説明

呼気弁及び呼吸補助装置

【課題】呼気弁を精度良く制御する。
【解決手段】呼気弁15は、呼気を大気に導く呼気流路13の出口を開閉するダイヤフラム22と、このダイヤフラム22における呼気流路13の反対側に設けられて、ダイヤフラム22と共に空間を形成するバックチャンバ23と、このバックチャンバ23の周囲に固定され、バックチャンバ23内に対する送排気を行ってバックチャンバ23内の気圧を調節するポンプユニット25と、を備える。ダイヤフラム22は、呼気流路13内の気圧がバックチャンバ23内の気圧より低い場合に呼気流路13の出口を閉鎖して、呼気流路13内の気圧がバックチャンバ23内の気圧より高い場合に呼気流路13の出口を開放する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤフラムを用いた呼気弁、及びこの呼気弁を用いた呼吸補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場では人工呼吸器などの呼吸補助装置が用いられる。この呼吸補助装置には、自発呼吸のない患者(全身麻酔、心肺蘇生中、重篤な患者)に用いる調節換気(Controlled Ventilation)方式、患者の自発呼吸に合わせて気道に陽圧(正圧)を作り出す補助換気(Assisted Ventilation)方式、補助換気と調節換気を組み合わせた部分的補助換気(Assist/Control)方式、気道の供給する気体を5〜40Hzの頻度で振動させて、1〜2ml/kgの非常に少ない1回換気量を実現する高頻度振動換気(high frequency oscillation)方式など、種々の方式が採用される。
【0003】
いずれの呼吸補助装置においても、気道に陽圧を作り出すポンプユニットと、気道を陽圧に保ちつつ呼気を大気に放出する呼気弁と、が必要となる。
【0004】
ポンプユニットは、動力源として、ファンを回転させて気体を搬送するブロアや、ピストンを往復運動させて気体を搬送するシリンダポンプなど、比較的大きな機器を使用する。このため、従来の呼吸補助装置では、ポンプユニットを収容した箱状の筐体が使用者の脇に設置されて用いられる。
【0005】
呼気弁には、ダイヤフラムを利用して、構造を簡単にしたものがある(例えば、特許文献1参照)。ダイヤフラムは、呼気を導く管路の出口を塞ぐように配置され、出口から遠退く方向に撓むことで管路を開放する。ダイヤフラムにおける管路の反対側には、ポンプユニットによって送排気されるバックチャンバが配置されている。すなわち、ダイヤフラムは、管路内の空間とバックチャンバ内の空間とを仕切るように配置され、これらの空間の気圧差によって機能する。
【0006】
具体的に、管路内の気圧がバックチャンバ内の気圧より低い場合に、ダイヤフラムが管路の出口に吸い付いてシールする。一方、管路内の気圧がバックチャンバ内の気圧より高い場合に、ダイヤフラムがバックチャンバ側に撓んで管路を開放し、呼気が大気に放出される。この呼気弁によれば、患者が咳やくしゃみをした場合であっても、ダイヤフラムが瞬時に応答して呼気が大気に放出されるので、管路内の気圧が上昇し過ぎることはなく、ひいては、患者に負担が掛かることを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−245204号公報(段落[0014]及び図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
使用者の脇に設置されたポンプユニットからは、バックチャンバまでに経路を有する。このため、ポンプユニットからの動力がバックチャンバに作用するまでにある程度の応答時間を要するが、人命にかかわる医療現場では、その応答時間を短くして、呼気弁を精度良く制御できることが望まれている。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、精度良く制御できる呼気弁及びこの呼気弁を備える呼吸補助装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者の鋭意研究により、上記目的は以下の手段によって達成される。
【0011】
即ち、上記目的を達成する本手段は、呼気を大気に導く呼気流路の出口を開閉するダイヤフラムと、前記ダイヤフラムにおける前記呼気流路の反対側に設けられて、該ダイヤフラムと共に空間を形成するバックチャンバと、前記バックチャンバの周囲に設けられ、該バックチャンバに対する送排気を行って該バックチャンバ内の気圧を調節するポンプユニットと、前記ポンプユニットの動作を制御する制御ユニットと、を備え、前記ダイヤフラムは、前記呼気流路内及び前記バックチャンバ内の気圧差を利用して、前記呼気流路内の気体が前記バックチャンバ内の気圧より低い場合に前記出口を閉鎖し、前記呼気流路内の気圧が前記バックチャンバ内の気圧より高い場合に前記出口を開放することを特徴とする、呼気弁である。
