℃以上の植物油脂としては、具体的には、例えば、パーム油脂及びパーム油脂の高融点部分を集めた分画油脂、並びに、菜種油、コーン油、サフラワー油、綿実油、大豆油、ヒマワリ油等の植物油脂を水添して得られる硬化油脂等を挙げることができる。なお、本発明における前記上昇融点は、日本農林規格2467頁に記載された食用植物油脂の上昇融点の測定方法により測定した値である。
【0020】
なお、本発明の含気油脂食品には上述した乳化剤、卵殻カルシウム及び油脂原料の他に、例えば、異性化液糖、果糖、ブドウ糖、麦芽糖、水飴、蜂蜜、乳糖、シロップ、オリゴ糖、糖アルコール、デキストリン、サイクロデキストリン、スクラロース、ステビア、アスパルテーム等の甘味料あるいは糖類、食塩、乾燥卵黄、乾燥卵白、粉乳、ココア、チョコレート等の調味食材、パセリ、ほうれん草、ピーマン等の野菜類、バジル、オレガノ、ローズマリー等の香草類、無機鉄、ヘム鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛、銅、セレン、マンガン、コバルト、ヨウ素等のミネラル類、アスコルビン酸又はその塩、ビタミンE等の酸化防止剤、難消化性デキストリン、結晶セルロース、アップルファイバー等の食物繊維、フルーツフレーバー、バニラフレーバー等の香料、着色料等を本明の効果を損なわない範囲で適宜選択し配合することができる。
【0021】
次に、本発明の含気油脂食品の代表的な製造方法について説明する。まず、撹拌機付き二重釜に油脂原料、HLB5以下のデカグリセリンベヘン酸エステル及び卵殻カルシウム、並びに所望する製品の風味等に合わせて例えば、糖類、塩類、乾燥卵黄、乾燥卵白、粉乳等の原料を投入し、撹拌混合しながら80℃以上に昇温させる。次いで脱気し、水等の冷媒で冷却し加圧しながら窒素、アルゴンガス、炭酸ガス等の不活性ガスを含気させた後、例えば、樹脂性の可撓性チューブ等の容器に充填することにより製造することができる。
【0022】
以下、本発明について、実施例、比較例、並びに試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定するものではない。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
下記配合割合で含気油脂食品を製造した。つまり、撹拌機付き二重釜に下記配合割合に記載の原料を投入し加熱混合し、80℃に達温後、さらに10分間撹拌混合した。続いて脱気し、冷却水で30℃に冷却した後、加圧しながら窒素ガスを含気させ、PE/PETの多層材料からなる蓋付可撓性チューブに充填し製造した。なお、製造後の含気率は31.6容量%であり、デカグリセリンベヘン酸エステル1部に対し卵殻カルシウムが2部、得られた製品の水分含量は1質量%以下であった。
【0024】
<配合割合> (質量%)
パーム油(上昇融点45℃) 53.5%
ココア 25%
粉乳 20%
卵殻カルシウム 1%
デカグリセリンベヘン酸エステル 0.5%
(阪本薬品工業(株)製、「DDB−750」:HLB2.3)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
合計 100%
【0025】
[実施例2]
実施例1の含気油脂食品において、HLBが2.3のデカグリセリンベヘン酸エステルに変えて、HLBが4のデカグリセリンベヘン酸エステル(三菱化学フーズ(株)製、「B−70D」)を配合した以外は同様な方法で含気油脂食品を製造した。なお、製造後の含気率は28.8容量%であり、デカグリセリンベヘン酸エステル1部に対し卵殻カルシウムが2部、得られた製品の水分含量は1質量%以下であった。
【0026】
[比較例1]
実施例1の含気油脂食品において、デカグリセリンベヘン酸エステルを配合せず、その減少分はパーム油の配合量を増やし補正した以外は同様な方法で製造した。
【0027】
[比較例2]
実施例1の含気油脂食品において、HLBが2.3のデカグリセリンベヘン酸エステルに変えて、HLBが3.5のデカグリセリンオレイン酸エステル(阪本薬品工業(株)製、「DAO−7S」)を配合した以外は同様な方法で含気油脂食品を製造した。
【0028】
[試験例1]
本試験例では、乳化剤の配合有無、並びに配合する乳化剤の違いが、含気油脂食品のふんわりとした食感の保持に与える影響を調べるために試験を行った。つまり、実施例1及び2、並びに比較例1及び2の含気油脂食品を35℃で14日間保管した前後における含気率を測定した。更に、食感について下記方法で評価を行った。結果を表1に示す。
【0029】
<食感の評価方法>
実施例1及び2、並びに比較例1及び2の含気油脂食品についてそれぞれ製造直後のサンプルを対照品として用意し、各対照品と比較した保管後の食感について下記評価基準により評価した。
<食感の評価基準>
○:対照品と同様にふんわりとした食感である
×:対照品と比べてふんわりしておらずべたついた食感である
【0030】
【表1】

【0031】
