説明

吸息同期香り刺激による呼吸パターン改善装置

【課題】本発明は、ストレスやネガティブな感情によって生じる呼吸パターンの乱れを吸息時に香り刺激を付与することにより緩和し、呼吸パターンを理想的な状態に誘導する呼吸パターン改善装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る呼吸パターン改善装置は、鼻口に当接するマスク部2と、吸息時にのみ開く吸気用弁体11を備え、吸気を吸気用弁体11を経てマスク部2に送る吸息系と、呼息時にのみ開く呼気用弁体12を備え、マスク部2からの呼気を呼気用弁体12を経て外部に排出する呼息系とを一体構成した呼吸用筒体20と、吸気用弁体11の開動作を検出する圧力センサ3と、吸気用弁体11を通過する吸気の流路に香り刺激噴霧部5を臨ませ、ラベンダー等の香り刺激成分を貯留した香り刺激付与手段4と、圧力センサ3の検出信号を基に香り刺激付与手段4を動作させ、吸息に同期してラベンダー等の香り刺激を吸気に付与する制御手段10とを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸息同期香り刺激による呼吸パターン改善装置に関し、詳しくはストレスやネガティブな感情によって生じる呼吸パターンの乱れを香り刺激により緩和させ、正常な呼吸パターンに誘導する吸息同期香り刺激による呼吸パターン改善装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
香り刺激は五感の中でも唯一、情動の中心である脳内の辺縁系に直接情報を投射することができる感覚である。また香りを嗅ぐという行為は、我々が日常無意識にリズムを繰り返している呼吸の吸息(息を吸うこと)に依存した行為である。香りの分子を含んだ空気を吸い込むことにより初めて香りを嗅ぎ、脳内で認知し、また香りによって様々な感情が起こるわけである。
【0003】
その中でも、良い香りは呼吸のリズムを無意識にゆっくりとさせることができ、香りによるリラックス効果は香りによる脳内刺激の効果と、呼吸パターンの変化によって起こりうる効果の2つの要素があると考えられる。
【0004】
これまでに何等かの不安感により呼吸数が上昇することが知られている。
【0005】
図11に警告ライト提示後の呼吸数上昇との相関を、図12に予期不安時の呼吸数上昇と特性不安感との相関を各々示す。
【0006】
ネガティブな感情による呼吸数の上昇は、運動などによる代謝に見合った呼吸の上昇ではない。よって、それらの情動による過呼吸は体内のCO2を過剰に排出してしまい手足の痺れ感、発汗、呼吸困難感、めまい感などの症状を引き起こす。このような症状が病的に至ると過換気症候群やパニック障害と診断される。
【0007】
ところで、香りと呼吸との関係を示した研究はこれまでになく、よって、香りの効果と呼吸パターンとの関連に関する装置は皆無である。従来の放香方法として、スプレー式、芳香に用いる為のポット、噴霧機、加湿器などを用いるものが挙げられるが、これらはいずれも香りを放つのみであり、本人の呼吸のパターン変化への着目がない。
【0008】
特許文献1には、生体の呼吸情報と予め記憶した目標呼吸パターン情報とを比較し、これらの差に基づく補正値を求め、更に生体の呼吸情報を前記補正値で補正した補正呼吸情報により生体に与えられる刺激信号を制御することで、使用者の呼吸を理想パターン状態に誘導するように構成した呼吸誘導装置が提案されている。
【0009】
しかし、この特許文献1の呼吸誘導装置の場合、使用者の呼吸のパターン変化に着目しているものの香り刺激を利用して使用者の呼吸パターンを改善するものではない。
