吸着熱交換器
【課題】水蒸気通路25の出入口付近での流路抵抗を低減して性能を向上させる。
【解決手段】ケース3の内部は、吸着剤充填層22が形成される第1の領域A1と、吸着剤充填層22が形成されない第2の領域A2とを構成しており、水蒸気通路25Aは第2の領域A2から吸着剤充填層22の内部に向けて形成されているとともに、水蒸気通路25Aは、内部側の通路面積に対して第2の領域A2に開口した出入口側の通路面積を広く形成している。
これによれば、水蒸気流量の多い水蒸気通路25Aの出入口付近での流路抵抗を低減することができる。これは、例えば、各水蒸気通路25A内側面積や吸着剤の総量がストレート形状のときと変わらないようにして通路形状を口広がりに形成したとすれば、被吸着媒体が水蒸気通路25Aの内部までスムーズに出入りできるようになった分だけ性能を向上させることができる。
【解決手段】ケース3の内部は、吸着剤充填層22が形成される第1の領域A1と、吸着剤充填層22が形成されない第2の領域A2とを構成しており、水蒸気通路25Aは第2の領域A2から吸着剤充填層22の内部に向けて形成されているとともに、水蒸気通路25Aは、内部側の通路面積に対して第2の領域A2に開口した出入口側の通路面積を広く形成している。
これによれば、水蒸気流量の多い水蒸気通路25Aの出入口付近での流路抵抗を低減することができる。これは、例えば、各水蒸気通路25A内側面積や吸着剤の総量がストレート形状のときと変わらないようにして通路形状を口広がりに形成したとすれば、被吸着媒体が水蒸気通路25Aの内部までスムーズに出入りできるようになった分だけ性能を向上させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着剤が液相と気相の間で相変化する被吸着媒体の脱着を通じて熱交換作用を行う吸着熱交換器に関するものであり、例えば、吸着剤が気相の被吸着媒体を吸着する作用を用いて被吸着媒体を蒸発させ、その蒸発潜熱によって冷凍能力を発揮する吸着式の冷凍装置などに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、銅粉と吸着剤とを混合した混合粉中に伝熱管を配置し、銅粉を焼結して伝熱フィンとするとともに、この伝熱フィンと伝熱管とを接合させる吸着剤付き熱交換器が示されている。これによれば、銅粉の焼結体を伝熱フィンとすることで、この伝熱フィン内に充填された吸着剤との接触面積が増えて伝熱特性が向上するとともに、伝熱フィンと伝熱管との伝熱特性も向上させている。
【特許文献1】特開平4−148194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
発明者らは、被吸着媒体の拡散抵抗を低減するため、吸着剤充填層の内部に被吸着媒体通路を設けて、伝熱特性の向上と被吸着媒体の拡散抵抗低減とが両立する吸着モジュールを考案して出願している。図9は、本発明の前提となる吸着モジュール2の端面図であり、図10は、図9中のX−X断面図である。
【0004】
吸着モジュール2は、図9および図10に示すように、熱交換媒体(本実施形態では温水、よって以下は温水で記す)が流れる複数の温水パイプ(熱媒体管)21と、そのそれぞれの温水パイプ21の外面と結合するようにして形成された吸着剤充填層22とを有している。
【0005】
また、温水パイプ21の間の吸着剤充填層22には、被吸着媒体(本実施形態では水蒸気、よって以下は水蒸気で記す)が流れる水蒸気通路(被吸着媒体通路)25が形成されている。図11は、図9の部分拡大図であり、図12は、図11中の吸着剤充填層22を示す模式的断面図である。
【0006】
図12に示すように、吸着剤充填層22は、粉末状、粒子状もしくは繊維状の金属粉23bに吸着剤24を充填して焼結することにより、各温水パイプ21の外面と結合させて形成されたものである。本実施形態では多孔質焼結フィン(多孔質伝熱体)23として、熱伝導性に優れる繊維状の金属を用いており、この繊維状の金属を加熱して、溶融することなく焼結結合させて焼結体としている。
【0007】
この繊維状の金属として、本実施形態では銅または銅合金を用いている。なお、多孔質焼結フィン23を構成するのは、例えば粉末状や粒子状の金属であっても良い。このような多孔質フィン23は、図12に示すように、微細な細孔23aを形成している。この細孔23aは、粒子径が微小な吸着剤24を充填するのに適した微細な孔となっている。
【0008】
吸着剤24は、微小な多数の粒子状に形成されており、例えば、シリカゲル、ゼオライトなどの材料から成っている。そして吸着剤24は、多孔質フィン23の細孔23aの内部に多数充填されている。また、多孔質フィン23は、銅または銅合金からなる温水パイプ21の周辺部に焼結結合している。
【0009】
そして、これらから成る吸着剤充填層22は、その全体が温水パイプ21の軸方向に伸長するように複数の温水パイプ21の周囲に形成されており、本実施形態では全体形状が円筒形となっている。さらに、前述のように温水パイプ21の間の吸着剤充填層22には、水蒸気が流通する水蒸気通路25が配置されている。
【0010】
この水蒸気通路25は、吸着時には図示しない蒸発器からの水蒸気を通して、温水パイプ21周囲の吸着剤充填層22の内部へ速やかに浸透させる役割を果す。また、脱離時には、温水パイプ21の周囲の吸着剤充填層22から吐き出された水蒸気を、この水蒸気通路25を通して速やかに図示しない凝縮器へ導く役割を果す。
【0011】
なお、この吸着剤充填層22は、温水パイプ21の周囲で焼結結合した多孔質焼結フィン23の厚さL(図12参照)に対応している。この多孔質焼結フィン23の厚さLを設定するに当たり、図11および図12に示すように、水蒸気が温水パイプ21に向かう浸透深さr2と、温水パイプ21からの距離(以下、伝熱距離)r1とが略等しくなるように、温水パイプ21の間に水蒸気通路25を配置することが好ましい。
【0012】
なお、浸透深さr2は、水蒸気通路25の内周面から温水パイプ21の外周面までの距離である。このように、吸着および脱離の速度に係わる浸透深さr2と、伝熱距離r1とが略等しくなるように温水パイプ21の間に水蒸気通路25を配置することにより、水蒸気の拡散抵抗が小さく、かつ伝熱特性が優れ、吸着と脱離に要す時間を短縮することができる高性能な吸着熱交換器を提供できる。なおこれを、最適多孔質焼結フィン厚さLとしている。
【0013】
しかしながら、上記前提技術の水蒸気通路25は、一端から他端まで通路面積が一定である。図13の(a)〜(c)は、本発明の課題を説明する部分断面図である。まず図13の(a)は、上述した前提技術の吸着剤充填層22と水蒸気通路25である。水蒸気流量が多い通路出入口付近では流路抵抗が大きくなり、内部まで充分に水蒸気が拡散できない、もしくは内部で脱離した水蒸気が出てきにくいという問題点がある。
【0014】