【0012】
上記発明において、上記目的を達成する呼気弁は、前記呼気流路内の気圧を測定し、その測定結果を前記制御ユニットに出力する第1気圧計と、前記バックチャンバ内の気圧を測定し、その測定結果を前記制御ユニットに出力する第2気圧計と、を備え、前記制御ユニットは、前記第1及び第2気圧計の測定結果に基づいて、前記ポンプユニットの動作を制御し、前記呼気流路内及び前記バックチャンバ内の気圧差を略ゼロにすることを特徴とすることが好ましい。
【0013】
上記発明において、上記目的を達成する呼気弁の前記ポンプユニットは、前記バックチャンバに対する送気を行う送気用マイクロポンプと、前記バックチャンバに対する排気を行う排気用マイクロポンプと、を備えることを特徴とすることが好ましい。
【0014】
上記発明において、上記目的を達成する呼気弁の前記送気用マイクロポンプは、気体を前記バックチャンバ外から吸入する送気用吸入口と、前記バックチャンバに直結されて前記送気用吸入口から吸入した気体を該バックチャンバ内に吐出する送気用吐出口と、を備え、前記排気用マイクロポンプは、前記バックチャンバに直結されて該バックチャンバ内から気体を直接吸入する排気用吸入口と、前記排気用吸入口から吸入した気体を前記バックチャンバ外に吐出する排気用吐出口と、を備えることを特徴とすることが好ましい。
【0015】
上記発明において、上記目的を達成する呼気弁の前記制御ユニットは、前記送気用マイクロポンプ及び前記排気用マイクロポンプの双方を同時に動作させておき、前記送気用マイクロポンプ及び前記排気用マイクロポンプの一方の動作を停止させることで、前記バックチャンバ内の気圧を制御することを特徴とすることが好ましい。
【0016】
上記発明において、上記目的を達成する呼気弁の前記ポンプユニットは、気体を吸入する吸入口、及び該吸入口から吸入した気体を吐出する吐出口、を有してなり、該吸入口及び該吐出口の一方が選択的に前記バックチャンバに接続されるマイクロポンプと、前記吸入口及び前記吐出口の前記バックチャンバとの接続関係を切り替えて、該バックチャンバに対する送排気を選択的に行わせる切替え機構と、を備えることを特徴とすることが好ましい。
【0017】
上記発明において、上記目的を達成する呼気弁の前記切替え機構は、前記マイクロポンプの姿勢を、前記吸入口を前記バックチャンバに直結させて該マイクロポンプが該バックチャンバに対する排気を行う排気姿勢と、前記吐出口を前記バックチャンバに直結させて該マイクロポンプが該バックチャンバに対する送気を行う送気姿勢と、で切り替えることを特徴とすることが好ましい。
【0018】
上記発明において、上記目的を達成する本手段は、呼気となる気体を、前記ポンプユニットとは異なる供給源から該気体を生物に導く吸気流路と、前記生物の呼気を大気に導く呼気流路と、前記呼気流路内の気体を大気に放出して該呼気流路内の気圧を調節する上記発明のいずれかに記載の呼気弁と、を備えることを特徴とする、呼吸補助装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、呼気弁を精度良く制御できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係る呼吸補助装置の構成を示す概略図である。
【図2】呼気弁の制御例を示す断面図であり、(A)は呼気流路の出口を閉鎖した状態を示し、(B)は呼気流路の出口を開放した状態を示す。
【図3】(A)はポンプユニットで用いられるマイクロポンプの構成例を示す断面図であり、(B)は同マイクロポンプの圧力−流量線を示すグラフである。
【図4】同ポンプユニットで用いられる制御装置のハード構成を示すブロック図である。
【図5】同ポンプユニットで用いられる制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【図6】同呼吸補助装置の制御例を示す概略図であり、(A)は使用者が呼気する場合を示し、(B)は使用者が吸気する場合を示し、(C)は呼気するタイミングに咳やくしゃみをした場合を示す。
【図7】本発明の第2実施形態に係る呼吸補助装置の構成を示す概略図である。
【図8】ポンプユニットの制御例を示す概略図であり、(A)はマイクロポンプの姿勢がバックチャンバに対する送気を行う送気姿勢となる状態を示し、(B)はマイクロポンプの姿勢がバックチャンバに対する排気を行う排気姿勢となる状態を示す。
【図9】同ポンプユニットで用いられる制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【図10】同呼吸補助装置の制御例を示す概略図であり、(A)は使用者が呼気する場合を示し、(B)は使用者が吸気する場合を示す。
【図11】本発明の第3実施形態に係る呼吸補助装置の構成を示す概略図である。
【図12】ポンプユニットの制御例を示す概略図であり、(A)はマイクロポンプがバックチャンバに対する送気を行う状態を示し、(B)はマイクロポンプがバックチャンバに対する排気を行う状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態の例について詳細に説明する。
【0022】
図1には、本発明の第1実施形態に係る医療用の呼吸補助装置10の構成が例示されている。この呼吸補助装置10は、呼気となる気体の供給源11と、この供給源11から気体を使用者に導く吸気流路12と、この吸気流路12から分岐して使用者の呼気を大気に導く呼気流路13と、この呼気流路13内の気圧を計測する気圧計14と、呼気流路13内の気体を大気に放出して当該呼気流路13内の気圧を調節する呼気弁15と、装置全体を統括的に制御する制御ユニット16と、を備えている。
【0023】
供給源11は、空気や酸素などの気体を圧縮した状態で貯留したガスタンク18と、このガスタンク18から供給される気体の流量を調整する調整弁19と、この調整弁19で調整された気体の流量を計測する流量計20と、を備えている。調整弁19は、気圧計14及び流量計20のそれぞれのセンシングデータ(測定結果、センシング信号)に基づいて制御される。この調整弁19は、特に種類が限定されることはないが、電動弁や、応答速度が速い電磁弁などを採用できる。流量計20は、センシングデータを制御ユニット16に出力する。
【0024】
吸気流路12及び呼気流路13はそれぞれ、樹脂製の蛇腹チューブからなり、一体となって一つの空間を構成する。この吸気流路12内の気圧は、定常状態において、呼気流路13内の気圧と一致する。吸気流路12から分岐した呼気流路13の出口には、呼気弁15が設けられている。気圧計14は、センシングデータを制御ユニット16に出力する。
【0025】
呼気弁15は、呼気を大気に放出する逆止弁として機能する。この呼気弁15は、呼気流路13の出口を開閉するダイヤフラム22と、このダイヤフラム22における呼気流路13の反対側に設けられて、当該ダイヤフラム22と共に空間を形成するバックチャンバ23と、このバックチャンバ23内の気圧を計測する気圧計24と、バックチャンバ23の周囲に直接固定され、当該バックチャンバ23に対する送排気を行って当該バックチャンバ23内の気圧を調整するポンプユニット25と、を備えている。
【0026】
ダイヤフラム22は、呼気流路13の出口よりも一回り大きい薄板であり、当該出口を塞ぐように配置されている。すなわち、ダイヤフラム22は、呼気流路13内の空間とバックチャンバ23内の空間とを仕切るように配置されている。このダイヤフラム22は、呼気流路13内の空間とバックチャンバ23内の空間との気圧差によって機能して、出口から遠退く方向に撓むことで呼気流路13を開放する。
【0027】
具体的に、図2(A)に示されるように、呼気流路13の気圧がバックチャンバ23内の気圧より低い場合に、ダイヤフラム22が呼気流路13の出口に吸い付いてシールする。一方、図2(B)に示されるように、呼気流路13内の気圧がバックチャンバ23内の気圧より高い場合に、ダイヤフラム22がバックチャンバ23側に撓んで呼気流路13を開放し、呼気が大気に放出される。
【0028】
図1に戻って説明する。気圧計24は、センシングデータを制御ユニット16に出力する。ポンプユニット25は、バックチャンバ23に対する送気を行う送気用マイクロポンプ27と、バックチャンバ23に対する排気を行う排気用マイクロポンプ28と、を備えている。なお、本実施形態では、ポンプユニット25がバックチャンバ23の周囲に直接固定されている場合を例に説明するが、本発明のポンプユニットは、バックチャンバの周囲に設けられていれば良い。ここでいう「バックチャンバの周囲」とは、バックチャンバとの間に何らかの部品を介在させて距離を有していても良い。ただし、応答性の観点からは、バックチャンバの周囲に直接固定されていることが好ましい。
【0029】
送気用マイクロポンプ27は、気体をバックチャンバ23外から吸入する送気用吸入口29と、バックチャンバ23に直結されて送気用吸入口29から吸入した気体を当該バックチャンバ23に吐出する送気用吐出口30と、などを備えている。この送気用マイクロポンプ27は、気圧計14及び24のそれぞれのセンシングデータに基づいて制御ユニット16に制御される。
