説明

吸入器用バルブ

非エラストマー系材料からなる収集リング(70)を有する吸入器用バルブ(30)は、バルブ(30)を容器(20)にかしめる場合に、前記リングの外周についての過度の圧縮を吸収するため、収集リング(70)の少なくとも1つの環状部(110、140、160、180)が半径方向に変形可能であるように形成されている。また、そのような吸入器用バルブを備えた吸入器用容器(10)が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸入装置の技術に関し、詳しくは吸入器用缶のバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
多数の種類の薬剤が、推進剤中の薬剤の溶液または懸濁液または乳濁液などといった流体の形式で提供されており、患者による経口吸入に合わせて構成されている。一例として、プロピオン酸フルチカゾンなどといった喘息薬を、容器に収容することができる。典型的な製造工程中に、容器は、該容器の首状部(ネック:neck)に計量バルブをかしめること(climpimg)により密閉される。次いで容器は、バルブを通じて推進剤をベースにした薬剤製品で満たされる。
【0003】
薬剤を患者へと届けるため、容器が、定量吸入器(MDI)システムとして広く知られているシステムとして、アクチュエータと協働することができる。このアクチュエータは、容器導入用の開放端と開いたマウスピースとを有するハウジングを備えている。ノズル部材がハウジング内に配置され、ノズル・オリフィスと連通するバルブ軸を備えている。オリフィスは、マウスピースへと向けられている。容器から適切に計測された量の薬品を受け取るため、患者が、容器を容器導入端からアクチュエータへと、バルブ軸がノズル部材の収容穴へと嵌まり込むまで取り付ける。このように取り付けられた容器において、容器の他端は、典型的には或る程度までアクチュエータのハウジングの外部に延在している。次いで患者は、マウスピースを自身の口内に配置し、露出されている容器の端部を下方へと押す。この操作によって、容器がバルブ軸に対して下方へと移動し、結果としてバルブを作動させる。バルブの設計、ノズル部材の設計、および容器の内部と周囲の空気との間の圧力差ゆえ、正確に計測された霧状の調剤の短い噴出が患者へと届けられる。
【0004】
図1は、吸入器容器10の一実施形態の断面図を示している。吸入器10は、缶20とバルブアセンブリ30とから構成されている。推進剤の比較的高い圧力のため、バルブアセンブリは、缶20にしっかりと取り付けられる必要がある。図2は、互いに取り付けられる前の缶20とバルブアセンブリ30とを示している。バルブアセンブリは、基本的にバルブ本体90とバルブ軸100とを有するバルブ機構40、ガスケット50、フェルール60および支持リング70から構成されている。さらに、バルブ本体90には開口部130が存在し、該開口部を通じて薬剤がバルブに進入する。図1および以下の全ての図面において、吸入器容器10は、動作位置、すなわちバルブが下方に向けられた状態で示されている。図1に示すように、バルブアセンブリ30は、折り目(crimp)80により容器20に取り付けられている、すなわちフェルール60の上部が、容器20の下部をしっかりとつかむようにかしめ装置でかしめられている。さらに、吸入器缶10は、折り目80によりガスケット50に対して押し付けられる容器20の上端によって密閉されている。
【0005】
収集リング(gathering ring)70は、製品の目減り量を減らし、規定の投与耐用年数を付与するように設計されている。これは、内径に向かって傾斜した領域を有する収集リング70を形成することにより達成され、収集リングは、容器内の薬剤製品を集めてバブル本体100の開口部130近くに導く。収集リング70は、その内径(ID)とバルブ軸100を収容するバルブ本体90の外径との間の寸法干渉嵌め合いにより所定の位置に保持される。バルブが加圧定量吸入器(pMDI)缶にかしめられる場合、リングの外径と缶の内径との間の隙間は狭い(図1)。さらに、収集リング70は、容器内の内容物に対して薬理学的に不活性で推進剤耐性のある高分子から作られ、同じ程度まで化学的に不活性にないガスケット50と接触する内容物を減少させる。このような薬理学的に不活性で推進剤耐性のある高分子の例は、アセタール、ポリアミド(例えばナイロン(登録商標))、ポリカーボネート、ポリエステル、過フッ化炭化水素高分子(例えばテフロン(登録商標))、ポリエチレン、ポリブチレンテレフタレート(PBT)または同種のものである。このタイプの1つの収集リングが、米国特許第4349135号に開示されている。
【0006】
国際公開第94/29192号は、エラストマー系材料からなる1つの一体的な部品としてガスケットと一体化されている収集リングを開示している。しかしながら、前記の非エラストマー系高分子に比べて、そのエラストマーからの抽出物が薬剤製品を汚染する可能性が増大する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バルブ10が容器20に対し缶にかしめられる際には、収集リング70が圧縮され、収集リングの内径(ID)の減少やバルブ30の本体90との干渉増大を引き起こす潜在的な危険性がある(図1)。収集リングの内径の減少が十分に大きい場合、例えば、図1に示す場合のように、バルブ30が、特に80にきつくかしめられる場合、バルブの性能は、バルブ本体90内のバルブ軸100の動作を制限するために悪影響を及ぼされる。
【0008】