図13の(b)は、通路出入口付近での流路抵抗を低減すべく水蒸気通路25の通路面積を大きくした場合であるが、逆に吸着剤の量が減るため、性能が低下してしまうという問題点がある。また、図13の(c)は、上述した前提技術の吸着剤充填層22に、水蒸気通路25を形成するための通路形成治具40を挿入した状態を示している。この通路形成治具40は、焼結後に引き抜くが、吸着剤充填層22と通路形成治具40とが結合してしまい、引き抜く際に大きな力が必要になるばかりか、引き抜き時に吸着剤充填層22の一部を破壊しかねないというおそれがある。
【0015】
本発明は、このような前提技術に存在する問題点に着目して成されたものであり、その第1の目的は、水蒸気通路の出入口付近での流路抵抗を低減して性能を向上させることのできる吸着熱交換器を提供することにある。また、第2の目的は、水蒸気通路を形成し易くすることのできる吸着熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記目的を達成するために、下記の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載の発明では、熱交換媒体と被吸着媒体とが流通するケーシング(3)と、ケーシング(3)内に配設され、熱交換媒体が流通する複数の熱媒体管(21)と、熱媒体管(21)の外周面に結合されて形成され、被吸着媒体を吸着または脱離する吸着剤充填層(22)と、熱媒体管(21)の間の吸着剤充填層(22)に、熱媒体管(21)の軸方向と平行に形成され、被吸着媒体を吸着剤充填層(22)に供給する被吸着媒体通路(25A、25B)とを有する吸着熱交換器(1)において、
ケーシング(3)の内部は、吸着剤充填層(22)が形成される第1の領域(A1)と、吸着剤充填層(22)が形成されない第2の領域(A2)とを構成しており、被吸着媒体通路(25A、25B)は第2の領域(A2)から吸着剤充填層(22)の内部に向けて形成されているとともに、被吸着媒体通路(25A、25B)は、内部側の通路面積に対して第2の領域(A2)に開口した出入口側の通路面積を広く形成していることを特徴としている。
【0017】
この請求項1に記載の発明によれば、被吸着媒体流量の多い被吸着媒体通路(25A、25B)の出入口付近での流路抵抗を低減することができる。これは、例えば、各被吸着媒体通路(25A、25B)内側面積や吸着剤の総量がストレート形状のときと変わらないようにして通路形状を口広がりに形成したとすれば、被吸着媒体が被吸着媒体通路(25A、25B)の内部までスムーズに出入りできるようになった分だけ性能を向上させることができる。
【0018】
また同様に、同じ通路体積でもストレート形状よりも口広がり形状の方が、通路を形成する通路形成治具(40)の抜き差しが容易になるうえ、通路形成治具(40)を引き抜く際の通路形成治具(40)と吸着剤充填層(22)との接する面が、剪断剥離から界面剥離となるため、引き抜き時に吸着剤充填層(22)の一部を破壊しかねないというおそれを無くすことができる。
【0019】
また、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の吸着熱交換器において、被吸着媒体通路(25A)は、出入口側から内部側にかけてテーパー状に形成されていることを特徴としている。この請求項2に記載の発明によれば、具体的には被吸着媒体通路(25A)をテーパー状に形成すると請求項1の発明を容易に実現することができる。
【0020】
また、請求項3に記載の発明では、請求項1に記載の吸着熱交換器において、被吸着媒体通路(25B)は、出入口側から内部側にかけて段付き状に形成されていることを特徴としている。この請求項3に記載の発明によれば、具体的には被吸着媒体通路(25A)を段付き状に形成しても請求項1の発明を実現することができる。但し、例えばストレートな円柱などでの段付きでは、剪断剥離を界面剥離に変えることはできないため、極力テーパー形状で段付きとするのが好ましい。
【0021】
また、請求項4に記載の発明では、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の吸着熱交換器において、第2の領域(A2)が吸着剤充填層(22)の両側にあり、被吸着媒体通路(25A、25B)がその両側の第2の領域(A2)から内部に向けて形成されていることを特徴としている。この請求項4に記載の発明によれば、被吸着媒体の出入口を、この両側の第2の領域(A2)に設けることにより、吸着剤充填層(22)の両側から被吸着媒体の吸着、脱離を行う効率の良い吸着熱交換器を構成することができる。
【0022】
また、請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の吸着熱交換器において、被吸着媒体通路(25A、25B)が両側から対向するように配置されていることを特徴としている。また、請求項6に記載の発明では、請求項4に記載の吸着熱交換器において、被吸着媒体通路(25A、25B)が両側から隣り合うように交互に配置されていることを特徴としている。
【0023】
この請求項5および請求項6に記載の発明によれば、吸着剤充填層(22)の両側から設ける被吸着媒体通路(25A、25B)は、対向するように配置しても良いし、隣り合うように交互に配置しても良い。特に、両側から隣り合うように交互に配置した場合、被吸着媒体通路(25A、25B)間の吸着剤充填層(22)の厚みを略一定とできることより、吸着剤充填層(22)全体を効率良く使うことができる。なお、特許請求の範囲および上記各手段に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態における吸着熱交換器を、図1〜4を用いて詳細に説明する。まず、図1は、本発明の第1実施形態における吸着熱交換器1Aを示す外観側面図であり、図2は、図1の吸着熱交換器1Aの内部構造を示す縦断面図である。本実施形態の吸着熱交換器1Aは、内部に含む吸着剤が気相の被吸着媒体(本実施形態では水蒸気、よって以下は水蒸気で記す)を吸着する作用を用い、水蒸気を蒸発させてその蒸発潜熱により冷凍能力を発揮することを利用するものである。
【0025】
よって、吸着式冷凍装置などに使用して車両用の空調装置などに適用するのに好適なものである。以下、吸着モジュール2Aをケース(ケーシング)3の内部に収めて、一体に形成した吸着熱交換器1Aについて説明する。吸着熱交換器1Aは概略、吸着モジュール2Aをケース本体31内に収め、その両端面に仕切り板32、33を嵌め、さらにその両端面にタンク34、35を組み付け、一体接合した構造となっている。
【0026】
ケース本体31は、円筒状に形成されており、内部に、円柱状の吸着モジュール2Aが収容される。また、ケース本体31の両端開口部は、仕切り板32、33で封止可能に形成されている。そして、ケース本体31の内部は、吸着剤充填層22が形成される第1の領域A1と、吸着剤充填層22が形成されない第2の領域A2とを構成している。なお、本実施形態で吸着剤充填層22が形成されない第2の領域A2は、吸着剤充填層22が形成される第1の領域A1の片側(上側)にだけ構成されている。
【0027】
