説明

吸塵アダプター保持機構

【課題】穿孔時に発生する振動を吸収しながら高い吸塵効率を維持するとともに、吸塵アダプターの脱着を容易に行なうことを可能とする、吸塵アダプター保持機構を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するための吸塵アダプター保持機構は、吸塵ドリルに対して相対的に回転可能で、かつ吸塵ドリルの軸方向にも移動可能な吸塵アダプターを、位置決め部材と弾性部材を用いて軸方向位置を規制する機構により構成される。片側を弾性部材にすることにより、穿孔作業中に吸塵アダプターに加わる振動を緩和するとともに、吸塵アダプターの軸方向の位置を適正に保つことが可能になる。また吸塵ドリルを他のドリルに交換する場合、弾性部材を圧縮して位置決め部材を取り外すことが出来るため、特殊な工具を用いずに吸塵アダプターを吸塵ドリルから取り外すことが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
コンクリート、大理石等の材料にドリルで穿孔する際に発生する粉塵を排出する機能を有する吸塵ドリルに装着され、粉塵排出に使用される吸塵アダプターにおき、軸方向の位置を保持する吸塵アダプター保持機構に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートや大理石など、主に石材系の材料にドリルを用いて穿孔すると、材料は、ドリルの先端で粉砕され、粉塵になる。この粉塵は穿孔を行う作業者の健康に悪影響を及ぼすだけでなく、超硬チップがロー付けされたドリル先端の摩耗や損傷を誘発する、ドリルが粉塵中で空転し穿孔速度が著しく低下する、穿孔された孔とドリルの間に詰ってドリルの回転を停止させる、などの様々な問題を引き起こす。
【0003】
このような問題を回避しながら穿孔を行うため、吸塵ドリルが使用される。吸塵ドリルは、ドリル先端で発生する粉塵を排出しながら穿孔する機能を有するため、粉塵による問題を回避することが可能である。以下に吸塵ドリルの構造と使用方法を説明する。
【0004】
吸塵ドリルでは、ドリルの先端から、ドリルの軸に沿って伸びる吸塵用軸孔が設けられている。この吸塵用軸孔は、シャンク部で、直交する吸塵用半径孔に連結されている。吸塵用半径孔を囲む位置には、吸塵ドリルに相対的に回転可能な吸塵アダプターが装着され、この吸塵アダプターには、ドリルから離れた位置に設けられた吸塵装置から延びるホースが連結されている。
【0005】
吸塵アダプターは吸塵ドリルに対し相対的に回転可能に取り付けられているため、吸塵ドリルが回転しても吸塵アダプターは回転しない。つまり、ドリルが回転して穿孔している間も、吸塵アダプター、及び、吸塵アダプターに接続されるホース、吸塵装置は所定の位置で静止し、吸塵動作を継続する。
【0006】
材料に穿孔する時は、まず、吸塵装置を作動し、更に、吸塵ドリルを電動ドリルのモータで回転させる。最後に、回転しているドリルの先端を材料に当接すると、ドリル先端で穿孔が開始する。穿孔によりドリル先端で粉砕された材料は、粉塵になり、吸塵用軸孔、吸塵用半径孔、を経由してドリル内を通過し、吸塵アダプター部に移動する。その後、更に、吸塵アダプターに接続されたホースを経由し、最後は吸塵装置で回収される。
【0007】
穿孔作業では、ドリル先端が材料を粉砕する時の衝撃で、強い振動が発生する。この振動は、吸塵ドリルに装着された吸塵アダプターに伝播するが、吸塵性能を安定的に維持するためには、ドリルが振動しても、吸塵アダプターの軸方向位置は常に吸塵用半径孔の位置に維持される必要がある。
【0008】
また、吸塵ドリルの先端、及び先端にロー付けされた超硬チップの刃などが摩耗して穿孔不能になった場合や穿孔する孔の直径を変える場合、新しい吸塵ドリルに交換する、径の異なる吸塵ドリルに交換するなど、それまで使用していた吸塵ドリルを他の吸塵ドリルに交換する必要がある。この場合は、吸塵ドリルから吸塵アダプターを取り外し、別の吸塵ドリルに付け替える方法が一般的に採用されている。このドリル交換は、通常、工事現場で行う必要があるため、吸塵アダプターの着脱は簡単に行えることが好ましい。
