説明

吸気マニホールド

【課題】 吸気温度や製造コストの上昇等を抑制しながら、エンジンの運転に伴う騒音を乗員に伝わり難くした吸気マニホールドを提供する。
【解決手段】 エンジン1は自動車2の車体前部に吸気側が後方となるかたちで横置きに搭載されており、シリンダヘッド3の吸気ポート側壁面3aには、車体中心線CLに対して右寄り(運転席4寄り)の部位に吸気マニホールド10が前傾した状態で締結されている。吸気マニホールド10の分岐管部13の後面には遮音カバー15が締結されている。遮音カバー15は、右方部分(運転席4寄りの部分)の上下寸法が左方部分(車体中心線CL寄りの部分)の上下寸法よりも長く設定されることで、右方部分の面積が左方部分の面積に対して有意に大きくなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音材付きの吸気マニホールドに係り、詳しくは、吸気温度の上昇等を抑制しながら、エンジンの運転に伴う騒音を乗員に伝わり難くする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用多気筒エンジンでは、シリンダヘッドにおける吸気ポート側壁面に吸気マニホールドを締結し、この吸気マニホールドを介して新気(空気や混合気)を各気筒の燃焼室に供給することが一般的である。吸気マニホールドでは、エアクリーナやスロットルボディを通過した新気を一時的に貯留する吸気チャンバと、吸気チャンバ内の新気を各気筒の吸気ポートに分配する分岐管とから構成されたものが多い。吸気マニホールドの製造方法としては、アルミニウム合金を素材とするダイキャスト成型が採用されることもあるが、近年では軽量化や低コスト化等を図るべく樹脂を素材とする射出成形品が増加している。
【0003】
樹脂製の吸気マニホールドは、その振動減衰性や剛性が比較的小さく、遮音性にも劣ることから、固体伝導によるフュエルインジェクタの駆動音やエンジンの燃焼音(以下、エンジン運転騒音と記す)を外部に放出することが多い。そこで、後方吸気の横置エンジンを搭載した自動車では、吸音材(発泡樹脂等)を内装した鋼板製の大きな遮音カバーによって吸気マニホールドの後方部分全体を覆い、エンジン運転騒音を乗員に感じさせ難くしたものが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−270623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引用文献1の遮音カバーは、広い面積で吸気マニホールドを覆うため、エンジン運転騒音の低減効果が高い反面、以下に述べるような問題を有していた。すなわち、遮音カバーは保温材としても機能するため、遮音カバーを設けないものに較べて吸気マニホールド内を通過する吸入空気の温度(吸気温度)が有意に高くなり、充填効率の低下によるエンジン出力の低下がもたらされる。また、大きな遮音カバーは、内装した吸音材の量が多くなることもあいまってその製造コストが高くなる他、締結部材の数が多くなることで吸気マニホールドへの組付性も低下する。
【0005】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、吸気温度や製造コストの上昇等を抑制しながら、エンジンの運転に伴う騒音を乗員に伝わり難くした吸気マニホールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、自動車の車体前部に搭載された後方吸気の横置エンジンに付設され、その後部に遮音カバーが装着された吸気マニホールドであって、前記吸気マニホールドは、車体中心線に対して左右方向で運転席側に偏倚しており、前記遮音カバーは、前記運転席側における上下寸法が他側における上下寸法よりも大きく設定された。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、乗員(運転者)に近い側の遮音カバーの面積が大きくなるためにエンジン運転騒音を効果的に防ぐことができ、かつ、乗員から離れた部位における遮蔽カバーの面積が小さくなるために吸気温度の上昇が防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態に係る自動車用エンジンの搭載状態を示す平面図である。
【図2】実施形態に係る吸気マニホールドの斜視図である。
【図3】実施形態に係る吸気マニホールドの後面図である。
【図4】図3中のIV−IV線に沿う車載状態の拡大断面図である。
【図5】実施形態の作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明を直噴型の自動車用直列4気筒エンジン(以下、エンジンと記す)の吸気マニホールドに適用した一実施形態を詳細に説明する。なお、各部材の説明にあたっては、図2中に上下・左右・前後を矢印で示し、位置や方向をこれらに沿って表記する。
【0010】
≪実施形態の構成≫に
図1に示すように、本実施形態のエンジン1は右ハンドル形式の自動車2の車体前部に吸気側が後方となるかたちで横置きに搭載されており、シリンダヘッド3の吸気ポート側壁面3aには、車体中心線CLに対して右寄り(運転席4寄り)の部位に樹脂製(樹脂を素材とする振動溶着品)の吸気マニホールド10が前傾した状態で締結されている。吸気マニホールド10にはスロットルボディ5が接続しており、図示しないエアクリーナからの新気がこのスロットルボディ5を介して吸気マニホールド10に導入される。吸気マニホールド10の上部には、エンジン1寄りの部位にフュエルパイプ6が配管され、フュエルパイプ6の後方にはエアコンの冷媒パイプ7が配管されている。図1中の符号9は助手席を示す。
【0011】
<吸気マニホールド>
図2に示すように、吸気マニホールド10は、左端の取付フランジ11aにスロットルボディ5が締結される吸気導入部11と、吸気導入部11からの新気が流入する吸気チャンバ12と、吸気チャンバ12内の新気をエンジン1の各気筒の吸気ポート(図示せず)に導く分岐管部13とからなっており、分岐管部13の後面には4本のスクリュー16によって遮音カバー15が締結されている。なお、分岐管部13には、図4に示すように、フュエルパイプ6と冷媒パイプ7とを隔てるべく、左右一対の保護板21,22が一体に形成されている。保護板21,22は、ブラケット23を介して分岐管部13の上面に左右方向に延在するかたちで立設されており、その前後面にはブラケット23との間にそれぞれ補強リブ25,26が設けられている。
【0012】
遮音カバー15は耐熱樹脂を素材とする射出成形品であり、図3に示すように、右方部分(運転席4寄りの部分)の上下寸法L1が左方部分(車体中心線CL寄りの部分)の上下寸法L2よりも長く設定されることで、右方部分の面積が左方部分の面積に対して有意に大きくなっている。また、図4に示すように、遮音カバー15の内部には、耐熱発泡樹脂(あるいは、グラスウール)を素材とし、組付状態で分岐管部13の後面に密着する吸音材17が保持されている。なお、遮音カバー15は、吸気マニホールド10が前傾していることにより、運転者の耳に対して吸気マニホールド10の上部を遮蔽するかたちとなる。
【0013】
≪実施形態の作用≫
運転者が自動車2に乗り込んでエンジン1を始動させると、エンジン運転騒音(フュエルインジェクタの駆動音や燃焼音)がエンジン1内で発生し、このエンジン運転騒音が固体伝導によって吸気マニホールド10を振動させる、あるいは、吸気マニホールド10を透過することにより、分岐管部13の後面から放射される。
【0014】
ところが、本実施形態の場合、分岐管部13の後面に遮音カバー15が取り付けられ、かつ、遮音カバー15の右方部分の面積が大きくなっているため、分岐管部13における運転者の耳に近い部位から放射されたエンジン運転騒音の大部分は、吸音材17に吸収されるとともに遮音カバー15によって遮蔽される。なお、遮音カバー15は、吸気マニホールド10が前傾していることから、図4に示すように、比較的面積の小さいものでありながら、吸気マニホールド10の大部分を運転者に対して遮蔽することができる。これにより、運転者が感じるエンジン運転騒音のレベルがごく低く抑えられ、運転操作への集中や助手席9側の乗員との会話が妨げられ難くなる。一方、吸気マニホールド10は車体中心線CLに対して右寄り(すなわち、運転席4寄り)に位置するため、遮音カバー15の左方部分の面積が小さくても、助手席9側の乗員が大きなエンジン運転騒音を感じることはない。
【0015】
また、遮音カバー15は、左方部分の面積が小さくなっているため、吸気マニホールドの全体を覆う従来のものに較べて吸気温度を上昇させる作用が小さく、充填効率の低下による出力低下をもたらすことが少ない。更に、遮音カバー15は、全体の大きさが比較的小さいため、吸気マニホールド10に締結するためのスクリュー16も4本と少なくすることができる。
【0016】
一方、自動車2が他の車両や建造物(例えば、中央分離帯)に衝突すると、エンジン1が後方に移動し、フュエルパイプ6と冷媒パイプ7(あるいは、バルクヘッド等の車体パネル)とが接近する場合がある。しかしながら、本実施形態では、フュエルパイプ6と冷媒パイプ7との間に保護板21,22および補強リブ25が介在しているため、図5に示すように、フュエルパイプ6と冷媒パイプ7との直接的な接触や衝突が防止され、フュエルパイプ6の損傷に起因する燃料洩れ等が効果的に抑制される。また、ブラケット23との間に補強リブ25,26が設けられているため、冷媒パイプ7が衝突しても保護板21,22が撓みにくく、フュエルパイプ6と保護板21,22や補強リブ25との衝突も起こりにくい(すなわち、フュエルパイプ6がより確実に保護される)。
【0017】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれら実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態は、本発明を右ハンドル車の吸気マニホールドに適用したものであるが、左ハンドル車にも当然に適用可能である。また、上記実施形態では吸気マニホールドおよび遮音カバーを樹脂成型品としたが、これらをアルミニウム合金ダイキャスト成型品や鋼板プレス成型品としてもよく、その場合にも同様の効果を得ることができる。その他、吸気マニホールドや遮音カバーの具体的形状等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設定可能である。
【符号の説明】
【0018】
1 エンジン
2 自動車
4 運転席
6 フュエルパイプ(燃料パイプ)
10 吸気マニホールド
13 分岐管部
15 遮音カバー
16 スクリュー
17 吸音材
21,22 保護板
CL 車体中心線
L1 一側の上下寸法
L2 他側の上下寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車体前部に搭載された後方吸気の横置エンジンに付設され、その後部に遮音カバーが装着された吸気マニホールドであって、
前記吸気マニホールドは、車体中心線に対して左右方向で運転席側に偏倚しており、
前記遮音カバーは、前記運転席側における上下寸法が他側における上下寸法よりも大きく設定されたことを特徴とする吸気マニホールド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−108382(P2013−108382A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252642(P2011−252642)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)