つまり、上述した吸着モジュール2Aの吸着剤充填層22は、図2において下側に寄って構成されており、下側の仕切り板32とは密着しており、この間に空間を有していない。そして、上側の仕切り板33との間にだけ空間を設けて、この空間を水蒸気の出入り空間としている。
【0028】
つまり、この空間に後述の水蒸気流入口36と水蒸気流出口37とが連通しており、蒸発器からの水蒸気が供給され、脱離後の水蒸気もこの空間から出てゆくようになっている。これに伴い、後述の水蒸気通路25Aもこの空間側にだけ開口している。つまり、吸着剤充填層22の下側仕切り板32と密着する部分には、底部が形成されており、水蒸気通路25Aは有底孔となっている。
【0029】
吸着モジュール2Aは、図2に示すように、熱交換媒体(本実施形態では温水、よって以下は温水で記す)が流れる複数の温水パイプ(熱媒体管)21と、そのそれぞれの温水パイプ21の外面と結合するようにして形成された吸着剤充填層22とを有している。さらに、温水パイプ21の間の吸着剤充填層22には、水蒸気が流通する水蒸気通路(被吸着媒体通路)25Aが配置されている。
【0030】
本実施形態の特徴として、水蒸気通路25Aは第2の領域A2から吸着剤充填層22の内部に向けて形成されているとともに、水蒸気通路25Aは、内部側の通路面積に対して第2の領域A2に開口した出入口側の通路面積が広くなるよう、テーパー状に形成されている。なお、水蒸気通路25Aの断面形状は、本実施形態では円としているが、楕円や矩形などであっても良い。
【0031】
ケース本体31の両端面を封止する仕切り板32、33には、吸着モジュール2Aから両端面側に突出している複数の温水パイプ21が貫通するよう、温水パイプ21の位置に対応させて複数の温水パイプ孔32a、33aが設けられている。そして、これらケース本体31と仕切り板32、33、仕切り板32の温水パイプ孔32a、33aと温水パイプ21とは、蝋付けなどによって気密に接合されている。
【0032】
このように、ケース本体31を仕切り板32で封止することにより、内部を真空に保持することが可能となっている。これにより、ケース本体31と仕切り板32によって形成される内部密閉空間内には、被吸着媒体としての水蒸気以外に、他の気体が入らないようになっている。
【0033】
図1および図2において、ケース本体31の上端近傍の右側には、吸着時に図示しない蒸発器からの水蒸気を本吸着熱交換器1A内に導入する水蒸気流入口36が設けられている。また、ケース本体31の上端近傍の左側には、脱離時に本吸着熱交換器1A内から図示しない凝縮器へ水蒸気を導出する水蒸気流出口37が設けられている。
【0034】
吸着時に水蒸気は、蒸発器側から水蒸気流入口36を通して、吸着モジュール2Aの水蒸気通路25Aに分配される。水蒸気通路25Aに分配された水蒸気は、吸着剤充填層22の内部に浸透する。また、図1および図2において、下側のタンク34には、脱離時に熱交換媒体としての温水を導く温水流入口38が設けられ、上側のタンク35には、温水を導出する温水流出口39が設けられている。
【0035】
温水は、タンク34の温水流入口38に流入して多数の温水パイプ21に分配され、吸着剤充填層22の中を上方に流れるうちこれを加熱する。そして、各温水パイプ21で熱交換した後の温水は、タンク35内で集合して温水流出口39から流出する。この脱離時には、加熱された吸着剤充填層22から水蒸気が吐き出され、吐き出された水蒸気は各水蒸気通路25Aから水蒸気流出口37を通って凝縮器側へ導出される。また、吸着時に温水パイプ21には冷水が流れ、吸着剤充填層22の中を上方に流れるうちにこれを冷却する。
【0036】
上述したケース本体31、仕切り板32、33、タンク34、35および流入口および流出口のパイプ36〜39は、銅または銅合金で形成されており、蝋付けなどによって気密かつ一体的に接合される。なお、ケース3および温水パイプ21は、その径方向断面が円筒形、楕円形、矩形など、いずれの形状であっても良い。
【0037】
次に、上述した吸着熱交換器1Aの製造方法の概略を説明する。まず、下側の仕切り板32に温水パイプ21を挿入して立て、その仕切り板32上にケース本体31をセットする。なお、水蒸気の流出入口パイプ36、37は、後で組み付けても良いが、先にケース本体31に組み付けておくものとする。
【0038】
図3は、水蒸気通路25Aと、それを形成する通路形成治具40Aとを示す部分断面図である。次に、このケース本体31内に水蒸気通路25Aを形成するための通路形成治具40Aをセットした後、これらの隙間に繊維状の銅粉と吸着剤とを混合させた混合粉を充填する。そして、この混合粉を図示しない治具で押し固めた後、通路形成治具40Aを静かに拭き取り、水蒸気通路25Aの孔空間を確保する。
【0039】
次に、温水パイプ21に上側の仕切り板33を挿入して本熱交換器の中心部分を組み上げ、この中心部分の上下にタンク34、35をセットして本熱交換器の組上がりとなる。なお、温水パイプ21を挿入した仕切り板32、33は、温水パイプ21を拡管(口拡げ)することなどで固定する。
【0040】
また、温水の流出入口パイプ38、39は、後で組み付けても良いが、先にタンク34、35に組み付けておくものとする。最後にこの組立品を炉に入れて吸着剤充填層22を焼結するとともに、各構成部品を相互に一体蝋付けすることで本熱交換器が完成する。なお、上記した組み立て方法は一例であり、これに限るものではない。例えば、通路形成治具40Aは、ケース本体31内に混合粉を入れた後に上から差し込む方法であっても良い。また、図4の(a)〜(c)は、水蒸気通路25Aのその他の底部形状を示す部分断面図である。水蒸気通路25Aの底部形状は平面、円錐、半球などであっても良い。
【0041】
次に、本実施形態の特徴と、その効果について述べる。まず、ケース3の内部は、吸着剤充填層22が形成される第1の領域A1と、吸着剤充填層22が形成されない第2の領域A2とを構成しており、水蒸気通路25Aは第2の領域A2から吸着剤充填層22の内部に向けて形成されているとともに、水蒸気通路25Aは、内部側の通路面積に対して第2の領域A2に開口した出入口側の通路面積を広く形成している。
【0042】
これによれば、水蒸気流量の多い水蒸気通路25Aの出入口付近での流路抵抗を低減することができる。これは、例えば、各水蒸気通路25A内側面積や吸着剤の総量がストレート形状のときと変わらないようにして通路形状を口広がりに形成したとすれば、被吸着媒体が水蒸気通路25Aの内部までスムーズに出入りできるようになった分だけ性能を向上させることができる。
【0043】
また同様に、同じ通路体積でもストレート形状よりも口広がり形状の方が、通路を形成する通路形成治具40Aの抜き差しが容易になるうえ、通路形成治具40Aを引き抜く際の通路形成治具40Aと吸着剤充填層22との接する面が剪断剥離から界面剥離となるため、引き抜き時に吸着剤充填層22の一部を破壊しかねないというおそれを無くすことができる。また、水蒸気通路25Aは、出入口側から内部側にかけてテーパー状に形成されている。これによれば、具体的には水蒸気通路25Aをテーパー状に形成すると上記の効果を容易に実現することができる。