【特許文献1】特開2002−301047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする問題点は、ストレスやネガティブな感情によって生じる呼吸パターンの乱れを吸息時に香り刺激を付与することにより緩和し、呼吸パターンを理想的な状態に誘導する呼吸パターン改善装置が存在しない点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の吸息同期香り刺激による呼吸パターン改善装置は、鼻口に当接した状態で呼吸が可能なマスク部と、吸息時にのみ開く吸気用弁体を備え、吸気を吸気用弁体を経てマスク部に送る吸息系と、呼息時にのみ開く呼気用弁体を備え、マスク部からの呼気を呼気用弁体を経て外部に排出する呼息系と、前記吸気用弁体の開動作を検出する検出手段と、吸気用弁体を通過する吸気の流路に香り刺激噴霧部を臨ませた香り刺激付与手段と、前記検出手段の検出信号を基に香り刺激付与手段を動作させ、吸息に同期して香り刺激を吸気に付与する制御手段とを有することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
請求項1記載の発明によれば、使用者がマスク部を鼻口に当接させた状態で吸息を行うことで、検出手段が吸気用弁体の開動作を検出し、制御手段が検出手段の検出信号を基に香り刺激付与手段を動作させ、吸息に同期して香り刺激が吸気に付与つれ、これにより使用者は吸気とともに香り刺激を吸引することができ、使用者自身のストレスやネガティブな感情によって生じる呼吸パターンの乱れが緩和され、この結果使用者の呼吸パターンを理想的な状態に誘導することができる。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明と同様な構成の基に使用者は吸気とともにラベンダー等の香り刺激を吸引することができ、使用者自身のストレスやネガティブな感情によって生じる呼吸パターンの乱れが緩和され、この結果使用者の呼吸パターンを理想的な状態に誘導することができる。
【0014】
請求項3記載の発明によれば、使用者がマスク部を鼻口に当接させた状態で吸息を行うことで、圧力センサが吸気用弁体の開動作を検出し、制御手段が圧力センサの検出信号を基に空気ポンプ部を動作させ、吸息に同期して香り刺激貯留部から香り刺激噴霧部を経てマスク部に流れる吸気にラベンダー等の香り刺激を付与するものであるから、使用者は吸気とともにラベンダー等の香り刺激を吸引することができ、使用者自身のストレスやネガティブな感情によって生じる呼吸パターンの乱れが緩和され、この結果使用者の呼吸パターンを理想的な状態に誘導することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、ストレスやネガティブな感情によって生じる呼吸パターンの乱れを吸息時に香り刺激を付与することにより緩和し、呼吸パターンを理想的な状態に誘導するという目的を、鼻口に当接した状態で呼吸が可能なマスク部と、吸息時にのみ開く吸気用弁体を備え、吸気を吸気用弁体を経てマスク部に送る吸息系と、呼息時にのみ開く呼気用弁体を備え、マスク部からの呼気を呼気用弁体を経て外部に排出する呼息系とを一体構成し、吸気用弁体、呼気用弁体間の位置で前記マスク部に連通させた呼吸用筒体と、前記吸気用弁体の開動作を検出する検出手段と、吸気用弁体を通過する吸気の流路に香り刺激噴霧部を臨ませ、ラベンダー等の香り刺激成分を貯留した香り刺激付与手段と、前記検出手段の検出信号を基に香り刺激付与手段を動作させ、吸息に同期してラベンダー等の香り刺激を吸気に付与する制御手段とを有する構成により実現した。
【実施例】
【0016】
以下に、本発明の実施例を詳細に説明する。
本発明の実施例に係る吸息同期香り刺激による呼吸パターン改善装置は、外的なストレスやネガティブな感情によって上昇してしまう呼吸パターンを、良い香りの刺激によって理想の呼吸パターンにするための装置である。すなわち、ストレスやネガティブな感情によって生じる呼吸パターンの上昇を香りの刺激により緩和させ、理想の呼吸のパターンに改善するための装置である。
【0017】
もっとも理想的な呼吸数は、一分間に12回から15回である。しかしながら、外的ストレスや内面に起こる感情によって呼吸数は一分間18回から20回にまで上昇し、その上昇は個人のもつ特性的な不安感とに相関している。特性的に不安が高い人は呼吸数も多くなるということである。
