吸着器
【課題】吸着能力と製造可能性の両方を満たすことができる吸着器を提供する。
【解決手段】熱媒体管の周辺部22に吸着剤24が充填されて形成される吸着剤充填層の厚さL[mm]は、0.5≦L≦6の範囲に設定される。周辺部22に充填された金属粉23bの重量をMg[kg]、吸着剤の重量をMa[kg]、金属粉23bが充填されている周辺部22の充填容積をFv[m3]、及び金属粉23bの密度をρ[kg/m3]とすると、空隙部の空隙率Moは、Mo=1−(Mg/(Fv×ρ))で表されるとともに0.7≦Mo≦0.95の範囲に設定される。金属粉の重量割合Rgは、Rg=Mg/(Mg+Ma)で表される。さらに、0.1732exp(−0.01Mo)ln(L)+3.902exp(−3.43Mo)≦Rg≦6.8×10−5exp(7.4Mo)ln(L)+1.316exp(−0.48Mo)の関係式を満たす。
【解決手段】熱媒体管の周辺部22に吸着剤24が充填されて形成される吸着剤充填層の厚さL[mm]は、0.5≦L≦6の範囲に設定される。周辺部22に充填された金属粉23bの重量をMg[kg]、吸着剤の重量をMa[kg]、金属粉23bが充填されている周辺部22の充填容積をFv[m3]、及び金属粉23bの密度をρ[kg/m3]とすると、空隙部の空隙率Moは、Mo=1−(Mg/(Fv×ρ))で表されるとともに0.7≦Mo≦0.95の範囲に設定される。金属粉の重量割合Rgは、Rg=Mg/(Mg+Ma)で表される。さらに、0.1732exp(−0.01Mo)ln(L)+3.902exp(−3.43Mo)≦Rg≦6.8×10−5exp(7.4Mo)ln(L)+1.316exp(−0.48Mo)の関係式を満たす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着剤が冷媒を吸着及び脱離する作用を利用する吸着器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、熱交換媒体が流れる複数の熱媒体管の周辺に設けられる多孔質伝熱体及び吸着剤について、伝熱特性の向上及び成績係数COPの高い状態を確保するために、多孔質伝熱体の空隙率を特定範囲に設定すること、吸着剤充填層の厚さを特定範囲に設定することが開示されている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−121912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術は、吸着器の性能の観点から特有の構成を見い出したものであるが、本願の発明者は、実験及びシミュレーションを含む鋭意検討を行った結果、この他に必要吸着剤量や製造限界の観点から、吸着器を構成する金属粉及び吸着剤が特有の条件を満たす必要があるという知見を得た。
【0005】
そこで、本発明は上記点に鑑みてなされたものであり、その目的は、吸着能力と製造可能性の両方を満たすことができる吸着器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。なお、特許請求の範囲および下記各手段に記載の括弧内の符号は、ひとつの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す。
【0007】
請求項1は、熱交換媒体が流れる複数の熱媒体管(21)を有し、熱媒体管(21)の周辺部(22)に細孔(23a)が形成される多孔質伝熱体(23)及び吸着剤(24)を設けてなる吸着器(1)に係る発明であって、
多孔質伝熱体(23)は金属粉(23b)を焼結によって熱媒体管(21)に金属結合して形成され、細孔(23a)内には吸着剤(24)が充填されており、
多孔質伝熱体(23)と熱媒体管(21)の間に形成される間隙と、細孔(23a)とを含む空隙部を備え、
熱媒体管(21)の周辺部(22)に吸着剤(24)が充填されて形成される吸着剤充填層の厚さL[mm]は、0.5≦L≦6の範囲に設定され、
上記周辺部(22)に充填された金属粉(23b)の重量をMg[kg]、吸着剤の重量をMa[kg]、金属粉(23b)が充填されている当該周辺部(22)の充填容積をFv[m3]、及び金属粉(23b)の密度をρ[kg/m3]とすると、空隙部の空隙率Moは、Mo=1−(Mg/(Fv×ρ))で表されるとともに0.7≦Mo≦0.95の範囲に設定され、金属粉の重量割合Rgは、Rg=Mg/(Mg+Ma)で表され、
さらに、0.1732exp(−0.01Mo)ln(L)+3.902exp(−3.43Mo)≦Rg≦6.8×10−5exp(7.4Mo)ln(L)+1.316exp(−0.48Mo)
の関係式を満たすことを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、当該Rgが上記の関係式における下限の式以上に設定されることによって、金属粉の焼結結合が確実に得られる多孔質伝熱体の形成が実現でき、当該Rgが上限の式以下に設定されることによって、吸着能力に対して製品の熱容量を小さく抑えることができるため、高い成績係数COPが図れる。したがって、吸着能力と製造可能性の両面において優れた製品性を備える吸着器が得られるのである。
【0009】
請求項2によると、請求項1に記載の吸着器において、金属粉(23b)は銅または銅合金から形成される粉末であることが好ましい。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の吸着器において、銅または銅合金から形成される金属粉、吸着剤のそれぞれについて、粒子径分布における積算分布で50%の粒子径である中位径を銅粉の中位径、吸着剤の中位径とし、
吸着剤を混合させて熱媒体管(21)に、電解法またはアトマイズ法によって生成された銅粉を焼結結合させる場合は、
0.8≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦3.5
及び、0.4≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.6
を満たすことを特徴とする。
【0011】
本願の発明者は、以下の問題発生の知見を得た。銅粉の中位径と吸着剤の中位径の比の値が、0.8未満であれば、吸着剤の粒子径に対して銅粉の粒子径が小さいため、吸着剤が邪魔になり焼結結合が実施できず、銅粉等の焼結体を確実に形成できない。また、3.5より大きい場合は、吸着剤の粒子径に対して銅粉の粒子径が大きく、銅粉の粒子間から吸着剤が脱落する現象が起こり、必要な吸着剤が充填された多孔質伝熱体が形成できない。また、銅粉のかさ密度が0.4未満であれば、銅粉形状の一部である枝状部分が長くなるため、吸着剤が脱落する現象が起こりやすくなる。また、1.6より大きい場合は、逆に当該枝状部分が短くなるため、吸着剤が邪魔になり焼結結合が実施できず、銅粉等の焼結体を確実に形成できない。
【0012】
そこで請求項3に係る発明によれば、本願の発明者が得た上記の知見に基づいて、焼結体形成上の不具合を解消することができ、吸着能力及び製品性を確保する吸着器が得られる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3において
さらに0.9≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦1.9及び
0.6≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.5を満たすことが好ましい。
【0014】
この発明によれば、請求項3の発明が解消する上記の不具合をより確実に解消する吸着器が得られる。また、焼結結合の強度をさらに高めることが可能になるため、吸着器の伝熱性能を一層向上させることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載の吸着器において、銅または銅合金から形成される金属粉、吸着剤のそれぞれについて、粒子径分布における積算分布で50%の粒子径である中位径を銅粉の中位径、吸着剤の中位径とし、
アトマイズ法、電解法、粉砕法、化学還元法によって生成された銅粉をさらに潰したものを、吸着剤を混合させて熱媒体管(21)に焼結結合させる場合は、
0.8≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦6.5
及び、0.4≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.6
を満たすことを特徴とする。
【0016】
請求項5に係る発明によれば、アトマイズ法、電解法、粉砕法、化学還元法によって生成された銅粉をさらに潰し、当該銅粉を吸着剤を混合させて熱媒体管(21)に焼結結合させる場合には、本願の発明者が得た上記の知見に基づいて、焼結体形成上の不具合を解消することができ、吸着能力及び製品性を確保する吸着器が得られる。特に、この銅粉は、製造コストが比較的安価なアトマイズ法の使用した場合にも得ることができるため、コスト面で有利な効果を奏するものである。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項5において、
さらに、1.9≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦6.0
及び、0.6≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.5
を満たすことを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、請求項5の発明が解消する上記の不具合をより確実に解消する吸着器が得られる。また、焼結結合の強度をさらに高めることが可能になるため、吸着器の伝熱性能を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る吸着器を示した横断面図である。
【図2】図1中のII−II断面の矢視図である。
【図3】吸着器における吸着剤充填層を示す模式的断面図である。
【図4】多孔質媒体に用いられる金属粉の形状を示す模式図である。
【図5】空隙率と吸着剤の充填密度の関係を示す特性図である。
【図6】吸着剤充填層の厚さLが2mmである場合の空隙率と冷却性能との関係を説明する特性図である。
【図7】吸着剤充填層の厚さLが2mmである場合の空隙率と成績係数COPとの関係を説明する特性図である。
【図8】吸着剤充填層の厚さLが4mmである場合の空隙率と冷却性能との関係を説明する特性図である。
【図9】吸着剤充填層の厚さLが4mmである場合の空隙率と成績係数COPとの関係を説明する特性図である。
【図10】空隙率70%で吸着剤充填層厚さ0.5mm,2mm,6mmの場合の、単位吸着性能当りの製品重量と金属粉重量割合の関係を説明するグラフである。
【図11】吸着剤充填層厚さと金属粉重量割合のパラメータについて、空隙率70%での場合の製品の成立範囲を示したグラフである。
【図12】空隙率90%で吸着剤充填層厚さ0.5mm,2mm,6mmの場合の、単位吸着性能当りの製品重量と金属粉重量割合の関係を説明するグラフである。
【図13】吸着剤充填層厚さと金属粉重量割合のパラメータについて、空隙率90%での製品の成立範囲を示したグラフである。
【図14】空隙率95%で吸着剤充填層厚さ0.5mm,2mm,6mmの場合の、単位吸着性能当りの製品重量と金属粉重量割合の関係を説明するグラフである。
【図15】吸着剤充填層厚さと金属粉重量割合のパラメータについて、空隙率95%での製品の成立範囲を示したグラフである。
【図16】吸着剤充填層厚さと金属粉重量割合のパラメータについて、空隙率70%〜95%における製品の成立範囲を示したグラフである。
【図17】銅粉の中位径と吸着剤の中位径の比、及び銅粉かさ密度のパラメータについて、製品の成立範囲を示したグラフである。
【図18】銅粉の中位径と吸着剤の中位径の比、及び銅粉かさ密度のパラメータについて、より好ましい製品の成立範囲を示したグラフである。
【図19】第2実施形態に係る多孔質媒体に用いられる金属粉の形状を示す模式図である。
【図20】第2実施形態に係る銅粉と図17に示す製品の成立範囲との関係を示したグラフである。
【図21】第2実施形態に係る銅粉について、銅粉の中位径と吸着剤の中位径の比、及び銅粉かさ密度のパラメータに関する製品の成立範囲を示したグラフである。
【図22】第2実施形態に係る銅粉について、銅粉の中位径と吸着剤の中位径の比、及び銅粉かさ密度のパラメータに関するより好ましい製品の成立範囲を示したグラフである。
【図23】本発明の吸着器と同様の特徴を有する第3実施形態の熱交換器の概略構造を示す模式的断面図である。
【図24】第1実施形態に係る吸着器の第1変形例を示す模式的断面図である。
【図25】第2変形例の吸着器を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0021】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る吸着器について図1〜図18にしたがって説明する。図1は第1実施形態の吸着器1を示した横断面図である。図2は図1中のII−II断面の矢視図である。図3は吸着器1における吸着剤充填層を示す模式的断面図である。図4は多孔質媒体23に含まれる金属粉23bの形状の一例を示す模式図である。
【0022】
吸着器1は、その内部に含む吸着剤が気相冷媒(例えば水蒸気)を吸着する作用を用いて冷媒を蒸発させてその蒸発潜熱により冷凍能力を発揮することを利用する吸着式冷凍機に使用されるものである。吸着器1は例えば車両用等の空調装置に適用することができる。図1及び図2に示すように、吸着器1は筐体31内に吸着熱交換器2を備えている。吸着熱交換器2は、熱交換媒体(冷媒)が流れる熱媒体管21を有し、熱媒体管21を取り囲む周辺部22に、細孔を有する多孔質伝熱体23および吸着剤24を備えている。
【0023】
吸着熱交換器2は、図3に示すように、材質が銅または銅合金(本実施例では、銅として以下説明する)からなる熱媒体管21と、細孔23aが形成されている多孔質伝熱体23と、その細孔23aに充填するように配された吸着剤24とを備えている。多孔質伝熱体23は、熱伝導性に優れる金属粉23bを加熱して溶融することなく焼結結合した金属粉23bと吸着剤24の混合焼結体である。金属粉23bは、銅または銅合金(本実施例では、銅として以下説明する)を用いている。
【0024】
例えばその銅粉の場合は、粉末状、粒子状、球状、樹枝状(デンドライト状)、繊維状等に形成されている。樹枝状(デンドライド状)の銅粉23bは、例えば図4に示すような形状である。
【0025】
多孔質伝熱体23、すなわち金属粉23bを焼結結合した焼結体は、図3に示すように、細孔23aを有する微細な焼結フィン(以下、多孔質焼結フィンともいう)を形成する。細孔23aは、金属粉23bに比べて粒子径が微小な吸着剤24を充填可能にマッチさせた微細な孔である。さらに多孔質伝熱体23は、銅からなる熱媒体管の周辺部22に焼結結合している。多孔質伝熱体23は、その全体が一方向に伸長するように複数の熱媒体管の周辺部22で形成され、全体形状として円筒状を呈している。
