説明

問題自動作成装置および問題自動作成プログラム

【課題】適切な多肢選択式問題を自動的に作成できるようにする。
【解決手段】問題自動作成装置82は、各々が、条件と、この条件に対する応答とからなる複数の条件応答ペアを含むコーパス80から、任意の条件応答ペアを正解用ペアとして選択する正解選択部90と、選択された正解用ペア、正解用ペアの応答と等価な表現の応答を有する条件応答ペアの集合、および正解用ペアの条件と等価な表現の条件を有する条件応答ペアの集合をコーパス80から除くことにより、不正解用選択肢候補の集合を求める集合演算部92と、求められた不正解用選択肢候補の集合に含まれる任意の条件応答ペアから選択した所定個数の不正解用の応答を、正解用ペアの応答と組合わせることにより、多肢選択式問題を作成するための問題作成部94とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、多肢選択式の問題を自動的に作成する技術に関し、特に、例えばいわゆるe−ラーニングまたはモバイル学習等において使用される多肢選択式の問題を自動的に作成する問題自動作成装置および問題自動作成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
経済・社会の変化に伴い、就業形態も従来と変わり始めている。積極的に転職をすることにより、自己のキャリアを高めていくという考え方も広まりつつある。そのために、仕事に役立つ資格を取得しようとする人々が増加している。転職のためだけでなく最初の就職の際にも、何らかの資格を持っているほうが有利と考える人も多く、そのため種々の資格取得のための予備校、塾、通信教育などが盛んになっている。
【0003】
資格試験の中でも特に人気のあるのが、英語のコミュニケーション能力を測定する試験である。留学の際の条件として、特定の試験で所定の点数以上を取得していることが求められることも多い。
【0004】
ところで、そうした試験において問題となるのは、いかにして採点を的確にするか、という点である。特に受験者が多数となると、採点のための労力が多くなって結果が得られるまでの期間が長くなったり、採点者が増加するために採点の精度が低くなったり、試験実施のためのコストが高くなったりするという問題がある。
【0005】
そこで、各種の試験問題の形式として、一つの質問に対して設けられた複数の選択肢の中から正しい選択肢を選択する多肢選択式問題が多用されている。多肢選択式問題の場合には、採点が容易で自動化が可能であり、短期間に結果を出すことができるという利点がある。その結果採点者を増加させたりする必要もなく、受験者が増加してもコストの増加を抑制できる。
【0006】
また、現代日本のようにネットワーク技術、通信技術が発達し、携帯電話のようなコミュニケーションツールが普及した社会では、そうしたコミュニケーションツールを用いていつでもどこでも短い時間で利用できる、資格試験のための学習サービスを求める利用者が多くなっている。そうしたサービスのためにも多肢選択式問題は有効である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようなパーソナルコンピュータやモバイル機器を用いた学習形態では、練習問題の提供側において問題を効率よく作成することが必要となる。多肢選択式問題を作成するためには、問いとその問いに対する正解とを準備するだけでなく、不正解に相当する選択肢を準備する必要がある。しかし、ある問いに対し不正解となるような選択肢を作成するためには、まず不正解の候補を作成し、その候補が問いに対する正解にはなり得ないことを確認するという作業が必要である。また、問題として難易度を高めるためには、不正解であっても正解と紛らわしいような選択肢を作成することも必要である。
【0008】
しかし、こうした作業を行なうためには、例えば語学の試験の場合、選択肢の候補となる文の意味まで的確に理解する必要があると考えられていた。そのため、従来は、試験問題作成のために十分な能力を備えた人間が、手作業でそうした問題の作成を行なっていた。
【0009】
しかし、今後はより多数の人々がコミュニケーションツールを用いた学習を行なうことが考えられ、そうした需要に対応するためには、適切な多肢選択式問題を、効率よく、自動的に作成する技術が求められている。
【0010】
したがって、この発明の目的は、適切な多肢選択式問題を自動的に作成することが可能な多肢選択式問題の問題自動作成装置およびそのためのコンピュータプログラムを提供することである。
【0011】
この発明の他の目的は、適切な多肢選択式問題を自動的に、かつ効率的に作成することが可能な多肢選択式問題の問題自動作成装置およびそのためのコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のある局面にしたがった問題自動作成装置は、各々が、条件と、この条件に対する応答とからなる複数の条件応答ペアを含むコーパスから、任意の条件応答ペアを正解用ペアとして選択するための正解選択手段と、当該正解選択手段により選択された正解用ペアと、正解用ペアの応答と等価な表現の応答を有する条件応答ペアの集合(以下、第1の集合という)と、正解用ペアの条件と等価な表現の条件を有する条件応答ペアの集合(以下、第2の集合という)とを、コーパスから除くことにより、不正解用選択肢候補の集合を求めるための不正解候補集合作成手段と、求められた不正解用選択肢候補の集合に含まれる任意の条件応答ペアから選択した所定個数の不正解用の応答を、正解用ペアの応答と組合わせることにより、正解用ペアの条件に対応する応答を選択させる多肢選択式問題を作成するための問題作成手段とを含む。
