説明

吸着材およびその製造方法

【課題】難水溶性の揮発性化学物質でも効率的に吸着することができるシリカ・アルミナ主体の吸着材と、そのような吸着材の製造方法とを提供する。
【解決手段】本発明の吸着材は、次の3つの工程を経て製造される。即ち、1)炭素成分を含有する鋳物廃砂にリン酸カルシウム化合物および分散媒を混合して原料混合物を調製する混合工程、2)前記原料混合物を成形および乾燥して所望形状の成形体とする成形工程、3)前記成形体を還元雰囲気中で焼成して炭素含有の焼成物を得る焼成工程。これら一連の工程によれば、炭素成分の消失を防ぎつつ吸着活性に優れた炭素含有の焼成物としての吸着材を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱臭材その他の用途に使用可能な吸着材と、その製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排ガスまたは排水中の悪臭成分や有害物質(これらを「被処理物質」と呼ぶ)を吸着し、被処理物質を有機物分解性の微生物によって生物学的に分解処理することで、排ガス等を無臭化または無害化する技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示の「脱臭材、脱臭材の製造方法および脱臭方法」では、鋳物砂に由来する多孔質シリカ・アルミナ担体にリン酸カルシウム化合物(例えば骨成分由来のヒドロキシアパタイト)を散在させて脱臭材を構成している。リン酸成分を担持し脱臭材からのリン酸成分の溶出を規制することで、脱臭材での微生物の付着性および繁殖性を向上させ、脱臭性能の長期持続を実現している。特許文献1によれば、かかる脱臭材は、鋳物砂、リン酸カルシウム化合物および水を混合した原料を粒状に成形(造粒)し、この成形物を通常の酸化雰囲気中で焼成することにより得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−116421号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の脱臭材は、リン酸成分を多孔質体中に単に含浸させただけのもの(特許文献1の従来技術)に比べて生息微生物数の増加が観察され、持続的な脱臭性能の向上がみられたものの、即効的な脱臭性能は必ずしも十分であるとは言い難いものであった。その原因として、生物学的処理の前提となる悪臭成分や有害物質(被処理物質)の吸着・保持が不十分で、実際に生物学的処理に供される被処理物質の絶対量、つまり微生物に取り込まれる被処理物質の量が少ないことがあげられる。とりわけ、被処理物質がトルエンのような難水溶性の揮発性有機化合物(VOC)の場合には、特許文献1の脱臭材による脱臭効果が低くなってしまうおそれがある。被処理物質が揮発性で且つ難水溶性であることで、かかる被処理物質が微生物に取り込まれる機会が大幅に失われているためと考えられる。
【0006】
本発明の目的は、難水溶性の揮発性化学物質でも効率的に吸着することができるシリカ・アルミナ主体の吸着材と、そのような吸着材の製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、炭素成分を含有する鋳物廃砂に分散媒を混合して原料混合物を調製する混合工程(又は、炭素成分を含有する鋳物廃砂にリン酸カルシウム化合物および分散媒を混合して原料混合物を調製する混合工程)と、前記原料混合物を成形および乾燥して所望形状の成形体とする成形工程と、前記成形体を還元雰囲気中で焼成して炭素含有の焼成物を得る焼成工程とを順に実施することを特徴とする吸着材の製造方法である。
【0008】
