吸引力発生装置及び真空圧密地盤改良工法
【課題】水に気体が含まれる場合でもサイフォンの原理に従う吸引力を発生可能な吸引力発生装置を提供する。また、地盤改良における真空圧密を促進させ盛土による載荷の縮小や省略及び地盤改良期間の短縮を実現可能な真空圧密地盤改良工法を提供する。
【解決手段】この吸引力発生装置は、上部から下部に向けて延びる鉛直管1と、鉛直管と上部で接続し水平方向に延びる水平管2と、を有し、鉛直管の下端側と、水平管の先端側との間の水位差により、水平管の先端から鉛直管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用する吸引力発生装置であって、鉛直管の径が水平管の径よりも小さく、水平管と鉛直管とを径が漸減する漸縮接続管3を介して接続し、水平管内に水と分離して存在する空気が漸縮接続管内で気泡となって鉛直管内で気液2相流として流下することでサイフォン機能により吸引力を発生させる。
【解決手段】この吸引力発生装置は、上部から下部に向けて延びる鉛直管1と、鉛直管と上部で接続し水平方向に延びる水平管2と、を有し、鉛直管の下端側と、水平管の先端側との間の水位差により、水平管の先端から鉛直管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用する吸引力発生装置であって、鉛直管の径が水平管の径よりも小さく、水平管と鉛直管とを径が漸減する漸縮接続管3を介して接続し、水平管内に水と分離して存在する空気が漸縮接続管内で気泡となって鉛直管内で気液2相流として流下することでサイフォン機能により吸引力を発生させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイフォン機能による吸引力発生装置及びこの吸引力発生装置を用いた真空圧密地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸引力を発生させて水を吸引・排水する装置として、真空ポンプを用いた吸引装置が知られている。従来の技術では、例えば、軟弱地盤内に鉛直ドレーンを打設後、真空ポンプによる吸引装置を用いて、負圧を作用させて地盤内を減圧することによって、地盤の圧密を促進する方法(真空圧密地盤改良工法)が用いられている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−226951号公報
【特許文献2】特開2002−138456号公報
【特許文献3】特開2003−261929号公報
【特許文献4】特開2000−328550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の真空ポンプによる吸引装置は真空ポンプの能力のみに頼って吸引を行っている。このため、従来の吸引装置によれば、真空ポンプの能力以上に圧密を促進する吸引力を作用させることができない。この理由から、従来の軟弱地盤の真空圧密地盤改良工法において真空ポンプのみでは吸引力が不足する場合は、盛土による載荷を併用しなければならなかった。
【0005】
また、真空ポンプの力と水面位置の差による力とを利用した吸引装置に関し、水面下の地盤の間隙水の吸引を目的にした水底軟弱地盤の減容化工法が提案されている(特許文献3参照)。この従来技術は、水面が、間隙水を吸引したい地盤よりも高い位置にあることにより、水圧による圧縮力が作用して、間隙水を搾り出すものであり、改良したい地盤が水中にあるとともに、地盤面位置が、排水部(減圧室)の水位よりも低い位置にあるという条件の下でのみ適用できるものである。この従来方法は、改良したい地盤が陸上にあることを想定するものでなく、改良地盤面の天端位置から導かれるホースは、減圧室の側面に結合される形態としている。
【0006】
大きな吸引力を作用させる条件では、溶存酸素等の気化や通水管の気密漏れ部から流入する気体の存在を考慮しなければならないが、陸上の地盤の間隙水を吸引するために、この従来方法の形態を単純に変更して、上部から鉛直に管をつなげるだけでは、水と気体の流れが分離してしまうため、サイフォンの原理に従う吸引力は働かない。すなわち、陸上域の地盤を対象にした場合には、従来技術によれば、真空ポンプの能力以上の吸引力を発揮させることはできなかった。
【0007】
本発明は、水に気体が含まれる場合でもサイフォンの原理に従う吸引力を発生可能な吸引力発生装置を提供することを目的とする。また、地盤改良における真空圧密を促進させ盛土による載荷の縮小や省略及び地盤改良期間の短縮を実現可能な真空圧密地盤改良工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本実施形態による吸引力発生装置は、上部から下部に向けて延びる第1の管と、前記第1の管と前記上部で接続し水平方向に延びる第2の管と、を有し、前記第1の管の下端側と、前記第2の管の先端側との間の水位差により、前記第2の管の先端から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用する吸引力発生装置であって、前記第1の管の径が前記第2の管の径よりも小さく、前記第2の管と前記第1の管とを径が漸減する漸縮接続管を介して接続し、前記第2の管内に水と分離して存在する空気が前記漸縮接続管内で気泡となって前記第1の管内で気液2相流として流下することでサイフォン機能により吸引力を発生させることを特徴とする。
【0009】
この吸引力発生装置によれば、上部から下部に向けて延びる第1の管の径を水平方向に延びる第2の管の径よりも小さくし、第2の管と第1の管とを径が漸減する漸縮接続管を介して接続することで、第2の管内に水と分離して存在する空気が漸縮接続管内で水中の気泡となって第1の管内で気液2相流として安定して流れてサイフォン機能により吸引力を発生させることができ、第2の管の先端から空気を含む水を吸引し第1の管の下端から排水できる。このため、水に気体が含まれる場合でもサイフォンの原理に従う吸引力を安定して発生させることができる。
【0010】
上記吸引力発生装置において前記第1の管の下端から流れ出した気液2相流の気泡が前記第1の管内に再浮上し逆流することを防止するための空気逆流防止装置を備えることで、第1の管への気泡の逆流を防止でき、水と空気の気液2相流が安定して流れ、安定したサイフォン機能の維持に寄与できる。
【0011】
また、前記漸縮接続管は直線的に傾斜して内径が漸減し、その傾斜線を下方に延長した延長線が交叉したときの漸縮角度θが45°以下であることが好ましい。漸縮角度θが45°以下であることで、流れのエネルギの損失が小さくなり、流れがスムーズになる。
【0012】
上記吸引力発生装置は真空ポンプによる動力装置を併用することが好ましい。これにより、サイフォン機能が停止した場合に、その再開を容易に行うことができる。
【0013】
本実施形態による真空圧密地盤改良工法は、上述の吸引力発生装置を用いて軟弱地盤において真空圧密による地盤改良を行うことを特徴とする。
【0014】
この真空圧密地盤改良工法によれば、上述の吸引力発生装置によるサイフォン機能の吸引を併用することで地盤改良における真空圧密を促進させることができ、盛土による載荷の縮小や省略を図ることができるため、使用資材・機材の節減や作業工期の短縮を実現でき、また、従来の真空圧密工法に比べて吸引力が増加するため、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮することができる。
【0015】
なお、上記吸引力発生装置において第1の管は、鉛直方向に延びるように設置されてよいが、鉛直方向に設置されるものに限定されず、傾斜して設置されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の吸引力発生装置によれば、水に気体が含まれる場合でもサイフォンの原理に従う吸引力を安定して発生させることができる。
【0017】
本発明の真空圧密地盤改良工法によれば、上述の吸引力発生装置を真空ポンプと併用することにより、地盤改良における真空圧密を促進させることができ、盛土による載荷の縮小や省略及び地盤改良期間の短縮を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態による吸引力発生装置の構成を概略的に示す図(a)および要部拡大図(b)である。
【図2】図1の吸引力発生装置の漸縮接続管における水と空気との流れを説明するための模式図である。
【図3】サイフォン機能による水と空気との流れを実現できない状態を説明するための模式図である。
【図4】図3,図4はサイフォン機能による水と空気との流れを実現できないもう1つの状態を説明するための模式図である。
【図5】内径30mmの管内旋回気液二相流(空気量が左側で少なく、右側で多い)を示す図である(神戸市立工業高等専門学校 教育研究シーズ(http://www.kobe-kosen.ac.jp/kyoudou/seeds/pdf/M/M_shakutui.pdf)[気泡を含む水の流れ(気液二相流)に関する研究])。
