説明

吸収剤

5〜50重量%の粒状の硫化された銅化合物、30〜90重量%の粒状担体物質、および残部の1種以上の結合剤を含み、ここで硫化銅以外の金属硫化物の含量が5重量%以下である、流体流れから水銀、ヒ素、またはアンチモンを除去するのに適した吸収剤組成物が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸収剤に関し、さらに詳細には、流体流れから水銀および/またはヒ素ならびにアンチモンを捕捉するのに適した金属硫化物吸収剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水銀は、炭化水素流れもしくは他のガス流れおよび液体流れ等の流体流れ中に少量見いだされる。ヒ素とアンチモンも、炭化水素流れ中に少量見いだされる。水銀は、毒性であることのほかに、アルミニウム熱交換器や他の処理装置の破損を引き起こすことがある。したがって、流体流れからこれらの金属を効率的に除去する(好ましくは、プロセスフローシートのできるだけ早い段階で)必要がある。
【0003】
水銀を除去する物質として硫化銅が知られている。US4094777は、水銀を含有する天然ガス流れから水銀を吸収するために、硫化銅を含む予備硫化処理された吸収剤を使用することを開示している。予備硫化吸収剤は、塩基性の炭酸銅と耐熱性のセメント結合剤とを含む前駆体を作製し、この前駆体と、イオウ化合物(例えば硫化水素)を含有するガス流れとを、銅化合物が硫化されるように接触させることによって製造される。次いで、天然ガス流れから水銀を除去するために、この予備硫化吸収剤が使用される。
【0004】
EP0480603は、流れから水銀を除去するための方法を開示しており、該方法によれば、硫化銅を含む吸収剤が、好ましくは、イオウ化合物も含有する水銀含有流れによってその場で作製され、これにより水銀吸収剤の作製と水銀の吸収とが同時に行われ、したがって、金属硫化物の酸化によって生成する無効で好ましくない金属化合物(例えば金属硫酸塩)の形成が避けられる。該特許の実施例では、硫化銅や硫化亜鉛が使用されている。しかしながら、水銀を含有するガス流れがすべて、イオウ化合物も含有するわけではない。
【0005】
硫化銅以外の金属硫化物の酸化によって形成される金属硫酸塩(例えば硫酸亜鉛)が存在すると、流体流れ中に存在する水による金属硫酸塩の溶解と再沈殿の結果、吸収剤の凝集を引き起こすことがある。使用中に再沈殿が起きると、反応性硫化銅の表面積が減少するために、水銀吸収能力の低下を引き起こすことがある。凝集は、許容し難い圧力低下の増大を引き起こし、吸収容器からの吸収剤の排出を困難かつ長時間作業にすることがある。このことは、沖合の炭化水素抽出プロセスの一部として精製処理が必要となる、あるいは湿潤ガス流れ(例えば、脱水ユニットからの再生ガスや湿潤二酸化炭素流れ)に対して精製処理が必要となる、という特定の問題を引き起こすことがある。
【発明の概要】
【0006】
したがって本発明は、5〜50重量%の粒状の硫化された銅化合物、30〜90重量%の粒状担体物質、および残部の1種以上の結合剤を含み、ここで硫化銅以外の金属硫化物の含量が5重量%以下である、流体流れから水銀、ヒ素、またはアンチモンを除去するのに適した吸収剤組成物を提供する。
【0007】
本発明はさらに、i)硫化銅を形成することができる粒状銅化合物、粒状担体物質、および1種以上の結合剤を含む組成物を作製する工程;ii)組成物を造形して吸収剤前駆体を作製する工程;iii)吸収剤前駆体物質を乾燥する工程;およびiv)前駆体を硫化して吸収剤を作製する工程;を含む、吸収剤の製造方法を提供する。
【0008】
本発明はさらに、水銀、ヒ素、またはアンチモンを含有するプロセス流体と吸収剤とを接触させることを含む、水銀、ヒ素、またはアンチモンを除去する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明によらない比較用の湿潤および乾燥予備硫化Cu/Znアルミナ吸収剤のHg吸収プロフィールを示しているグラフである。
【図2】図2は、本発明による予備硫化した乾燥Cu/アルミナ吸収剤2種のHg吸収プロフィールと、本発明によらない市販の予備硫化した9重量%Cu(酸化物として)含浸アルミナ吸収剤のHg吸収プロフィールとを比較して示しているグラフである。
【図3】図3は、本発明による予備硫化した湿潤Cu/アルミナ吸収剤のHg吸収プロフィールと、市販の予備硫化した湿潤9重量%Cu(酸化物として)含浸アルミナ吸収剤のHg吸収プロフィールとを比較して示しているグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
