説明

吸着剤、濾材およびエアフィルター

【課題】低級アルデヒド類に対し除去性能に優れ、さらに低湿度や氷点下のような環境下においても除去効率が高い吸着剤を提供する。
【解決手段】数平均分子量62〜600のポリエチレングリコールおよびアミン系化合物を多孔質体が担持してなることを特徴とする吸着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着剤に関する。更に詳しくは、家庭環境および作業環境から発生する臭気中に含まれる脂肪族アルデヒド類、特にアセトアルデヒドに代表される低級脂肪族アルデヒドの吸着除去に有効な吸着剤に関し、特にエアフィルター用途に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中の汚染物質についてはその種類が多岐に渡るが、その中でも低級アルデヒド類は、大きな問題となっている。例えば、アセトアルデヒドはタバコ煙や自動車の排気ガス中に含まれる代表的な悪臭成分であり、低濃度でも臭気を感じ易い。また空気中の汚染物質の除去には、活性炭が一般に使用されているが、低級脂肪族アルデヒド類の活性炭への平衡吸着量は他の悪臭成分に比べて著しく小さい。
【0003】
そこでアルデヒドと化学反応する求核試薬によって除去する方法(特許文献1)が開示されている。
【0004】
また、化学反応を促進するために保湿剤を添加することが良く知られている。例えば、特許文献2にはアルデヒド薬剤と多孔質体、保湿剤が用いられている。また、特許文献3,4には、保湿剤および脱臭剤を含有する吸着剤およびフィルターが開示されている。
【0005】
しかし、これら従来の保湿剤を単に含ませる技術は、フィルターのような動的な低級脂肪族アルデヒドの除去に対して実用的な効果は無かった。
【0006】
また、これらの吸着剤は保湿性を利用して反応を向上させているため、水が少ない環境下である低湿度下や水が凍ってしまう273K未満の環境下になると全く作用を及ぼさないと言う欠点があった。
【特許文献1】特公昭62−286464号公報
【特許文献2】特開平9−313828号公報
【特許文献3】特開2003−310728号公報
【特許文献4】特開2006−192388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、低級アルデヒド類に対する除去性能に優れ、さらに低湿度や氷点下のような環境下においても除去効率が高い吸着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、多孔質体がアミン系化合物および数平均分子量62〜600のポリエチレングリコールを担持してなることを特徴とする吸着剤である。
【0009】
また本発明は、本発明の吸着剤が担持された繊維を含んでなることを特徴とする濾材である。
【0010】
また本発明は、本発明の濾材を用いたことを特徴とするエアフィルターである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低湿度や氷点下においても対象ガスの除去効率が高く、再脱離する事がない吸着剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の吸着剤は多孔質体を有する。多孔質体により、処理エアと接触可能な表面積を得るとともに脱臭剤を十分な量添着させることができ、通過風速の速い動的な状態におけるアルデヒドの除去効率を高めることができる。
【0013】
多孔質体としては、活性炭に代表される多孔質カーボン、多孔質炭化ケイ素、多孔質炭化チタン、多孔質シリカ、ゼオライト、アルミナ、アパタイト、多孔質ガラス、ケイ酸アルミニウム、シリカゲル、アルミナゲル、活性白土、層状構造多孔体、リン酸アルミニウム、メソポーラス体、多孔質セラミック、多孔質窒化ケイ素、多孔性粘土鉱物等を挙げることができ、これらの中から目的に応じて選択することができる。中でも、多孔質シリカは、安価であり物理吸着性が小さいために好ましい。
【0014】
多孔質体の平均粒径としては、0.01〜200μmが好ましく、より好ましくは0.1〜50μmである。200μm以下とすることで、処理エアとの接触効率を上げることができるとともに、繊維等の担持体の表面に均一に担持させることができる。また、0.01μm以上とすることで、繊維等の担持体の表面への担持に使用するバインダー樹脂に多孔質体が埋没してしまうのを防ぐことができる。
【0015】
多孔質体の細孔の直径としては、0.5〜100nmが好ましく、より好ましくは50nm以下である。100nm以下とすることで、無機粒子の機械的強度の低下等の無理なく比表面積を大きくとることができる。また0.5nm以上とすることで、添着させる薬品や対象ガス成分が細孔内部に進入できなくなるのを防ぐことができる。