【0026】
細孔23aを有する多孔質伝熱体23と熱媒体管21とは互いに焼結結合しているため、多孔質伝熱体23に形成される細孔23a以外に、結合する多孔質伝熱体23と熱媒体管21の間に間隙が形成される。この間隙と細孔23aは請求範囲に記載の空隙部に含まれる。
【0027】
吸着剤24は、微小な多数の粒子状に形成されており、例えば、シリカゲル、ゼオライト、活性炭、活性アルミナ等から構成され得る。吸着剤24は、多孔質伝熱体23の細孔23a内部に充填されている。
【0028】
隣り合う熱媒体管21の間には、被吸着媒体である水蒸気が流通する水蒸気通路25が配置されている。水蒸気通路25の断面形状は、円、楕円、矩形等で形成されうる。水蒸気通路25は、図1に示すように、3つの熱媒体管21に囲まれた領域に配置されているが、3つに限らず、4つ以上の熱媒体管21に囲まれた領域に配置されるようにしてもよい。水蒸気通路25は、吸着時には、蒸発器からの水蒸気を通して熱媒体管の周辺部22の多孔質伝熱体23内部へ速やかに浸透させる役割を果す。脱離時には、熱媒体管の周辺部22の多孔質伝熱体23から吐き出した水蒸気を、この水蒸気通路25を通して速やかに凝縮器へ導く役割を果すのである。
【0029】
吸着器1は、吸着熱交換器2、筐体31、シート32,33、及びタンク34,35を備えて構成されている。筐体31は、銅または銅合金からなる円筒状に形成され、内部に、略円筒状の吸着熱交換器2における多孔質伝熱体23が収容可能に形成されている。筐体31の上端側開口部と下端側開口部は、シート32、33で封止されている。筐体31の上部には、吸着熱交換器2の吸着剤充填層に水蒸気を導くことが可能な流入配管36および流出配管37が設けられている。
【0030】
このように筐体31の端部開口がシート32、33で封止されることにより、筐体31の内部を真空に保持可能である。吸着時には、水蒸気は、蒸発器側から流入配管36を通して水蒸気通路25に分配される。水蒸気通路25に分配された水蒸気は、吸着剤充填層の内部に浸透する。脱離時には、水蒸気は吸着剤充填層から吐き出され、吐き出た水蒸気は各水蒸気通路25を通して、流出配管37より凝縮器側へ導かれる。
【0031】
シート32,33には、熱媒体管21が貫通可能な貫通穴32a,33aが形成されている。この貫通穴32a,33aと熱媒体管21は、ろう付け等による接合によって気密に固定されている。
【0032】
タンク34,35には、熱交換媒体を導くことが可能な流入配管38および流出配管39が設けられている。熱交換媒体は流入配管38から下部のタンク34に流入し、各熱媒体管21を通った後、上部のタンク35に流れ、流出配管39から流出する。このようなタンク34及びタンク35は、熱交換媒体を複数の熱媒体管21へ供給分配するためのタンクである。筐体31および熱媒体管21は、その横断面が円筒形状、楕円形状、矩形状のいずれの形状であってもよい。
【0033】
熱媒体管の周辺部22に設けられた多孔質伝熱体23は、吸着剤充填層と称する。この吸着剤充填層は、熱媒体管の周辺部22で焼結結合した多孔質焼結フィンの厚さ(吸着剤充填層厚さ)Lに対応する(図3参照)。
【0034】
この吸着剤充填層厚さLは、単位容積当たりの冷却性能(吸収量)を考慮して、最大性能から70%までの性能を確保できる0.5mm以上6mm以下の範囲に設定されることが好ましい。
【0035】
上記のように好ましい吸着剤充填層厚さLを有する吸着熱交換器2において、本願の発明者は、金属粉23b、吸着剤24に関してかさ密度等の物理特性を変更した場合での冷却性能について実験による検証を実施した。検証実験で評価した冷却性能の評価項目としては、単位容積当たりの冷却能力(冷却能力比)に加えて、その成績係数COP等を評価した。
ここで、冷却能力比Qは、(式1)により表される。
(式1)
Q=G×ΔC×ΔH×η/τ
(式1)中において、Gは吸着剤24の量[kg]、ΔCは吸着剤24の水蒸気に対する吸着特性(以下、水吸着特性)[kg/kg]、ΔHは潜熱[kJ/kg]、ηは吸着効率(作動条件下において、吸着剤の平衡吸着量のうち吸着した割合)、τは切替時間、η/τは吸着速度である。
成績係数COPは、(式2)により表される。
(式2)
成績係数COP=Q/(Q+Qh)
(式2)中において、Qhは、吸着器1を構成する吸着熱交換器2および筐体31などの構成部品の温度を変えるのに必要な熱量(kW)であって、吸着剤24、多孔質伝熱体23、熱媒体管21、及び筐体31等の熱容量である。
【0036】
上記実験結果によると、冷却能力比を最大にする吸着剤充填層厚さLが0.5mm以上6mm以下の範囲内に確かに存在することが確認された。しかしながら、吸着剤充填層厚さLの大きさに関わらず、多孔質伝熱体23の量、すなわち焼結体として焼結された金属粉23bの量により、冷却能力比や成績係数COPが比較的大きく変わるとの知見が得られた。例えば、吸着剤充填層厚さLを、最大性能となる2mmとしても金属粉23bの量により、冷却能力比や成績係数COPが比較的大きく異なる実験結果となった。
【0037】
そこで、本願の発明者は、(1)金属粉23bの量により、金属粉23bが焼結体の細孔として焼結結合されて形成された空隙部の大きさが変化し、その空隙部に充填可能な吸着剤24の量が異なること、(2)空隙部の状態、例えばその状態を示す空隙率Moが変化すると、吸着剤24と接する多孔質伝熱体23の内部の伝熱面積が異なり、熱特性が異なること、等に着目してさらに検討を重ねた。空隙率Moは、(式3)により表される。
(式3)
空隙率Mo=1−(Mg/(Fv×ρ))
(式3)において、Mgは、多孔質伝熱体23を形成するために充填された金属粉23bの量[kg]、Fvは、金属粉23bが充填された充填容積[m3]、ρは、金属粉23bの密度[kg/m3]である。例えば、円筒状の熱媒体管21の周辺部22に充填された金属粉23bをMgとし、その周辺部22の充填容積をFvとするものである。
【0038】
まず、(式1)で表されるQは、吸着剤24の量Gと、吸着速度(η/τ)に比例するので、吸着剤24の量を多くすること、及び吸着速度(η/τ)を早めることの少なくともいずれか一方が成立することによって向上する。また、(式2)で表される成績係数COPは、Qと、吸着剤24、及び多孔質伝熱体23すなわち焼結により焼結体に形成される金属粉23b等の熱容量と、によって比較的大きく影響を受ける。
【0039】
また、上記QおよびCOPに影響を及ぼす吸着剤24の量と金属粉23bの量は、図5で示される空隙率と吸着剤24の充填密度の関係を示す特性図のように、金属粉23bの量とに基づいて決定される空隙率に対応して、吸着剤24の充填可能な最大の量Gが決まる。したがって、(式3)で表される空隙率MoをQ及びCOPに関係付けることは可能である。
【0040】
図5は、空隙率と吸着剤24の充填密度の関係を示す特性図であり、横軸に空隙率、縦軸に吸着剤24の充填密度を示すとともに、吸着剤24の物理特性の一つのかさ密度A,Bを変えて、異なるかさ密度Aとかさ密度Bの場合の二例を示している。当該かさ密度[g/cc]は、単位容積の容器に自然充填の状態で吸着剤24(粉末)を満たしたときの質量であり、JIS Z 2504に準じるものである。また、縦軸に示される吸着剤24の充填密度は、各かさ密度A,Bを有する吸着剤24を充填するときの最大充填密度である。本実施形態では、かさ密度A,Bを、それぞれ0.7[g/cc]、0.5[g/cc]とした。かさ密度B以上、かさ密度A以下の範囲としたのは、本実施形態の吸着熱交換器2で使用が考えられる範囲が0.5〜0.7[g/cc]のかさ密度の範囲内であるためである。
【0041】
図5のように、例えば、かさ密度Aの場合において、金属粉(銅粉)23bが多い領域、すなわち空隙率の低い領域では、銅粉23b等の焼結体を多孔質焼結フィン(多孔質伝熱体)とすることで、この多孔質焼結フィン内に充填された吸着剤24との接触面積の拡大により伝熱特性が向上するが、空隙率が低いため、空隙部に充填可能な吸着剤24の量は減少する。このような空隙率の低い領域では、冷却能力が低下し、かつ放熱の占める割合が増え成績係数COPの低下を招く。一方、金属粉23bの量を少なくし、空隙率を高めた領域では、吸着剤24の充填可能量が増えるが、吸着剤24との接触面積の減少により伝熱特性が低下するので、冷却能力および成績係数COPの低下を招くことが懸念される。
【0042】
次に、空隙率の最適化を図るべく、空隙率と冷却能力比、及び空隙率と成績係数COPの関係を、それぞれ、図6と図8、及び図7と図9にしたがって説明する。図6の空隙率と冷却能力比を示す特性図と、図7の空隙率と成績係数COPの関係を示す特性図は、空隙率を考慮しない場合に冷却能力比が最大となる一例である吸着剤充填層厚さLが2mmである場合において、空隙率に関係付けられる冷却能力比、成績係数COPを算出したものである。また、図8の空隙率と冷却能力比を示す特性図と、図9の空隙率と成績係数COPの関係を示す特性図は、最大性能ではないが許容される冷却能力比を満足する吸着剤充填層厚さLが4mmである場合において、空隙率に関係付けられる冷却能力比、成績係数COPを算出したものである。
【0043】
なお、空隙率を最適化するにあたり、許容される冷却能力比を最大冷却能力の85%以上とした。また、許容される成績係数COPを0.5以上とした。これにより、最大性能から85%までの冷却能力を確保することができるので、最大性能に対して15%程度の低下に抑えられ、最大性能に近い冷却能力が得られる。また、許容される成績係数COPを0.5以上とするので、熱交換媒体の廃熱源からの少ない廃熱で作動させることが可能となる。さらに、許容される成績係数COPを0.5以上とするので、吸着熱交換器2を、放熱性能が小さい領域で作動をさせたい場合があったとしても、大型化することなく、作動させることができる。
【0044】
図6に示すように、吸着剤充填層厚さLが2mmの場合での空隙率と冷却能力比の特性図では、吸着剤24のかさ密度が、かさ密度A、かさ密度Bのいずれの場合であっても、空隙率の増加にほぼ比例して冷却能力比が増加する。増加した空隙率が90%に達すると冷却能力比は最大となり、その後の空隙率が95%を超えた領域では、空隙率が増加するにしたがって冷却能力比が急激に低下する。また、吸着剤24の各かさ密度A,B同士を比較した場合において、空隙率のほぼ全範囲で、かさ密度の小さいかさ密度Bの冷却能力比の方が、かさ密度Aの冷却能力比より劣っている。
【0045】
このようにかさ密度の小さいかさ密度Bの場合であっても、最大性能に対して85%以上の性能を確保するためには、図6に示すように、空隙率は、70%〜95%の範囲内に設定されていることが好ましい。
【0046】
図7に示すように、吸着剤充填層厚さLが2mmの場合での空隙率と成績係数COPの特性図では、かさ密度A、かさ密度Bのいずれの場合であっても、空隙率の増加にほぼ比例して成績係数COPが増加する。増加した空隙率が95%に達すると成績係数COPは最大となり、その後の空隙率が98%を超えた領域では、空隙率が増加するにしたがって成績係数COPが急激に低下する。また、かさ密度A,B同士を比較した場合において、空隙率のほぼ全範囲で、かさ密度の小さいかさ密度Bの成績係数COPの方が、かさ密度Aの成績係数COPより劣っている。
【0047】
このようにかさ密度の小さいかさ密度Bの場合であっても、0.5以上の成績係数COPを確保するためには、図7に示すように、空隙率は、60%以上に設定されていることが好ましい。さらに、冷却能力比および成績係数COPが高い状態を維持するためには、空隙率は、70%〜95%の範囲内に設定されていることが好ましい。
【0048】
次に、図8に示すように、吸着剤充填層厚さLが4mmの場合での空隙率と冷却能力比の特性図では、かさ密度A、かさ密度Bのいずれの場合であっても、空隙率の増加にほぼ比例して冷却能力比が増加する。増加した空隙率が80%に達すると冷却能力は最大となり、その後の空隙率が95%を超えた領域では、空隙率が増加するにしたがって冷却能力比が急激に低下する。
【0049】
かさ密度の小さいかさ密度Bの場合であっても、最大性能に対して85%以上の性能を確保するためには、図8に示すように、空隙率は、50%〜95%の範囲内に設定されていることが好ましい。
【0050】
図9に示すように、吸着剤充填層厚さLが4mmの場合での空隙率と成績係数COPの特性図では、かさ密度A、かさ密度Bのいずれの場合であっても、空隙率の増加にほぼ比例して成績係数COPが増加する。増加した空隙率が95%に達すると成績係数COPは最大となり、その後の空隙率が98%を超えた領域では、空隙率が増加するにしたがって成績係数COPが急激に低下するおそれがある。
【0051】
かさ密度の小さいかさ密度Bの場合であっても、0.5以上の成績係数COPを確保するためには、図9に示すように、空隙率は、60%以上に設定されていることが好ましい。さらに、このような吸着剤充填層の厚さLを最適化した範囲にある吸着剤充填層厚さLが4mmの場合においても、冷却能力比および成績係数COPが高い状態を維持するためには、空隙率は、60%〜95%の範囲内に設定されていることが好ましい。さらに、上記吸着剤充填層厚さLを最適化した範囲にある場合に対して、空隙率を70%〜95%の範囲内に設定することにより、冷却能力比及び成績係数COPが高い状態を確実に維持することができる。
【0052】
以上の検証により、吸着器1について、(式3)で表される空隙率Moが0.7以上0.95以下の範囲で、かつ吸着剤充填層厚さLが0.5mm以上6mm以下の範囲であることが好ましいことを確認できた。さらに本願の発明者は、このような空隙率Moと吸着剤充填層厚さLの範囲において、シミュレーション、試作、実験等を実施し、金属粉と吸着剤を含めた全体重量に対する金属粉の重量割合Rg(以下、単に「金属粉重量割合Rg」ともいう)についての後述する成立範囲を求めた。金属粉重量割合Rgは、下記の(式4)により表される。
【0053】
(式4)
Rg=Mg/(Mg+Ma)
Mgは、多孔質伝熱体23を形成するために充填された金属粉23bの量[kg]、Maは、吸着剤24の重量[kg]である。
【0054】
以下に、Rgの当該成立範囲に至った検証結果を図10〜図16を参照して説明する。この金属粉重量割合Rgの成立範囲は、吸着器1としての性能が急激に低下しないこと及び熱媒体管に対する金属粉等の焼結結合が可能であることを基準に判定して明確にした範囲である。当該基準は、製品として成立するための必要な性能が確保できる基準であり、例えば最大性能に対する性能が20パーセント以内の低下に納まることである。
【0055】
図10は空隙率70%で吸着剤充填層厚さLが0.5mm,2mm,6mmの各条件において求めた単位吸着性能当りの製品重量(吸着器の重量)と金属粉重量割合Rgの関係を説明するグラフである。なお、単位吸着性能当りの製品重量とは、単位吸収量(水の量)当りの製品重量[kg/kW]のことである。
【0056】