吸収剤は、5〜50重量%の粒状の硫化された銅化合物を含む。したがって、硫化された銅化合物は硫化銅を含む。銅の90%以上が硫化されているのが好ましく、95重量%以上が硫化されているのがさらに好ましい。本発明において使用される吸収剤は、硫化組成物中に銅を10〜45重量%の量(酸化物CuOとして表示)にて含むのが好ましく、15〜30重量%の量(酸化物として)にて含むのがさらに好ましい。
【0011】
吸収剤中に使用するのに適した銅化合物は、酸化銅、水酸化銅、および/または塩基性炭酸銅等の、容易に硫化することができる銅化合物である。1種以上の硫化可能な銅化合物を使用することができる。特に適した銅化合物は塩基性炭酸銅(すなわちヒドロキシ炭酸銅)である。吸収剤を作製するのに使用される銅化合物は予備乾燥するのが好ましい。銅化合物は粒状であって、粉末の形態をとっているのが望ましく、10〜100μmの範囲の平均粒径(すなわちD50)を有するのが好ましい。
【0012】
上記のUS4094777とは異なり、本発明の吸収剤は30〜90重量%の粒状担体物質を含む。担体物質は、吸収剤の物理的特性をその機能に適応させるための手段を提供する。したがって、吸収剤の表面積、気孔率、および圧潰強さは、その用途に応じて適切に調整することができる。さらに、担体粒子が存在すると、希釈剤として作用することによって、吸収剤組成物の強度と耐久性がアップすることがある。吸収剤組成物は、硫化プロセス時(硫化銅が形成されるにつれて、銅化合物の体積変化を引き起こす)にその物理的完全性を保持できるのが好ましい。担体物質は、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ、アルミノケイ酸塩、またはこれら2種以上の混合物等の酸化物物質であるのが望ましい。水和酸化物(例えば、アルミナ三水和物やベーマイト)も使用することができる。特に適した担体は、γ−アルミナ、θ−アルミナおよびδ−アルミナ等の遷移アルミナ、および、水和アルミナである。担体は、硫化組成物の重量を基準として30〜90重量%(好ましくは50〜80重量%)の量にて存在してよい。担体物質は、100μm未満(好ましくは5〜65μm)の粒径を有する粉末の形態をとっているのが望ましい。
【0013】
本発明においては、吸収剤における硫化銅以外の全金属硫化物含量は5重量%未満である。これは、対応する水溶性の金属硫酸塩が、望ましくない再沈殿や凝集の問題を引き起こさない十分に低いレベルにて形成されるからである。硫化銅以外の全金属硫化物含量は、1重量%以下であるのが好ましく、0.5重量%以下であるのがさらに好ましく、0.1重量%以下であるのが特に好ましい。汚染物質である金属硫化物は、硫化亜鉛、硫化鉄、硫化ニッケル、硫化クロム、および硫化マンガンの1種以上であるかもしれない。これらは、銅化合物、担体物質、または結合剤の汚染によって入り込むことがある。したがって、本発明によって必要とされる金属硫化物汚染物質の低いレベルは、高純度の銅化合物、担体物質、および結合剤物質を選択することによって、および組成物から金属化合物汚染物質を排除することによって達成することができる。銅化合物(例えばヒドロキシ炭酸銅)は、少量の亜鉛を含有することが多い。したがって、亜鉛含量は0.5重量%(酸化物ZnOとして表示)未満であるのが好ましく、0.2重量%(酸化物として)未満であるのがさらに好ましい。
【0014】
理解しておかなければならないことは、硫化された銅化合物は硫酸銅の形成を起こしやすいが、このことは、水銀除去に対する典型的な条件下において、硫酸銅と比較して水に対してかなり高い溶解性を有する他の金属硫酸塩(特に硫酸亜鉛)の形成や存在ほど重大なことではない、ということを我々は見いだした、という点である。
【0015】
吸収剤組成物は、1種以上の結合剤(吸収剤の残部を構成する)を含む。1種以上の結合剤の総量は、硫化組成物の重量を基準として2〜20重量%の範囲である。好ましい結合剤としては、アルミン酸カルシウムセメントと関連物質(例えばciment fondue)を含むセメント物質がある。セメント結合剤は、水で処理したときに反応して安定な水和物を形成し、この水和物が、粒状銅化合物と担体粒子とを結びつけて強力な組成物を形成する。
【0016】