【0018】
そのような不安状態におかれている際に随意的にゆっくり呼吸をすると、不安感は減少する。これまでの本願発明者の研究から不安感や恐怖などの負の感情の中心は、情動を司る中枢である辺縁系の扁桃体という場所であることがわかってきている。その部位はまた呼吸にも関連しており、その部位を電気刺激することにより呼吸数の上昇が観察される。
【0019】
ゆっくり呼吸をさせる方法として、良い香りを投与すると、随意的でなく無意識に呼吸数が減少する。香りは息を吸い込むことにより強く匂いを認知でき、また香りの情報は鼻腔の嗅細胞から、前述した扁桃体、他辺縁系に投射をする為、香りによる情動の変化も大きい。
【0020】
これらの研究から、いかに呼吸のパターンを改善し、心身のストレス状態から脱することができるかを考慮して発明したのが本装置である。
【0021】
すなわち、良い香りを嗅ぐことにより呼吸数が減少し(ゆっくりとなり)、また随意的に呼吸数を減らすと(ゆっくりすると)不安感を減少できるという本願発明者の研究をベースにし、ストレス環境や内面におこる負の情動によって生じる呼吸パターンの乱れを改善するものである。また、香りは慣れの現象が大きく、長期間同じ香りにさらされることにより香りに対する閾値が低減してしまう。本実施例ではこのよう慣れの現象をも考慮している。
【0022】
本実施例に係る吸息同期香り刺激による呼吸パターン改善装置(以下「呼吸パターン改善装置」という)1について図1、図2を参照し以下に詳述する。
【0023】
この呼吸パターン改善装置1は、図1に示すように、鼻口に当接した状態で呼吸が可能な略筒状のマスク部2と、吸息時にのみ開く吸気用弁体11を備え、吸気を吸気用弁体11を経てマスク部2に送る吸息筒部21aと、呼息時にのみ開く呼気用弁体12を備え、マスク部2からの呼気を呼気用弁体12を経て外部に排出する呼息筒部21bとを一体構成し、吸気用弁体11、呼気用弁体12間の位置で前記マスク部2に連通させた呼吸用筒体20とを有している。前記吸息筒部21aにより吸息系を、呼息筒部21bにより呼息系を構成している。
【0024】
前記マスク部2は、使用者の鼻口に当接させる鼻口当接部2aと、鼻口当接部2aと呼吸用筒体20とを連結する連結筒部2bとを具備している。
【0025】
また、呼吸パターン改善装置1は、前記吸気用弁体11の近傍に配置され、この吸気用弁体11の開動作を検出する検出手段である圧力センサ3と、香り刺激付与手段4と、制御手段10とを有している。
【0026】
前記香り刺激付与手段4は、吸気用弁体11の近傍位置に配置した香り刺激噴霧部5と、呼吸用筒体20の外周部に配置され、香り刺激噴霧部5に連通させた例えばラベンダーなどの香り刺激成分を貯留した香り刺激貯留部6と、この香り刺激貯留部6に空気を送る空気ポンプ部7とを具備している。香り刺激噴霧部5、香り刺激貯留部6は、本実施例では2個ずつ設けている。
【0027】
更に、前記制御手段10は、前記圧力センサ3による吸気用弁体11の開動作を示す検出信号を基に空気ポンプ部7を動作させ、吸息に同期して前記香り刺激貯留部6から香り刺激噴霧部5を経てマスク部2に流れる吸気に香り刺激を付与する制御を行うようになっている。
【0028】
本実施例の呼吸パターン改善装置1において、使用者がマスク部2の鼻口当接部2aを鼻口に当接させた状態で吸息を行うことで、吸気用弁体11のみが開き、この時圧力センサ3が吸気用弁体11の開動作を検出し、検出信号を制御手段10に送る。
【0029】
制御手段10は、圧力センサ3からの検出信号を基に空気ポンプ部7を動作させ、空気ポンプ部7から香り刺激貯留部6に空気が送られる。これにより、使用者の吸息に同期して香り刺激貯留部6から香り刺激噴霧部5を経てマスク部2内を流れる吸気にラベンダー等の香り刺激を付与する。
【0030】