【図6】第2の実施形態による真空圧密地盤改良工法を行う真空圧密地盤改良システムの構成を概略的に示す図である。
【図7】図6の鉛直通水管の下端に設けた空気逆流防止装置の作用効果を説明するための要部を示す図(a)及び鉛直通水管の下端において生じる問題を説明するための図(b)である。
【図8】第3の実施形態による真空圧密地盤改良工法を行う真空圧密地盤改良システムの構成を概略的に示す図である。
【図9】本実施例で用いた実験装置を概略的に示す図である。
【図10】比較例1において流速0.7m/秒、空気混入率0%の条件で測定した各位置St.A〜St.Eにおける作用負圧の経過時間による変化を示すグラフである。
【図11】比較例2において流速0.7m/秒、空気混入率5%の条件で測定した最下部にあるSt.Aの圧力を基準とした各位置St.B〜St.Eにおける圧力偏差の経過時間による変化を示すグラフである。
【図12】実施例において流速0.7m/秒、空気混入率10%の条件で測定した最下部にあるSt.Aの圧力を基準とした各位置St.B〜St.Eにおける圧力偏差の経過時間による変化を示すグラフである。
【図13】比較例3において流速0.7m/秒、空気混入率10%の条件で測定した最下部にあるSt.Aの圧力を基準とした各位置St.B〜St.Eにおける圧力偏差の経過時間による変化を示すグラフである。
【図14】実施例、比較例1〜3において、流速を0.4m/秒としたときの空気混入率と圧力偏差との関係を示すグラフである。
【図15】実施例、比較例1〜3において、流速を0.7m/秒としたときの空気混入率と圧力偏差との関係を示すグラフである。
【図16】管の径が急減に縮小する急縮管の場合におけるエネルギ損失を説明するための図である。
【図17】図16の急縮管の場合における損失係数fscを急拡前後の面積比A1/A2との関係で示す表である(「水理公式集」土木学会編(平成11年度)374頁参照)。
【図18】管の径が漸減する漸縮管の場合、各面積比A1/A2について損失係数と角度θとの関係を示すグラフである(岩佐義朗 朝倉土木工学講座3 朝倉出版、268頁)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
【0020】
〈第1の実施形態〉
図1は第1の実施形態による吸引力発生装置の構成を概略的に示す図(a)および要部拡大図(b)である。図2は図1の吸引力発生装置の漸縮接続管における水と空気との流れを説明するための模式図である。図3,図4はサイフォン機能による水と空気との流れを実現できない状態を説明するための模式図である。なお、図1〜図4の縦方向が鉛直方向、横方向が水平方向である。
【0021】
図1(a)の吸引力発生装置は、上部から下部に向けて鉛直方向に延びる第1の管である鉛直管1と、鉛直管1の上部で水平方向に延びる第2の管である水平管2と、鉛直管1の上部に配置されて水平管2に接続する漸縮接続管3と、を備え、鉛直管1及び水平管2は円筒管からなる。鉛直管1の内径は水平管2の内径よりも小さく、鉛直管1の通水断面積が水平管2の通水断面積よりも小さくなっている。
【0022】
漸縮接続管3は、その内径が図1(a)(b)の上側で大きく下側に向けて漸減し縮径されて小さくなるように構成されており、水平管2とほぼ同じ内径の上部管3aを有し、上側で上部管3aが水平管2に接続し、下側で上部管3aよりも内径の小さい鉛直管1に接続されている。漸縮接続管3は、図1(b)のように内面が直線的に傾斜して内径が漸減し、その傾斜線を下方に延長した延長線1a,1bが交叉して挟角(角度θ)をなし、その角度(漸縮角度)θは45°以下(θ≦45°)が好ましい。
【0023】
図1(a)(b)のように、本実施形態の吸引力発生装置は、鉛直管1の径を水平管2よりも小さく定め、45°以下の漸縮角度θで内径が漸縮する構造を有する漸縮接続管3を用いて水平管2と径の小さい鉛直管1とを接続することにより、鉛直管1内で水と気体が混合した気液2相流を安定して形成させ、サイフォンを機能させるものである。
【0024】
図1(a)のように、鉛直管1の下端1aが水中にあるとき、その排水面と水平管2の先端2a側の水面との間の水位差ΔHに起因するサイフォン機能により鉛直管1の下端1a側に吸引力が発生することで、破線で示す方向fに水が流れる。なお、図1の排水面が鉛直管1の下端1aに達していないときは、鉛直管1の下端1aと水平管2の先端2a側の水面との間の水位差に起因するサイフォン機能により鉛直管1の下端1a側に吸引力が発生する。
【0025】
次に、本実施形態の吸引力発生装置の原理について説明する。浮力による気泡の上昇速度νaは、浮力と抗力のつりあいにより、次の式(1)によって評価できる。
【0026】
νa=[8gra/(3CD)]0.5 (1)
【0027】
ここで、raは気泡の半径であり、気泡の大きさは最大で管径の1/2となりえる。また、CDは抗力係数であり、0.5で与えられる。
【0028】
また、管の通水断面積をAとすると、気泡の最大半径ra(max)は、次の式(2)で表すことができる。
【0029】
ra(max)=(A/π)0.5 (2)
【0030】
また、鉛直管に流入してくる水の流量がQのとき、鉛直管を流下する水の流速νwは、次の式(3)で評価できる。
【0031】
νw=Q/A (3)
【0032】
上記式(3)は、水平管から流入してくる流量に対して、鉛直管の内径を小さくし、通水断面積を小さくすると、流速が増加することを示している。
【0033】
ここで、鉛直管内において、鉛直管を流下する水の流速νw>気泡の上昇速度νaとなるような鉛直管構造を設けることにより、気泡が水の流れに連行され、気液混相流(気液2相流)が形成されるためサイフォンが機能する。
【0034】
νw>νaの上記条件を成立させるために次の構成が考えられる。
(1)鉛直管の内径を小さくして、形成されうる気泡の最大径を小さくし、気泡の上昇速度を抑える(式(1),(2))。
(2)鉛直管の内径を小さくして、水の流下速度を上昇させる(式(3))。
(3)鉛直管構造を工夫して、気泡をマイクロ、ミリバブル化させて小さくする(気泡の半径raを小さくする)ことにより、気泡の上昇速度を抑える(式(1))。
【0035】
本実施形態の吸引力発生装置は、上記(1)〜(3)の各効果を併せ持つ鉛直管構造を有するものである。本発明者等の実験及び検討によれば、特に(3)の効果を発揮する図1のような漸縮接続管3を有する鉛直管構造により、空気混入率が高い条件でもサイフォン機能を持続させることができるという知見を得た。
【0036】
図5のように、円管の周方向から液体を流入させ、同時に気体を入れると渦を巻くように気液二相流が流れ、空気量が多くなるに従い、大きな空気の柱が形成される。すなわち、図3,図4のように、水平管から鉛直管に向けて水と空気が流下する際に、ある一定以上の空気が混入すると自然と鉛直管内に空気の柱ができてしまう。この現象は鉛直管の径を全体的に小さくしても同様に生じる。したがって、空気の柱によりサイフォンが途切れてしまうことから、空気の柱を細かい泡に変える必要がある。
【0037】
そこで、本実施形態では、図2のように鉛直管1の途中に設けた漸縮接続管3において空気の柱に上部管3aの内壁面に沿う水流をぶつけることで空気をマイクロ、ミリバブルに変化させ、気泡の半径raを小さくし、サイフォン機能を途切れないようにしている。
【0038】
すなわち、図2のように水と空気の流れの界面には摩擦力(下記A)が働くため、内壁面に沿って中央に集まってくる水が細い管に流下する過程で、空気は摩擦力によりせん断されてマイクロ、ミリバブル化し、水と一体となって流下する。
【0039】
τ=ρafu2 (A)
ただし、τは摩擦力、ρaは空気の密度、fは摩擦係数(1×10-3程度の大きさ)、uは空気と水の流れの相対速度である(堀川清司 「海岸工学」−海洋工学への序説−、東京大学出版会、317頁参照)。
【0040】
上述のように、水平管2から鉛直管1に向けて水と空気が流れる際に、上部管3a内で空気の柱が略中心部に形成されるとともに内壁面に沿って水流が形成されても、径が漸減する漸縮接続管3で水流が1つになって空気の柱と衝突し、空気が摩擦力によりせん断されることでマイクロ、ミリバブル化し、鉛直管を流下する水の流速νw>気泡の上昇速度νaの上記条件を満足させ、マイクロ、ミリバブル化した気泡が水に混在した状態で気液2相流となって安定して流れることよりサイフォン機能を安定して維持することができる。
【0041】
本実施形態の吸引力発生装置によれば、水平管2から鉛直管1に空気を含んだ水をサイフォン機能により引き込む際に、水と空気の気液2相流を効率よく発生させることでき、サイフォンを機能させて吸引力を安定して発生させることができる。サイフォンを吸引力として用いる場合、水に対する空気混入量が多いときには、サイフォン機能が容易に低下してしまうが、本実施形態によれば、混入空気量が最大40%程度であってもサイフォン機能が途切れないようにできる。