【0044】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。図5は、本発明の第2実施形態における吸着熱交換器1Bの内部構造を示す縦断面図である。なお、以下の各実施形態においては、上述した第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略し、異なる特徴について説明する。
【0045】
本実施形態の吸着熱交換器1Bは、吸着剤充填層22が形成されない第2の領域A2が、吸着剤充填層22の両側にあり、水蒸気通路25Aがその両側の第2の領域A2から内部に向けて形成された吸着モジュール2Bとなっている。そのため、吸着、脱離の水蒸気出入口36Aが共通で、吸着剤充填層22の両端側にある構造となっている。
【0046】
これによれば、水蒸気の出入口を、この両側の第2の領域A2に設けることにより、吸着剤充填層22の両側から被吸着媒体の吸着、脱離を行う効率の良い吸着熱交換器を構成することができる。また、水蒸気通路25Aが両側から対向するように配置されている。これによれば、吸着剤充填層22の両側から設ける水蒸気通路25Aは、本実施形態のように、対向するように配置しても良い。
【0047】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。図6は、本発明の第3実施形態における吸着熱交換器1Cの内部構造を示す縦断面図である。本実施形態の吸着熱交換器1Cは、水蒸気通路25Aが両側から隣り合うように交互に配置された吸着モジュール2Cとなっている。
【0048】
これによれば、吸着剤充填層22の両側から設ける水蒸気通路25Aは、本実施形態のように、隣り合うように交互に配置しても良い。特に、両側から隣り合うように交互に配置した場合、水蒸気通路25A間の吸着剤充填層22の厚みを略一定とできることより、吸着剤充填層22全体を効率良く使うことができる。
【0049】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。図7は、本発明の第4実施形態における吸着熱交換器1Dの内部構造を示す縦断面図である。本実施形態の吸着熱交換器1Dは、水蒸気通路25Bが出入口側から内部側にかけて段付き状に形成された吸着モジュール2Dとなっている。図8は、水蒸気通路25Bと、それを形成する通路形成治具40Bとを示す部分断面図である。
【0050】
これによれば、具体的には水蒸気通路25Bを段付き状に形成しても第1実施形態と同様に、水蒸気流量の多い水蒸気通路25Bの出入口付近での流路抵抗を低減して性能を向上させることができる。但し、図8に示すようなストレートな円柱などでの段付きでは、通路形成治具40Bを引き抜く際の通路形成治具40Bと吸着剤充填層22との接する面が剪断剥離のままであるため、極力テーパー形状で段付きとするのが好ましい。
【0051】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。例えば、上述した第2、第3実施形態での上下の第2の領域A2は、水蒸気通路25Aを介して連通していても良いし、水蒸気通路25Aに底部を形成して、第2の領域A2同士は連通していない構造であっても良い。
【0052】
また、上述した第4実施形態の水蒸気通路25Bを、第2、第3実施形態のように上下両面から吸着剤充填層22に形成した吸着熱交換器としても良い、また、上述の実施形態では、温水パイプ21や多孔質フィン23などに銅を用いているが、ステンレスやアルミニウムなどで構成しても良い。また、蒸発器1と凝縮器3とが一体となっている構造でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1実施形態における吸着熱交換器1Aを示す外観側面図である。
【図2】図1の吸着熱交換器1Aの内部構造を示す縦断面図である。
【図3】水蒸気通路25Aと、それを形成する通路形成治具40Aとを示す部分断面図である。
【図4】(a)〜(c)は、水蒸気通路25Aのその他の底部形状を示す部分断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態における吸着熱交換器1Bの内部構造を示す縦断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態における吸着熱交換器1Cの内部構造を示す縦断面図である。
【図7】本発明の第4実施形態における吸着熱交換器1Dの内部構造を示す縦断面図である。
【図8】水蒸気通路25Bと、それを形成する通路形成治具40Bとを示す部分断面図である。
【図9】本発明の前提となる吸着モジュール2の端面図である。
【図10】図9中のX−X断面図である。
【図11】図9の部分拡大図である。
【図12】図11中の吸着剤充填層22を示す模式的断面図である。
【図13】(a)〜(c)は、本発明の課題を説明する部分断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1…吸着熱交換器
3…ケース(ケーシング)
21…温水パイプ(熱媒体管)
22…吸着剤充填層
25A、25B…水蒸気通路(被吸着媒体通路)
A1…第1の領域
A2…第2の領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着剤が液相と気相の間で相変化する被吸着媒体の脱着を通じて熱交換作用を行う吸着熱交換器に関するものであり、例えば、吸着剤が気相の被吸着媒体を吸着する作用を用いて被吸着媒体を蒸発させ、その蒸発潜熱によって冷凍能力を発揮する吸着式の冷凍装置などに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、銅粉と吸着剤とを混合した混合粉中に伝熱管を配置し、銅粉を焼結して伝熱フィンとするとともに、この伝熱フィンと伝熱管とを接合させる吸着剤付き熱交換器が示されている。これによれば、銅粉の焼結体を伝熱フィンとすることで、この伝熱フィン内に充填された吸着剤との接触面積が増えて伝熱特性が向上するとともに、伝熱フィンと伝熱管との伝熱特性も向上させている。
【特許文献1】特開平4−148194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
発明者らは、被吸着媒体の拡散抵抗を低減するため、吸着剤充填層の内部に被吸着媒体通路を設けて、伝熱特性の向上と被吸着媒体の拡散抵抗低減とが両立する吸着モジュールを考案して出願している。図9は、本発明の前提となる吸着モジュール2の端面図であり、図10は、図9中のX−X断面図である。
【0004】
吸着モジュール2は、図9および図10に示すように、熱交換媒体(本実施形態では温水、よって以下は温水で記す)が流れる複数の温水パイプ(熱媒体管)21と、そのそれぞれの温水パイプ21の外面と結合するようにして形成された吸着剤充填層22とを有している。
【0005】