このことは、作動力の増大、作動重量変動の増大または極端に完全なバルブ30の目詰り(jamming)を引き起こし得る。収集リングの内径が減少する可能性およびバルブ軸の動作とのその後の干渉がまた、バルブ30のポリマー成分を軟化させ、残留かしめ力の下でより大きい運動を可能にし得る、例えばリーク負荷試験中など高温にさらされることによって増大される。
【0009】
バルブ30が不具合を有する可能性を検出するために、多数の折り目80の測定方法が開発されているが、このような測定は吸入器容器10の製造において余分な処置を必要とするのでさらなる費用を伴う。加えて、前記測定は、重要なパラメータ(内径)の間接的な測定であり、バルブの目詰りが発生する可能性があるかどうかという予測因子として全く信用できないものである。
【0010】
本発明の目的は、新規な吸入器用バルブであって、従来技術の欠点の1つ以上を克服する吸入器用バルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これは、請求項1に定められるとおりの吸入器用バルブによって達成される。
【0012】
このような吸入器用バルブの利点の1つは、収集リングとバルブ本体の過度の圧縮を防止し、かしめや熱にさらされることに対して丈夫であるバルブを提供するという点にある。
【0013】
他の利点は、吸入器用バルブが性能に影響を与えることなく缶にしっかりとかしめられることにより、かしめ工程および構成部品の寸法および物理的性質の範囲内での変動に適合するという点にある。
【0014】
他の利点は、過度にかしめることによってバルブ機構が不具合を有する危険性がなく、折り目径の測定を省くことができるという点にある。
【0015】
また他の利点は、きっちりした折り目が、含まれる製品のエラストマー製密閉ガスケットとの接触を防止するという点にある。
【0016】
本発明の実施の形態は、従属請求項に定められている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下で、図面を参照しつつ本発明を詳しく説明する。
【0018】
バルブが容器20にかしめられる場合に、収集リング70の半径方向の圧縮に関係する前記の問題を回避するため、本発明は、不活性の非エラストマー系高分子材料からなる新規な収集リング70であって、半径方向に変形可能であるように形成される少なくとも1つの環状部を有する収集リング70を提供する。本発明との関係において、変形可能な環状部という用語は、収集リング70の主要部170を変形するのに必要な力より小さい力によって変形される収集リングの一部分をいうものとする。この変形可能な環状部は、好ましくは収集リングの内周および/または外周に位置している。このような変形可能な環状部を設けることにより、かしめに関連する圧縮力が、前記変形可能な環状部の変形によって吸収される。この変形可能な環状部の変形は、弾性および/または塑性のどちらであってもよい。
【0019】
図3は、本発明の一実施形態を示しており、変形可能な環状部110が、収集リング70の内周に設けられている。この実施形態では、変形可能な環状部110は、薄肉の円錐台状に形作られた傾斜フランジ120であり、この傾斜フランジは、バルブ本体90に過度の力を適用することなく、かしめ力を受けて変形する可撓性を有する部材(flexible member)として機能する。フランジ120は、所望の変形能を示すならば、あらゆる好適な方法で形成することができるが、好ましくは缶内の内容物をバルブの吸込開口部130に導くように形成される。この実施形態では、収集リング70の主要部170は、きっちりした折り目による圧縮力によって変形されるが、フランジ120の変形能のおかげで、その圧縮力はバルブ本体90に伝達されない。
【0020】
図4は、きっちりした折り目を用いて缶にかしめられた図3に記載のバルブを示している。フランジ120は、変形された状態で示されている。フランジ120の形状は、収集リング70がバルブ本体90に加える圧力量を決定する。その結果として生じる圧力を調整する1つの方法がフランジ120の厚さを制御することであり、フランジ120が薄くなると、与える圧力が低くなる(以下の確認実施例参照)。
【0021】
さらに、収集リング70は、折り目80により収集リング70に加えられる圧縮力の大きさに関係なく、バルブ本体90に本質的に一定圧力を付与するように設計されてもよい。一般に、これは、変形可能な環状部が内側の堅い部分と外側の堅い部分170との間の中間位置に位置付けられる収集リング70により達成することができる。図5は、そのような設計の一実施例を示しており、可撓性を有するフランジ部150に加え、堅い内側部分140を有している。この実施形態では、可撓性を有するフランジ部150が変形を吸収し、内側部分150は折り目80の圧縮により本質的に影響を受けない状態のままである。
【0022】
図6および7は、本発明の別の実施形態を示しており、変形可能な環状部160が収集リングの外周に位置している。この実施形態では、その材料特性は、変形可能な環状部160が収集リング70の主要部170に比べてより容易に変形されるように、変形可能な環状部160のために部分的に変えられている。この変えられた材料特性は、リングの外縁を、成形プロセスにおいてその場で形成される若しくは成形後にそれに添加される発泡ポリマーとして設けること、または、リングの外縁をエラストマー材料として設けること、または、収集リングの外周近くに内部空洞を設け、薄い可撓性を有する外周壁を残すことなど、多数の方法で実現することができる。図7に示すように、かしめられた首状部の圧縮によって、変形可能な環状部160の局部的な圧縮が引き起こされるが、その圧縮力は、主要部170に伝達されないため、収集リング70の内縁に伝えられない。
【0023】
図8は、本発明のまた別の実施形態を示しており、変形可能な環状部180が収集リング70の外周に位置している。この実施形態では、収集リングの外周面の構造が半径方向により容易に変形されるように部分的に変えられている。開示される実施形態では、多数の円周溝が収集リングの外周に形成されている。この円周溝はまた、多数の円周方向に変形する隆起部180を規定し、この隆起部180に適切な幅を与えることにより変形可能な環状部180の変形能を制御することができる。バルブが缶にかしめられる際には、これらの隆起部180は、主要部170を通じて水平力が収集リング70の内径に伝達されないように優先的に変形される。
【0024】
過度のかしめに適応するために少なくとも1つの変形可能な環状部110、140、160、180を用いる提案方法は、現在の許容設計を、その性能がかしめ中およびそれに続いて熱にさらされる間に過度の圧縮によって影響されない、著しくより強固なパラメータ設計に変える。
【0025】
確認実験:
図9および10は、図3および4に開示されるタイプの収集リング70を用いた試験結果を示している。異なる厚さのフランジ120を有する多数の収集リング70がバルブ本体に取り付けられて缶にしっかりとかしめられ、得られる内径(ID)とバルブに対する作動力とが記録された。その結果が図9および10にそれぞれ示されている。この結果から、リングの内径が圧縮される可能性が低減されること、および0.5mmより小さいフランジ厚さに対して作動力が増大しないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】吸入装置に含まれる加圧推進剤に薬剤用物質を含む吸入器用缶の概略断面図を示している。
【図2】組み立てられていない状態にある図1の吸入器用容器を示している。
【図3】本発明の一実施形態に係るバルブを備え、組み立てられていない状態にある吸入器用缶の概略断面図を示している。
【図4】組み立てられた状態にある図3の吸入器用缶を示している。
【図5】本発明の一実施形態に係るバルブを備え、組み立てられていない状態にある吸入器用缶の概略断面図を示している。
【図6】組み立てられた状態にある図5の吸入器用缶を示している。
【図7】本発明の一実施形態に係るバルブを備え、組み立てられていない状態にある吸入器用缶の概略断面図を示している。
【図8】本発明のまた別の実施形態を示している。
【図9】図3および4に開示されるタイプの収集リング70を用いた試験結果を示している。
【図10】図3および4に開示されるタイプの収集リング70を用いた試験結果を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性の非エラストマー系高分子材料からなる収集リング(70)を有する吸入器用バルブ(30)であって、
前記収集リング(70)の少なくとも1つの環状部(110、140、160、180)が半径方向に変形可能であるように形成されていることを特徴とする吸入器用バルブ(30)。
【請求項2】
前記変形可能な環状部(110)が、前記収集リング(70)の内周に位置していることを特徴とする請求項1に記載の吸入器用バルブ(30)。
【請求項3】
前記変形可能な環状部(160、180)が、前記収集リング(70)の外周に位置していることを特徴とする請求項1に記載の吸入器用バルブ(30)。
【請求項4】
前記変形可能な環状部(140)が、内側の堅い部分(150)と外側の堅い部分(170)との中間位置に位置していることを特徴とする請求項1に記載の吸入器用バルブ(30)。
【請求項5】
前記変形可能な環状部(110)が、傾斜フランジ(120)であることを特徴とする請求項2に記載の吸入器用バルブ(30)。
【請求項6】
前記変形可能な環状部が、前記収集リング(70)の外周にある多数の円周溝(180)により形成されていることを特徴とする請求項3に記載の吸入器用バルブ(30)。
【請求項7】
前記変形可能な環状部が、前記収集リング(70)の外周にある発泡部分(160)により形成されていることを特徴とする請求項3に記載の吸入器用バルブ(30)。
【請求項8】
前記中間の変形可能な環状部が、前記収集リングの半径方向に薄肉の部分(140)により形成されていることを特徴とする請求項4に記載の吸入器用バルブ(30)。
【請求項9】
前記収集リングが、アセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、過フッ化炭化水素高分子、ポリブチルテレフタレートおよびポリエチレンからなるグループ内の1つの材料、あるいは前記グループ内の材料の組み合わせから作られることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の吸入器用バルブ(30)。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の吸入器用バルブ(30)を備えていることを特徴とする吸入器容器(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−515731(P2008−515731A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535642(P2007−535642)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【国際出願番号】PCT/SE2005/001474
【国際公開番号】WO2006/038874
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(391008951)アストラゼネカ・アクチエボラーグ (625)
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
【Fターム(参考)】