この結果、使用者は吸気とともにラベンダー等の香り刺激を吸引することができ、使用者自身のストレスやネガティブな感情によって生じる呼吸パターンの乱れが緩和され、使用者の呼吸パターンを理想的な状態に誘導することが可能となる。使用者が吸息動作の次に呼息動作を行うと、吸気用弁体11は閉じ、呼気用弁体12が開いて、使用者の呼気は呼息筒部21bから外部に排出される。
【0031】
以上説明したように、本実施例の呼吸パターン改善装置1によれば、香り刺激によって上昇した呼吸数を理想の呼吸数に戻し、更に香りによる脳内への刺激によりネガティブな情動を緩和させることができる。すなわち、ストレス環境や内面におこる負の情動によって生じる呼吸の上昇を良い香りの刺激により、理想の呼吸パターンに改善し、また内面的に起こる負の情動を改善するものである。
【0032】
また、長時間の香りの刺激提示は呼吸パターンや香りの認知に慣れの現象を起すため、呼吸パターン改善装置1においてある時間を区切って他の香りを放出するようにすればそれらを防ぐことが可能とる。
【0033】
次に、上述した呼吸パターン改善装置1をも使用した具体的実験例について以下に詳述する。
【0034】
この具体的実験例においては、香り刺激成分としてラベンダー精油とその主成分であるリナロールとリナルアセテートとを用い、3種の香りの刺激の認知レベルでの情動レベル、呼吸パターン、アルファ波I−αの出現、アルファ波I−αが出現した場合における脳内活動部位について検討した。
【0035】
(被験者)
健常成人7例(平均29.6±10)を対象とした。被験者は、T&Tオルファクトメータにより嗅覚テストを行い、嗅覚に異常がないことを確認した。
【0036】
(香り刺激)
サノフローラル社製の真正ラベンダーと、この真正ラベンダーの主成分であるリナロール(C1018O)(成分33.57%)と、リナリルアセテート(C1220O)(成分34.82%)の3種について検討した。リナロールの化学式を図3に、リナリルアセテートの化学式を図4に示す。
【0037】
上述した3種の香り刺激の濃度は、各々0.001ppmから10倍単位に10000ppmまでプロピレングリコールによって希釈した。被験者は、濃度の低い順にリトマス紙(14cm×7mm)の下1mmに浸した香り刺激を嗅ぎ、香りを認知できたレベルを用いて呼吸、脳波を測定した。
【0038】
(呼吸測定)
呼吸測定は、上述した呼吸パターン改善装置1を介して接続したエアロモニタ(AE280,ミナト医科学)により測定した。分時換気量(VE)、一回換気量(VT)、呼吸数(fR)、酸素消費量(VO2)を測定し、また呼気終末炭酸ガス濃度(ETCO2)に変化がないことを確認した。
【0039】
(脳波測定)
国際10−20法に基づき、電極19チャンネルを被験者の頭部に装着し、基準電極を右耳朶に設定した。接触抵抗は10kΩ以下となるようにした。左上下眼瞼に眼球運動を記録するEOGを設置し、脳波とともにEEG−1100(日本光電社製)に記録した。また、エアロモニタにて測定される呼吸の流量を出力し、脳波とともに同時記録を行った。
【0040】
(刺激提示)
上述した呼吸パターン改善装置1を使用し、被験者の吸息に同期して吸気にラベンダーなどの香り刺激を付与した。刺激時間は慣れの現象を考慮して各30秒ずつ計3回行った。香り刺激のインターバルは約1分とした。
【0041】
(情動スコア)
図5に示すように、真正ラベンダー、リナロール、リナリルアセテートからなる3種の各香り刺激での情動スコア(0から100までのビジュアル アナログスケール:100を自分が考え得る最も心地よい感情に相当する値)とした。
【0042】
(呼吸パターン解析)
統計はDr.SPSS,Version 11を用いて行った。情動スコアの解析は、一元配置分散分析を用いた。呼吸のパラメータは、それぞれの刺激前、刺激時間は反復測定による一元配置分散分析で用いた。呼吸及び情動スコアとも刺激間をボンフェローニの多重比較を行った。
【0043】
(SSB/DT)