また、本発明は、炭素成分を含有する鋳物廃砂に分散媒を混合して原料混合物を調製し(又は、炭素成分を含有する鋳物廃砂にリン酸カルシウム化合物および分散媒を混合して原料混合物を調製し)、この原料混合物を成形および乾燥して所望形状の成形体とし、この成形体を還元雰囲気中で焼成することで炭素含有の焼成物として得られることを特徴とする吸着材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、炭素成分を含有する鋳物廃砂をシリカ・アルミナの供給源として利用すると共に、かかる鋳物廃砂を主原料とした成形体を還元雰囲気中で焼成することにより、炭素成分の消失を防ぎつつ吸着活性に優れた炭素含有の焼成物としての吸着材を得ることができる。かかる吸着材は、難水溶性(疎水性)の揮発性化学物質でも効率的に吸着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)〜(c)は、成形体(又は吸着材)の形状例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、吸着材及びその製造方法に関するものであるが、これら物の発明及び方法発明に共通した要点は、炭素成分を含有する鋳物廃砂を主原料として使用すること、及び、成形体の焼成は還元雰囲気(非酸化雰囲気)中で行うことにある。即ち、本発明は、
炭素成分を含有する鋳物廃砂に分散媒を混合して原料混合物を調製する混合工程、
前記原料混合物を成形および乾燥して所望形状の成形体とする成形工程、および、
前記成形体を還元雰囲気中で焼成して炭素含有の焼成物を得る焼成工程
の少なくとも3工程を備えている。
【0012】
主原料たる「鋳物廃砂」とは、少なくとも1回砂型造型及び鋳造に使用されたことがある鋳物砂をいい、この鋳物廃砂には、使用済み砂型をばらして得られる砂だけでなく、砂型の解体作業を行う鋳物工場に設置された集塵機で集められた集塵ダストも含まれる。砂型をばらして得られた砂も、集塵ダストも、「使用済みの鋳造用砂型から廃棄物として回収された鋳物廃砂」であることに変わりはない。一般に、鋳物工場で発生する鋳物廃砂には、約1割から約3割程度の炭素成分(例えばコークスなどの石炭粉)が含まれる。なお、集塵ダストは、その平均粒径が1〜200μm程度、より好ましくは3〜50μm程度と比較的小さいことから、鋳物廃砂として用いることが好ましい。
【0013】
原料混合物を調製する際の分散媒としては、例えば水を使用できる。この分散媒は、鋳物廃砂をペースト状又はスラリー状にすることができると共に、成形工程で成形体を乾燥する際に概ね蒸発させることができるものであれば、水に限られない。
【0014】
また、原料混合物の調製に際しては、分散媒と共にリン酸カルシウム化合物を併用することができる。リン酸カルシウム化合物を併用した場合、本発明の吸着材は、特許文献1(特開2006−116421号)に開示されているような生物学的脱臭用の脱臭材として極めて適したものとなる。すなわち、リン酸カルシウム化合物は水溶性が小さく、吸着材(脱臭材)に接触している水分中にリン成分が少しずつ溶出するため、吸着材表面及びその周辺部が微生物にとって快適な栄養環境となると共に、この快適な栄養環境を長期にわたって維持することが可能となる。また、リン酸カルシウム化合物は、微生物との親和性が高いため、吸着材表面に対する微生物の担持性や付着性が向上する。これにより、吸着材(脱臭材)における単位面積当りの微生物の担持密度や付着密度が高められることにつながり、全体として脱臭性能を向上させることができる。
【0015】
なお、リン酸カルシウム化合物としては、リン酸カルシウム〔Ca(PO〕、ヒドロキシアパタイト〔Ca10(PO(OH)〕、リン酸一水素カルシウム(CaHPO)、リン酸二水素カルシウム〔Ca(HPO〕、ピロリン酸カルシウム(Ca)、メタリン酸カルシウム〔Ca(PO〕、フッ素アパタイト〔Ca10(PO〕、リン酸4カルシウム(Ca)、Ca不足ヒドロキシアパタイト〔Ca10-X2X(PO(OH)〕等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。また、リン酸カルシウム化合物のうち、リン酸カルシウム化合物として1種をそれぞれ単独で用いるようにしてもよいし、2種以上を併用するようにしてもよい。ここで一例を挙げると、ヒドロキシアパタイトとして、生物の骨成分を用いてもよい。なお、上述したリン酸カルシウム化合物として例示したものは全て難水溶性である。この場合の難水溶性とは、溶解度が0.1g/100g以下であることをいう。
【0016】
また、原料混合物の調製に際しては、分散媒と共に有機バインダーを併用しても良い。有機バインダーとしては、例えばメチルセルロースがあげられる。有機バインダーの使用は、成形工程における成形体の成形性向上に役立つ。