吸収剤物質は、イオウ化合物で処理すると、かなりの物理化学的変化を受けて、水銀、ヒ素、またはアンチモンの除去に対して効果的であることが知られている活性な硫化銅相を形成することができる。物理化学的変化は、担体物質が含まれている場合でも、圧潰強さの低下や磨滅しやすさの増大を引き起こすことがある(特に、金属硫化物を多量に含有する物質を使用する場合)。したがって、耐磨滅性を保持しつつ圧潰強さを高めるのが望ましい。吸収剤における結合剤と担体物質とを組み合わせることでこの問題を克服できる、ということを我々は見いだした。さらに、2種の結合剤を使用することによって、水銀吸収速度、圧潰強さ、または耐磨滅性を犠牲にすることなく、先行技術の物質と比較して担体物質の量を増やすことができる、ということを我々は見いだした。
【0017】
したがって好ましい実施態様おいては、吸収剤組成物は、第1の結合剤と第2の結合剤を含み、ここで第1の結合剤はセメント結合剤であり、第2の結合剤は、2より大きいアスペクト比を有する高アスペクト比結合剤である。
【0018】
第1の結合剤はセメント結合剤(特にアルミン酸カルシウムセメント)であるのが好ましい。アルミン酸カルシウムセメントとは、モノアルミン酸カルシウム(CaO・Al)、アルミン酸三カルシウム(3CaO・Al)、トリアルミン酸五カルシウム(5CaO・3Al)、ペンタアルミン酸三カルシウム(3CaO・5Al)、ヘプタアルミン酸十二カルシウム(12CaO・7Al)、およびアルミナをこのようなアルミン酸カルシウム化合物と混合した状態にて、このようなアルミン酸カルシウム化合物中に溶解させた状態にて、もしくはこのようなアルミン酸カルシウム化合物と組み合わせた状態にて含有する高アルミナセメント、等のアルミン酸カルシウム化合物を含む。例えば、よく知られている市販のセメントは、約18重量%の酸化カルシウム、約79重量%のアルミナ、および約3重量%の水と他の酸化物、に相当する組成を有する。他の適切な市販アルミン酸カルシウムセメントは、約40重量%の酸化カルシウム、約37重量%のアルミナ、約6重量%のシリカ、および約20重量%の他の酸化物、に相当する組成を有する。
【0019】
第2の結合剤は、2より大きいアスペクト比を有する高アスペクト比の結合剤であるのが好ましい。高アスペクト比とは、粒子の最大寸法と最小寸法との比が2より大きい、ということを意味している。従って粒子は板状であってよく、このとき長さと幅が厚さの2倍以上である。これとは別に、そして好ましくは、粒子は針状であり、このとき平均長さが幅の2倍以上(好ましくは2.5倍以上)である[例えば、断面寸法(すなわち幅と厚さ)がほぼ等しいという“ロッド”形状、あるいは厚さが幅よりかなり小さいという“ラス”形状]。適切な高アスペクト比結合剤は、アルミノケイ酸塩クレイ等のクレイを含み、好ましいのはケイ酸アルミニウムマグネシウムクレイ(一般にはアタパルジャイトクレイと呼ばれる)である。特定の理論で拘束されるつもりはないが、2より大きいアスペクト比を有する細長い粒子を含む結合剤の針状特性が、本発明の吸収剤物質の改良された物理的特性に寄与している、と我々は考える。驚くべきことに、これら2つのタイプの結合剤を、硫化された銅化合物および担体と組み合わせると、高い圧潰強さと低い磨滅性を有し、耐水性であり、そしてさらに適切に高い水銀吸収速度をもたらすことができる吸収剤物質を提供できる、ということを我々は見いだした。
【0020】
第1の結合剤の量は、未硫化吸収剤前駆体組成物の重量を基準として1〜10重量%の範囲であってよい。第2の結合剤の量は、未硫化吸収剤前駆体の重量を基準として1〜10重量%(好ましくは2〜5重量%)の範囲であってよい。結合剤の相対的な量は、第1結合剤対第2の結合剤が1:1〜3:1であるのが好ましい。
【0021】
特に好ましい吸収剤組成物は、第1結合剤と第2の結合剤に結びついた、1種以上の硫化された粒状の銅化合物および粒状アルミナもしくは水和アルミナ担体物質を含み、このとき吸収剤の亜鉛含量(酸化物として)は0.1重量%以下である。
【0022】
吸収剤は、硫化銅を形成することができる粒状銅化合物、粒状担体物質、および1種以上の結合剤を含む組成物を作製し、該組成物を造形して吸収剤前駆体を作製し、吸収剤前駆体物質を乾燥し、そして吸収剤前駆体を硫化して吸収剤とすることによって適切に製造することができる。したがって本発明はさらに、硫化銅を形成することができる銅化合物、粒状担体物質、および1種以上の結合剤、を含む吸収剤前駆体を含み、ここで吸収剤前駆体における銅以外の硫化可能な金属の含量は5重量%未満(酸化物として)である。
【0023】
