説明

吸着装置

【課題】被吸着物を吸着するための磁気を電力を消費することなく発生し、被吸着物の吸着及びその解除をすることができる吸着装置を提供することを目的とする。
【解決手段】被吸着物90を磁気で吸着する吸着装置1であって、磁気を発生するための永久磁石2と、永久磁石2のN極に連結されていて、被吸着物90に接触させる磁性体製の吸着部3と、永久磁石2を取り囲む磁性体製の制御筒5と、永久磁石2と制御筒5との位置関係を相対的に移動させるためのスライド機構6とを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被吸着物を磁気で吸着する吸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機器や機械などの製造現場では、電子部品、光学部品や機械部品などの被吸着物を吸着して、例えばプリント配線基板上の所定の場所まで搬送したり、組立や加工のために保持したりする吸着装置が使用されている。このような吸着装置には、吸引ノズルから真空吸引して、吸引ノズル内の負圧と大気圧との圧力差により被吸着物を吸着する真空吸着型の装置(例えば特許文献1)や、電磁石に電流を流して磁気を発生させ、鉄などの磁性体製の被吸着物を吸着する磁気吸着型の装置(例えば特許文献2)などがある。
【0003】
磁気吸着型の装置は、真空吸着型の装置と比べて真空ポンプなどの大掛かりな設備が不要であり、被吸着物の吸着面に凹凸や孔があっても安定した吸着が可能であることから、被吸着物が磁性体の場合に数多く用いられている。しかしながら、磁気吸着型の装置では、吸着させている間は常に電磁石に大きな電流を流す必要があり、電力の消費量が大きいという課題がある。電力の消費量が大きいと、ランニングコストが嵩んでしまうだけでなく、電力消費で発熱する電磁石の放熱(冷却)を考慮する必要がある。電磁石の放熱が十分でない場合、被吸着物が温度上昇して、その特性に影響を及ぼしてしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−111155号公報
【特許文献2】特開平5−96486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、被吸着物を吸着するための磁気を電力を消費することなく発生し、被吸着物の吸着及びその解除をすることができる吸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された吸着装置は、被吸着物を磁気で吸着する吸着装置であって、該磁気を発生するための永久磁石と、該永久磁石の一方の極に連結されていて、該被吸着物に接触させる磁性体製の吸着部と、該永久磁石を取り囲む磁性体製の制御筒と、該永久磁石と該制御筒との位置関係を相対的に移動させるための移動手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載された吸着装置は、請求項1に記載されたもので、前記制御筒が、その筒内に前記永久磁石全体を収容可能な大きさに形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載された吸着装置は、請求項2に記載されたもので、前記移動手段が、前記制御筒内に前記永久磁石全体が収容されるように、前記位置関係を相対的に移動可能であることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載された吸着装置は、請求項1から3のいずれかに記載されたもので、前記移動手段が、前記永久磁石の前記一方の極が前記制御筒内から外界に出入りするように、前記位置関係を相対的に移動可能であることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載された吸着装置は、請求項1から4のいずれかに記載されたもので、前記移動手段が、前記永久磁石の他方の極が前記筒状内から外界に出入りするように、前記位置関係を相対的に移動可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の吸着装置は、被吸着物を吸着するための磁気を、永久磁石が発生するので、電磁石のように電力を消費せず、極めて省エネルギーな装置である。また、電力を消費しないので発熱がなく、被吸着物の特性に影響を及ぼすことがない。本発明によれば、永久磁石と、それを取り囲む磁性体製の制御筒との相対的な位置関係を移動させることで、永久磁石の一方の極に連結した磁性体製の吸着部に生じる磁気(吸着力)を制御できるので、被吸着物の吸着とその解除とを行うことができる。
