説明

吸気マニホールド

【課題】 製造の容易化やシリンダヘッドへの組付作業性の向上等を実現した吸気マニホールドを提供する。
【解決手段】 第2分岐管半部24〜26は、吸気チャンバ2側の部分が比較的大きな第1,第2チャンバ側架橋部31,32によって相互に連結され、接続フランジ6側の部分が比較的細い第1,第2フランジ側架橋部33,34によって相互に連結されている。第1,第2フランジ側架橋部33,34は、シリンダヘッド13における接続フランジ6の締結面に直交する方向から視た場合、どちらも接続フランジ6とは重なる一方、ナット7やボルト8とは重ならないようになっている。そして、第1フランジ側架橋部33は、ナット7を締結するドライブソケット41を案内かつ支持すべく、上方に凹となった円弧状のソケットガイド部(ソケットサポート部)35を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のエンジンに付設される樹脂製の吸気マニホールドに係り、詳しくは製造の容易化やシリンダヘッドへの組付作業性の向上等を実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用多気筒エンジンでは、シリンダヘッドにおける吸気ポート側壁面に吸気マニホールドを締結し、この吸気マニホールドを介して新気(空気や混合気)を各気筒の燃焼室に送給するものが一般的である。吸気マニホールドは、エアクリーナやスロットルバルブを通過した新気を一時的に貯留する吸気チャンバと、吸気チャンバ内の新気を各気筒の吸気ポートに分配する分岐管とから構成されたものが多い。吸気マニホールドの製造方法としては、アルミニウム合金を素材とするダイキャスト成型が採用されることもあるが(特許文献1参照)、近年では軽量化や低コスト化等を図るべく樹脂を素材とする射出成形が主流となっている(特許文献2参照)。そして、中子を用いない樹脂射出成形の場合、吸気チャンバや各分岐管に中空部(新気の流通部)を形成することが難しいため、分割して成型した複数のパートを振動溶着によって接合して一体化させる方法が採られることがある(特許文献3参照)。
【特許文献1】実公平4−5721号公報
【特許文献2】特許3947901号公報
【特許文献3】特許3817598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献3では、分岐管を比較的大きなエンジン側の第1分岐管半部と比較的小さな第2分岐管半部とに分割し、これらを振動溶着によって接合する都合上、製造効率や接合精度を高めるべく、各第2分岐管半部を長手方向中央に設けた架橋部で相互に連結している。しかしながら、吸気マニホールドの形状や分岐管に長さによっては、強度や剛性上の観点から第2分岐管半部の端部に架橋部を設けることが望ましく、この場合には第1分岐管半部に形成された接続フランジと架橋部とが側方視で(シリンダヘッドの接続フランジ締結面に直交する方向から視たときに)重なることがある。接続フランジには、シリンダヘッドへの締結に供される締結部品(ボルトやナット)が複数配置されるため、側方視で締結部品の手前に架橋部が存在した場合、締結工具(ドライブソケット等)を締結部品に係合させることができなくなり、製造ライン等における吸気マニホールドの組付作業が煩雑になる問題があった。
【0004】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、製造の容易化やシリンダヘッドへの組付作業性の向上等を実現した吸気マニホールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の側面では、多気筒エンジン(12)に付設される吸気マニホールド(1)であって、新気が導入される吸気チャンバ(2)と、前記吸気チャンバから各気筒の吸気ポートにそれぞれ新気を導く複数の分岐管(3〜5)と、各分岐管の下流端が接続するとともに、締結部品(7,8)によってシリンダヘッド(13)に締結される接続フランジ(6)とを備え、前記分岐管が第1分岐管半部(21〜23)と、当該第1分岐管半部に接合される第2分岐管半部(24〜26)とを有し、前記第1分岐管半部は、隣接するものどうしが前記接続フランジによって相互に連結されており、前記第2分岐管半部は、隣接するものどうしが架橋部(31〜34)によって相互に連結されており、前記架橋部は、前記シリンダヘッドの接続フランジ締結面に直交する方向から視た場合、前記接続フランジとは重なる一方、前記締結部品とは重ならないフランジ側架橋部(33,34)を少なくとも含む。
【0006】
また、第2の側面では、前記締結部品が締結工具(41)によって締結されるボルトあるいはナットであり、前記フランジ側架橋部は、当該締結工具を当該締結部品に案内する工具ガイド部(35)、または、当該締結部品を締結する際に当該締結工具を支持する工具サポート部を有する。
【0007】
また、第3の側面では、前記工具ガイド部または前記工具サポート部は、上方に凹となった円弧状を呈する。
【0008】
また、第4の側面では、前記分岐管は、前記吸気チャンバから前記シリンダヘッドに向かう吸気流を湾曲させる形状となっている。
【0009】
また、第5の側面では、前記第2分岐管半部は、気筒列方向から視て、略C字形状または略U字形状を呈する。
【0010】
また、第6の側面では、前記吸気チャンバは、前記接続フランジに対して気筒列方向でオフセットしている。
【0011】
また、第7の側面では、前記吸気チャンバは、前記分岐管の上流側部分と下流側部分との間に配置されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第2分岐管半部の下流端側の反りがフランジ側架橋部によって効果的に防止される一方、締結部品の締付作業や緩め作業がフランジ側架橋部によって阻害されることがない。また、フランジ側架橋部に工具ガイド部や工具サポート部が形成されたものでは、締結工具と締結部品との係合や締結時における締結工具の保持が容易となって作業効率が向上する。また、工具ガイド部や前記工具サポート部が上方に凹となった円弧状を呈するものでは、円柱状の締結工具の案内や保持がより確実に行える。また、分岐管が吸気チャンバからシリンダヘッドに向かう吸気流を湾曲させる形状となっているものでは、各分岐管の全長が長くなるものの、フランジ側架橋部によって相互に連結されることで分岐管の下流端が反り難くなる。また、第2分岐管半部が気筒列方向から視て略C字形状または略U字形状を呈するものでは、各分岐管の全長が長くなるものの、フランジ側架橋部によって相互に連結されることで分岐管の下流端が反り難くなる。また、吸気チャンバが接続フランジに対して気筒列方向でオフセットしているものでは、各分岐管の全長が長くなるものの、フランジ側架橋部によって相互に連結されることで分岐管の下流端が反り難くなる。また、吸気チャンバが分岐管の上流側部分と下流側部分との間に配置されているものでは、各分岐管の全長が長くなるものの、フランジ側架橋部によって相互に連結されることで分岐管の下流端が反り難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係る吸気マニホールドの斜視図である。
【図2】図1中のII矢視図である。
【図3】実施形態に係る第2分岐管半部の斜視図である。
【図4】図1中のIV矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を自動車用直列3気筒エンジンの吸気マニホールドに適用した一実施形態を詳細に説明する。なお、各部材の説明にあたっては、図1中に上下・左右・前後を矢印で示し、位置や方向をこれらに沿って表記する。
【0015】
≪実施形態の構成≫
図1に示すように、本実施形態の吸気マニホールド1は、樹脂を素材とする射出成型品であり、スロットルバルブ11が左端(上流端)に接続される略円筒状の吸気チャンバ2と、吸気チャンバ2内の新気をエンジン12の各気筒の吸気ポート(図示せず)に導く第1〜第3分岐管3〜5と、各分岐管3〜5の下流端が接続する接続フランジ6とから構成されている。
【0016】
図2に示すように、第1〜第3分岐管3〜5は、その上流端が吸気チャンバ2の上部に接続し、接続フランジ6に向けて吸気流を大きく湾曲させる形状となっている。また、吸気チャンバ2は、図1に示すように接続フランジ6に対して気筒列方向で左方にオフセットされるとともに、図2に示すように各分岐管3〜5の上流側部分と下流側部分との間に配置されている。
【0017】
図1,図2に示すように、第1〜第3分岐管3〜5は、吸気チャンバ2や接続フランジ6に接続して第1〜第3分岐管3〜5の後方部分(エンジン12寄りの部分)を形成する第1分岐管半部21〜23と、第1分岐管半部21〜23に振動溶着によって接合されて残部を形成する第2分岐管半部24〜26とから構成されている。本実施形態の場合、図2に示すように、第2分岐管半部24〜26は、右方視で略C字形状をなすように湾曲している。なお、本実施形態の場合、吸気チャンバ2についても、図2に示すように、スロットルバルブ11が接続する第1吸気チャンバ半部28と、第1吸気チャンバ半部28に接合されて残部を形成する第2吸気チャンバ半部29とから構成されている。
【0018】
図3に示すように、第2分岐管半部24〜26は、上流側(吸気チャンバ2側)が比較的大きな第1,第2チャンバ側架橋部31,32によって相互に連結され、下流側(接続フランジ6側)が比較的小さな(細い)第1,第2フランジ側架橋部33,34によって相互に連結されている。本実施形態の場合、第1〜第3分岐管3〜5が大きく湾曲し、第2分岐管半部24〜26が略C字形状をなすように湾曲し、吸気チャンバ2が接続フランジ6に対して気筒列方向で左方にオフセットし、各分岐管3〜5の上流側部分と下流側部分との間に配置されていることで、第1〜第3分岐管3〜5および第2分岐管半部24〜26の全長が長くなる。しかしながら、第1,第2チャンバ側架橋部31,32や第1,第2フランジ側架橋部33,34が存在することにより、第2分岐管半部24〜26の全長にわたって反りが起こりにくくなり、第1分岐管半部21〜23と第2分岐管半部24〜26との振動溶着が適正かつ良好に行われて製品不良等が殆ど生じなくなる。
【0019】
図4に示すように、接続フランジ6は、3つのナット7と1本のボルト8とにより、エンジン12のシリンダヘッド13に締結されている。第1,第2フランジ側架橋部33,34は、シリンダヘッド13における接続フランジ6の締結面に直交する方向から視た場合、どちらも接続フランジ6とは重なる一方、ナット7やボルト8とは重ならないようになっている。そして、第1フランジ側架橋部33は、ナット7を締結するドライブソケット41を案内すべく、上方に凹となった円弧状のソケットガイド部35を有している。なお、本実施形態のソケットガイド部35は、締結作業時にドライブソケット41を支持するソケットサポート部を兼ねている。
【0020】
≪実施形態の作用≫
エンジン12の組立ラインにおいて、組立作業者は、以下の手順をもって吸気マニホールド1をシリンダヘッド13に締結する。すなわち、組立作業者は、先ずシリンダヘッド13に植設されたスタッドボルト14に吸気マニホールド1を係合させた後、電動式のナットランナー(ねじ締め装置:図示せず)に装着した円柱状のドライブソケット41によってナット7やボルト8をねじ込む。しかる後、ドライブソケット41を装着したトルクレンチ42により、規定の締付トルクをもってナット7やボルト8を締め付ける。
【0021】
本実施形態では、第1フランジ側架橋部33にソケットガイド部35が設けられているため、組立作業者は、ドライブソケット41をソケットガイド部35に沿って押し込むことにより、ナット7やボルト8にドライブソケット41を容易に係合させることができる。また、締付作業時においても、ソケットガイド部35に載せることでドライブソケット41の傾きが防止されるため、組立作業者は、締付作業を容易かつ確実に行うことができる。
【0022】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれら実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態は、自動車用の直列3気筒エンジンの吸気マニホールドに本発明を適用したものであるが、本発明は、自動車や産業機械等に用いられる直列4気筒エンジンやV型6気筒エンジン等にも当然に適用可能である。また、上記実施形態では円弧状のソケットガイド部をフランジ側架橋部に形成するようにしたが、ソケットガイド部として平板状のものや円筒状のものを採用してもよい。また、上記実施形態では分岐管が第1分岐管半部と第2分岐管半部とに2分割されるものとしたが、3つ以上のパートに分割されてもよい。また、上記実施形態では締結工具としてナットランナーやトルクレンチに装着されるドライブソケットを挙げたが、ボックスエンドレンチ(いわゆる、メガネレンチ)やオープンエンドレンチ(いわゆる、スパナ)等であってもよい。その他、吸気マニホールドや第2分岐管半部の具体的構造や形状、成形方法等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設定可能である。
【符号の説明】
【0023】
1 吸気マニホールド
2 吸気チャンバ
3〜5 分岐管
6 接続フランジ
7 ナット(締結部品)
8 ボルト(締結部品)
12 エンジン
13 シリンダヘッド
21〜23 第1分岐管半部
24〜26 第2分岐管半部
33,34 フランジ側架橋部
35 ソケットガイド部(工具ガイド部)
41 ドライブソケット(締結工具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多気筒エンジンに付設される吸気マニホールドであって、
新気が導入される吸気チャンバと、
前記吸気チャンバから各気筒の吸気ポートにそれぞれ新気を導く複数の分岐管と、
各分岐管の下流端が接続するとともに、締結部品によってシリンダヘッドに締結される接続フランジとを備え、
前記分岐管が第1分岐管半部と、当該第1分岐管半部に接合される第2分岐管半部とを有し、
前記第1分岐管半部は、隣接するものどうしが前記接続フランジによって相互に連結されており、
前記第2分岐管半部は、隣接するものどうしが架橋部によって相互に連結されており、
前記架橋部は、前記シリンダヘッドの接続フランジ締結面に直交する方向から視た場合、前記接続フランジとは重なる一方、前記締結部品とは重ならないフランジ側架橋部を少なくとも含むことを特徴とする吸気マニホールド。
【請求項2】
前記締結部品が締結工具によって締結されるボルトあるいはナットであり、
前記フランジ側架橋部は、当該締結工具を当該締結部品に案内する工具ガイド部、または、当該締結部品を締結する際に当該締結工具を支持する工具サポート部を有することを特徴とする、請求項1に記載された吸気マニホールド。
【請求項3】
前記工具ガイド部または前記工具サポート部は、上方に凹となった円弧状を呈することを特徴とする、請求項2に記載された吸気マニホールド。
【請求項4】
前記分岐管は、前記吸気チャンバから前記シリンダヘッドに向かう吸気流を湾曲させる形状となっていることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載された吸気マニホールド。
【請求項5】
前記第2分岐管半部は、気筒列方向から視て、略C字形状または略U字形状を呈することを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載された吸気マニホールド。
【請求項6】
前記吸気チャンバは、前記接続フランジに対して気筒列方向でオフセットしていることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載された吸気マニホールド。
【請求項7】
前記吸気チャンバは、前記分岐管の上流側部分と下流側部分との間に配置されていることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載された吸気マニホールド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−15056(P2013−15056A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147811(P2011−147811)
【出願日】平成23年7月3日(2011.7.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)