説明

哺乳動物又は人に投与する組成物

【課題】 病原性の細胞を破壊するために用いられる哺乳動物又は人に投与される組成物を提供する。
【解決手段】 本発明の組成物は、エンプティ・リポソームと構造タンパク質要素と特定の結合要素とを有し、破壊すべき病原性微生物または細胞の機能として選択される。本発明の組成物を患者に投与すると、この組成物は目標細胞の膜または微生物の膜と相互作用をする有効活性剤として機能し、これにより細胞内物を細胞外媒体に解放する放出ポートを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物又は人に投与する組成物に関し、特に治療剤としての応用に関する。このような治療剤は、変質細胞(altered cell)または病原体性微生物(pathogenic microorganism)に作用し、浸透圧のバランスを壊し、細胞内物質を細胞外媒体に放出する。
【背景技術】
【0002】
このような治療剤は、ガン治療の抗腫瘍剤(antineoplastic agent)として、また細胞、バクテリア、ウイルス、単細胞生物または多細胞生物により引き起こされる病気の治療に用いられる。このようなバクテリア、ウイルス等の最外殻の皮膜は、脂質膜、例えば真核生物細胞の細胞膜からなる。あるいはエイズ・ウイルス(HIV)の皮膜である。
【0003】
細胞に関しては、用語「アポトーシス(apoptosis:細胞消滅)」とは、組織形態の変化を伴う活性プロセスを意味する。このプロセスにおいては、細胞は一定期間内に死滅するようプログラムされている。用語「壊死(necrosis)」とは、毒素にさらされた結果としての、あるいは細胞機能の急激な消失と調節により細胞膜に引き起こされた外傷の結果としての急激且つ無秩序のプロセスを意味し、結果的に過剰な浸透プロセスとなり、最終的に細胞膜の死または溶解/崩壊となり、細胞内物質が細胞外媒体に放出される。
【0004】
腫瘍の発生は、細胞内で発生する累積的(突然)変異と連続的細胞の分裂の後に起こる。突然変異の比率は、腫瘍の遺伝子の不安定性に依存し、腫瘍が臨床で検出できるほどの大きさになった時には突然変異の量は極めて大きく、その結果細胞はある種の化学療法薬剤の作用に対しは瞬時に耐性を有するようになる。腫瘍を診断した時には、耐性細胞の数は、その大きさとその固有の突然変異の速度に比例する。
【0005】
化学療法に対する腫瘍細胞の耐性は、その成長の運動性と瞬間的な突然変異の発現により決定される。増殖性の腫瘍細胞は多くの化学療法剤により影響を受けるが、活性度の低い腫瘍細胞に対する効果は、ほとんどない。腫瘍の大きさが、低い成長率で、その成長段階で予め診断されても、腫瘍細胞は化学療法薬剤の作用に対しあまり敏感ではない。
【0006】
化学療法治療の目的は、ガン細胞特にDNAに損傷を引き起こし、「アポトーシス」を誘発させることである。この為、できるだけ活性度の高い薬剤を変質細胞内の分子目標に到達せることが必要である。このような目的を阻害するような外的環境あるいは内的環境は、細胞の耐性の要因である。
【0007】
ある種の耐性メカニズムにより生体外(in vitro)では影響が見られる細胞増殖抑制剤による全ての化学療法治療剤は、受動的拡散により細胞内に拡散する。それ故に、薬剤の細胞外濃度が高くなると、細胞内に入り込む量が増え、その効果も上がる。
【0008】
細胞内の耐性メカニズムは、化学療法治療が効かないことに最大の影響を及ぼすメカニズムである。かくして、目標レベルにおける薬剤濃度の減少は、次プロセスの結果である。即ち、薬剤が細胞膜を通して移送タンパク質(transport protein)により放逐される結果と、化学療法薬剤分子の細胞質小包内へのカプセル化の結果と、細胞核(nucleus)と細胞形質(cytoplasm)との間の移送の変化の結果と、酸化と/またはグルテーション(glutation)の接合(GSH)による非活性化による薬剤の細胞内代謝の変化結果と、化学的ポンプにより細胞からの二次的放逐の結果である。
【0009】
抗腫瘍剤として使用される大部分の細胞毒性薬剤は、DNAの構造体を変化させ、細胞の「アポトーシス」を引き起こす。しかし、DNAの修復機能が向上すると薬剤の作用を打ち消してしまう。遺伝子p53は細胞の「アポトーシス」を開始させるが、多くのガン細胞においては、この遺伝子は突然変異し更には消滅してしまう。その結果変質細胞は、細胞毒素剤の効果により損傷を受けるが、「アポトーシス」は発生せず、細胞は分裂を繰り返す。
