説明

含油ゲル状組成物及び水中油型乳化組成物

【課題】 天然物由来の界面活性能成分を用いて、特に植物油などの極性油を微粒状に乳化し、安全性が高く、機能性に優れ、使用感の良好な乳化組成物を提供することである。
【解決手段】 カゼイン塩類0.1〜8重量%、グルタミン酸ポリペプチドおよびフルクタンから選ばれる一種以上の粘性物質0.01〜10重量%、水分0.1〜20重量%、水溶性ポリヒドロキシ化合物1〜40重量%(無水物換算)および油脂1〜80重量%を混合して含油ゲル状組成物を調製し、次いでこのゲル状組成物に水を添加し、混合乳化してエマルジョン粒子径5μm以下程度の水中油型乳化組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、食品、機能性食品、化粧品、医薬品等に利用可能な含油ゲル状組成物及び水中油型乳化組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、化粧品分野では水中油型のクリーム、乳液、油分を含むゲルなどを調製する場合の乳化剤として、トリエタノールアミン・ステアリン酸系、苛性アルカリ・ステアリン酸系、硼砂・蜜ロウ系、ポリオキシエチレン系活性剤から適宜に2種又は3種以上選択して組み合わせた組成物が用いられている。
【0003】しかし、このような乳化剤のうち、トリエタノールアミン・ステアリン酸系の乳化剤は、体質によってアレルギー性が認められることがある。また、苛性アルカリ・ステアリン酸系の乳化剤は、pH調整が難しいなどの使用上の問題や、高温時の乳化性が悪いなどの欠点を有する。また、硼砂・蜜ロウ系では硼砂の使用量が多いとアレルギー反応を生ずる恐れがある。また、ポリオキシエチレン系活性剤は刺激性等の問題がある。また、ショ糖脂肪酸エステル系は、ポリオキシエチレン系活性剤にみられるフェノール系物質や、抗生物質の力価低下作用が少ない反面、乳化力が弱く、単独では安定したエマルジョンを得る事が困難とされている。
【0004】一方、食品分野では、一般に極性の高い油、例えばオリーブ油、サフラワー油、ゴマ油等の植物油等を乳化することは困難な場合が多い。例えば、J. ColloidInterface Sci., 119, 550 (1987)のN. Pilpel らの報告によると、炭化水素やモノエステル油の乳化に比べて難しく、高速回転型ホモジナイザーのような高剪断力メカニカルスターラーを使って、高性能の非イオン界面活性剤を用いて乳化しても植物油を用いた水中油型エマルジョンの粒子径は2〜4μm程度にしかならないとしている。
【0005】また、高粘度の植物油を天然物由来物質を用いて微細エマルジョンにしたい場合、高剪断力メカニカルスターラーを用いても困難であった。さらに、分散質(油)の多い高内相比エマルジョンを調製することは、高剪断力メカニカルスターラーを使っても不可能である等の問題があった。まして、これら極性の高い油を、天然物由来の界面活性能成分で乳化することは不可能であった。
【0006】また、医薬品分野では、外用剤やリピッドマイクルスフェアー等で極性の高い油を用いた乳化物が使用されているが、これは非イオン界面活性剤を用いたものであり、人体に対する安全性の問題から、天然物由来の界面活性能成分を用いた乳化組成物の開発が要望されてきた。最近では、安全性や環境問題の観点から合成界面活性剤が問題視され、各分野の天然指向が重要視され、これらの技術の開発が望まれていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】このように、食品、機能性食品、化粧品、医薬部外品、医薬品等化粧品などのいずれの分野においても天然物由来の界面活性能成分を用いて、安全性が高く、機能性に優れ、使用感の良好な含油性のゲルや乳化組成物を提供する方法がないという問題点があった。
【0008】また植物油などの極性油を上記問題点を解決して乳化することについては、困難性があり、特にこれをエマルジョン粒子径が5μm以下の微粒子に均一分散させることはきわめて困難であった。
【0009】そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、天然物由来の界面活性能成分を用いて、安全性が高く、機能性に優れ、使用感の良好な含油性のゲル、または乳化組成物を提供することであり、特に植物油などの極性油を微粒状に乳化し、好ましくはエマルジョン粒子径が5μm以下の微粒子に均一分散させることである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本願の発明者らは、上記の事情を考慮して種々検討し研究を行った結果、カゼイン塩類、グルタミン酸ポリペプチドおよびフルクタンから選ばれる粘性物質、およびポリヒドロキシ化合物をそれぞれ特定量含有する水溶液からなる界面活性能成分を見出し、この発明を完成した。