【0016】
多孔質体の全細孔容積としては、0.6〜2.0ml/gが好ましい。0.6ml/g未満では、多孔質体に添着される薬剤の添着量が不足し、十分な除去性能を得ることができない。また、2.0ml/g以下にすることによって多孔質体に十分な強度が得られる。
【0017】
多孔質体の比表面積としては、BET比表面積で50〜1200m/gが好ましく、より好ましくは100〜1000m/gである。50m/g以上とすることで、添加する薬品の反応場として実効的な面積が得られ、除去しようとするガス成分との実効的な反応速度が得られる。また1200m/g以下とすることで、多孔質体の機械的強度の低下によるため取り扱い性の不便を防ぐことができる。
【0018】
本発明の吸着剤は、アミン系化合物を有することが重要である。アミン系化合物の存在により、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒド類に対する化学吸着能が飛躍的に向上する。
【0019】
アミン系化合物としては例えば、ヒドラジン類、脂肪族アミン類、芳香族アミン類、尿素類などのアミン化合物を採用することができる。
【0020】
アミン化合物のなかでも、酸ヒドラジド類が好ましい。酸ヒドラジドは、カルボン酸とヒドラジンとから誘導される−CO−NHNHで表される酸ヒドラジド基を有する化合物である。ヒドラジド末端の窒素原子のα位に、更に非共有電子対を有する窒素原子が結合しており、これにより求核反応性が著しく向上している。この非共有電子対がアルデヒド類のカルボニル炭素原子を求核的に攻撃して反応し、アルデヒド類をヒドラジド誘導体として固定化することにより、アルデヒド類に対する高い除去性能を発現できると考えられる。
【0021】
アルデヒド類の中でもアセトアルデヒドは、カルボニル炭素のα位に電子供与性のアルキル基を有するために、カルボニル炭素の求電子性が低く化学吸着されにくいが、本発明の吸着剤において採用する酸ヒドラジド類は前述のとおり求核反応性が高いため、アセトアルデヒドに対しても良好な化学吸着性能を発現する。
【0022】
酸ヒドラジドとしては例えば、分子中に1個の酸ヒドラジド基を有する酸モノヒドラジドとしては、ホルムヒドラジド、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、安息香酸ヒドラジド等、分子中に2個の酸ヒドラジド基を有する酸ジヒドラジドとしては、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド等、分子中に3個以上の酸ヒドラジド基を有する酸ポリヒドラジドとしては、ポリアクリル酸ヒドラジド等を挙げることができる。なかでも、分子中に2個の酸ヒドラジド基を有する酸ジヒドラジドが好ましく、アジピン酸ジヒドラジドがより好ましい。
【0023】
アミン化合物は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
アミン化合物は1級アミンと2級アミンとを組み合わせるとさらに好ましい。1級アミンおよび2級アミンを有することで、吸着剤としての性能が飛躍的に向上する。そのメカニズムは定かではないが、以下のように推測している。
すなわち、1級アミンは一旦アルデヒドと反応するが、反面、一部のアルデヒドを脱離させてしまう。しかし、2級アミンが同時に存在するとこの脱離したアルデヒドと反応することが出来る。2級アミンは、アミン周りの立体障害が高いため一旦結合すると、逆反応が起こりづらい。1級アミンから2級アミンにアルデヒドを受け渡すことによって、飛躍的に性能が向上するものと考えられる。
【0025】
2級アミンとしては例えば、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチル−5−ピラゾロン、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−n−ブチル−1,2,4−トリアゾール、3,5−ジメチル−1,2,4−トリアゾール、3,5−ジ−n−ブチル−1,2,4−トリアゾールなどのアゾール類、アジン類、ジプロピルアミン、ジブチルアミンなどのアルキル類の2級アミンを用いることができる。また、アルキル類の2級アミンには、ジイソブチルアミンのようなアルキル基を側鎖に有するアミンや、Nメチルヘキシルアミンのような窒素に対して2種類の異なるアルキル基を有するアミンも包含される。
【0026】
また、ピペリジン、ピペラジン、ピロリジンのような環状2級アミンを用いることもできる。