【0009】
図5は、吸塵ドリルの代表的な従来例を示す。吸塵ドリル1は、通常、焼入れ鋼などで製造され、モータを内蔵する電動ドリル(図示せず)に装着されるシャンク部2と、ドリル部3で構成される。ドリル部3には、ドリル先端13から吸塵ドリル1のほぼ中央部まで延びる、粉塵排出用の吸塵用軸孔4が設けられていて、中央部付近で吸塵用半径孔5に連結されている。
【0010】
吸塵用半径孔5を取り囲む位置には、吸塵アダプター6がドリル軸に対して相対的に回転可能な状態で装着されている。この吸塵アダプター6は、鋼材で製造された吸塵ドリル1との相対回転を安定的に維持できるよう、通常、樹脂を主材料とした部品で構成されている。吸塵アダプター6の軸方向の両端には、スリップリング8a、8bと、位置決め部材7a、7bが装着されているが、位置決め部材7a、7bは、各々、溝11a、11bに嵌め込まれて、軸方向には容易に移動しない構造になっている。
【0011】
一方、吸塵アダプター6に取り付けられた接続パイプ10には、図示していないホースの一端が接続され、ホースの他端は図示していない吸塵装置に接続されている。
【0012】
材料に穿孔する場合、まず、図示していない吸塵装置を作動し、次に、吸塵ドリル1を図示していない電動ドリルで回転させる。その後、ドリル部3のドリル先端13を材料に当接すると穿孔が開始し、材料は粉砕されて粉塵になる。
【0013】
この粉塵は、吸塵用軸孔4、及び吸塵用半径孔5を経由して、回転している吸塵ドリル1の中央部まで吸引された後、吸塵ドリル1の中央部に非回転状態で維持された吸塵アダプター6の接続パイプ10を経由して、図示していないパイプを通り、最後には、図示していない吸塵装置で回収される。
【0014】
粉塵は、穿孔中に連続的に発生する。しかし、吸塵アダプター6を経由して吸塵装置で回収する動作も連続的に行われるため、粉塵によるドリル先端13の摩耗や破損は抑制され、穿孔作業を行う作業者が粉塵を体内に吸収する危険も減少する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、吸塵アダプター6の両側にスリップリング8a、8bと、位置決め部材7a、7bを設けただけの従来の吸塵アダプター保持機構には次のごとき欠点がある。
【0016】
すなわち、吸塵アダプター6の軸方向の位置は、両側に設けられた2組のスリップリング8a、8b、及び位置決め部材7a、7bにより、吸塵ドリル1が回転中も一定の位置に保たれるが、吸塵ドリルの軸方向の振動は、2組のスリップリング8a、8b、及び位置決め部材7a、7bを経由して吸塵アダプター6に直接的に作用するため、吸塵ドリル1と吸塵アダプター6が直接接触している円周面で変形や摩耗が発生しやすい。特に、吸塵アダプター6は樹脂を主材料として造られているため、焼入れ鋼からなるドリルに比べて軟らかく、容易に変形し摩耗する。
【0017】
吸塵ドリル1との接触部で吸塵アダプター6の部材に変形や摩耗が発生すると、本来なら吸塵ドリル1が回転しても非回転のまま維持されるべき吸塵アダプター6が回転するとか、摩耗により発生した隙間からの空気の流入が多くなる、などの現象が発生する。
【0018】
吸塵アダプター6が回転すると、これに接続されたホースが、回転する吸塵ドリル1に巻きついて破損したり、吸塵アダプター6から外れてしまうなどの問題が起きる。また、吸塵アダプター6の摩耗で発生した隙間から多量の空気が流入すると、ドリル先端13における粉塵吸入力が削減され、吸入されずに残る粉塵が増加してドリル先端13の摩耗が加速されるばかりでなく、穿孔された孔とドリル部3との隙間から粉塵が大気中に飛散し、これを作業者が吸い込んでしまう危険が増加する。時には、穿孔された孔とドリル部3との隙間に粉塵が詰まって、ドリルの回転が停止するばかりでなく、孔からドリルを引き抜くことも困難になる。
【0019】
