説明

呈味改善材

【課題】飲食物の外観に変化をきたすことなく飲食物に含まれる雑味を除去できるうえ、飲食物にコク味,まろ味,甘味等を付与する呈味改善材を得る。
【解決手段】本発明にかかる呈味改善材は、少なくともカリウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物が溶解している水溶液を含浸させた竹炭を焼成して得た竹炭を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食物が持つ良い風味を崩すことなく呈味を改善することができる呈味改善材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲食物の呈味を改善するものとして、特許文献1において木炭の吸着能を用いてウィスキーの香味を改善する手法が提案されている。また、飲食物にコク味、うま味等を付与する方法として、飲食物に苦汁を添加する方法が知られている。
【特許文献1】特開平09−206060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、呈味改善を天然の木材から作製した木炭により行うため、呈味改善の結果にばらつきが大きく、また木炭の持つ吸着能が低いため飲食物中の雑味除去を十分に行うことができなかった。また、苦汁を飲食物に添加する方法では、苦汁が飲食物と反応して飲食物に白濁や澱が生じる問題があり、また呈味改善の効果も芳しくなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載の発明は、少なくともカリウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物が溶解している水溶液を含浸させた竹炭を焼成して得た竹炭を含む、呈味改善材である。
請求項2に記載の発明は、カリウム化合物およびカルシウム化合物が、竹炭に溶融固化した状態で添着されている、請求項1に記載の呈味改善材である。
請求項3に記載の発明は、水溶液が、苦汁である、請求項1または請求項2に記載の呈味改善材である。
【発明の効果】
【0005】
本発明にかかる呈味改善材によれば、飲食物の外観に変化をきたすことなく飲食物に含まれる雑味を除去できるうえ、飲食物にコク味,まろ味,甘味等を付与して飲食物の呈味を改善することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1は、本発明にかかる呈味改善材の微細構造を示す走査型電子顕微鏡写真である。図2は、図1に示す呈味改善材をさらに拡大して撮影した走査型電子顕微鏡写真であり、図3は、またさらに拡大して撮影した走査型電子顕微鏡写真である。本発明にかかる呈味改善材は、大略、竹炭と、竹炭に添着された呈味改善物質とから構成されている。
【0007】
竹炭は、呈味を改善する飲食物と接触することで、飲食物に含まれる雑味等の原因となる成分を吸着するものである。また、竹炭は、雑味成分を吸着する働きの他に、呈味改善物質を担持する担体としての役目も担っている。竹炭の原材料とする竹材には、乾留炭化できる竹材であればどのようなものが用いられてもよいが、竹炭細片に高い吸着能を備えた竹炭を用いることが望ましいことから、吸着能を発現するのに適した細孔分布で細孔容積の多い竹炭ができる孟宗竹、真竹を用いるのが好ましい。さらに竹材は、作製する竹炭の細孔分布が出来るだけ均一となるように、十分に乾燥させた竹材を使用するのが好ましい。竹材は、適当な大きさに裁断された後、従来からある製炭方法により竹炭とされる。なお、竹材を乾留炭化する条件としては、竹炭の吸着能が最も発現されるように、吸着能に優れた細孔分布となり、細孔容積が最も大きくなる炭化温度で焼成されることが望ましい。最適な炭化温度で焼成された竹炭は、図4および図5に示すように、多数の細孔を備え、これらの細孔によって優れた吸着能を発現する。発明者の試験では、竹炭の細孔容積は、炭化温度が600°C付近から急激に増加し、650〜900°C付近で細孔容積が最大に達する結果がでたが、用いる製炭方法や竹材の種類により変化するので使用する製炭方法、竹材に応じて適宜な炭化温度で乾留炭化されればよい。
【0008】
竹炭の大きさは、水溶液を全体に含浸させることや飲食物との接触効率を考慮すると、できるだけ小さいサイズに粉砕されていることが望ましいが、あまりに小さいと飲食物中に呈味改善材が混入する恐れがあるため、呈味改善を行った後に呈味改善材を確実に除去できる大きさに粉砕されているのが好ましい。たとえば、呈味を改善する飲食物が飲料である場合には、呈味改善を行った後に、呈味改善材がろ過処理や遠心分離処理等により容易に除去できる大きさが好ましく、また、飲食物が食肉等の固形物である場合には、手作業や機械等で容易に除去できる大きさに破砕されているのが好ましい。
【0009】
竹炭には、上述したように、呈味改善物質が添着されている。呈味改善物質は、水分を含む飲食物と接触したときに適量溶出することで飲食物の呈味を改善するものである。呈味改善物質には、少なくともカリウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物が用いられる。具体的に例示すると、カリウム化合物には、塩化カリウム、マグネシウム化合物には硫酸マグネシウム,塩化マグネシウム,酸化マグネシウム、カルシウム化合物には、塩化カルシウム、硫酸カルシウムを用いることができる。これらの化合物単体では、それぞれ、塩化カリウムが苦みのある塩味、硫酸マグネシウムが深い苦味、塩化マグネシウムおよび酸化マグネシウムが苦味、塩化カルシウムがえぐ味と苦味、硫酸カルシウムがほとんど無味と認識される。しかし、これらの化合物を混合して溶融固化した状態に竹炭に添着させ、この炭を飲食物と接触させることで飲食物中にこれらの化合物が微量溶解し、味覚の対比効果により飲食物にうま味、コク味、甘味等を付与することができる。
【0010】
呈味改善材を構成する化合物を混合して溶融固化した状態で竹炭に添着するには、呈味改善材を構成する化合物の少なくとも1つが溶融する温度で竹炭を加熱することで行う。以下、その方法について詳細に説明を行う。まず、上述した呈味改善物質を精製水等の水に溶解し水溶液を作製する。呈味改善物質には、硫酸カルシウムや酸化マグネシウムなどのように水にほとんど不溶又は難溶のものが含まれているが可能なかぎり溶解させることが望ましいが、それが困難な場合には、竹炭に均一に付着するようにできるだけ水に均一に分散させた状態とすることが望ましい。この水溶液を竹炭に含浸させた後、竹炭に含浸された水分を蒸発させるために乾燥処理を行う。なお、竹炭に水溶液を含浸させるときには、超音波等により振動を加え、竹炭の細孔内にも水溶液が十分行きわたるように浸漬させるのが好ましい。そして、乾燥後の竹炭を呈味改善物質の融点以上の温度で加熱する。本実施形態では、カリウム化合物およびカルシウム化合物のほとんどが700〜800°C付近に融点があることから加熱温度を820°Cとした。この温度で竹炭を加熱することで溶融した化合物により呈味改善物質全体が混ぜ合わされ、加熱を終えたときには、竹炭の細孔をすべて閉塞することなく、溶融しなかった呈味改善物質が非晶質な状態に固化した呈味改善物質の中に混ぜ合わされた状態で竹炭に添着される。なお、本実施形態では、加熱温度を820°としたが、本発明ではこれに限らず、呈味改善材を構成する化合物の少なくとも1つが溶融する温度で竹炭を加熱されればよい。
【0011】
引き続き、本発明にかかる呈味改善材の別の実施の形態について説明を行う。本実施形態においても、竹炭は上述の実施形態と同じものを使用する。上述の実施形態と異なる点は、呈味改善物質を含む水溶液に、苦汁を使用したことである。苦汁とは、海水からつくった鹹水を煮詰め、析出した食塩を取り除いた残液である。採鹹方法にはイオン交換膜法や塩田法等があるが、この発明においてはいずれの方法で採鹹した鹹水を用いてもよい。苦汁では、上述の実施形態で用いた呈味改善物質を含むうえ、その他微量成分が数多く含まれている。これにより、水溶液に苦汁を用いた場合には塩化ナトリウムやその他色々な微量元素が含まれることで、上述の実施形態よりコク味を飲食物に付与することができる。なお、本実施形態に適用する苦汁には、成分調整を行った苦汁,成分調整を行っていない苦汁の双方が適用可能であり、成分調整を行う場合には、任意の化合物を増強するなどしてもよい。
【0012】
上述の2つの実施形態では、説明した構成・処理としたことにより竹炭が持つ吸着能で飲食物に含まれている雑味を吸着し、竹炭に混合して溶融固化した状態で添着させた呈味改善物質が飲食物に溶解することにより飲食物にコク味、うま味、甘味等を付与することができる。また、呈味改善の際に呈味改善物質が飲食物中に一気に溶出することがないので、急激に飲食物の味が変わることもなく、飲食物に白濁や澱が生じないので外観に変化をもたらすことがない。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。請求項に記載した範囲内で適宜変更することにより、所望の呈味改善材が作製されればよい。