【0012】
制御筒が、その筒状内に永久磁石全体を収容可能な大きさに形成されている場合、永久磁石の一部だけを収容する大きさのものよりも、永久磁石と制御筒との相対的な位置関係を変化させたときの吸着力の制御(可変)範囲を広くすることができる。
【0013】
移動手段が、制御筒内に永久磁石全体が収容される位置に制御筒を移動可能な場合、吸着を解除したときに吸着力が殆ど生じなくなるので、吸着している被吸着物をスムーズに離脱させることができる。
【0014】
移動手段が、永久磁石の少なくとも一方の極が制御筒内から外界に出入りするように、永久磁石と制御筒との位置関係を相対的に移動可能な場合、一方の極が制御筒内に入っているときと、一方の極が制御筒から出ているときとで、吸着力を大きく変化させることができるので、被吸着物の吸着とその解除とを安定して確実に行うことができる。
【0015】
移動手段が、永久磁石の他方の極が筒状内から外界に出入りするように、永久磁石と制御筒との位置関係を相対的に移動可能な場合、吸着力を一層大きく変化させることができるので、被吸着物の吸着とその解除とを一層安定して確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用する吸着装置の使用状態(吸着状態)を示す縦断面図である。
【図2】本発明を適用する吸着装置の使用状態(解除状態)を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明を適用する吸着装置の一例を、図1、図2に示す。両図には、吸着装置1の要部を縦断面図で示している。この吸着装置1は、磁性体製の被吸着物90を磁気で吸着して保持し、例えば所定の場所まで搬送後、被吸着物90の吸着を解除するものである。この吸着装置1は、永久磁石2、吸着部3、固定部4、制御筒5、及びスライド機構6を備えている。また、図示しないが、吸着装置1は、これらの永久磁石2〜スライド機構6を全体的にxyz軸方向に移動させるxyz移動機構を備えている。
【0019】
永久磁石2は、例えばフェライト磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石などの公知の永久磁石であり、被吸着物90を吸着するために必要な強度の磁気を発生する。永久磁石2は、一例として円柱形状又は角柱形状の棒状に形成されており、その棒状端部の一方の極(この例ではN極)が図の下側、他方の極(この例ではS極)が図の上側となる向きで配置されている。なお、永久磁石2の極性を上下逆にして配置してもよい。また、永久磁石2の形状は、棒状が好ましいがこれに限定されず、例えば板状やリング状、球状、四面体状、多面体状などどのような形状であってもよい。
【0020】
吸着部3は、例えば鉄、ケイ素鋼、パーマロイ、ソフトフェライトなどの軟(軟質)磁性体で形成されている。吸着部3に用いる磁性体は、保磁力が小さく透磁率が大きなものであることが好ましい。吸着部3は、一例として永久磁石2と同径、又は多少太めの径で、例えば円柱形状又は角柱形状の棒状に形成されている。この吸着部3の一端は、永久磁石2の一方の極側の端部に、永久磁石2の中心軸と同軸になるように、接着剤などで接着固定されて連結されている。両図に示すように、吸着部3の一端(永久磁石2との連結部)には、永久磁石2の端部が嵌る凹部を有していることが、組立上及び性能上の観点から好ましい。吸着部3の他端は、被吸着物90に接触して、被吸着物90を吸着することから、被吸着物90の吸着部分に合った形状に形成されていることが好ましい。例えば、被吸着物90が平板形状であれば、吸着部3の他端を平坦面形状に形成し、被吸着物90が凸形状であれば、他端を凹形状に形成することが好ましい。
【0021】