【0017】
原料混合物調製時の配合割合は適宜定め得るが、例えば鋳物廃砂100重量部に対し、分散媒を5〜50重量部、リン酸カルシウム化合物については5〜30重量部、有機バインダーについては0.5〜10重量部、程度を配合することが好ましい。なお、混合工程では、混練機を使用することができる。
【0018】
混合工程で調製された原料混合物は、成形および乾燥されて所望形状の成形体とされる(成形工程)。成形体の形状は、吸着材の使用目的に応じて任意に定め得るが、例えば、図1(a)に示すようなハニカム体、図1(b)に示すような4つの貫通孔付き四角柱状のラシヒリング、図1(c)に示すような1つの貫通孔付き円柱状のラシヒリング、粒状体、ひも状または短柱状のペレット等があげられる。
【0019】
焼成工程では、成形体は還元雰囲気中で焼成される。「還元雰囲気」とは、非酸化雰囲気、つまり酸素が存在しないか、酸素が存在したとしてもその酸化作用が阻害又は抑制されるような雰囲気を意味する。このような還元雰囲気の具体例または具体的醸成方法としては、雰囲気全体を窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで満たすこと、成形体の周囲に活性炭等の酸素補足剤を配置して成形体の表面が直接酸素に触れないようにすること等があげられる。
【0020】
焼成時の加熱温度は、原料混合物の組合せや配合組成、成形体のサイズ、吸着材として必要とされる強度等に応じて適宜変更できる。一般的には、加熱温度の下限値としては、600℃、650℃、700℃、750℃を例示でき、加熱温度の上限値としては、950℃、900℃、850℃等を例示できる。従って、加熱温度は、例えば600〜950℃、650〜900℃、700〜850℃を採用することができるが、これらの加熱温度に特に限定されるものではない。なお、加熱時間は、加熱温度、成形体のサイズ、吸着材に必要とされる硬度等に応じて選択されるが、例えば10分間〜10時間、20分間〜5時間、1〜2時間に設定することができる。但し、これらの加熱時間に特に限定されるものではない。
【0021】
上記一連の工程(混合工程、成形工程、焼成工程)を経て、炭素含有の焼成物である吸着材が得られる。なお、この吸着材は、鋳物廃砂を主原料とすることから、シリカ及びアルミナを主成分として形成されている。また、シリカ及びアルミナ以外の成分として、鉄酸化物、マグネシウム酸化物、マンガン酸化物、ナトリウム酸化物、カリウム酸化物等の少なくとも1種の成分が含まれてもよい。
【0022】
以上説明したように本発明によれば、炭素成分を含有する鋳物廃砂をシリカ・アルミナの供給源として利用すると共に、かかる鋳物廃砂を主原料とした成形体を還元雰囲気中で焼成することで、焼成物からの炭素成分の消失を防ぐことができる。それ故、本発明の吸着材は、吸着活性に優れた炭素含有の焼成物として得られ、その結果、難水溶性(疎水性)の揮発性化学物質であっても効率的に吸着することができるという優れた効果を奏する。
【0023】
また、吸着材の製造に際し、鋳物廃砂と共にリン酸カルシウム化合物を併用した場合には、被処理物質(悪臭成分や有害物質)の吸着性向上のみならず、微生物の付着性および繁殖性をも向上させて脱臭性能(生物学的分解処理)の長期持続が図られる。つまり、微生物の馴致期間や環境変化等によって微生物の活性が一時的に低下するような場合でも、吸着性の高い脱臭材(吸着材)自体が、微生物活性が復活するまでの間、被処理物質を保持し続けることができるため、脱臭性能の長期的持続を達成することができる。
【実施例】
【0024】
本発明の実施例1及び2並びに比較例1及び2について説明する。なお、以下の実施例及び比較例において使用した原料は次のとおりである。
(1)鋳物廃砂