【0014】
竹材には、真竹を適当な大きさに裁断して十分に乾燥させたものを使用した。この竹材を650°Cの炭化温度で乾留炭化させて竹炭を作製した。これにより得た竹炭は、比表面積320m/g、細孔容積0.1515ml/g、平均細孔直径1.9nmであった。この竹炭を粉砕機で粉砕し、大きさ0.5〜1.0mmの竹炭の細片とした。竹炭細片を流水で洗浄した後、精製水を用いた超音波洗浄を1時間行って、竹炭の表面や細孔内部に付着している不純物を除去した。
【0015】
本実施例では、呈味改善物質を含む水溶液として苦汁を用いた。用いた苦汁は、イオン交換膜法により採鹹し製造した苦汁である。今回使用した苦汁の成分および比重を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
乾燥直後の竹炭の細片を苦汁に浸漬させて、苦汁を含浸させた。竹炭細片と苦汁との比率は、重量比率で竹炭細片:苦汁=2:10である。竹炭細片を苦汁中に浸漬させるだけでは、竹炭の表面や細孔中に気泡が付着したままの状態にあり、迅速に苦汁が浸透されないため、気泡を消失させるために超音波の照射を行った。気泡が消失しているのを確認した後、苦汁が十分に浸透するように24時間浸漬させた。
【0018】
苦汁を含浸させた竹炭細片を流水で洗浄後、乾燥機を用いて十分に乾燥させた。その後、竹炭細片を酸化雰囲気下820°Cの温度で1時間焼成した。これにより、竹炭細片に浸透していた呈味改善物質は、マグネシウム化合物等の融点が高い化合物以外の化合物が溶融した後、非晶質の状態に固化し、呈味改善物質が混合した状態で竹炭の表面及び細孔内に添着される。添着前と添着後における竹炭の成分変化を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
実施例1の呈味改善材の効果を確認するために、新酒の泡盛の呈味改善を行った。呈味改善は、泡盛中に実施例1の呈味改善材を一定時間浸漬させて行った。新酒の泡盛は、本来、特有の臭みと舌を刺すような味覚(トゲ味)を持っているが、本実施例の呈味改善材により呈味改善を行うことで、これらの臭みとトゲ味が緩和されたうえ、味に円やかさを付与することができた。
【0021】
さらに、本発明の効果を確認するために、梅酒を連続蒸留してつくったスピリッツに対して呈味改善を行った。このスピリッツは、梅酒の香りがほんのりと香り良い風味を持っているが、連続蒸留を行ったために蒸留酒独特のエグ味が出ており、また、味のコクがない状態であった。しかし、このスピリッツ中に実施例1の呈味改善材を一定時間浸漬させることで、エグ味が緩和されたうえ、コク味、甘味を付与することができた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明にかかる呈味改善材の微細構造を示す走査型電子顕微鏡写真である(倍率100倍)。
【図2】図1に示す呈味改善材をさらに拡大して撮影した走査型電子顕微鏡写真である(倍率1500倍)。
【図3】図1に示す呈味改善材をまたさらに拡大して撮影した走査型電子顕微鏡写真である(倍率2500倍)。
【図4】竹炭の微細構造を示す走査型電子顕微鏡写真である(倍率100倍)。
【図5】竹炭の微細構造をさらに拡大して撮影した走査型電子顕微鏡写真である(倍率3000倍)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともカリウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物が溶解している水溶液を含浸させた竹炭を焼成して得た竹炭を含む、呈味改善材。
【請求項2】
前記カリウム化合物および前記カルシウム化合物が、前記竹炭に溶融固化した状態で添着されている、請求項1に記載の呈味改善材。
【請求項3】
前記水溶液が、苦汁である、請求項1または請求項2に記載の呈味改善材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−39093(P2009−39093A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232060(P2007−232060)
【出願日】平成19年8月11日(2007.8.11)
【出願人】(394010506)
【Fターム(参考)】