図10に示すように、吸着剤充填層厚さL=0.5mmの条件(図10中の一点鎖線で示す曲線)では金属粉重量割合Rgが約30wt%で単位吸着性能当りの製品重量が最小値(約0.5)になる。吸着剤充填層厚さL=2mmの条件(図10中の破線で示す曲線)では金属粉重量割合Rgが約70wt%で単位吸着性能当りの製品重量が最小値(約1.0)になる。吸着剤充填層厚さL=6mmの条件(図10の実線で示す曲線)では金属粉重量割合Rgが約88wt%で単位吸着性能当りの製品重量が最小値(約4.0)になる。そして、図10には、各条件の吸着剤充填層厚さLにおけるこれらの最小値(図10中の白抜き丸)を結んだ近似曲線を示している。
【0057】
図11は、吸着剤充填層厚さLを横軸に金属粉重量割合Rgを縦軸に設定した各パラメータについて、空隙率70%における製品の成立範囲を示したグラフである。図11の下限ラインは、製品として必要な程度に金属粉等の焼結結合が実施可能か否かの境界ラインであって、下限ラインより下の領域では強固な結合が得られず焼結結合が安定的に行われないこと、例えば、吸着剤充填層が欠損したり、脱落したりすることを確認している。同様に、図11の上限ラインは製品としての性能を確保できるか否かの境界ラインであって、上限ラインより上の領域では吸着器の性能が急激に低下してしまうこと、例えば、吸着能力よりも熱容量の方が大きくなってしまうことを確認している。
【0058】
これらから、空隙率70%の条件では、図11中の上限ラインと下限ラインの間の領域が製品の成立範囲である。吸着剤充填層厚さLの各条件を横軸に、前述の最小値を満たす金属粉重量割合Rgを縦軸にしてプロットしたものが図11中の白抜き丸である。そして、図11中の白抜き丸を結んだ近似曲線は、図11の上限ラインと下限ラインの間に存在し、製品としての性能及び機能を確保できる成立範囲に確実に含まれることが確認できる。
【0059】
次に、図12は空隙率90%で吸着剤充填層厚さLが0.5mm,2mm,6mmの各条件において求めた単位吸着性能当りの製品重量(吸着器の重量)と金属粉重量割合Rgの関係を説明するグラフである。
【0060】
図12に示すように、吸着剤充填層厚さL=0.5mmの条件(図12中の一点鎖線で示す曲線)では金属粉重量割合Rgが約20wt%で単位吸着性能当りの製品重量が最小値(約0.4)になる。吸着剤充填層厚さL=2mmの条件(図12中の破線で示す曲線)では金属粉重量割合Rgが約60wt%で単位吸着性能当りの製品重量が最小値(約0.6)になる。吸着剤充填層厚さL=6mmの条件(図12の実線で示す曲線)では金属粉重量割合Rgが約76wt%で単位吸着性能当りの製品重量が最小値(約2.0)になる。そして、図12には、各条件の吸着剤充填層厚さLにおけるこれらの最小値(図12中の白抜き丸)を結んだ近似曲線を示している。
【0061】
図13は、吸着剤充填層厚さLを横軸に金属粉重量割合Rgを縦軸に設定した各パラメータについて、空隙率90%における製品の成立範囲を示したグラフである。図13の下限ラインは、製品として必要な程度に金属粉等の焼結結合が実施可能か否かの境界ラインであって、下限ラインより下の領域では強固な結合が得られず焼結結合が安定的に行われないこと、例えば、吸着剤充填層が欠けたり、脱落したりすることを確認している。同様に、図13の上限ラインは製品としての性能を確保できるか否かの境界ラインであって、上限ラインより上の領域では吸着器の性能が急激に低下してしまうこと、例えば、吸着能力よりも熱容量の方が大きくなってしまうことを確認している。
【0062】
これらから、空隙率90%の条件では、図13中の上限ラインと下限ラインの間の領域が製品の成立範囲である。吸着剤充填層厚さLの各条件を横軸に、前述の最小値を満たす金属粉重量割合Rgを縦軸にしてプロットしたものが図13中の白抜き丸である。そして、図13中の白抜き丸を結んだ近似曲線は、図13の上限ラインと下限ラインの間に存在し、製品としての性能及び機能を確保できる成立範囲に確実に含まれることが確認できる。
【0063】
次に、図14は空隙率95%で吸着剤充填層厚さLが0.5mm,2mm,6mmの各条件において求めた単位吸着性能当りの製品重量(吸着器の重量)と金属粉重量割合Rgの関係を説明するグラフである。
【0064】
図14に示すように、吸着剤充填層厚さL=0.5mmの条件(図14中の一点鎖線で示す曲線)では金属粉重量割合Rgが約10wt%で単位吸着性能当りの製品重量が最小値(約0.4)になる。吸着剤充填層厚さL=2mmの条件(図14中の破線で示す曲線)では金属粉重量割合Rgが約50wt%で単位吸着性能当りの製品重量が最小値(約0.5)になる。吸着剤充填層厚さL=6mmの条件(図14の実線で示す曲線)では金属粉重量割合Rgが約67wt%で単位吸着性能当りの製品重量が最小値(約1.4)になる。そして、図14には、各条件の吸着剤充填層厚さLにおけるこれらの最小値(図14中の白抜き丸)を結んだ近似曲線を示している。
【0065】
図15は、吸着剤充填層厚さLを横軸に金属粉重量割合Rgを縦軸に設定した各パラメータについて、空隙率95%における製品の成立範囲を示したグラフである。図15の下限ラインは、製品として必要な程度に金属粉等の焼結結合が実施可能か否かの境界ラインであって、下限ラインより下の領域では強固な結合が得られず焼結結合が安定的に行われないこと、例えば、吸着剤充填層が欠けたり、脱落したりすることを確認している。同様に、図15の上限ラインは製品としての性能を確保できるか否かの境界ラインであって、上限ラインより上の領域では吸着器の性能が急激に低下してしまうこと、例えば、吸着能力よりも熱容量の方が大きくなってしまうことを確認している。
【0066】
これらから、空隙率95%の条件では、図15中の上限ラインと下限ラインの間の領域が製品の成立範囲である。吸着剤充填層厚さLの各条件を横軸に、前述の最小値を満たす金属粉重量割合Rgを縦軸にしてプロットしたものが図15中の白抜き丸である。そして、図15中の白抜き丸を結んだ近似曲線は、図15の上限ラインと下限ラインの間に存在し、製品としての性能及び機能を確保できる成立範囲に確実に含まれることが確認できる。
【0067】
図16は、吸着剤充填層厚さLと金属粉重量割合Rgのパラメータについて、空隙率が70%〜95%における製品の成立範囲を示したグラフである。すなわち、図16には、前述の図11、図13及び図15を参照して説明した上限ラインと下限ラインの間の領域に相当する成立範囲を示している。なお、図16は、空隙率70%及び空隙率95%それぞれの場合の上限ライン及び下限ラインが描画され、空隙率90%の場合の当該ラインは空隙率70%の当該ラインと空隙率95%の当該ラインの間に存在するため、省略している。
【0068】
以上の検証結果により、吸着能力と製造可能性の両方を充足する製品の成立範囲は、図16に示すように、空隙率70%の下限ラインと空隙率95%の上限ラインの間を占める領域である。空隙率70%の下限ラインの近似式は下記の(式5)で表されることを求め、空隙率95%の上限ラインの近似式は、下記の(式6)で表されることを求めた。
【0069】
(式5)
Rg=0.1732exp(−0.01Mo)ln(L)+3.902exp(−3.43Mo)
(式6)
Rg=6.8×10−5exp(7.4Mo)ln(L)+1.316exp(−0.48Mo)
したがって、吸着器1は、(式3)で定義される空隙率Moが0.7≦Mo≦0.95で、かつ吸着剤充填層厚さL[mm]が0.5≦L≦6の範囲に設定され、
さらに、0.1732exp(−0.01Mo)ln(L)+3.902exp(−3.43Mo)≦Rg≦6.8×10−5exp(7.4Mo)ln(L)+1.316exp(−0.48Mo)の関係式を満たす製品であることが好ましい。
【0070】
このような製品であれば、金属粉重量割合Rgが上記の(式5)の右辺以上に設定されるため、金属粉23b等が熱媒体管21に強固に焼結結合されて、熱媒体管の周辺部22に安定的な多孔質伝熱体を形成することができる。さらに、金属粉重量割合Rgが上記の(式6)の右辺以下に設定されるため、吸着器1が有する吸着能力に対して熱容量を小さく抑えることができる。このため、成績係数COPの向上が期待できる。これらから、吸着能力と製造性を両立する優れた製品性の吸着器1を提供できる。
【0071】
次に、金属粉23bとして銅または銅合金の粉末を用いた場合に焼結体の形成を確保できる条件について、表1、図17及び図18を参照して説明する。本願の発明者は、銅粉を用いた場合に、鋭意研究、実験、調査等の結果、銅粉の粒子径や、かさ密度によって、焼結体が形成できない条件があることの知見を得た。
【0072】
そして、本願の発明者は、使用する銅粉の中位径[μm]、銅粉のかさ密度[g/cc]、吸着剤の中位径[μm]等の物理特性を変更した場合の焼結体形成の可否について、実験による検証を実施した。検証結果は、下記の(表1)に示すとおりである。
【0073】
この検証において銅粉は、電解法またはアトマイズ法によって生成した。電解法では、電気分解により銅粉を製造し、アトマイズ法では、材料を溶解して、ジェット流体を溶湯に吹き付けることによって微粉末化して銅粉を製造する。このようにして製造された銅粉は、球状、樹枝状(デントライト状)を呈するようになる。
【0074】
銅粉の中位径[μm]は、使用する銅粉の粒子径分布における積算分布で50%の粒子径である中位径(メディアン径ともいう)のことである。吸着剤の中位径[μm]は、使用する吸着剤24の粒子径分布における積算分布で50%の粒子径である中位径(メディアン径ともいう)のことである。中位径は、JIS Z 8801に準じた測定法によって粒度分布を測定し、計測された累積分布から50%の粒子径を算出することにより、あるいは、レーザー回折粒度分布測定装置を使用して得られた累積分布から50%の粒子径を算出することにより、求めることができる。
【表1】
【0075】
図17及び図18は、(表1)に示した検証結果を、縦軸を銅粉のかさ密度[g/cc]、横軸を銅粉の中位径を吸着剤の中位径で除した値に設定してプロットしたものである。図17及び図18には、焼結体が形成できない結果は「×」をプロットし、形成できた結果は「○」をプロットしている。
【0076】
図17及び図18において銅粉のかさ密度(縦軸座標)が大きいほど、銅粉は密な状態に設けられ、例えばデントライト状の銅粉の枝状部分が短い状態である。逆に、図17において銅粉のかさ密度(縦軸座標)が小さいほど、銅粉は粗な状態に設けられ、例えばデントライト状の銅粉の枝状部分が長い状態である。また、図17において横軸座標が大きいほど、銅粉が大きい状態である。
【0077】
図17に示す長方形よりも内側は焼結体が形成可能な範囲であり、当該長方形よりも外側は焼結体が形成できない範囲である。すなわち、当該長方形の各辺は、吸着器1における焼結体を製造可能か否かの製造限界ラインまたは製品性能の許容ラインを示している。
【0078】
本願の発明者は本検証により、以下の知見を得た。銅粉の中位径を吸着剤の中位径で除した値が、0.8未満であれば、吸着剤の粒子径に対して銅粉の粒子径が小さく、大きな吸着剤の存在により、焼結結合が適正に行われず、必要な強度をもつ焼結体を形成できない。また、3.5より大きい場合には、吸着剤の粒子径に対して銅粉の粒子径が大きく、銅粉の粒子間から吸着剤24が脱落する現象が起こり、必要量の吸着剤24が充填された多孔質伝熱体が形成できず、十分な吸着能力が得られない。また、銅粉のかさ密度が0.4未満であれば、銅粉形状の一部である枝状部分が長くなるため、吸着剤24が脱落する現象が起こりやすくなり、十分な吸着能力が得られない。また、1.6より大きい場合は、逆に当該枝状部分が短くなるため、吸着剤24が邪魔になり焼結結合を適正に実施できず、必要な強度をもつ焼結体を形成できない。
【0079】
以上の不具合を解消するために、図17に示す結果によれば、焼結体の形成に基づく製品の成立範囲は、縦軸の座標が0.4以上1.6以下で、かつ横軸の座標が0.8以上3.5以下であることが求められた。したがって、
0.8≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦3.5
及び0.4≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.6
の両方の関係式を満たす製品であることが好ましい。
【0080】
このように各パラメータが設定された製品であれば、焼結体形成上及び性能上の不具合を解消することができ、吸着能力及び製品性を両立する優れた製品性の吸着器1を提供できる。
【0081】
さらに図18は図17よりも好ましい焼結の形成状態が得られる製品の成立範囲を示したグラフである。図18によれば、焼結体の形成に基づく製品のより好ましい成立範囲は、縦軸の座標が0.6以上1.5以下で、かつ横軸の座標が0.9以上1.9以下であることがわかる。
したがって、
0.9≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦1.9、
及び0.6≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.5
の両方の関係式を満たす製品であることがさらに好ましい。
【0082】
このように各パラメータが設定された製品であれば、焼結体形成上及び性能上の不具合をより確実に解消することができる吸着器1が得られる。また、焼結体の結合強度をさらに高めることが可能になるため、吸着器1の伝熱性能を一層向上させることにも寄与する。
【0083】
(第2実施形態)
第2実施形態では、他の形態の銅粉を使用した多孔質伝熱体を用いた吸着器について図19〜図22を参照して説明する。第2実施形態において特に説明しない点は、第1実施形態と同様とする。図19は、第2実施形態に係る多孔質媒体に用いられる金属粉の形状を示す模式図である。図20は、第2実施形態の銅粉と図17に示す製品の成立範囲との関係を示したグラフである。図21は、第2実施形態の銅粉について、銅粉の中位径と吸着剤の中位径の比、及び銅粉かさ密度のパラメータに関する製品の成立範囲を示したグラフである。図22は、第2実施形態の銅粉について、銅粉の中位径と吸着剤の中位径の比、及び銅粉かさ密度のパラメータに関するより好ましい製品の成立範囲を示したグラフである。第2実施形態において特に説明しない点は、第1実施形態と同様とする。
【0084】
第2実施形態に係る銅粉は、鱗片状、木の葉状等に形成されている。鱗片状等の銅粉23b1は、例えば図19に示すような形状である。
【0085】
金属粉23b1として銅または銅合金の粉末を用いた場合に焼結体の形成を確保できる条件について、表2、図20〜図22を参照して説明する。本願の発明者は、銅粉を用いた場合に、鋭意研究、実験、調査等の結果、銅粉の粒子径や、かさ密度によって、焼結体が形成できない条件があることの知見を得た。
【0086】
そして、本願の発明者は、使用する銅粉の中位径[μm]、銅粉のかさ密度[g/cc]、吸着剤の中位径[μm]等の物理特性を変更した場合の焼結体形成の可否について、実験による検証を実施した。検証結果は、下記の(表2)に示すとおりである。