硫化された銅化合物を含む吸収剤は、水銀含有流れが、固体吸収剤粒子の層と接触できるよう、任意の適切な物理的形態(例えば、顆粒、押出物、またはタブレット)をとってよい。吸収剤組成物は、1〜15mmの範囲の粒径を有するのが好ましく、1〜10mmの範囲の粒径を有するのがさらに好ましい。
【0024】
本発明の吸収剤前駆体は、適切な粉末組成物(一般には、グラファイトやステアリン酸マグネシウム等の物質を成形助剤として含有する)を、適切な大きさに造られた金型中にて成形する(従来のタブレットもしくはペレット作製操作のように)ことによって作製されるタブレットまたはペレットの形態をとってよい。これとは別に、成形されるユニットは、適切な組成物(吸収剤前駆体物質と、しばしば少量の水および/または成形助剤とを含有する)を強制的にダイに通し、次いでダイから出てくる材料を短い長さに切断することによって作製される押出物の形態をとってもよい。例えば押出物は、動物用飼料をペレット化するのに使用されるタイプのペレットミルを使用して製造することができ、このときペレット化しようとする混合物が、打ち抜き穴(これらの打ち抜き穴から、シリンダー内のバーもしくはローラーによって、混合物が強制的に送り込まれる)を通して回転しつつある穴あきシリンダー中に装入される。こうして得られる押出混合物を、所望の長さの押出ペレットをもたらすように配置されたドクターナイフによって、回転しつつあるシリンダーの表面から切断する。これとは別に、そして好ましくは、吸収剤または吸収剤前駆体は、スラリーを形成するには不十分な少量の水と吸収剤前駆体物質とを混合し、次いでこの組成物を、ほぼ球状ではあるが一般には不規則な形状の顆粒に凝集させることによって形成される凝集物の形態をとってよい。粒径範囲が2〜5mmの粒状吸収剤が特に好ましい。
【0025】
必要であれば、吸収剤または吸収剤前駆体を加熱するか又は別の方法で処理して、セメント結合剤の硬化を促進することができる。
【0026】
別の成形法は、成形品の表面積、気孔率、および気孔構造に影響を及ぼし、従ってこのことが吸収特性やバルク密度に大きな影響を及ぼすことが多い。
【0027】
吸収剤前駆体を硫化するのに使用される硫化剤は、硫化水素、硫化カルボニル、メルカプタン、および多硫化物等の1種以上のイオウ化合物、またはこれらの混合物であってよい。好ましいのは硫化水素である。硫化水素を含有するガス混合物を使用すると、イオウもしくはイオウ化合物(例えば多硫化物)の溶液等の代替物を使用する場合より、かなり操作が簡単で処理が速やかである。ガス混合物は、必要に応じて、硫化カルボニルや揮発性メルカプタン等の他のイオウ化合物を含有してよい。窒素、ヘリウム、またはアルゴン等の不活性ガスが存在してもよい。硫化用ガス混合物は、水素や一酸化炭素等の還元性ガスを含有しないのが好ましい。しかしながら、硫化工程が150℃未満(特に100℃未満)の温度で行われる場合には、これらの還元性ガスが存在してよい。硫化水素を、0.1〜5容量%の濃度でのガス流れにて前駆体に供給するのが好ましい。1〜100℃(好ましくは5〜50℃)の範囲の硫化温度を使用することができる。
【0028】
硫化工程は、実験施設内において(ex-situ)、硫化剤が送られる硫化容器中にて乾燥吸収剤前駆体上で行うこともできるし、あるいはその場(in-situ)で行うこともできる。その場で行う場合には、水銀化合物を吸収するのに使用される容器中に吸収剤前駆体が装着され、そして硫化反応にかけられる。その場での硫化は、硫化剤流れを使用して、あるいは水銀を含有する流れがイオウ化合物も含有する場合は、水銀含有流れを使用して行なうことができる。このように硫化と水銀吸収が同時に起こる場合、存在するイオウ化合物の量は、使用されるイオウ化合物と金属化合物の種類に依存する。通常は、前駆体が十分に硫化されるように、1以上(好ましくは10以上)の濃度比[水銀濃度(v/v)に対するイオウ化合物(硫化水素として表示)濃度(v/v)の割合として定義]が使用される。供給流れ中のイオウ化合物の初期濃度が、イオウ化合物濃度対水銀化合物濃度の所望の比を確実に得るのに必要なレベル未満の場合は、任意の適切な方法によってイオウ化合物の濃度を増大させるのが好ましい。
【0029】
以前の吸収剤(例えば、EP0480603に開示の吸収剤)とは対照的に、本発明の吸収剤は予備硫化するのが好ましい。予備硫化することで、硫化工程に付随することのある吸収剤の体積と強度の変化によって引き起こされる問題が避けられる。
【0030】
