説明

呼吸困難を起こした患者における細菌感染の検出

本発明は、呼吸困難を起こした対象における、細菌感染の予後予想及び/又は予測及び/又は治療の追跡に関する。本発明の目的は、呼吸困難を起こした対象において、細菌感染の予後予想及び/又は予測及び/又は治療の追跡のための方法を提供することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸困難を起こした対象における、細菌感染の予後予想及び/又は予測及び/又は治療の追跡に関する。本発明の目的は、呼吸困難を起こした対象において、細菌感染の予後予想及び/又は予測及び/又は治療の追跡のための方法を提供することである。
【背景技術】
【0002】
心不全は、ありふれた疾患であって、疾病率及び死亡率が高く、そして特に、救急科(ED)において診断が困難である(Cleland et al: The EuroHeart Failure survey programme- a survey on the quality of care among patients with heart failure in Europe. Part 1: patient characteristics and diagnosis. Eur Heart J 2003, 24:442-63; Mosterd A., Hoes A. W.: Clinical epidemiology of heart failure. Heart 2007, 93:1137-46)。呼吸困難は、大半のHFの患者の主症状である。これらの患者における主要なリスクは、細菌感染の発生の可能性である。残念ながら、患者の病歴及び物理的試験のいずれによっても、HFに起因する呼吸困難を、肺疾患等の他の原因に起因するものから正確に区別することは出来ない(Mueller C. et al.: Emergency diagnosis of congestive heart failure: impact of signs and symptoms. Can J Cardiol 2005, 21:921-4; Wang CS. et al.: Does this dyspneic patient in the emergency department have congestive heart failure? JAMA 2005, 294:1944-56)。しかしながら、最も適切な処置方法を選択するには、正確な診断が必要である。
【0003】
プロカルシトニン(PCT)は、敗血症診断の確立した生体マーカーであり;PCTは、細菌感染の重症度を反映し、特に、敗血症に至る感染の進行、重度の敗血症、又は敗血症によるショックのモニタリングに使用される。PCTは、全身性炎症応答の活性の測定、治療成果のコントロール、及び予後予想の推定に使用することができる(Assicot M et al. : High serum procalcitonin concentrations in patients with sepsis and infection. Lancet 1993, 341:515-8; Clec'h C et al: Diagnostic and prognostic value of procalcitonin in patients with septic shock. Crit Care Med 2004; 32: 1166-9; Lee YJ et al: Predictive comparisons of procalcitonin (PCT) level, arterial ketone body ratio (AKBR), APACHE III score and multiple organ dysfunction score (MODS) in systemic inflammatory response syndrome (SIRS), Yonsei Med J 2004, 45, 29-37; Meisner M.: Biomarkers of sepsis: clinically useful? Curr Opin Crit Care 2005, 11, 473-480; Wunder C et al: Are IL-6, IL-IO and PCT plasma concentrations reliable for outcome prediction in severe sepsis? A comparison with APACHE III and SAPS II. Inβamm Res 2004, 53, 158-163)。敗血症患者におけるPCTレベルの増大は、死亡率と関連する(Oberhojfer M et al. : Outcome prediction by traditional and new markers of inflammation in patients with sepsis. Clin Chem Lab Med 1999;37:363-368)。