【0087】
この検証において使用する銅粉は、上述のアトマイズ法、電解法、粉砕法、化学還元法等によって生成した銅粉に対してさらに潰すという工程を施して作成した。潰す工程は、例えば、アトマイズ法で得られた銅粉をローラ等の部材で押しつぶし、銅粉を薄い片に形成する工程である。
【0088】
銅粉の中位径[μm]、吸着剤の中位径[μm]の定義、中位径の算出方法は、第1実施形態において説明したとおりである。なお、表2、図20〜図22には、鱗片状の銅粉に関するデータの他に樹枝状の銅粉に関するデータを比較のために示している。
【表2】
【0089】
図20〜図22は、(表2)に示した検証結果を、縦軸を銅粉のかさ密度[g/cc]、横軸を銅粉の中位径を吸着剤の中位径で除した値に設定してプロットしたものである。図20〜図22には、焼結体が形成できない結果は「×」をプロットし、形成できた結果は「○」をプロットしている。
【0090】
図20〜図22において銅粉のかさ密度(縦軸座標)が大きいほど、銅粉は密な状態に設けられ、例えばデントライト状の銅粉の枝状部分は短胃状態であり、鱗片状の銅粉は小さい状態である。逆に、図において銅粉のかさ密度(縦軸座標)が小さいほど、銅粉は粗な状態に設けられ、例えばデントライト状の銅粉の枝状部分は長い状態であり、鱗片状の銅粉は大きい状態である。また、図において横軸座標が大きいほど、銅粉が大きい状態である。
【0091】
図20に示す長方形は、第1実施形態で説明した図17に示す長方形である。図20において、鱗片状銅粉のデータは、斜線付き丸で示したように、この長方形の外側領域においても焼結体の形成可能な結果を示している。つまり、鱗片状銅粉を用いる製品の場合は、吸着器1における焼結体を製造可能か否かの製造限界ラインまたは製品性能の許容ラインが当該長方形の各辺よりも外側に存在することが分かる。
【0092】
図21に図示する長方形よりも内側は焼結体が形成可能な範囲であり、当該長方形よりも外側は焼結体が形成できない範囲である。すなわち、当該長方形の各辺は、吸着器1における焼結体を製造可能か否かの製造限界ラインまたは製品性能の許容ラインを示している。このように、鱗片状銅粉の場合は、図20に図示する第1実施形態の樹枝状銅粉の場合と比較して、銅粉の中位径と吸着剤の中位径の比の上限ラインを大きくすることが可能である。
【0093】
本願の発明者は本検証により、以下の知見を得た。鱗片状の銅粉の中位径を吸着剤の中位径で除した値が、0.8未満であれば、吸着剤の粒子径に対して銅粉の粒子径が小さく、大きな吸着剤の存在により、焼結結合が適正に行われず、必要な強度をもつ焼結体を形成できない。また、6.5より大きい場合には、吸着剤の粒子径に対して銅粉の粒子径が大きく、銅粉の粒子間から吸着剤24が脱落する現象が起こり、必要量の吸着剤24が充填された多孔質伝熱体が形成できず、十分な吸着能力が得られない。また、鱗片状の銅粉のかさ密度が0.4未満であれば、鱗片形状が大きくなるため、吸着剤24が脱落する現象が起こりやすくなり、十分な吸着能力が得られないことが考えられる。また、1.6より大きい場合は、逆に鱗片形状が小さくなるため、吸着剤24が邪魔になり焼結結合を適正に実施できず、必要な強度をもつ焼結体を形成できないことが考えられる。
【0094】
以上の不具合を解消するために、図21に示す結果によれば、焼結体の形成に基づく製品の成立範囲は、縦軸の座標が0.4以上1.6以下で、かつ横軸の座標が0.8以上6.5以下であることが求められた。したがって、
0.8≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦6.5
及び0.4≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.6
の両方の関係式を満たす製品であることが好ましい。
【0095】
このように各パラメータが設定された製品であれば、焼結体形成上及び性能上の不具合を解消することができ、吸着能力及び製品性を両立する優れた製品性の吸着器1を提供できる。
【0096】
さらに図22は図21よりも好ましい焼結の形成状態が得られる製品の成立範囲を示したグラフである。図22によれば、焼結体の形成に基づく製品のより好ましい成立範囲は、縦軸の座標が0.6以上1.5以下で、かつ横軸の座標が0.9以上6.0以下であることがわかる。
したがって、
0.9≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦6.0、
及び0.6≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.5
の両方の関係式を満たす製品であることがさらに好ましい。
【0097】
このように上記する各パラメータが設定された製品であれば、焼結体形成上及び性能上の不具合をより確実に解消することができる吸着器1が得られる。また、焼結体の結合強度をさらに高めることが可能になるため、吸着器1の伝熱性能を一層向上させることにも寄与する。
【0098】
(第3実施形態)
本発明に係る吸着器1と同様の特徴は、図23に示す熱交換器100に適用することができる。図23は吸着器1と同様の特徴を有する熱交換器100の概略構造を示す模式的断面図である。以下、第3実施形態に係る熱交換器100について説明する。
【0099】
熱交換器100は、焼結体120に含まれる吸着剤と、第2流路190を通過する熱交換媒体とを熱交換させるものである。焼結体120は、第1実施形態における、熱媒体管の周辺部22に設けられる多孔質伝熱体23及び吸着剤24に相当する。吸着剤が気相の被吸着媒体である水蒸気(第1流体)を吸着する際に、液層の被吸着媒体である水を蒸発させ、その蒸発潜熱によって熱交換媒体(第2流体)は冷却される。また、高温の熱交換媒体によって吸着剤が加熱されると、吸着剤に吸着した水蒸気は吸着剤から脱離される。熱交換器100は、第1流体と第2流体とを熱交換させる熱交換部101、熱交換部101を収容する筐体130、筐体130の開口部を閉塞する蓋部材131、筐体130に接続された流通管150、熱交換部101に接続された流入管160および流出管170を備えている。
【0100】
熱交換部101は、複数の板部材110が積層されて構成されている。板部材110は、円形の金属製の板部材であり、例えば銅で形成される。板部材110には、外周の全周に亘って接合部111が形成されている。接合部111は環状の平面である。
【0101】
第2流路190を形成する部材の外表面112には、金属粉を焼結して形成された焼結体120が全面に亘って接合されている。焼結体120は金属粉と吸着剤とを混合させた混合粉体を焼結したものであり、焼結体120は外表面112と金属的に結合し、外表面112から受熱し、或いは、外表面に放熱する伝熱体である。本実施形態では、焼結体120を形成する金属粉として銅粉が使用されている。
【0102】
焼結体120に含まれる吸着剤は、気体状態の第1流体を吸着、または脱離するものであり、気体状態の水、つまり水蒸気を吸着、または脱離する。吸着剤は、保持される焼結体120に放熱して温度が下降すると気体状態の第1流体を吸着し、焼結体120から受熱して温度が上昇すると気体状態の第1流体を脱離する。
【0103】
一対の板部材110は、互いに底部113を対面させ、外表面112を外側にして積層されて吸着モジュール103を構成している。具体的には、一対の板部材110は、互いに接合部111を当接させて接合して、第1流体が流れる第1流路180と第2流体が流れる第2流路190とを区画している。第2流路190は、接合部111によって第2流体の流通方向の断面において全周に亘って封止されている。焼結体120は、吸着モジュール103の外側に配置されている。
【0104】
吸着モジュール103の内側には、金属性のフィン140が配設され、吸着モジュール103の内表面と金属的に結合している。吸着モジュール103は、互いに外表面112を対面させて複数積層されて熱交換部101を構成している。各吸着モジュール103は、ろう付けにて接合されて一体化されている。各吸着モジュール103の間には、第1流路180が形成されている。第1流路180は、外表面112に接合された焼結体120同士の間に第1流体を焼結体120の全域に亘って流通させるための通路である。
【0105】
複数の吸着モジュール103を積層することで構成される熱交換部101は、コア部102、分配タンク104及び集合タンク105を有している。コア部102は、第2流体の熱を底部113の外表面112及び焼結体120を介して吸着剤に伝熱させて吸着剤の温度を上昇させる、または吸着剤の熱を焼結体120及び底部113の外表面112を介して第2流体に伝熱させて吸着剤の温度を下げる機能を有する。
【0106】
分配タンク104には、第2流体を熱交換部101に供給する管部材である流入管160が板部材110の積層方向に延出して接続されている。分配タンク104は、流入管160から流入する第2流体をコア部102に形成された第2流路190に分配している。集合タンク105には、第2流体を熱交換部101から吐出する管部材である流出管170が板部材110の積層方向であって流入管160が延出する方向と同一方向に延出して接続されている。集合タンク105は、コア部102に形成された第2流路190から第2流体を集合させて流出管170から流出させている。
【0107】
流入管160から流入した第2流体は、分配タンク104で複数の第2流路190に分配される。複数の第2流路190を通過した第2流体は集合タンク105において集合し、流出管170から流出する。第2流体が通過する第2流路190は、接合部111によって封止された板部材110同士の間に形成される。熱交換部101は、コア部102における複数の流路に分割された第2流路190を流通する第2流体とコア部102における第1流路180を流通する第1流体との間で熱交換させる。筐体130は、熱交換部101を内部に収容する有底の箱部材である。筐体130の底面は円形である。筐体130の内面は、熱交換部101に接触しておらず、筐体130の内面と熱交換部101の間には、第1流体が流通する流通空間181が形成されている。
【0108】
蓋部材131は、平面形状の板部材であり、筐体130のフランジ状に形成された開口部に接合されて、筐体130の開口部を閉塞している。蓋部材131は、蓋部材131を貫通する流通管150、流入管160及び流出管170を固定している。蓋部材131は、流入管160及び流出管170を介して熱交換部101を保持している。
【0109】
流通管150は、筐体130内の流通空間181と、第1流体が液体状態で貯留された貯留タンク(図示せず)とを連通する管部材である。気体状態の第1流体は、筐体130内と貯留タンクの間を流通管150を介して流通している。蓋部材131は筐体130の開口部を閉塞して、筐体130内における第1流路180をほぼ真空状態にしている。
【0110】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0111】
上記の第1実施形態では、図1に示すように水蒸気通路25を3つの熱媒体管21で囲まれる領域に配置するようにしているが、この形態に限定するものではなく、例えば、図24の吸着器1の第1変形例を示す模式的断面図のように、4つの熱媒体管21で囲まれる領域に配置するようにしてもよい。また、水蒸気通路25は5つ以上の熱媒体管21で囲まれる領域に配置するようにしてもよい。
【0112】
水蒸気通路25の断面形状は、周辺部22に形成されて流体が流通可能な通路であればよく、例えば図25に示すように、円筒状の熱媒体管21を千鳥状に配置した場合の隣り合う周辺部22間に形成される隙間通路であってもよい。図25は、第2変形例の吸着器を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0113】
1…吸着器
21…熱媒体管
22…熱媒体管の周辺部
23…多孔質伝熱体
23a…細孔
23b…金属粉、銅粉
24…吸着剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着剤が冷媒を吸着及び脱離する作用を利用する吸着器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、熱交換媒体が流れる複数の熱媒体管の周辺に設けられる多孔質伝熱体及び吸着剤について、伝熱特性の向上及び成績係数COPの高い状態を確保するために、多孔質伝熱体の空隙率を特定範囲に設定すること、吸着剤充填層の厚さを特定範囲に設定することが開示されている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−121912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術は、吸着器の性能の観点から特有の構成を見い出したものであるが、本願の発明者は、実験及びシミュレーションを含む鋭意検討を行った結果、この他に必要吸着剤量や製造限界の観点から、吸着器を構成する金属粉及び吸着剤が特有の条件を満たす必要があるという知見を得た。
【0005】
そこで、本発明は上記点に鑑みてなされたものであり、その目的は、吸着能力と製造可能性の両方を満たすことができる吸着器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。なお、特許請求の範囲および下記各手段に記載の括弧内の符号は、ひとつの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す。
【0007】
請求項1は、熱交換媒体が流れる複数の熱媒体管(21)を有し、熱媒体管(21)の周辺部(22)に細孔(23a)が形成される多孔質伝熱体(23)及び吸着剤(24)を設けてなる吸着器(1)に係る発明であって、
多孔質伝熱体(23)は金属粉(23b)を焼結によって熱媒体管(21)に金属結合して形成され、細孔(23a)内には吸着剤(24)が充填されており、
多孔質伝熱体(23)と熱媒体管(21)の間に形成される間隙と、細孔(23a)とを含む空隙部を備え、
熱媒体管(21)の周辺部(22)に吸着剤(24)が充填されて形成される吸着剤充填層の厚さL[mm]は、0.5≦L≦6の範囲に設定され、
上記周辺部(22)に充填された金属粉(23b)の重量をMg[kg]、吸着剤の重量をMa[kg]、金属粉(23b)が充填されている当該周辺部(22)の充填容積をFv[m3]、及び金属粉(23b)の密度をρ[kg/m3]とすると、空隙部の空隙率Moは、Mo=1−(Mg/(Fv×ρ))で表されるとともに0.7≦Mo≦0.95の範囲に設定され、金属粉の重量割合Rgは、Rg=Mg/(Mg+Ma)で表され、
さらに、0.1732exp(−0.01Mo)ln(L)+3.902exp(−3.43Mo)≦Rg≦6.8×10−5exp(7.4Mo)ln(L)+1.316exp(−0.48Mo)
