説明

唾液粘性検査用具

【課題】 被験者の唾液の粘性を簡易かつ安価に検査することが可能であって、被験者自身が検査結果を視覚的に理解することが可能な唾液検査用具を提供する。
【解決手段】 唾液を吸収するシート状の唾液吸収材であって、唾液滴下点と該唾液滴下点からの距離を示す目盛とが設けられていることを特徴とする唾液粘性検査用具とし、その使用方法を被験者から採取した唾液を唾液滴下点に滴下し、所定時間経過した後に唾液中の水分が唾液吸収材中を唾液滴下点から浸透した距離と、唾液中の粘性物質が唾液吸収材中を唾液敵か点から浸透した距離とを、目盛を用いて確認することを特徴とする唾液粘性検査方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の唾液の粘性を簡易にかつ安価に検査することが可能な唾液粘性検査用具に関する。
【0002】
唾液は、これに含まれる酵素アミラーゼで食物中のデンプンを加水分解して消化を助ける食物消化作用の他、口腔内の細菌や食物残渣(食べかす)などを希釈して洗い流す希釈・洗浄作用,口腔内の粘膜を保護する粘膜保護作用,脱灰して失われた歯質のカルシウムやリンを歯質に補い再び石灰化させる再石灰化促進作用,酸性に傾きそうな口腔内の環境を中和させるpH緩衝作用,口腔内に存在する細菌の増殖を抑制する抗菌作用など様々な作用を持つ。
【0003】
唾液の粘性が高まると唾液が食物と混じり難くなって食物消化作用が低下するばかりでなく、歯の表面や歯間に付着したプラークや食べ物の残渣を洗い流す洗浄作用も低下し、齲蝕の原因菌が歯面に付着し易くなって齲蝕や歯周病になるリスクが高まる。更に唾液の粘性が高まると、唾液を飲み込むことも困難となるため口腔内に食物残渣などが長時間残留し易く口腔内が不衛生になる。高齢者の場合には誤嚥性による肺炎を引き起こす虞もある。これらの問題を未然に防ぐため、唾液の粘性を検査し口腔衛生指導に用いたいとの要望があった。
【0004】
従来、唾液の粘性を検査する方法としては流動物質の曳糸長を測定する装置が用いられていた。しかしながら、この測定装置は大型であり、歯科医院のチェアーサイドなどの限られたスペースに持ち込むことは困難であり、また、この装置は高価であるため経済的にも導入することが困難であった。
【0005】
そこで、比較的簡便に唾液の粘性を検査する手段として、所定量の唾液を一定の圧力において濾材を通過させるのに必要な時間を調べる方法(例えば、特許文献1参照。)や、短冊状の濾紙などの一端を口腔内に挿入して唾液を濾紙などに吸収させることにより唾液の粘性を検査する用具(例えば特許文献2参照)などが提案されている。
【0006】
唾液の粘性を検査してその結果を口腔衛生の指導に有効に用いるには、検査した結果を歯科医療従事者が把握するだけでなく被検者自身が理解する必要がある。しかしながら、これまでに開示されている方法や用具では、唾液の粘性を比較的簡便に検査することができるものの、被験者自身が検査結果を視覚的や数値的に理解することが困難であり、口腔衛生の向上に向けて歯科医療従事者から受けた指導に対して積極的に従うまでにはなかなか至らなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2005-257604号公報
【特許文献2】特開2004-093439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、被験者の唾液の粘性を簡易かつ安価に検査することが可能であって、被験者自身が検査結果を視覚的に理解することが可能な唾液検査用具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、唾液を吸収する素材である唾液吸収材から成り、唾液滴下点と該唾液滴下点からの距離を示す目盛とが設けられていて、この唾液滴下点を目掛けて被験者から採取した唾液を滴下すると、唾液中の水分は粘性物質よりも唾液吸収材中を浸透し易いので、唾液中の水分が唾液吸収材中を浸透した部分より唾液滴下点側に唾液の粘性物質が唾液吸収材中を浸透した部分の外縁が現れることに着目した。そして、唾液を唾液滴下点に滴下してから所定時間経過した後に、唾液滴下点から唾液中の水分が唾液吸収材中を浸透した距離と、唾液滴下点から唾液中の粘性物質が唾液吸収材中を浸透した距離とを、唾液滴下点からの距離を示す目盛から読み取り、この二つの距離の差や比を取って比較することで、被験者の唾液の粘性を簡易かつ安価に検査が可能であり、被験者自身が検査結果を視覚的も数値的にも理解することが可能であることを見出して本発明を完成した。
【0010】
即ち本発明は、唾液を吸収するシート状の唾液吸収材であって、唾液滴下点と該唾液滴下点からの距離を示す目盛とが設けられていることを特徴とする唾液粘性検査用具である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る唾液粘性検査用具を用いれば、大型の装置をチェアーサイドに持ち込む必要がなく、被験者の唾液の粘性を簡易かつ安価に検査することが可能であって、被験者自身が検査結果を視覚的にも数値的にも理解することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明に係る唾液粘性検査用具について説明する。
図1〜5は本発明に係る唾液粘性用具の実施例を示す平面図。
【0013】
図面中、1は本発明に係る唾液粘性用具であって、唾液を吸収するシート状の唾液吸収材1aから成り、唾液滴下点1bと該唾液滴下点1bからの距離を示す目盛1cとが設けられている。
【0014】
唾液吸収材1aは滴下された所定量の唾液を吸収する性質を持つものが使用され、例えば、濾紙,紙タオル,吸い取り紙,加工紙などの各種紙類、綿,石英ウール,絹,ウール,ガラスウール,レーヨン,麻,酢酸セルロース,ニトロセルロースなどの繊維類、メンブレンフィルター,シリカゲル,珪藻土,セルロースパウダーなどの多孔性吸着材などがある。特に、臨床診断の分野で用いられているニトロセルロースメンブレンフィルターは、微細な孔が均一に開いており、後述するキャピラリーフローレートも安定しているため、より正確に検査を行えるので好ましい。
【0015】
キャピラリーフローレートは、細長いメンブレンの一端に液体を浸漬したときの、液体の最前部が短冊状の唾液吸収材に沿って移動する速さである。この速さは、液体が唾液吸収材に沿って移動するに従って指数関数的に減少するため、正確に測定することは難しい。そこで、決められた長さの短冊状の唾液吸収材1aに沿って液体が進み、唾液吸収材が完全に濡れきった時間を示すことが一般的である。本発明に係る唾液検査用具1で用いられる唾液吸収材1aにおいては、短冊型の唾液吸収材の一端を23℃で蒸留水に浸漬したときに、その一端から4cmまでを吸水するのに要する時間が30〜500秒であると好ましい。30秒未満であると、唾液滴下点1bから唾液中の水分が唾液吸収材中を浸透した距離と唾液滴下点1bから唾液中の粘性物質が唾液吸収材中を浸透した距離とに差が出難いため好ましくなく、500秒を超えると検査に多大な時間を要するので好ましくない。
【0016】
本発明に係る唾液検査用具1に設けられている唾液滴下点1bは、被験者から採取した唾液を滴下する位置として目標とする印であり、点に限らずある程度の面積を持つ円や星などの印であっても構わない。唾液滴下点1bを設ける場所は、唾液吸収材1a上であれば任意の場所で構わないが、唾液が唾液吸収材1aに滴下され四方に均等に浸透していくことを前提とすると、正方形や略円形にされている唾液吸収材1aの場合には中央近傍に設けられることが好ましい。
【0017】
本発明に係る唾液検査用具1に設けられている目盛1cは、唾液滴下点1bからの距離を示すものである。唾液を唾液滴下点1bに滴下してから所定時間経過した後に、唾液滴下点1bから唾液中の水分が唾液吸収材中を浸透した距離や、唾液滴下点から1b唾液中の粘性物質が唾液吸収材中を浸透した距離を唾液滴下1b点からの距離から読み取る。そのために、図2〜4に例示したように唾液滴下点1bから複数設けられていることが好ましい(例えば図2では180°間隔で2方向に複数設けられている。)。
【0018】
目盛1c方は、例えば図1に示すように、唾液滴下点1bを一端とした直線上に付与されている態様や、図2に示すように、唾液滴下点1bを中心とした直線上に付与されている態様や、図3,図4に示すように、唾液滴下点1bを中心とした架空の放射線上に等間隔で付与されている態様などが例示できる。
【0019】
本発明に係る唾液粘性検査用具1を用いて唾液の粘性を検査する方法は、被験者から採取した所定量の唾液を唾液滴下点1bに滴下し、所定時間経過した後に、唾液滴下点1bから唾液中の水分が唾液吸収材中を浸透した外縁までの距離や、唾液滴下点1bから唾液中の粘性物質が唾液吸収材中を浸透した外縁までの距離を、唾液滴下点1bからの距離を示す目盛1cを用いて目視により読み取り、各々の距離の差や比を取って比較して検査する。図2〜図4に示したように、目盛1cが唾液滴下点1bを中心として直線や放射状に付与されている。唾液滴下点から唾液吸収材中を唾液が浸透した部分の外縁までの距離の値が複数確認できる場合には最大値か最小値を用いて使用する値を選択する。他にも複数値からの平均値を算出すると安定した距離が求められるから、より詳細な検査をすることもできる。
【0020】
また、他の態様としては、図5に示すように、目盛は唾液滴下点の周囲を囲む線であっても良い。唾液滴下点1bから例えば等距離に位置する目盛同士を両隣と線で結んだ態様であったり、唾液滴下点1bから例えば等距離に位置する目盛同士を結んだ線と唾液滴下点から所望な等距離に位置する目盛より一つ唾液滴下点側に位置する目盛同士を結んだ線とに挟まれたゾーンなどを例示できる。これらの場合には、唾液滴下点1bから唾液吸収材中を唾液が浸透した部分の外縁までの距離をゾーンで捉えることができるので目視で確認し易い。このとき、隣り合うゾーン同士を識別できるよう色や模様を付与しおくと良い。この場合、唾液滴下点1bからの距離を示す目盛1cが唾液滴下点1bを中心として360度いずれの方向にも付与されているので、唾液滴下点1bから唾液吸収材中を唾液が浸透した部分を目視で確認する際に、唾液滴下点1bから最も遠い外縁までの距離を唾液滴下点から唾液吸収材中を唾液が浸透した部分の外縁までの距離とするなどの一定のルールを予め定めておけば平均値を求めるなどの必要も無く一目で距離を確認することができる。更に他の態様として図示しないが、目盛1cが、該唾液滴下点1bを中心として該唾液滴下点1bからの半径が等間隔で大きくなる複数の同心円である唾液粘性検査用具もある。
【0021】
唾液粘性検査用具1に設けられている唾液滴下点1bと目盛1cは、唾液吸収材1a中を唾液が浸透しても滲んだり消えたりしないよう油性のインクなどで記載されていることが望ましい。目盛1cの間隔は、目視で隣り合う目盛の間隔が確認できれば特に限定されない。
【0022】
唾液吸収材1aはシート状であれば特に大きさや形状は限定されないが、検査に必要な量の唾液を被験者から採取して唾液吸収材1aに垂らした後、数分後には唾液が吸収されて粘性が検査できる程度の面積に広がる必要があることを考慮すると、一辺が3cm〜10cmの正方形や長方形や、直径が3cm〜10cmの円形が好ましい。
【実施例】
【0023】
次に本発明を実施例を用いて紹介するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】
<実施例1>
唾液吸収材1aとして、一辺が50mmの正方形のニトロセルロースメンブレン(商品名:Hi−Flow Plusメンブレン HF240,日本ミリポア株式会社製;23℃で蒸留水に浸漬したときに、一端から40mmまでを吸水するのに要する時間:240秒,孔径:1μm)を用い、正方形の各々向かい合う頂点同士を結ぶ対角線を2本引き、この2本の対角線が交わる点を唾液滴下点1bとして、唾液滴下点1bから各頂点へ向かう4本の直線上に、唾液滴下点1bから1mm間隔で目盛1cを付与したものを唾液粘性検査用具1とした。
【0025】
<唾液粘性を検査する手順>
7名の被験者各々から採取した唾液0.1mLを唾液滴下点に滴下し、滴下から10分後に唾液滴下点1bから唾液中の水分が唾液吸収材中を浸透した外縁までの距離(L1),唾液滴下点1bから唾液中の粘性物質が唾液吸収材中を浸透した外縁までの距離(L2)を目盛1cから読み取り、その差を検査結果とした。なお、唾液は唾液滴下点1bを中心に四方へ広がっていくので唾液滴下点1bから正方形の各頂点へ向かう4本の直線各々と外縁とが交わる所を読み取り、その平均値を算出した。本発明に係る唾液粘性検査用具1による測定結果を、従来から行なわれている歯科衛生士が目視によって判断した唾液の粘性レベル(高い,中位,低い)と共に表1に示す。
【0026】
<実施例2>
唾液吸収材1aとして、一辺が50mmの大きさの正方形のニトロセルロースメンブレン(商品名:Hi−Flow Plusメンブレン HF075,日本ミリポア株式会社製;23℃で蒸留水に浸漬したときに、一端から40mmまでを吸水するのに要する時間:75秒,孔径:2μm)を用い、正方形の各々向かい合う頂点同士を結ぶ対角線を2本引き、この2本の対角線が交わる点を唾液滴下点1bとして、唾液滴下点から正方形の各頂点へ向かう4本の直線上に、唾液滴下点1bから1mm間隔で目盛1cを付与したものを唾液粘性検査用具1とした。実施例1と同様の手順で唾液粘性を検査した結果を表1に纏めて示す。
【0027】
【表1】

【0028】
上記から、本発明に係る唾液粘性検査用具1を用いれば、目視において唾液の粘性レベルが高いと判断された被験者は唾液滴下点1bから唾液中の水分が唾液吸収材中を浸透した外縁までの距離(L1)と唾液滴下点1bから唾液中の粘性物質が唾液吸収材中を浸透した外縁までの距離(L2)との差が小さく唾液中の水分量が少ないことが分かる。一方、目視において唾液の粘性レベルが低いと判断された被験者は、唾液滴下点1bから唾液中の水分が唾液吸収材中を浸透した外縁までの距離(L1)と唾液滴下点から唾液中の粘性物質が唾液吸収材中を浸透した外縁までの距離(L2)との差が大きく唾液中の水分量が多いことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る唾液粘性用具の実施例。
【図2】本発明に係る唾液粘性用具の目盛が複数ある実施例。
【図3】本発明に係る唾液粘性用具の目盛が複数ある他の実施例。
【図4】本発明に係る唾液粘性用具の目盛が複数ある更に他の実施例。
【図5】本発明に係る唾液粘性用具の目盛が唾液滴下点の周囲を囲む線である実施例。
【符号の説明】
【0030】
1 唾液粘性用具
1a 唾液吸収材
1b 唾液滴下点
1c 目盛
1d 唾液滴下点の周囲を囲む線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
唾液を吸収するシート状の唾液吸収材であって、唾液滴下点と該唾液滴下点からの距離を示す目盛とが設けられていることを特徴とする唾液粘性検査用具。
【請求項2】
目盛が複数設けられている請求項1に記載の唾液粘性検査用具。
【請求項3】
目盛が唾液滴下点の周囲を囲む線である請求項1に記載の唾液粘性検査用具。
【請求項4】
唾液を吸収するシート状の唾液吸収材であって、唾液滴下点と該唾液滴下点からの距離を示す目盛とが設けられていることを特徴とする唾液粘性検査用具を用い、被験者から採取した唾液を唾液滴下点に滴下し、所定時間経過した後に唾液中の水分が唾液吸収材中を唾液滴下点から浸透した距離と、唾液中の粘性物質が唾液吸収材中を唾液敵か点から浸透した距離とを、目盛を用いて確認することを特徴とする唾液粘性検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−85905(P2009−85905A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259479(P2007−259479)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)