【0042】
なお、気泡は容易に互いに結合し、鉛直管1内に再浮上し、逆流しようとすることから、気泡を鉛直管1へ逆流させないような空気逆流防止装置(図6,図7(a)参照)を設けることが好ましい。
【0043】
また、図1の吸引力発生装置において、気液2相流が形成される領域は、漸縮接続管3を通過した後の内径の小さい鉛直管1内である。このため、限られた鉛直スペースの中でサイフォンの吸引力をより強く発揮させるためには、図1のように漸縮接続管3の長さmは、鉛直管1の長さnの1/3程度以下(鉛直管1と漸縮接続管3との全体長さ(m+n)の1/4程度以下)とすることが望ましい。
【0044】
また、図1(a)の吸引力発生装置は、サイフォン機能がいったん停止した後に、サイフォンを再開させる場合などを考えると、真空ポンプの動力装置と併用することが好ましい。
【0045】
次に、漸縮接続管3を漸縮タイプに構成した理由について図16〜図18を参照して説明する。鉛直管内においてサイフォン機能により発生する負圧は、ベルヌーイの定理(エネルギー方程式)を用いて評価できる。すなわち、鉛直管内の下端を基準とした上端の負圧水頭hsuctionは次式(4)で表わすことができる。
【0046】
hsuction=(p1−p2)/(ρg)
=−(v12−v22)/(2g)−(z1−z2)+hloss (4)
【0047】
ただし、ρは密度、gは重力加速度、pは水圧、vは流速、zは鉛直座標(上向きを正)、hlossはエネルギ損失水頭であり、添字1,2は、それぞれ上端位置および下端位置を示す。
【0048】
上式(4)において、上端と下端の距離が大きいほど(z1−z2)が大きくなり、負圧が大きくなることがわかる。また、鉛直下方に流れるときのエネルギ損失が大きいとき(hlossが大きいとき)、発生する負圧が小さくなることがわかる。すなわち、負圧を効果的に発生させるためには、流れをスムーズに導いてエネルギ損失をできるだけ低減させることが重要である。
【0049】
ここで、管の径が急減に縮小する急縮管の場合、図16のように流線の剥離が起こるためエネルギの損失が生じる。このときのエネルギ損失水頭は次式(5)で表わすことができる。
hloss=fsc×v22/(2g) (5)
【0050】
ただし、v2は縮小後の管を流れる流速、fscは損失係数であり、急拡前後の面積比A1/A2(図16)に応じて図17のような値をとる。
【0051】
一方、図1(b)のように管の径が漸減する漸縮管の場合、図16のような流線の剥離が生じないため損失係数は極めて小さい。既往の研究成果により漸縮管の損失係数fscは図18のように得られており、漸縮損失係数は図17の急縮管の場合と比べてかなり小さいことがわかる。
【0052】
上述のように、エネルギの損失を抑えて効果的に負圧を発生させるためには、図1(a)(b)の接続管3を漸縮タイプ(漸縮接続管)にすることが望ましく、また、その漸縮角度θは、本発明者等の実験によれば、45°以下が望ましく、流れのエネルギの損失が小さく、流れがスムーズになり、負圧を効果的に発生させることができる。
【0053】
〈第2の実施形態〉
図6は第2の実施形態による真空圧密地盤改良工法を行う真空圧密地盤改良システムの構成を概略的に示す図である。図7は図6の鉛直通水管の下端に設けた空気逆流防止装置の作用効果を説明するための要部を示す図(a)及び鉛直通水管の下端において生じる問題を説明するための図(b)である。
【0054】
図6の真空圧密地盤改良システムS1は、鉛直通水管21と水平通水管22とを有する吸引力発生装置と、図の破線で示す真空減圧装置20と、を備え、真空圧密地盤改良のために軟弱地盤G中に打設される鉛直ドレーン材31が不透気部32と接続部33とを介して水平通水管22に連結され、水平通水管22は、鉛直通水管21と、鉛直通水管21の上端で接続されている。
【0055】
鉛直通水管21は鉛直方向に延びて地下部に設置された密閉室26の底面26aの近傍まで達し、鉛直通水管21の下端には屈曲管28が取り付けられ、屈曲管28の先端が密閉室26の底部の水位面H1下にある。また、鉛直通水管21及び水平通水管22は、それぞれ円筒管からなり、鉛直通水管21の内径は水平通水管22の内径よりも小さくなっている。
【0056】
真空減圧装置20は、真空ポンプ23と、排水設備である揚水ポンプ24・排水管25と、地中内部に設置された密閉室26と、を備える。密閉室26は、鉛直通水管21と揚水ポンプ24・排水管25とを収納し、真空ポンプ23により減圧されることで、真空減圧装置20は減圧発生源として機能するようになっている。
【0057】
鉛直ドレーン材31は、軟弱地盤G内の間隙水を吸引するために軟弱地盤G内に打設され、鉛直ドレーン材31の上端に接続される不透気部32は地下水位面H0に位置する。なお、鉛直ドレーン材31は、軟弱地盤G内に必要に応じて複数本打設され、不透気部32や接続部33とともに、例えば、特許文献1〜3に開示された構成とすることができる。
【0058】
真空圧密地盤改良システムS1は、図6のように、鉛直通水管21の下端に、鉛直方向から90°程度折れ曲がるようにして構成された屈曲管28からなる空気逆流防止装置を有する。図7(a)のように鉛直通水管21から鉛直方向b’に流れてきた気液2相流が屈曲管28内で図の横方向b”に流れて屈曲管28から排出され、気泡eが密閉室26の水面へと浮上する。
【0059】
上記空気逆流防止装置がない場合、図7(b)のように、鉛直通水管21の下端から鉛直方向b’に気液2相流が排出されると、密閉室26の底面26aに当たり反転方向bbに反転し、勢いがなくなり、気泡eが再浮上しようとし、鉛直方向b’から流れてきた気泡eと結合して鉛直通水管21内で逆流するおそれがあるのに対し、図7(a)のように空気逆流防止装置の屈曲管28により気液2相流の流れ方向を横方向b”に変えて気泡eを確実に密閉室26内へと排出することができ、水と空気の気液2相流が安定して流れ、サイフォン機能の安定維持に寄与できる。
【0060】
図6の真空圧密地盤改良システムS1による真空圧密地盤改良工法を説明すると、真空減圧装置20の真空ポンプ23で密閉室26内を減圧することによる吸引力に加えて、地下水位面H0と密閉室26内の水位面H1との水位差ΔH(=H0−H1)に起因するサイフォン機能による吸引力が発生し、これらの吸引力により軟弱地盤G内の間隙水を吸引することで軟弱地盤Gを圧密する。この真空圧密を、真空ポンプ23のみで吸引する場合と比べて水位差ΔHに起因する吸引力が加わる分だけより大きな吸引力で行うことができる。
【0061】
従来の真空圧密地盤改良工法によれば真空ポンプのみでは吸引力が不足する場合は、盛土による載荷を併用していたのに対し、本実施形態のようにサイフォン機能による吸引力を併用することにより、盛土による載荷を縮小したり省略できるため、使用資材・機材の節減や作業工期の短縮を期待することができる。また、従来の工法に比べて吸引力が増加するため、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮することができる。
【0062】
本実施形態による吸引力発生装置は、鉛直通水管21と、鉛直通水管21と上部で接続し水平方向に延びる水平通水管22と、を有し、鉛直通水管21の下端側と、水平通水管22の先端側との間の水位差により、水平通水管22の先端から鉛直通水管21の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用し、鉛直通水管21の通水断面積が水平通水管22の通水断面積よりも小さくなるように構成し、水平通水管22内に水と分離して存在する空気が鉛直通水管21内で気泡となって気液2相流として流下することでサイフォン機能により吸引力を発生させるものである。本実施形態においては、水平通水管22内に空気が含まれる条件においても、サイフォンを機能させるためには、鉛直通水管21内において水と気体が混合した気液2相流を形成させることが重要であり、好ましくは、鉛直通水管21の内径は水平通水管22の内径の50%以下(水平通水管22の内径が0.1mを超えるとき)または70%以下(水平通水管22の内径が0.1m以下のとき)である。また、鉛直通水管21の下端には図7(a)のような空気逆流防止装置を設けることが好ましい。
【0063】
なお、揚水ポンプ24は、揚程差10m以上の高揚程タイプが好ましく、密閉室26を地中深く設置し、水位差ΔHの確保のため密閉室26内の水位面H1を地下水位面H0に対しより低くした場合でも、密閉室26内の貯留水を排水できる。
【0064】
〈第3の実施形態〉
図8は第3の実施形態による真空圧密地盤改良工法を行う真空圧密地盤改良システムの構成を概略的に示す図である。
【0065】