原料としての鋳物廃砂は、鋳物工場の集塵機で採取されたダスト廃棄物としての鋳物廃砂(集塵ダスト)である。この鋳物廃砂はシリカ及びアルミナを主成分とし、他に酸化鉄等の金属酸化物を含有すると共に、炭素質粉末粒子等の有機物質なども含有する。より具体的には、シリカ(SiO)を52.9質量%、アルミナ(Al)を15.5質量%、酸化鉄(Fe)を5.17質量%、酸化マグネシウム(MgO)を2.77質量%、酸化カルシウム(CaO)を2.05質量%、酸化マンガン(MnO)を0.076質量%、酸化ナトリウム(NaO)を1.70質量%、酸化カリウム(KO)を0.478質量%、硫黄(S)を0.228質量%、リン(P)を0.029質量%、炭素成分等に由来するIL(IgnitionLoss)を18.5質量%含む鋳物廃砂を使用した。
(2)骨リン酸カルシウム
原料としての骨リン酸カルシウムは、牛の骨の粉砕物から得た粉末状のリン酸カルシウム成分であって、ヒドロキシアパタイトを主成分とするものである。
【0025】
[実施例1]
105℃で2時間加熱乾燥した鋳物廃砂100gに骨リン酸カルシウム20gを添加して混合し、これに50mlの水を段階的に加え水分が均一分散するまで混練した。この混練物を陶芸用の注射器型成形器(いわゆる陶芸用クレイガン)に充填し、この成形器から押し出して、太さ4mm×長さ約15mmの短柱状ペレットを多数成形した。そして、これらのペレットを自然乾燥した後、還元性雰囲気の中で焼成した。
還元焼成に際しては、容積50mlの耐熱性容器にその容積の半分ほどのペレットを入れ、その上から活性炭を入れて耐熱性容器の残り半分の容積を活性炭で満たし、ペレットを活性炭中に埋没させた。この耐熱性容器に蓋をして閉蓋状態とすると共に、これを電気炉に移して800℃で2時間加熱した。耐熱性容器内の残存酸素は活性炭に捕捉されると共に熱によって炭化(酸化炭素化)されるため、耐熱性容器内のペレットは非酸化雰囲気での焼成(還元焼成)を受けることになる。かかる焼成の後、多数のペレット状焼成物を得た。これらの焼成物の外観は黒色を呈していた。外観が黒色であることは、後記比較例1との対比において実施例1のペレット状焼成物が焼成時に酸化を受けなかったことの何よりの証左となる。なお、自然乾燥後で還元焼成前の短柱状ペレットの重量を1としたときの実施例1のペレット状焼成物の重量比を表1に示す。また、実施例1のペレット状焼成物を蛍光X線分析した結果を表2に示す。
【0026】
[比較例1]
比較例1は、実施例1における還元焼成を通常の酸化焼成に置換したものに相当する。即ち比較例1では、実施例1と全く同じ手順で短柱状ペレットの成形及び自然乾燥を行った。そして、乾燥後のペレットを酸化性雰囲気の中で焼成した。
酸化焼成に際しては、容積50mlの耐熱性容器にその容積の半分ほどのペレットを入れ、蓋をせずに開放状態とした。この耐熱性容器を電気炉に移して実施例1と同様に800℃で2時間加熱することで、多数のペレット状焼成物を得た。これらの焼成物の外観は、煉瓦色の焼き色が付いたものであった。外観が煉瓦色であることは、前記実施例1との対比において比較例1のペレット状焼成物が焼成時に酸化を受けたことの何よりの証左となる。なお、自然乾燥後で還元焼成前の短柱状ペレットの重量を1としたときの比較例1のペレット状焼成物の重量比を表1に示す。また、比較例1のペレット状焼成物を蛍光X線分析した結果を表2に示す。
【0027】
[トルエン吸着試験]
実施例1および比較例1のペレット状焼成物について、VOCであるトルエンの吸着性能を測るため、次のような試験を行った。具体的には、しぼんだ状態のガス分析用サンプリングバッグ(いわゆるテドラーバッグ)(膨張時の最大容積3リットル)に試料(ペレット状焼成物)5gを入れ、続いて5000ppmのトルエン・空気混合ガスを3リットル充填し、密封状態で75分間放置した。その後、サンプリングバッグ内の残留ガスをシリンジでサンプリングし、ガスクロマトグラフでトルエン濃度を測定した。なお、ブランク試験として、サンプリングバッグ中に試料を入れることなく5000ppmのトルエン・空気混合ガス3リットルだけを充填し、75分間放置した場合についても測定した。そして、ブランク試験での75分後のトルエン濃度と、試料入りバッグでの75分後のトルエン濃度との差に基づいてトルエン吸着量(試料1gあたりのトルエン吸着mg数)を計算した。この吸着試験における実施例1および比較例1の測定結果を表3に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
[実施例1についての考察]