【0010】
細胞増殖抑制性剤は、現在化学療法で最も頻繁に使用されている抗腫瘍剤であり、ガン細胞のDNAの破壊と/または変質を引き起こすことで、機能/作用する。細胞増殖抑制性剤は、上記の例外があるが、「アポトーシス」を引き起こし細胞を死滅させる。その特異性(specificity)が低いことは副作用につながる。この低い特異性故、細胞増殖抑制性剤は、ガン細胞を攻撃することに加えて、胃粘液の細胞も破壊し、免疫システムの細胞をも攻撃し、その結果患者に重篤な「好中球減少症(neutropenia)」を引き起こし、患者を日和見感染や死亡率の高い病気に対し抵抗力を奪ってしまう。
【0011】
患者の副作用を最小にするために、モノクローナル抗体(monoclonal antibody)とリポソーム(liposome)に基礎を置く(利用する)新たな薬剤が開発された。抗腫瘍薬剤内のモノクローナル抗体は、除去すべきガン細胞内の特定の抗原にのみ結合する。それ故に抗体に結合した活性因子のみが、この抗原を保有するガン細胞に作用する。これにより、上記した副作用がなくなる。
【0012】
さらに好ましいことは、腫瘍に薬効のあるモノクローナル抗体を有するペギレーティド・リポソーム(pegylated riposome)を使用することである。このモノクローナル抗体に抗腫瘍薬剤の活性成分が固着する。リポソームは、細胞膜の組成に非常に近い組成を有する燐脂質からなる小胞であり、これによりリポソームは細胞膜と共に溶解し、リポソーム内に含まれる活性因子が細胞の内側に貫通する。リポソームが投与される薬物療法を用いることにより、血液内の抗腫瘍剤の活性度が、長期にわたり維持され、その投与は徐々に行われ、薬剤が投与された患者の副作用はさらに小さくなる。しかし、クオリティ・オブ・ライフと生存率の改善が見られるのにも関わらず、この化学療法の解決法は高価であり、その作用もガン細胞の耐性メカニズムに対しあまり効かない。公衆健康管理システムはこの薬剤をあまり使用することがない。ある場合には、この化学療法は、例えば小児白血病に対しては有効であるが、ガンが転移している患者および充実性腫瘍の患者対しては効かず、大部分の患者は死亡してしまう。その故に、現在の抗腫瘍剤に対し耐性ができるメカニズムを無効にするような新たなタイプの化学療法を開発する必要があり、このような薬剤の開発は世界中の何百万の人々の救済につながる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、変質細胞、バクテリア、ウイルス、あるいは脂質膜を外側皮膜に有する他の微生物により引き起こされる病気を治すために、哺乳動物又は人に投与される組成物を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、毒性がゼロのガン治療剤と、従来の治療で採用されているのとは異なる治療メカニズムの発見である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
変質細胞(特にガン細胞)に対する活性成分のないエンプティ・リポソーム(empty liposome)の使用は公知ではないが、リポソームは、さまざまな治癒行為(抗高血圧治療、抗炎症治療等)において、従来の活性成分を有さない組成物として用いられる。本発明以前には、抗腫瘍剤が存在しない中で、変質細胞または微生物の細胞内物を細胞外媒体に拡散することとその分解と死滅を行うために、ペギレーティド・リポソームとモノクローナル抗体を一緒に使用することは、考えられなかった。
【0016】
本発明は、変質細胞を治療する組成物と方法に関する。より具体的には、本発明は、リポソームとモノクローナル抗体と構造タンパク質(structual protein)とから構成されるが、化学療法剤を含有しない組成物に関連する。その哺乳動物又は人への投与により、細胞の損傷(lesion)は細胞に開口/孔を形成し、損傷された細胞の細胞内物が細胞外媒体に放出され、溶解され死滅する。かくして細胞の耐性メカニズムが無効になる。
【0017】