脳内電源推定は、双極子追跡法ソフト(Brain Space Navigator/BS-navi)(Brain Research and Development社)を用いた。脳波は多数の皮質ニューロンの尖頭樹状突起のシナプス後電位の総和である。この電流発生源を電流双極子(electric current dipole)という。
【0044】
電流は容積導体(volume conductor)の中を流れ、波動状の電位変化が生じている。頭蓋表面から記録できる電流双極子の活動は、活動しているニューロンが多数限局しているだけでなく、細胞体の位置、尖頭樹状突起の方向が一定でなければならない。
【0045】
従って、ニューロンの走行がそろっている部位のほうが電流双極子を発生しやすいということになる。
【0046】
頭皮上の電極で記録される電位分布から脳内の起電力分布を推定する問題が脳電位逆問題であり、その問題を解くのが双極子追跡法(Dipole Traceing MeThod法)である。
【0047】
脳波からの電流双極子の位置を推定するに当たり、頭蓋を構成する組織の導電率が異なるため、それらを加味して計算する。頭蓋CT画像あるいはMRI画像から頭皮、頭蓋、脳実質の輪郭を測定し、個々の頭蓋モデルを作り、計算はすべて本人の頭蓋モデルで行う。しかし、すべての被験者のMRI画像を入手することが困難な為、本研究では標準サイズとされる被験者のヘッドモデルを用いて計算を行った。
【0048】
電流双極子の推定位置は、ある部位に等価双極子が存在すると仮定し、その仮定した部位から頭皮上に発生する電位分布を計算する。実測された電位分布と計算上得られた電位の2乗誤差を最小にするように電流双極子の位置とベクトル成分を変化させる。
【0049】
2乗誤差が最小になった位置をもって、電源とする。得られた電流双極子は頭皮上に発生する電位分布に関する限り脳内の起電力と近似的な等価双極子ということができる。近似の度合いを示すために、双極子性(dipolarity)が用いられている。まったく一致すれば双極子性は100%である。我々は98%以上のみ取り上げた。加算した波形はパワースペクトル解析により周波数解析を行った。
【0050】
(実験結果)
(情動スケール)
香りに対する心地よさを示す情動スケールは、図5に示すように、リナロール、リナリルアセテート、ラベンダーにおいて差があり(P<0.05)、刺激間ではリナロールとラベンダー間に(P<0.05)、リナリルアセテートとラベンダー間(P<0.05)に有意な差が認められた。
【0051】
(呼吸パターン)
リナロール、リナリルアセテート、ラベンダーの各香り刺激において、酸素消費量VO2と呼気終末炭酸ガス濃度ETCO2に変化は認められなかった(平均VO2:183±20、ETCO2:4.9±0.2)。
【0052】
また、図6に示すように、分時換気量VE に変化は認められないが(P=0.78)、一回換気量VT に変化が認められ(P<0.01)、多重比較により安静時とラベンダーとの間に、またリナロールとラベンダーとの間に有意な上昇が認められた(両者ともP<0.05)。呼吸数fRにおいては変化が見られ(P<0.05)、多重比較により安静時とラベンダーとの間に減少が認められた(P<0.05)。
【0053】
(加算脳波・SSB/DT)
リナロール、リナリルアセテート、ラベンダーの各香り刺激において、図7に示すように、吸息に同期した8−12Hzのアルファ波(I−α:Inspiration phase-locked alpha oscillation)が観察された。アルファ波I−αは呼息時には認められず、吸息に一致して観察される。図7に示す各アルファ波I−αについてのパワースペクトル解析の結果を図8に示す。
【0054】
次に、アルファ波I−αの電源Eの位置をSSB/DT法により推定し、その位置を被実験者のMRI画像に重ね合わせたものを図9、図10に概略的に示す。アルファ波I−αの電源Eの推定位置は7例中4例で認められた解剖学的位置のみを示した。
【0055】
図9、図10に示すように、リナロールでは7例中5例において吸息開始後100ms以内に両側の嗅内野皮質に、その後6例で200msから300msで右眼窩前頭葉に電源Eの位置が推定された。