また、温水パイプ21の間の吸着剤充填層22には、被吸着媒体(本実施形態では水蒸気、よって以下は水蒸気で記す)が流れる水蒸気通路(被吸着媒体通路)25が形成されている。図11は、図9の部分拡大図であり、図12は、図11中の吸着剤充填層22を示す模式的断面図である。
【0006】
図12に示すように、吸着剤充填層22は、粉末状、粒子状もしくは繊維状の金属粉23bに吸着剤24を充填して焼結することにより、各温水パイプ21の外面と結合させて形成されたものである。本実施形態では多孔質焼結フィン(多孔質伝熱体)23として、熱伝導性に優れる繊維状の金属を用いており、この繊維状の金属を加熱して、溶融することなく焼結結合させて焼結体としている。
【0007】
この繊維状の金属として、本実施形態では銅または銅合金を用いている。なお、多孔質焼結フィン23を構成するのは、例えば粉末状や粒子状の金属であっても良い。このような多孔質フィン23は、図12に示すように、微細な細孔23aを形成している。この細孔23aは、粒子径が微小な吸着剤24を充填するのに適した微細な孔となっている。
【0008】
吸着剤24は、微小な多数の粒子状に形成されており、例えば、シリカゲル、ゼオライトなどの材料から成っている。そして吸着剤24は、多孔質フィン23の細孔23aの内部に多数充填されている。また、多孔質フィン23は、銅または銅合金からなる温水パイプ21の周辺部に焼結結合している。
【0009】
そして、これらから成る吸着剤充填層22は、その全体が温水パイプ21の軸方向に伸長するように複数の温水パイプ21の周囲に形成されており、本実施形態では全体形状が円筒形となっている。さらに、前述のように温水パイプ21の間の吸着剤充填層22には、水蒸気が流通する水蒸気通路25が配置されている。
【0010】
この水蒸気通路25は、吸着時には図示しない蒸発器からの水蒸気を通して、温水パイプ21周囲の吸着剤充填層22の内部へ速やかに浸透させる役割を果す。また、脱離時には、温水パイプ21の周囲の吸着剤充填層22から吐き出された水蒸気を、この水蒸気通路25を通して速やかに図示しない凝縮器へ導く役割を果す。
【0011】
なお、この吸着剤充填層22は、温水パイプ21の周囲で焼結結合した多孔質焼結フィン23の厚さL(図12参照)に対応している。この多孔質焼結フィン23の厚さLを設定するに当たり、図11および図12に示すように、水蒸気が温水パイプ21に向かう浸透深さr2と、温水パイプ21からの距離(以下、伝熱距離)r1とが略等しくなるように、温水パイプ21の間に水蒸気通路25を配置することが好ましい。
【0012】
なお、浸透深さr2は、水蒸気通路25の内周面から温水パイプ21の外周面までの距離である。このように、吸着および脱離の速度に係わる浸透深さr2と、伝熱距離r1とが略等しくなるように温水パイプ21の間に水蒸気通路25を配置することにより、水蒸気の拡散抵抗が小さく、かつ伝熱特性が優れ、吸着と脱離に要す時間を短縮することができる高性能な吸着熱交換器を提供できる。なおこれを、最適多孔質焼結フィン厚さLとしている。
【0013】
しかしながら、上記前提技術の水蒸気通路25は、一端から他端まで通路面積が一定である。図13の(a)〜(c)は、本発明の課題を説明する部分断面図である。まず図13の(a)は、上述した前提技術の吸着剤充填層22と水蒸気通路25である。水蒸気流量が多い通路出入口付近では流路抵抗が大きくなり、内部まで充分に水蒸気が拡散できない、もしくは内部で脱離した水蒸気が出てきにくいという問題点がある。
【0014】
図13の(b)は、通路出入口付近での流路抵抗を低減すべく水蒸気通路25の通路面積を大きくした場合であるが、逆に吸着剤の量が減るため、性能が低下してしまうという問題点がある。また、図13の(c)は、上述した前提技術の吸着剤充填層22に、水蒸気通路25を形成するための通路形成治具40を挿入した状態を示している。この通路形成治具40は、焼結後に引き抜くが、吸着剤充填層22と通路形成治具40とが結合してしまい、引き抜く際に大きな力が必要になるばかりか、引き抜き時に吸着剤充填層22の一部を破壊しかねないというおそれがある。
【0015】
本発明は、このような前提技術に存在する問題点に着目して成されたものであり、その第1の目的は、水蒸気通路の出入口付近での流路抵抗を低減して性能を向上させることのできる吸着熱交換器を提供することにある。また、第2の目的は、水蒸気通路を形成し易くすることのできる吸着熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記目的を達成するために、下記の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載の発明では、熱交換媒体と被吸着媒体とが流通するケーシング(3)と、ケーシング(3)内に配設され、熱交換媒体が流通する複数の熱媒体管(21)と、熱媒体管(21)の外周面に結合されて形成され、被吸着媒体を吸着または脱離する吸着剤充填層(22)と、熱媒体管(21)の間の吸着剤充填層(22)に、熱媒体管(21)の軸方向と平行に形成され、被吸着媒体を吸着剤充填層(22)に供給する被吸着媒体通路(25A、25B)とを有する吸着熱交換器(1)において、
ケーシング(3)の内部は、吸着剤充填層(22)が形成される第1の領域(A1)と、吸着剤充填層(22)が形成されない第2の領域(A2)とを構成しており、被吸着媒体通路(25A、25B)は第2の領域(A2)から吸着剤充填層(22)の内部に向けて形成されているとともに、被吸着媒体通路(25A、25B)は、内部側の通路面積に対して第2の領域(A2)に開口した出入口側の通路面積を広く形成していることを特徴としている。
【0017】
この請求項1に記載の発明によれば、被吸着媒体流量の多い被吸着媒体通路(25A、25B)の出入口付近での流路抵抗を低減することができる。これは、例えば、各被吸着媒体通路(25A、25B)内側面積や吸着剤の総量がストレート形状のときと変わらないようにして通路形状を口広がりに形成したとすれば、被吸着媒体が被吸着媒体通路(25A、25B)の内部までスムーズに出入りできるようになった分だけ性能を向上させることができる。
【0018】
また同様に、同じ通路体積でもストレート形状よりも口広がり形状の方が、通路を形成する通路形成治具(40)の抜き差しが容易になるうえ、通路形成治具(40)を引き抜く際の通路形成治具(40)と吸着剤充填層(22)との接する面が、剪断剥離から界面剥離となるため、引き抜き時に吸着剤充填層(22)の一部を破壊しかねないというおそれを無くすことができる。
【0019】
また、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の吸着熱交換器において、被吸着媒体通路(25A)は、出入口側から内部側にかけてテーパー状に形成されていることを特徴としている。この請求項2に記載の発明によれば、具体的には被吸着媒体通路(25A)をテーパー状に形成すると請求項1の発明を容易に実現することができる。
【0020】