【0011】すなわち、前記の課題を解決するために、この発明においては、カゼイン塩類0.1〜8重量%、グルタミン酸ポリペプチドおよびフルクタンから選ばれる一種以上の粘性物質0.01〜10重量%、水分0.1〜20重量%、水溶性ポリヒドロキシ化合物1〜40重量%(無水物換算)および油脂1〜80重量%を混合して含油ゲル状組成物を調製したのである。
【0012】または、上記含油ゲル状組成物を調製すると共に、これに水を添加し混合乳化した水中油型乳化組成物とし、また、エマルジョン粒子径5μm以下の水中油型乳化組成物としたのである。
【0013】一旦このような含油ゲル状組成物を経由した後、水を添加し混合乳化してエマルジョンを形成すると、乳化が極めて円滑にかつ均一に行われ、微細で均一な粒径のエマルジョン粒子径の水中油型乳化組成物が形成される。
【0014】これらの乳化機構は明らかではないが、グルタミン酸のポリペプチドとフルクトースの重合したフルクタンがカゼイン塩類の界面活性能を高め、安定なゾル又は弱いゲルを形成し、一種の界面錯化合物が生じるため、安定な乳化物や含油ゲルが得られると考えられる。
【0015】
【発明の実施の形態】この発明に使用するカゼイン塩類は、例えばカゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインカルシウムなどのカゼイン無機塩、カゼインモノエタノールアミン、カゼイントリエタノールアミンなどのカゼイン有機アミン塩、カゼインアルギニン、カゼインリジンなどのカゼイン塩基性アミノ酸塩からなる群より選ばれた1種または2種以上の混合物を採用することが好ましい。また、上記カゼイン塩類の組成物中の配合量は、0.1〜8重量%、好ましくは0.5〜5重量%である。0.1重量%未満では乳化が悪く、使用感のよいものが得られ難く、多過ぎるとエマルジョンの稠度が低下して乳化安定性が悪くなるからである。
【0016】この発明に用いられるグルタミン酸ポリペプチドおよびフルクタンから選ばれる一種以上の粘性物質は、グルタミン酸のポリペプチドもしくはフルクトースの重合したフルクタンまたは両者を含む粘性物質であり、両者混合物の具体例としては、納豆菌が産生する納豆ムチンと呼ばれる粘性物質を挙げられる。
【0017】この発明に使用できる前記の納豆ムチンは、特開平7−177878号公報に記載されているように、シュクロースを炭素源、大豆ペプトン又は大豆粉砕物を窒素源として納豆菌を培養することにより得られたものが好ましい。フルクタン(フルクトサン、またはフラクタンとも呼ばれる。)は、フルクトースが直線状に結合して一端がグルコースになっている多糖類の総称であり、主に植物に存在する多糖をいうが、この発明では特定して使用したものではなく、また1種または2種以上を適宜選択して混合使用しても支障がない。
【0018】上記したグルタミン酸ポリペプチドおよびフルクタンから選ばれる一種以上の粘性物質は、0.01〜10重量%配合することが好ましい。なぜなら、0.01重量%未満では相乗的界面活性能作用が弱く十分に効果が発揮できず、10重量%を越えると溶解が困難であるとともに、その粘性のため使用感が悪化して好ましくないからである。このような傾向からみて、粘性物質の特に好ましい配合割合は0.05〜2重量%である。
【0019】この発明に用いられる水溶性のポリヒドロキシ化合物としては、例えばグリセリン、ジグリセリン、それ以上のポリグリセリン類、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、キシリトール等の単糖類、ニ糖類、三糖類、澱粉の加水分解によって得られる各種転化糖、水アメ、デキストリン、異性化糖、シラップ、ジャム類、ハチミツ、グリセリンや糖アルコール、糖のエチレンオキシド(EO)またはプロピレンオキシド(PO)付加物、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、それ以上のポリプロピレングリコール類等からなる群より選ばれた1種または2種以上の混合物である。上記のポリヒドロキシ化合物は一例であって、実質的に水溶性のポリヒドロキシ化合物であれば例示以外の他のものでも用いることができる。
【0020】ポリヒドロキシ化合物の配合量は、組成物の総重量を基準にして無水物換算で1〜40重量%、好ましくは2〜30重量%である。