吸収剤の水銀吸収容量は、そのイオウ含量に比例する。しかしながら、硫化銅の含量がかなり高い吸収剤は、必要な強度と耐久性をもたないことが多い。さらに、銅は高価な金属成分である。本発明は、現在市販されている材料と比較して、イオウ含量と物理的特性との最適の組み合わせを提供する。
【0031】
適切な吸収容器サイズを考慮したプロセス効率の良い物質を得るためには、吸収剤の密度(イオウの密度として表示)が50〜200kgS/mの範囲であるのが好ましい。
【0032】
本発明は、水銀、ヒ素、またはアンチモンを含有する液体および気体の両方の流体を処理するのに使用することができる。1つの実施態様においては、流体は炭化水素流れである。炭化水素流れは、ナフサ(例えば、5個以上の炭素原子を有する炭化水素を含有していて、最終的な大気圧沸点が204℃まで)、中間留分もしくは常圧軽油(例えば、177℃〜343℃の大気圧沸点範囲を有する)、真空軽油(例えば、343℃〜566℃の大気圧沸点範囲)、または残油(566℃より高い大気圧沸点)等の製油所炭化水素流れであってもよいし、あるいはこのような供給原料から、例えば触媒改質によって生成される炭化水素流れであってもよい。製油所炭化水素流れはさらに、FCCプロセスにおいて使用される“循環油”等のキャリヤー流れ、および溶媒抽出において使用される炭化水素を含む。炭化水素流れはさらに、原油流れであっても(特に、原油が比較的軽質である場合)、あるいは、例えば、タール油や石炭抽出物から得られる合成粗製流れであってもよい。ガス状炭化水素(例えば、天然ガス、精製パラフィン、または精製オレフィン)は、本発明の方法を使用して処理することができる。特に、海洋原油流れと海洋天然ガス流れは、本発明の吸収剤を使用して処理することができる。ガソリンやディーゼル油等の汚染された燃料も処理することができる。これとは別に、炭化水素は、液体天然ガス(NGL)や液化石油ガス(LPG)等のコンデンセートであっても、あるいは炭層メタン、埋立地ガス、またはバイオガス等の気体であってもよい。
【0033】
本発明に従って処理することができる非炭化水素流体は、二酸化炭素(原油の二次回収プロセスあるいは炭素の捕捉と貯蔵において使用することができる)、ならびにコーヒーのカフェイン除去、風味と芳香の抽出、および石炭の溶媒抽出のための溶媒を含む。洗浄プロセスまたは乾燥プロセスにおいて使用されるアルコール(グリコールを含む)およびエーテル[例えば、トリエチレングリコール、モノエチレングリコール、レクチゾル(Rectisol)(商標)、プリゾル(Purisol)(商標)、およびメタノール]を本発明によって処理することができる。水銀はさらに、酸性ガス除去ユニットにおいて使用されるアミン流れから除去することができる。植物油や魚油等の天然油脂を、必要に応じて水素化やエステル交換等のさらなるプロセシングの後に本発明の方法によって処理して、例えばバイオディーゼルを製造することができる。
【0034】
処理することができる他の流体流れとしては、脱水ユニットからの再生ガス(例えば、モレキュラーシーブのオフガス)やグリコールドライヤー(glycol driers)の再生からのガスがある。
【0035】
本発明の吸収剤によって処理することができる供給流れはさらに、水銀、ヒ素、もしくはアンチモンとイオウ化合物とを本質的に含有する流れ(例えば、特定の天然ガス流れ、あるいは水銀、ヒ素、またはアンチモンの吸収を果たすべくイオウ化合物が加えられている、水銀、ヒ素、またはアンチモンを含有する流れ)を含んでよい。
【0036】
本発明は、流体が水を含有する場合(好ましくは0.02〜1容量%の範囲の低レベル)に特に有用である。短期間の場合には、5容量%までのより高いレベルも許容できる。本発明の吸収剤は、水への長期間曝露の後に、単に乾燥ガス(好ましくは窒素等の乾燥不活性ガス)でパージすることによって簡単に再生することができる。
【0037】
水銀の吸収は、150℃未満の温度にて、好ましくは120℃以下の温度にて行うのが好ましい。このような温度では、水銀の吸収に対する全体的な能力が増大するからである。4℃という低い温度を使用して、本発明における良好な結果を得ることもできる。好ましい温度範囲は10〜60℃である。
【0038】
水銀は、元素状水銀、有機第二水銀化合物、または有機第一水銀化合物のいずれの形態であってもよい。本発明は、元素状水銀を除去する際に特に効果的であるが、短期間の場合には、他の形態の水銀も除去することができる。通常、ガス状供給流れ中の水銀の濃度は0.01〜1100μg/Nmであり、より一般的には10〜600μg/Nmである。