また、ドリル先端13が摩耗や破損して穿孔が不能になった時、及び、穿孔する孔径を変える必要がある時などに、吸塵ドリル1を他の吸塵ドリルに交換する場合は、吸塵アダプター6を吸塵ドリル1から取り外す必要があるが、その時は、まず、2つの位置決め部材7a、7bのいずれかを、溝11a、または溝11bから外さねばならない。
【0020】
しかし、従来の吸塵アダプター保持機構では、吸塵アダプター6、スリップリング8a、8b、位置決め部材7a、7bは、互いにほぼ密接していて指が入る隙間が確保できないため、例えばマイナスドライバーなど、先端が細くなった工具を2組のスリップリングと位置決め部材のいずれか一方の間に挿入し、位置決め部材7a又は7bを、溝11aまたは11bから取り外す必要がある。この時、工具の細い部分が位置決め部材を損傷する事故が発生し易い。
【0021】
本発明は、このような欠点を解決した吸塵アダプター保持機構を提供することを目的とするものである。
【問題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するための本願発明による吸塵アダプター保持機構は、吸塵アダプターの軸方向の片側に弾性部材を用いたことを特徴とする。穿孔で発生する振動は弾性部材で吸収されるため、吸塵アダプターの損傷や摩耗を抑制することが出来る。また、弾性部材を加圧して隙間をつくり、この隙間を利用して位置決め部材を容易に取り外すことができる。
【発明の効果】
【0023】
本願発明に係る吸塵アダプター保持機構では、2組ある位置決め部材の内の1組には、従来の位置決め構造を残して吸塵アダプターの軸方向の移動を規制する機能を残し、他の組には弾性部材を追加することで、まず、吸塵ドリルが穿孔中に発生する軸方向の振動が吸塵アダプターに作用することを軽減して吸塵アダプターの損傷や劣化を抑制できる。
【0024】
更には、ドリル回転中も弾性部材が吸塵アダプターを常に従来の位置決め構造側に加圧するため、吸塵用半径孔と吸塵アダプターの軸方向の位置を一定に維持することが可能で、吸塵用半径孔を経由して粉塵を安定的に排出することができる。
【0025】
吸塵アダプターを吸塵ドリルから取り外す作業では、指で吸塵アダプターを弾性部材側に加圧して吸塵アダプターと位置決め部材の間に隙間を作り、この隙間に、吸塵アダプターを加圧していた指を挿入して位置決め部材を溝から抜き取ることができるため、特別な工具を使わず、容易に吸塵アダプターを吸塵ドリルから外すことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本願発明に係る吸塵アダプター保持機構12を用いて穿孔を行う場合は、まず、吸塵ドリル1に吸塵アダプター6を装着する。この装着では、最初に、吸塵ドリル1のドリル部3の側に設けられた第一の溝11aに第一の位置決め部材7aを装着し、次に、弾性部材9、第一のスリップリング8a、吸塵アダプター6、第二のスリップリング8bを装着する。最後に、第二の位置決め部材7bを、弾性部材9を加圧圧縮しながら、第二の溝11bに装着する。これらの作業は、弾性部材の加圧収縮性を利用すれば、特殊な工具を用いなくても容易に行うことが出来る。
【0027】
次に、吸塵アダプター6が装着された吸塵ドリル1を電動ドリルに装着し、更に、吸塵アダプター6の接続パイプ10に、吸塵装置に接続され、ビニールなど柔軟な材料から造られたホースを装着する。
【0028】
以上より準備が整った吸塵ドリル1で材料に穿孔を行うには、まず、吸塵装置を作動する。次に、電動ドリルを左右の手で持ち、電動ドリルのモータを作動させて吸塵ドリル1を回転し、ドリル先端13をコンクリートなどの材料に当接させる。すると、回転しているドリル先端13で穿孔が開始され、材料は粉砕されて粉塵が発生する。
【0029】
この粉塵は、吸塵用軸孔4、吸塵用半径孔5、吸塵アダプター6、接続パイプ10を経由して、吸塵装置まで排出される。この吸塵動作は、穿孔作業が行われている間、連続的に行われるため、ドリル先端の粉塵は発生と同時に吸塵装置で回収され、ドリル先端に粉塵が多量に溜まることはない。
【0030】
