説明

吹付材料

【課題】高い初期強度が得られる吹付材料を提供することを目的とする。
【解決手段】水とセメントと石こうとを含有するセメント混練物に、急結剤を添加してなる吹付材料において、セメントと石こうの合計100重量部に対し、セメント混練物に含まれるSO3が5重量部を超え、且つ水とセメントと石こうとの3種が互いに接してから急結剤を添加するまでの時間が10分以上であることを特徴とする吹付材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル、地下空間、法面等の建設工事に適する吹付け工法に用いる吹付材料に関し、特に、初期強度が高い吹付材料に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル、地下空間、法面等の建設工事において、吹付けコンクリート等の吹付材料を用いた吹付け工法が用いられている。一般の吹付け工法においては、ベースコンクリート等のセメント混練物と急結剤を別々の輸送管を通して別経路で圧送し、圧送途中で合流混合した後に吹付けノズルの筒先より地山等に吹き付けている。
近年、吹付材料には、施工サイクルを短縮させることによる経済性や作業効率性を向上させる及び吹付け厚さを厚くしなくとも安全性を向上させるために、高い初期強度が得られることが求められている。その例として、セメントとセッコウとを主成分とするセメントモルタルと、カルシウムアルミネートを主成分とする急結剤とを含有してなる吹付材料が知られている(例えば特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、従来技術における吹付材料の初期強度、即ち急結剤をセメント混練物に添加してから、例えば10分後の極めて初期の強度が不足していた。
【特許文献1】特許第3412794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記問題の解決、即ち、高い初期強度が得られる吹付材料を提供することを目的とする。即ち本発明は、急結剤をセメント混練物に添加してから10分後の初期強度が高い吹付材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記課題解決のため鋭意検討した結果、特定の組成を有するセメント混練物に、セメント混練物調整後10分以上経過してから急結剤を添加することで急結剤をセメント混練物に添加してから10分後(即ち材齢10分)の高い初期強度が得られることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、水とセメントと石こうとを含有するセメント混練物に、急結剤を添加してなる吹付材料において、セメントと石こうの合計100重量部に対しセメント混練物に含まれるSO3が5重量部を超え、且つ、水とセメントと石こうの3種が互いに接してから急結剤を添加するまでの時間が10分以上として使用するものであることを特徴とする吹付材料を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高い初期強度を有する吹付材料が得られる。また、急結剤をセメント混練物に添加してから10分後という極めて初期材齢において強度が高い吹付材料が得られる。地山等に吹き付けた吹付材料の初期強度が高いので、施工サイクルを短縮させることができ且つ安全性が高い吹付材料が得られる。また、施工サイクルを短くできるので、施工コストを抑制することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の吹付け材料は、水とセメントと石こうとを含有するセメント混練物に、急結剤を添加してなる吹付材料において、セメントと石こうの合計100重量部に対しセメント混練物に含まれるSO3が5重量部を超え、且つ水とセメントと石こうの3種が互いに接してから急結剤を添加するまでの時間を10分以上として使用することを特徴とする吹付材料である。
水とセメントと石こうの3種が互いに接してから急結剤を添加するまでの時間を10分以上とすることが必要であり、10〜120分とすることが、高い初期強度且つ良好なコンシステンシーの吹付材料が得られることから好ましい。10分未満では材齢10分の初期強度が不充分である。また、120分を超えると吹付材料のコンシステンシーが低下し、吹付け施工に支障を与える場合がある。水とセメントと石こうの3種が互いに接してから急結剤を添加するまでの間、セメント混練物は静置しても良いが、アジテータ等で低速撹拌することが好ましい。
【0008】
本発明に使用する石こうは、無水石こう、半水石こう、ニ水石こうから選ばれる一種又二種以上を用いることができる。無水石こうは、III型無水石こう及びII型無水石こうが挙げられる。初期強度がより高くなることから、III型無水石こう及び/又は半水石こうを含有する石こうが好ましく、更にIII型無水石こうと半水石こうを合わせて50〜100重量%含有する石こうがより好ましい。
また、石こうの粉末度は、より少ない石こうの使用量で高い初期強度が得られることか
ら、ブレーン比表面積で3000cm2/g以上が好ましく、4000〜10000cm2/gがより好ましい。
セメント混練物に石こうを含有させる方法は、特に限定されず、例えばセメント中に含有させても、急結剤を除く混和材料中に含有させても、又別途石こう単独で混和しても良く、これらを組み合わせても良い。
【0009】
本発明の吹付材料に使用する石こうの量は、セメントと石こうの合計100重量部に対し、セメント混練物に含まれるSO3が5重量部を超える量とする。セメント混練物に含まれるSO3が5重量部以下では吹付材料の初期強度が不足する。吹付材料の長期強度が高くなることから、好ましくは5重量部を超え20重量部以下、より好ましくは5重量部を超え15重量部以下、最も好ましくは5重量部を超え10重量部以下である。