【0039】
使用にあたっては、吸収剤物質を吸収容器中に配置し、水銀を含有する流体流れを吸収容器に通す。吸収剤は、公知の方法にしたがって1つ以上の固定床として容器中に配置するのが望ましい。2つ以上の床を使用することができ、床は、組成が同じであっても異なっていてもよい。吸収剤を通過するガス空間速度は、通常使用される範囲であってよい。
【0040】
下記の実施例と図面を参照しつつ本発明をさらに詳細に説明する。図1は、本発明によらない比較用の湿潤および乾燥予備硫化Cu/Znアルミナ吸収剤のHg吸収プロフィールを示しているグラフである。図2は、本発明による予備硫化した乾燥Cu/アルミナ吸収剤2種のHg吸収プロフィールと、本発明によらない市販の予備硫化した9重量%Cu(酸化物として)含浸アルミナ吸収剤のHg吸収プロフィールとを比較して示しているグラフである。図3は、本発明による予備硫化した湿潤Cu/アルミナ吸収剤のHg吸収プロフィールと、市販の予備硫化した湿潤9重量%Cu(酸化物として)含浸アルミナ吸収剤のHg吸収プロフィールとを比較して示しているグラフである。
【0041】
特に明記しない限り、吸収剤前駆体粒子は、固体成分と少量の水とをホバートミキサーにて混合して顆粒を形成させる、という造粒法を使用して作製した。前駆体は、公知の方法を使用して、希薄硫化水素流れにより硫化した。前駆体物質は、不活性キャリヤーガス(一般にはN)中1%HSを使用して、周囲温度および周囲圧力にて十分に硫化された状態にした。
【実施例】
【0042】
実施例1(比較用)
水が存在するときに引き起こされる問題を評価するために、硫化された銅化合物と硫化された亜鉛化合物とを含む粒径1〜2mmの粒状吸収剤25ml、アルミナ担体、および単一のセメント結合剤を実験室規模の管状吸収容器(i.d.18mm)に仕込んだ。硫化吸収剤の銅含量は45重量%(酸化物として)であり、亜鉛含量は22重量%(酸化物として)であった。
【0043】
床の25容量%未満を、予備浸漬した吸収剤で構成させた。吸収剤物質を、脱塩水中に周囲温度にて30分浸漬し、次いで水をデカントし、粒子を吸い取り紙で触れて乾燥した。床の残りの75容量%以上は乾燥物質であった。元素状水銀で約1ppm(w/w)にまで飽和させたN−ヘキサンを、該流体が、水浸漬した吸収剤物質と、次いで乾燥物質と7.0hr−1の液空間速度(LHSV)で750時間にわたって接触するように、周囲温度(約20℃)にて床に上向きに通した。反応器出口ラインから出口サンプルを採取し、PSA改良ヒューレット・パッカード6890GCにより分析して水銀のレベルをモニターした。試験の最後に、床を9つの同等の個別サブ床(sub-beds)に排出し、ICP発光分光法により全水銀含量に関して分析した。
【0044】
同じ試験において使用される完全に乾燥した床と比較して、入口を25%湿潤させた状態で装入した吸収剤の床プロフィールを図1に示す。
【0045】
試験を行った750時間中、反応器出口流れから元素状水銀は検出されなかった。テストランが進行するにつれて、最初に湿潤状態の顆粒と乾燥顆粒との界面に白色固体が形成されるのが観察された。この界面には、凝集も観察された。
【0046】
湿潤物質と比較して、乾燥吸収剤のプロフィールはシャープであり、捕捉された水銀のほとんどが床体積の最初の6〜10mlに閉じ込められている。しかしながら、床体積の入口25%に水が存在すると、水銀の捕捉量がズルズルと減少していき、反応ゾーンが広がった状態となってプロフィールがかなりだらけてくる。このことは、最終的には、吸収容器からの水銀のより速やかな通過(breakthrough)を引き起こすであろう。床の水銀捕捉量が、最小値の後に床に沿って約48%に増大する、という別の反応フロントも観察される。床の下方約30%での最小ポイントは、色が白色となって凝集していた床の部分に相当する。床の下方にさらに進んでいくにつれて、水銀の捕捉量が増大する。
【0047】
このデータから、色が白色となって凝集していた区域は、液体炭化水素流れから水銀を除去する能力が低下した、と結論づけることができる。
【0048】
水が存在するとき、硫化銅と硫化亜鉛は硫酸塩に転化される。特定の理論で拘束されるつもりはないが、水銀吸収量の減少は、硫酸亜鉛の高い水溶性と、さらなる床の下方での硫化銅−硫酸銅を多く含んだ顆粒の被覆とが組み合わさり、この結果、床が水銀を除去する能力が低下するため、と考えられる。
【0049】
実施例2(乾燥試験)