【0030】
排気用マイクロポンプ28は、バックチャンバ23に直結されて当該バックチャンバ23内から気体を直接吸入する排気用吸入口31と、この排気用吸入口31から吸入した気体をバックチャンバ23外に吐出する排気用吐出口32と、などを備えている。この排気用マイクロポンプ28は、気圧計14及び24のそれぞれのセンシングデータに基づいて制御ユニット16に制御される。
【0031】
具体的に、制御ユニット16は、気圧計14及び24のセンシングデータに基づいて、ポンプユニット25を制御し、呼気流路13内及びバックチャンバ23内の気圧差を略ゼロにしつつ、呼気流路13内及びバックチャンバ23内の一方の気圧が若干高くなるようにする。
【0032】
なお、ここでいう「気圧差を略ゼロにする」とは、バックチャンバ23内の気圧を若干高くしてダイヤフラム22が呼気流路13の出口に吸い付いてシールする場合には、使用者が咳やくしゃみをしたときに、ダイヤフラム22が容易にバックチャンバ23側に撓んで呼気流路13を開放し、咳やくしゃみが呼気流路13の出口から放出できる程度にゼロに近いことをいう。また、呼気流路13内の気圧を若干高くしてダイヤフラム22がバックチャンバ23側に撓んで呼気流路13を開放する場合には、使用者が急に吸気したときに、ダイヤフラム22が容易に呼気流路13の出口に吸い付いてシールできる程度にゼロに近いことをいう。
【0033】
送気用マイクロポンプ27及び排気用マイクロポンプ28にはそれぞれ、図3(A)に示されるマイクロポンプ100が採用される。このマイクロポンプ100は、特許文献WO2008/069266で提案されているものであり、一次ブロア室101と、この一次ブロア室101の外側に形成された二次ブロア室102と、を備えている。
【0034】
一次ブロア室101は、振動源となる圧電素子103と、この圧電素子103が固定されたダイヤフラム104と、このダイヤフラム104と共に空間を形成する振動枠105と、を備えている。振動枠105は、一次ブロア室101の内外で流体を移動させる開口106を有している。二次ブロア室102は、ダイヤフラム104側に吸入口107を有すると共に、開口106に対向するように吐出口108を有している。
【0035】
以上のマイクロポンプ100では、圧電素子103によってダイヤフラム104が共振すると、一次ブロア室101と二次ブロア室102との間で流体が移動し、これによる流体抵抗によって振動枠105が共振する。このダイヤフラム104と振動枠105との共振によって、吸入口107から流体が吸い込まれて、吐出口108から流体が放出される。
【0036】
このマイクロポンプ100は、気体を搬送するブロア用途に適しており、逆止弁を用いることなく搬送できる。マイクロポンプ100は、外径が20mm×20mm×2mm程度の箱形状であって極めて小さいものの、入力正弦波を15Vpp(Volt peak to peak)で26kHzとした場合で、最大約1L/分(静圧0Pa時)の空気を搬送でき、また最大約2kPa(流量0L/分)の静圧を得ることができる。
【0037】
一方、マイクロポンプ100は、圧電素子103によるダイヤフラム104の振動で流体を搬送するから、搬送可能な流体の体積に自ずと限界があり、この静圧/流量特性も図3(B)に示されるような直線を示す。すなわち、例えば約1kPaの静圧を得る場合、流量は0.5L/分となる。
【0038】
なお、入力正弦波のVppを10や20に変化させた場合、圧電素子103の振幅が変化するので、流量及び圧力を変化させることができる。すなわち、入力正弦波のVppを滑らかに変化させた場合には、流量及び圧力を滑らかに変化させることができる。あるいは、入力正弦波の周波数を変化させた場合、流量及び圧力を変化させることができる。すなわち、入力正弦波の周波数を滑らかに変化させた場合には、流量及び圧力を滑らかに変化させることができる。ただし、流量及び圧力には、圧電素子103の能力や部材の強度や耐久性によって上限がある。通常は定格のVpp及び周波数で使用される。
【0039】
なお、ここでは1つの圧電素子103をダイヤフラム104に貼り付けたモノモルフ(ユニモルフ)構造を紹介しているが、勿論、2つの圧電素子を貼り合わせて振動量を増やすバイモルフ構造を採用することもできる。なお、マイクロポンプ100の構造は、液体の搬送に適した構造など、他にも様々に存在する。従って、本発明では、その目的に応じて最適な構造を採用すれば良い。すなわち、ここで説明したマイクロポンプ100は、逆止弁を用いることなく気体を搬送できるが、このマイクロポンプ100に代えて、吸入口及び吐出口に逆止弁を備えるマイクロポンプを適用しても良い。