図8の真空圧密地盤改良システムS2は、吸引力発生装置を図1のように構成したこと以外は、図6と基本的に同様の構成であるので、異なる点を主に説明する。すなわち、水平通水管22と水平通水管22よりも内径の小さい鉛直通水管21との間に図1と同様の漸縮接続管3を配置し、漸縮接続管3の上部管3aが水平通水管22に連結している。鉛直通水管21の下端には、図6,図7(a)と同様の屈曲管28からなる空気逆流防止装置が設けられることで、屈曲管28から気泡eを確実に外部に排出することができ、鉛直通水管21内で水と空気の気液2相流が安定して流れ、サイフォン機能の安定維持に寄与できる。
【0066】
図8の真空圧密地盤改良システムS2により、図6と同様に真空ポンプ23による吸引力に加えて、地下水位面H0と密閉室26内の水位面H1との水位差ΔH(=H0−H1)に起因するサイフォン機能により発生する吸引力を利用して真空圧密地盤改良工法を実行できるが、図8の吸引力発生装置によれば、水平通水管22内に空気が含まれる条件であっても、漸縮接続管3を鉛直通水管21に設けることで水と空気の気液2相流を効率よく発生させ、サイフォン機能を途切れさせずに吸引力を安定して発生させることができるので、吸引力を効率よく軟弱地盤に加えることができる。このため、真空圧密地盤改良工法を安定して実行でき、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮することができる。
【実施例1】
【0067】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0068】
実験概要
鉛直通水管に設けた漸縮接続管がサイフォン機能の持続に及ぼす効果を検証するために実験を行った。実験装置を図9に示す。水平通水管の管径を50mm、鉛直通水管の管径を35mm(水平通水管の70%に縮径)とした。なお、漸縮接続管の長さは、接続する鉛直通水管の長さの1/3程度(鉛直通水管と漸縮接続管との全体長さの1/4程度)に相当する0.5mに設定するととともに、図1(b)の漸縮角度θを45°とした。水圧計A〜Eを図9のように配置し、水圧計A〜Eの各位置をSt.A〜St.Eとする。
【0069】
図9の実験装置を用いて以下の手順で実験を行った。
ステップ1:鉛直通水管に栓をして、水平通水管および鉛直通水管を水で飽和させ、水量調整バルブを締める。
ステップ2:鉛直通水管の栓をとり、水量調整バルブを開ける。
ステップ3:水の流量計の数値を基に所定の流量にする。
ステップ4:空気調整バルブを開け、空気を所定の量だけ混入する。この際、水の流量が変化するので再度調整する。
ステップ5:水の流量が安定したところで計測を行う。
【0070】
表1に示すように実施例以外に比較例1〜3についても同様に実験を行った。すなわち、図9の鉛直通水管の上側(大径)を鉛直通水管P1とし、下側(小径)を鉛直通水管P2とした場合、比較例1は、鉛直通水管P1,P2をともに内径50mmとしたものであり、比較例2は、比較例1と同様であるが、鉛直通水管P1,P2全体に内径30mmの不透水棒を挿入して鉛直通水管P1,P2全体の通水断面積を小さくしたものであり、比較例3は、鉛直通水管P1,P2をともに内径35mmとし、実施例の内径50mmの鉛直通水管P1の70%に縮小したものである。なお、図9のように鉛直通水管の下端には図7(a)のような屈曲管を取り付けた。
【0071】
上記実施例及び比較例1〜3について空気の混入率と流速を変化させて実験を行った。なお,鉛直通水管内の流速については水量調整バルブの調整により変化させ、空気量は空気量計にて計測しながら空気量調整バルブにて変化させた。
【0072】
【表1】
【0073】
実験結果
比較例1で空気混入率0%時の管内の負圧計測結果を図10に示すが、水頭差に従って鉛直通水管内に働く吸引力により、最上部にあるSt.DとSt.Eでは、最下部にあるSt.Aに比べて、水頭差に相当する18kPa程度の負圧が作用することが確認できた。
【0074】
実施例、比較例2,3の実験開始後における管内の負圧計測結果について、最下部にあるSt.Aの圧力を基準とした各位置における圧力偏差の経過時間による変化の一例を図11〜図13に示す。また、実施例、比較例1〜3において、流速を0.4m/秒としたときの空気混入率と圧力偏差との関係を図14に示し、流速を0.7m/秒としたときの空気混入率と圧力偏差との関係を図15に示す。
【0075】
図14,図15から、鉛直通水管の通水断面積を変化させていない基本ケースの比較例1では、空気が混入するとサイフォンが機能しないことがわかる。一方、鉛直通水管の通水断面積を縮小させた比較例2,3では、(1)形成されうる気泡の最大径を小さくし、気泡の上昇速度を抑える効果、及び、(2)水の流下速度を増加させる効果により、サイフォンが機能するが、許容できる空気混入率は5%程度であることがわかる。
【0076】
本実施例では、縮径接続管を併用した鉛直管構造にすることにより、気泡をマイクロ、ミリバブル化させて、気泡の上昇速度を大幅に抑える効果が発揮されたため、図14,図15のように、比較例2,3に比べて大幅に空気混入率を許容でき、最大40%程度の空気混入率を許容できることが確認できた。ただし、流速が速い方がサイフォン機能は維持されやすいことがわかる。
【0077】
以上のように、比較例2,3のように鉛直通水管の断面積を全体的に小さくした場合よりも、本実施例のように漸縮接続部を途中で設け鉛直通水管の面積を小さくした方がサイフォン機能を効果的に維持できることが確認できた。
【0078】
以上の実験によれば、溶存酸素等の気化や通水管の気密漏れ部から流入する気体の存在があるような条件においても確実にサイフォンの吸引力を作用させるためには、鉛直通水管の途中に漸縮接続管を配置し径の小さい鉛直通水管に接続する構成とすることで気液2相流を安定して形成させることが重要であることを確認できた。
【0079】
以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、本発明による吸引力発生装置を真空圧密地盤改良システムに適用したが、これに限定されず、他の装置・システム・他の工法に適宜適用してよく、同様の効果を得ることができる。また、鉛直管(鉛直通水管)、水平管(水平通水管)は、円筒管以外であってもよく、例えば角筒管でもよい。
【0080】
また、図6〜図8の空気逆流防止装置の屈曲管28は、約90°に曲げられた管を鉛直通水管21の下端に取り付けるように構成できるが、これに限定されず、鉛直通水管21の下端自体を折り曲げてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明による吸引力発生装置によれば、水に気体が含まれる場合でもサイフォンの原理による吸引力を安定して発生させることができるので、真空ポンプに頼らずにサイフォンの自然エネルギを極力使用可能となり、電力等のコストを削減可能となる。
【0082】
本発明による真空圧密地盤改良工法によれば、サイフォン機能による吸引力を併用することで盛土による載荷の縮小・省略が可能となり、使用資材・機材の節減や作業工期の短縮を実現でき、また、従来の工法に比べて吸引力が増加するため、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮できる。
【符号の説明】
【0083】
1 鉛直管(第1の管)
2 水平管(第2の管)
3 漸縮接続管
20 真空減圧装置
21 鉛直通水管
22 水平通水管
23 真空ポンプ
26 密閉室
28 屈曲管
31 鉛直ドレーン材
b 鉛直方向
e 気泡
G 軟弱地盤
H0 地下水位面
H1 密閉室内の水位面
ΔH 水位差
S1,S2 真空圧密地盤改良システム
θ 漸縮角度
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイフォン機能による吸引力発生装置及びこの吸引力発生装置を用いた真空圧密地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸引力を発生させて水を吸引・排水する装置として、真空ポンプを用いた吸引装置が知られている。従来の技術では、例えば、軟弱地盤内に鉛直ドレーンを打設後、真空ポンプによる吸引装置を用いて、負圧を作用させて地盤内を減圧することによって、地盤の圧密を促進する方法(真空圧密地盤改良工法)が用いられている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−226951号公報
【特許文献2】特開2002−138456号公報
【特許文献3】特開2003−261929号公報
【特許文献4】特開2000−328550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の真空ポンプによる吸引装置は真空ポンプの能力のみに頼って吸引を行っている。このため、従来の吸引装置によれば、真空ポンプの能力以上に圧密を促進する吸引力を作用させることができない。この理由から、従来の軟弱地盤の真空圧密地盤改良工法において真空ポンプのみでは吸引力が不足する場合は、盛土による載荷を併用しなければならなかった。
