説明

哺乳類non−Th2皮膚疾患の診断キット、治療薬及び治療用キット

【課題】各種non-Th2皮膚疾患を早期かつ十分に、しかも安定した治療効果をもって治癒することができる、non-Th2皮膚疾患の治療薬、及び治療用キット等を提供する。
【解決手段】本発明に係るnon-Th2皮膚疾患の治療薬は、亜鉛を有効成分とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類のnon-Th2皮膚疾患(non-Th2生体反応性皮膚疾患)、すなわちTh2皮膚疾患であるアトピー性皮膚炎を除く皮膚疾患全般の治療薬及び治療用キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、哺乳類のnon-Th2生体反応性皮膚疾患としては、Th2生体反応性皮膚疾患であるアトピー性皮膚炎以外の皮膚疾患、例えば、エラースダンロス症候群、Th1乾癬症/魚鱗癬、ラテックスフルーツ症候群、亜鉛反応性皮膚炎等の各種皮膚疾患が知られている。
これらnon-Th2生体反応性膚疾患の治療については、治療分類検査(各Th生体反応検査)により、疾患ごとに治療薬及び治療方法が検討及び選択され、患者(被験動物)個々の症候を対象にして加療されていたが、依然治癒率は低いものであった(例えば、非特許文献1〜4参照)。また、治療分類検査によらない場合には、Th1生体反応が低下し、治療薬の副作用や不治因子を誘導することもあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Ehlers S., et al., “Infection, inflammation, and chronic diseases: consequences of a modern lifestyle.”, Trends immunol., 2010, May;31(5):184-90.
【非特許文献2】Von Hertzen L. et al., “Risk of atopy associated with microbial components in house dust.”, Ann. allergy. Asthma. imminol., 2010, Mar;104(3):269-70.
【非特許文献3】古江増隆ら,日皮会誌:118(3),325-342,2008(平成20年),日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン,日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会
【非特許文献4】古江増隆(九州大学大学院医学研究院皮膚科学教授;主任研究者),厚生労働省研究班:「アトピー性皮膚炎の既存治療法のEBMによる評価と有用な治療法の普及」,2004年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況下において、種々のnon-Th2皮膚疾患を早期かつ十分に、しかも安定した治療効果をもって治癒することができる治療薬の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、non-Th2皮膚疾患治療薬及び当該疾患の診断簡易診断投薬意思決定検査ならび治療用キットを提供するものである。
【0006】
(1)亜鉛を有効成分とするnon-Th2皮膚疾患治療薬。
当該治療薬としては、例えば、被験哺乳動物への投与において、血清中の亜鉛濃度が55μg/mL以上となるように用いられるものが挙げられる。
【0007】
(2)亜鉛を含むことを特徴とするnon-Th2皮膚疾患の治療用キット。
上記(1)の治療薬及び上記(2)のキットにおいて、non-Th2皮膚疾患(哺乳類のnon-Th2生体反応性皮膚疾患)としては、例えば、Th1乾癬症、魚鱗癬、乾癬性関節炎、偽クッシング症候群、アロペシアX、腸性肢端炎、亜鉛反応性皮膚炎、接触性皮膚炎、アレルギー性接触性皮膚炎、自家感作型皮膚炎、ラテックスフルーツ症候群、エラースダンロス症候群、ビタミンA欠乏性皮膚炎、甲状腺機能低下症、皮膚線維症、及びビタミンA欠乏性皮膚炎からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、種々のnon-Th2皮膚疾患を早期かつ十分に、しかも安定した治療効果をもって治癒することができる治療薬、当該疾患の治療用キット等を提供することができる。また、本発明の治療薬等は、調製が容易であり、疾患ごとの別生産も必要なく、コストを安価に抑えることができる点でも、治療分類検査によってその有用性及び実用性に優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】Th1乾癬性関節炎の治療の結果及び効果を示す図である。