また、請求項3に記載の発明では、請求項1に記載の吸着熱交換器において、被吸着媒体通路(25B)は、出入口側から内部側にかけて段付き状に形成されていることを特徴としている。この請求項3に記載の発明によれば、具体的には被吸着媒体通路(25A)を段付き状に形成しても請求項1の発明を実現することができる。但し、例えばストレートな円柱などでの段付きでは、剪断剥離を界面剥離に変えることはできないため、極力テーパー形状で段付きとするのが好ましい。
【0021】
また、請求項4に記載の発明では、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の吸着熱交換器において、第2の領域(A2)が吸着剤充填層(22)の両側にあり、被吸着媒体通路(25A、25B)がその両側の第2の領域(A2)から内部に向けて形成されていることを特徴としている。この請求項4に記載の発明によれば、被吸着媒体の出入口を、この両側の第2の領域(A2)に設けることにより、吸着剤充填層(22)の両側から被吸着媒体の吸着、脱離を行う効率の良い吸着熱交換器を構成することができる。
【0022】
また、請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の吸着熱交換器において、被吸着媒体通路(25A、25B)が両側から対向するように配置されていることを特徴としている。また、請求項6に記載の発明では、請求項4に記載の吸着熱交換器において、被吸着媒体通路(25A、25B)が両側から隣り合うように交互に配置されていることを特徴としている。
【0023】
この請求項5および請求項6に記載の発明によれば、吸着剤充填層(22)の両側から設ける被吸着媒体通路(25A、25B)は、対向するように配置しても良いし、隣り合うように交互に配置しても良い。特に、両側から隣り合うように交互に配置した場合、被吸着媒体通路(25A、25B)間の吸着剤充填層(22)の厚みを略一定とできることより、吸着剤充填層(22)全体を効率良く使うことができる。なお、特許請求の範囲および上記各手段に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態における吸着熱交換器を、図1〜4を用いて詳細に説明する。まず、図1は、本発明の第1実施形態における吸着熱交換器1Aを示す外観側面図であり、図2は、図1の吸着熱交換器1Aの内部構造を示す縦断面図である。本実施形態の吸着熱交換器1Aは、内部に含む吸着剤が気相の被吸着媒体(本実施形態では水蒸気、よって以下は水蒸気で記す)を吸着する作用を用い、水蒸気を蒸発させてその蒸発潜熱により冷凍能力を発揮することを利用するものである。
【0025】
よって、吸着式冷凍装置などに使用して車両用の空調装置などに適用するのに好適なものである。以下、吸着モジュール2Aをケース(ケーシング)3の内部に収めて、一体に形成した吸着熱交換器1Aについて説明する。吸着熱交換器1Aは概略、吸着モジュール2Aをケース本体31内に収め、その両端面に仕切り板32、33を嵌め、さらにその両端面にタンク34、35を組み付け、一体接合した構造となっている。
【0026】
ケース本体31は、円筒状に形成されており、内部に、円柱状の吸着モジュール2Aが収容される。また、ケース本体31の両端開口部は、仕切り板32、33で封止可能に形成されている。そして、ケース本体31の内部は、吸着剤充填層22が形成される第1の領域A1と、吸着剤充填層22が形成されない第2の領域A2とを構成している。なお、本実施形態で吸着剤充填層22が形成されない第2の領域A2は、吸着剤充填層22が形成される第1の領域A1の片側(上側)にだけ構成されている。
【0027】
つまり、上述した吸着モジュール2Aの吸着剤充填層22は、図2において下側に寄って構成されており、下側の仕切り板32とは密着しており、この間に空間を有していない。そして、上側の仕切り板33との間にだけ空間を設けて、この空間を水蒸気の出入り空間としている。
【0028】
つまり、この空間に後述の水蒸気流入口36と水蒸気流出口37とが連通しており、蒸発器からの水蒸気が供給され、脱離後の水蒸気もこの空間から出てゆくようになっている。これに伴い、後述の水蒸気通路25Aもこの空間側にだけ開口している。つまり、吸着剤充填層22の下側仕切り板32と密着する部分には、底部が形成されており、水蒸気通路25Aは有底孔となっている。
【0029】
吸着モジュール2Aは、図2に示すように、熱交換媒体(本実施形態では温水、よって以下は温水で記す)が流れる複数の温水パイプ(熱媒体管)21と、そのそれぞれの温水パイプ21の外面と結合するようにして形成された吸着剤充填層22とを有している。さらに、温水パイプ21の間の吸着剤充填層22には、水蒸気が流通する水蒸気通路(被吸着媒体通路)25Aが配置されている。
【0030】
本実施形態の特徴として、水蒸気通路25Aは第2の領域A2から吸着剤充填層22の内部に向けて形成されているとともに、水蒸気通路25Aは、内部側の通路面積に対して第2の領域A2に開口した出入口側の通路面積が広くなるよう、テーパー状に形成されている。なお、水蒸気通路25Aの断面形状は、本実施形態では円としているが、楕円や矩形などであっても良い。
【0031】
ケース本体31の両端面を封止する仕切り板32、33には、吸着モジュール2Aから両端面側に突出している複数の温水パイプ21が貫通するよう、温水パイプ21の位置に対応させて複数の温水パイプ孔32a、33aが設けられている。そして、これらケース本体31と仕切り板32、33、仕切り板32の温水パイプ孔32a、33aと温水パイプ21とは、蝋付けなどによって気密に接合されている。
【0032】
このように、ケース本体31を仕切り板32で封止することにより、内部を真空に保持することが可能となっている。これにより、ケース本体31と仕切り板32によって形成される内部密閉空間内には、被吸着媒体としての水蒸気以外に、他の気体が入らないようになっている。
【0033】
図1および図2において、ケース本体31の上端近傍の右側には、吸着時に図示しない蒸発器からの水蒸気を本吸着熱交換器1A内に導入する水蒸気流入口36が設けられている。また、ケース本体31の上端近傍の左側には、脱離時に本吸着熱交換器1A内から図示しない凝縮器へ水蒸気を導出する水蒸気流出口37が設けられている。
【0034】
吸着時に水蒸気は、蒸発器側から水蒸気流入口36を通して、吸着モジュール2Aの水蒸気通路25Aに分配される。水蒸気通路25Aに分配された水蒸気は、吸着剤充填層22の内部に浸透する。また、図1および図2において、下側のタンク34には、脱離時に熱交換媒体としての温水を導く温水流入口38が設けられ、上側のタンク35には、温水を導出する温水流出口39が設けられている。
【0035】
温水は、タンク34の温水流入口38に流入して多数の温水パイプ21に分配され、吸着剤充填層22の中を上方に流れるうちこれを加熱する。そして、各温水パイプ21で熱交換した後の温水は、タンク35内で集合して温水流出口39から流出する。この脱離時には、加熱された吸着剤充填層22から水蒸気が吐き出され、吐き出された水蒸気は各水蒸気通路25Aから水蒸気流出口37を通って凝縮器側へ導出される。また、吸着時に温水パイプ21には冷水が流れ、吸着剤充填層22の中を上方に流れるうちにこれを冷却する。