【0040】
図4に示されるように、制御ユニット16は、ハード構成として、CPU34と、第1記憶媒体35と、第2記憶媒体36と、第3記憶媒体37と、入力装置38と、表示装置39と、入出力インタフェース40と、バス41と、を備えている。
【0041】
CPU34は、いわゆる中央演算処理装置であり、各種プログラムが実行されて本制御ユニット16の各種機能を実現する。第1記憶媒体35は、いわゆるRAM(ランダム・アクセス・メモリ)であり、CPU34の作業領域として使用される。第2記憶媒体36は、いわゆるROM(リード・オンリー・メモリ)であり、CPU34で実行される基本OSを記憶する。第3記憶媒体37は、磁気ディスクを内蔵したハードディスク装置、CDやDVDやBDを収容するディスク装置、及び不揮発性の半導体フラッシュメモリ装置などで構成されており、CPU34で実行される各種プログラム、気圧計14,24及び流量計20のセンシングデータなどが保存される。
【0042】
入力装置38は、入力キーやキーボード、マウスであり、各種情報を入力する。表示装置39は、ディスプレイであり、各種動作状態を表示する。入出力インタフェース40は、気圧計14,24及び流量計20のセンシングデータ、送気用マイクロポンプ27及び排気用マイクロポンプ28を動作させる電源(正弦波の波形)及び制御信号が入出力される。更に、この入出力インタフェース40は、外部のパーソナルコンピュータからプログラムなどのデータを取得したり、同パーソナルコンピュータに対してセンシングデータを出力したりする。バス41は、CPU34、第1記憶媒体35、第2記憶媒体36、第3記憶媒体37、入力装置38、表示装置39、入出力インタフェース40などを一体的に接続して通信を行う配線となる。
【0043】
図5には、この制御ユニット16に保存される制御プログラムがCPU34で実行されることで得られる機能構成が示されている。制御ユニット16は、機能構成として、センシング部43と、ポンプ制御部44と、弁制御部45と、を備える。センシング部43は、気圧計14,24のセンシングデータを常に取得してポンプ制御部44に伝達する。更に、このセンシング部43は、流量計20のセンシングデータを常に取得して弁制御部45に伝達する。ポンプ制御部44は、センシング部43のセンシングデータを参照して、送気用マイクロポンプ27及び排気用マイクロポンプ28への入力正弦波のVpp及び周波数を、目標となる流量値及び圧力値に近づくように制御する。弁制御部45は、センシング部43のセンシングデータを参照して、調整弁19への制御信号を、目標となる流量値に近づくように制御する。
【0044】
次に、呼吸補助装置10の制御例について説明する。
【0045】
図6(A)に示されるように、使用者が呼気する場合、呼気流路13内が昇圧する。呼気流路13内が昇圧すると、気圧計14によってセンシングされる。センシングデータは、制御ユニット16に出力される。制御ユニット16は、センシングデータに基づいて、ポンプユニット25を制御する。すなわち、排気用マイクロポンプ28を動作させ、バックチャンバ23に対する排気を行って、バックチャンバ23内を減圧する。これにより、呼気流路13内の気圧がバックチャンバ23内の気圧より高くなり、ダイヤフラム22が出口から遠退く方向に撓んで呼気流路13を開放する。呼気は、呼気流路13の出口から放出される。
【0046】
呼気の放出により、呼気流路13内が減圧する。呼気流路13内が減圧すると、気圧計14によってセンシングされる。センシングデータは、制御ユニット16に出力される。制御ユニット16は、センシングデータに基づいて、ポンプユニット25を制御する。すなわち、排気用マイクロポンプ28を停止させる。そして、呼気流路13内の気圧がバックチャンバ23内の気圧より高い状態が解消されて、ダイヤフラム22の撓みも解消され、呼気流路13がシールされる。
【0047】
続いて、図6(B)に示されるように、使用者が吸気する場合、呼気流路13内が減圧する。呼気流路13内が減圧すると、気圧計14によってセンシングされる。センシングデータは、制御ユニット16に出力される。制御ユニット16は、センシングデータに基づいて、ポンプユニット25及び供給源11を制御する。すなわち、送気用マイクロポンプ27を動作させ、バックチャンバ23に対する送気を行って、バックチャンバ23内を昇圧する。これにより、呼気流路13内の気圧がバックチャンバ23内の気圧より低くなり、ダイヤフラム22によって呼気流路13が強固にシールされる。また、送気用マイクロポンプ27の動作にあわせて、調整弁19が開かれ、ガスタンク18から気体が供給される。