【0021】また、ポリヒドロキシ化合物中に含有されている水の量は、組成物の総重量を基準にして0.1〜20重量%である。この水は乳化作用に重要な役目を果たし、次の段階で配合される油性成分を可溶化または良好な乳化をするのに必要十分条件となるものであり、この水の量が所定範囲より少なくても、多過ぎても良くない結果となる。
【0022】この発明に用いる油脂は、常温で液状の油であって、例えばオリーブ油、大豆油、サフラワー油、ゴマ油、アーモンド油、アボガド油、椿油等の植物油、ミンク油、タートル油等の動物油、ビタミンE、ビタミンEアセテート、ビタミンA油、ビタミンAパルミテート、ビタミンCステアレート、ビタミンD等のビタミン類、極性の高い炭化水素としてスクワレン、その他従来使用されている流動パラフィン、スクワラン等の液状炭化水素、オクチルドデシルミリステート、イソプロピルパルミテート、ブチルステアレート、セチルイソオクタノエート等のエステル油を挙げることができる。上記ものは一例であって、これらに限定されるものではない。また、上記油性成分の配合量は組成物中、0.5〜80重量%である。
【0023】この発明の含油ゲル状組成物(界面活性剤中油型ゲル状乳化組成物とも呼ばれる。)は、これに水相成分を加えて乳化することによって、微細粒子の乳化組成物を製造する中間製品となるばかりでなく、そのまま使用できる最終製品ともなるものである。
【0024】このような乳化用ゲル状組成物に、水を添加し通常の方法で混合乳化すると、エマルジョン粒子径が5μm以下となり、より好ましくはエマルジョン粒子径2.5μm以下の水中油型乳化組成物を製造できる。
【0025】上記のように効率のよい乳化は、ゾルまたは弱いゲル条件下で行われるため、エマルジョン粒子サイズが均一に一定化し、極めてツヤがあり、使用感の良い、しかも安全性、安定性に優れた水中油型のエマルジョンが調製できる。
【0026】このように、この発明ではカゼイン塩類0.1〜8重量%、グルタミン酸ポリペプチドおよびフルクタンから選ばれる一種以上の粘性物質0.01〜10重量%、水分0.1〜20重量%、水溶性ポリヒドロキシ化合物1〜40重量%(無水物換算)および油脂1〜80重量%を混合して含油ゲル状組成物を調製し、次いでこの含油ゲル状組成物に水を添加して混合乳化する水中油型乳化組成物の製造方法を採用できる。
【0027】この製造方法によれば、安定性の良い水中油型乳化組成物を製造でき、しかも、天然物由来の界面活性能成分を用いて安全性が高く、エマルジョン微粒子が細かく均一に分散していて機能性に優れ、化粧品や食品等として使用感の良好な乳化組成物を提供できる。
【0028】
【実施例】以下に、この発明の実施例を示すが、これは従来非イオン界面活性剤を使用しても乳化することが困難であった極性の高い油を特に用いた実施例である。なお、実施例中の〔%〕とあるものはいずれも重量%を示す。
【0029】なお、配合成分のうちの納豆ムチンは、炭素源の糖質としてシュクロースを用い、窒素源として大豆ペプトンを用い、殺菌培地に納豆菌(バシルス ナットウ)を接種して、30〜40℃で静置培養を行なったものから、分離した粘性物質である。
【0030】〔実施例1〜3〕表1に示した配合成分の(1)から(6)を室温にて撹袢および混合し、界面活性能成分を調製した後、表1中(7)〜(9)を混合した油性成分を撹袢混合して含油ゲル状組成物を調製した。また、さらに、これら含油ゲル状組成物を表1中(10)に加え、水中油型乳化組成物を調製した。得られたゲル状組成物および乳化組成物の配合割合(重量%)と性質を表1に示した。
【0031】前記性質についての評価は、以下の通りである。
《ゲルの形成》透明なゲルが形成されたものを○印、不透明なゲルが形成されたものを△印、ゲルが形成されなかったものを×印の3段階評価とした。
《ゲルの安定性》室温(室内)に1週間放置した後に、ゲル状態が安定しているものを○印、同条件で分離したものを×印の2評価とした。
《エマルジョン粒子径》エマルジョン粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置で測定した。
《水中油型乳化組成物の安定性》室温(室内)に1週間放置した後に、乳化状態が安定しているものを○印、同条件で分離したものを×印の2評価とした。
【0032】
【表1】


【0033】〔比較例1〜5〕カゼインナトリウム、グルタミン酸のポリペプチドとフルクトースの重合したフルクタンまたはポリヒドロキシ化合物を含まないということ以外は、実施例1〜3と全く同様の処理によって含油ゲル状組成物の調製を試みた。その配合割合(重量%)を表2に示すと共に、得られた組成物の性質を実施例と同じように調べて結果を表2中に併記した。比較例1〜5については、良好な含油ゲル状組成物が得られなかったので、組成物の性質については検討できなかった。
【0034】
【表2】