【0005】
また、真空ポンプの力と水面位置の差による力とを利用した吸引装置に関し、水面下の地盤の間隙水の吸引を目的にした水底軟弱地盤の減容化工法が提案されている(特許文献3参照)。この従来技術は、水面が、間隙水を吸引したい地盤よりも高い位置にあることにより、水圧による圧縮力が作用して、間隙水を搾り出すものであり、改良したい地盤が水中にあるとともに、地盤面位置が、排水部(減圧室)の水位よりも低い位置にあるという条件の下でのみ適用できるものである。この従来方法は、改良したい地盤が陸上にあることを想定するものでなく、改良地盤面の天端位置から導かれるホースは、減圧室の側面に結合される形態としている。
【0006】
大きな吸引力を作用させる条件では、溶存酸素等の気化や通水管の気密漏れ部から流入する気体の存在を考慮しなければならないが、陸上の地盤の間隙水を吸引するために、この従来方法の形態を単純に変更して、上部から鉛直に管をつなげるだけでは、水と気体の流れが分離してしまうため、サイフォンの原理に従う吸引力は働かない。すなわち、陸上域の地盤を対象にした場合には、従来技術によれば、真空ポンプの能力以上の吸引力を発揮させることはできなかった。
【0007】
本発明は、水に気体が含まれる場合でもサイフォンの原理に従う吸引力を発生可能な吸引力発生装置を提供することを目的とする。また、地盤改良における真空圧密を促進させ盛土による載荷の縮小や省略及び地盤改良期間の短縮を実現可能な真空圧密地盤改良工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本実施形態による吸引力発生装置は、上部から下部に向けて延びる第1の管と、前記第1の管と前記上部で接続し水平方向に延びる第2の管と、を有し、前記第1の管の下端側と、前記第2の管の先端側との間の水位差により、前記第2の管の先端から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用する吸引力発生装置であって、前記第1の管の径が前記第2の管の径よりも小さく、前記第2の管と前記第1の管とを径が漸減する漸縮接続管を介して接続し、前記第2の管内に水と分離して存在する空気が前記漸縮接続管内で気泡となって前記第1の管内で気液2相流として流下することでサイフォン機能により吸引力を発生させることを特徴とする。
【0009】
この吸引力発生装置によれば、上部から下部に向けて延びる第1の管の径を水平方向に延びる第2の管の径よりも小さくし、第2の管と第1の管とを径が漸減する漸縮接続管を介して接続することで、第2の管内に水と分離して存在する空気が漸縮接続管内で水中の気泡となって第1の管内で気液2相流として安定して流れてサイフォン機能により吸引力を発生させることができ、第2の管の先端から空気を含む水を吸引し第1の管の下端から排水できる。このため、水に気体が含まれる場合でもサイフォンの原理に従う吸引力を安定して発生させることができる。
【0010】
上記吸引力発生装置において前記第1の管の下端から流れ出した気液2相流の気泡が前記第1の管内に再浮上し逆流することを防止するための空気逆流防止装置を備えることで、第1の管への気泡の逆流を防止でき、水と空気の気液2相流が安定して流れ、安定したサイフォン機能の維持に寄与できる。
【0011】
また、前記漸縮接続管は直線的に傾斜して内径が漸減し、その傾斜線を下方に延長した延長線が交叉したときの漸縮角度θが45°以下であることが好ましい。漸縮角度θが45°以下であることで、流れのエネルギの損失が小さくなり、流れがスムーズになる。
【0012】
上記吸引力発生装置は真空ポンプによる動力装置を併用することが好ましい。これにより、サイフォン機能が停止した場合に、その再開を容易に行うことができる。
【0013】
本実施形態による真空圧密地盤改良工法は、上述の吸引力発生装置を用いて軟弱地盤において真空圧密による地盤改良を行うことを特徴とする。
【0014】
この真空圧密地盤改良工法によれば、上述の吸引力発生装置によるサイフォン機能の吸引を併用することで地盤改良における真空圧密を促進させることができ、盛土による載荷の縮小や省略を図ることができるため、使用資材・機材の節減や作業工期の短縮を実現でき、また、従来の真空圧密工法に比べて吸引力が増加するため、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮することができる。
【0015】
なお、上記吸引力発生装置において第1の管は、鉛直方向に延びるように設置されてよいが、鉛直方向に設置されるものに限定されず、傾斜して設置されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の吸引力発生装置によれば、水に気体が含まれる場合でもサイフォンの原理に従う吸引力を安定して発生させることができる。
【0017】
本発明の真空圧密地盤改良工法によれば、上述の吸引力発生装置を真空ポンプと併用することにより、地盤改良における真空圧密を促進させることができ、盛土による載荷の縮小や省略及び地盤改良期間の短縮を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態による吸引力発生装置の構成を概略的に示す図(a)および要部拡大図(b)である。
【図2】図1の吸引力発生装置の漸縮接続管における水と空気との流れを説明するための模式図である。
【図3】サイフォン機能による水と空気との流れを実現できない状態を説明するための模式図である。
【図4】図3,図4はサイフォン機能による水と空気との流れを実現できないもう1つの状態を説明するための模式図である。
【図5】内径30mmの管内旋回気液二相流(空気量が左側で少なく、右側で多い)を示す図である(神戸市立工業高等専門学校 教育研究シーズ(http://www.kobe-kosen.ac.jp/kyoudou/seeds/pdf/M/M_shakutui.pdf)[気泡を含む水の流れ(気液二相流)に関する研究])。
【図6】第2の実施形態による真空圧密地盤改良工法を行う真空圧密地盤改良システムの構成を概略的に示す図である。
【図7】図6の鉛直通水管の下端に設けた空気逆流防止装置の作用効果を説明するための要部を示す図(a)及び鉛直通水管の下端において生じる問題を説明するための図(b)である。
【図8】第3の実施形態による真空圧密地盤改良工法を行う真空圧密地盤改良システムの構成を概略的に示す図である。
【図9】本実施例で用いた実験装置を概略的に示す図である。
【図10】比較例1において流速0.7m/秒、空気混入率0%の条件で測定した各位置St.A〜St.Eにおける作用負圧の経過時間による変化を示すグラフである。
【図11】比較例2において流速0.7m/秒、空気混入率5%の条件で測定した最下部にあるSt.Aの圧力を基準とした各位置St.B〜St.Eにおける圧力偏差の経過時間による変化を示すグラフである。
【図12】実施例において流速0.7m/秒、空気混入率10%の条件で測定した最下部にあるSt.Aの圧力を基準とした各位置St.B〜St.Eにおける圧力偏差の経過時間による変化を示すグラフである。
【図13】比較例3において流速0.7m/秒、空気混入率10%の条件で測定した最下部にあるSt.Aの圧力を基準とした各位置St.B〜St.Eにおける圧力偏差の経過時間による変化を示すグラフである。
【図14】実施例、比較例1〜3において、流速を0.4m/秒としたときの空気混入率と圧力偏差との関係を示すグラフである。
【図15】実施例、比較例1〜3において、流速を0.7m/秒としたときの空気混入率と圧力偏差との関係を示すグラフである。
【図16】管の径が急減に縮小する急縮管の場合におけるエネルギ損失を説明するための図である。
【図17】図16の急縮管の場合における損失係数fscを急拡前後の面積比A1/A2との関係で示す表である(「水理公式集」土木学会編(平成11年度)374頁参照)。
【図18】管の径が漸減する漸縮管の場合、各面積比A1/A2について損失係数と角度θとの関係を示すグラフである(岩佐義朗 朝倉土木工学講座3 朝倉出版、268頁)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
【0020】
〈第1の実施形態〉
図1は第1の実施形態による吸引力発生装置の構成を概略的に示す図(a)および要部拡大図(b)である。図2は図1の吸引力発生装置の漸縮接続管における水と空気との流れを説明するための模式図である。図3,図4はサイフォン機能による水と空気との流れを実現できない状態を説明するための模式図である。なお、図1〜図4の縦方向が鉛直方向、横方向が水平方向である。
【0021】
図1(a)の吸引力発生装置は、上部から下部に向けて鉛直方向に延びる第1の管である鉛直管1と、鉛直管1の上部で水平方向に延びる第2の管である水平管2と、鉛直管1の上部に配置されて水平管2に接続する漸縮接続管3と、を備え、鉛直管1及び水平管2は円筒管からなる。鉛直管1の内径は水平管2の内径よりも小さく、鉛直管1の通水断面積が水平管2の通水断面積よりも小さくなっている。
【0022】
漸縮接続管3は、その内径が図1(a)(b)の上側で大きく下側に向けて漸減し縮径されて小さくなるように構成されており、水平管2とほぼ同じ内径の上部管3aを有し、上側で上部管3aが水平管2に接続し、下側で上部管3aよりも内径の小さい鉛直管1に接続されている。漸縮接続管3は、図1(b)のように内面が直線的に傾斜して内径が漸減し、その傾斜線を下方に延長した延長線1a,1bが交叉して挟角(角度θ)をなし、その角度(漸縮角度)θは45°以下(θ≦45°)が好ましい。
【0023】
図1(a)(b)のように、本実施形態の吸引力発生装置は、鉛直管1の径を水平管2よりも小さく定め、45°以下の漸縮角度θで内径が漸縮する構造を有する漸縮接続管3を用いて水平管2と径の小さい鉛直管1とを接続することにより、鉛直管1内で水と気体が混合した気液2相流を安定して形成させ、サイフォンを機能させるものである。
【0024】
図1(a)のように、鉛直管1の下端1aが水中にあるとき、その排水面と水平管2の先端2a側の水面との間の水位差ΔHに起因するサイフォン機能により鉛直管1の下端1a側に吸引力が発生することで、破線で示す方向fに水が流れる。なお、図1の排水面が鉛直管1の下端1aに達していないときは、鉛直管1の下端1aと水平管2の先端2a側の水面との間の水位差に起因するサイフォン機能により鉛直管1の下端1a側に吸引力が発生する。
【0025】
次に、本実施形態の吸引力発生装置の原理について説明する。浮力による気泡の上昇速度νaは、浮力と抗力のつりあいにより、次の式(1)によって評価できる。
【0026】
νa=[8gra/(3CD)]0.5 (1)
【0027】
ここで、raは気泡の半径であり、気泡の大きさは最大で管径の1/2となりえる。また、CDは抗力係数であり、0.5で与えられる。
【0028】
また、管の通水断面積をAとすると、気泡の最大半径ra(max)は、次の式(2)で表すことができる。
【0029】
ra(max)=(A/π)0.5 (2)
【0030】
また、鉛直管に流入してくる水の流量がQのとき、鉛直管を流下する水の流速νwは、次の式(3)で評価できる。
【0031】
νw=Q/A (3)
【0032】
上記式(3)は、水平管から流入してくる流量に対して、鉛直管の内径を小さくし、通水断面積を小さくすると、流速が増加することを示している。
【0033】
ここで、鉛直管内において、鉛直管を流下する水の流速νw>気泡の上昇速度νaとなるような鉛直管構造を設けることにより、気泡が水の流れに連行され、気液混相流(気液2相流)が形成されるためサイフォンが機能する。
【0034】
νw>νaの上記条件を成立させるために次の構成が考えられる。
(1)鉛直管の内径を小さくして、形成されうる気泡の最大径を小さくし、気泡の上昇速度を抑える(式(1),(2))。
(2)鉛直管の内径を小さくして、水の流下速度を上昇させる(式(3))。
(3)鉛直管構造を工夫して、気泡をマイクロ、ミリバブル化させて小さくする(気泡の半径raを小さくする)ことにより、気泡の上昇速度を抑える(式(1))。
【0035】
本実施形態の吸引力発生装置は、上記(1)〜(3)の各効果を併せ持つ鉛直管構造を有するものである。本発明者等の実験及び検討によれば、特に(3)の効果を発揮する図1のような漸縮接続管3を有する鉛直管構造により、空気混入率が高い条件でもサイフォン機能を持続させることができるという知見を得た。
【0036】
図5のように、円管の周方向から液体を流入させ、同時に気体を入れると渦を巻くように気液二相流が流れ、空気量が多くなるに従い、大きな空気の柱が形成される。すなわち、図3,図4のように、水平管から鉛直管に向けて水と空気が流下する際に、ある一定以上の空気が混入すると自然と鉛直管内に空気の柱ができてしまう。この現象は鉛直管の径を全体的に小さくしても同様に生じる。したがって、空気の柱によりサイフォンが途切れてしまうことから、空気の柱を細かい泡に変える必要がある。
【0037】
そこで、本実施形態では、図2のように鉛直管1の途中に設けた漸縮接続管3において空気の柱に上部管3aの内壁面に沿う水流をぶつけることで空気をマイクロ、ミリバブルに変化させ、気泡の半径raを小さくし、サイフォン機能を途切れないようにしている。
【0038】
すなわち、図2のように水と空気の流れの界面には摩擦力(下記A)が働くため、内壁面に沿って中央に集まってくる水が細い管に流下する過程で、空気は摩擦力によりせん断されてマイクロ、ミリバブル化し、水と一体となって流下する。
【0039】
τ=ρafu2 (A)
ただし、τは摩擦力、ρaは空気の密度、fは摩擦係数(1×10-3程度の大きさ)、uは空気と水の流れの相対速度である(堀川清司 「海岸工学」−海洋工学への序説−、東京大学出版会、317頁参照)。
【0040】
上述のように、水平管2から鉛直管1に向けて水と空気が流れる際に、上部管3a内で空気の柱が略中心部に形成されるとともに内壁面に沿って水流が形成されても、径が漸減する漸縮接続管3で水流が1つになって空気の柱と衝突し、空気が摩擦力によりせん断されることでマイクロ、ミリバブル化し、鉛直管を流下する水の流速νw>気泡の上昇速度νaの上記条件を満足させ、マイクロ、ミリバブル化した気泡が水に混在した状態で気液2相流となって安定して流れることよりサイフォン機能を安定して維持することができる。
【0041】
本実施形態の吸引力発生装置によれば、水平管2から鉛直管1に空気を含んだ水をサイフォン機能により引き込む際に、水と空気の気液2相流を効率よく発生させることでき、サイフォンを機能させて吸引力を安定して発生させることができる。サイフォンを吸引力として用いる場合、水に対する空気混入量が多いときには、サイフォン機能が容易に低下してしまうが、本実施形態によれば、混入空気量が最大40%程度であってもサイフォン機能が途切れないようにできる。
【0042】
なお、気泡は容易に互いに結合し、鉛直管1内に再浮上し、逆流しようとすることから、気泡を鉛直管1へ逆流させないような空気逆流防止装置(図6,図7(a)参照)を設けることが好ましい。
【0043】
また、図1の吸引力発生装置において、気液2相流が形成される領域は、漸縮接続管3を通過した後の内径の小さい鉛直管1内である。このため、限られた鉛直スペースの中でサイフォンの吸引力をより強く発揮させるためには、図1のように漸縮接続管3の長さmは、鉛直管1の長さnの1/3程度以下(鉛直管1と漸縮接続管3との全体長さ(m+n)の1/4程度以下)とすることが望ましい。
【0044】
また、図1(a)の吸引力発生装置は、サイフォン機能がいったん停止した後に、サイフォンを再開させる場合などを考えると、真空ポンプの動力装置と併用することが好ましい。
【0045】
次に、漸縮接続管3を漸縮タイプに構成した理由について図16〜図18を参照して説明する。鉛直管内においてサイフォン機能により発生する負圧は、ベルヌーイの定理(エネルギー方程式)を用いて評価できる。すなわち、鉛直管内の下端を基準とした上端の負圧水頭hsuctionは次式(4)で表わすことができる。
【0046】
hsuction=(p1−p2)/(ρg)
=−(v12−v22)/(2g)−(z1−z2)+hloss (4)
【0047】
ただし、ρは密度、gは重力加速度、pは水圧、vは流速、zは鉛直座標(上向きを正)、hlossはエネルギ損失水頭であり、添字1,2は、それぞれ上端位置および下端位置を示す。
【0048】
上式(4)において、上端と下端の距離が大きいほど(z1−z2)が大きくなり、負圧が大きくなることがわかる。また、鉛直下方に流れるときのエネルギ損失が大きいとき(hlossが大きいとき)、発生する負圧が小さくなることがわかる。すなわち、負圧を効果的に発生させるためには、流れをスムーズに導いてエネルギ損失をできるだけ低減させることが重要である。
【0049】
ここで、管の径が急減に縮小する急縮管の場合、図16のように流線の剥離が起こるためエネルギの損失が生じる。このときのエネルギ損失水頭は次式(5)で表わすことができる。
hloss=fsc×v22/(2g) (5)
【0050】
ただし、v2は縮小後の管を流れる流速、fscは損失係数であり、急拡前後の面積比A1/A2(図16)に応じて図17のような値をとる。
【0051】
一方、図1(b)のように管の径が漸減する漸縮管の場合、図16のような流線の剥離が生じないため損失係数は極めて小さい。既往の研究成果により漸縮管の損失係数fscは図18のように得られており、漸縮損失係数は図17の急縮管の場合と比べてかなり小さいことがわかる。
【0052】
上述のように、エネルギの損失を抑えて効果的に負圧を発生させるためには、図1(a)(b)の接続管3を漸縮タイプ(漸縮接続管)にすることが望ましく、また、その漸縮角度θは、本発明者等の実験によれば、45°以下が望ましく、流れのエネルギの損失が小さく、流れがスムーズになり、負圧を効果的に発生させることができる。
【0053】
〈第2の実施形態〉
図6は第2の実施形態による真空圧密地盤改良工法を行う真空圧密地盤改良システムの構成を概略的に示す図である。図7は図6の鉛直通水管の下端に設けた空気逆流防止装置の作用効果を説明するための要部を示す図(a)及び鉛直通水管の下端において生じる問題を説明するための図(b)である。
【0054】
図6の真空圧密地盤改良システムS1は、鉛直通水管21と水平通水管22とを有する吸引力発生装置と、図の破線で示す真空減圧装置20と、を備え、真空圧密地盤改良のために軟弱地盤G中に打設される鉛直ドレーン材31が不透気部32と接続部33とを介して水平通水管22に連結され、水平通水管22は、鉛直通水管21と、鉛直通水管21の上端で接続されている。
【0055】
鉛直通水管21は鉛直方向に延びて地下部に設置された密閉室26の底面26aの近傍まで達し、鉛直通水管21の下端には屈曲管28が取り付けられ、屈曲管28の先端が密閉室26の底部の水位面H1下にある。また、鉛直通水管21及び水平通水管22は、それぞれ円筒管からなり、鉛直通水管21の内径は水平通水管22の内径よりも小さくなっている。
【0056】
真空減圧装置20は、真空ポンプ23と、排水設備である揚水ポンプ24・排水管25と、地中内部に設置された密閉室26と、を備える。密閉室26は、鉛直通水管21と揚水ポンプ24・排水管25とを収納し、真空ポンプ23により減圧されることで、真空減圧装置20は減圧発生源として機能するようになっている。
【0057】
鉛直ドレーン材31は、軟弱地盤G内の間隙水を吸引するために軟弱地盤G内に打設され、鉛直ドレーン材31の上端に接続される不透気部32は地下水位面H0に位置する。なお、鉛直ドレーン材31は、軟弱地盤G内に必要に応じて複数本打設され、不透気部32や接続部33とともに、例えば、特許文献1〜3に開示された構成とすることができる。
【0058】
真空圧密地盤改良システムS1は、図6のように、鉛直通水管21の下端に、鉛直方向から90°程度折れ曲がるようにして構成された屈曲管28からなる空気逆流防止装置を有する。図7(a)のように鉛直通水管21から鉛直方向b’に流れてきた気液2相流が屈曲管28内で図の横方向b”に流れて屈曲管28から排出され、気泡eが密閉室26の水面へと浮上する。
【0059】
上記空気逆流防止装置がない場合、図7(b)のように、鉛直通水管21の下端から鉛直方向b’に気液2相流が排出されると、密閉室26の底面26aに当たり反転方向bbに反転し、勢いがなくなり、気泡eが再浮上しようとし、鉛直方向b’から流れてきた気泡eと結合して鉛直通水管21内で逆流するおそれがあるのに対し、図7(a)のように空気逆流防止装置の屈曲管28により気液2相流の流れ方向を横方向b”に変えて気泡eを確実に密閉室26内へと排出することができ、水と空気の気液2相流が安定して流れ、サイフォン機能の安定維持に寄与できる。
【0060】
図6の真空圧密地盤改良システムS1による真空圧密地盤改良工法を説明すると、真空減圧装置20の真空ポンプ23で密閉室26内を減圧することによる吸引力に加えて、地下水位面H0と密閉室26内の水位面H1との水位差ΔH(=H0−H1)に起因するサイフォン機能による吸引力が発生し、これらの吸引力により軟弱地盤G内の間隙水を吸引することで軟弱地盤Gを圧密する。この真空圧密を、真空ポンプ23のみで吸引する場合と比べて水位差ΔHに起因する吸引力が加わる分だけより大きな吸引力で行うことができる。
【0061】
従来の真空圧密地盤改良工法によれば真空ポンプのみでは吸引力が不足する場合は、盛土による載荷を併用していたのに対し、本実施形態のようにサイフォン機能による吸引力を併用することにより、盛土による載荷を縮小したり省略できるため、使用資材・機材の節減や作業工期の短縮を期待することができる。また、従来の工法に比べて吸引力が増加するため、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮することができる。
【0062】
本実施形態による吸引力発生装置は、鉛直通水管21と、鉛直通水管21と上部で接続し水平方向に延びる水平通水管22と、を有し、鉛直通水管21の下端側と、水平通水管22の先端側との間の水位差により、水平通水管22の先端から鉛直通水管21の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用し、鉛直通水管21の通水断面積が水平通水管22の通水断面積よりも小さくなるように構成し、水平通水管22内に水と分離して存在する空気が鉛直通水管21内で気泡となって気液2相流として流下することでサイフォン機能により吸引力を発生させるものである。本実施形態においては、水平通水管22内に空気が含まれる条件においても、サイフォンを機能させるためには、鉛直通水管21内において水と気体が混合した気液2相流を形成させることが重要であり、好ましくは、鉛直通水管21の内径は水平通水管22の内径の50%以下(水平通水管22の内径が0.1mを超えるとき)または70%以下(水平通水管22の内径が0.1m以下のとき)である。また、鉛直通水管21の下端には図7(a)のような空気逆流防止装置を設けることが好ましい。
【0063】
なお、揚水ポンプ24は、揚程差10m以上の高揚程タイプが好ましく、密閉室26を地中深く設置し、水位差ΔHの確保のため密閉室26内の水位面H1を地下水位面H0に対しより低くした場合でも、密閉室26内の貯留水を排水できる。
【0064】
〈第3の実施形態〉
図8は第3の実施形態による真空圧密地盤改良工法を行う真空圧密地盤改良システムの構成を概略的に示す図である。
【0065】
図8の真空圧密地盤改良システムS2は、吸引力発生装置を図1のように構成したこと以外は、図6と基本的に同様の構成であるので、異なる点を主に説明する。すなわち、水平通水管22と水平通水管22よりも内径の小さい鉛直通水管21との間に図1と同様の漸縮接続管3を配置し、漸縮接続管3の上部管3aが水平通水管22に連結している。鉛直通水管21の下端には、図6,図7(a)と同様の屈曲管28からなる空気逆流防止装置が設けられることで、屈曲管28から気泡eを確実に外部に排出することができ、鉛直通水管21内で水と空気の気液2相流が安定して流れ、サイフォン機能の安定維持に寄与できる。
【0066】
図8の真空圧密地盤改良システムS2により、図6と同様に真空ポンプ23による吸引力に加えて、地下水位面H0と密閉室26内の水位面H1との水位差ΔH(=H0−H1)に起因するサイフォン機能により発生する吸引力を利用して真空圧密地盤改良工法を実行できるが、図8の吸引力発生装置によれば、水平通水管22内に空気が含まれる条件であっても、漸縮接続管3を鉛直通水管21に設けることで水と空気の気液2相流を効率よく発生させ、サイフォン機能を途切れさせずに吸引力を安定して発生させることができるので、吸引力を効率よく軟弱地盤に加えることができる。このため、真空圧密地盤改良工法を安定して実行でき、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮することができる。
【実施例1】
【0067】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0068】
実験概要
鉛直通水管に設けた漸縮接続管がサイフォン機能の持続に及ぼす効果を検証するために実験を行った。実験装置を図9に示す。水平通水管の管径を50mm、鉛直通水管の管径を35mm(水平通水管の70%に縮径)とした。なお、漸縮接続管の長さは、接続する鉛直通水管の長さの1/3程度(鉛直通水管と漸縮接続管との全体長さの1/4程度)に相当する0.5mに設定するととともに、図1(b)の漸縮角度θを45°とした。水圧計A〜Eを図9のように配置し、水圧計A〜Eの各位置をSt.A〜St.Eとする。
【0069】
図9の実験装置を用いて以下の手順で実験を行った。
ステップ1:鉛直通水管に栓をして、水平通水管および鉛直通水管を水で飽和させ、水量調整バルブを締める。
ステップ2:鉛直通水管の栓をとり、水量調整バルブを開ける。
ステップ3:水の流量計の数値を基に所定の流量にする。
ステップ4:空気調整バルブを開け、空気を所定の量だけ混入する。この際、水の流量が変化するので再度調整する。
ステップ5:水の流量が安定したところで計測を行う。
【0070】