【0013】
第1の集合は、正解用ペアの応答と等価な表現集合に含まれる応答を有する集合であり、それら応答は正解用ペアの条件に対して正解となりうる。この集合に含まれる応答を正解用ペアの応答と組合わせて選択肢とすると、正解が複数存在することになり問題として不適当である。第2の集合は、正解用ペアの条件と等価な表現集合に含まれる条件を有する集合であり、それらの応答は、正解用ペアの条件に対して正解となりうる。これらの応答を正解用ペアの応答と組合わせて選択肢とすると、正解が複数存在することになり問題としてやはり不適当である。このため、正解用ペアと第1および第2の集合とをコーパスから削除して、不正解用選択肢の集合とする。この不正解用選択肢の集合では、正解用ペアの条件に対して、複数の正解が出現する可能性のある応答の存在が排除され、条件および応答の正しい組合わせは1個しか存在せず、適正な多肢選択式問題が作成される。問題作成作業は人手によることなく自動で行われるから効率が良い上、コスト削減にもつながる。また、選択肢の数を自在に設定できるから、選択肢の組合わせの自由度を格段に向上できるし、コーパスに自然な対話の条件応答ペアやその他種々の条件応答ペアを用意しておくことで、より高度な問題の自動作成も可能となる。
【0014】
好ましくは、問題自動作成装置はさらに、不正解候補集合作成手段により作成された不正解用選択肢候補の集合から、正解用ペアの応答と非類似の応答を有する条件応答ペアの集合(以下、第3の集合という)を削除した不正解用選択肢の集合を問題作成手段に与えるための手段を含む。
【0015】
第3の集合に含まれる応答は、正解用ペアの応答と非類似であるから、これが選択肢に含まれても受験者は惑うことなくこの選択肢を避けることができる。これら応答を不正解用選択肢の集合から排除することにより、正解用の応答と全く異なる応答が選択肢として設定されることがなくなる。その結果、受験者が惑うような選択肢を有する、試験練習用として好適な問題を作成することができる。
【0016】
条件応答ペアにおける条件と応答の具体例として、条件は質問であり応答は質問に対する解答である場合や、条件は画像であり応答は画像についての説明文である場合や、条件は文章であり応答は文章についての要約である場合を挙げることができる。
【0017】
また問題自動作成装置はさらに、問題作成手段により所定個数の多肢選択式問題が作成されるまで、正解選択手段、不正解候補集合作成手段、および問題作成手段を繰返し動作させるための手段をさらに含んでもよい。
【0018】
この問題自動作成装置は、所定個数の問題を自動的に作成して、作成が完了すると自動的に停止する。必要なときに必要な個数の問題を作成できるので、問題作成を効率よく行なえる。
【0019】
本発明の他の局面にしたがったコンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されると、上記いずれかの問題自動作成装置として当該コンピュータを動作させるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に述べる本発明の実施の形態は、コンピュータおよびコンピュータ上で動作するソフトウェアにより実現される。もちろん、以下に述べる機能の一部または全部を、ソフトウェアでなくハードウェアで実現することも可能である。
【0021】
図1に、本実施の形態で利用されるコンピュータシステム20の外観図を、図2にコンピュータシステム20のブロック図を、それぞれ示す。なおここに示すコンピュータシステム20はあくまで一例であり、この他にも種々の構成が可能である。
【0022】
図1を参照して、コンピュータシステム20は、コンピュータ40と、いずれもこのコンピュータ40に接続されたモニタ42、キーボード46、およびマウス48を含む。コンピュータ40にはさらに、CD−ROM(Compact Disc Read−Only Memory)ドライブ50と、FD(Flexible Disk)ドライブ52とが内蔵されている。
【0023】
図2を参照して、コンピュータシステム20はさらに、コンピュータ40に接続されるプリンタ44を含むが、これは図1には示していない。またコンピュータ40はさらに、CD−ROMドライブ50およびFDドライブ52に接続されたバス66と、いずれもバス66に接続された中央演算装置(Central Processing Unit:CPU)56、コンピュータ40のブートアッププログラムなどを記憶したROM(Read−Only Memory)58、CPU56が使用する作業エリアおよびCPU56により実行されるプログラムの格納エリアを提供するRAM(Random Access Memory)60、および後述するコーパスを格納したハードディスク54を含む。
【0024】
以下に述べる実施の形態のシステムを実現するソフトウェアは、たとえば、CD−ROM62のような記録媒体上に記録されて流通し、CD−ROMドライブ50のような読取装置を介してコンピュータ40に読込まれ、ハードディスク54に格納される。CPU56がこのプログラムを実行する際には、ハードディスク54からこのプログラムを読出してRAM60に格納し、図示しないプログラムカウンタによって指定されるアドレスから命令を読出して実行する。CPU56は、処理対象のデータをハードディスク54から読出し、処理結果を同じくハードディスク54に格納する。
【0025】