【0035】〔実施例4:ゲル状機能性健康食品〕
原料と組成(1)マルチトール 21.8 %(2)水 12.00(3)納豆ムチン 0.20(4)カゼインアルギニン 0.50(5)カゼインナトリウム 1.50(6)スクワレン 20.00(7)オリーブ油 41.00(8)ビタミンA 1.00(9)ビタミンD 1.00(10)ビタミンE 1.00調製方法:(1)から(5)を室温にて撹袢、混合し、界面活性能成分水溶液を調製した後、(6)〜(10)を混合した油性成分を撹袢混合して機能性健康食品を得た。上記の機能性健康食品は、透明なゲル状であり、従来にないなめらかな舌ざわりで、口の中ですっと速やかに溶ける美味なものであった。
【0036】〔実施例5:機能性コーヒーホワイトナー〕
原料と組成(1)実施例4の組成物 20.00%(2)キサンタンガム 0.30(3)水 79.70調製方法:(2)、(3)の溶液に(1)を加え、ホモミキサーで均一に分散し、水中油型機能性コーヒーホワイトナーを得た。上記の機能性コーヒーホワイトナーは、エマルジョン粒子径が0.5μm以下であり、また、従来のコーヒーホワイトナーとちがい、日常これを用いることで、健康の維持・増進をはかることができるものであった。
【0037】〔実施例6:医薬外用剤のゲル状基材〕
原料と組成(1)グリセリン 25.30%(2)水 2.50(3)納豆ムチン 0.20(4)カゼインナトリウム 1.00(5)オリーブ油 70.00(6)ビタミンE 1.00調製方法:(1)から(4)を室温にて撹袢、混合し、界面活性能成分水溶液を調製した後、(5)、(6)を混合した油性成分を撹袢混合してゲル状基材を得た。上記のゲル状基材は、オリーブ油の含量を(70.00%)高く調製でき、有効成分を溶解するのに適したものであり、しかも、皮膚への安全性および浸透性も非常に優れているものであった。
【0038】〔実施例7:化粧品(クリーム)〕
原料と組成(1)グリセリン 8.00%(2)水 2.20(3)納豆ムチン 0.10(4)カゼインナトリウム 0.30(5)カゼインカリウム 0.20(6)オリーブ油 14.00(7)カルボキシビニルポリマー 0.40(8)水 73.80(9) L−アルギニン 1.00調製方法:(1)から(5)を室温にて撹袢、混合し、界面活性能成分水溶液を調製した後、(6)を混合した油性成分を撹袢混合して含油ゲル状組成物を調製した。さらに、これら含油ゲル状組成物を(7)、(8)を混合した水相成分に加え、(9)を加えることによりクリームを得た。上記のクリームの感触は従来品に見られないしっとりとした全く新しい感触のものであり、また、エマルジョン粒子径が1.0μm以下であり、乳化組成物の効果を肌によって感じ取ることができるものであった。
【0039】
【発明の効果】以上のことから明らかなように、この発明の含油ゲル状組成物は、カゼイン塩類、所定の粘性物質、水分、水溶性ポリヒドロキシ化合物および油脂を所定量混合して調製したので、天然物由来の界面活性能成分を用いて、安全性が高く、機能性に優れ、使用感の良好な汎用性のある含油性ゲルとなる利点がある。
【0040】また、含油ゲル状組成物に水を添加し混合乳化した水中油型乳化組成物の発明では、天然物由来の界面活性能成分を用いて、安全性が高く、機能性に優れ、使用感の良好な微細なエマルジョン粒子径の粒子からなる乳化組成物を提供できるという利点がある。
【0041】特に、この発明の乳化組成物は、植物油などの極性油を乳化することを可能とし、極性油についてもエマルジョン粒子径が5μm以下の微粒子に均一分散でき、機能性や使用感を高めるという利点もある。
【0042】このように、天然物由来の界面活性能成分を利用することにより、従来は機械的乳化によっても困難であったオリーブ油等の極性の高い油を乳化することが可能となり、しかも乳化組成物の調製が室温でも可能になるから、ビタミン類等の熱安定性の悪い有効成分を安定的に配合でき、新たな機能性乳化組成物の分野が開拓され、更に製造上のエネルギーの省力化にも貢献できるようになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 カゼイン塩類0.1〜8重量%、グルタミン酸ポリペプチドおよびフルクタンから選ばれる一種以上の粘性物質0.01〜10重量%、水分0.1〜20重量%、水溶性ポリヒドロキシ化合物1〜40重量%(無水物換算)および油脂1〜80重量%を混合してなる含油ゲル状組成物。
【請求項2】 請求項1記載の含油ゲル状組成物に水を添加し混合乳化してなる水中油型乳化組成物。
【請求項3】 請求項1記載の含油ゲル状組成物に水を添加し混合乳化してなるエマルジョン粒子径5μm以下の水中油型乳化組成物。