【0036】
上述したケース本体31、仕切り板32、33、タンク34、35および流入口および流出口のパイプ36〜39は、銅または銅合金で形成されており、蝋付けなどによって気密かつ一体的に接合される。なお、ケース3および温水パイプ21は、その径方向断面が円筒形、楕円形、矩形など、いずれの形状であっても良い。
【0037】
次に、上述した吸着熱交換器1Aの製造方法の概略を説明する。まず、下側の仕切り板32に温水パイプ21を挿入して立て、その仕切り板32上にケース本体31をセットする。なお、水蒸気の流出入口パイプ36、37は、後で組み付けても良いが、先にケース本体31に組み付けておくものとする。
【0038】
図3は、水蒸気通路25Aと、それを形成する通路形成治具40Aとを示す部分断面図である。次に、このケース本体31内に水蒸気通路25Aを形成するための通路形成治具40Aをセットした後、これらの隙間に繊維状の銅粉と吸着剤とを混合させた混合粉を充填する。そして、この混合粉を図示しない治具で押し固めた後、通路形成治具40Aを静かに拭き取り、水蒸気通路25Aの孔空間を確保する。
【0039】
次に、温水パイプ21に上側の仕切り板33を挿入して本熱交換器の中心部分を組み上げ、この中心部分の上下にタンク34、35をセットして本熱交換器の組上がりとなる。なお、温水パイプ21を挿入した仕切り板32、33は、温水パイプ21を拡管(口拡げ)することなどで固定する。
【0040】
また、温水の流出入口パイプ38、39は、後で組み付けても良いが、先にタンク34、35に組み付けておくものとする。最後にこの組立品を炉に入れて吸着剤充填層22を焼結するとともに、各構成部品を相互に一体蝋付けすることで本熱交換器が完成する。なお、上記した組み立て方法は一例であり、これに限るものではない。例えば、通路形成治具40Aは、ケース本体31内に混合粉を入れた後に上から差し込む方法であっても良い。また、図4の(a)〜(c)は、水蒸気通路25Aのその他の底部形状を示す部分断面図である。水蒸気通路25Aの底部形状は平面、円錐、半球などであっても良い。
【0041】
次に、本実施形態の特徴と、その効果について述べる。まず、ケース3の内部は、吸着剤充填層22が形成される第1の領域A1と、吸着剤充填層22が形成されない第2の領域A2とを構成しており、水蒸気通路25Aは第2の領域A2から吸着剤充填層22の内部に向けて形成されているとともに、水蒸気通路25Aは、内部側の通路面積に対して第2の領域A2に開口した出入口側の通路面積を広く形成している。
【0042】
これによれば、水蒸気流量の多い水蒸気通路25Aの出入口付近での流路抵抗を低減することができる。これは、例えば、各水蒸気通路25A内側面積や吸着剤の総量がストレート形状のときと変わらないようにして通路形状を口広がりに形成したとすれば、被吸着媒体が水蒸気通路25Aの内部までスムーズに出入りできるようになった分だけ性能を向上させることができる。
【0043】
また同様に、同じ通路体積でもストレート形状よりも口広がり形状の方が、通路を形成する通路形成治具40Aの抜き差しが容易になるうえ、通路形成治具40Aを引き抜く際の通路形成治具40Aと吸着剤充填層22との接する面が剪断剥離から界面剥離となるため、引き抜き時に吸着剤充填層22の一部を破壊しかねないというおそれを無くすことができる。また、水蒸気通路25Aは、出入口側から内部側にかけてテーパー状に形成されている。これによれば、具体的には水蒸気通路25Aをテーパー状に形成すると上記の効果を容易に実現することができる。
【0044】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。図5は、本発明の第2実施形態における吸着熱交換器1Bの内部構造を示す縦断面図である。なお、以下の各実施形態においては、上述した第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略し、異なる特徴について説明する。
【0045】
本実施形態の吸着熱交換器1Bは、吸着剤充填層22が形成されない第2の領域A2が、吸着剤充填層22の両側にあり、水蒸気通路25Aがその両側の第2の領域A2から内部に向けて形成された吸着モジュール2Bとなっている。そのため、吸着、脱離の水蒸気出入口36Aが共通で、吸着剤充填層22の両端側にある構造となっている。
【0046】
これによれば、水蒸気の出入口を、この両側の第2の領域A2に設けることにより、吸着剤充填層22の両側から被吸着媒体の吸着、脱離を行う効率の良い吸着熱交換器を構成することができる。また、水蒸気通路25Aが両側から対向するように配置されている。これによれば、吸着剤充填層22の両側から設ける水蒸気通路25Aは、本実施形態のように、対向するように配置しても良い。
【0047】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。図6は、本発明の第3実施形態における吸着熱交換器1Cの内部構造を示す縦断面図である。本実施形態の吸着熱交換器1Cは、水蒸気通路25Aが両側から隣り合うように交互に配置された吸着モジュール2Cとなっている。
【0048】
これによれば、吸着剤充填層22の両側から設ける水蒸気通路25Aは、本実施形態のように、隣り合うように交互に配置しても良い。特に、両側から隣り合うように交互に配置した場合、水蒸気通路25A間の吸着剤充填層22の厚みを略一定とできることより、吸着剤充填層22全体を効率良く使うことができる。
【0049】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。図7は、本発明の第4実施形態における吸着熱交換器1Dの内部構造を示す縦断面図である。本実施形態の吸着熱交換器1Dは、水蒸気通路25Bが出入口側から内部側にかけて段付き状に形成された吸着モジュール2Dとなっている。図8は、水蒸気通路25Bと、それを形成する通路形成治具40Bとを示す部分断面図である。
【0050】
これによれば、具体的には水蒸気通路25Bを段付き状に形成しても第1実施形態と同様に、水蒸気流量の多い水蒸気通路25Bの出入口付近での流路抵抗を低減して性能を向上させることができる。但し、図8に示すようなストレートな円柱などでの段付きでは、通路形成治具40Bを引き抜く際の通路形成治具40Bと吸着剤充填層22との接する面が剪断剥離のままであるため、極力テーパー形状で段付きとするのが好ましい。
【0051】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。例えば、上述した第2、第3実施形態での上下の第2の領域A2は、水蒸気通路25Aを介して連通していても良いし、水蒸気通路25Aに底部を形成して、第2の領域A2同士は連通していない構造であっても良い。
【0052】