【0004】
肺炎、細菌性髄膜炎及びマラリア等の他の感染性疾患におけるPCTの潜在的な役割を議論する多くの研究が存在する(Bugden SA, Coles C, Mills GD. The potential role of procalcitonin in the emergency department management of febrile young adults during a sustained meningococcal epidemic. Emerg Med Australas 2004, 16, 114-119; Chiwakata CB et al: Procalcitonin as a parameter of disease severity and risk of mortality in patients with Plasmodium falciparum malaria. J Infect Dis 2001, 183, 1161-1164; Schwarz S et al.: Serum procalcitonin levels in bacterial and a bacterial meningitis, Crit Care Med 2000, 28, 1828-1832)。
【0005】
当該技術分野において、発症の当日にPCT単独の使用では検出出来ない細菌感染又は敗血症を予測することが望まれる。細菌感染又は敗血症の発症のカットオフとして、PCTレベル>0.1ng/mlが選択される。
【0006】
患者の体液中のネオプテリンの濃度増大が、細胞媒介性の免疫応答が関与する疾患に関連することが知られている。インターフェロン-γは、免疫応答の過程で生産され、ネオプテリンの生産及び放出を刺激する(Fuchs D. et al.: Neopterin, biochemistry and clinical use as a marker for cellular immune reactions. Int Arch Allergy Immunol 1993, 101:1-6)。
【0007】
ネオプテリンの検出は、様々な疾患の初期からそれに続く段階にかけての細胞免疫系の活性化の状態を反映するものであって、非常に重要である。ヒト体液中のネオプテリンレベルの判定は、細胞媒介性免疫の活性化に関連する疾患をモニタリングするための有用かつ革新的なツールとなり得る。自己免疫疾患及び免疫刺激治療のモニタリングにおける価値に加え、ネオプテリンの実験室における判定は、HIV感染の予後予想及びドナーの血液試料のスクリーニングに利用出来る(Murr C. et al: Neopterin as a marker for immune system activation. Curr Drug Metab 2002, 3:175-87)。ネオプテリンは、細胞免疫系の活性化の一般的なマーカーである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の対象は、呼吸困難を起こした対象における細菌感染の予測、若しくは呼吸困難を起こした対象における細菌感染の予後予想(pregnosis)、及び/又は、予測若しくは予後の追跡(follow-up)をインビトロで行う方法であって、ネオプテリンをマーカーとして、1つ以上の心臓血管マーカー、又は神経液性マーカー、又はサイトカインマーカーとの組み合わせで使用することを含む、前記方法である。
【0009】
特に好ましくは、本発明の対象は、呼吸困難を起こした対象における細菌感染を予測する、又は呼吸困難を起こした対象における細菌感染を予後予想する、及び/若しくは予測若しくは予後の追跡する、インビトロでの方法である。
【0010】
本発明の好ましい対象は、呼吸困難を起こした対象における細菌感染の予測、若しくは呼吸困難を起こした対象における細菌感染の予後予想(pregnosis)、及び/又は、予測若しくは予後の追跡(follow-up)をインビトロで行う方法であって、ネオプテリンをマーカーとして、サイトカイン、及び心臓血管マーカー、及び神経液性マーカー、及びそれらの前駆体及び断片、並びに当該前駆体の断片を含む群から選択される1つ以上のマーカーとの組み合わせで使用することを含む、前記方法である。
【0011】
上記方法において、試料は、各マーカーのレベルを判定するために、前記対象から採取されてもよい。
【0012】
前記予後予想又は予測に係るインビトロでの方法において、前記対象は、前記試料が対象から採取された時点で、細菌感染を起こしていない。
【0013】
対象は、採取された血液、血清及び血漿からなる群から選択される試料中のプロカルシトニン濃度が0.1ng/ml以下である場合に、細菌感染を起こしていないと判断される。
【0014】
試料中のプロカルシトニンレベルを判定するアッセイは、当該技術分野で周知である。
【0015】
本発明において、驚くべきことに、ネオプテリンと、1つ以上の心臓血管マーカー又は神経液性マーカー又はサイトカインマーカーとの組合せが、従来の対象中の細菌感染の診断、及び/又は予後予想、及び/又は予後の追跡と比較して、呼吸困難を起こした対象中の細菌感染の診断、及び/又は予後予想、及び/又は予後の追跡の効率を、劇的に向上させることが示された。
【0016】
ネオプテリンと1つ以上の心臓血管又は神経液性又はサイトカインマーカーとの組合せは、予後予想及び予測に関連する全ての方法において特に有効であった。
【0017】
本発明の態様において、本発明に係るインビトロでの方法は、前記対象から採取した試料中の、ネオプテリン、及び前記1つ以上の心臓血管マーカーのレベルを判定する工程を含む。
【0018】
本発明の態様において、本発明に係るインビトロでの方法は、前記対象から採取した試料中の、ネオプテリン、及び前記1つ以上の心臓血管マーカーのレベルを判定する工程を含み、1つ以上の免疫アッセイと組み合わせられる。
【0019】
本発明において、前記試料は、好ましくは、血液試料、血清試料、及び血漿試料を含む群から選択されてもよい。
【0020】
本発明の一つの側面において、前記1つ以上の心臓血管マーカーは、MR-proADM、MR-proANP、CT-ProET-1、CT-proAVP、BNP及びNT-proBNP、並びにその断片、及び/又は12アミノ酸以上のその前駆体若しくは断片から選択される。
【0021】
本発明に係るインビトロでの方法は、ネオプテリン及び前記1つ以上の心臓血管マーカーのレベルの関係を比較する工程、並びに当該比較の結果に基づき、前記対象が細菌感染を起こしているか否かを判定する工程を含んでもよい。
【0022】
本発明の一つの態様において、前記細菌感染は、肺炎の兆候である。本発明の他の態様において、前記細菌感染は、敗血症の兆候である。1つの敗血症の症状が息切れであってもよいことは、当該技術分野で周知である(Bozkurt and Mann 2003, Circulation, 108, e11-e13, page 2 right column, line 5 ff)。
【0023】
本発明に係るインビトロでの方法の好ましい態様において、ネオプテリンのカットオフ値のレベルは、10nmol/lを上回る。
【0024】
本発明に係るインビトロでの方法の特に好ましい態様において、MR-proADMのカットオフ値が1nmol/1を上回り、CT-proAVPのカットオフ値がlOpmol/1を上回り、CT-proET1のカットオフ値が100pmol/lを上回り、MR-proANPのカットオフ値が100pmol/lを上回り、NT-proBNPのカットオフ値が600pg/mlを上回り、そしてBNPのカットオフ値が280pg/mlを上回る。
【0025】
本発明の他の対象は、試料中のネオプテリン及び1つ以上の心臓血管マーカーのレベルを判定するためのアッセイ、又はネオプテリンのレベルを判定するためのアッセイと、予後予想1つ以上の心臓血管マーカーのレベルを判定するための1つ以上のアッセイとの、細菌感染を予測又は予後予想のための使用である。
【0026】
本発明の他の対象は、呼吸困難を起こした対象において、細菌感染を検出するための、上記使用である。
【0027】
本発明の他の対象は、前記細菌感染が肺炎として現れる、細菌感染を検出するための、上記使用である。
【0028】
本発明の他の対象は、前記細菌感染が敗血症として現れる、細菌感染を検出するための、上記使用である。
【0029】
細菌感染を検出するための上記使用の好ましい態様において、前記ネオプテリンのカットオフ値は10nmol/lを上回る。
【0030】
前記使用に係る1つ以上の心臓血管マーカーは、好ましくは、MR-proADM、MR-proANP、CT-ProET-1、CT-proAVP、BNP及び/若しくはNT-proBNP並びに/又は12アミノ酸以上のその前駆体若しくは断片から選択される。
【0031】
好ましくは、MR-proADMのカットオフ値が1nmol/1を上回り、CT-proAVPのカットオフ値がlOpmol/1を上回り、CT-proET1のカットオフ値が100pmol/lを上回り、MR-proANPのカットオフ値が100pmol/lを上回り、NT-proBNPのカットオフ値が600pg/mlを上回り、そしてBNPのカットオフ値が280pg/mlを上回る。
【0032】
表1に示されるように、マーカーとしてのネオプテリン(>10 nmol/l)とMR-pro ADM、CT-proET-1、CT-proAVP、MR-proANP、BNP又はNT-proBNPとの組合せは、オッズ比に関して、呼吸困難を起こした対象における細菌感染の診断、及び/又は予測、及び/又は予後の追跡の効率を顕著に向上させた(表1参照)。
【0033】
ネオプテリンと1つ以上の心臓血管又は神経液性又はサイトカインマーカー、若しくはその前駆体若しくは断片、若しくはその前駆体の断片との組合せ、特にマーカーとしてのネオプテリンと、MR-proADM、MR-proANP、CT-ProET-1、CT-proAVP、BNP及びNT-proBNP並びに/又はその断片、並びに/又は12アミノ酸以上のその前駆体若しくは断片から選択される1つ以上のマーカーとの組合せは、予測及び予後予想に関連する本発明に係る方法において、特に有効である。表2を参照されたい。表2に記載される数値は、表1に記載される数値と同一の生データに基づく。表2において選択されたカットオフは、全てのマーカー及びマーカーの組合せにおいて本質的に同等の陰性的中率をもたらしたが、陽性的中率は、ネオプテリンとMR-proADM、MR-proANP、CT-proET-1、CT-proAVP、BNP又はNT-proBNPとの組合せにおいて、ネオプテリン単独の場合と比較して、顕著に増大していた。故に、結果として取得された陽性的中率は、前記マーカー及びマーカーの組合せの予後予想性能(prognostic power)を示すものであった。表2に記載されるように、マーカーの組合せの予後予想性能は、ネオプテリンマーカー単独の場合よりも高い。また、マーカーの組合せの予後予想性能は、オッズ比又は相対的オッズ比を考慮するとき、表1からも引き出される。表1に従い計算された感度及び特異性は、それらのいずれも可変であるため、予後予想性能を良好に示すものではない。
【0034】
診断的アッセイ又はアッセイ又は免疫アッセイは、限定されないが、免疫反応、発光、蛍光、放射性化学等に基づくアッセイ方法を含む、診断分野に利用される任意の種類のアッセイであり得る。
【0035】
好ましい検出方法として、ストリップ試験、ラジオイムノアッセイ、化学発光イムノアッセイ、及び蛍光イムノアッセイ、イムノブロットアッセイ、酵素結合免疫アッセイ(ELISA)、Luminex-ベースビーズアレイ、及びタンパク質マイクロアレイアッセイが挙げられる。
【0036】
更に、前記アッセイは、マイクロタイタープレートベース、チップベース、ビーズベースであることが出来、前記生体マーカータンパク質は、それらの表面に結合し、又は溶液中に存在する。
【0037】
前記アッセイは、均一な、又は不均一なアッセイであってもよく、そして競合的な、又は非競合的なアッセイであってもよい。特に好ましい態様において、前記アッセイは、サンドイッチアッセイの形態で行われる。サンドイッチアッセイは、非競合的イムノアッセイで、検出され、及び/又は定量される分子が第一の抗体と結合し、その後第二の抗体と結合する。前記第一の抗体は固相、例えばビーズ、ウェル又は他の容器、チップ又はストリップの表面等に結合していてもよく、前記第二の抗体は、例えば色素、放射性同位体、又は反応性若しくは触媒性活性部分等で標識した抗体である。分析対象に結合した標識抗体の量は、適切な方法によって測定される。「サンドイッチアッセイ」に関する一般的な構成及び手順は確立しており、当業者に周知である(The Immunoassay Handbook, Ed. David Wild, Elsevier LTD, Oxford; 3rd ed. (May 2005), ISBN-13: 978-0080445267; Hultschig C et al, Curr Opin Chem Biol. 2006 Feb;10(l):4-10. PMID: 16376134、本明細書中に参照により援用される)。本発明の関連において、捕捉分子とは、試料中の、標的分子、又は関心のある分子、即ち分析対象(即ち、本発明において、心臓血管ペプチド)に結合するように使用され得る分子である。故に、捕捉分子は、表面の電荷、疎水性、親水性、ルイス供与体及び/又は受容体の存否等、空間的にも、表面の特徴の観点からも、標的分子、又は関心のある分子に特異的に結合するように、十分に造形されなければならない。前記結合は、捕捉分子と標的分子若しくは関心のある分子との間の、例えば、イオン結合、ファンデルワールス結合、pi-pi、シグマ-pi、疎水結合、又は水素結合等の相互作用、又はそれらの相互作用の2つ以上の組合せにより仲介されてもよい。本発明に関連して、捕捉分子は、例えば、核酸分子、糖質分子、PNA分子、タンパク質、抗体、ペプチド又は糖タンパク質を含む群から選択されてもよい。好ましくは、前記捕捉分子は、抗体であって、標的又は関心のある分子に対する充分な親和性を有するその断片を含み、そして、組換え抗体又は組換え抗体断片を含み、加えて、長さ12アミノ酸以上のそれらの変異鎖に由来する、当該抗体又は断片の化学的に及び/又は生化学的に改変した誘導体をも含む。
【0038】
本発明に関連する試料は、リンパ液、尿、脳脊髄液、血液、血清、血漿、唾液、便、精液等の生体液であってもよい。当該試料は、患者から回収され、本発明に係る診断に供される。
【0039】
適切な場合、前記試料はホモジナイズを要し、又は液体試料を得るために、本発明に係る使用の前に溶媒で抽出されてもよい。液体試料は、溶液であっても懸濁物であってもよい。
【0040】
液体試料は、本発明における使用の前に、1つ以上の前処理に供されてもよい。そのような前処理として、限定されないが、希釈、濾過、遠心分離、濃縮、沈降、沈殿、透析等が挙げられる。
【0041】
また、前処理として、当該溶液に、酸、塩基、緩衝剤、塩、溶媒、反応性色素、界面活性剤、乳化剤、キレート等の、化学又は生化学物質が添加されてもよい。
【0042】
「患者」又は「対象」とは、本発明の意味において、特段の言及が無い限り、病理的な変化を呈しているか否かに拘らず、全ての人間を指すものとして理解されたい。本発明の意味において、細胞、組織、器官等から回収した任意の試料が、診断される患者の試料であることが出来る。好ましい態様において、本発明に係る患者は、人間である。本発明の更に好ましい態様において、前記患者は、呼吸困難を起こした人間である。
【0043】
本発明において、予測という用語は、対象(例えば患者)の医学的状態がどのように進行するかを診断することを指す。これは、前記対象の回復の機会、又は有害転帰の機会を見積もることを含む。
【0044】
診断及び/又は予後予想試験の感度及び特異性は、単に当該試験の分析の「質」に依存するだけでなく、何を異常な結果とするかという定義にも依存する。実際に、受信者動作特性曲線(ROC曲線)は、典型的には、変数に対する、その「正常」(即ち外見上健康)及び「罹患」集団(即ち細菌感染を起こした患者)における相対度数をプロットすることにより計算される。幾つかの特定のマーカーにおいて、疾患を有する対象と有しない対象のマーカーレベルの分布は、殆ど重複する。そのような条件下で、試験は、正常と罹患を100%の正確性で絶対的に区別せず、重複している領域は、その試験が正常と罹患を区別出来ないことを示す。閾値が選択され、それ以上(又は疾患に伴うマーカーの変化の仕方によってはそれ以下)である場合、当該試験は異常と判定され、そしてそれ以下である場合、当該試験は正常と判定される。ROC曲線下部の面積は、認知された測定が、症状の正しい同定を可能とする確率の尺度である。ROC曲線は、試験の結果が必ずしも正確な数値をもたらさない場合であっても使用出来る。結果を順位付け出来る限り、ROC曲線を作成出来る。例えば、「罹患」の試料についての試験の結果が、度数(例えば1=低、2=中、及び3=高)で順位付けされてもよい。この順位付けは、「正常」の集団における結果、及び作成されたROC曲線と関連付けることが出来る。これらの方法は当該技術分野で周知である(Hartley et al.1982. Radiology 143: 29-36)。好ましくは、閾値は、ROC曲線下部面積が約0.5を超え、より好ましくは約0.7を超え、尚もより好ましくは約0.8を超え、一層より好ましくは約0.85を超え、そして最も好ましくは、約0.9を超えるように選択される。「約」という用語は、本文中、所定の値の±5%を指す。
【0045】
ROC曲線の横軸は、(1-特異性)を表し、偽陽性の割合と共に増大する。当該曲線の縦軸は、感度を表し、真陽性の割合と共に増大する。故に、選択された特定のカットオフにおいて、(1-特異性)の値が決定されてもよく、そして対応する感度が取得されてもよい。ROC曲線下部の面積は、測定されたマーカーレベルが、疾患又は症状の正確な同定を可能とする確率の尺度である。故に、ROC曲線下部の面積は、試験の有効性の判定に使用出来る。
【0046】
前記オッズ比は、効果サイズ(effect size)の尺度であって、2つのバイナリーデータ値(例えば、試験陰性群において生じる事象のオッズと、試験陽性群において生じる事象のオッズの比率)の間の関連性又は非独立性の強度を記述する。
【0047】
陽性的中率(PPV)、又は正確率(precision rate)は、正しく診断及び/又は予測された試験結果が陽性の患者の割合である。これは、陽性の試験結果が、試験された基礎疾患を反映している確率に相当する。陰性的中率(NPV)は、正しく診断及び/又は予測された試験結果が陰性の患者の割合である。
【0048】
全確度(total accuracy)は、前記試験で正しく分類された全ての患者のパーセンテージである。
【0049】
本発明の文脈中、「神経液性マーカー」という用語は、限定されないが、エンケファリン、タキキニン、エンドルフィン、ダイノルフィン、オキシトシン、バソプレシン、アドレノコルチコトロピン、コレシストキニン、レニン、アンジオテンシン、血管活性腸管ポリペプチド、神経ペプチドY、カルシトニン遺伝子関連ペプチド、カルシトニン、ソマトスタチン、ボムベシン、ニューロテンシン、コルチコトロフィン放出ホルモン、チロトロピン放出ホルモン、ゴナドトロピン放出ホルモン、カテコールアミン(例えばノルエピネフリン、エピネフリン、ドーパミン等)等の、神経内分泌系に関与するホルモン及びペプチドに対して使用され、それらの前駆体及び断片を含む。「神経液性マーカー」という用語は、それらの前駆体、それらの断片、及び当該前駆体の断片を全て含む。
【0050】
当該発明において、「心臓血管マーカー」という用語は、ミオグロビン、トロポニンT(cTnT)及びI(cTnI)、クレアチンキナーゼMB(CK-MB)、FABP、GDF-15、ST-2、プロカルシトニン(PCT)、C-反応性タンパク質(CRP)、プロアドレノメデュリン及びその断片、例えば中部(midregional)プロアドレノメデュリン(MR-proADM)、アドレノメデュリン、PAMP、C末端プロアドレノメデュリン(CT-proADM)、プロエンドセリン-1及びその断片、例えばC末端プロエンドセリン1(CT-proET-1)、大エンドセリン1、エンドセリン1、NT-プロエンドセリン1、pro ANP及びその断片、例えば中部プロ心房性ナトリウム利尿ペプチド(MR-proANP)、N末端プロANP(NT-proANP)、ANP、プロバソプレシン及びその断片、例えばC末端プロアルギニンバソプレシンペプチド(CT-proAVP)、バソプレシン、ニューロフィシンII、プロBNP及びその断片、例えばBNP、及びN末端プロBNP(NT-proBNP)等の、心臓血管疾患の診断及び/又は予後予想に関連するマーカーとして定義される。「心臓血管マーカー」という用語は、その前駆体、その断片、及び当該前駆体の断片を全て含む。
【0051】
マーカーはいずれのグループに属するものであってもよく、マーカーが神経内分泌系に影響を及ぼし、かつ心臓血管の診断及び/又は予後予想に関与する場合、神経液性マーカー及び心臓血管マーカーであってもよい。
【0052】
本発明において、「サイトカイン」という用語は、免疫制御機能を有する特定の免疫系細胞により分泌されるタンパク質として定義され、リンホカイン、インターロイキン、ならびに限定されないが、IL-6、IL-8、IL-10、TNF-α、IFN-γ及びIL-Iβ等から選択されるケモカイン等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1〜7は、ネオプテリン、及び他のマーカーと組み合わせたネオプテリンにおける受信者動作特性(ROC)プロットを示す。真陽性の割合は感度に対応するが、偽陽性の割合は「-特異性」に対応する。
【図1】ネオプテリンのROCプロット。曲線下部面積(AUC)=0.625(p<0.05)。
【図2】ネオプテリン+(CT-proAVP)のROCプロット。 (AUC)=0.701(p<0.05)。
【図3】ネオプテリン+MR-proANPのROCプロット。 (AUC)=0.647(p<0.05)。
【図4】ネオプテリン+MR-proADMのROCプロット。 (AUC)=0.660(p<0.05)。
【図5】ネオプテリン+CT-proET-1のROCプロット。 (AUC)=0.660(p<0.05)。
【図6】ネオプテリン+ BNPのROCプロット。 (AUC)=0.640(p<0.05)。
【図7】ネオプテリン+ NT-proBNPのROCプロット。 (AUC)=0.646 (p<0.05)。
【実施例】
【0054】
主に鬱血性心不全及び肺炎により呼吸困難の症状を引き起こしてEDに搬入され、その後入院した964人の救急患者を被験者とした。最初の血液試料は、EDに搬入された直後に採取され、入院中に更に3回血液試料が採取された。
【0055】
PCTの測定は、カットオフ値0.1 ng/mlの細菌感染を診断するのに使用された。
【0056】
呼吸困難の症状を生じてEDに搬入された964人の患者の内、428人は、搬入から退院まで細菌感染を発症せず(A群)、上記血液試料から測定されたPCT値は0.1ng/mlを下回っていた。残りの536人の患者中416人は(77.6%、B群)、搬入直後にPCT測定を使用して感染が既に検出されていた(PCTレベルが0.1ng/mlを上回っていた)。上記536人の患者中の残りの120人の患者(22.4%、C群)は、搬入時のPCTレベルが低く(PCT0.1 ng/ml未満)、その後の追跡測定時点(1、3、5日、退院時)の1つ以上でPCTレベルが0.1 ng/mlを上回っていたため、細菌感染を発症した患者であると定められたものである。
【0057】
ネオプテリンは、免疫活性かの非特異的マーカーである。EDに搬入された時点で測定されたネオプテリンのレベルは、C群の患者の60%において増大していた(> 10 nmol/l)。しかしながら、同様の増大が、A群の患者において、感染予測における多くの偽陽性の結果をもたらす(42%/176偽陽性)。
【0058】
驚くべきことに、カットオフ値が10nmol/であるマーカーとしてのネオプテリンと、救急科に搬入された時点で測定され、中部プロアドレノメデュリン(MR-proADM)、C末端プロエンドセリン1(CT-proET-1)、C末端プロバソプレシン(CT-proAVP)、中部プロ心房性ナトリウム利尿ペプチド(MR-proANP)、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、又はN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)から選択される他のマーカーとの組合せが、オッズ比、陽性的中率(PPV)及び全確度に関して、感染予測の効率の顕著な増大をもたらすことが示された(表1及び2を参照)。
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸困難を起こした対象における細菌感染の予測、若しくは呼吸困難を起こした対象における細菌感染の予後予想(pregnosis)、及び/又は、予測若しくは予後の追跡(follow-up)をインビトロで行う方法であって、ネオプテリンをマーカーとして、サイトカイン、及び心臓血管マーカー、及び神経液性マーカー、及びそれらの前駆体及び断片、並びに当該前駆体の断片を含む群から選択される1つ以上のマーカーとの組み合わせで使用することを含む、前記方法。
【請求項2】
前記対象から試料が採取される、請求項1に記載のインビトロでの方法。
【請求項3】
前記対象から採取した試料中のネオプテリン及び前記1つ以上の心臓血管マーカーのレベルを判定する工程を含む、請求項1又は2のいずれかに記載のインビトロでの方法。
【請求項4】
前記対象から採取した試料中のネオプテリン及び前記1つ以上の心臓血管マーカーのレベルを、1つ以上の免疫アッセイにより判定する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインビトロでの方法。
【請求項5】
前記試料が、血液試料、血清試料、及び血漿試料を含む群から選択される、請求項2〜4のいずれか1項に記載のインビトロでの方法。
【請求項6】
前記試料が当該対象から採取された時点で、前記対象が細菌感染を起こしていない、請求項2〜5のいずれか1項に記載のインビトロでの方法。
【請求項7】
前記対象から採取された、血液、血清及び血漿からなる群から選択される試料中のプロカルシトニン濃度が、0.1ng/ml以下である、請求項6に記載のインビトロでの方法。
【請求項8】
前記1つ以上の心臓血管マーカーが、MR-proADM、MR-proANP、CT-ProET-1、CT-proAVP、BNP及び/又はNT-proBNP、及び/又はその断片、及び12アミノ酸以上のその前駆体又は断片から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載のインビトロでの方法。
【請求項9】
前記細菌感染が、肺炎として現れる、請求項1〜8のいずれか1項に記載のインビトロでの方法。
【請求項10】
前記細菌感染が、敗血症として現れる、請求項1〜8のいずれか1項に記載のインビトロでの方法。
【請求項11】
ネオプテリンのカットオフ値のレベルが10nmol/lを上回る、請求項1〜10のいずれか1項に記載のインビトロでの方法。
【請求項12】
MR-proADMのカットオフ値が1nmol/1を上回り、CT-proAVPのカットオフ値がlOpmol/1を上回り、CT-proET1のカットオフ値が100pmol/lを上回り、MR-proANPのカットオフ値が100pmol/lを上回り、NT-proBNPのカットオフ値が600pg/mlを上回り、そしてBNPのカットオフ値が280pg/mlを上回る、請求項8〜11のいずれか1項に記載のインビトロでの方法。
【請求項13】
試料中のネオプテリン及び1つ以上の心臓血管マーカーのレベルを判定するためのアッセイ、又はネオプテリンのレベルを判定するためのアッセイと、予後予想1つ以上の心臓血管マーカーのレベルを判定するための1つ以上のアッセイとの、細菌感染を予測又は予後予想のための使用。
【請求項14】
呼吸困難を起こした対象の細菌感染を予後予想又は予測するための、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記細菌感染が肺炎として現れる、細菌感染を予後予想又は予測するための請求項13に記載の使用。
【請求項16】
前記菌感染が敗血症として現れる、細菌感染を予後予想又は予測するための請求項13に記載の使用。
【請求項17】
前記ネオプテリンのカットオフ値が10nmol/lを上回る、細菌感染を検出するための請求項13に記載の使用。
【請求項18】
前記1つ以上の心臓血管マーカーが、MR-proADM、MR-proANP、CT-ProET-1、CT-proAVP、BNP及び/若しくはNT-proBNP並びに/又はその断片、及び12アミノ酸以上のその前駆体若しくは断片から選択される、細菌感染を予後予想又は予測するための、請求項13に記載の使用。
【請求項19】
MR-proADMのカットオフ値が1nmol/1を上回り、CT-proAVPのカットオフ値がlOpmol/1を上回り、CT-proET1のカットオフ値が100pmol/lを上回り、MR-proANPのカットオフ値が100pmol/lを上回り、NT-proBNPのカットオフ値が600pg/mlを上回り、そしてBNPのカットオフ値が280pg/mlを上回る、細菌感染を検出するための、請求項18に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−529018(P2012−529018A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513510(P2012−513510)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003373
【国際公開番号】WO2010/139475
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(508093584)ベー.エル.アー.ハー.エム.エス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (27)