【図2】Th1乾癬性関節炎の治療の結果及び効果を示す図である。
【図3】Th1乾癬性関節炎の治療の結果及び効果を示す図である。
【図4】ヒトにおけるTh1尋常性乾癬症(魚鱗癬)の治療の結果及び効果を示す図である。
【図5】乾癬患者の真皮組織中神経ペプチド含有神経線維数の情報を示す図である。
【図6】偽クッシング症候群の治療の結果及び効果を示す図である。
【図7】亜鉛反応性皮膚炎の外貌所見を示す図である。
【図8】亜鉛反応性皮膚炎の治療の結果及び効果を示す図である。
【図9】肢端炎(肢端性皮膚炎)の外貌所見を示す図である。
【図10】肢端炎(肢端性皮膚炎)の治療の結果及び効果を示す図である。
【図11】抗TGF-β1抗体を用いたnon-Th2皮膚疾患の定性簡易キット(検出用キット)の一例を示す該略図である。
【図12】non-Th2皮膚疾患の検出用キット等の一例を示す該略図である。詳しくは、ナノチューブを配した検出プレート(A)に、抗TGF-β1抗体を塗布したビース(B)を反応させて、その実量を測定する簡易TGFマイクロビーズ測定法によるキットである。グリーンの発色(熱レンズ信号値)を検出する。熱レンズ信号値の検量線(C)で測定することができる。この検量線からの測定は自動化してプリントアウト出力を可能とした。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し、実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0011】

1.本発明の概要
哺乳類のnon-Th2生体反応性皮膚疾患(Th生体反応を利用した治療分類検査で特定される)は、ヒトあるいはTh2生体反応性皮膚疾患であるアトピー性皮膚炎以外の皮膚疾患であり、前述の通り、種々の皮膚疾患が相当することを、治療分類検査とその治癒によって明らかにした。
従来、これら各種non-Th2皮膚疾患の治療については、疾患ごとに治療薬及び治療方法の検討が行われ、患者(被験動物)個々の症候を対象にし、治癒率向上に向けて様々な加療がなされてきた。しかしながら、いずれの患者に対しても治療分類検査あるいは診断方法が一元的に分類確定されることはなく、同様に安定した治療効果を得ることは、現実的に容易なことではなかった。また、一定の効果を示す治療薬であっても、治療計画の立案の検査手技もなく、Th1生体反応の低下する薬剤の副作用を伴うものもがほとんどで、患者への負担が大きかった。さらに、non-Th2生体反皮膚疾患は(アトピー性皮膚炎でも同様であるが)、いずれも重症化した場合の完治が極めて困難であり、長期間の治療を余儀なくされることも多いため、当該疾患に付随する患者の精神的障害も大変問題視されていた。
これに対し、本発明は、TGF-β1や血清中亜鉛濃度による治療分類検査キットによって「亜鉛(Zn)」をその血清中濃度が所定の範囲内となるように投与することにより、驚くべきことに種々のnon-Th2皮膚疾患を早期かつ十分に、しかも安定した治療効果をもって治癒することができる、という新規な知見に基づくものであり、極めて有用性の高いものである。また、亜鉛を含有する本発明の治療薬は、従来の治療薬に比べて調製が容易であり、疾患ごとに別生産する必要もないため、コストを非常に安価に抑えることができる点で、極めて実用性に優れたものでもある。
【0012】

2.non-Th2生体反応性皮膚疾患の治療薬
本発明のnon-Th2生体反応性皮膚疾患(Th1とTh3の生体反応が低下していることで定義される)治療薬(以下、本発明の治療薬という)は、前述の通り、「亜鉛(Zn)」を有効成分として含むものである。
本発明の治療薬の適用の対象となるnon-Th2生体反応性皮膚疾患としては、限定はされないが、具体的には、Th1乾癬症、魚鱗癬、乾癬性関節炎、偽クッシング症候群、アロペシアX、腸性肢端炎、亜鉛反応性皮膚炎、接触性皮膚炎、アレルギー性接触性皮膚炎、自家感作型皮膚炎、ラテックスフルーツ症候群、エラースダンロス症候群、ビタミンA欠乏性皮膚炎、甲状腺機能低下症、皮膚線維症、及びビタミンA欠乏性皮膚炎等が挙げられ、またIgE非依存性Th2生体反応性病(若令でアトピーと診断され、老齢で病態の変化した疾患、又は成人型アトピー若しくは老齢例でみられる当該疾患)等も挙げられる。
【0013】
また、本発明の治療薬の投与対象となる哺乳動物(被験哺乳動物)としては、上記各種non-Th2生体反応性皮膚疾患が発症し得る動物であればよく、限定はされず、ヒト及び各種非ヒト哺乳動物が挙げられる。非ヒト哺乳動物としては、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット及びハムスター等が挙げられ、中でも、イヌ、ネコ及びウマ等が好ましい。
本発明の治療薬において、有効成分としての亜鉛(亜鉛剤)は、亜鉛単体及び各種亜鉛化合物(例えば、亜鉛メチオネート等)や、これらを含む酵母等の形態で提供されることが好ましい。
【0014】
本発明の治療薬は、有効成分としての亜鉛のほかに、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の形態で提供されることが好ましい。「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、軟膏、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口あるいは非経口的に投与することができる。経口投与の態様としては、例えば口腔投与、口腔内投与、舌下投与、歯肉塗布、粘膜投与、噴霧投与などが挙げられる。非経口投与のための投与形態としては、常法により処方される注射剤(皮下投与及び静注投与用の注射剤)や、経皮投与(塗布)、経鼻等による粘膜投与及び噴霧投与などが含まれる。注射剤の場合には、生理食塩水又は市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に溶解または懸濁することにより製造することができる。なお、本発明の治療薬の投与においては、限定はされないが、経口投与(具体的には上述の通り)が好ましい。
本発明の治療薬中、有効成分としての亜鉛(Zn)の含有量(含有割合)については、non-Th2生体反応検査で確定された皮膚疾患の治療効果(例えば、治療分類検査によるモニタリングを併用)が発揮される程度であればよく、特に限定はされないが、例えば、1〜100重量%が好ましく、より好ましくは2〜50重量%、さらに好ましくは5〜10重量%である。
【0015】
本発明の治療薬の生体内への投与量は、限定はされず、non-Th2生体反応皮膚疾患(小児から成人型重症アトピーである皮膚疾患を除く)の病状、患者の年齢、性別、体重及び病態、治療効果、投与方法、処理時間などにより異なっていてもよく、治療分類検査キットでモニターしながら又は症候の推移を評価しながら、適宜設定することができる。例えば、内在型Th3生体反応を正常化するまで投与することが好ましい。
【0016】
本発明の治療薬の生体内への投与量については、具体的には、治療として最終的に血清中に亜鉛(Zn)濃度が55μg/mL以上、好ましくは60μg/mL以上、より好ましくは95μg/mL以上、さらに好ましくは内在型Th3生体反応が0.88%以上の正常値に達し、同時に血清亜鉛濃度が60μg/mL以上となるように、適宜投与計画等(1回あたりの投与量、1日平均あたりの投与回数等)を立てて生体内に投与すればよく、限定はされない。特に、イヌにおいては、血清中に亜鉛(Zn)濃度が85μg/mL以上であることが好ましい。なお、血清中の亜鉛濃度は、正常値の上限を超え中毒症状を回避しながら生体に投与することが望ましい。
【0017】
特に、治療対象となる哺乳動物がヒトである場合は、本発明の治療薬の投与量は、1回の投与において、亜鉛換算で1mg/kg体重〜10g/kg体重であることが好ましく、より好ましくは2mg/kg体重〜2g/kg体重、さらに好ましくは2 mg/kg体重〜10mg/kg体重である。また、対象となる哺乳動物がイヌ及びネコ等である場合は、本発明の治療薬の投与量は、1回の投与において、亜鉛換算で1mg/kg体重〜10g/kg体重であることが好ましく、より好ましくは2mg/kg体重〜2g/kg体重、さらに好ましくは2mg/kg体重〜10mg/kg体重である。
【0018】
なお、本発明の治療薬を例えば注射剤又は軟膏により投与する場合は、治療対象となる哺乳動物がヒトである場合、1回の投与において、亜鉛換算で100mg/kg体重〜100g/kg体重(皮膚に塗布の場合はこれに相当する投与量)を、1日平均あたり1回〜数回投与(又は塗布)することができる。治療対象となる哺乳動物がイヌ及びネコ等である場合、1回の投与において、亜鉛換算で100mg/kg体重〜100g/kg体重(皮膚に塗布の場合はこれに相当する投与量)を、1日平均あたり1回〜数回投与(又は塗布)することができる。注射剤の投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。そのような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤の配合等により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。すなわち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
【0019】
なお、本発明は、non-Th2生体反応性皮膚疾患を治療する医薬(薬剤)を製造するための亜鉛(Zn)の使用を提供するものでもある。また、本発明は、non-Th2生体反応背皮膚疾患の治療用の亜鉛(Zn)を提供するものでもある。
さらに、本発明は、亜鉛(Zn)を用いること(すなわち亜鉛を患者に投与すること)を特徴とするnon-Th2皮膚疾患の治療方法(例えば、亜鉛の使用により内在型Th3生体反応を上昇させることを含む)を提供するものであり、また、non-Th2生体反応性皮膚疾患を治療するための亜鉛(Zn)の使用を提供するものでもある。ここで、当該non-Th2生体反応性皮膚疾患の診断キットと治療方法を実施する場合は、亜鉛(Zn)(具体的には本発明の治療薬)の投与量は前述した範囲内で計画及び設定することが好ましい)。
上述した本発明の治療薬は、限定はされず、non-Th2生体反応性皮膚疾患の予防薬としても用いることができる。
【0020】

3.non-Th2生体反応性皮膚疾患の治療用キット
本発明においては、構成成分として亜鉛(Zn)又は前述した亜鉛含有医薬組成物を含むことを特徴とする、non-Th2生体反応性皮膚疾患の治療用キットも提供される。本発明のキットは、他の構成要素を含んでいてもよい。他の構成要素としては、限定はされず、例えば、溶解用又は希釈用等の各種バッファーや使用説明書(使用マニュアル)等を挙げることができる。また、本発明の治療用キットは、亜鉛(Zn)及び薬学的に許容され得る担体等の各構成要素を、すべてまとめて備えたものであってもよいし、少なくとも一部を別個独立に備えたものであってもよく、限定はされない。
本発明の治療用キットは、前述した各種non-Th2生体反応性皮膚疾患に対して、早期かつ十分に、しかも安定した治療効果をもって治癒する場合に用いることができ、また、コストも非常に安価である。本発明の治療用キットは、上述したnon-Th2生体反応性皮膚疾患の治療の分野に限らず、各種実験及び研究等の分野においても極めて有用性が高いものである。
【0021】

4.non-Th2生体反応性皮膚疾患の検出用キット
本発明においては、抗TGF-β抗体を含むことを特徴とする、non-Th2生体反応性皮膚疾患の検出キットも提供することができる。本発明者は、皮膚専門医によってTh2生体反応性皮膚疾患(アトピー性皮膚炎)と診断された患者群と、non-Th2生体反応性皮膚疾患(非アトピー性皮膚炎)と診断された患者群(さらには健常者も考慮にいれることができる)との血漿から、TGF-β値(TGF-βの濃度)を測定し、各群に有意差があることを確認した。具体的には、非アトピー性皮膚炎と診断された患者群は、アトピー性皮膚炎と診断された患者群に比べてTGF-β値が有意に低い値を示すことを見出した。本発明のnon-Th2生体反応性皮膚疾患の検出キットは、このような知見に基づいて完成された。
【0022】
なお、本発明の検出用キットは、Th2生体反応性皮膚疾患の診断用キットとしても用いることができる。また、本発明は、抗TGF-β抗体を含むTh2生体反応性皮膚疾患の検出用及び診断用医薬組成物、抗TGF-β抗体を用いるTh2生体反応性皮膚疾患の検出方法及び診断方法、並びに、Th2生体反応性皮膚疾患の検出用及び診断用の薬剤を製造するための抗TGF-β抗体の使用も含むものである。
本発明の検出用キットにおいて、抗TGF-β抗体は、安定性(保存性)及び使用容易性等を考慮して、溶解した状態で備えられていることが好ましい。
本発明の検出用キットは、抗TGF-β抗体以外に他の構成要素を含むことができる。他の構成要素としては、例えば1次抗体検出用試薬、発色基質、各種バッファー、血漿採取用の各種器機及び容器、抗原抗体反応に使用し得る各種容器、使用マニュアル等を挙げることができる。
【0023】
本発明の検出用キットが、特に、ELISAを利用してTGF-β1を検出するためのキットである場合は、他の構成要素としては、さらに1次抗体検出用試薬、発色基質等を挙げることができる。また、ウエスタンブロット法を利用してTGF-βを検出するためのキットである場合は、他の構成要素としては、さらに1次抗体検出用試薬、発色基質等を挙げることができる。また、イムノクロマト法(金コロイド法)を利用してTGF-βを検出するためのキットである場合は、金コロイド標識抗体や各種固相化抗体に加え、ニトロセルロースメンブレンやサンプルパッドやコンジュゲートパッド等を備えたテストスティック等を挙げることができる。
本発明の検出用キットは、構成要素として少なくとも前述した抗TGF-β抗体を備えているものであればよい。従って、Th2生体反応性皮膚疾患の検出や診断に必須となる構成要素の全てを、当該抗TGF-β抗体と共に備えているものであってもよいし、そうでなくてもよく、限定はされない。
【0024】
本発明の検出用キットに用いる抗TGF-β抗体(抗TGF-β1抗体)の作製方法は、限定はされず、公知のポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体の作製方法を利用することができる。抗TGF-β抗体は、限定はされないが、モノクローナル抗体であることが好ましい。
本発明の検出用キットを用いて、Th2生体反応性皮膚疾患を検出するに当たっては、ヒトの場合、血漿中のTGF-β1の濃度が、例えば2.0 ng/ml未満、好ましくは1.5 ng/ml未満であると、有意にTh2生体反応性皮膚疾患を発症していると評価することができる。また同様に、ネコの場合は、例えば1.7 ng/ml未満、イヌの場合は、例えば2.0 ng/ml未満の血漿中TGF-β1濃度の場合、有意にTh2生体反応性皮膚疾患を発症していると評価することができる。
【0025】
本発明の検出用キットは、上述したように、血漿中のTGF-β1の濃度を指標として、Th2生体反応性皮膚疾患を検出及び診断できることを示したが、当該濃度測定の結果(経時的なモニタリングによる結果も含む)は、前述したTh2生体反応性皮膚疾患の治療薬の使用(治療方法)において、薬剤使用意思決定に用いることができる他、Th2生体反応性皮膚疾患に対する投薬治療において薬剤離脱達成の判断(完治かどうかなど治療効果の判断)にも用いることができる。なお、Th2生体反応性皮膚疾患に含まれる各種疾患をそれぞれ検出(判定、診断)するにあたっては、必要に応じ、上述した血漿中TGF-β1濃度以外にも、個々の疾患に特有の因子を併せて検討することができる。
本発明においては、例えば上記検出用キット等を用いることにより、被験哺乳動物の血漿中のTGF-βを検出し、その検出結果を指標としてTh2生体反応性皮膚疾患の病態を評価する方法を提供することもできる。すなわち、Th2生体反応性皮膚疾患の治療前、治療中、治療後のいずれの段階においても、あるいはTh2生体反応性皮膚疾患の発症が不明である段階においても、血漿中のTGF-βを検出し、濃度を測定することにより、Th2生体反応性皮膚疾患の症状の程度や治療効果の程度を容易に評価することができる。
【0026】

以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
<Th1乾癬性関節炎の治療>
(1) 症例
Th1乾癬性関節炎は、皮膚炎と関節炎とが混在するTh1病と定義される。イヌ(本実施例では、フレンチブルドック:0才7ヶ月令)における本症例の報告は、最初の報告である。ヒトの診断は困難であるが、イヌ等の場合、症候学と治療分類Th検査から診断及び治療が容易であることを明らかにした。
なお、non-Th2皮膚疾患の診断用キットの一例を、図11及び図12に示した(他の実施例においても同様のものが用いられ得る。)。
以下に診断結果を示した。
【0028】
【表1】

【0029】
(2) 治療
乾癬性関節炎(皮膚と関節炎)の治療は、関節炎の硬化像をX線検査を併用しながらの臨床対応として行った。亜鉛メチオネート 1.8mg/kg SID POを投与した(2009年5月9日:09/5/9(年月日について以下同様に表記する。))。これにより血清中亜鉛濃度は55μg/mL以上となった。2009年6月7日(09/6/7)からTh1調整2剤(BRM2) 30mg/kg SID POを5日間連投し(1週間のうち連続5日間投与)、これを5クール(5週間)投与した。また、オノンDS 0.5g(プランルカスト水和物として50mg)/頭 SID PO 及びGe-132(30mg/kg SID PO)を、それぞれ投与した。
【0030】
以上の治療の結果及び効果を、図1〜3に示した。
図1に、顔相の変化を示した。初診時(09/5/9)では顔面はアレルギー性炎症により腫脹してみられるが、治療効果と共に炎症性浸潤が改善され、中央に示した図のように皮膚が弛緩して観察された(09/6/7)。治療後においては、発育期ということもあり、顔相は正常に復した。
【0031】
図2に、飛節関節における特徴的脱毛を伴う皮膚炎と関節の腫脹を示した。初診時(09/5/9)から完治(寛解)(09/8/8)の関節所見を示した。約三ヶ月の治療期間を要したが、一ヶ月目(09/6/7)から治療効果がみられ、二ヶ月目(09/7/7)には軽度な関節の腫脹のみで、最終的には乾癬性関節炎の特徴的皮膚炎と腫脹は治療によって完全に制禦された(09/8/8)。
図3においては、左から順に、治癒時願相、治療開始時のX線検査像、治癒時のX線検査像をそれぞれ示した。単純X線像にあっても関節の腫脹と辺縁硬化像と関節間隙の狭小化を伴う関節炎がみられた。皮膚所見が改善されたときのX線像(09/8/8)では、治療開始時(09/6/7)の所見は良化し、関節間隙の明瞭が観察された。
【実施例2】
【0032】
<ヒトTh1尋常性乾癬症/魚鱗癬の治療>
(1) 症例
ヒトにおけるTh1尋常性乾癬症(魚鱗癬)は代表的なTh1型皮膚病として知られている。病理学的にもアトピー性皮膚炎とは異なる魚鱗癬(乾癬症)の患者を対象とした。例えばピアノを演奏するとき等に手の甲から出血を伴う。罹患期間は40年以上であった。
臨床症状と治療分類検査においてTh1型皮膚病として診断された。詳しくは、Th検査において、内在型Th1生体反応が低値で、表在型Th1生体反応が内在型の三倍に達した。
【0033】
(2) 治療
図4に、治療前後の写真を示した(上:治療前、下:治療後)。治療期間は約半年間を要した。Th1抑制剤(霊芝成分:亜鉛含有)を用いて加療した。これにより血清中亜鉛濃度は55μg/mL以上となった。加療後はTh1生体反応の内在型と表在型Th生体反応との比(表現型:内在型)は正常に服した。そのときの臨床所見を図4の下図に示した。図4の上図に比べて、皮膚の角化と出血は完全に制禦され、皮膚は湿潤性をおび、正常と観察された。
なお、参考までに、乾癬患者の真皮組織中神経ペプチド含有神経線維数の情報を、図5に示した。
【実施例3】
【0034】
<偽クッシング症候群の治療>
(1) 症例
偽クッシング症候群は、罹患する過半数がポメラニアンでみられる特別なホルモン失調性皮膚病であり、成長ホルモン不全症、アロペシアX、ポメラニアン脱毛症などの様々な病名が付けられている皮膚病である。通常、経過が長く治療に時間が掛かるが、症候学と治療分類Th検査から診断及び治療が容易であることを明らかにした。以下に診断結果を示した。
【0035】
【表2】

【0036】
(2) 治療
検査数値(0.9ng/ml)と問診票3/9から非アトピー(non-Th2)であり、アトピーの治療としての抗TGF-β1剤投与の根拠はない。そこで、亜鉛メチオネート1.8mg/kg SID POを投与した(09/7/17)。これにより血清中亜鉛濃度は55μg/mL以上となった。症状が良化するなかで、引き続きTh1生体反応を上昇させることがポイントであった。よって、亜鉛剤の投与を継続しつつ、経口Th1調整剤(4MU SID BID 3weeks)を投与した。同時に、アコレート1mg/kg SID POとビタミンB6 25mg/head/daysをそれぞれ投与した。
図6に、治療前後の写真を示した(左の上下図:治療前、右の上下3図:治療後)。視診時(09/7/17;図6左)には本症に典型的な薄毛と被毛の黒変化がみられたが、治療分類検査(Th生体反応性検査)による上記処方の選択意思決定後、約20日間の投与により、被毛は重厚感を増し、臨床症状は改善された(09/8/7;図6右)。
【実施例4】
【0037】
<亜鉛反応性皮膚炎の治療>
(1) 症例
亜鉛反応性皮膚炎(低内在型Th3生体反応性皮膚炎)等の亜鉛関連疾患は、感情障害や様々な未病(不定愁訴を呈するが検査で特定されることのない状況)の原因や発症に関与するが、血清中亜鉛濃度などの検査によってもスクリーニングが比較的に困難であるnon-Th2反応性皮膚疾患である(測定系の欠如、亜鉛量の直接的な測定による診断の不確実性がある。)。通常、経過が長く治療に時間が掛かるが、症候学と治療分類Th検査から診断及び治療が容易であることを明らかにした。
【0038】
症例:ハスキー犬のハーフ、1999年6月生、メス
主訴:目及び口周囲の瘡蓋。以前、痒みがあるも、現在はプレドニンとラリキシンを投与することで一時的に良化がみられる。
病歴:特記無し
使用薬剤:ラリキシン等
【0039】
以下に診断結果を示した。
【0040】
【表3】

【0041】
診断(治療分類検査の読解所見):
上記症例は極めて特徴のあるThパラダイムパターンを有し、内在性Th3生体反応が0.24%と極めて低値を示した。このことは亜鉛反応性を制禦している非免疫系亜鉛Th細胞シグナル伝達がTGF-β1(TGF)を介して細胞内に伝達されることが考えられた。治療効果も同様な観点から亜鉛輸送体(Znt)の活性化によって達成できると考えられた。
【0042】
(2) 治療
亜鉛メチオネート1.8mg/kg SID POを投与した(09/3/24)。これにより血清中亜鉛濃度は55μg/mL以上となった。当該治療により、目及び口の周囲もすっかり綺麗になり、全身の被毛も見違えるように綺麗になった。
図7に、初診時(09/3/24)の外貌所見が示した。眼瞼周囲の脱毛と色素沈着(右図)、並びに口の周囲の明瞭な脱毛と色素沈着及び口角における広汎な脱毛と口角炎(左図)が観察された。主訴から、掻痒が伴うことも指摘された。通常の痒覚より強いようであった。
図8に、初診時から約70日後(09/6/9)の加療終了時の所見を示した。皮膚の炎症及び色素沈着の改善がみられ、脱毛も消失し、被毛も綺麗に改善された。掻痒感も全くなく、治療後一年になっても、皮膚炎の再発もみられなかった。
【実施例5】
【0043】
<肢端炎(肢端性皮膚炎)の治療>
(1) 症例
肢端炎等の亜鉛関連疾患はヒトのTh1乾癬症と同様に、精神感情障害や様々な未病(不定愁訴を呈するが検査で特定されることのない状況)の原因や発症に関与する。腸性肢端炎や肢端炎は亜鉛の吸収不良と考えられていたが、Th3生体反応とTh3生体反応がすべて低値であり、Th2生体反応とは全く異なることを明らかにした(non-Th2生体反応性皮膚炎)。肢端炎は、通常、ヒトも他の動物も乳幼児においてみられ、胃腸障害によって亜鉛の腸管からの吸収障害から、その症状を発する。症候学と治療分類Th検査から診断及び治療が容易な疾患であることを明らかにした。また、成長後ではTh細胞の異常や脂肪酸の代謝、おもにTh3生体反応の低下症となる。さらに、後天性(成長後でみられる)の症例では内在型Th1生体反応は高値となる。但し、血清中亜鉛濃度の低下も測定しておくべきであり、ヒトでは亜鉛の低下によって精神遅発障害が発生する。
【0044】
症例:ミニチュアダックス、8ケ月令、2009.6.22生、メス
臨床症状:耳翼の脱毛と皮膚の黒色化。免疫介在性疾患ではないかと考えられる。生後約4ヶ月後の来院時1.9kg/BW、約5ヵ月後は1.65kgと痩せていた。食欲は旺盛であり、食事の量を増やすよう指導した結果、その後約2ヶ月弱で2kg/BWまでになった。その頃より耳翼の脱毛、乾燥及び黒変と、皮膚端の脱落が見られるようになった。投薬はしていない。
検査目的:1)アレルギー状態、2)耳翼の脱毛と皮膚の状態の原因・治療免疫介在性疾患ならびに免疫状態の評価、3)免疫状態に基づく薬剤選択の治療指針
使用薬剤:無し
【0045】
疾患の確定には、上述したように血清中亜鉛濃度の測定が有効であった(50μg/mLの低値であった。なお、正常な平均亜鉛濃度は87±11μg/mLである。)。この理由とすれば、非免疫系亜鉛Th細胞シグナル伝達が亜鉛輸送体(Znt)を介して活性化されることが考えられた。すなわち、当該症例ではZntの機能低下と判断した。
この肢端炎(Znt低下ならびに治療分類検査における低Th3生体反応性皮膚炎)について、以下に診断結果を示した。
【0046】
【表4】

【0047】
診断(治療分類検査の読解所見):
すべての検査データが正常値より低い値であった。若年性免疫低下症を呈し、湿疹がみられた。内在型Th1生体反応が2.45%以下であり、脱毛や皮膚の黒色化の発生はこのためであると考えられた。
【0048】
(2) 治療
亜鉛メチオネート1.8mg/kg/SID POを21日間投与した。その後は、インターフェロンの薬剤使用意思決定を実施した。栄養管理を含めカルシウムとリンのバランスを取りリフレ対策として実施する必要がある。また、食事については五穀やフルーツの食事は避けるべきである。外用薬として、酸化亜鉛華軟膏とユベラE軟膏の合剤(1:1)を使用した。
図9に、初診時の外貌所見として、耳介や肢(趾)端にみられた黒変と脱毛を示した。また、一部の耳介には脱落もみられた。血清中の亜鉛濃度は56〜72μg/mLまで上昇したが、好ましい正常域(イヌでは85μg/mL以上)には達していない。
図10に、投薬開始後21日目の所見を示した。著しい被毛の改善と光沢が観察され、体重増加が認められる(データを示さず)など、顕著な改善がみられた。
【0049】
〔参考例〕
<皮膚科診療工程の関連性の強化と薬効薬理の一元化による効用>
治療分類検査によるnon-Th2生体反応性皮膚病に対するこれまでの皮膚疾患について、単純分類の羅列から考えると、新規治療分類を適応することにより、治癒ならびに治癒工程が簡素化されたことが明らかである。この理由として、(1)non-Th2生体反応性皮膚病と治療の選択肢が二つに大別及び単純化されたこと、(2)治療については切り返し療法を導入したことにより除外診断によって治療標的疾患が特定されること、(3)治療到達目的(アウトカム)が設定されたことにより薬効薬理的見地から投与期間を短くして多剤併用による切り返し療法の効果が具現化されたこと、ならびに(4)治療分類検査からこれまでの症候群と薬剤使用選択意思決定の関連性が強固となったこと等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛を有効成分とするnon-Th2皮膚疾患治療薬。
【請求項2】
non-Th2皮膚疾患が、Th1乾癬症、魚鱗癬、乾癬性関節炎、偽クッシング症候群、アロペシアX、腸性肢端炎、亜鉛反応性皮膚炎、接触性皮膚炎、アレルギー性接触性皮膚炎、自家感作型皮膚炎、ラテックスフルーツ症候群、エラースダンロス症候群、ビタミンA欠乏性皮膚炎、甲状腺機能低下症、皮膚線維症、及びビタミンA欠乏性皮膚炎からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載の治療薬。
【請求項3】
被験哺乳動物への投与において、血清中の亜鉛濃度が55μg/mL以上となるように用いられるものである、請求項1又は2記載の治療薬。
【請求項4】
亜鉛を含むことを特徴とするnon-Th2皮膚疾患の治療用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−241163(P2011−241163A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113712(P2010−113712)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】