本発明は、細胞疾患(例えば癌腫、白血病、骨髄腫、神経芽腫、肉腫、肺ガン、脳腫瘍、卵巣ガン、結腸ガン、乳ガンのような細胞に関連する病気)にかかっている患者あるいは動物に薬剤を投与する方法を提供する。しかしこれに限定されない。本発明は、一般的に、変質細胞と病原性の微生物の原形質膜内の溶解プロセスを開始できる程度の組成物の有効量を患者に投与する方法である。有効量は以下に記載する医療療法により決定できる。
【実施例】
【0018】
細胞の開口(孔)の形成を誘発する組成物は、治療すべき病気に対し特異性があり且つリポソームあるいは小胞に結合するモノクローナル抗体を有する。この組成物は、かなりの大きさの開口が開けられた外部表面上に配置された構造タンパク質を有する。この開口は、損傷を受けた細胞とリポソームとを相互作用に際しても、開いたままであり、細胞外媒体への原形質の放出を誘導し、損傷を受けた細胞の溶解と死滅を引き起こさせる。
【0019】
本発明によれば、モノクローナル抗体は、破壊すべき細胞または微生物に対し特異性のあるアルコールまたは糖タンパク質で、置換される。
【0020】
従って、本発明によれば、変質細胞、バクテリア、ウイルスあるいは外側皮膜が脂質膜である他の微生物で引き起こされる病気を治療するために哺乳動物又は人に投与できる組成物が提供できる。
【0021】
かくして、毒性がゼロの病気に対する治療法と、損傷を受けた細胞に対し従来採用されたのとは異なるメカニズムが提供される。本発明の治療の作用のメカニズムは、化学的な治療剤を有さず目標細胞(例、ガン細胞)により表される耐性メカニズムを無効にする。これは従来の抗腫瘍剤とは異なる。
【0022】
哺乳動物又は人に投与されるべき組成物が、リポソームと構造タンパク質と特定の結合要素を用いて用意される。
【0023】
病気の哺乳動物又は人への組成物の投与は、破壊すべき目標細胞あるいは微生物内の溶解プロセスを開始させ、細胞内物質を細胞外媒体に、タンパク質によりリポソームの脂質膜に最初に形成された大きな開口を介して、移動する。この開口は、薬剤の作用が当てられる目標細胞又は微生物の原型質膜と脂質膜との相互作用の結果、排出用出口として保持される。
【0024】
より具体的には、本発明はガン治療用の組成物を提供する。この組成物は、好ましくは単一層のリポソーム(unilamellar liposome)を有し、その構造体に、構造タンパク質の組み込みにより大きな開口が形成され、その膜は治療すべき損傷細胞に対し特異性のある抗体を組み込む。その結果、小胞(vesicle)を腫瘍の対応する細胞レセプターに結合することにより、小胞の膜と特定の細胞の溶融(fusion)が起こる。リポソームを目標細胞に結合しその膜が溶けると、リポソームに存在する開口が、細胞質(cytoplasma)を細胞外媒体に接続する排出口を形成し、その浸透圧が変わり、細胞の死滅につながる溶解プロセスが始まる。
【0025】
本発明によれば、変質細胞、損傷細胞または病原性微生物を破壊するために、哺乳動物又は人に投与される組成物は、単一層のエンプティ・リポソーム(empty unilamellar liposome)を有する。その構造体は、構造タンパク質により規定される開口を形成し、その膜は、破壊されるべき細胞に応じて、特定の結合要素(例えば選択されたモノクローナル抗体)を、次のように組み込む。即ち、患者に投与されると、組成物は、目標細胞の膜または微生物の膜と相互作用できる効果剤となり、この効果剤で溶融すると、リポソームの開口を細胞の浸透圧のバランスを破壊する程度に維持し、さらに開口を細胞内要素を細胞外媒体に解放するための排出口として用いられるように維持する。
【0026】
実質的に、組成物で存在する単一層のエンプティ・リポソームは、破壊すべき目標細胞または微生物に適合する特異性のある脂質組成物を獲得する。
【0027】
本発明によれば、タリン(talin)は、意図された組成物を使用する際に、リポソームの構造タンパク質修正要素として、好ましい。
【0028】
本発明の組成物を使用する治療方法は、モノクローナル抗体、他の特定の結合要素、またはリポソームを利用する。しかしこれは、後者に組み込まれた活性要素に関連する不具合点を有さず器官に無害である。その理由は、それらは燐脂質とタンパク質しか含有しないからである。腫瘍を形成する疾患に対し、腫瘍細胞に対する組成物の致死的な効果は、細胞膜に排出口を明けそれを維持することにより得られる。これが、構造タンパク質好ましくはタリンに関連するリポソームの相互作用の後にできる内容物を無効にし、これによりリポソーム内に大きな開口を形成する。開口の大きさは、予め選択され、リポソーム内で長期に渡って存在し、リポソームと損傷細胞の膜の溶融に際しては、ほぼ同じ大きさの開口が、細胞膜に形成され維持される。複数のリポソームを腫瘍細胞膜に結合することにより、開口が形成され、この開口が細胞の溶解を引き起こし、死滅させる。
【0029】
上記したように、変質細胞の治療のために哺乳動物又は人に投与される本発明の組成物の利点は、従来の抗腫瘍治療と比較すると明らかである。第1の利点は、高い特異性である。この高い特異性は、治療剤の副作用を低減ないし除去する。第2の利点は、現在使用されている化学療法組成物と比較して、リポソームの相互作用に対する変質細胞の膜または微生物の膜により提供される耐性がゼロである点である。第3の利点は、完全無害な点である。毒性あるいは放射性の要素がない点である。第4の利点は、特定の結合要素の使用に際しての高い選択性である。特にガン治療によるモノクローナル抗体の使用である。第5の利点は、病原性微生物の膜または目標細胞の膜にリポソームの小胞が結合する際の高い致死的な力である。
【0030】
特定の結合要素は、リポソームの膜に挿入されるモノクローナル抗体、糖タンパク質、アルコールである。その作用は、それらを微生物の膜または目標細胞の膜に導くことであり、特定の結合要素は、副作用を最小にするよう選択される。
【0031】
以上の説明は、本発明の一実施例に関するもので、この技術分野の当業者であれば、本発明の種々の変形例を考え得るが、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。特許請求の範囲の構成要素の後に記載した括弧内の番号は、図面の部品番号に対応し、発明の容易なる理解の為に付したものであり、発明を限定的に解釈するために用いてはならない。また、同一番号でも明細書と特許請求の範囲の部品名は必ずしも同一ではない。これは上記した理由による。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物又は人に投与される、エンプティ・リポソームと特定の結合要素とを有する組成物において、
構造タンパク質が、前記エンプティ・リポソームに結合され、
前記エンプティ・リポソームの膜に大きなサイズの開口が形成され、
前記特定の結合要素により、前記組成物は、目標細胞の膜または微生物の膜と相互作用し、前記開口を維持し、浸透圧バランスを壊す効果剤になり、
前記開口が、細胞内物を細胞外媒体に放出する排出口を形成する
ことを特徴とする哺乳動物又は人に投与される組成物。
【請求項2】
前記エンプティ・リポソームは、単一層であり、治療すべき細胞または微生物に適合できる特異性ある脂質組成物である
ことを特徴とする請求項1記載の哺乳動物又は人に投与される組成物。
【請求項3】
前記構造タンパク質は、タリンである
ことを特徴とする請求項1記載の哺乳動物又は人に投与される組成物。
【請求項4】
前記組成物は、変質細胞と病原性微生物を治療するために使用される
ことを特徴とする請求項1−3のいずれかに記載の哺乳動物又は人に投与される組成物。
【請求項5】
前記組成物は、ガン治療に用いられる
ことを特徴とする請求項1−4のいずれかに記載の哺乳動物又は人に投与される組成物。
【請求項6】
前記組成物は、ウイルス性疾患治療に用いられる
ことを特徴とする請求項1−4のいずれかに記載の哺乳動物又は人に投与される組成物。

【公表番号】特表2009−508828(P2009−508828A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530552(P2008−530552)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【国際出願番号】PCT/ES2006/070135
【国際公開番号】WO2007/034022
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(508075443)
【Fターム(参考)】