【0027】
また、2級アミンとしては、アミド結合または尿素結合を有するものであることが、アルデヒド類の再放出を防ぐ上で好ましい。なかでも、安全性が高く、アミン臭の発臭が無く、水溶性で加工性が良好であるという点から、1,3−ジメチル尿素やエチレン尿素が好ましい。
【0028】
2級アミンも、1種を単独ではなく2種以上を併用してもよい。
【0029】
また、本発明で採用するアミン系化合物としては、ポリエチレングリコール(以下、「PEG」と表記する。)に溶解するものであることが好ましい。PEGに溶解することによって、後述するようにPEGを溶媒として対象ガスと化学反応を行うことができるからである。アミン系化合物のPEGに溶解する量としては、100gのPEGに対し1g以上であることが好ましく、より好ましくは、5g以上である。1g以上溶解することで、PEGの溶媒効果の実効を得ることができる。
【0030】
本発明の吸着剤は、ポリエチレングリコールも有することが重要である。PEGにより、低湿度の環境下においても吸着効率を維持できる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。すなわち、まず保湿剤として一般的な、塩化リチウムや活性アルミナ、ゼオライト、分子量が600以上のPEGでは、その保水効果によって、水溶性ガスが引き寄せられ、ガスの吸着除去性能が向上するものの、水分が少ない状態や水分が凍ってしまう環境下では反応場としての水が不足し、性能が大幅に低下する。一方、本発明で採用するPEGは、本発明の吸着剤において液体状態で存在し、保湿剤としてよりはむしろ溶媒となって低湿度下でも反応を向上させているのではないかと考えられる。
【0031】
PEGの数平均分子量としては、62〜600とすることが重要であり、好ましくは180〜330、より好ましくは180〜210である。分子量62は、エチレングリコールの分子量であり、本発明で採用するPEGの最小単位の分子量である。すなわち、本発明で採用するPEGは、エチレングリコールも含むものとする。また、180以上とすることで、引火点が150℃以上になるので安全性や加工性が向上する。また、600以下とすることで、常温で液体状態を保ち、PEGが溶媒として働くことができる。さらに、330以下とすることで、融点が273K未満になるので、氷点下などの環境下においても液体状態を保ち、溶媒として働くことができる。さらに、210以下とすることで、融点が−50℃以下になるので、極寒の環境下においても液体状態を保ち、溶媒として働くことができる。
【0032】
本発明の吸着剤における、PEGとアミン系化合物と多孔質体との割合としては、アミン系化合物はPEG100質量部に対し10〜1000質量部が好ましく、より好ましくは100〜300質量部である。また、多孔質体はPEG100質量部に対し10〜1000質量部が好ましく、より好ましくは100〜300質量部である。当該範囲内とすることで、吸着剤としての初期効率、吸着容量を十分に得ることができる。
【0033】
本発明の吸着剤は、酸触媒を有することも好ましい。酸触媒がアルデヒド類のカルボニル炭素と電子を共有することによって、アルデヒド類のカルボニル炭素の求電子性を高くし、アミノ基を有する化合物のアルデヒド類に対する化学吸着能を向上させることができる。
【0034】
酸触媒の酸としては、プロトン供与体であるブレンステッド酸や、電子対受容体であるルイス酸を挙げることができる。ルイス酸としては例えば、珪素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデン、スズ、鉄等の水酸化物もしくは酸化物、グラファイト、イオン交換樹脂等からなる担体に、硫酸根、五フッ化アンチモン、五フッ化タンタル、三フッ化ホウ素等を付着或いは担持させたもの、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化第二スズ(SnO)、チタニア(TiO)、酸化第二鉄(Fe)、酸化タングステン(WO)等を挙げることができる。
【0035】
本発明の吸着剤は、アルデヒド類の吸着に好適である。アルデヒド類としては、脂肪族アルデヒド、芳香族アルデヒド、不飽和アルデヒド等がある。特に本発明は、反応性が低く動的な条件下では除去が困難であった低級脂肪族アルデヒドに有効である。
【0036】
低級脂肪族アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等がある。
【0037】
本発明の吸着剤は、絶対湿度2g/mにおけるアセトアルデヒドガスの初期吸着効率が20%以上あることが好ましい。このような環境下では、湿度が低いため一般的に使用される保湿剤を使用しても効果がほとんどない。
【0038】
また、本発明の吸着剤は、絶対温度270Kにおけるアセトアルデヒドガスの初期吸着効率が20%以上であることが好ましい。絶対温度270Kは水が凍る状態であり、水を溶媒として作用させることが出来ない。そのため、保湿剤が作用できない範囲である。
【0039】
次に、本発明の濾材は、本発明の吸着剤が担持された繊維を含んでなる。
【0040】
繊維としては、天然繊維、合成繊維、ガラス繊維や金属繊維等の無機繊維を使用することができ、なかでも強度や加工性等に優れた熱可塑性樹脂からなる合成繊維が好ましい。合成繊維を形成する熱可塑性樹脂の例としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル、ビニロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ乳酸等を挙げることができ、用途等に応じて選択できる。また、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
本発明で採用する繊維は、異型断面形状を有することや、繊維表面に多数の孔やスリットを有することも好ましい。そうすることにより、繊維の表面積を大きくし、多孔質体や吸着剤等に対する担持性を向上させることができる。異型断面形状とは円形以外の断面形状を指し、例えば扁平型、略多角形、楔型等を挙げることができる。異型断面形状の繊維は、異型孔を有する口金を用いて紡糸することにより得ることができる。また、繊維表面に多数の孔やスリットを有する繊維は、溶剤に対する溶解性の異なる2種類以上のポリマーをアロイ化して紡糸し、溶解性の高い方のポリマーを溶剤で溶解除去することにより得ることができる。
【0042】
本発明で採用する繊維の繊維径としては、繊維シートをエアフィルターとして使用する用途において目標とする通気性や集塵性能に応じて選択すればよいが、好ましくは1〜1000μm、より好ましくは5〜100μmである。1μm以上とすることで、吸着剤が繊維シート表面で目詰まりするのを防ぎ、通気性の低化を防ぐことができる。また1000μm以下とすることで、繊維表面積の減少による担持能力の低下や処理エアとの接触効率の低下を防ぐことができる。
【0043】
本発明で採用する繊維が構成する濾材は、通気性を有する繊維構造体であり、綿状物、編織物、不織布、紙等を挙げることができる。これらのような構造をとることにより、通気性を確保しつつ、表面積を大きくとることができる。中でも、不織布は、織物のように繊維と繊維の交点において大きなポアサイズを持つことがなく、どの部分も均一で、小さなポアサイズであることから、特に好ましく用いることができる。
【0044】
不織布の形態としては、化学的接着法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、エアレイ法、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法、抄紙法のいずれかの方法もしくはこれら方法の組み合わせによって得られる不織布であることが好ましい。
【0045】
濾材の目付としては、10〜500g/mが好ましく、より好ましくは30〜200g/mである。濾材の目付を10g/m以上とすることで、吸着剤を担持するための加工に耐える十分な強度が得られ、エアを通気させた際にフィルター構造を維持するのに必要な剛性が得られる。また目付を200g/m以下とすることで、濾材の内部まで吸着剤を均一に担持することができ、プリーツ形状やハニカム形状に二次加工する際の取り扱い性に優れる。
【0046】
本発明の濾材は、熱接着性成分や樹脂バインダーを有することも、形状保持、強度向上、寸法安定性等の点で好ましい。
【0047】
本発明の濾材は、本発明の吸着剤を担持させた濾材にさらに異なる濾材を積層してなることも好ましい。例えば直行流型フィルターとしての使用において、上流側に嵩高で目の粗い不織布シートを積層すれば、ダスト保持量が向上し長寿命化が可能となる。また下流側に極細繊維からなる不織布シートを積層すれば、高捕集効率化が可能となる。
【0048】
さらにこの極細繊維からなる不織布シートがエレクトレット処理されていればなお好ましい。エレクトレット処理がされていることにより、通常では除去しにくいサブミクロンサイズやナノサイズの微細塵を静電気力により捕集する事が出来るようになる。
【0049】
エレクトレット不織布を構成する材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂等の合成高分子材料等の、高い電気抵抗率を有するものが好ましい。