吸塵ドリルが劣化したり、穿孔すべき孔径を変更する時は、吸塵ドリル1を別の吸塵ドリルに交換する必要がある。この時は、まず、電動ドリルから吸塵ドリル1を取り外し、次に、取り外された吸塵ドリル1に装着されている吸塵アダプター6を、吸塵ドリル1から取り外さねばならない。
【0031】
この作業は、例えば次のようにして行われる。まず、右手の親指と人差し指で、吸塵アダプター6に接触している第二のスリップリング8bを押す。すると吸塵アダプター6を経由して弾性部材9が加圧されて収縮し、第二のスリップリング8bと第二の位置決め部材7bの間に隙間15が生じる。この隙間15に、第二のスリップリング8bを押していた親指と人差し指を差しこみ、第二の位置決め部材7bを第二の溝11bから取り外す。
【0032】
その後、吸塵ドリル1に装着されている第二のスリップリング8b、吸塵アダプター6、第一のスリップリング8a、弾性部材9、最後に第一の位置決め部材7aを、軸に沿ってシャンク部2の側から取り外すが、これらの取り外しは、既に第二の位置決め部材7bが取り外されているため、軸方向に抜き取るだけでよい。
【0033】
次に、新たな吸塵ドリル1に吸塵アダプターを装着する。この装着作業は、吸塵アダプターを吸塵ドリルから取り外す作業と逆の手順で実施する。すなわち、予め準備された新しい吸塵ドリル1のシャンク部2の側またはドリル部3の側から、取り外されていた第一の位置決め部材7aを挿入し、ドリル部3の第一の溝11aに装着する。次に、弾性部材9、第一のスリップリング8a、吸塵アダプター6、第二のスリップリング7bを、同様にシャンク部2の側から軸に沿って挿入する。
【0034】
最後に第二の位置決め部材7bをシャンク部2に挿入する。第二の位置決め部材7bを挿入する時は、例えば右手の親指と人差し指で、第二の位置決め部材7bを掴み、これらの指の先端で第二のスリップリング8bを押して弾性部材を加圧変形させながら、スリップリング、吸塵アダプターと共に、ドリル軸に沿ってドリル部3の側に挿入してゆく。第二の位置決め部材7bが第二の溝11bに装着されたことを確認したら指を離す。
【0035】
すると、加圧圧縮された弾性部材9の復元力で吸塵アダプター6はドリル部3の側からシャンク部2の方向に移動するが、第二の位置決め部材7bが既に第二の溝11bに嵌め込まれていて、軸方向への移動が規制されているため、吸塵アダプター6は、弾性部材9で加圧された状態を維持したまま、吸塵用半径孔5の位置に保持される。
【0036】
このようにして吸塵アダプターが装着された吸塵ドリルを電動ドリルに装着すれば、吸塵ドリルの交換作業は完了する。
【0037】
以上のように、本願発明の吸塵アダプター保持機構12によれば、特別な工具を使わなくても、弾性部材9を指で加圧圧縮することで吸塵アダプターの着脱を容易に行うことができる。また、穿孔作業中も、ドリルに加わる軸方向の振動は弾性部材9で吸収され、吸塵アダプター6の変形や摩耗は抑制される。更に、弾性部材9が、吸塵アダプター6の中心と吸塵用半径孔5の中心を一致させようとする力を常に維持するため、効率の高い粉塵の排出を維持することが出来る。
【実施例】
【0038】
図1、図2、図3、図4、を使用して、本願発明に係る吸塵アダプター保持機構12を適用した吸塵ドリル1を説明する。
【0039】
図1は、本願発明による吸塵アダプター保持機構12が装着された吸塵ドリル1の全体を示す。吸塵ドリル1は、シャンク部2と、ドリル部3により構成されている。ドリル部3には、ドリル先端13から吸塵ドリル1のほぼ中央部まで延びる粉塵排出用の吸塵用軸孔4が加工されていて、中央部で吸塵用半径孔5に連結されている。吸塵用半径孔5を取り囲む位置には、接続パイプ10が取りつけられた吸塵アダプター6が、ドリル軸に対して相対的に回転可能な状態で装着されている。
【0040】
図2は、図1において吸塵アダプター6が装着された部分、すなわち、本願発明による吸塵アダプター保持機構12、の拡大図を示す。
【0041】