フラッシュ乾燥したヒドロキシ炭酸銅を20もしくは30重量部;アルミナ三水和物を80もしくは70重量部;および約40重量%のCaO含量を有するアルミン酸カルシウムセメント10部とアタパルジャイトクレイ4部を含んでなる結合剤を14重量部;を含む組成物を使用して、グラニュレーター中にて吸収剤前駆体組成物を作製した。
【0050】
顆粒を、周囲温度(約20℃)で2時間乾燥した後、空気中にて105℃で16時間乾燥した。得られた顆粒の粒径範囲は1〜5mmであった。
【0051】
これらの粒状物質を、実験室において1%HSで飽和するまで硫化して、活性吸収剤を生成した。
【0052】
硫化吸収剤を、実施例1に記載のように試験にかけたが、いずれも場合も、床は乾燥状態で使用し、予備浸漬はしなかった。市販の予備硫化した9重量%Cu(酸化物として)含浸アルミナ吸収剤を使用して試験を繰り返した。得られた結果を図2に示す。これらの結果から、本発明による2つの組成物は、流体からHgを除去する上で効果的であり、Cuの含量が高くなるほど床プロフィールがシャープになる、ということがわかる。本発明の組成物はさらに、市販のCu含浸アルミナ物質よりシャープな床プロフィールをもたらす。
【0053】
実施例3(湿潤試験)
フラッシュ乾燥したヒドロキシ炭酸銅を25重量部;アルミナ三水和物を75重量部;および約40重量%のCaO含量を有するアルミン酸カルシウムセメント10部とアタパルジャイトクレイ4部を含んでなる結合剤を14重量部;を含む組成物を使用して、グラニュレーター中にて吸収剤前駆体組成物を作製した。
【0054】
顆粒を、周囲温度(約20℃)で2時間乾燥した後、空気中にて105℃で16時間乾燥した。得られた顆粒の粒径範囲は1〜5mmであった。
【0055】
これらの粒状物質を、実験室において1%HSで飽和するまで硫化して、活性吸収剤を生成させた。
【0056】
床の最初の25容量%を脱塩水中に予備浸漬して、硫化吸収剤を実施例1に記載のように試験にかけた。市販の予備硫化した9重量%Cu(酸化物として)含浸アルミナ吸収剤を使用し、この場合も床の最初の25容量%を予備浸漬して試験を繰り返した。得られた結果を図3に示す。
【0057】
本発明の吸収剤は、湿潤/乾燥界面に凝集や変色の兆候を示さなかった。比較用の9重量%Cu含浸アルミナ物質は、銅のみであるけれども、水の存在に影響を受け、水銀の捕捉は床の厚さの約72%までであった。
【0058】
実施例1と3、および市販の9重量%Cu含浸物質における硫化吸収剤の物理的特性を明確にするために一連の試験を行った。実施例1のCu/Zn組成物については、物理的特性は、より良好な比較がなされるよう、2〜5mmの粒状物に対して決定した。
【0059】
i)タップバルク密度(TBD)
60mlの吸収剤顆粒(サイズカット2〜5mm)を、100mlのプラスチック製メスシリンダー中に秤量した。質量を体積で割ることによって密度を算出した。一定の体積となるよう、シリンダーを手で軽くたたいた。質量をタップ体積で割ることによって密度(TBD)を算出した。
【0060】
ii)平均圧潰強さ
エンジニアリング・システムズCT−5を使用して、吸収剤顆粒の平均圧潰強さ(MCS)を測定した。機器に5kgのロードセルを取り付け、較正した。試験用に選定したグラニュールのサイズは、圧潰強さに及ぼす顆粒サイズの影響を少なくするために3〜4mmであった。各吸収剤の顆粒を20回、圧潰し、統計的分析を行った。
【0061】
iii)イオウの分析
LECO SC632を使用して、燃焼とそれに続く二酸化イオウの赤外線測定により、イオウ含量に対する分析を行った。
【0062】
iv)細孔構造の分析
窒素パージを使用してサンプルを140℃で1時間ガス抜きしてから、BET表面積/等温線を測定した。
【0063】
v)蛍光X線(XRF)
Philips Magix−Pro/Bruker SRS3400を使用して半定量的なXRF分析を行った。これらの結果から、相対的なピーク強度を比較することによって、吸収剤サンプル中の各元素の相対存在量が分かる。
【0064】
結果を表1に示す。実施例1と3の物質に対する組成は、理論的な物質収支から算出したが、含浸物質の組成は、XRF分析によって決定した。
【0065】
【表1】

【0066】
本発明の吸収剤に関しては、圧潰強さの増大が観察される。イオウ密度も、含浸物質の場合より高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5〜50重量%の粒状の硫化された銅化合物、30〜90重量%の粒状担体物質、および残部の1種以上の結合剤を含み、ここで硫化銅以外の金属硫化物の含量が5重量%以下である、流体流れから水銀、ヒ素、またはアンチモンを除去するのに適した吸収剤組成物。