【0048】
続いて、図6(C)に示されるように、使用者が吸気中に咳やくしゃみをした場合、呼気流路13内が急激に昇圧する。これにより、呼気流路13内の気圧がバックチャンバ23内の気圧より高くなり、ダイヤフラム22が出口から遠退く方向に撓んで呼気流路13を開放する。咳やくしゃみは、呼気流路13の出口から放出される。
【0049】
以上の呼吸補助装置10によれば、ポンプユニット25がバックチャンバ23の周囲に固定されているから、ポンプユニット25からの動力がバックチャンバ23に作用するまでに応答時間を要さず、呼気弁を精度良く制御できる。これにより、人命にかかわる医療現場において支障をきたすことがない。また、バックチャンバ23とポンプユニット25とが一体化されるので、使用者の体の動作に連動してバックチャンバ23が動いても、このバックチャンバ23とポンプユニット25とが一緒に動くので、バックチャンバ23とポンプユニット25との接続が途切れないで済む。従って、呼吸補助動作の安定性が増すと同時に、使用者も体を動かしやすくなる。
【0050】
そして、ポンプユニット25が送気用マイクロポンプ27及び排気用マイクロポンプ28をそれぞれ備えているから、バックチャンバ23に対する送排気の切替え制御を精度良く行える。また、各マイクロポンプ25は小さいので、これを複数配置しても、従来のブロア等のポンプユニットと比較して小さく且つ軽量に構成できる。更に、小型化されたポンプユニット25がバックチャンバ23に直接固定されるので、呼吸補助装置10を極めてコンパクトに構成できる。
【0051】
図7には、第2実施形態に係る医療用の呼吸補助装置50の構成が例示されている。なお、第1実施形態と第2実施形態は、同一又は類似する部分が多いので、これらの説明は省略すると共に、ここでは第1実施形態と異なる点を中心に説明する。後述する第3実施形態についても、他の実施形態と共通する説明は省略すると共に、他の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0052】
呼吸補助装置50は、二つのマイクロポンプ27,28を採用するポンプユニット25に代えて、一つのマイクロポンプ52を採用するポンプユニット51を備えている。ポンプユニット51は、バックチャンバ23に対する送排気を選択的に行うマイクロポンプ52と、このマイクロポンプ52の姿勢を切り替えてバックチャンバ23に対する送排気を選択的に行わせる切替え機構53と、を備えている。
【0053】
マイクロポンプ52は、気体を吸入する吸入口54と、この吸入口54から吸入した気体を吐出する吐出口55と、などを備えている。このマイクロポンプ52には、図3(A)に示されるマイクロポンプ100が採用される。
【0054】
マイクロポンプ52は、切替え機構53により、姿勢が切り替えられて、吸入口54及び吐出口55のバックチャンバ23との接続関係が切り替えられ、吸入口54及び吐出口55の一方が選択的にバックチャンバ23に接続される。具体的に、マイクロポンプ52の姿勢は、図8(A)に示される送気姿勢と、図8(B)に示される排気姿勢と、の間で切り替えられる。送気姿勢では、吐出口55がバックチャンバ23に直結されて、マイクロポンプ52がバックチャンバ23に対する送気を行う。排気姿勢では、吸入口54がバックチャンバ23に直結されて、マイクロポンプ52がバックチャンバ23に対する排気を行う。
【0055】
図9には、制御ユニット16に保存される制御プログラムがCPU34で実行されることで得られる機能構成が示されている。制御ユニット16は、機能構成として、切替え制御部57などを備える。センシング部43は、気圧計14,24のセンシングデータを常に取得して切替え制御部57に伝達する。切替え制御部57は、センシング部43のセンシングデータを参照して、切替え機構53への制御信号を、目標となるマイクロポンプ52の姿勢となるように制御する。
【0056】
次に、呼吸補助装置50の制御例について説明する。
【0057】
図10(A)に示されるように、使用者が呼気する場合、呼気流路13内が昇圧する。呼気流路13内が昇圧すると、気圧計14によってセンシングされる。センシングデータは、制御ユニット16に出力される。制御ユニット16は、センシングデータに基づいて、ポンプユニット51を制御する。すなわち、切替え機構53を動作させ、マイクロポンプ52の姿勢を排気姿勢に切り替えると共に、マイクロポンプ52を動作させ、バックチャンバ23に対する排気を行って、バックチャンバ23内を減圧する。これにより、呼気流路13内の気圧がバックチャンバ23内の気圧より高くなり、ダイヤフラム22が出口から遠退く方向に撓んで呼気流路13を開放する。呼気は、呼気流路13の出口から放出される。その後、制御ユニット16は、使用者が吸気するまでの間は、第1実施形態の呼吸補助装置10の場合と同様に制御する。
