説明

周波数特性自動調整回路

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、周波数特性を外部から制御してフィルタ回路の周波数特性を自動的に所望の特性に調整する周波数特性自動調整回路に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の周波数特性を自動的に調整する回路には、特開平63−184412号公報に記載されているような回路があり、図3はこのシステムを示すものである。基準信号発生回路30において、時定数検出回路31の動作クロックを発生する。時定数検出回路31ではこのクロックにより、フィルタに用いる時定数と相関のある時定数を充放電し、鋸状の山形波形を作成して、この波形のピーク値をホールドし、時定数の情報を直流電圧の情報に変換する。時定数検出回路31で変換された直流電圧を直流比較回路32に入力し、所定の内蔵電圧と比較する。比較結果を外付けのコンデンサCoにて平滑し、その直流電圧に基づいて時定数検出回路31の充放電電流を制御する。
【0003】したがって、この時定数調整電流は、所望の値から時定数が変動したり、ばらついたりしたときに、その誤差をキャンセルするように変化し、フィルタの周波数特性はそのような場合でも一定かつ安定になる。
【0004】フィルタリングする入力信号を入力端子INから入力されたフィルタ回路33は、その周波数特性を外部から制御可能である。図3のフィルタ回路33は電流制御形とする。直流比較回路32により作成された時定数調整電流は、フィルタ回路33にも供給し、フィルタ内の時定数ばらつきをキャンセルして、出力端子OUTに常に一定の安定した周波数特性を持った出力が得られるようにする。
【0005】図3のシステムでは、調整後のフィルタ特性が所望の特性からずれ易いという根本的な弱点がある。その原因の1つは、調整すべきフィルタ回路33の時定数と時定数検出回路31で検出する時定数が通常同一にはできない点にある。もう1つはフィルタ回路33の動作はリニアな領域であるのに対し、時定数検出回路31の動作はスイッチング領域なので、正確にフィルタの時定数とトラッキングが取れないという点である。実際のIC回路ではこの調整誤差は10%以上にも達する。
【0006】また、時定数検出回路31をフィルタ回路33と同様の回路で構成し、特性のトラッキングに努めたとしても、上記理由により完全に動作が一致していないので、温度ドリフトを起こし易い。常温±50℃の温度範囲で、ドリフトが数%となるのが一般的である。これがフィルタの仕様限界を超えることさえある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記した従来の周波数特性自動調整回路では、調整後のフィルタ特性が所望の特性からずれ易いというほかに、温度ドリフトを起こし易いという問題があった。
【0008】この発明は、ドリフトや調整誤差が発生しにくくするとともに、基準信号に対する制約の少ない、周波数特性自動調整回路を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】この発明の周波数特性自動調整回路では、時分割で調整とフィルタリングを行い、調整期間では基準信号を入力信号同様フィルタ回路に通し、このフィルタ回路内から出力可能な移相信号を取り出し、基準信号と移相信号を位相比較して、まず基準信号でフィルタを調整し、フィルタ処理する期間では所望の周波数に、ある所定の比で調整値をシフトすることにした。
【0010】
【作用】上記した手段により、基準信号をフィルタに通すことから入力信号に対する動作と全く同じになり、動作状態の違いによる誤差が発生しない。また、基準信号に対して調整した後にフィルタ回路の周波数特性をシフトするので、所定の比にドリフトがなければ、ドリフトも発生しない。
【0011】
【実施例】以下、この発明の実施例につき、図面を参照して詳細に説明する。図1はこの発明の一実施例を示す、システム図である。図1において、入力信号をスイッチSWの一方の固定端子Saを入力端子INに接続し、他方の固定端子Sbを基準信号発生回路10の基準信号出力に接続する。スイッチSWの出力端子Scを、外部から周波数特性の制御が可能なフィルタ回路11に入力する。フィルタ回路11は内部信号により、入力された信号に対して、位相が0度の信号と90度の信号をそれぞれ出力する。各位相信号を位相比較回路12に入力し、比較結果を外付けのコンデンサCoにより平滑する。平滑電圧に基づいて直流電流源IBの電流を制御する。直流電流源IBの電流は、DAコンバーター(DAC)回路13の基準電流としてここに流す。
【0012】DAC回路13の出力電流Ioは、フィルタ回路11の周波数特性を制御する制御端子に接続する。DAC回路13はデコード値制御回路14からの信号を入力する。デコード値制御回路14,スイッチSWおよび位相比較回路12は外部からの制御端子Ctに供給された調整タイミングパルスPaにより動作状態を制御する。
【0013】図1に構成されたシステムを、SECAM方式テレビジョン受像機に用いられるベルフィルタに適応した場合を例にとり、その動作を説明する。基準信号発生回路10は、PAL方式色副搬送波発振回路の発振信号fscを用いるものとする。また、調整タイミングパルスPaは垂直帰線期間のブランキング信号であると想定し、フィルタ回路11は電流制御可能なベルフィルタとする。調整タイミングパルスPaにより垂直帰線期間にフィルタ回路11の自動調整を行い、それ以外の期間では所望の周波数特性で動作する状態について説明する。
【0014】垂直帰線期間ではスイッチSWは固定端子Sb側に倒れ基準信号を出力しており、位相比較回路13は動作状態、デコード値制御回路12ではDAC回路13に対し基準信号に対応するデータを出力している。基準信号発生回路10から出力された基準信号は、スイッチSWを通りフィルタ回路11に供給する。このとき、フィルタ回路11の内部に、基準信号に対し0度の位相を持つ信号と90度の位相を持つ信号が存在する。これら信号を取り出し、位相比較回路12に入力する。フィルタの特性が設定した周波数特性通りになっていれば、0度と90度の位相差を持つが、設定からずれている場合には、90度位相の信号が現実には90度からずれる。位相比較回路12ではこのずれを検出し、コンデンサCoにより平滑し、直流電圧を発生する。
【0015】この直流電圧によりDAC回路13の基準電流である直流電流源IBの電流を制御する。DAC回路13のデコード値が10進数で「30」という値であるとすると、出力電流Ioは「30」という正規化された値をもつことになる。直流電流源IBの電流変化により「30」という値は変化しないが、出力電流Ioの絶対値は変化する。従って、周波数特性が設計した値からずれている場合には、位相誤差により、IBすなわちIoが増減し、フィルタ周波数特性を制御する。最終的にこのシステムが収束する点は0度と90度信号の位相差が正確に90度になる点であり、この点は正確に基準信号の周波数と一致する。
【0016】調整期間外でスイッチSWは入力信号側に倒れ、位相比較回路12はカットオフし、デコード値制御回路14は調整データとある比にある数になるようデータを出力する。位相比較回路12はカットオフであり、コンデンサCoの容量に対し充放電を行わない。従って、コンデンサCoの電位は保持され、直流電流源IBへの制御状態を保持し、その電流値も保持する。この期間でDAC回路13のデコード値は10進数で「29」であるとすると、調整期間の値から「29/30」に電流が減少することになる。従って、フィルタの制御電流Ioが変化することから、フィルタの周波数特性も「29/30」だけシフトする。シフトした後は入力信号に対して所望の特性が得られるようにデコードしてあるので、ベルフィルタとして良好に動作する。
【0017】このようにすると、調整の対象であるフィルタ回路11に基準信号を通し、出力を検出することができるので、時定数検出回路31とフィルタ回路33の間で発生した、トラッキングエラーをなくすことができる。また、常にフィルタの周波数特性そのものをチェックするので、従来動作モードの違いに起因していたドリフトを追放することができる。
【0018】図2の周波数特性図を用いてさらに説明する。ー例としたベルフィルタは、図2に示すような釣り鐘形をしており、中心周波数で位相回転が起こる。例えば2次伝達関数で表現されるような伝達関数をフィルタ回路11が持つとすると、フィルタ回路11の内部には、バンドパス系のフィルタであれば中心周波数で、ローパス・ハイパス系のフィルタであれば−3dB周波数で90度の位相回転を発生する回路部分がある。その部分から信号を抽出すればよい。
【0019】まず調整期間ではPALのfscである4.433619MHzを入力し、フィルタ回路11の中心周波数がfscに等しくなるよう調整する。その後入力信号を通過させる期間ではデコード値のシフトによりfsc×29/30=4.2858MHz とする。ベルフィルタの規格では中心周波数は4.286MHzであり、上記値は200Hz程ずれている。このずれは現実的には無視できるオーダーであり、実動作上全く問題にならない。別に、DAC回路13の各ビットに対する重み付けを行えば、この200Hz誤差もゼロにすることができる。
【0020】このようにすれば、PALのfscを使ってベルフィルタの調整を行うことができ、温度やばらつきに対して安定な特性を得ることができる。
【0021】上記した実施例では、SECAM方式テレビジョン受像器のベルフィルタを用いたが、他のフィルタについても同様に調整が可能である。故意に自動調整の収束点を変えたい場合にはデコード値を変えればよく、DAC回路13のビット精度との関係において最適に設定することが可能である。
【0022】ベルフィルタに適用する場合のデコード値も「29/30」にとどまらず、様々な設定値が考えられる。例えば、29/30の整数倍値である、29・N/30・N(N=1,2…)やその前後の値である、(29・N±1)/(30・N±1)(複合同順)などが候補として上げられる。
【0023】以上の説明では、基準信号としてfsc信号を用いたが、他の信号を用いてもこの発明の主旨に逸脱しない範囲で種々変形可能である。たとえば、整数比のデコード値によるシフトで周波数特性をシフトすることができるので、基準周波数に対する制約も非常に少ない。
【0024】また、特にバンドパス系のフィルタを調整するときに問題になるのは、調整を開始するときにフィルタのずれが大きく、基準信号がフィルタの阻止領域に入っているときである。このようなときは、位相比較器の入力信号レベルが微小になる可能性があるので、これを増幅するために増幅回路をそれぞれの位相信号に対し挿入しておけば良い。
【0025】
【発明の効果】以上説明したように、この発明の周波数特性自動調整回路によれば、ドリフトや調整誤差が発生せず、かつ基準信号に対する制約が少ない、周波数特性の自動調整が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例を示すシステム図。
【図2】図1を説明するための特性図。
【図3】従来のシステム図。
【符号の説明】
IN…入力端子、10…基準信号発生回路、11…フィルタ回路、12…位相比較回路、13…DAC回路、14…デコード値制御回路、SW…スイッチ、Ct…制御端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 外部からその特性の制御が可能であるとともに、内部に入力された信号に基づいて位相差を持った信号をそれぞれ生成する機能を備えたフィルタ回路と、前記フィルタ回路の入力信号の経路を、フィルタリングすべき信号と基準信号発生回路からの基準信号とを選択的に切り換えるスイッチ手段と、前記フィルタ回路の内部から90度の位相差を持つ信号を取り出す手段と、前記90度位相差を持つ各信号を位相比較する比較回路と、前記比較回路比較結果に基づき制御される基準バイアスを発生する基準バイアス発生手段と、前記基準バイアス発生手段の基準バイアスに比例した第1のデコードバイアス値を出力するD/A変換回路と、前記D/A変換回路の出力によりフィルタ特性を制御する手段と、前記D/A変換回路のデコードバイアス値を、第1の値からこれと異なる第2の値に切り換える制御回路と、前記D/A変換回路、位相比較回路およびスイッチ手段の状態を切り換えるタイミング制御手段とからなることを特徴とする周波数特性自動調整回路。
【請求項2】 前記フィルタ回路内で生成される異なる信号の位相差は、90度であることを特徴とする請求項1記載の周波数特性自動調整回路。
【請求項3】 基準信号にPAL方式TV信号の色副搬送波を用い、フィルタ回路にSECAM方式ベルフィルタ回路を用い、第1のデコード値を30(10進数)の整数倍に、第2のデコード値を29(10進数)の整数倍にとり、タイミング制御を垂直帰線期間に行うことを特徴とする請求項1記載の周波数特性自動調整回路。
【請求項4】 第1のデコード値を30(10進数)の整数倍±1とし、第2のデコード値を29(10進数)の整数倍±1(複合同順)とすることを特徴とする請求項1記載の周波数特性自動調整回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】特許第3135374号(P3135374)
【登録日】平成12年12月1日(2000.12.1)
【発行日】平成13年2月13日(2001.2.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−225640
【出願日】平成4年8月25日(1992.8.25)
【公開番号】特開平6−77817
【公開日】平成6年3月18日(1994.3.18)
【審査請求日】平成10年3月3日(1998.3.3)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【参考文献】
【文献】特開 平3−114391(JP,A)
【文献】特開 昭62−269493(JP,A)
【文献】特開 昭57−203303(JP,A)
【文献】特開 昭60−130912(JP,A)
【文献】実開 昭62−161416(JP,U)