【0050】
本発明の濾材を製造する方法としては、多孔質体とアミン系化合物とPEGとを混合分散させた液に繊維を浸漬させ、さらに乾燥させる工程を経ることが好ましい。この方法により、薬品の添着量を自由に調節することができる。一方、多孔質体に予めアミン系化合物とPEGを添着させたものをそのまま水溶液に混合して濾材に担持させると、多孔質体に添着していたアミン系化合物とPEGが液中に溶出して希釈されてしまう。
【0051】
また例えば、多孔質体とアミン系化合物とPEGとを混合した水溶液を濾材にコーティング処理により塗布したり、スプレー処理により吹き付けたりしてもよい。
【0052】
また、多孔質体を先に濾材表面に固定した後、アミン系化合物とPEGとを混合した水溶液をディッピング処理やスプレー処理で付着させてもよい。
【0053】
また、多孔質体の繊維表面への付与方法として、繊維表面に多孔質体を直接結晶化させ皮膜化させてもよい。
【0054】
また、多孔質体の繊維表面への付与方法として、製糸段階で多孔質体を繊維表面に配置させてもよい。具体的には例えば、合成繊維の芯鞘複合紡糸において、鞘成分中に多孔質体を大量配合することにより、芯鞘複合の表面近傍に多孔質体を偏在させることができる。またこの方法において、多孔質体を表面に露出させるために、化学的あるいは物理的な処理により表面の樹脂成分を適量取り除くことも好ましい。
【0055】
濾材に対する吸着剤の量としては、5〜60質量%が好ましい。5質量%以上とすることで十分な性能を発揮でき、60質量%以下とすることで濾材の圧力損失の大幅な増大を防ぐことができる。
【0056】
また、濾材にノンハロゲン難燃加工を施すことも好ましい。
【0057】
ノンハロゲン系難燃剤としては、窒素系難燃剤、リン系難燃剤、リン−窒素系難燃剤が挙げられる。
【0058】
窒素系難燃剤としては例えば、脂肪族アミン化合物、芳香族アミン化合物、含窒素複素環化合物、脂肪族アミド、芳香族アミド、メラミン化合物、尿素、チオ尿素等を挙げることができる。
【0059】
リン系難燃剤としては例えば、赤リン等のリン単体や、リン酸カルシウム、リン酸チタニウム等のリン酸塩や、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステルや、ポリリン酸や、ポリリン酸カルシウム等のポリリン酸塩や、ポリ(ジフェニルリン酸)等のポリリン酸エステルや、トリフェニルホスフィンオキサイド等のホスフィンオキサイドや、フェニルホスフォラン等のホスフォランや、ジフェニルホスホン酸等のホスホン酸や、ホスフィンスルフィド等を挙げることができる。
【0060】
リン−窒素系難燃剤としては例えば、リン酸アンモニウム、エチレンジアミンリン酸塩、メラミンリン酸塩、ポリリン酸アンモニウム、エチレンジアミンポリリン酸塩等を挙げることができる。
【0061】
ノンハロゲン系難燃剤の中でも、特に窒素系、リン−窒素系難燃剤は難燃効果が高く、リン系難燃剤よりも難燃剤量を低減することが可能である。窒素系、リン−窒素系難燃剤は燃焼時にアンモニアガス等が発生し、酸素遮断が行えるために、難燃効果が高くなっていると思われる。
【0062】
ノンハロゲン系難燃剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
本発明の濾材は、エアフィルター用途に好適に用いることができる。すなわち、本発明のエアフィルターは本発明の濾材を用いたものである。特に、排気ガス中のアセトアルデヒドを除去したいニーズがあり多様な環境下で用いられる自動車用外気導入用のキャビンフィルターや、低湿度下で用いられるプリンター用フィルターが適している。
【0064】
本発明のエアフィルターの形状としては、そのまま平面状で使用してもよいが、プリ−ツ型やハニカム型を採用することが好ましい。プリーツ型は直行流型フィルターとしての使用において、またハニカム型は平行流型フィルターとしての使用において、処理エアの接触面積を大きくして捕集効率を向上させるとともに、低圧損化を同時に図ることができる。
【実施例】
【0065】
[測定方法]
(1)BET比表面積、および、全細孔容積の測定方法
多孔質体を約100mg採取し、120℃で12時間真空乾燥の後、秤量した。マイクロメリティックス社製自動比表面積装置、商品名ジェミニ2375を使用し、液体窒素の沸点(−195.8℃)における窒素ガスの吸着量を相対圧0.02〜0.95の範囲で徐々に高めながら40点測定し、上記サンプルの吸着等温線を作製した。相対圧0.02〜0.15での結果をBETプロットし、質量当りのBET比表面積(m2/g)を求めた。また、相対圧0.95での結果より全細孔容積(ml/g)を算出した。
【0066】
(2)アセトアルデヒドの初期吸着効率
平板状の濾材を実験用のダクトに取り付け、試験毎に下記3条件の空気を0.2m/secの速度で送風した。さらに上流側から、標準ガスボンベによりアセトアルデヒドを上流濃度20volppmとなるように添加し、繊維シートの上流側と下流側とにおいてエアをサンプリングし、赤外吸光式連続モニターを使用してそれぞれのアセトアルデヒド濃度を経時的に測定し、5分後の吸着効率をアセトアルデヒドの初期除去効率とした。
条件1:絶対温度300K、絶対湿度2g/m
条件2:絶対温度300K、絶対湿度14g/m
条件3:絶対温度270K、絶対湿度2g/m
【0067】
(3)アセトアルデヒドの初期吸着効率の温湿度依存性
上記(2)の測定結果から、下記基準にて温湿度依存性を評価した。
A:条件1〜3の初期吸着効率の最大と最小の差が10%未満。
B:条件1〜3の初期吸着効率の最大と最小の差が30%未満。
C:条件1〜3の初期吸着効率の最大と最小の差が30%以上。
【0068】
(4)総合評価
上記(2),(3)の結果から、下記基準にて総合評価を行った。
A:温湿度依存性評価がAで、かつ各条件で初期吸着効率が30%以上。
B:温湿度依存性評価がAまたはBで、かつ各条件の初期吸着効率が10%以上。
C:温湿度依存性評価がAまたはBで、本評価基準のAまたはBに該当しない。
D:本評価基準のA〜C以外。
【0069】
[実施例1]
(多孔質体)
多孔質体として、細孔容積1.80ml/g、比表面積300m/gの多孔質シリカ(富士シリシア社製“サイリシア”250N)を用いた。
【0070】
(アミン化合物)
アミン化合物としては、アジピン酸ジヒドラジド(日本化成社製)とエチレン尿素(関東化学社製)とを質量比で2:1の割合で混合したものを用いた。
【0071】
(機能剤)
機能剤としては、数平均分子量190〜210のPEG(ナカライテスク社製「ポリエチレングリコール200」)を用いた。
【0072】
(繊維シート)
繊維シートとしては、単繊維繊度1.5dtexのビニロン16.5質量%と単繊維繊度7.1dtexのビニロン22質量%と単繊維繊度2.0dtexのポリエチレンテレフタレート16.5質量%とリン系難燃剤含有アクリル樹脂バインダー45質量%とからなる目付け70g/mの不織布を用いた。
【0073】
(濾材)
上記機能剤100質量部とアミン化合物200質量部と多孔質体150質量部とを均一分散させた水溶液中に上記繊維シートを含浸させ、乾燥させて、目付け105g/mの濾材を得た。
【0074】
[実施例2]
(多孔質体)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0075】
(アミン化合物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0076】
(機能剤)
機能剤としては、数平均分子量380〜420のPEG(ナカライテスク社製「ポリエチレングリコール400」)を用いた。
【0077】
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0078】
(濾材)
上記機能剤100質量部とアミン化合物200質量部と多孔質体150質量部とを均一分散させた水溶液中に上記繊維シートを含浸させ、乾燥させて、目付け105g/mの濾材を得た。
【0079】
[実施例3]
(多孔質体)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0080】
(アミン化合物)
アミン化合物としては、アジピン酸ジヒドラジド(日本化成社製)を用いた。
【0081】
(機能剤)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0082】
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0083】
(濾材)
上記機能剤100質量部とアミン化合物300質量部と多孔質体150質量部とを均一分散させた水溶液中に上記繊維シートを含浸させ、乾燥させて、目付け110g/mの濾材を得た。
【0084】
[実施例4]
(多孔質体)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0085】
(アミン化合物)
アミン化合物としては、エチレン尿素(関東化学社製)を用いた。
【0086】
(機能剤)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0087】
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0088】
(濾材)
上記機能剤100質量部とアミン化合物150質量部と多孔質体150質量部とを均一分散させた水溶液中に上記繊維シートを含浸させ、乾燥させて、目付け100g/mの濾材を得た。
【0089】
[実施例5]
(多孔質体)
多孔質体として、細孔容積0.44ml/g、比表面積700m/gの多孔質シリカ(富士シリシア社製“サイリシア”770)を用いた。
【0090】
(アミン化合物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0091】
(機能剤)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0092】
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0093】
(濾材)
上記機能剤100質量部とアミン化合物200質量部と多孔質体150質量部とを均一分散させた水溶液中に上記繊維シートを含浸させ、乾燥させて、目付け105g/mの濾材を得た。
【0094】
[実施例6]
(多孔質体)
多孔質体として、細孔容積1.0ml/g、比表面積1430m/gの活性炭(日本エンバイロケミカルズ社製“カルボラフィン”)を用いた。
【0095】
(アミン化合物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0096】
(機能剤)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0097】
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0098】
(濾材)
上記機能剤100質量部とアミン化合物200質量部と多孔質体150質量部とを均一分散させた水溶液中に上記繊維シートを含浸させ、乾燥させて、目付け105g/mの濾材を得た。
【0099】
[比較例1]
(多孔質体)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0100】
(アミン化合物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0101】
(機能剤)
機能剤は用いなかった。
【0102】
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0103】
(濾材)
上記機能剤100質量部とアミン化合物200質量部と多孔質体150質量部とを均一分散させた水溶液中に上記繊維シートを含浸させ、乾燥させて、目付け105g/mの濾材を得た。
【0104】
[比較例2]
(多孔質体)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0105】
(アミン化合物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0106】
(機能剤)
機能剤としては、数平均分子量950〜1050のPEG(ナカライテスク社製「ポリエチレングリコール#1000」)を用いた。
【0107】
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0108】
(濾材)
上記機能剤100質量部とアミン化合物200質量部と多孔質体150質量部とを均一分散させた水溶液中に上記繊維シートを含浸させ、乾燥させて、目付け105g/mの濾材を得た。
【0109】
[比較例3]
(多孔質体)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0110】
(アミン化合物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0111】
(機能剤)
機能剤としては、ナカライテスク社製の塩化リチウムを用いた。
【0112】
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0113】
(濾材)
上記機能剤100質量部とアミン化合物を200質量部と多孔質体150質量部とを均一分散させた水溶液中に上記繊維シートを含浸させ、乾燥させて、目付け105g/mの濾材を得た。
【0114】
[比較例4]
(多孔質体)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0115】
(アミン化合物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0116】