【請求項2】
硫化された銅化合物が、硫化された塩基性炭酸銅、硫化された水酸化銅、硫化された酸化銅、またはこれらの混合物である、請求項1に記載の吸収剤。
【請求項3】
担体物質が、アルミナ、水和アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ、アルミノケイ酸塩、またはこれらの2種以上の混合物である、請求項1または2に記載の吸収剤。
【請求項4】
吸収剤中の結合剤含量が5〜20重量%の範囲である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の吸収剤。
【請求項5】
第1の結合剤と、必要に応じて第2の結合剤を含み、ここで第1の結合剤がセメント結合剤であり、第2の結合剤が、2より大きいアスペクト比を有する高アスペクト比結合剤である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の吸収剤。
【請求項6】
第1の結合剤がアルミン酸カルシウムセメント結合剤である、請求項5に記載の吸収剤。
【請求項7】
第2の結合剤がアルミノシリケートクレイである、請求項5または6に記載の吸収剤。
【請求項8】
第2の結合剤がアタパルジャイトクレイである、請求項5〜7のいずれか一項に記載の吸収剤。
【請求項9】
第1の結合剤と第2の結合剤との相対量が、第1の結合剤の第2の結合剤に対する量として、1:1〜3:1の範囲である、請求項5〜8のいずれか一項に記載の吸収剤。
【請求項10】
硫化銅以外の全金属硫化物の含量が1重量%以下であり、さらに好ましくは0.5重量%以下であり、特に0.1重量%以下である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の吸収剤。
【請求項11】
イオウ密度として表示される吸収剤の密度が50〜200kgS/mの範囲である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の吸収剤。
【請求項12】
i)硫化銅を形成することができる粒状銅化合物、粒状担体物質、および1種以上の結合剤を含む組成物を作製する工程;ii)組成物を造形して吸収剤前駆体を作製する工程;iii)吸収剤前駆体物質を乾燥する工程;および、iv)前駆体を硫化して吸収剤を作製する工程;を含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の吸収剤の製造方法。
【請求項13】
硫化工程が、硫化水素、硫化カルボニル、メルカプタン、および多硫化物から選択されるイオウ化合物と、乾燥した吸収剤前駆体中に金属硫化物を形成することができる金属化合物とを反応させることによって行われる、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の吸収剤、あるいは請求項12または13に従って作製した吸収剤とプロセス流体とを接触させることを含む、プロセス流体から水銀、ヒ素、またはアンチモンを除去する方法。
【請求項15】
水銀含有流体が、水を0.02〜5容量%の範囲の量にて含有する、請求項14に記載の水銀除去方法。
【請求項16】
流体が炭化水素流れである、請求項14または15に記載の水銀除去方法。
【請求項17】
流体が、オフショア炭化水素流れまたは炭化水素脱水ユニットからの再生流れである、請求項15または16に記載の水銀除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−514835(P2011−514835A)
【公表日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−546402(P2010−546402)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050085
【国際公開番号】WO2009/101429
【国際公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(590004718)ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー (152)
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】