実施例1のトルエン吸着量が5.1mg/gであるのに対し、比較例1のトルエン吸着量は1.7mg/gに過ぎなかった。両者の比較から、通常の酸化焼成よりも還元焼成した方がトルエン吸着量に優れることがわかる。還元焼成の方がトルエン吸着性が良好である理由としては、還元焼成ゆえに焼成時に炭素分が焼失せず、焼成物内に残留する炭素分が吸着性を発揮するためと考えられる。表1の結果は、還元焼成による実施例1の方が酸化焼成による比較例1よりも焼成による重量減が少ないことを示しており、この結果は、還元焼成では炭素分があまり失われないことを示唆している。また、表2の結果は、実施例1の焼成物の方が比較例1の焼成物よりも炭素分含有量が多いこと示している。表1及び表2の結果はいずれも、「還元焼成では炭素分があまり失われず、焼成物内に残留する炭素分が吸着性を高める」との上記推察を裏付けるものと言える。
【0032】
[実施例2]
105℃で2時間加熱乾燥した鋳物廃砂100gに骨リン酸カルシウム20gを添加して混合した。成型性を高めるために、この混合物を粉砕処理すると共にこの混合物120gに対し有機バインダーとしてのメチルセルロース3gと水50mlを添加し混練した。この混練物を押出成型器にて、図1(a)に示すような縦50mm×横50mm×高さ50mmの立方状のハニカム体に成形した。このハニカム成形体の各セルは縦2mm×横2mmの正方形断面を有し、該ハニカム成形体には、縦18個×横18個=合計324のセルが配列されている。そして、このハニカム成形体を自然乾燥した後、還元性雰囲気の中で焼成した。
還元焼成に際しては、焼成用の耐熱性容器内でハニカム成形体を活性炭中に埋没させ、この耐熱性容器に蓋をして閉蓋状態とすると共に、これを電気炉に移して800℃で2時間加熱した。実施例1と同様、耐熱性容器内の残存酸素は活性炭に捕捉されると共に熱によって炭化(酸化炭素化)されるため、ハニカム成形体は非酸化雰囲気での焼成(還元焼成)を受けることになる。こうして、ハニカム形状の焼成物を得た。
【0033】
[比較例2]
比較例2は、実施例2における還元焼成を通常の酸化焼成に置換したものに相当する。即ち比較例2では、実施例2と全く同じ手順でハニカム体の成形及び自然乾燥を行った。そして、乾燥後のハニカム成形体を酸化性雰囲気の中で焼成した。
酸化焼成に際しては、実施例2で使用したのと同じ焼成用の耐熱性容器にハニカム成形体を入れ、蓋をせずに開放状態とした。この耐熱性容器を電気炉に移して実施例2と同様に800℃で2時間加熱することで、ハニカム形状の焼成物を得た。
【0034】
[接着剤VOC吸着試験]
実施例2および比較例2のハニカム状焼成物について、市販の接着剤からのVOC成分であるメチルエチルケトン(MEK)及びイソプロピルアルコール(IPA)の吸着性能を測定した。具体的には、第1のガス分析用サンプリングバッグ(いわゆるテドラーバッグ)中に空気3リットルと、塩ビパイプ用接着剤(三菱樹脂株式会社商品:ヒシボンド)10gとを入れ、室温で1時間放置してバッグ中にVOC成分を揮発充満させた。次に、しぼんだ状態の第2のサンプリングバッグ(膨張時の最大容積3リットル)にハニカム状焼成物から切り取った断片1gを試料として入れ、続いて前記第1のサンプリングバッグからのガス3リットルを充填し、密封状態で3時間放置した。その後、第2のサンプリングバッグ内の残留ガスをシリンジでサンプリングし、ガスクロマトグラフで各VOC成分の濃度を測定した。なお、ブランク試験として、第2のサンプリングバッグ中に試料を入れることなく、第1のサンプリングバッグからのガス3リットルを充填し、3時間放置した場合についても測定した。そして、ブランク試験での3時間後のVOC濃度と、試料入りバッグでの3時間後のVOC濃度との差に基づいてVOC吸着量(試料1gあたりのVOC吸着mg数)を計算した。接着剤VOC吸着試験における実施例2および比較例2の測定結果を表4に示す。
【0035】
[塗料VOC吸着試験]