の関係式を満たすことを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、当該Rgが上記の関係式における下限の式以上に設定されることによって、金属粉の焼結結合が確実に得られる多孔質伝熱体の形成が実現でき、当該Rgが上限の式以下に設定されることによって、吸着能力に対して製品の熱容量を小さく抑えることができるため、高い成績係数COPが図れる。したがって、吸着能力と製造可能性の両面において優れた製品性を備える吸着器が得られるのである。
【0009】
請求項2によると、請求項1に記載の吸着器において、金属粉(23b)は銅または銅合金から形成される粉末であることが好ましい。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の吸着器において、銅または銅合金から形成される金属粉、吸着剤のそれぞれについて、粒子径分布における積算分布で50%の粒子径である中位径を銅粉の中位径、吸着剤の中位径とし、
吸着剤を混合させて熱媒体管(21)に、電解法またはアトマイズ法によって生成された銅粉を焼結結合させる場合は、
0.8≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦3.5
及び、0.4≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.6
を満たすことを特徴とする。
【0011】
本願の発明者は、以下の問題発生の知見を得た。銅粉の中位径と吸着剤の中位径の比の値が、0.8未満であれば、吸着剤の粒子径に対して銅粉の粒子径が小さいため、吸着剤が邪魔になり焼結結合が実施できず、銅粉等の焼結体を確実に形成できない。また、3.5より大きい場合は、吸着剤の粒子径に対して銅粉の粒子径が大きく、銅粉の粒子間から吸着剤が脱落する現象が起こり、必要な吸着剤が充填された多孔質伝熱体が形成できない。また、銅粉のかさ密度が0.4未満であれば、銅粉形状の一部である枝状部分が長くなるため、吸着剤が脱落する現象が起こりやすくなる。また、1.6より大きい場合は、逆に当該枝状部分が短くなるため、吸着剤が邪魔になり焼結結合が実施できず、銅粉等の焼結体を確実に形成できない。
【0012】
そこで請求項3に係る発明によれば、本願の発明者が得た上記の知見に基づいて、焼結体形成上の不具合を解消することができ、吸着能力及び製品性を確保する吸着器が得られる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3において
さらに0.9≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦1.9及び
0.6≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.5を満たすことが好ましい。
【0014】
この発明によれば、請求項3の発明が解消する上記の不具合をより確実に解消する吸着器が得られる。また、焼結結合の強度をさらに高めることが可能になるため、吸着器の伝熱性能を一層向上させることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載の吸着器において、銅または銅合金から形成される金属粉、吸着剤のそれぞれについて、粒子径分布における積算分布で50%の粒子径である中位径を銅粉の中位径、吸着剤の中位径とし、
アトマイズ法、電解法、粉砕法、化学還元法によって生成された銅粉をさらに潰したものを、吸着剤を混合させて熱媒体管(21)に焼結結合させる場合は、
0.8≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦6.5
及び、0.4≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.6
を満たすことを特徴とする。
【0016】
請求項5に係る発明によれば、アトマイズ法、電解法、粉砕法、化学還元法によって生成された銅粉をさらに潰し、当該銅粉を吸着剤を混合させて熱媒体管(21)に焼結結合させる場合には、本願の発明者が得た上記の知見に基づいて、焼結体形成上の不具合を解消することができ、吸着能力及び製品性を確保する吸着器が得られる。特に、この銅粉は、製造コストが比較的安価なアトマイズ法の使用した場合にも得ることができるため、コスト面で有利な効果を奏するものである。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項5において、
さらに、1.9≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦6.0
及び、0.6≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.5
を満たすことを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、請求項5の発明が解消する上記の不具合をより確実に解消する吸着器が得られる。また、焼結結合の強度をさらに高めることが可能になるため、吸着器の伝熱性能を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る吸着器を示した横断面図である。
【図2】図1中のII−II断面の矢視図である。
【図3】吸着器における吸着剤充填層を示す模式的断面図である。
【図4】多孔質媒体に用いられる金属粉の形状を示す模式図である。
【図5】空隙率と吸着剤の充填密度の関係を示す特性図である。
【図6】吸着剤充填層の厚さLが2mmである場合の空隙率と冷却性能との関係を説明する特性図である。
【図7】吸着剤充填層の厚さLが2mmである場合の空隙率と成績係数COPとの関係を説明する特性図である。
【図8】吸着剤充填層の厚さLが4mmである場合の空隙率と冷却性能との関係を説明する特性図である。
【図9】吸着剤充填層の厚さLが4mmである場合の空隙率と成績係数COPとの関係を説明する特性図である。
【図10】空隙率70%で吸着剤充填層厚さ0.5mm,2mm,6mmの場合の、単位吸着性能当りの製品重量と金属粉重量割合の関係を説明するグラフである。
【図11】吸着剤充填層厚さと金属粉重量割合のパラメータについて、空隙率70%での場合の製品の成立範囲を示したグラフである。
【図12】空隙率90%で吸着剤充填層厚さ0.5mm,2mm,6mmの場合の、単位吸着性能当りの製品重量と金属粉重量割合の関係を説明するグラフである。
【図13】吸着剤充填層厚さと金属粉重量割合のパラメータについて、空隙率90%での製品の成立範囲を示したグラフである。
【図14】空隙率95%で吸着剤充填層厚さ0.5mm,2mm,6mmの場合の、単位吸着性能当りの製品重量と金属粉重量割合の関係を説明するグラフである。
【図15】吸着剤充填層厚さと金属粉重量割合のパラメータについて、空隙率95%での製品の成立範囲を示したグラフである。
【図16】吸着剤充填層厚さと金属粉重量割合のパラメータについて、空隙率70%〜95%における製品の成立範囲を示したグラフである。
【図17】銅粉の中位径と吸着剤の中位径の比、及び銅粉かさ密度のパラメータについて、製品の成立範囲を示したグラフである。
【図18】銅粉の中位径と吸着剤の中位径の比、及び銅粉かさ密度のパラメータについて、より好ましい製品の成立範囲を示したグラフである。
【図19】第2実施形態に係る多孔質媒体に用いられる金属粉の形状を示す模式図である。
【図20】第2実施形態に係る銅粉と図17に示す製品の成立範囲との関係を示したグラフである。
【図21】第2実施形態に係る銅粉について、銅粉の中位径と吸着剤の中位径の比、及び銅粉かさ密度のパラメータに関する製品の成立範囲を示したグラフである。
【図22】第2実施形態に係る銅粉について、銅粉の中位径と吸着剤の中位径の比、及び銅粉かさ密度のパラメータに関するより好ましい製品の成立範囲を示したグラフである。
【図23】本発明の吸着器と同様の特徴を有する第3実施形態の熱交換器の概略構造を示す模式的断面図である。
【図24】第1実施形態に係る吸着器の第1変形例を示す模式的断面図である。
【図25】第2変形例の吸着器を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0021】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る吸着器について図1〜図18にしたがって説明する。図1は第1実施形態の吸着器1を示した横断面図である。図2は図1中のII−II断面の矢視図である。図3は吸着器1における吸着剤充填層を示す模式的断面図である。図4は多孔質媒体23に含まれる金属粉23bの形状の一例を示す模式図である。
【0022】
吸着器1は、その内部に含む吸着剤が気相冷媒(例えば水蒸気)を吸着する作用を用いて冷媒を蒸発させてその蒸発潜熱により冷凍能力を発揮することを利用する吸着式冷凍機に使用されるものである。吸着器1は例えば車両用等の空調装置に適用することができる。図1及び図2に示すように、吸着器1は筐体31内に吸着熱交換器2を備えている。吸着熱交換器2は、熱交換媒体(冷媒)が流れる熱媒体管21を有し、熱媒体管21を取り囲む周辺部22に、細孔を有する多孔質伝熱体23および吸着剤24を備えている。
【0023】
吸着熱交換器2は、図3に示すように、材質が銅または銅合金(本実施例では、銅として以下説明する)からなる熱媒体管21と、細孔23aが形成されている多孔質伝熱体23と、その細孔23aに充填するように配された吸着剤24とを備えている。多孔質伝熱体23は、熱伝導性に優れる金属粉23bを加熱して溶融することなく焼結結合した金属粉23bと吸着剤24の混合焼結体である。金属粉23bは、銅または銅合金(本実施例では、銅として以下説明する)を用いている。
【0024】
例えばその銅粉の場合は、粉末状、粒子状、球状、樹枝状(デンドライト状)、繊維状等に形成されている。樹枝状(デンドライド状)の銅粉23bは、例えば図4に示すような形状である。
【0025】
多孔質伝熱体23、すなわち金属粉23bを焼結結合した焼結体は、図3に示すように、細孔23aを有する微細な焼結フィン(以下、多孔質焼結フィンともいう)を形成する。細孔23aは、金属粉23bに比べて粒子径が微小な吸着剤24を充填可能にマッチさせた微細な孔である。さらに多孔質伝熱体23は、銅からなる熱媒体管の周辺部22に焼結結合している。多孔質伝熱体23は、その全体が一方向に伸長するように複数の熱媒体管の周辺部22で形成され、全体形状として円筒状を呈している。
【0026】
細孔23aを有する多孔質伝熱体23と熱媒体管21とは互いに焼結結合しているため、多孔質伝熱体23に形成される細孔23a以外に、結合する多孔質伝熱体23と熱媒体管21の間に間隙が形成される。この間隙と細孔23aは請求範囲に記載の空隙部に含まれる。
【0027】
吸着剤24は、微小な多数の粒子状に形成されており、例えば、シリカゲル、ゼオライト、活性炭、活性アルミナ等から構成され得る。吸着剤24は、多孔質伝熱体23の細孔23a内部に充填されている。
【0028】
隣り合う熱媒体管21の間には、被吸着媒体である水蒸気が流通する水蒸気通路25が配置されている。水蒸気通路25の断面形状は、円、楕円、矩形等で形成されうる。水蒸気通路25は、図1に示すように、3つの熱媒体管21に囲まれた領域に配置されているが、3つに限らず、4つ以上の熱媒体管21に囲まれた領域に配置されるようにしてもよい。水蒸気通路25は、吸着時には、蒸発器からの水蒸気を通して熱媒体管の周辺部22の多孔質伝熱体23内部へ速やかに浸透させる役割を果す。脱離時には、熱媒体管の周辺部22の多孔質伝熱体23から吐き出した水蒸気を、この水蒸気通路25を通して速やかに凝縮器へ導く役割を果すのである。
【0029】
吸着器1は、吸着熱交換器2、筐体31、シート32,33、及びタンク34,35を備えて構成されている。筐体31は、銅または銅合金からなる円筒状に形成され、内部に、略円筒状の吸着熱交換器2における多孔質伝熱体23が収容可能に形成されている。筐体31の上端側開口部と下端側開口部は、シート32、33で封止されている。筐体31の上部には、吸着熱交換器2の吸着剤充填層に水蒸気を導くことが可能な流入配管36および流出配管37が設けられている。
【0030】
このように筐体31の端部開口がシート32、33で封止されることにより、筐体31の内部を真空に保持可能である。吸着時には、水蒸気は、蒸発器側から流入配管36を通して水蒸気通路25に分配される。水蒸気通路25に分配された水蒸気は、吸着剤充填層の内部に浸透する。脱離時には、水蒸気は吸着剤充填層から吐き出され、吐き出た水蒸気は各水蒸気通路25を通して、流出配管37より凝縮器側へ導かれる。
【0031】
シート32,33には、熱媒体管21が貫通可能な貫通穴32a,33aが形成されている。この貫通穴32a,33aと熱媒体管21は、ろう付け等による接合によって気密に固定されている。
【0032】
タンク34,35には、熱交換媒体を導くことが可能な流入配管38および流出配管39が設けられている。熱交換媒体は流入配管38から下部のタンク34に流入し、各熱媒体管21を通った後、上部のタンク35に流れ、流出配管39から流出する。このようなタンク34及びタンク35は、熱交換媒体を複数の熱媒体管21へ供給分配するためのタンクである。筐体31および熱媒体管21は、その横断面が円筒形状、楕円形状、矩形状のいずれの形状であってもよい。
【0033】
熱媒体管の周辺部22に設けられた多孔質伝熱体23は、吸着剤充填層と称する。この吸着剤充填層は、熱媒体管の周辺部22で焼結結合した多孔質焼結フィンの厚さ(吸着剤充填層厚さ)Lに対応する(図3参照)。
【0034】
この吸着剤充填層厚さLは、単位容積当たりの冷却性能(吸収量)を考慮して、最大性能から70%までの性能を確保できる0.5mm以上6mm以下の範囲に設定されることが好ましい。
【0035】
上記のように好ましい吸着剤充填層厚さLを有する吸着熱交換器2において、本願の発明者は、金属粉23b、吸着剤24に関してかさ密度等の物理特性を変更した場合での冷却性能について実験による検証を実施した。検証実験で評価した冷却性能の評価項目としては、単位容積当たりの冷却能力(冷却能力比)に加えて、その成績係数COP等を評価した。
ここで、冷却能力比Qは、(式1)により表される。
(式1)
Q=G×ΔC×ΔH×η/τ
(式1)中において、Gは吸着剤24の量[kg]、ΔCは吸着剤24の水蒸気に対する吸着特性(以下、水吸着特性)[kg/kg]、ΔHは潜熱[kJ/kg]、ηは吸着効率(作動条件下において、吸着剤の平衡吸着量のうち吸着した割合)、τは切替時間、η/τは吸着速度である。
成績係数COPは、(式2)により表される。
(式2)
成績係数COP=Q/(Q+Qh)
(式2)中において、Qhは、吸着器1を構成する吸着熱交換器2および筐体31などの構成部品の温度を変えるのに必要な熱量(kW)であって、吸着剤24、多孔質伝熱体23、熱媒体管21、及び筐体31等の熱容量である。
【0036】
上記実験結果によると、冷却能力比を最大にする吸着剤充填層厚さLが0.5mm以上6mm以下の範囲内に確かに存在することが確認された。しかしながら、吸着剤充填層厚さLの大きさに関わらず、多孔質伝熱体23の量、すなわち焼結体として焼結された金属粉23bの量により、冷却能力比や成績係数COPが比較的大きく変わるとの知見が得られた。例えば、吸着剤充填層厚さLを、最大性能となる2mmとしても金属粉23bの量により、冷却能力比や成績係数COPが比較的大きく異なる実験結果となった。
【0037】
そこで、本願の発明者は、(1)金属粉23bの量により、金属粉23bが焼結体の細孔として焼結結合されて形成された空隙部の大きさが変化し、その空隙部に充填可能な吸着剤24の量が異なること、(2)空隙部の状態、例えばその状態を示す空隙率Moが変化すると、吸着剤24と接する多孔質伝熱体23の内部の伝熱面積が異なり、熱特性が異なること、等に着目してさらに検討を重ねた。空隙率Moは、(式3)により表される。
(式3)
空隙率Mo=1−(Mg/(Fv×ρ))
(式3)において、Mgは、多孔質伝熱体23を形成するために充填された金属粉23bの量[kg]、Fvは、金属粉23bが充填された充填容積[m3]、ρは、金属粉23bの密度[kg/m3]である。例えば、円筒状の熱媒体管21の周辺部22に充填された金属粉23bをMgとし、その周辺部22の充填容積をFvとするものである。
【0038】
まず、(式1)で表されるQは、吸着剤24の量Gと、吸着速度(η/τ)に比例するので、吸着剤24の量を多くすること、及び吸着速度(η/τ)を早めることの少なくともいずれか一方が成立することによって向上する。また、(式2)で表される成績係数COPは、Qと、吸着剤24、及び多孔質伝熱体23すなわち焼結により焼結体に形成される金属粉23b等の熱容量と、によって比較的大きく影響を受ける。
【0039】
また、上記QおよびCOPに影響を及ぼす吸着剤24の量と金属粉23bの量は、図5で示される空隙率と吸着剤24の充填密度の関係を示す特性図のように、金属粉23bの量とに基づいて決定される空隙率に対応して、吸着剤24の充填可能な最大の量Gが決まる。したがって、(式3)で表される空隙率MoをQ及びCOPに関係付けることは可能である。
【0040】
図5は、空隙率と吸着剤24の充填密度の関係を示す特性図であり、横軸に空隙率、縦軸に吸着剤24の充填密度を示すとともに、吸着剤24の物理特性の一つのかさ密度A,Bを変えて、異なるかさ密度Aとかさ密度Bの場合の二例を示している。当該かさ密度[g/cc]は、単位容積の容器に自然充填の状態で吸着剤24(粉末)を満たしたときの質量であり、JIS Z 2504に準じるものである。また、縦軸に示される吸着剤24の充填密度は、各かさ密度A,Bを有する吸着剤24を充填するときの最大充填密度である。本実施形態では、かさ密度A,Bを、それぞれ0.7[g/cc]、0.5[g/cc]とした。かさ密度B以上、かさ密度A以下の範囲としたのは、本実施形態の吸着熱交換器2で使用が考えられる範囲が0.5〜0.7[g/cc]のかさ密度の範囲内であるためである。
【0041】
図5のように、例えば、かさ密度Aの場合において、金属粉(銅粉)23bが多い領域、すなわち空隙率の低い領域では、銅粉23b等の焼結体を多孔質焼結フィン(多孔質伝熱体)とすることで、この多孔質焼結フィン内に充填された吸着剤24との接触面積の拡大により伝熱特性が向上するが、空隙率が低いため、空隙部に充填可能な吸着剤24の量は減少する。このような空隙率の低い領域では、冷却能力が低下し、かつ放熱の占める割合が増え成績係数COPの低下を招く。一方、金属粉23bの量を少なくし、空隙率を高めた領域では、吸着剤24の充填可能量が増えるが、吸着剤24との接触面積の減少により伝熱特性が低下するので、冷却能力および成績係数COPの低下を招くことが懸念される。
【0042】
次に、空隙率の最適化を図るべく、空隙率と冷却能力比、及び空隙率と成績係数COPの関係を、それぞれ、図6と図8、及び図7と図9にしたがって説明する。図6の空隙率と冷却能力比を示す特性図と、図7の空隙率と成績係数COPの関係を示す特性図は、空隙率を考慮しない場合に冷却能力比が最大となる一例である吸着剤充填層厚さLが2mmである場合において、空隙率に関係付けられる冷却能力比、成績係数COPを算出したものである。また、図8の空隙率と冷却能力比を示す特性図と、図9の空隙率と成績係数COPの関係を示す特性図は、最大性能ではないが許容される冷却能力比を満足する吸着剤充填層厚さLが4mmである場合において、空隙率に関係付けられる冷却能力比、成績係数COPを算出したものである。
【0043】
なお、空隙率を最適化するにあたり、許容される冷却能力比を最大冷却能力の85%以上とした。また、許容される成績係数COPを0.5以上とした。これにより、最大性能から85%までの冷却能力を確保することができるので、最大性能に対して15%程度の低下に抑えられ、最大性能に近い冷却能力が得られる。また、許容される成績係数COPを0.5以上とするので、熱交換媒体の廃熱源からの少ない廃熱で作動させることが可能となる。さらに、許容される成績係数COPを0.5以上とするので、吸着熱交換器2を、放熱性能が小さい領域で作動をさせたい場合があったとしても、大型化することなく、作動させることができる。
【0044】
図6に示すように、吸着剤充填層厚さLが2mmの場合での空隙率と冷却能力比の特性図では、吸着剤24のかさ密度が、かさ密度A、かさ密度Bのいずれの場合であっても、空隙率の増加にほぼ比例して冷却能力比が増加する。増加した空隙率が90%に達すると冷却能力比は最大となり、その後の空隙率が95%を超えた領域では、空隙率が増加するにしたがって冷却能力比が急激に低下する。また、吸着剤24の各かさ密度A,B同士を比較した場合において、空隙率のほぼ全範囲で、かさ密度の小さいかさ密度Bの冷却能力比の方が、かさ密度Aの冷却能力比より劣っている。
【0045】
このようにかさ密度の小さいかさ密度Bの場合であっても、最大性能に対して85%以上の性能を確保するためには、図6に示すように、空隙率は、70%〜95%の範囲内に設定されていることが好ましい。
【0046】
図7に示すように、吸着剤充填層厚さLが2mmの場合での空隙率と成績係数COPの特性図では、かさ密度A、かさ密度Bのいずれの場合であっても、空隙率の増加にほぼ比例して成績係数COPが増加する。増加した空隙率が95%に達すると成績係数COPは最大となり、その後の空隙率が98%を超えた領域では、空隙率が増加するにしたがって成績係数COPが急激に低下する。また、かさ密度A,B同士を比較した場合において、空隙率のほぼ全範囲で、かさ密度の小さいかさ密度Bの成績係数COPの方が、かさ密度Aの成績係数COPより劣っている。
【0047】
このようにかさ密度の小さいかさ密度Bの場合であっても、0.5以上の成績係数COPを確保するためには、図7に示すように、空隙率は、60%以上に設定されていることが好ましい。さらに、冷却能力比および成績係数COPが高い状態を維持するためには、空隙率は、70%〜95%の範囲内に設定されていることが好ましい。
【0048】
次に、図8に示すように、吸着剤充填層厚さLが4mmの場合での空隙率と冷却能力比の特性図では、かさ密度A、かさ密度Bのいずれの場合であっても、空隙率の増加にほぼ比例して冷却能力比が増加する。増加した空隙率が80%に達すると冷却能力は最大となり、その後の空隙率が95%を超えた領域では、空隙率が増加するにしたがって冷却能力比が急激に低下する。
【0049】
かさ密度の小さいかさ密度Bの場合であっても、最大性能に対して85%以上の性能を確保するためには、図8に示すように、空隙率は、50%〜95%の範囲内に設定されていることが好ましい。
【0050】
図9に示すように、吸着剤充填層厚さLが4mmの場合での空隙率と成績係数COPの特性図では、かさ密度A、かさ密度Bのいずれの場合であっても、空隙率の増加にほぼ比例して成績係数COPが増加する。増加した空隙率が95%に達すると成績係数COPは最大となり、その後の空隙率が98%を超えた領域では、空隙率が増加するにしたがって成績係数COPが急激に低下するおそれがある。
【0051】
かさ密度の小さいかさ密度Bの場合であっても、0.5以上の成績係数COPを確保するためには、図9に示すように、空隙率は、60%以上に設定されていることが好ましい。さらに、このような吸着剤充填層の厚さLを最適化した範囲にある吸着剤充填層厚さLが4mmの場合においても、冷却能力比および成績係数COPが高い状態を維持するためには、空隙率は、60%〜95%の範囲内に設定されていることが好ましい。さらに、上記吸着剤充填層厚さLを最適化した範囲にある場合に対して、空隙率を70%〜95%の範囲内に設定することにより、冷却能力比及び成績係数COPが高い状態を確実に維持することができる。
【0052】
以上の検証により、吸着器1について、(式3)で表される空隙率Moが0.7以上0.95以下の範囲で、かつ吸着剤充填層厚さLが0.5mm以上6mm以下の範囲であることが好ましいことを確認できた。さらに本願の発明者は、このような空隙率Moと吸着剤充填層厚さLの範囲において、シミュレーション、試作、実験等を実施し、金属粉と吸着剤を含めた全体重量に対する金属粉の重量割合Rg(以下、単に「金属粉重量割合Rg」ともいう)についての後述する成立範囲を求めた。金属粉重量割合Rgは、下記の(式4)により表される。
【0053】
(式4)
Rg=Mg/(Mg+Ma)
Mgは、多孔質伝熱体23を形成するために充填された金属粉23bの量[kg]、Maは、吸着剤24の重量[kg]である。
【0054】
以下に、Rgの当該成立範囲に至った検証結果を図10〜図16を参照して説明する。この金属粉重量割合Rgの成立範囲は、吸着器1としての性能が急激に低下しないこと及び熱媒体管に対する金属粉等の焼結結合が可能であることを基準に判定して明確にした範囲である。当該基準は、製品として成立するための必要な性能が確保できる基準であり、例えば最大性能に対する性能が20パーセント以内の低下に納まることである。
【0055】
図10は空隙率70%で吸着剤充填層厚さLが0.5mm,2mm,6mmの各条件において求めた単位吸着性能当りの製品重量(吸着器の重量)と金属粉重量割合Rgの関係を説明するグラフである。なお、単位吸着性能当りの製品重量とは、単位吸収量(水の量)当りの製品重量[kg/kW]のことである。
【0056】
図10に示すように、吸着剤充填層厚さL=0.5mmの条件(図10中の一点鎖線で示す曲線)では金属粉重量割合Rgが約30wt%で単位吸着性能当りの製品重量が最小値(約0.5)になる。吸着剤充填層厚さL=2mmの条件(図10中の破線で示す曲線)では金属粉重量割合Rgが約70wt%で単位吸着性能当りの製品重量が最小値(約1.0)になる。吸着剤充填層厚さL=6mmの条件(図10の実線で示す曲線)では金属粉重量割合Rgが約88wt%で単位吸着性能当りの製品重量が最小値(約4.0)になる。そして、図10には、各条件の吸着剤充填層厚さLにおけるこれらの最小値(図10中の白抜き丸)を結んだ近似曲線を示している。
【0057】
図11は、吸着剤充填層厚さLを横軸に金属粉重量割合Rgを縦軸に設定した各パラメータについて、空隙率70%における製品の成立範囲を示したグラフである。図11の下限ラインは、製品として必要な程度に金属粉等の焼結結合が実施可能か否かの境界ラインであって、下限ラインより下の領域では強固な結合が得られず焼結結合が安定的に行われないこと、例えば、吸着剤充填層が欠損したり、脱落したりすることを確認している。同様に、図11の上限ラインは製品としての性能を確保できるか否かの境界ラインであって、上限ラインより上の領域では吸着器の性能が急激に低下してしまうこと、例えば、吸着能力よりも熱容量の方が大きくなってしまうことを確認している。
【0058】
これらから、空隙率70%の条件では、図11中の上限ラインと下限ラインの間の領域が製品の成立範囲である。吸着剤充填層厚さLの各条件を横軸に、前述の最小値を満たす金属粉重量割合Rgを縦軸にしてプロットしたものが図11中の白抜き丸である。そして、図11中の白抜き丸を結んだ近似曲線は、図11の上限ラインと下限ラインの間に存在し、製品としての性能及び機能を確保できる成立範囲に確実に含まれることが確認できる。
【0059】
次に、図12は空隙率90%で吸着剤充填層厚さLが0.5mm,2mm,6mmの各条件において求めた単位吸着性能当りの製品重量(吸着器の重量)と金属粉重量割合Rgの関係を説明するグラフである。
【0060】
図12に示すように、吸着剤充填層厚さL=0.5mmの条件(図12中の一点鎖線で示す曲線)では金属粉重量割合Rgが約20wt%で単位吸着性能当りの製品重量が最小値(約0.4)になる。吸着剤充填層厚さL=2mmの条件(図12中の破線で示す曲線)では金属粉重量割合Rgが約60wt%で単位吸着性能当りの製品重量が最小値(約0.6)になる。吸着剤充填層厚さL=6mmの条件(図12の実線で示す曲線)では金属粉重量割合Rgが約76wt%で単位吸着性能当りの製品重量が最小値(約2.0)になる。そして、図12には、各条件の吸着剤充填層厚さLにおけるこれらの最小値(図12中の白抜き丸)を結んだ近似曲線を示している。
【0061】
図13は、吸着剤充填層厚さLを横軸に金属粉重量割合Rgを縦軸に設定した各パラメータについて、空隙率90%における製品の成立範囲を示したグラフである。図13の下限ラインは、製品として必要な程度に金属粉等の焼結結合が実施可能か否かの境界ラインであって、下限ラインより下の領域では強固な結合が得られず焼結結合が安定的に行われないこと、例えば、吸着剤充填層が欠けたり、脱落したりすることを確認している。同様に、図13の上限ラインは製品としての性能を確保できるか否かの境界ラインであって、上限ラインより上の領域では吸着器の性能が急激に低下してしまうこと、例えば、吸着能力よりも熱容量の方が大きくなってしまうことを確認している。
【0062】
これらから、空隙率90%の条件では、図13中の上限ラインと下限ラインの間の領域が製品の成立範囲である。吸着剤充填層厚さLの各条件を横軸に、前述の最小値を満たす金属粉重量割合Rgを縦軸にしてプロットしたものが図13中の白抜き丸である。そして、図13中の白抜き丸を結んだ近似曲線は、図13の上限ラインと下限ラインの間に存在し、製品としての性能及び機能を確保できる成立範囲に確実に含まれることが確認できる。
【0063】
次に、図14は空隙率95%で吸着剤充填層厚さLが0.5mm,2mm,6mmの各条件において求めた単位吸着性能当りの製品重量(吸着器の重量)と金属粉重量割合Rgの関係を説明するグラフである。
【0064】
図14に示すように、吸着剤充填層厚さL=0.5mmの条件(図14中の一点鎖線で示す曲線)では金属粉重量割合Rgが約10wt%で単位吸着性能当りの製品重量が最小値(約0.4)になる。吸着剤充填層厚さL=2mmの条件(図14中の破線で示す曲線)では金属粉重量割合Rgが約50wt%で単位吸着性能当りの製品重量が最小値(約0.5)になる。吸着剤充填層厚さL=6mmの条件(図14の実線で示す曲線)では金属粉重量割合Rgが約67wt%で単位吸着性能当りの製品重量が最小値(約1.4)になる。そして、図14には、各条件の吸着剤充填層厚さLにおけるこれらの最小値(図14中の白抜き丸)を結んだ近似曲線を示している。
【0065】
図15は、吸着剤充填層厚さLを横軸に金属粉重量割合Rgを縦軸に設定した各パラメータについて、空隙率95%における製品の成立範囲を示したグラフである。図15の下限ラインは、製品として必要な程度に金属粉等の焼結結合が実施可能か否かの境界ラインであって、下限ラインより下の領域では強固な結合が得られず焼結結合が安定的に行われないこと、例えば、吸着剤充填層が欠けたり、脱落したりすることを確認している。同様に、図15の上限ラインは製品としての性能を確保できるか否かの境界ラインであって、上限ラインより上の領域では吸着器の性能が急激に低下してしまうこと、例えば、吸着能力よりも熱容量の方が大きくなってしまうことを確認している。
【0066】
これらから、空隙率95%の条件では、図15中の上限ラインと下限ラインの間の領域が製品の成立範囲である。吸着剤充填層厚さLの各条件を横軸に、前述の最小値を満たす金属粉重量割合Rgを縦軸にしてプロットしたものが図15中の白抜き丸である。そして、図15中の白抜き丸を結んだ近似曲線は、図15の上限ラインと下限ラインの間に存在し、製品としての性能及び機能を確保できる成立範囲に確実に含まれることが確認できる。
【0067】
図16は、吸着剤充填層厚さLと金属粉重量割合Rgのパラメータについて、空隙率が70%〜95%における製品の成立範囲を示したグラフである。すなわち、図16には、前述の図11、図13及び図15を参照して説明した上限ラインと下限ラインの間の領域に相当する成立範囲を示している。なお、図16は、空隙率70%及び空隙率95%それぞれの場合の上限ライン及び下限ラインが描画され、空隙率90%の場合の当該ラインは空隙率70%の当該ラインと空隙率95%の当該ラインの間に存在するため、省略している。
【0068】
以上の検証結果により、吸着能力と製造可能性の両方を充足する製品の成立範囲は、図16に示すように、空隙率70%の下限ラインと空隙率95%の上限ラインの間を占める領域である。空隙率70%の下限ラインの近似式は下記の(式5)で表されることを求め、空隙率95%の上限ラインの近似式は、下記の(式6)で表されることを求めた。
【0069】
(式5)
Rg=0.1732exp(−0.01Mo)ln(L)+3.902exp(−3.43Mo)
(式6)
Rg=6.8×10−5exp(7.4Mo)ln(L)+1.316exp(−0.48Mo)
したがって、吸着器1は、(式3)で定義される空隙率Moが0.7≦Mo≦0.95で、かつ吸着剤充填層厚さL[mm]が0.5≦L≦6の範囲に設定され、
さらに、0.1732exp(−0.01Mo)ln(L)+3.902exp(−3.43Mo)≦Rg≦6.8×10−5exp(7.4Mo)ln(L)+1.316exp(−0.48Mo)の関係式を満たす製品であることが好ましい。
【0070】
このような製品であれば、金属粉重量割合Rgが上記の(式5)の右辺以上に設定されるため、金属粉23b等が熱媒体管21に強固に焼結結合されて、熱媒体管の周辺部22に安定的な多孔質伝熱体を形成することができる。さらに、金属粉重量割合Rgが上記の(式6)の右辺以下に設定されるため、吸着器1が有する吸着能力に対して熱容量を小さく抑えることができる。このため、成績係数COPの向上が期待できる。これらから、吸着能力と製造性を両立する優れた製品性の吸着器1を提供できる。
【0071】
次に、金属粉23bとして銅または銅合金の粉末を用いた場合に焼結体の形成を確保できる条件について、表1、図17及び図18を参照して説明する。本願の発明者は、銅粉を用いた場合に、鋭意研究、実験、調査等の結果、銅粉の粒子径や、かさ密度によって、焼結体が形成できない条件があることの知見を得た。
【0072】
そして、本願の発明者は、使用する銅粉の中位径[μm]、銅粉のかさ密度[g/cc]、吸着剤の中位径[μm]等の物理特性を変更した場合の焼結体形成の可否について、実験による検証を実施した。検証結果は、下記の(表1)に示すとおりである。
【0073】
この検証において銅粉は、電解法またはアトマイズ法によって生成した。電解法では、電気分解により銅粉を製造し、アトマイズ法では、材料を溶解して、ジェット流体を溶湯に吹き付けることによって微粉末化して銅粉を製造する。このようにして製造された銅粉は、球状、樹枝状(デントライト状)を呈するようになる。
【0074】
銅粉の中位径[μm]は、使用する銅粉の粒子径分布における積算分布で50%の粒子径である中位径(メディアン径ともいう)のことである。吸着剤の中位径[μm]は、使用する吸着剤24の粒子径分布における積算分布で50%の粒子径である中位径(メディアン径ともいう)のことである。中位径は、JIS Z 8801に準じた測定法によって粒度分布を測定し、計測された累積分布から50%の粒子径を算出することにより、あるいは、レーザー回折粒度分布測定装置を使用して得られた累積分布から50%の粒子径を算出することにより、求めることができる。
【表1】
【0075】
図17及び図18は、(表1)に示した検証結果を、縦軸を銅粉のかさ密度[g/cc]、横軸を銅粉の中位径を吸着剤の中位径で除した値に設定してプロットしたものである。図17及び図18には、焼結体が形成できない結果は「×」をプロットし、形成できた結果は「○」をプロットしている。
【0076】
図17及び図18において銅粉のかさ密度(縦軸座標)が大きいほど、銅粉は密な状態に設けられ、例えばデントライト状の銅粉の枝状部分が短い状態である。逆に、図17において銅粉のかさ密度(縦軸座標)が小さいほど、銅粉は粗な状態に設けられ、例えばデントライト状の銅粉の枝状部分が長い状態である。また、図17において横軸座標が大きいほど、銅粉が大きい状態である。
【0077】
図17に示す長方形よりも内側は焼結体が形成可能な範囲であり、当該長方形よりも外側は焼結体が形成できない範囲である。すなわち、当該長方形の各辺は、吸着器1における焼結体を製造可能か否かの製造限界ラインまたは製品性能の許容ラインを示している。
【0078】
本願の発明者は本検証により、以下の知見を得た。銅粉の中位径を吸着剤の中位径で除した値が、0.8未満であれば、吸着剤の粒子径に対して銅粉の粒子径が小さく、大きな吸着剤の存在により、焼結結合が適正に行われず、必要な強度をもつ焼結体を形成できない。また、3.5より大きい場合には、吸着剤の粒子径に対して銅粉の粒子径が大きく、銅粉の粒子間から吸着剤24が脱落する現象が起こり、必要量の吸着剤24が充填された多孔質伝熱体が形成できず、十分な吸着能力が得られない。また、銅粉のかさ密度が0.4未満であれば、銅粉形状の一部である枝状部分が長くなるため、吸着剤24が脱落する現象が起こりやすくなり、十分な吸着能力が得られない。また、1.6より大きい場合は、逆に当該枝状部分が短くなるため、吸着剤24が邪魔になり焼結結合を適正に実施できず、必要な強度をもつ焼結体を形成できない。
【0079】
以上の不具合を解消するために、図17に示す結果によれば、焼結体の形成に基づく製品の成立範囲は、縦軸の座標が0.4以上1.6以下で、かつ横軸の座標が0.8以上3.5以下であることが求められた。したがって、
0.8≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦3.5
及び0.4≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.6
の両方の関係式を満たす製品であることが好ましい。
【0080】
このように各パラメータが設定された製品であれば、焼結体形成上及び性能上の不具合を解消することができ、吸着能力及び製品性を両立する優れた製品性の吸着器1を提供できる。
【0081】
さらに図18は図17よりも好ましい焼結の形成状態が得られる製品の成立範囲を示したグラフである。図18によれば、焼結体の形成に基づく製品のより好ましい成立範囲は、縦軸の座標が0.6以上1.5以下で、かつ横軸の座標が0.9以上1.9以下であることがわかる。
したがって、
0.9≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦1.9、
及び0.6≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.5
の両方の関係式を満たす製品であることがさらに好ましい。
【0082】
このように各パラメータが設定された製品であれば、焼結体形成上及び性能上の不具合をより確実に解消することができる吸着器1が得られる。また、焼結体の結合強度をさらに高めることが可能になるため、吸着器1の伝熱性能を一層向上させることにも寄与する。
【0083】
(第2実施形態)
第2実施形態では、他の形態の銅粉を使用した多孔質伝熱体を用いた吸着器について図19〜図22を参照して説明する。第2実施形態において特に説明しない点は、第1実施形態と同様とする。図19は、第2実施形態に係る多孔質媒体に用いられる金属粉の形状を示す模式図である。図20は、第2実施形態の銅粉と図17に示す製品の成立範囲との関係を示したグラフである。図21は、第2実施形態の銅粉について、銅粉の中位径と吸着剤の中位径の比、及び銅粉かさ密度のパラメータに関する製品の成立範囲を示したグラフである。図22は、第2実施形態の銅粉について、銅粉の中位径と吸着剤の中位径の比、及び銅粉かさ密度のパラメータに関するより好ましい製品の成立範囲を示したグラフである。第2実施形態において特に説明しない点は、第1実施形態と同様とする。
【0084】
第2実施形態に係る銅粉は、鱗片状、木の葉状等に形成されている。鱗片状等の銅粉23b1は、例えば図19に示すような形状である。
【0085】
金属粉23b1として銅または銅合金の粉末を用いた場合に焼結体の形成を確保できる条件について、表2、図20〜図22を参照して説明する。本願の発明者は、銅粉を用いた場合に、鋭意研究、実験、調査等の結果、銅粉の粒子径や、かさ密度によって、焼結体が形成できない条件があることの知見を得た。
【0086】
そして、本願の発明者は、使用する銅粉の中位径[μm]、銅粉のかさ密度[g/cc]、吸着剤の中位径[μm]等の物理特性を変更した場合の焼結体形成の可否について、実験による検証を実施した。検証結果は、下記の(表2)に示すとおりである。
【0087】
この検証において使用する銅粉は、上述のアトマイズ法、電解法、粉砕法、化学還元法等によって生成した銅粉に対してさらに潰すという工程を施して作成した。潰す工程は、例えば、アトマイズ法で得られた銅粉をローラ等の部材で押しつぶし、銅粉を薄い片に形成する工程である。
【0088】
銅粉の中位径[μm]、吸着剤の中位径[μm]の定義、中位径の算出方法は、第1実施形態において説明したとおりである。なお、表2、図20〜図22には、鱗片状の銅粉に関するデータの他に樹枝状の銅粉に関するデータを比較のために示している。
【表2】
【0089】
図20〜図22は、(表2)に示した検証結果を、縦軸を銅粉のかさ密度[g/cc]、横軸を銅粉の中位径を吸着剤の中位径で除した値に設定してプロットしたものである。図20〜図22には、焼結体が形成できない結果は「×」をプロットし、形成できた結果は「○」をプロットしている。
【0090】
図20〜図22において銅粉のかさ密度(縦軸座標)が大きいほど、銅粉は密な状態に設けられ、例えばデントライト状の銅粉の枝状部分は短胃状態であり、鱗片状の銅粉は小さい状態である。逆に、図において銅粉のかさ密度(縦軸座標)が小さいほど、銅粉は粗な状態に設けられ、例えばデントライト状の銅粉の枝状部分は長い状態であり、鱗片状の銅粉は大きい状態である。また、図において横軸座標が大きいほど、銅粉が大きい状態である。
【0091】
図20に示す長方形は、第1実施形態で説明した図17に示す長方形である。図20において、鱗片状銅粉のデータは、斜線付き丸で示したように、この長方形の外側領域においても焼結体の形成可能な結果を示している。つまり、鱗片状銅粉を用いる製品の場合は、吸着器1における焼結体を製造可能か否かの製造限界ラインまたは製品性能の許容ラインが当該長方形の各辺よりも外側に存在することが分かる。
【0092】
図21に図示する長方形よりも内側は焼結体が形成可能な範囲であり、当該長方形よりも外側は焼結体が形成できない範囲である。すなわち、当該長方形の各辺は、吸着器1における焼結体を製造可能か否かの製造限界ラインまたは製品性能の許容ラインを示している。このように、鱗片状銅粉の場合は、図20に図示する第1実施形態の樹枝状銅粉の場合と比較して、銅粉の中位径と吸着剤の中位径の比の上限ラインを大きくすることが可能である。
【0093】
本願の発明者は本検証により、以下の知見を得た。鱗片状の銅粉の中位径を吸着剤の中位径で除した値が、0.8未満であれば、吸着剤の粒子径に対して銅粉の粒子径が小さく、大きな吸着剤の存在により、焼結結合が適正に行われず、必要な強度をもつ焼結体を形成できない。また、6.5より大きい場合には、吸着剤の粒子径に対して銅粉の粒子径が大きく、銅粉の粒子間から吸着剤24が脱落する現象が起こり、必要量の吸着剤24が充填された多孔質伝熱体が形成できず、十分な吸着能力が得られない。また、鱗片状の銅粉のかさ密度が0.4未満であれば、鱗片形状が大きくなるため、吸着剤24が脱落する現象が起こりやすくなり、十分な吸着能力が得られないことが考えられる。また、1.6より大きい場合は、逆に鱗片形状が小さくなるため、吸着剤24が邪魔になり焼結結合を適正に実施できず、必要な強度をもつ焼結体を形成できないことが考えられる。
【0094】
以上の不具合を解消するために、図21に示す結果によれば、焼結体の形成に基づく製品の成立範囲は、縦軸の座標が0.4以上1.6以下で、かつ横軸の座標が0.8以上6.5以下であることが求められた。したがって、
0.8≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦6.5
及び0.4≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.6
の両方の関係式を満たす製品であることが好ましい。
【0095】
このように各パラメータが設定された製品であれば、焼結体形成上及び性能上の不具合を解消することができ、吸着能力及び製品性を両立する優れた製品性の吸着器1を提供できる。
【0096】
さらに図22は図21よりも好ましい焼結の形成状態が得られる製品の成立範囲を示したグラフである。図22によれば、焼結体の形成に基づく製品のより好ましい成立範囲は、縦軸の座標が0.6以上1.5以下で、かつ横軸の座標が0.9以上6.0以下であることがわかる。
したがって、
0.9≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦6.0、
及び0.6≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.5
の両方の関係式を満たす製品であることがさらに好ましい。
【0097】
このように上記する各パラメータが設定された製品であれば、焼結体形成上及び性能上の不具合をより確実に解消することができる吸着器1が得られる。また、焼結体の結合強度をさらに高めることが可能になるため、吸着器1の伝熱性能を一層向上させることにも寄与する。
【0098】
(第3実施形態)
本発明に係る吸着器1と同様の特徴は、図23に示す熱交換器100に適用することができる。図23は吸着器1と同様の特徴を有する熱交換器100の概略構造を示す模式的断面図である。以下、第3実施形態に係る熱交換器100について説明する。
【0099】
熱交換器100は、焼結体120に含まれる吸着剤と、第2流路190を通過する熱交換媒体とを熱交換させるものである。焼結体120は、第1実施形態における、熱媒体管の周辺部22に設けられる多孔質伝熱体23及び吸着剤24に相当する。吸着剤が気相の被吸着媒体である水蒸気(第1流体)を吸着する際に、液層の被吸着媒体である水を蒸発させ、その蒸発潜熱によって熱交換媒体(第2流体)は冷却される。また、高温の熱交換媒体によって吸着剤が加熱されると、吸着剤に吸着した水蒸気は吸着剤から脱離される。熱交換器100は、第1流体と第2流体とを熱交換させる熱交換部101、熱交換部101を収容する筐体130、筐体130の開口部を閉塞する蓋部材131、筐体130に接続された流通管150、熱交換部101に接続された流入管160および流出管170を備えている。
【0100】
熱交換部101は、複数の板部材110が積層されて構成されている。板部材110は、円形の金属製の板部材であり、例えば銅で形成される。板部材110には、外周の全周に亘って接合部111が形成されている。接合部111は環状の平面である。
【0101】
第2流路190を形成する部材の外表面112には、金属粉を焼結して形成された焼結体120が全面に亘って接合されている。焼結体120は金属粉と吸着剤とを混合させた混合粉体を焼結したものであり、焼結体120は外表面112と金属的に結合し、外表面112から受熱し、或いは、外表面に放熱する伝熱体である。本実施形態では、焼結体120を形成する金属粉として銅粉が使用されている。
【0102】
焼結体120に含まれる吸着剤は、気体状態の第1流体を吸着、または脱離するものであり、気体状態の水、つまり水蒸気を吸着、または脱離する。吸着剤は、保持される焼結体120に放熱して温度が下降すると気体状態の第1流体を吸着し、焼結体120から受熱して温度が上昇すると気体状態の第1流体を脱離する。
【0103】
一対の板部材110は、互いに底部113を対面させ、外表面112を外側にして積層されて吸着モジュール103を構成している。具体的には、一対の板部材110は、互いに接合部111を当接させて接合して、第1流体が流れる第1流路180と第2流体が流れる第2流路190とを区画している。第2流路190は、接合部111によって第2流体の流通方向の断面において全周に亘って封止されている。焼結体120は、吸着モジュール103の外側に配置されている。
【0104】
吸着モジュール103の内側には、金属性のフィン140が配設され、吸着モジュール103の内表面と金属的に結合している。吸着モジュール103は、互いに外表面112を対面させて複数積層されて熱交換部101を構成している。各吸着モジュール103は、ろう付けにて接合されて一体化されている。各吸着モジュール103の間には、第1流路180が形成されている。第1流路180は、外表面112に接合された焼結体120同士の間に第1流体を焼結体120の全域に亘って流通させるための通路である。
【0105】
複数の吸着モジュール103を積層することで構成される熱交換部101は、コア部102、分配タンク104及び集合タンク105を有している。コア部102は、第2流体の熱を底部113の外表面112及び焼結体120を介して吸着剤に伝熱させて吸着剤の温度を上昇させる、または吸着剤の熱を焼結体120及び底部113の外表面112を介して第2流体に伝熱させて吸着剤の温度を下げる機能を有する。
【0106】
分配タンク104には、第2流体を熱交換部101に供給する管部材である流入管160が板部材110の積層方向に延出して接続されている。分配タンク104は、流入管160から流入する第2流体をコア部102に形成された第2流路190に分配している。集合タンク105には、第2流体を熱交換部101から吐出する管部材である流出管170が板部材110の積層方向であって流入管160が延出する方向と同一方向に延出して接続されている。集合タンク105は、コア部102に形成された第2流路190から第2流体を集合させて流出管170から流出させている。
【0107】
流入管160から流入した第2流体は、分配タンク104で複数の第2流路190に分配される。複数の第2流路190を通過した第2流体は集合タンク105において集合し、流出管170から流出する。第2流体が通過する第2流路190は、接合部111によって封止された板部材110同士の間に形成される。熱交換部101は、コア部102における複数の流路に分割された第2流路190を流通する第2流体とコア部102における第1流路180を流通する第1流体との間で熱交換させる。筐体130は、熱交換部101を内部に収容する有底の箱部材である。筐体130の底面は円形である。筐体130の内面は、熱交換部101に接触しておらず、筐体130の内面と熱交換部101の間には、第1流体が流通する流通空間181が形成されている。
【0108】
蓋部材131は、平面形状の板部材であり、筐体130のフランジ状に形成された開口部に接合されて、筐体130の開口部を閉塞している。蓋部材131は、蓋部材131を貫通する流通管150、流入管160及び流出管170を固定している。蓋部材131は、流入管160及び流出管170を介して熱交換部101を保持している。
【0109】
流通管150は、筐体130内の流通空間181と、第1流体が液体状態で貯留された貯留タンク(図示せず)とを連通する管部材である。気体状態の第1流体は、筐体130内と貯留タンクの間を流通管150を介して流通している。蓋部材131は筐体130の開口部を閉塞して、筐体130内における第1流路180をほぼ真空状態にしている。
【0110】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0111】
上記の第1実施形態では、図1に示すように水蒸気通路25を3つの熱媒体管21で囲まれる領域に配置するようにしているが、この形態に限定するものではなく、例えば、図24の吸着器1の第1変形例を示す模式的断面図のように、4つの熱媒体管21で囲まれる領域に配置するようにしてもよい。また、水蒸気通路25は5つ以上の熱媒体管21で囲まれる領域に配置するようにしてもよい。
【0112】
水蒸気通路25の断面形状は、周辺部22に形成されて流体が流通可能な通路であればよく、例えば図25に示すように、円筒状の熱媒体管21を千鳥状に配置した場合の隣り合う周辺部22間に形成される隙間通路であってもよい。図25は、第2変形例の吸着器を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0113】
1…吸着器
21…熱媒体管
22…熱媒体管の周辺部
23…多孔質伝熱体
23a…細孔
23b…金属粉、銅粉
24…吸着剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換媒体が流れる複数の熱媒体管(21)を有し、前記熱媒体管(21)の周辺部(22)に細孔(23a)が形成される多孔質伝熱体(23)及び吸着剤(24)を設けてなる吸着器(1)であって、
前記多孔質伝熱体(23)は金属粉(23b)を焼結によって前記熱媒体管(21)に金属結合して形成され、前記細孔(23a)内には前記吸着剤(24)が充填されており、
前記多孔質伝熱体(23)と前記熱媒体管(21)の間に形成される間隙と、前記細孔(23a)とを含む空隙部を備え、
前記熱媒体管(21)の周辺部(22)に前記吸着剤(24)が充填されて形成される吸着剤充填層の厚さL[mm]は、0.5≦L≦6の範囲に設定され、
前記周辺部(22)に充填された前記金属粉(23b)の重量をMg[kg]、前記吸着剤の重量をMa[kg]、前記金属粉(23b)が充填されている前記周辺部(22)の充填容積をFv[m3]、及び前記金属粉(23b)の密度をρ[kg/m3]とすると、前記空隙部の空隙率Moは、Mo=1−(Mg/(Fv×ρ))で表されるとともに、
0.7≦Mo≦0.95の範囲に設定され、金属粉の重量割合Rgは、Rg=Mg/(Mg+Ma)で表され、
さらに、0.1732exp(−0.01Mo)ln(L)+3.902exp(−3.43Mo)≦Rg≦6.8×10−5exp(7.4Mo)ln(L)+1.316exp(−0.48Mo)
の関係式を満たすことを特徴とする吸着器。
【請求項2】
前記金属粉(23b)は銅または銅合金から形成される粉末であることを特徴とする請求項1に記載の吸着器。
【請求項3】
前記銅または前記銅合金から形成される金属粉、前記吸着剤のそれぞれについて、粒子径分布における積算分布で50%の粒子径である中位径を銅粉の中位径、吸着剤の中位径とし、
前記吸着剤を混合させて前記熱媒体管(21)に、電解法またはアトマイズ法によって生成された前記銅粉を焼結結合させる場合は、
0.8≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦3.5
及び、0.4≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.6
を満たすことを特徴とする請求項2に記載の吸着器。
【請求項4】
さらに、0.9≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦1.9
及び、0.6≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.5
を満たすことを特徴とする請求項3に記載の吸着器。
【請求項5】
前記銅または前記銅合金から形成される金属粉、前記吸着剤のそれぞれについて、粒子径分布における積算分布で50%の粒子径である中位径を銅粉の中位径、吸着剤の中位径とし、
アトマイズ法、電解法、粉砕法、化学還元法によって生成された前記銅粉をさらに潰したものを、前記吸着剤を混合させて前記熱媒体管(21)に焼結結合させる場合は、
0.8≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦6.5
及び、0.4≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.6
を満たすことを特徴とする請求項2に記載の吸着器。
【請求項6】
さらに、1.9≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦6.0
及び、0.6≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.5
を満たすことを特徴とする請求項5に記載の吸着器。
【請求項1】
熱交換媒体が流れる複数の熱媒体管(21)を有し、前記熱媒体管(21)の周辺部(22)に細孔(23a)が形成される多孔質伝熱体(23)及び吸着剤(24)を設けてなる吸着器(1)であって、
前記多孔質伝熱体(23)は金属粉(23b)を焼結によって前記熱媒体管(21)に金属結合して形成され、前記細孔(23a)内には前記吸着剤(24)が充填されており、
前記多孔質伝熱体(23)と前記熱媒体管(21)の間に形成される間隙と、前記細孔(23a)とを含む空隙部を備え、
前記熱媒体管(21)の周辺部(22)に前記吸着剤(24)が充填されて形成される吸着剤充填層の厚さL[mm]は、0.5≦L≦6の範囲に設定され、
前記周辺部(22)に充填された前記金属粉(23b)の重量をMg[kg]、前記吸着剤の重量をMa[kg]、前記金属粉(23b)が充填されている前記周辺部(22)の充填容積をFv[m3]、及び前記金属粉(23b)の密度をρ[kg/m3]とすると、前記空隙部の空隙率Moは、Mo=1−(Mg/(Fv×ρ))で表されるとともに、
0.7≦Mo≦0.95の範囲に設定され、金属粉の重量割合Rgは、Rg=Mg/(Mg+Ma)で表され、
さらに、0.1732exp(−0.01Mo)ln(L)+3.902exp(−3.43Mo)≦Rg≦6.8×10−5exp(7.4Mo)ln(L)+1.316exp(−0.48Mo)
の関係式を満たすことを特徴とする吸着器。
【請求項2】
前記金属粉(23b)は銅または銅合金から形成される粉末であることを特徴とする請求項1に記載の吸着器。
【請求項3】
前記銅または前記銅合金から形成される金属粉、前記吸着剤のそれぞれについて、粒子径分布における積算分布で50%の粒子径である中位径を銅粉の中位径、吸着剤の中位径とし、
前記吸着剤を混合させて前記熱媒体管(21)に、電解法またはアトマイズ法によって生成された前記銅粉を焼結結合させる場合は、
0.8≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦3.5
及び、0.4≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.6
を満たすことを特徴とする請求項2に記載の吸着器。
【請求項4】
さらに、0.9≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦1.9
及び、0.6≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.5
を満たすことを特徴とする請求項3に記載の吸着器。
【請求項5】
前記銅または前記銅合金から形成される金属粉、前記吸着剤のそれぞれについて、粒子径分布における積算分布で50%の粒子径である中位径を銅粉の中位径、吸着剤の中位径とし、
アトマイズ法、電解法、粉砕法、化学還元法によって生成された前記銅粉をさらに潰したものを、前記吸着剤を混合させて前記熱媒体管(21)に焼結結合させる場合は、
0.8≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦6.5
及び、0.4≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.6
を満たすことを特徴とする請求項2に記載の吸着器。
【請求項6】
さらに、1.9≦(銅粉の中位径)/(吸着剤の中位径)≦6.0
及び、0.6≦銅粉のかさ密度[g/cc]≦1.5
を満たすことを特徴とする請求項5に記載の吸着器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2012−122711(P2012−122711A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53375(P2011−53375)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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