【0056】
リナリルアセテートでは、7例中6例で吸息開始後100ms以内に両側の嗅内野皮質、150msから300msで7例中5例で右眼窩前頭葉、2例で両眼窩前頭葉に電源Eの位置が推定された。
【0057】
ラベンダーでは、吸息開始後7例中6例で100ms以内に右嗅内野皮質、1例で両側の嗅内野皮質、7例中4例で150msから200msで右海馬、全被験者において300msまでに右眼窩前頭葉に電源Eの位置が推定された。
【0058】
以上説明した実験結果について考察すると、本実験において3種の香り刺激のうち、ラベンダーに対する快を示す情動レベルは他の2種よりも高く、また呼吸においても大きく、ゆっくりとしたパターンであることが一回換気量VT及び呼吸数fRの変化から認められる。
【0059】
しかしながら、各呼吸の吸息に一致した加算脳波では、すべてにおいてアルファ波I−αが観察された。アルファ波I−αは閉眼時、リラックスした状態に多く出現し、その起源は視床である。
【0060】
これまでに多く嗅覚刺激でのアルファ波出現に関する研究が報告されている。しかし本願発明者の研究によりアルファ波I−αは快刺激のみではなく、不快刺激においても観察された。よって、アルファ波I−αは心地よい状態、リラックスな状態のみだけに出現するのではない。
【0061】
また、アルファ波I−αの電源Eの位置は、嗅内野皮質、海馬、眼窩前頭葉である。よって、バンド帯域自体はアルファ帯域でありながら、通常言われている視床を起源とするアルファ波とは起源が異なるということである。吸息に伴った嗅内野皮質、海馬、及び眼窩前頭葉への投射の一連の活動がこのアルファ波I−αを生成しているということが示唆される。
【0062】
次に、香り刺激の種類による電源Eの位置の違いについて考察する。リナロール、リナリルアセテートは吸息後、すぐに両側の嗅内野皮質に出現するが、ラベンダーでは右嗅内野皮質が優位である。
【0063】
また、快・不快とも認知レベルでは右嗅内野皮質が優位であった。このことから推測すると香りに対して自己の情報が少ない場合(何の香りかわからないなど)ではより多くの部位を賦活させるものと推定される。嗅内野皮質は海馬へ投射するが、同時に眼窩前頭葉にも投射する。ラベンダーにおいては海馬の賦活がみられる。
【0064】
更に、情動は記憶と深く結びついている。また情動は呼吸の変化を伴う。ラベンダーを「いい香りだ」と感じ、そして呼吸が深くゆっくりとなる。その情動と呼吸の反応が海馬に記憶される。良いと感じる香りは必ず良い記憶に結びついたものと推定される。香り刺激を伴う一呼吸、一呼吸が情動・記憶を呼び起こすとも考えら得る。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の呼吸パターン改善装置は、正常の人のみでなく、過換気症候群やパニック障害の患者の症状軽減等に幅広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施例に係る呼吸パターン改善装置の概略構成図である。
【図2】本実施例に係る呼吸パターン改善装置の吸気用弁体部分の拡大図である。
【図3】本実施例に用いるリナロールの化学式を示す図である。
【図4】本実施例に用いるリナリルアセテートの化学式を示す図である。
【図5】本実施例におけるリナロール、リナリルアセテート及びラベンダーに関する情動スコアを示す図である。
【図6】本実施例における安静時、リナロール、リナリルアセテート及びラベンダーの各香り刺激時の分時換気量、一回換気量、呼吸数を示す図である。
【図7】本実施例におけるリナロール、リナリルアセテート及びラベンダーの各香り刺激付与時以降のアルファ波を示す図である。
【図8】本実施例におけるリナロール、リナリルアセテート及びラベンダーの各香り刺激付与時以降のアルファ波についてのパワースペクトル解析の結果を示す図である。
【図9】本実施例におけるリナロール、リナリルアセテート及びラベンダーの各香り刺激付与時から100ms経過時のアルファ波の電源の推定位置を頭部のMRI画像から抽出した図に重ね合わせた状態を示す説明図である。
【図10】本実施例におけるリナロール、リナリルアセテート及びラベンダーの各香り刺激付与時から250〜300ms経過時のアルファ波の電源の推定位置を頭部のMRI画像から抽出した図に重ね合わせた状態を示す説明図である。
【図11】警告ライト提示後の呼吸数上昇の状態を示す説明図である。
【図12】予期不安時の呼吸数上昇と特性不安感との相関を示す説明図である。
【符号の説明】
【0067】
1 呼吸パターン改善装置
2 マスク部
3 圧力センサ
4 刺激付与手段
5 刺激噴霧部
6 刺激貯留部
7 空気ポンプ部
10 制御手段
11 吸気用弁体
12 呼気用弁体
20 呼吸用筒体
21a 吸息筒部
21b 呼息筒部
E 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼻口に当接した状態で呼吸が可能なマスク部と、
吸息時にのみ開く吸気用弁体を備え、吸気を吸気用弁体を経てマスク部に送る吸息系と、
呼息時にのみ開く呼気用弁体を備え、マスク部からの呼気を呼気用弁体を経て外部に排出する呼息系と、
前記吸気用弁体の開動作を検出する検出手段と、
吸気用弁体を通過する吸気の流路に香り刺激噴霧部を臨ませた香り刺激付与手段と、
前記検出手段の検出信号を基に香り刺激付与手段を動作させ、吸息に同期して香り刺激を吸気に付与する制御手段と、
を有することを特徴とする吸息同期香り刺激による呼吸パターン改善装置。
【請求項2】
鼻口に当接した状態で呼吸が可能なマスク部と、
吸息時にのみ開く吸気用弁体を備え、吸気を吸気用弁体を経てマスク部に送る吸息系と、呼息時にのみ開く呼気用弁体を備え、マスク部からの呼気を呼気用弁体を経て外部に排出する呼息系とを一体構成し、吸気用弁体、呼気用弁体間の位置で前記マスク部に連通させた呼吸用筒体と、
前記吸気用弁体の開動作を検出する検出手段と、
吸気用弁体を通過する吸気の流路に香り刺激噴霧部を臨ませ、ラベンダー等の香り刺激成分を貯留した香り刺激付与手段と、
前記検出手段の検出信号を基に香り刺激付与手段を動作させ、吸息に同期してラベンダー等の香り刺激を吸気に付与する制御手段と、
を有することを特徴とする吸息同期香り刺激による呼吸パターン改善装置。
【請求項3】
鼻口に当接した状態で呼吸が可能な略筒状のマスク部と、
吸息時にのみ開く吸気用弁体を備え、吸気を吸気用弁体を経てマスク部に送る吸息筒部と、呼息時にのみ開く呼気用弁体を備え、マスク部からの呼気を呼気用弁体を経て外部に排出する呼息筒部とを一体構成し、吸気用弁体、呼気用弁体間の位置で前記マスク部に連通させた呼吸用筒体と、
前記吸気用弁体の開動作を検出する圧力センサと、
吸気用弁体の近傍位置に配置した香り刺激噴霧部と、呼吸用筒体に配置したラベンダー等の香り刺激成分を貯留し香り刺激噴霧部に連通した香り刺激貯留部及びこの香り刺激貯留部から香り刺激噴霧部に香り刺激成分を圧送する空気ポンプ部とを具備する香り刺激付与手段と、
前記圧力センサの検出信号を基に空気ポンプ部を動作させ、吸息に同期して前記香り刺激貯留部から香り刺激噴霧部を経てマスク部に流れる吸気にラベンダー等の香り刺激を付与する制御手段と、
を有することを特徴とする吸息同期香り刺激による呼吸パターン改善装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図12】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−325756(P2006−325756A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151437(P2005−151437)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(505192327)
【出願人】(505191146)有限会社リバティーフィールド (3)