【0010】
本発明に使用するセメントは、普通、早強、超早強、中庸熱、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメント、或いは、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰等の廃棄物を原料として利用したエコセメント等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用することができる。高い初期強度が得られることから、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント又はエコセメントから選ばれる一種又は二種以上を使用することが好ましい。
【0011】
本発明で使用するセメント混練物には、少なくとも水、セメント及び石こうが含まれ、本発明の効果を損なわない範囲で、必要により更にモルタルやコンクリートで使用可能な骨材や混和材料を添加しても良い。
【0012】
骨材としては、例えば、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石及び人工骨材等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用することができる。
また、混和材料としては、例えば、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤及び流動化剤を含む減水剤、シリカフューム等のポゾラン、高炉スラグ等の潜在水硬性物質、石粉、樹脂エマルション、膨張材、起泡剤、発泡剤、防錆剤、顔料、繊維、撥水剤、防水材、消泡剤、凝結遅延剤、硬化促進剤、粉塵低減剤、収縮低減剤、増粘剤、水中不分離性混和剤等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を本発明による効果を阻害しない範囲で使用することができる。
【0013】
上記セメント混練物は、水、セメント及び石こう、並びに必要により添加する骨材及び混和材料を、モルタルミキサやコンクリートミキサ等のミキサにより混練してなる。各材料の添加順序は特に限定されない。一種ずつ添加していってもよく、一部又は全部を同時に添加してもよい。
【0014】
本発明に使用する急結剤としては粉末急結剤や粉末急結剤に液体を混合したスラリー状急結剤、液体急結剤等が挙げられる。急結剤はいずれの形状でも使用可能であるが、粉末急結剤が好ましく、カルシウムアルミネート類を含有した粉末急結剤であることがより好ましい。
【0015】
カルシウムアルミネート類としては、カルシウムアルミネート、カルシウムハロアルミネート、カルシウムナトリウムアルミネート、カルシウムサルホアルミネート並びにこれらにSiO2、K2O、Fe23、TiO2等が固溶又は化合したもの群から選ばれる一種又は二種以上を用いることができる。これらのカルシウムアルミネート類は、化合物、固溶体、ガラス質又はこのうち二種以上が共存するものであっても良い。
【0016】
用いるカルシウムアルミネート類の粉末度は、吹付材料の初期強度が高いことから、ブレーン比表面積で3000cm2/g以上が好ましく、5000cm2/g以上がより好ましい。また、粉末急結剤にはカルシウムアルミネート類の他に各種の炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、アルミン酸塩、水酸化物、酸化物等の配合も可能である。
【0017】
本発明の吹付材料を製造する方法及び使用する方法は、特に限定されない。例えば、上記セメント混練物と上記急結剤を別々の輸送管を通して別経路で圧送し、圧送途中でY字管等で合流混合することで製造する。このとき、セメント混練物を調整してから、急結剤との接触までの時間を10分以上になるように制御する。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明を説明する。
[使用材料]
セメント:普通ポルトランドセメント(SO3量:2.5重量%)
高性能減水剤:ポリカルボン酸系高性能減水剤(商品名;NT−1000,(株)エヌエムビー製)
細骨材:海砂(密度:2.56g/cm3,粗粒率:2.26)と石灰石砕砂(密度:2.66g/cm3,粗粒率:3.04)の6:4(重量比)の混合物
粗骨材:砕石(密度:2.72g/cm3,最大寸法:15mm)
石こう1〜5:
石こう1:II型無水石こう(ブレーン比表面積:6200cm2/g,SO3量:58.5重量%)
石こう2:半水石こう(ブレーン比表面積:4000cm2/g,SO3量:55.2重量%))
石こう3:石こう1と石こう2を重量比で9:1とした混合物
石こう4:石こう1と石こう2を重量比で5:5とした混合物
石こう5:石こう1と石こう2を重量比で1:9とした混合物
石こう6:III型無水石こう(ブレーン比表面積:5800cm2/g,SO3量:57.0重量%)
急結剤:12CaO・7Al23組成の非晶質からなるカルシウムアルミネート粉末とアルミン酸ナトリウム粉末を9:1とした混合物
【0019】
[貫入抵抗試験による初期強度発現性評価]
内径12cm、深さ16cmの円筒型ポリ容器に普通ポルトランドセメント500gに石こう50gを混合した粉体550gを投入し、水244gと高性能減水剤6gを加え、直径4cmの撹拌羽付ハンドミキサを用いて1000rpmの回転数で1分間混合しセメント混練物に相当するセメントペーストを製造した後、所定時間静置した。
所定時間静置したセメントペーストを1分間さらに混合し、急結剤45gを添加して5秒間攪拌し、吹付材料に相当する急結性セメントペーストを作製した。この作製した急結性セメントペーストに、先端が平面な直径2mmの丸鋼からなる貫入針を1インチ貫入させたときの抵抗値、即ちプロクター貫入抵抗値を、急結剤の添加10分後に測定した。このプロクター貫入抵抗値は、吹付材の初期強度特性を示すものである。
【0020】
表1に、用いた石こうの種類と静置時間と各急結性セメントペーストのプロクター貫入抵抗値の結果及びその評価を示した。
【0021】
評価基準は、材齢10分のプロクター貫入抵抗値が70N/mm2以上である場合を良好とし、70N/mm2未満を不良と評価した。プロクター貫入抵抗値が70N/mm2以上であれば、圧縮強度で3N/mm2以上であることを意味する。
【0022】
また、セメント混練物に相当する各セメントペーストにおける、セメントと石こうの合計100重量部に対しセメント混練物に含まれるSO3量は、石こう1を用いた場合7.59重量部、石こう2を用いた場合7.29重量部、石こう3を用いた場合7.56重量部、石こう4を用いた場合7.44重量部、石こう5を用いた場合7.32重量部、石こう6を用いた場合7.45重量部であった。
【0023】
【表1】

【0024】
石こう1〜6を含むセメントペーストを用い、静置時間(水とセメントと石こうを混合してから急結剤を添加するまでの時間)10〜60分とした試験No.11〜27において、すべてのプロクター貫入抵抗10分値が80N/mm2以上であり、良好な初期強度を示した。特に、半水石又はIII型無水石こうを含む石こう2〜6を用いたセメントペーストを用い、静置時間10〜60分とした試験No.12〜16、18〜27のプロクター貫入抵抗10分値は90N/mm2以上と高い値を示した。更に、半水石こう又はIII型無水石こうを50重量%以上含む石こう2、4、5及び6を用いたセメントペーストを用い、静置時間10〜60分とした試験No.12、14〜16、18、20、21、23〜27のプロクター貫入抵抗10分値は100N/mm2以上と更に高い値を示した。
また、水とセメントと石こう(石こう1〜5)の3種が互いに接してから急結剤を添加するまでの時間が10分未満である試験No.1〜10の吹付材料のプロクター貫入抵抗10分値は70N/mm2未満であり、初期強度が不十分であった。
【0025】
[吹付材料の引抜き方法による初期強度試験]
表2に示す配合のセメント混練物に相当するベースコンクリートを容量100リットルのパン型ミキサで練混ぜ、製造した。練混ぜ方法は、粗骨材、細骨材の一部、セメント、石こう、細骨材の残りの順序でミキサ内に投入し、15秒間混合した後に、別途混合した水及び高性能減水剤をミキサ内に投入し、1分間練混ぜた。
製造したベースコンクリートは、所定時間アジテータで低速攪拌を行った後に、吹付け装置(商品名「アリバ260」)を使用して圧送し、急結剤を急結剤供給装置(日本プライブリコ(株)製,商品名「Qガン」)を使用して圧送し、Y字管でベースコンクリートと急結剤とを合流混合させ吹付けコンクリート即ち吹付材料を製造した。
このときの急結剤の添加量は、セメント100重量部に対して9.0重量部とした。
また、ベースコンクリートそれぞれの、セメントと石こうの合計100重量部に対するベースコンクリートに含まれるSO3量は、ベースコンクリートAが6.65重量部、ベースコンクリートBが6.40重量部であった。
【0026】
吹付材料の施工性評価として、吹付材料の初期強度として、JSCE−G 561−1999「引抜き方法による吹付けコンクリートの初期強度試験方法」に従い材齢10分の引抜き強度を測定し、この引抜き強度の値を4倍することで、圧縮強度を求めた。
引抜き強度を換算することで求めた圧縮強度、使用した石こうの種類と攪拌時間を合わせて表3に示す。
攪拌時間は、上記混合した水をミキサ内に投入してから攪拌終了までの時間である。また、試験No.30及び31(攪拌時間5分)において、水をミキサ内に投入してから吹付け終了までに要した時間は、何れも8分以内であった。
【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
本発明の吹付材料の実施例である試験No.28及び29の吹付材料は、急結剤をセメント混練物に添加してから10分後の初期強度、即ち材齢10分の圧縮強度が3.0N/mm2以上と高い値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、地山等に吹き付けた吹付材料の初期強度が高いので、トンネル建設工事等のコンクリートを吹き付ける建設工事に好適に用いることができる。吹き付けた吹付材料の初期強度が高いので、工期を短くする必要のある建設工事に、特に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水とセメントと石こうとを含有するセメント混練物に、急結剤を添加してなる吹付材料において、セメントと石こうの合計100重量部に対しセメント混練物に含まれるSO3が5重量部を超え、且つ水とセメントと石こうの3種が互いに接してから急結剤を添加するまでの時間を10分以上として使用することを特徴とする吹付材料。
【請求項2】
前記石こうが、III型無水石こう及び/又は半水石こうを含有することを特徴とする請求項1記載の吹付材料。

【公開番号】特開2007−99608(P2007−99608A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160692(P2006−160692)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】