実施例2および比較例2のハニカム状焼成物について、市販の塗料からのVOC成分であるキシレン、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸ブチル(BuAc)及びイソプロピルアルコール(IPA)の吸着性能を測定した。具体的には、第1のガス分析用サンプリングバッグ(いわゆるテドラーバッグ)中に空気3リットルと、有機溶剤系塗料(商品名:プライコート1300−1)10gとを入れ、室温で1時間放置してバッグ中にVOC成分を揮発充満させた。次に、しぼんだ状態の第2のサンプリングバッグ(膨張時の最大容積3リットル)にハニカム状焼成物から切り取った断片1gを試料として入れ、続いて前記第1のサンプリングバッグからのガス3リットルを充填し、密封状態で3時間放置した。その後、第2のサンプリングバッグ内の残留ガスをシリンジでサンプリングし、ガスクロマトグラフで各VOC成分の濃度を測定した。なお、ブランク試験として、第2のサンプリングバッグ中に試料を入れることなく、第1のサンプリングバッグからのガス3リットルを充填し、3時間放置した場合についても測定した。そして、ブランク試験での3時間後のVOC濃度と、試料入りバッグでの3時間後のVOC濃度との差に基づいてVOC吸着量(試料1gあたりのVOC吸着mg数)を計算した。塗料VOC吸着試験における実施例2および比較例2の測定結果を表5に示す。
【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
[実施例2についての考察]
表4および表5に示すように、通常の酸化焼成で作った比較例2の焼成物に比べ、還元焼成で作った実施例2の焼成物の方が、各種VOCの吸着性能が軒並み高くなっている。この結果は実施例1の結果と符合するものである。なお、塗料VOC吸着試験でのIPAの吸着量については、実施例2と比較例2とで顕著な差が見られない(表5参照)。その原因として、鋳物廃砂に含まれた残留炭素に由来する吸着活性点は、親水性よりも疎水性の方が優位であることが考えられる。つまり、キシレン、トルエン等の疎水性(難水溶性)VOCがある中においてIPAのような親水性(易水溶性)VOCが共存する場合には、疎水性(難水溶性)VOCの吸着が優先される一方で親水性(易水溶性)VOCの吸着が後回しにされ、その結果、親水性(易水溶性)VOCのための吸着活性点が相対的に少なくなるためと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の吸着材は、気相または液相中の悪臭成分や有害物質を吸着すべく様々な用途に使用可能であるが、とりわけ、生物学的脱臭に用いられる微生物の保持用担体(生物学的脱臭用の脱臭材)として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素成分を含有する鋳物廃砂に分散媒を混合して原料混合物を調製する混合工程と、
前記原料混合物を成形および乾燥して所望形状の成形体とする成形工程と、
前記成形体を還元雰囲気中で焼成して炭素含有の焼成物を得る焼成工程と
を順に実施することを特徴とする吸着材の製造方法。
【請求項2】
炭素成分を含有する鋳物廃砂にリン酸カルシウム化合物および分散媒を混合して原料混合物を調製する混合工程と、
前記原料混合物を成形および乾燥して所望形状の成形体とする成形工程と、
前記成形体を還元雰囲気中で焼成して炭素含有の焼成物を得る焼成工程と
を順に実施することを特徴とする吸着材の製造方法。
【請求項3】
炭素成分を含有する鋳物廃砂に分散媒を混合して原料混合物を調製し、この原料混合物を成形および乾燥して所望形状の成形体とし、この成形体を還元雰囲気中で焼成することで、炭素含有の焼成物として得られることを特徴とする吸着材。
【請求項4】
炭素成分を含有する鋳物廃砂にリン酸カルシウム化合物および分散媒を混合して原料混合物を調製し、この原料混合物を成形および乾燥して所望形状の成形体とし、この成形体を還元雰囲気中で焼成することで、炭素含有の焼成物として得られることを特徴とする吸着材。

【図1】
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【公開番号】特開2011−92808(P2011−92808A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246219(P2009−246219)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】