表1に示すように実施例以外に比較例1〜3についても同様に実験を行った。すなわち、図9の鉛直通水管の上側(大径)を鉛直通水管P1とし、下側(小径)を鉛直通水管P2とした場合、比較例1は、鉛直通水管P1,P2をともに内径50mmとしたものであり、比較例2は、比較例1と同様であるが、鉛直通水管P1,P2全体に内径30mmの不透水棒を挿入して鉛直通水管P1,P2全体の通水断面積を小さくしたものであり、比較例3は、鉛直通水管P1,P2をともに内径35mmとし、実施例の内径50mmの鉛直通水管P1の70%に縮小したものである。なお、図9のように鉛直通水管の下端には図7(a)のような屈曲管を取り付けた。
【0071】
上記実施例及び比較例1〜3について空気の混入率と流速を変化させて実験を行った。なお,鉛直通水管内の流速については水量調整バルブの調整により変化させ、空気量は空気量計にて計測しながら空気量調整バルブにて変化させた。
【0072】
【表1】
【0073】
実験結果
比較例1で空気混入率0%時の管内の負圧計測結果を図10に示すが、水頭差に従って鉛直通水管内に働く吸引力により、最上部にあるSt.DとSt.Eでは、最下部にあるSt.Aに比べて、水頭差に相当する18kPa程度の負圧が作用することが確認できた。
【0074】
実施例、比較例2,3の実験開始後における管内の負圧計測結果について、最下部にあるSt.Aの圧力を基準とした各位置における圧力偏差の経過時間による変化の一例を図11〜図13に示す。また、実施例、比較例1〜3において、流速を0.4m/秒としたときの空気混入率と圧力偏差との関係を図14に示し、流速を0.7m/秒としたときの空気混入率と圧力偏差との関係を図15に示す。
【0075】
図14,図15から、鉛直通水管の通水断面積を変化させていない基本ケースの比較例1では、空気が混入するとサイフォンが機能しないことがわかる。一方、鉛直通水管の通水断面積を縮小させた比較例2,3では、(1)形成されうる気泡の最大径を小さくし、気泡の上昇速度を抑える効果、及び、(2)水の流下速度を増加させる効果により、サイフォンが機能するが、許容できる空気混入率は5%程度であることがわかる。
【0076】
本実施例では、縮径接続管を併用した鉛直管構造にすることにより、気泡をマイクロ、ミリバブル化させて、気泡の上昇速度を大幅に抑える効果が発揮されたため、図14,図15のように、比較例2,3に比べて大幅に空気混入率を許容でき、最大40%程度の空気混入率を許容できることが確認できた。ただし、流速が速い方がサイフォン機能は維持されやすいことがわかる。
【0077】
以上のように、比較例2,3のように鉛直通水管の断面積を全体的に小さくした場合よりも、本実施例のように漸縮接続部を途中で設け鉛直通水管の面積を小さくした方がサイフォン機能を効果的に維持できることが確認できた。
【0078】
以上の実験によれば、溶存酸素等の気化や通水管の気密漏れ部から流入する気体の存在があるような条件においても確実にサイフォンの吸引力を作用させるためには、鉛直通水管の途中に漸縮接続管を配置し径の小さい鉛直通水管に接続する構成とすることで気液2相流を安定して形成させることが重要であることを確認できた。
【0079】
以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、本発明による吸引力発生装置を真空圧密地盤改良システムに適用したが、これに限定されず、他の装置・システム・他の工法に適宜適用してよく、同様の効果を得ることができる。また、鉛直管(鉛直通水管)、水平管(水平通水管)は、円筒管以外であってもよく、例えば角筒管でもよい。
【0080】
また、図6〜図8の空気逆流防止装置の屈曲管28は、約90°に曲げられた管を鉛直通水管21の下端に取り付けるように構成できるが、これに限定されず、鉛直通水管21の下端自体を折り曲げてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明による吸引力発生装置によれば、水に気体が含まれる場合でもサイフォンの原理による吸引力を安定して発生させることができるので、真空ポンプに頼らずにサイフォンの自然エネルギを極力使用可能となり、電力等のコストを削減可能となる。
【0082】
本発明による真空圧密地盤改良工法によれば、サイフォン機能による吸引力を併用することで盛土による載荷の縮小・省略が可能となり、使用資材・機材の節減や作業工期の短縮を実現でき、また、従来の工法に比べて吸引力が増加するため、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮できる。
【符号の説明】
【0083】
1 鉛直管(第1の管)
2 水平管(第2の管)
3 漸縮接続管
20 真空減圧装置
21 鉛直通水管
22 水平通水管
23 真空ポンプ
26 密閉室
28 屈曲管
31 鉛直ドレーン材
b 鉛直方向
e 気泡
G 軟弱地盤
H0 地下水位面
H1 密閉室内の水位面
ΔH 水位差
S1,S2 真空圧密地盤改良システム
θ 漸縮角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部から下部に向けて延びる第1の管と、前記第1の管と前記上部で接続し水平方向に延びる第2の管と、を有し、前記第1の管の下端側と、前記第2の管の先端側との間の水位差により、前記第2の管の先端から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用する吸引力発生装置であって、
前記第1の管の径が前記第2の管の径よりも小さく、
前記第2の管と前記第1の管とを径が漸減する漸縮接続管を介して接続し、
前記第2の管内に水と分離して存在する空気が前記漸縮接続管内で気泡となって前記第1の管内で気液2相流として流下することでサイフォン機能により吸引力を発生させることを特徴とする吸引力発生装置。
【請求項2】
前記第1の管の下端から流れ出した気液2相流の気泡が前記第1の管内に再浮上し逆流することを防止するための空気逆流防止装置を備える請求項1に記載の吸引力発生装置。
【請求項3】
前記漸縮接続管は直線的に傾斜して内径が漸減し、その傾斜線を下方に延長した延長線が交叉したときの漸縮角度θが45°以下である請求項1または2に記載の吸引力発生装置。
【請求項4】
真空ポンプによる動力装置を併用する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の吸引力発生装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の吸引力発生装置を用いて軟弱地盤において真空圧密による地盤改良を行うことを特徴とする真空圧密地盤改良工法。
【請求項1】
上部から下部に向けて延びる第1の管と、前記第1の管と前記上部で接続し水平方向に延びる第2の管と、を有し、前記第1の管の下端側と、前記第2の管の先端側との間の水位差により、前記第2の管の先端から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用する吸引力発生装置であって、
前記第1の管の径が前記第2の管の径よりも小さく、
前記第2の管と前記第1の管とを径が漸減する漸縮接続管を介して接続し、
前記第2の管内に水と分離して存在する空気が前記漸縮接続管内で気泡となって前記第1の管内で気液2相流として流下することでサイフォン機能により吸引力を発生させることを特徴とする吸引力発生装置。
【請求項2】
前記第1の管の下端から流れ出した気液2相流の気泡が前記第1の管内に再浮上し逆流することを防止するための空気逆流防止装置を備える請求項1に記載の吸引力発生装置。
【請求項3】
前記漸縮接続管は直線的に傾斜して内径が漸減し、その傾斜線を下方に延長した延長線が交叉したときの漸縮角度θが45°以下である請求項1または2に記載の吸引力発生装置。
【請求項4】
真空ポンプによる動力装置を併用する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の吸引力発生装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の吸引力発生装置を用いて軟弱地盤において真空圧密による地盤改良を行うことを特徴とする真空圧密地盤改良工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図5】
【公開番号】特開2010−90688(P2010−90688A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2009−150940(P2009−150940)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150940(P2009−150940)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】
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