吸塵アダプター6は、通常、ナイロンなどの樹脂を主材料とした部材で構成され、鋼材で製造された吸塵ドリル1との相対回転は小さな摩擦係数で安定的に維持されるようになっている。吸塵アダプター6の軸方向の両側には、第一のスリップリング8a、及び第二のスリップリング8bが装着される。さらに、これらの外側には、第一の位置決め部材7a及び第二の位置決め部材7bが、吸塵ドリル1に加工された第一の溝11a及び第二の溝11bに嵌め込まれた状態で装着されている。
【0042】
位置決め部材7a、7bは、吸塵ドリル1の溝11a,11b、に容易に着脱できるよう、ゴムなどの伸縮材料で造られたOリングを使用する。この位置決め部材7a、7bは、溝11a、11bに嵌め込まれた状態で、伸縮材料の収縮力が適度に作用するよう製作されているため、過度な力を加えない限り、位置決め部材7a、7bが、溝11a、11bから逸脱することはない。
【0043】
一方、第一の位置決め部材7aとスリップリング8aの間には弾性部材9が装着される。
図1、図2では、弾性部材9として、一般的なコイルバネで示した。
【0044】
この弾性部材9は、予め収縮されて第一の位置決め部材7aと第一のスリップリング8aの間に挿入されているため、その反発力はスリップリング8aを経由して吸塵アダプター6を第二の位置決め部材7bの方向に加圧する。しかし、第二の位置決め部材7bが溝11bに嵌め込まれて容易に移動しない状態で維持されているため、吸塵アダプター6は、弾性部材9の反発力で第二の位置決め部材7bの方向に加圧された状態を維持したまま、第二のスリップリング8b、第二の位置決め部材7bで決定される位置に維持される。
【0045】
この時、溝11a、11b、吸塵用半径孔5の夫々の軸方向の位置関係が適正になるよう予め加工しておけば、弾性部材9で加圧され、第二の位置決め部材7bで位置規制される吸塵アダプター6の中心を、吸塵用半径孔5の中心に一致する位置に維持することが出来る。
【0046】
穿孔を行うには、まず、吸塵ドリル1のシャンク部2の側を図示しない電動ドリルに装着し、次に、吸塵アダプター6の接続パイプ10に、図示していない吸塵装置に接続された図示していないホースを接続する。このホースは、ビニールなど変形容易な材料で造られたものを用いる。
【0047】
この状態で、まず、吸塵装置を作動させる。すると、ホースに接続された接続パイプ10、吸塵アダプター6、吸塵用半径孔5、吸塵用軸孔4、を経由して、ドリル先端13から吸塵装置に向けた空気の流れが発生する。次に、電動ドリルのモータを作動して、吸塵ドリル1を回転させ、ドリル先端13をコンクリートなどの材料に当接させると、ドリル先端13は材料を粉砕しながら穿孔を開始する。粉砕された材料は、粉塵になり、吸塵装置で発生される空気の流れに乗って、ドリル先端13の吸塵用軸孔4から、吸塵ドリル1の内部を通過し、吸塵アダプター6を経由して吸塵装置に回収される。
【0048】
穿孔時は、ドリル先端13で強い振動が発生する。この振動はドリル部3を伝播して吸塵アダプター6に伝わるが、大半の振動は弾性部材9が伸縮して吸収するため、吸塵アダプター6へ伝播する振動は軽減され、吸塵アダプターの損傷や摩耗は軽減される。
【0049】
また、吸塵ドリル1が回転して穿孔している間、弾性部材9は、常に吸塵アダプター6を第二の位置決め部材7bの方向に押す力を維持するため、吸塵アダプター6が軸方向に振動しても、吸塵アダプター6の中心は常に同じ位置、すなわち、吸塵用半径孔5の中心位置に維持される。従って、吸塵用半径孔5から吸塵アダプター6の接続パイプ10に向けた空気の流れは常に安定的に維持され、高い吸塵効率を維持することが出来る。
【0050】
吸塵ドリル1を交換する時は吸塵ドリル1から吸塵アダプター6を取り外す必要がある。
図3を使い、この取り外し作業を説明する。
【0051】
まず、例えば右手の二本の指14a、14bで、スリップリング8bを押して弾性部材9を圧縮する。すると、第二のスリップリング8bと第二の位置決め部材7bの間に隙間15が生じる。この状態を維持したまま、指14a、14bで、位置決め部材7bを溝11bからスリップリング8bと反対の方向に取り外す。
【0052】