また、上述した第4実施形態の水蒸気通路25Bを、第2、第3実施形態のように上下両面から吸着剤充填層22に形成した吸着熱交換器としても良い、また、上述の実施形態では、温水パイプ21や多孔質フィン23などに銅を用いているが、ステンレスやアルミニウムなどで構成しても良い。また、蒸発器1と凝縮器3とが一体となっている構造でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1実施形態における吸着熱交換器1Aを示す外観側面図である。
【図2】図1の吸着熱交換器1Aの内部構造を示す縦断面図である。
【図3】水蒸気通路25Aと、それを形成する通路形成治具40Aとを示す部分断面図である。
【図4】(a)〜(c)は、水蒸気通路25Aのその他の底部形状を示す部分断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態における吸着熱交換器1Bの内部構造を示す縦断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態における吸着熱交換器1Cの内部構造を示す縦断面図である。
【図7】本発明の第4実施形態における吸着熱交換器1Dの内部構造を示す縦断面図である。
【図8】水蒸気通路25Bと、それを形成する通路形成治具40Bとを示す部分断面図である。
【図9】本発明の前提となる吸着モジュール2の端面図である。
【図10】図9中のX−X断面図である。
【図11】図9の部分拡大図である。
【図12】図11中の吸着剤充填層22を示す模式的断面図である。
【図13】(a)〜(c)は、本発明の課題を説明する部分断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1…吸着熱交換器
3…ケース(ケーシング)
21…温水パイプ(熱媒体管)
22…吸着剤充填層
25A、25B…水蒸気通路(被吸着媒体通路)
A1…第1の領域
A2…第2の領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換媒体と被吸着媒体とが流通するケーシング(3)と、
前記ケーシング(3)内に配設され、前記熱交換媒体が流通する複数の熱媒体管(21)と、
前記熱媒体管(21)の外周面に結合されて形成され、前記被吸着媒体を吸着または脱離する吸着剤充填層(22)と、
前記熱媒体管(21)の間の前記吸着剤充填層(22)に、前記熱媒体管(21)の軸方向と平行に形成され、前記被吸着媒体を前記吸着剤充填層(22)に供給する被吸着媒体通路(25A、25B)とを有する吸着熱交換器(1)において、
前記ケーシング(3)の内部は、前記吸着剤充填層(22)が形成される第1の領域(A1)と、前記吸着剤充填層(22)が形成されない第2の領域(A2)とを構成しており、
前記被吸着媒体通路(25A、25B)は前記第2の領域(A2)から前記吸着剤充填層(22)の内部に向けて形成されているとともに、前記被吸着媒体通路(25A、25B)は、内部側の通路面積に対して前記第2の領域(A2)に開口した出入口側の通路面積を広く形成していることを特徴とする吸着熱交換器。
【請求項2】
前記被吸着媒体通路(25A)は、前記出入口側から前記内部側にかけてテーパー状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の吸着熱交換器。
【請求項3】
前記被吸着媒体通路(25B)は、前記出入口側から前記内部側にかけて段付き状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の吸着熱交換器。
【請求項4】
前記第2の領域(A2)が前記吸着剤充填層(22)の両側にあり、前記被吸着媒体通路(25A、25B)がその両側の前記第2の領域(A2)から内部に向けて形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の吸着熱交換器。
【請求項5】
前記被吸着媒体通路(25A、25B)が前記両側から対向するように配置されていることを特徴とする請求項4に記載の吸着熱交換器。
【請求項6】
前記被吸着媒体通路(25A、25B)が前記両側から隣り合うように配置されていることを特徴とする請求項4に記載の吸着熱交換器。
【請求項1】
熱交換媒体と被吸着媒体とが流通するケーシング(3)と、
前記ケーシング(3)内に配設され、前記熱交換媒体が流通する複数の熱媒体管(21)と、
前記熱媒体管(21)の外周面に結合されて形成され、前記被吸着媒体を吸着または脱離する吸着剤充填層(22)と、
前記熱媒体管(21)の間の前記吸着剤充填層(22)に、前記熱媒体管(21)の軸方向と平行に形成され、前記被吸着媒体を前記吸着剤充填層(22)に供給する被吸着媒体通路(25A、25B)とを有する吸着熱交換器(1)において、
前記ケーシング(3)の内部は、前記吸着剤充填層(22)が形成される第1の領域(A1)と、前記吸着剤充填層(22)が形成されない第2の領域(A2)とを構成しており、
前記被吸着媒体通路(25A、25B)は前記第2の領域(A2)から前記吸着剤充填層(22)の内部に向けて形成されているとともに、前記被吸着媒体通路(25A、25B)は、内部側の通路面積に対して前記第2の領域(A2)に開口した出入口側の通路面積を広く形成していることを特徴とする吸着熱交換器。
【請求項2】
前記被吸着媒体通路(25A)は、前記出入口側から前記内部側にかけてテーパー状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の吸着熱交換器。
【請求項3】
前記被吸着媒体通路(25B)は、前記出入口側から前記内部側にかけて段付き状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の吸着熱交換器。
【請求項4】
前記第2の領域(A2)が前記吸着剤充填層(22)の両側にあり、前記被吸着媒体通路(25A、25B)がその両側の前記第2の領域(A2)から内部に向けて形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の吸着熱交換器。
【請求項5】
前記被吸着媒体通路(25A、25B)が前記両側から対向するように配置されていることを特徴とする請求項4に記載の吸着熱交換器。
【請求項6】
前記被吸着媒体通路(25A、25B)が前記両側から隣り合うように配置されていることを特徴とする請求項4に記載の吸着熱交換器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
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【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−121711(P2009−121711A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293593(P2007−293593)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
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