【0058】
続いて、図10(B)に示されるように、使用者が吸気する場合、呼気流路13内が減圧する。呼気流路13内が減圧すると、気圧計14によってセンシングされる。センシングデータは、制御ユニット16に出力される。制御ユニット16は、センシングデータに基づいて、ポンプユニット51及び供給源11を制御する。すなわち、切替え機構53を動作させ、マイクロポンプ52の姿勢を送気姿勢に切り替えると共に、マイクロポンプ52を動作させ、バックチャンバ23に対する送気を行って、バックチャンバ23内を昇圧する。これにより、呼気流路13内の気圧がバックチャンバ23内の気圧より低くなり、ダイヤフラム22によって呼気流路13が強固にシールされる。また、マイクロポンプ52の動作にあわせて、調整弁19が開かれ、ガスタンク18から気体が供給される。
【0059】
以上の呼吸補助装置50によれば、マイクロポンプ52を一つ備えるだけで、バックチャンバ23への送排気を行える。これにより、第1実施形態の呼吸補助装置10と比較して更に小さく且つ軽量に構成できる。
【0060】
図11には、第3実施形態に係る医療用の呼吸補助装置60の構成が例示されている。呼吸補助装置60は、マイクロポンプ52の姿勢を変更して接続関係を切り替えるポンプユニット51に代えて、マイクロポンプ62の姿勢を変更せずに接続関係を切り替えるポンプユニット61を備えている。ポンプユニット61は、バックチャンバ23に対する送排気を選択的に行うマイクロポンプ62と、このマイクロポンプ62の吸入口が接続された吸入管63と、マイクロポンプの吐出口が接続された吐出管64と、吸入管63及び吐出管64のバックチャンバ23への接続関係を切り替える切替え弁65と、を備えている。
【0061】
マイクロポンプ62は、吸入口及び吐出口(いずれも符号省略)などを備えている。このマイクロポンプ62には、図3(A)に示されるマイクロポンプ100が採用される。
【0062】
マイクロポンプ62は、切替え弁65により、吸入口及び吐出口のバックチャンバ23への接続関係が切り替えられ、吸入口及び吐出口の一方が選択的にバックチャンバ23に接続される。具体的に、図12(A)に示される送気を行う状態と、図12(B)に示される排気を行う状態と、の間で切り替えられる。送気を行う状態では、吐出管64がバックチャンバ23に直結されて、マイクロポンプ62がバックチャンバ23に対する送気を行う。排気を行う状態では、吸入管63がバックチャンバ23に直結されて、マイクロポンプ62がバックチャンバ23に対する排気を行う。
【0063】
尚、本発明のポンプユニット及び呼吸補助装置は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。また、上記した実施の形態の構成要件を、可能な範囲で他の実施の形態に適用してもよい。
【0064】
すなわち、第1実施形態に係る呼吸補助装置10では、送気用マイクロポンプ27と排気用マイクロポンプ28とを一つずつ備えているが、それぞれについて、複数備えるようにしてもよい。この場合、直列または並列に接続したり、行と列との関係となる格子状(直列且つ並列)に接続したりしてもよい。これらの場合、個々のマイクロポンプが故障しても、他のマイクロポンプで補えるので、安全性を高めることも可能となる。
【0065】
また、第1実施形態に係る呼吸補助装置10では、制御ユニット16は、送気用マイクロポンプ27及び排気用マイクロポンプ28の一方を動作させているが、この制御態様に限定されるものではない。すなわち、制御ユニット16は、送気用マイクロポンプ27及び排気用マイクロポンプ28の双方を動作させておき、送気用マイクロポンプ27及び排気用マイクロポンプ28の一方の動作を停止させることで、バックチャンバ23内の気圧を制御するようにしてもよい。これにより、立ち上がりの遅れによるタイムラグをなくすことができ、呼気弁15を更に精度良く制御できる。
【0066】
また、第2実施形態に係る呼吸補助装置50では、切替え機構53がマイクロポンプ52の姿勢を切り替えることで、バックチャンバ23に対する送排気を切り替えるようにしたが、マイクロポンプ52の姿勢は固定したままで、電磁弁などによってマイクロポンプ52の経路を切り替えることで、バックチャンバ23に対する送排気を切り替えるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の呼吸補助装置は、様々な生物の呼吸補助目的で利用できる。