位置決め部材7bは、ゴムなど伸縮可能な材料からできたOリングで造られているので、指14a、14bの腹を位置決め部材7bに当接させ、軸に直交する方向に少し押しながらドリル軸方向に力を加えれば、溝11bから取り外すことができる。一旦、位置決め部材7bを溝11bから取り外してしまうと、スリップリング8b、吸塵アダプター6、スリップリング8a、弾性部材9、位置決め部材7aなどの部品は、ドリル軸に沿って引き抜けば、簡単に取り外すことができる。
【0053】
新しい吸塵ドリル1に吸塵アダプター6を装着する場合は、以上に述べた、吸塵アダプター6の取り外し手順の逆の手順で行えばよい。
【0054】
すなわち、新しい吸塵ドリル1の溝11aに、第一の位置決め部材7aを嵌め込み、弾性部材9、第一のスリップリング8a、吸塵アダプター6、第二のスリップリング8bの順に吸塵ドリル1に装着し、最後に第二の位置決め部材7bを、例えば右手の親指と人差し指で摘まんで吸塵ドリル1の軸に挿入し、同時に、二本の指の先端で第二のスリップリング8bを軸方向に押しながら、第二の位置決め部材7bが第二の溝11bの位置にくるまで、ドリル軸に沿って挿入する。この挿入が完了した状態は、図3、すなわち、吸塵アダプター6を取り外す前の状態、と同じである。
【0055】
第二の位置決め部材7bが溝11bに嵌め込まれたことを確認したら、指を離す。すると、吸塵アダプター6は、弾性部材9の復元力で、吸塵アダプター6の中心が吸塵用半径孔5の中心と一致する位置まで移動し、その位置において第二の位置決め部材7bにより位置決めされる。以上で、吸塵アダプター6の装着作業は完全に終了する。
【0056】
以上で述べたように、本願発明による吸塵アダプター保持機構12では、弾性部材9を使用することにより、吸塵アダプター6の振動緩和と軸方向の位置保持が、穿孔作業中、連続的に確保され、吸塵アダプターの劣化や吸塵効率の低下を抑制することが出来るばかりでなく、工具を使わなくても簡単に吸塵アダプターの着脱を行うことが可能である。
【0057】
図4は、本願発明の吸塵アダプター保持機構12において、弾性部材9として、テーパーコイルバネを使用した例を示す。このテーパーコイルバネは、小径が第一の溝11aに嵌め込まれる寸法で製作されるため、軸方向の移動を規制する機能を有し、先の実施例で使用される第一の位置決め部材7aは不要である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本願発明の一の実施例における、吸塵アダプター保持機構及び吸塵ドリルの全体図
【図2】図1中、吸塵アダプター保持機構部の拡大図
【図3】本願発明の一の実施例における、吸塵アダプターの着脱作業を説明するための図。
【図4】本願発明の他の実施例における、吸塵アダプター保持機構を説明するための図
【図5】従来技術における、吸塵アダプター保持機構及び吸塵ドリルの全体図。
【符号の説明】
【0059】
1 吸塵ドリル
2 シャンク部
3 ドリル部
4 吸塵用軸孔
5 吸塵用半径孔
6 吸塵アダプター
7a,7b 位置決め部材
8a,8b スリップリング
9 弾性部材
10 接続パイプ
11a,11b 溝
12 吸塵アダプター保持機構
13 ドリル先端
14a,14b 指
15 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機に接続され、回転軸線に沿って伸びるシャンク部と、該シャンク部の先端部に設けられるドリル部と、該ドリル部の先端からシャンク部まで伸びる吸塵用軸孔と、シャンク部において該吸塵用軸孔から半径方向に伸びる吸塵用半径孔とを有する吸塵ドリルと、前記吸塵ドリルの吸塵用半径孔の外周部に、吸塵ドリルに対して相対的に回転可能に取り付けられた吸塵アダプターとからなる吸塵ドリルにおき、前記吸塵アダプターの片側に、該吸塵アダプターの回転軸方向の位置を規定する位置決め部材を設け、該吸塵アダプターに対して該位置決め部材の反対側に、該吸塵アダプターを位置決め部材方向に加圧する弾性部材を設けたことを特徴とする吸塵アダプター保持機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate