説明

吸湿性ポリアミド56短繊維およびその製造方法

【課題】 紡糸性が良好で、商品価値の高い吸湿性を有するポリアミド短繊維を提供する。
【解決手段】 ポリアミド56を主たるポリマ成分として構成される短繊維であって、吸放湿パラメータ(ΔMR)が4%以上であり、繊維長が30〜100mmであり、かつ、捲縮度が10〜25%である吸湿性ポリアミド56短繊維である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は優れた吸湿性を有するポリアミド56短繊維に関するものである。更に詳しくは詰綿、不織布等の資材用途、紡績糸からなるインナー、スポーツ等の衣料用素材に好適に使用することができるポリアミド56短繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、地球的規模での環境に対する意識向上に伴い、非石油由来の繊維素材の開発が切望されている。従来の汎用プラスチックは石油資源を主原料としていることから、石油資源が将来枯渇すること、また石油資源の大量消費により生じる地球温暖化が大きな問題として採り上げられている。
【0003】
二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料とすることで、二酸化炭素の循環により地球温暖化を抑制できることが期待できるとともに、資源枯渇の問題も解決できる可能性がある。このため近年では、植物資源を出発点とするプラスチック、すなわちバイオマス由来のプラスチック(以下、バイオマスプラと記載)に注目が集まっている。例えばバイオマスプラの代表的なものとしてポリ乳酸等の脂肪族系ポリエステルが挙げられ、研究・開発が活発化している。しかし、脂肪族系ポリエステルは、力学特性や耐熱性などの諸特性が、従来の芳香族系ポリエステル繊維、あるいはポリアミド繊維と比べて低く、用途がかなり制限されるものであった。
【0004】
ナイロン6、ナイロン66で代表されるポリアミド繊維はその優れた糸強度、耐摩耗性、深みのある染色性、高次加工のしやすさ等によって多くの衣料用途に使われている。しかしながら、これら汎用のポリアミド繊維は合成繊維の中では比較的高い吸湿性を有するものの、天然繊維と比較するとその吸湿性は劣るため、インナー、中衣、スポーツ衣料等のように直接肌に触れて、あるいは肌側に近い状態で着用される分野に使用される場合には、肌からの発汗によるムレ、ベタツキ等を生じ天然繊維に比較して快適性の点で劣る欠点がある。
【0005】
この欠点を改善する目的で、特公昭60−34979号公報にはポリアミド繊維に親水性ビニルモノマーをグラフト重合し、吸湿性を付与して衣服の快適性を向上せしめる方法が提案されている。しかしながら、グラフト重合されたポリアミドは染色堅牢性が低下するという欠点があって、商品展開が制約されるという問題がある。また、吸湿性および帯電防止性を改良するという目的で特公昭44−10488号公報には、ポリアミドと脂肪族ブロックポリエーテルアミドを複合させる技術が開示されているが、高度の吸湿性を付与すべく該ブロックポリエーテルアミドを多量に複合すると、複合繊維の色調は黄色味が強くなり展開用途が制限されるという欠点がある。
【0006】
この問題を改善すべく、特開平6−136618号公報には芯成分がポリエーテルエステルアミドで鞘成分が繊維形生成ポリアミド樹脂からなる芯鞘型複合繊維が開示されている。該公報によれば優れた吸湿性能を発揮することが可能であるものの、該芯成分のポリエーテルエステルアミドは製造コストが高く、また、十分な吸湿性能を発揮するためには芯成分の複合比を高くする必要があり、展開用途に制限があった。また特開平9−188917号公報には、ポリビニルピロリドンをポリアミド繊維に3〜15重量%含有させることで吸湿効果を発揮させる方法が提案されているが、短繊維製造ではポリビニルピロリドンを添加するとポリアミドが膨潤をおこし延伸処理が出来ないという大きな問題があり採用できない。
【0007】
一方、特開昭51−136924号公報には親水性ポリエステルを芯成分、非親水性ポリエステルを鞘成分とする芯鞘型複合ステープルが提案されている。該公報は親水性ポリエステルとしてポリアルキレングリコール共重合体単独あるいは少量のポリアルキレングリコール共重合体に少量のスルホン酸や酸性リン酸エステル誘導体を配合したものを用いるものであり、ステープルとして繊維両端面を増加させ吸水性を向上させようという提案である。しかしながら、本願発明者らの検討ではステープルであるが故にクリンパーによる捲縮付与工程において鞘成分であるポリエステルがダメージを受け、精錬や染色などの熱水処理時に芯部の吸湿性樹脂が水を吸水して大きく膨潤するため繊維表面にひび割れが生じ、芯成分が外部へ流出し易い欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭60−34979号公報
【特許文献2】特公昭44−10488号公報
【特許文献3】特開平6−136618号公報
【特許文献4】特開平9−188917号公報
【特許文献5】特開昭51−136924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を克服し、吸湿率が高く、溶融粘度の高いナイロン56を用いることにより、紡糸性が良好で、商品価値の高い吸湿性を有するポリアミド短繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した本発明の目的は、ポリアミド56を主たるポリマ成分として構成される短繊維であって、吸放湿パラメータ(ΔMR)が4%以上であり、繊維長が30〜80mmであり、かつ、捲縮度が10〜25%であることを特徴とする吸湿性ポリアミド56短繊維によって達成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって得られた吸湿性短繊維は非常に高い吸湿特性を有しており、該糸を用いた紡績糸からなるインナー、スポーツ衣料は、着用快適性を得るのに十分な吸湿性を有し、かつ高い染色堅牢性を有している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
吸放湿パラメータ(以下ΔMRと記す)は、繊維の吸放湿性能を表す尺度であり、高ければ高い方が好ましいが、本発明の吸湿性ポリアミド56短繊維のΔMRは4%以上である。好ましくは6%以上である。
【0013】
ここでΔMRとは、30℃×90%RHでの吸湿率(MR2)から20℃×65%RHでの吸湿率(MR1)を引いた差である(ΔMR(%)=MR2−MR1)。ここでΔMRは衣服着用時の衣服内の湿気を外気に放出することにより快適性を得るためのドライビングフォースであり、軽〜中作業あるいは軽〜中運動を行った際の30℃×90%RHに代表される衣服内温湿度と20℃×65%RHに代表される外気温湿度との吸湿率差である。本発明では吸湿性評価の尺度としてこのΔMRを吸放湿能力を示す尺度として用いる。ΔMRは大きければ大きいほど吸放湿能力が高く着用時の快適性が良好であることに対応する。
【0014】
本発明のポリアミド56短繊維とは、1,5−ジアミノペンタンとアジピン酸とを主たる構成単位とするポリアミド56樹脂からなる繊維である。本発明のポリアミド56繊維は、バイオマス利用の1,5−ジアミノペンタン単位を含んでなることから、環境適応性に優れている。より環境適応性に優れる点で、ポリアミド56を構成する1,5−ジアミノペンタン単位の50%以上がバイオマス利用で得られた1,5−ジアミノペンタンからなることが好ましい。より好ましくは75%以上であり、最も好ましくは100%である。
【0015】
本発明の吸放湿ポリアミド56短繊維の断面形状は、丸断面だけでなく、扁平型、Y型、H型、多角型、中空型などの多種多様な異形断面形状を採用することができる。ポリアミド56繊維の強度が高まる点からすると丸断面であることが好ましいが、吸放湿性を高めるためには、繊維表面積が大きくなる異形断面形状の方が好ましい。
【0016】
本発明において、実用上の着用快適性を得るためには、吸湿性短繊維のΔMRは経時変化が問題とならない範囲で高いほど好ましく、4.0%以上である。上限値は特にないが、ポリアミド56での可能性からして、高くても6.5%程度である。
【0017】
本発明の吸湿性短繊維は繊維長が30〜100mmであることが必要であり、35〜80mmであることがより好ましい。繊維長が短か過ぎる場合には、高次加工の過程で繊維同士の絡合が不十分となり易い。一方、長すぎる場合には紡績工程を始め工程通過性が不良となり易い。
【0018】
また、本発明の吸湿性短繊維は捲縮度が10〜25%であることが必要で、13〜20%であることがより好ましい。捲縮度が10%未満では短繊維同士の絡合性が低く、カード通過性や紡績性が悪化するとともに、十分な嵩高性を発揮することが困難になる。一方、捲縮度が25%を越える場合、絡合性が高くなりすぎ、もつれが発生してカード通過性が低下する他、均一性の不良な紡績糸となる。捲縮度は、製造工程における機械捲縮工程での条件を変更することにより調整することができる。
【0019】
本発明の吸湿性ポリアミド56短繊維は、ポリアミド56から溶融紡糸により短繊維を製造する下記の方法によって製造することができる。
【0020】
ポリアミド56を紡糸口金から溶融吐出させ、冷却風にて冷却固化させた後、含水油剤を付着させ、湿式の熱源にて延伸、熱処理、リラックス処理を施し、捲縮付与した後、繊維長30〜100mmとなるように切断することにより、ポリアミド56短繊維を製造する。
【0021】
より具体的な方法を例示する。ポリアミド56を溶融し、紡糸パックに導き、吐出孔から紡出する。紡出したマルチフィラメント糸を冷却固化、含水油剤付着し、400〜2000m/分の速度で引取り、トウ状にして一旦缶内に収納する。得られたトウを通常用いられるスチーム浴で2倍以上に延伸し、熱処理し、リラックス倍率0.7〜0.95でリラックス処理した後に、押し込み方式で機械捲縮を付与し、用途に応じた所定の長さに切断することによって短繊維を製造する。
【0022】
本発明において、溶融紡糸に供するポリアミド56としては、重合度が硫酸相対粘度ηr=2.0〜3.0のポリアミド56を用いればよい。このポリアミド56には、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料のほか従来公知の抗酸化剤、着色防止剤、耐光剤、帯電防止剤等が添加されていても良い。
【0023】
本発明の吸湿性短繊維は、紡績糸とし、次いで布帛とする用途で使用することが好ましいが、布帛形態としては、織物、編物、不織布、詰綿など目的に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0024】
以下本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。なお、実施例中の各特性値は次の方法によって求めた。
【0025】
A.短繊維の吸放湿性パラメータ(ΔMR)
吸湿率は、原綿または布帛1〜3gを試料として用い、絶乾時の重量と、20℃×65%RHあるいは30℃×90%RHの雰囲気下、恒温恒湿器中に24時間放置することにより吸湿させた後の重量とを測定する。その重量変化から、次式により吸湿率を求める。
【0026】
吸湿率(%)=[(吸湿後の重量−絶乾時の重量)/絶乾時の重量]×100
上記測定した20℃×65%RHおよび30℃×90%RHの各条件での吸湿率(それぞれMR1およびMR2とする)から、吸湿率差ΔMR(%)=MR2−MR1を 求める。
【0027】
B.強度、伸度
テンシロン引張り試験機を用いて試料長2cm、引張り速度2cm/分の条件で応力−歪み曲線を求め、これから切断時の強度、伸度値を求める。
【0028】
C.捲縮度
試料に初荷重(2mg/d)をかけたときの長さをaとし、荷重(300mg/d)をかけたときの長さをbとし、次式にしたがって捲縮度(%)を算出する。試験回数は10回とし、その平均値で表す。
捲縮度(%)=[(b−a)/b]×100
実施例1及び比較例1、2
ポリアミド56を溶融し、紡糸口金から吐出し、冷却風にて冷却固化させた後、含水油剤を付着させ、1300m/分の速度で引き取って未延伸糸とし、トウ状にて一旦缶内に収納した。次いでスチーム浴で延伸した後、180℃で熱処理し、リラックス処理し、押し込み方式による機械捲縮を付与し、切断し、繊度2.45dtex、繊維長51mm、捲縮度15%の短繊維を製造した。
【0029】
得られた原綿を使用して通常の方法で綿番手30番の紡績糸とした。この紡績糸の吸放湿特性を測定したところΔMR=4.4%であり、木綿並の吸湿性を示した。
【0030】
比較例1として、ポリアミド56の代わりにポリアミド6を用い、比較例2として、ポリアミド56の代わりにポリアミド66を使用した以外は実施例1と同様な方法によりポリアミド6短繊維およびポリアミド66短繊維を製造した。
【0031】
比較例1によるポリアミド6短繊維は、ΔMR=2.7%であり、また、比較例2によるポリアミド66短繊維は、ΔMR=2.5%であり、十分な吸湿性能が得られなかった。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例2〜3及び比較例3、4
実施例1において、繊度、捲縮度を一定として、繊維長を短く、もしくは長く変更したこと以外は実施例1と同様な方法によりポリアミド56短繊維を製造した。その結果を表2に示す。
【0034】
比較例3、4においては、繊維長が短かすぎ、もしくは長すぎたために、紡績糸の絡合不十分および工程通過性不良の問題が発生した。
【0035】
【表2】

【0036】
実施例4〜5及び比較例5、6
実施例1において繊維長を51mmに固定し、捲縮度を変更したこと以外は実施例1と同様な方法によりポリアミド56短繊維を製造した。その結果を表3に示す。
【0037】
比較例5においては、捲縮度が低すぎるために、短繊維同士の絡合性が低く、カード通過性や紡績性悪化が観られ、さらには十分な嵩高性を得られなかった。比較例6においては、捲縮度が高すぎるために絡合性が高くなりすぎ、もつれが発生してカード通過性が低下、均一性の不良な紡績糸となった。
【0038】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によって得られる吸湿性短繊維は、シーツ、フトンカバー、詰め綿等の快適寝装用の他、快適芯地用不織布等に適しており、極めて実用性の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド56を主たるポリマ成分として構成される短繊維であって、吸放湿パラメータ(ΔMR)が4%以上であり、繊維長が30〜100mmであり、かつ、捲縮度が10〜25%であることを特徴とする吸湿性ポリアミド56短繊維。
【請求項2】
強度が4〜8cN/dtexであることを特徴とする請求項1に記載の吸湿性ポリアミド56短繊維。
【請求項3】
ポリアミド56を紡糸口金から溶融吐出させ、冷却風にて冷却固化させた後、含水油剤を付着させ、湿式の熱源にて延伸、熱処理、リラックス処理を施し、捲縮付与した後、繊維長30〜100mmとなるように切断し、請求項1又は2に記載の吸湿性ポリアミド56短繊維を製造することを特徴とする吸湿性ポリアミド56短繊維の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の吸湿性ポリアミド56短繊維からなる紡績糸。

【公開番号】特開2011−157639(P2011−157639A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18294(P2010−18294)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】