【符号の説明】
【0068】
10,50,60 呼吸補助装置
11 供給源
12 吸気流路
13 呼気流路
14,24 気圧計
15 呼気弁
16 制御ユニット
22 ダイヤフラム
23 バックチャンバ
25,51,61 ポンプユニット
27 送気用マイクロポンプ
28 排気用マイクロポンプ
29 送気用吸入口
30 送気用吐出口
31 排気用吸入口
32 排気用吐出口
52,62,100 マイクロポンプ
53 切替え機構
54,107 吸入口
55,108 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼気を大気に導く呼気流路の出口を開閉するダイヤフラムと、
前記ダイヤフラムにおける前記呼気流路の反対側に設けられて、該ダイヤフラムと共に空間を形成するバックチャンバと、
前記バックチャンバの周囲に設けられ、該バックチャンバに対する送排気を行って該バックチャンバ内の気圧を調節するポンプユニットと、
前記ポンプユニットの動作を制御する制御ユニットと、を備え、
前記ダイヤフラムは、前記呼気流路内及び前記バックチャンバ内の気圧差を利用して、前記呼気流路内の気圧が前記バックチャンバ内の気圧より低い場合に前記出口を閉鎖し、前記呼気流路内の気圧が前記バックチャンバ内の気圧より高い場合に前記出口を開放することを特徴とする、
呼気弁。
【請求項2】
前記呼気流路内の気圧を測定し、その測定結果を前記制御ユニットに出力する第1気圧計と、
前記バックチャンバ内の気圧を測定し、その測定結果を前記制御ユニットに出力する第2気圧計と、を備え、
前記制御ユニットは、前記第1及び第2気圧計の測定結果に基づいて、前記ポンプユニットの動作を制御し、前記呼気流路内及び前記バックチャンバ内の気圧差を略ゼロにすることを特徴とする、
請求項1に記載の呼気弁。
【請求項3】
前記ポンプユニットは、
前記バックチャンバに対する送気を行う送気用マイクロポンプと、
前記バックチャンバに対する排気を行う排気用マイクロポンプと、を備えることを特徴とする、
請求項1または2に記載の呼気弁。
【請求項4】
前記送気用マイクロポンプは、気体を前記バックチャンバ外から吸入する送気用吸入口と、前記バックチャンバに直結されて前記送気用吸入口から吸入した気体を該バックチャンバ内に吐出する送気用吐出口と、を備え、
前記排気用マイクロポンプは、前記バックチャンバに直結されて該バックチャンバ内から気体を直接吸入する排気用吸入口と、前記排気用吸入口から吸入した気体を前記バックチャンバ外に吐出する排気用吐出口と、を備えることを特徴とする、
請求項3に記載の呼気弁。
【請求項5】
前記制御ユニットは、前記送気用マイクロポンプ及び前記排気用マイクロポンプの双方を同時に動作させておき、前記送気用マイクロポンプ及び前記排気用マイクロポンプの一方の動作を停止させることで、前記バックチャンバ内の気圧を制御することを特徴とする、
請求項3または4に記載の呼気弁。
【請求項6】
前記ポンプユニットは、
気体を吸入する吸入口、及び該吸入口から吸入した気体を吐出する吐出口、を有してなり、該吸入口及び該吐出口の一方が選択的に前記バックチャンバに接続されるマイクロポンプと、
前記吸入口及び前記吐出口の前記バックチャンバとの接続関係を切り替えて、該バックチャンバに対する送排気を選択的に行わせる切替え機構と、を備えることを特徴とする、
請求項1または2に記載の呼気弁。
【請求項7】
前記切替え機構は、前記マイクロポンプの姿勢を、前記吸入口を前記バックチャンバに直結させて該マイクロポンプが該バックチャンバに対する排気を行う排気姿勢と、前記吐出口を前記バックチャンバに直結させて該マイクロポンプが該バックチャンバに対する送気を行う送気姿勢と、で切り替えることを特徴とする、
請求項6に記載の呼気弁。
【請求項8】
吸気となる気体を、前記ポンプユニットとは異なる供給源から該気体を生物に導く吸気流路と、
前記生物の呼気を大気に導く呼気流路と、
前記呼気流路内の気体を大気に放出して該呼気流路内の気圧を調節する請求項1〜7に記載の呼気弁と、を備えることを特徴とする、
呼吸補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−59382(P2013−59382A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198258(P2011−198258)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000138060)株式会社メトラン (23)