固定部4は、プラスチックなどの樹脂や、銅、アルミニウムなどの非磁性金属で例示される非磁性体によって、一例として有底の筒状に形成されている。この固定部4の底(図の下側)の中央部には、吸着部3が丁度通る大きさの孔が形成されている。この孔には、永久磁石2が固定部4の内空に位置するように、吸着部3が通されている。吸着部3は、孔から脱落しないように、接着剤による接着や留め具による締め付けなどの公知の固定方法で固定部4に固定されている。なお、固定部4が筒状であると、その筒内に配置された永久磁石2や後述する制御筒5が筒壁によって保護されるので好ましいが、吸着部3を固定できる構造であれば、形状は筒状に限られず、例えば支柱状、板状、枠状など種々の形状とすることができる。また、筒状の固定部4の内空に塵埃が入らないように、頂部(図の上部側)に蓋をして密封してもよい。
【0022】
制御筒5は、例えば鉄、ケイ素鋼、パーマロイ、ソフトフェライトなどの軟磁性体で形成されている。制御筒5に用いる磁性体は、保磁力が小さく透磁率が大きなものであることが好ましい。この制御筒5は、棒状の永久磁石2の中心軸と同軸で、永久磁石2を取り囲む筒状(例えば円筒状や角筒状)に形成されている。制御筒5は、その筒状内に永久磁石2全体を収容可能な大きさに形成されていることが好ましく、この例では、永久磁石2よりも軸方向の長さが長く形成されていることが好ましい。制御筒5は、その軸方向にスライド移動可能になっている。制御筒5の内壁と、永久磁石2の側壁とは、接触せずにその間隙は均一である。この間隙は、狭い間隙であることが好ましい。
【0023】
スライド機構6は、永久磁石2と制御筒5との位置関係を相対的に移動させるための移動手段の一例であり、永久磁石2と制御筒5との位置関係を変化させることで、吸着部3の磁気による吸着力を制御するものである。この例では、スライド機構6は、制御筒5に連結されていて、制御筒5を軸方向(図の上下方向)に往復移動させる。スライド機構6は、図1に示すように、永久磁石2の両極が筒内から全て出る上方向の位置まで制御筒5を移動可能である。また、スライド機構6は、図2に示すように永久磁石2が筒内に全て入る下方向の位置まで制御筒5を移動可能である。スライド機構6としては、制御筒5を移動可能な機構であれば公知の種々の機構を用いることができる。例えば、スライド機構6は、作業者がレバーを操作してそのレバーの動きで制御筒5を上下動させる手動式の機構であってもよく、電動モータの作動により制御筒5を上下動させる電動式の機構であってもよい。
【0024】
次に、吸着装置1の動作について説明する。
【0025】
吸着装置1に被吸着物90を吸着させる場合、スライド機構6を作動させて、図1に示すように、制御筒5を永久磁石2よりも上方向に移動させる。このように、制御筒5が永久磁石2(及び吸着部3)を取り囲まない状態では、同図中に一点鎖線で示すように、磁束が吸着部3の他端を通る。このため、吸着部3の他端がN極になり、そこに磁性体を吸着する吸着力が発生する。これにより、吸着部3の他端が被吸着物90を吸着する。同図では、吸着部3に吸着した状態の被吸着物90を2点鎖線で示している。
【0026】
一方、吸着装置1に被吸着物90の吸着を解除させる場合、スライド機構6を作動させて、図2に示すように、制御筒5を下方向に移動させる。制御筒5が永久磁石2全体を取り囲むと、同図中に一点鎖線で示すように、磁束が制御筒5の壁内を通って永久磁石2に戻る(磁束が短絡する)ため、吸着部3の他端に殆ど磁束が通らなくなる。このため、吸着部3の他端に磁気による吸着力が殆ど生じなくなる。したがって、被吸着物90の吸着が解除され、被吸着物90が吸着部3から開放される。
【0027】
このように、吸着部3の他端が被吸着物90を吸着する吸着力は、図2のように永久磁石2の全体を制御筒5が取り囲んでいるときに殆ど生じなくなる。この状態からスライド機構6が制御筒5を上方に移動させていくと、永久磁石2の一方の極が制御筒5内から外界に出ていき、吸着部3の他端を通る磁束が増え始め、吸着部3の他端に生じる吸着力が徐々に強くなっていく。図1のように永久磁石2の一方及び他方の両極が制御筒5内から外界に出ると吸着力が最も強くなる。このように永久磁石2と制御筒5との相対的な位置関係で吸着力が変化する。吸着力を強くするためには、スライド機構6が、制御筒5から永久磁石2の両極が出るまで制御筒5を上方に移動させることが好ましいが、吸着力がさほど必要でない場合には、少なくとも永久磁石2の一方の極だけが制御筒5から出る範囲で制御筒5を移動させてもよい。つまり、制御筒5を移動させる位置により、吸着力を制御することができる。吸着力は、永久磁石2の磁気の強さや形状、吸着部3の長さなどの形状、制御筒5の径、長さや壁厚などの形状でも変化するので、これらと制御筒5を移動させる位置とを、対象とする被吸着物90の重量、形状等を勘案して適宜設定することで、被吸着物90を確実に吸着し、また、その吸着を解除することが可能になる。
【0028】
ここで、被吸着物90を吸着するときには、図2のように制御筒5で永久磁石2を取り囲んだ状態、つまり吸着の解除状態で、不図示のxyz移動機構を作動させて、吸着部3の他端を、被吸着物90の所望の吸着位置に接触させてから、図1のように制御筒5を永久磁石2よりも上方に移動させて、被吸着物90を吸着することが好ましい。このように吸着装置1を動作させると、被吸着物90の所望の吸着位置からずれることなく、確実に位置を合わせて吸着部3で吸着することができる。
【0029】
また、被吸着物90を吸着しないときは、図2のように吸着の解除状態にしておくことが好ましい。この状態にしておくと、吸着部3が磁性体を吸着しないので、予期せずに例えば鉄製の工具やビスなどが吸着部3に吸着してしまうことを防止できる。
【0030】
また、被吸着物90の吸着を解除する前に、被吸着物90を接着剤や固定チャック等で搬送先(例えばプリント配線基板)に予め固定してから、図2に示すように制御筒5を移動させて吸着を解除し、その後、被吸着物90から吸着部3を遠ざけるようにxyz移動機構を作動させてもよい。このように動作させると、被吸着物90から吸着部3を遠ざけるときに、図2の吸着の解除状態で吸着部3の他端に小さな吸着力が残っていたとしても、その小さな吸着力によって、吸着部3が被吸着物90を引きずるようにして位置をずらしてしまうことや、吸着部3から被吸着物90が離脱しないことを防止できる。
【0031】
なお、吸着装置1では、固定された永久磁石2及び吸着部3に対して、制御筒5を移動させているが、制御筒5を固定しておいて、永久磁石2及び吸着部3をスライド機構6で移動させる構成にしてもよい。要は、永久磁石2と制御筒5との相対的な位置関係を可変することができればよい。
【0032】
また、制御筒5の大きさは、永久磁石2の一部を取り囲む大きさであってもよい。例えば、制御筒5の軸方向の長さが、永久磁石2の長さよりも短い場合であっても、制御筒5内に永久磁石2が通っているときと、制御筒5内から永久磁石2が出ているときとでは、吸着部3の吸着力が大きく異なる。吸着力が異なることで、被吸着物90の吸着およびその解除をすることができる。
【符号の説明】
【0033】
1は吸着装置、2は永久磁石、3は吸着部、4は固定部、5は制御筒、6はスライド機構、90は被吸着物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着物を磁気で吸着する吸着装置であって、
該磁気を発生するための永久磁石と、
該永久磁石の一方の極に連結されていて、該被吸着物に接触させる磁性体製の吸着部と、
該永久磁石を取り囲む磁性体製の制御筒と、
該永久磁石と該制御筒との位置関係を相対的に移動させるための移動手段とを備えることを特徴とする吸着装置。
【請求項2】
前記制御筒が、その筒内に前記永久磁石全体を収容可能な大きさに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の吸着装置。
【請求項3】
前記移動手段が、前記制御筒内に前記永久磁石全体が収容されるように、前記位置関係を相対的に移動可能であることを特徴とする請求項2に記載の吸着装置。
【請求項4】
前記移動手段が、前記永久磁石の前記一方の極が前記制御筒内から外界に出入りするように、前記位置関係を相対的に移動可能であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の吸着装置。
【請求項5】
前記移動手段が、前記永久磁石の他方の極が前記筒状内から外界に出入りするように、前記位置関係を相対的に移動可能であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の吸着装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate