説明

呼吸用気体測定装置

圧力発生装置(14)、圧力センサ(21)、制御弁(20)及びプロセッサ(32)を備える気体供給装置(12)。圧力発生装置(14)は、患者に供給する呼吸用気体(22)を加圧する。圧力センサ(21)は、加圧された呼吸用気体(22)と大気圧との圧力差を測定する。圧力発生装置(14)の下流に配置される制御弁(20)により、加圧された呼吸用気体(22)の流量が制御される。プロセッサ(32)は、圧力発生装置(14)が動作している間に、制御弁(20)を制御して、加圧された呼吸用気体(22)の流量を実質的に零に低減し、流量が実質的に零のとき、加圧された呼吸用気体(22)と大気圧との圧力差に少なくとも部分的に基づき、大気圧、大気密度又は密度補正係数の少なくとも1つを決定する。

【発明の詳細な説明】
【優先権主張】
【0001】
本願は、米国特許法第119条(e)の規定により、2005年6月21日に出願された米国仮出願第60/692,506号の利益を主張し、参照することにより仮出願の開示内容を本明細書中に組み込むものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は、呼吸用気体測定器に関連する。
【背景技術】
【0003】
加圧された呼吸用気体流(呼吸に適する気体流)を患者(被験者、使用者)に供給する気道陽圧(PAP)装置は、公知である。通常、これらの気道陽圧装置は、呼吸用気体を加圧する圧力発生装置と、呼吸用気体及び/又は周囲大気の種々の媒介変数(パラメータ)を監視する単一又は複数のセンサとを備える。気道陽圧装置は、通常帰還閉回路(フィードバックループ)を通じてセンサから受信する情報信号を使用して圧力発生装置を制御し、所望の圧力及び/又は流量の呼吸用気体を患者に供給する。気道陽圧装置により、患者に供給する気体の総量も監視することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大気圧を監視する気圧センサ等の測定の精度を向上する種々の装置を備え、患者に供給する呼吸用気体の圧力、流量及び/又は総容積を高精度に決定する気道陽圧装置もある。前記センサにより、呼吸用気体の圧力、流量及び/又は総容積の測定精度を向上できるが、気道陽圧装置の総費用が増加する難点がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、圧力発生装置、圧力センサ、制御弁及び処理装置を備える気体供給装置に関する。圧力発生装置は、患者に供給する呼吸用気体を加圧する。圧力センサは、加圧された呼吸用気体と大気圧との圧力差を測定する。圧力発生装置の下流に配置される制御弁は、加圧された呼吸用気体の流量を制御する。プロセッサ(処理装置)は、圧力発生装置の動作間に制御弁を制御して、加圧された呼吸用気体の流量を実質的に零に低減し、流速が実質的に零のとき、加圧された呼吸用気体と大気圧との圧力差に少なくとも部分的に基づき、大気圧、大気密度又は密度補正係数の少なくとも1つを決定する。
【0006】
本発明は、圧力発生装置、圧力センサ、流量センサ及び処理装置を備える気体供給装置にも関連する。圧力発生装置は、患者に供給する呼吸用気体を加圧する。圧力センサは、加圧された呼吸用気体と大気圧との圧力差を測定する。流量センサは、圧力発生装置から出力される加圧された呼吸用気体の標準流量を測定する。プロセッサは、測定した圧力差及び標準流量に少なくとも部分的に基づき、大気圧、大気密度又は密度補正係数の少なくとも1つを決定する。
【0007】
本発明は、患者に供給する加圧された呼吸用気体を監視する気体監視法に更に関連する。気体監視法は、圧力発生装置により呼吸用気体を加圧する過程と、圧力発生装置により呼吸用気体に加える圧力を決定する過程と、圧力発生装置により呼吸用気体に加えられる圧力に少なくとも部分的に基づき、大気圧、大気密度又は密度補正係数の少なくとも1つを決定する過程とを含む。
【0008】
参照符号により各図の対応する部分を示す添付図面に関する以下の説明、特許請求の範囲及び本明細書の全構成部分により、本発明の前記目的及び他の目的、特徴及び特性、構造の関連要素の操作法及び機能、部品の組み合わせ並びに製造経済性は、明らかとなろう。しかしながら、図面は、図示及び説明の目的に過ぎず、発明の範囲を制限しないものであることは、明確に理解できよう。別途明記しない限り、明細書及び特許請求の範囲に使用する用語「1つ(a)」、「1つ(an)」及び「その(the)」の単数形は、複数の対象を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明の原理による患者治療装置10の例示的な第1の実施の形態の略示ブロック図である。患者治療装置10は、気体供給装置12を通常備える。気体供給装置12は、患者に供給する呼吸用気体流を制御すると共に、気体供給源16から呼吸用気体22の供給を受ける圧力発生装置14を備える。本発明の一実施の形態では、気体供給源16は、単なる大気(外気)である。圧力発生装置14は、気体供給源16から患者の気道に供給する気体の圧力を上昇する。
【0010】
本発明の一実施の形態では、圧力発生装置14は、送風装置(ブロワ)を備えるが、図2について後述する。圧力支援治療の過程で一定速度で任意に駆動される送風装置は、出力端18に一定の圧力又は流量を生ずる。本発明は、例えば、空気、ヘリオックス(ヘリウムと酸素の混合気)等の酸素混合気、酸化窒素等の呼吸用気体と気体状の薬物との混合気等のいかなる呼吸用気体22を呼吸用気体供給源16が供給できることも企図する。
【0011】
図示の実施の形態では、気体供給装置12は、制御弁20を備える。圧力発生装置14からの呼吸用気体22の高圧力流は、圧力発生装置14の下流に配置される制御弁20に供給される。制御弁20は、単独で又は圧力発生装置14と協働して、気体供給装置12から排出される呼吸用気体22の最終圧力又は最終流量を制御する。患者回路の圧力を制御する方法として、例えば、患者回路からの気体を排出するスリーブ弁又はポペット弁を制御弁20に設けてもよい。ヘテ(Hete)その他名義の米国特許第5,694,923号は、二重ポペット弁装置を開示するが、大気に気体を排出しかつ圧力発生装置14から患者への気体流を制限する制御弁20の他の例として、二重ポペット弁装置を使用してもよく、参照することにより、米国特許の内容を本明細書の一部とする。
【0012】
一実施の形態では、圧力発生装置14は、唯一の速度のみで動作する送風装置である。この実施の形態では、制御弁20は、患者に供給する呼吸用気体22の最終圧力及び最終流量を単独で制御する。しかしながら、本発明は、制御弁20に組み合わせて、圧力発生装置14の送風装置の動作速度を制御して、患者に供給する呼吸用気体22の最終圧力及び最終流量を制御することも企図する。例えば、送風装置の適切な動作速度を確立(マクロ制御)して、所望の圧力又は流量に近い圧力又は流量を設定することができる。その後、制御弁20により圧力又は流量を微調整(マイクロ制御)して、共に動作する2つの装置(送風装置と制御弁20)により、患者に供給する呼吸用気体22の最終圧力を決定することができる。
【0013】
圧力発生装置14と制御弁20との間に配置される圧力センサ21は、圧力発生装置14が呼吸用気体22に加える圧力の増加を測定することができる。即ち、一実施の形態では、圧力発生装置14から呼吸用気体22を受ける制御弁20の入口又はその付近に圧力センサ21が配置される。圧力センサ21は、制御弁20の入口又はその付近の呼吸用気体22の圧力差を測定する差圧センサの形態を有する。即ち、圧力センサ21は、制御弁20の入口又はその付近の呼吸用気体22の圧力と大気圧との差圧を測定する。差圧センサ21は、周辺圧力を零圧力として測定するように調整される。このように、差圧センサ21は、圧力発生装置14の非動作時に実質的に零圧力の読みを測定すると共に、この零圧力(大気圧)から変動する圧力変化を測定する。
【0014】
図1に示す実施の形態では、気体供給装置12は、加圧された呼吸用気体22の標準流量を測定する流量センサ24も備える。即ち、標準圧力101325Pa(1atm)の下で標準温度0℃(絶対温度273K)の加圧された呼吸用気体22の流量を「標準流量」と仮定して、流量センサ24が調整される。流量センサ24は、「標準流量」を測定するが、呼吸用気体22の温度と圧力は、標準温度と標準圧力とから変動することがあるので、体積流量から僅かに測定値を変更してもよい。熱線流速計、肺活量計、呼気気流計、可変オリフィス変換器又は他の従来の流量変換器等標準流量の測定に適する装置を流量センサ24に設けてもよい。図示の実施の形態では、患者界面組立体(呼吸用気体供給マスク)28から比較的離間する位置に流量センサ24が設けられる。しかしながら、本発明は、患者回路26に沿うどの位置にも流量センサ24を配置できるが、患者界面組立体(患者界面装置)28にも配置できることを企図する。例えば、スター(Starr)その他名義の米国特許第6,017,315号は、患者界面組立体28に設ける定量的流量部材を開示するが、参照することにより、米国特許の内容を本明細書の一部とする。
【0015】
通常、患者界面組立体28に呼吸用気体流を供給する単一の可撓性導管である患者回路26を通じて気体供給装置12から患者に呼吸用気体流が供給される。患者界面組立体28は、侵襲性又は非侵襲性を問わず患者の気道に呼吸用気体22を供給するのに適する鼻マスク、鼻/口マスク、全面型面体(フルフェイスマスク)、鼻カニューレ、気管内挿入管又は気管内接続管等の全ての器具である。機器を患者の頭部に取り付けるヘッドギアを患者界面組立体28に設けてもよい。図示の実施の形態では、患者界面組立体28及び/又は患者回路26から周囲大気に気体を排出する排気口30が患者界面組立体28及び/又は患者回路26に設けられる。排気流量を制限して、患者界面組立体28内の気体の圧力を制御できる常時開口する不動の排気口として排気口30を形成することが好ましい。しかしながら、別の可変構造で排出流量を制御する排気口30でもよいことは、理解されよう。適切な排気口の例は、例えば、共にツドロコウスキ(Zdrojkowski)他名義の米国特許第5,685,296及び5,937,855号に開示される。
【0016】
図1に示すように、気体供給装置12の種々の動作形態を制御するプロセッサモジュール(制御装置)32が気体供給装置12に設けられる。例えば、流量センサ24と圧力センサ21との各出力信号が付与されるプロセッサモジュール32は、必要に応じて、各入力信号を処理して、標準流量と、患者に供給される呼吸用気体22の圧力差を決定する。
【0017】
プロセッサモジュール32に情報と命令とを付与する制御用インターフェイス34が気体供給装置12に設けられる。配線接続又は無線通信接続を通じてプロセッサモジュール32に情報及び/又は命令を付与する全ての装置を制御用インターフェイス34に設けられるが、使用者が患者治療装置10に情報を入力できるキーパッド、キーボード、タッチパッド、マウス、マイクロホン、スイッチ、ボタン、目盛板(ダイヤル)又はいかなる他の装置を制御用インターフェイス34に例として設けてもよい。
【0018】
本発明は、従来の人工呼吸器に通常使用される2対のアーム回路を患者回路26に設けることも企図する。2対のアーム回路の第1のアームは、排気口がない点を除き、患者に呼吸用気体22を供給する患者回路26と同様である。その代わり、第2のアームは、患者から周辺大気に排出気体を搬送する。通常、制御装置(例えば、プロセッサモジュール32)の制御に基づき、第2のアームの可変排気口は、患者に供給する呼気終末陽圧(PEEP)を所望レベルに保持する。また、患者への又は患者からの気体流を濾過し、測定し、監視しかつ分析する加湿器、加熱器、細菌濾過器、湿度センサ及び気体センサ(例えば、吸気中の二酸化炭素濃度を測定するカプノメータ)等他の従来装置及び部材を気体供給装置12及びその付属部材に設けてもよい。
【0019】
プロセッサモジュール32は、制御弁20の作動を制御して、患者に供給する呼吸用気体22の圧力を制御する。プロセッサモジュール32は、種々の換気モードにより患者に付与される圧力を演算する単一又は複数のアルゴリズムにより適切にプログラム制御される。本発明の更に改良された実施の形態では、複数の換気モードの実行に必要なプログラムを記憶する記憶装置36が気体供給装置12のプロセッサモジュール32に任意に設けられ、制御用インターフェイス34を使用して介護者又は患者が選択する換気モードに基づき、プロセッサモジュール32は、複数の換気モードの何れかを実行する。患者治療装置10の動作に関連する情報、入力命令、警報器の許容値は勿論、患者への流量、容量、圧力、装置の使用量、動作温度及びモータ速度の計測値等の患者治療装置の動作に関連する他の全ての情報も記憶装置36に記憶することができる。
【0020】
図2は、本発明の一実施の形態による圧力発生装置14の例示的な略示ブロック図である。気体供給源16(図2に図示しない)から呼吸用気体22を受ける送風装置38を備える圧力発生装置14は、患者に供給する呼吸用気体22の圧力を周辺圧力、即ち、大気圧より高い圧力に上昇する。加圧される呼吸用気体流は、その後、患者回路26を通じて患者に供給される。
【0021】
図2に示すように、送風装置38は、ハウジング42内に配置される回転翼(インペラ)40を備える。駆動軸46に連結されるモータ44は、回転翼40を回転させる。呼吸用気体22は、送風装置入口50を通じて、回転翼40の中心に供給される。回転翼40の回転により、呼吸用気体22に力を加えて加圧し、送風装置出口52から送風装置38の外部に気体を推進する。モータ44の動作は、プロセッサモジュール32により制御される。本発明の一実施の形態では、プロセッサモジュール32は、モータ44の速度を調整して、圧力発生装置14からの呼吸用気体22を所望の圧力に設定することができる。この目的で、例えば、プロセッサモジュール32に入力信号を与えて、モータ44の動作速度を選択して所望の圧力を発生する従来の制御装置を制御用インターフェイス34に設けることができる。プロセッサモジュール32に動作接続される回転速度計(タコメータ)48によりモータ44の動作速度が測定される。トルイット(Truitt)その他名義の米国特許第6,622,724号に詳細に開示される送風装置及び回転翼を本発明の一実施の形態による送風装置38及び回転翼40として実施してもよく、この米国特許の内容を参照することにより、本明細書の一部とする。
【0022】
本発明の他の実施の形態では、圧力発生装置14は、本明細書に記載する原理から逸脱しない範囲でピストン、ポンプ又は送風機(ベローズ)を使用できる。
【0023】
図1に示すように、気体供給装置12の動作中に、プロセッサモジュール32は、圧力センサ21と流量センサ24とにより直接測定されないが、患者に供給される呼吸用気体流の種々の媒介変数を決定する。例えば、プロセッサモジュール32は、大気圧(即ち、気圧)、大気密度、加圧された呼吸用気体22の体積流量又は他の媒介変数を決定することができる。プロセッサモジュール32は、前記媒介変数の決定により、特に、患者界面組立体28に供給される呼吸用気体22の容量を監視することができる。
【0024】
患者界面組立体28に供給される呼吸用気体22の容量は、加圧された呼吸用気体22の体積流量に依存する。しかしながら、呼吸用気体22の圧力及び温度が標準状態(例えば、0℃[絶対温度273K]でかつ101325Pa[1atm])では、流量センサ24が測定する流量は、体積流量(気体の実際の体積流量)と同等の標準流量である。体積流量と標準流量との関係を下式1により表すことができる。
【0025】
【数1】

【0026】
ここで、Qvolは、体積流量、Qstdは、標準流量、Cは、密度補正係数をそれぞれ示す。このように、流量センサ24が測定する標準流量Qstdに基づきかつ密度補正係数Cを決定すれば、体積流量Qvol又はその近似値を決定することができる。式1を説明すれば、「密度補正係数C」は、気体流の標準流量Qstdを乗じて気体の体積流量Qvolを決定する比例定数である。密度補正係数Cは、周辺圧力、周辺温度及び/又は周辺大気密度等の気体供給装置12を包囲しかつ気体供給装置12の内部を満たす周囲条件を含む関数である。例えば、下式2により密度補正係数Cを決定することができる。
【0027】
【数2】

【0028】
理想気体の法則を使用して、式2を下式3に書き換えることができる。
【0029】
【数3】

【0030】
ここで、Tmは、測定した絶対温度、Tstdは、標準温度、Pstdは、標準圧力、Pmは、測定した絶対圧力、ρstdは、標準大気密度、ρmは、測定した大気密度をそれぞれ示す。
【0031】
プロセッサモジュール32は、測定した絶対圧力Pm(式2)又は測定した大気密度ρm(式3)の何れかをまず算出し、式2又は式3に示す何れかの関係により密度補正係数Cを決定する。呼吸用気体22の加圧を等温過程と仮定し、回転翼40に沿う任意点の微小気体体積に加えられる圧力が前記微小体積から回転翼40の回転軸(即ち、駆動軸46)までの距離のみの関数と仮定するいくつかの仮定により、送風装置38が呼吸用気体22に加える微小圧力増加を下式4により表すことができる。
【0032】
【数4】

【0033】
ここで、ΔPは、送風装置38が加える微小圧力増加分、Pinletは、送風装置入口50での呼吸用気体22の圧力、ωは、回転翼40の角周波数(角振動数)、rは、回転翼40の半径、Rは、呼吸用気体22の気体定数、Tは、呼吸用気体22の温度をそれぞれ示す。
【0034】
送風装置38の動作間に制御弁20を閉弁し、呼吸用気体22の流量(標準流量Qstd及び体積流量Qvolの両方)を有効に零(又は実質的に零)に低下させると、送風装置入口50での呼吸用気体22の圧力Pinletが大気圧に等しく(又は実質的に等しく)なり、式4を使用して大気圧を決定する。これは、使用している気体供給源16が単に大気に過ぎないからである。制御弁20を閉弁して遮断状態の送風装置38が加圧する呼吸用気体22の絶対圧力Pmと、大気圧(このとき送風装置入口50の圧力Pinletに等しい)との圧力差を発生して、制御弁20の上流(又は前)に配置する圧力センサ21によりこの圧力差を測定すると、圧力センサ21が測定する圧力差は、送風装置38が呼吸用気体22に加える圧力ΔPに実質的に等しい。前記の関係に基づき、式4から大気圧を求めると、下式5が得られる。
【0035】
【数5】

【0036】
ここで、Patmは、大気圧、Pdiffは、圧力センサ21により測定される圧力差をそれぞれ示す。一実施の形態では、温度計又は他の温度センサ等により、呼吸用気体22の温度Tを直接測定できるが、圧力発生装置の費用が増加する。このように、他の実施の形態では、通常の動作条件に基づき、温度Tを推定してもよい。一実施の形態では、呼吸用気体22の温度Tは、約42℃(絶対温度315K)と仮定する。この実施の形態では、加圧された気体の標準流量Qstdの測定時に温度Tを多少補償するセンサを流量センサ24に設けてもよい。例えば、定電流により加熱され又は定温に保持される裸熱線を有するコアを備える熱線流速計を流量センサ24に設けてもよい。この実施の形態では、加圧された呼吸用気体22により対流移動する熱の関数(作用)として、加圧された呼吸用気体22の流体速度を測定してもよい。熱線流速計の出力は、気体22の検出温度(加圧された呼吸用気体22の対流のみならず、センサの周辺温度に影響される)に依存し、影響を受けるので、検出値から算定される測定標準流量Qstdをセンサでの周辺温度で部分的に補正できることは、理解されよう。
【0037】
患者が患者治療装置10を通常使用する期間(例えば、夜間)中に、大気圧Patmは、通常比較的安定な状態にあるから、一実施の形態では、患者治療装置10の始動時に1度だけ大気圧Patmを測定し、その後、大気圧Patmを一定と仮定し、即ち、治療期間の気体供給装置12の始動時に、送風装置38が動作速度に達した後に、制御弁20を閉弁し、プロセッサモジュール32により、治療期間の始期に大気圧Patmを1度測定することができる。治療期間を通じて大気圧Patmを一定と仮定する。他の実施の形態では、制御弁20を閉弁して、治療期間中の休止時に周辺圧力を再計算することもできる。
【0038】
別の実施の形態では、制御弁20を閉弁せずに、大気圧Patmを決定することもできる。例えば、患者治療装置10のような単一アーム装置では、患者は、気体供給装置10から供給される呼吸用気体流に逆らって、患者回路26内に呼気を行う。患者の気道から流出する気体は、気体供給装置12に向かい加圧された呼吸用気体流に逆らって患者回路26を強制的に逆流するので、これらの呼気により、加圧された気体の流量は、少なくとも瞬間的に実質的に零に低下する。患者呼気又は他の事象により気体供給装置12内の流れの不存在により、制御弁20の閉弁時と実質的に同一の状態となる。これにより、プロセッサモジュール32が式5を演算して、圧力センサ21、回転速度計48及び温度センサの測定値(又は患者治療装置10に温度センサがないとき、仮定する温度を使用して)により、現在の大気圧Patmを決定することができる。本実施の形態では、プロセッサモジュール32を起動して現在の大気圧Patmを再計算する予め決められた起動事象として、流量センサ24により瞬間的零(又は実質的に零)流量を検出することができる。
【0039】
大気圧Patmのレベルを決定するとき、予め決められた大気圧Patmに圧力センサ21が検出する圧力差Pdiffを加えて、呼吸用気体22の絶対圧力Pmを検出することができる(例えば、Pm=Patm+Pdiff)。絶対圧力Pmの測定値を使用し、その後、呼吸用気体22の温度と共に、呼吸用気体22の絶対圧力Pmを式2に代入して、プロセッサモジュール32により密度補正係数Cを監視することができる。密度補正係数Cの計算値と流量センサ24による標準流量Qstdの測定値とにより、プロセッサモジュール32は、式1により呼吸用気体22の体積流量Qvolを監視する。プロセッサモジュール32は、呼吸用気体22の体積流量Qvolを監視して、気体供給装置12が供給する呼吸用気体22の総容積を決定し、呼吸用気体22と周辺条件との特定の媒介変数に基づき、圧力発生装置14及び/又は制御弁20の動作を調整することができる。例えば、高大気圧Patm(又は高大気密度ρm)の測定値に基づき、プロセッサモジュール32によりモータ44の速度を減少してもよい。モータ44の速度を減少して、気体供給装置12から発生する騒音、気体供給装置12の使用電力及び特に送風装置38の種々の部材間(例えば、回転翼40、モータ44及び駆動軸46)に発生する損耗を低減することができる。
【0040】
一実施の形態では、プロセッサモジュール32は、下式6に示す理想気体の法則により、加圧された呼吸用気体22の密度ρmを監視する。
【0041】
【数6】

【0042】
本実施の形態では、前記の通り式2を使用せず、プロセッサモジュール32により、加圧された気体22の密度ρmの計算値を式3に代入して、密度補正係数Cを監視することができる。
【0043】
図1に示す患者治療装置10の形態が本発明の限定を意図せず、また、前記媒介変数を直接測定せず、患者への加圧気体の体積流量Qvol及び/又は気体密度ρm及び/又は大気圧Patmをプロセッサモジュール32により監視できる他の構造も本発明の範囲に含まれることは、理解できよう。例えば、図3は、制御弁20を気体供給装置12から省略する本発明の一実施の形態よる患者治療装置10の構造を示す。図3では、図1及び図2と同一部分には、同一の参照符号を付する。
【0044】
図3に示す患者治療装置10の形態では、気体供給装置12は、圧力発生装置14の出力のみに基づき、患者に供給する呼吸用気体22の圧力を制御する。即ち、プロセッサモジュール32は、前記と同様に、送風装置38により構成できる圧力発生装置14のモータ速度のみを制御して、患者に供給する呼吸用気体22の圧力を制御する。この実施の形態では、圧力センサ21及び/又は回転速度計48(図2)による呼吸用気体22の単一又は複数の圧力測定値に基づく信号帰還法で、プロセッサモジュール32により圧力発生装置14を制御することができる。
【0045】
制御弁20のない形態の図3に示す気体供給装置12では、圧力発生装置14が稼動している間に、プロセッサモジュール32により加圧された呼吸用気体22の流量を制御しつつ零に低減することはできない。しかしながら、加圧された呼吸用気体22の瞬間流量が零に達するとき、例えば、患者呼気により流量が瞬間的に零に達するとき又は何らかの他の機能又は事象により呼吸用気体22の流量が零に低減するとき、プロセッサモジュール32は、式5からやはり大気圧Patmを決定できる。前記のように、プロセッサモジュール32は、大気圧Patmの単数の測定値(又は複数の測定値)に基づき、加圧された呼吸用気体22の密度、呼吸用気体22の体積流量Qvol又は呼吸用気体22の他の媒介変数を監視することができる。
【0046】
本発明の一実施の形態では、プロセッサ32に帰還閉回路を設け、測定した大気圧Patm、大気密度ρm及び/又は密度補正係数Cをプロセッサ32に使用して、患者治療装置10の種々の形態を制御することができる。例えば、プロセッサモジュール32を使用して、圧力発生装置14の動作(例えば、速度及び出力)を制御することができる。また、制御弁20を設ける実施の形態では、プロセッサモジュール32を使用して、制御弁20の動作を制御し、患者に供給する流量を調整することができる。前記開示による付加情報と共に、圧力発生装置14及び/又は制御弁20をプロセッサモジュール32で制御することにより、患者への出力流量を高精度に制御しかつ測定することができる。
【0047】
図4は、本発明の更に別の実施の形態による患者治療装置10の他の形態を示す。図4でも、同様の部分には、同様の参照符号を付する。付言すれば、図4に示す患者治療装置10の形態の気体供給装置12は、流量センサ24を備えない。しかしながら、制御弁20を閉弁し、圧力センサ21により差圧Pdiffを測定しかつ零流量を仮定(測定でなく)して、プロセッサモジュール32は、やはり式5により大気圧Patmを決定する。気体供給装置12が動作する間に、この測定値に基づき、プロセッサモジュール32は、加圧された前記呼吸用気体22の種々の媒介変数を監視する。
【0048】
単に例示の目的のでのみ、前記具体的な式を示し、大気圧Patmを直接測定せずに、大気圧の関数を表わす呼吸用気体22の媒介変数を監視する他のアルゴリズムも本発明の意図する範囲に含まれることは理解されよう。
【0049】
現在最も実用的かつ好適と思われる実施の形態を図示して詳記したが、前記記載は単に説明の便宜に過ぎず、本発明を開示した実施の形態に限定されず、本発明は、特許請求の範囲内に該当すると共に、特許請求の範囲と同趣旨の変更態様並びに同等の装置を包含すること企図する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施の形態による患者治療装置の略示ブロック図
【図2】本発明の一実施の形態による例示的な圧力発生装置の略示ブロック図
【図3】本発明の一実施例による患者治療装置の他の構造を示す略示ブロック図
【図4】本発明の一実施の形態による例示的な患者治療装置の他の構造を示す略示ブロック図
【符号の説明】
【0051】
(12)・・気体供給装置、 (14)・・圧力発生装置、 (20)・・弁(制御弁)、 (21)・・圧力センサ、 (22)・・呼吸用気体、 (24)・・流量センサ、 (32)・・プロセッサ、 (38)・・送風装置、 (40)・・回転翼、 (44)・・モータ、 (48)・・回転速度計、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に供給する呼吸用気体(22)を加圧する圧力発生装置(14)と、
加圧された呼吸用気体(22)と大気圧との圧力差を測定する圧力センサ(21)と、
圧力発生装置(14)により発生される加圧された呼吸用気体(22)の標準流量を測定する流量センサ(24)と、
測定した圧力差と標準流量とに少なくとも部分的に基づき、大気圧、大気密度又は密度補正係数の少なくとも1つを決定するプロセッサ(32)とを備えることを特徴とする気体供給装置(12)。
【請求項2】
流量センサ(24)は、熱線流速計である請求項1に記載の気体供給装置(12)。
【請求項3】
プロセッサ(32)を起動して、予め決められた起動事象の検出時に、大気圧、大気密度及び密度補正係数の少なくとも1つを決定する請求項2に記載の気体供給装置(12)。
【請求項4】
予め決められた起動事象は、加圧された呼吸用気体(22)が実質的に零標準流量である事象を含む請求項3に記載の気体供給装置(12)。
【請求項5】
圧力発生装置(14)の下流に配置した弁(20)をプロセッサ(32)により制御する請求項1に記載の気体供給装置(12)。
【請求項6】
プロセッサ(32)は、密度補正係数を決定し、加圧された呼吸用気体の標準流量に密度補正係数を乗じて、加圧された呼吸用気体(22)の体積流量を決定する請求項1に記載の気体供給装置(12)。
【請求項7】
加圧された呼吸用気体(22)の温度を監視する温度監視装置を設けた請求項1に記載の気体供給装置(12)。
【請求項8】
プロセッサ(32)は、少なくとも部分的に加圧された呼吸用気体(22)の温度に基づき、大気圧、大気密度又は密度補正係数の少なくとも1つを決定する請求項7に記載の気体供給装置(12)。
【請求項9】
圧力発生装置(14)は、送風装置(38)を備え、
送風装置(38)は、
送風装置(38)に設けられるモータ(44)と、
送風装置(38)に設けられかつモータ(44)により回転可能に駆動されて呼吸用気体(22)を加圧する回転翼(40)とを備え、
プロセッサ(32)は、回転翼(40)の寸法と回転翼(40)が駆動される回転速度との少なくとも一部に基づき、大気圧、大気密度及び密度補正係数の少なくとも1つを決定する請求項1に記載の気体供給装置(12)。
【請求項10】
回転翼(40)が駆動される回転速度を監視する回転速度計(48)を更に設けた請求項9に記載の気体供給装置(12)。
【請求項11】
プロセッサ(32)は、呼吸用気体(22)の加圧を非圧縮性の等温過程と仮定する請求項1に記載の気体供給装置(12)。
【請求項12】
患者に供給する呼吸用気体(22)を加圧する圧力発生装置(14)と、
加圧された呼吸用気体(22)と大気圧との圧力差を測定する圧力センサ(21)と、
圧力発生装置(14)の下流に配置されて加圧された呼吸用気体(22)の流量を制御する制御弁(20)と、
制御弁(20)を制御して、圧力発生装置(14)が動作している間に、加圧された呼吸用気体(22)の流量を実質的に零に低減するプロセッサ(32)とを備え、
流量が実質的に零のとき、加圧された呼吸用気体(22)と大気圧との圧力差に少なくとも部分的に基づき、プロセッサ(32)は、大気圧、大気密度又は密度補正係数の少なくとも1つを決定することを特徴とする気体供給装置(12)。
【請求項13】
圧力発生装置(14)の下流に配置した流量センサ(24)により、加圧された呼吸用気体(22)の標準流量を測定する請求項12に記載の気体供給装置(12)。
【請求項14】
プロセッサ(32)は、密度補正係数を決定し、加圧された呼吸用気体の標準流量に密度補正係数を乗じて、加圧された呼吸用気体(22)の体積流量を決定する請求項13に記載の気体供給装置(12)。
【請求項15】
プロセッサ(32)は、呼吸用気体(22)の加圧を非圧縮性の等温過程と仮定する請求項12に記載の気体供給装置(12)。
【請求項16】
プロセッサ(32)は、大気圧、大気密度又は密度補正係数の少なくとも1つに基づき、圧力発生装置(14)の動作を制御する請求項12に記載の気体供給装置(12)。
【請求項17】
患者に供給する加圧された呼吸用気体(22)を監視する方法において、
(a)圧力発生装置(14)により呼吸用気体(22)を加圧する過程と、
(b)圧力発生装置(14)が呼吸用気体(22)に付与する圧力を決定する過程と、
(c)圧力発生装置(14)が呼吸用気体に付与する圧力に少なくとも部分的に基づき、大気圧、大気密度又は密度補正係数の少なくとも1つを決定する過程とを含むことを特徴とする呼吸用気体監視方法。
【請求項18】
加圧された呼吸用気体(22)の標準流量を決定する過程を更に含み、
決定する過程(c)は、少なくとも部分的に標準流量に基づく請求項17に記載の呼吸用気体監視方法。
【請求項19】
流量センサ(24)により標準流量を測定して、加圧された呼吸用気体(22)の標準流量を決定する請求項18に記載の呼吸用気体監視方法。
【請求項20】
流量センサ(24)は、熱線流速計である請求項19に記載の呼吸用気体監視方法。
【請求項21】
予め決められた起動事象を検出する過程を更に含み、
予め決められた起動事象を検出して、大気圧、大気密度又は密度補正係数の少なくとも1つを決定する過程が始動する請求項19に記載の呼吸用気体監視方法。
【請求項22】
予め決められた起動事象を検出する過程は、実質的に零の標準流量を有する加圧された呼吸用気体(22)を決定する過程を含む請求項21に記載の呼吸用気体監視方法。
【請求項23】
加圧された呼吸用気体(22)の流量を実質的に零に低減する過程を更に含み、
決定する過程(c)は、標準流量を零とする仮定に少なくとも部分的に基づく請求項17に記載の呼吸用気体監視方法。
【請求項24】
加圧された呼吸用気体(22)の標準流量を実質的に零に低減する過程は、弁(20)を閉弁する過程を含む請求項23に記載の呼吸用気体監視方法。
【請求項25】
加圧された呼吸用気体(22)の温度を決定する過程を更に含む請求項17に記載の呼吸用気体監視方法。
【請求項26】
圧力発生装置(14)が呼吸用気体(22)に与える圧力と、加圧された呼吸用気体(22)の温度とに少なくとも部分的に基づき、大気圧、大気密度又は密度補正係数の少なくとも1つを決定する請求項25に記載の呼吸用気体監視方法。
【請求項27】
大気圧、大気密度又は密度補正係数の少なくとも1つに少なくとも部分的に基づき、圧力発生装置(14)を制御する過程を更に含む請求項17に記載の呼吸用気体監視方法。
【請求項28】
大気圧、大気密度又は密度補正係数の少なくとも1つに少なくとも部分的に基づき、制御弁(20)を制御する過程を更に含む請求項17に記載の呼吸用気体監視方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2008−546476(P2008−546476A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518218(P2008−518218)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/023031
【国際公開番号】WO2007/001836
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(505338497)アールアイシー・インベストメンツ・エルエルシー (81)