(機能剤)
機能剤としては、水澤化学社製の活性アルミナを用いた。
【0117】
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0118】
(濾材)
上記機能剤100質量部とアミン化合物200質量部と多孔質体150質量部とを均一分散させた水溶液中に上記繊維シートを含浸させ、乾燥させて、目付け105g/mの濾材を得た。
【0119】
[比較例5]
(多孔質体)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0120】
(アミン化合物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0121】
(機能剤)
機能剤としては、水澤化学社製の3Aゼオライトを用いた。
【0122】
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0123】
(濾材)
上記機能剤100質量部とアミン化合物200質量部と多孔質体150質量部とを均一分散させた水溶液中に上記繊維シートを含浸させ、乾燥させて、目付け105g/mの濾材を得た。
【0124】
[比較例6]
(多孔質体)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0125】
(アミン化合物)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0126】
(機能剤)
機能剤としては、水澤化学社製の13Xゼオライトを用いた。
【0127】
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0128】
(濾材)
上記機能剤100質量部とアミン化合物200質量部と多孔質体150質量部とを均一分散させた水溶液中に上記繊維シートを含浸させ、乾燥させて、目付け105g/mの濾材を得た。
【0129】
【表1】

【0130】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の濾材は、自動車や鉄道車両等の車室内の空気を清浄化するためのエアフィルター、健康住宅、ペット対応マンション、高齢者入所施設、病院、オフィス等で使用される空気清浄機用フィルター、家庭用および業務用プリンター用フィルター、エアコン用フィルター、OA機器の吸気・排気フィルター、ビル空調用フィルター、産業用クリーンルーム用フィルター等のエアフィルター濾材として好ましく使用される。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明の一実施形態を示すエアフィルターの概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態を示すエアフィルターの概略斜視図である。
【符号の説明】
【0133】
1 エアフィルター濾材(プリーツ型)
2 エアフィルター濾材(ハニカム型)
3 枠体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体がアミン系化合物および数平均分子量62〜600のポリエチレングリコールを担持してなることを特徴とする吸着剤。
【請求項2】
前記多孔質体の全細孔容積が0.6ml/g以上である、請求項1記載の吸着剤。
【請求項3】
前記アミン系化合物が酸ヒドラジド類である、請求項1または2記載の吸着剤。
【請求項4】
前記ポリエチレングリコールが数平均分子量180〜330である、請求項1〜3のいずれか記載の吸着剤。
【請求項5】
絶対湿度2g/mにおけるアセトアルデヒドガスの初期吸着効率が20%以上である、請求項1〜4のいずれか記載の吸着剤。
【請求項6】
絶対温度270Kにおけるアセトアルデヒドガスの初期吸着効率が20%以上である、請求項1〜5のいずれか記載の吸着剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載の吸着剤が担持された繊維を含んでなることを特徴とする濾材。
【請求項8】
請求項7記載の濾材を用いたことを特徴とするエアフィルター。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−200648(P2008−200648A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−42080(P2007−42080)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】