表1より、HLBが5以下であるデカグリセリンベヘン酸エステルを配合した実施例1及び2の含気油脂食品は、乳化剤を配合しなかった比較例1の含気油脂食品、HLBが3.5のデカグリセリンオレイン酸エステルを配合した比較例2の含気油脂食品と比較し、保管中に気泡が抜け難く、ふんわりとした食感が保持されていることが理解される。なお、実施例1及び2並びに、比較例1及び2の保管前後の各含気油脂食品の固さはいずれも3.0×10〜1.5×10N/mの範囲内であった。
【0032】
[実施例3]
下記配合割合とした以外は実施例1と同様に含気油脂食品を製造した。なお、製造後の含気率は33容量%であり、デカグリセリンベヘン酸エステル1部に対し卵殻カルシウムが2部、得られた製品の水分含量は1質量%以下であった。
【0033】
<配合割合> (質量%)
パーム油(上昇融点45℃) 36%
粉乳 12%
ピーナツペースト 50%
卵殻カルシウム 1%
デカグリセリンベヘン酸エステル 0.5%
(阪本薬品工業(株)製、「DDB−750」:HLB2.3)
ショ糖脂肪酸エステル 0.5%
(三菱化学フーズ(株)製、「P−170」:HLB1)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
合計 100%
【0034】
[実施例4]
下記配合割合とした以外は実施例1と同様に含気油脂食品を製造した。なお、製造後の含気率は33容量%であり、デカグリセリンベヘン酸エステル1部に対し卵殻カルシウムが5部、得られた製品の水分含量は1質量%以下であった。
【0035】
<配合割合> (質量%)
パーム油(上昇融点45℃) 36.6%
粉乳 12%
ピーナツペースト 50%
卵殻カルシウム 1%
デカグリセリンベヘン酸エステル 0.2%
(阪本薬品工業(株)製、「DDB−750」:HLB2.3)
ショ糖脂肪酸エステル 0.2%
(三菱化学フーズ(株)製、「P−170」:HLB1)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
合計 100%
【0036】
[比較例3]
実施例4の含気油脂食品において、卵殻カルシウムの配合量を5%とし、その増加分はパーム油の配合量を減らして補正した以外は同様な方法で製造した。なお、デカグリセリンベヘン酸エステル1部に対し卵殻カルシウムが25部であった。
【0037】
[比較例4]
実施例4の含気油脂食品において、卵殻カルシウムの配合量を0.01%とし、その減少分はパーム油の配合量を増やして補正した以外は同様な方法で製造した。なお、デカグリセリンベヘン酸エステル1部に対し卵殻カルシウムが0.05部であった。
【0038】
[試験例2]
本試験例では、乳化剤に対する卵殻カルシウムの配合量の違いが、含気油脂食品のふんわりとした食感の保持に与える影響を調べるために試験を行った。つまり、実施例3及び4、並びに比較例3及び4の含気油脂食品を35℃で14日間保管した後の食感について試験例1と同様に評価を行った。また、保存後の風味についても評価を行った。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2より、デカグリセリンベヘン酸エステル1部に対し卵殻カルシウムが0.1〜10部である実施例3及び4の含気油脂食品は、保管後もふんわりとした食感が保持され風味も良好であることが理解される。なお、実施例3及び4並びに比較例3及び4の保管前後の各含気油脂食品の固さはいずれも3.0×10〜1.5×10N/mの範囲内であった。
【0041】
[試験例3]
本試験例では、乳化剤の配合量の違いが、含気油脂食品のふんわりとした食感の保持に与える影響を調べるために試験を行った。つまり、実施例1の含気油脂食品において、デカグリセリンベヘン酸エステルの配合量を0.01質量%、0.05質量%、0.5質量%、1質量%とし、その減少分又は増加分は、パーム油の配合量を増やす又は減らして補正した以外は同様な方法で4種類の含気油脂食品を製造し、35℃で14日間保管した。得られた含気油脂食品の保管後の食感について、それぞれ製造直後のサンプルを対照品として用意し、各対照品と比較した保管後の食感について評価した。結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
表3より、デカグリセリンベヘン酸エステルの配合量が0.01〜1質量%である含気油脂食品は、保管後もふんわりとした食感が保持されていることが理解される。特に0.05〜1質量%であるとより保持効果が高く好ましい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品の固さが3.0×10〜1.5×10N/mであり、未含気の製品容量に対し10〜40容量%の不活性ガスが含気された含気油脂食品において、HLB5以下のデカグリセリンベヘン酸エステルと卵殻カルシウムが配合され、前記デカグリセリンベヘン酸エステル1部に対し卵殻カルシウムが0.1〜10部配合されていることを特徴とする含気油脂食品。


【公開番号】特開2011−78337(P2011−78337A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231705(P2009−231705)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】