コンピュータシステム20の動作自体は周知であるので、ここではその詳細については繰り返さない。
【0026】
なお、ソフトウェアの流通形態は上記したように記録媒体に固定された形には限定されない。たとえば、ネットワークを通じて接続された他のコンピュータからデータを受取る形で流通することもあり得る。また、ソフトウェアの一部が予めハードディスク54中に格納されており、ソフトウェアの残りの部分をネットワーク経由でハードディスク54に取込んで実行時に統合するような形の流通形態もあり得る。
【0027】
一般的に、現代のプログラムはコンピュータのオペレーティングシステム(OS)によって提供される汎用の機能を利用し、それらを所望の目的にしたがって組織化した形態で実行することにより前記した所望の目的を達成する。したがって、以下に述べる本実施の形態の各機能のうち、OSまたはサードパーティが提供する汎用的な機能を含まず、それら汎用的な機能の実行順序の組合わせだけを指定するプログラム(群)であっても、それらを利用して全体的として所望の目的を達成する制御構造を有するプログラム(群)である限り、それらが本発明の技術的範囲に含まれることは明らかである。
【0028】
[構成]
図3に、本実施の形態のプログラムにより問題自動作成装置82が実現されるものとみなして問題自動作成装置82の構成を機能的に示してある。図3を参照して、この問題自動作成装置82は、ハードディスク54に格納された、英語の問題(条件)のテキストデータおよびその音声データならびにその問題文に対する解答(応答)文のテキストデータ(または音声データ)のペアを多数含むコーパス80を用いて、英語のリスニング能力に関する多肢選択式問題を作成するためのものである。すなわちこの実施の形態では、問題文のテキストデータまたは音声データを条件とし、その条件に対する応答が解答文であり、コーパス80はそうした条件応答ペアを多数集めたものである。
【0029】
なお、以下の説明では、図4に示すように、条件が質問Qであり応答が質問に対する解答A、Aである英語のリスニング問題を例にとって説明する。図4に示す例では解答Aが正解である。説明を簡易にするために以下の例では選択肢は2個とするが、実際の問題では選択肢の数は3個以上5個以内の範囲が適切であると思われる。
【0030】
問題自動作成装置82は、コーパス80の中から問題文および正解文となるペアを選択するための正解選択部90と、コーパス80に含まれるペアの中から、正解選択部90により選択された正解用ペア、正解用ペアの応答と等価な表現の応答を有する条件応答ペアの集合、および正解用ペアの条件と等価な表現の条件を有する条件応答ペアの集合をコーパス80から除くことにより、不正解用選択肢候補の集合を求めて不正解となる選択肢の候補となる解答文の集合を作成するための集合演算部92と、正解選択部90により選択された正解ペアと、集合演算部92により選択された不正解となる解答文の集合とから多肢選択式問題を作成するための問題作成部94とを含む。
【0031】
ハードディスク54に記憶されたコーパス80の構成例を図5に示す。図5を参照して、コーパス80は、質問Qとそれに対する正しい応答Aとからなるペアを多数集めた問題の集合C={(Q→A)|i∈N}である(Nは自然数の集合)。質問Qと応答Aとは、応答Aが質問Qに対する正しい解答となるように予め作成されている。
【0032】
図6に、問題自動作成装置82の各機能を実現するためのコンピュータプログラムのフローチャートを示す。以下、図3の各部と図6とを参照しながら、図3の各部の機能について説明する。
【0033】
正解選択部90は、コーパス80の中から、任意の質問応答ペア(Q,A)を正解用ペアとして選択し、Qを問題の条件、Aを正解の選択肢とする機能を持つ(図6のステップ110)。
【0034】
集合演算部92は、不正解用選択肢の集合を求めるものである(図6のステップ112〜ステップ124)。集合演算部92は、具体的には以下のようにして不正解用選択肢の集合を求める。
【0035】
まず、コーパス80を構成する集合Cから正解ペア(Q,A)を差し引いた集合C’=C−(Q,A)を求める(ステップ112)。
【0036】
次に、集合演算部92は、集合C’のうち、応答が正解の応答Aの言換え(換言)となっているものを第1の集合として抽出する(ステップ114)。以下、ある文Xの言換えとなる文の集合を以下PARAPHRASE(X)と表す。
【0037】
例えば、図4および図5に示す応答A=「Yes,I′d like to know his name」に対し、比較対象の応答A=「Yes,I want to know his name」とすれば、A∈PARAPHRASE(A)である。ある文が正解の応答Aの言換えとなっているか否かを判定する方法には種々ある。例えば、同じ意味で異なる言い方を集めた辞書を用い、この辞書との照合により判定することができる。なお、「言換え(換言)」は、同じ意味を別の言い方でいうこと、すなわち両者が等価であることをいう。これに対し、後に述べる「類似」とは、二つの文中に出現する単語または構文が類似することをいい、類似か否かを判定するための所定の判定基準によって判定される。したがって「言換え(換言)」と「類似」とは別の概念である。
【0038】
正解の応答Aの言換えとなっている応答は、不正解選択肢として不適切である。したがってステップ116では、集合演算部92は、コーパスC’から前述した第1の集合を削除して新たにC’とする。
【0039】
さらに集合演算部92は、ステップ118において、コーパスC’のうち、質問Q∈PARAPHRASE(Q)となるようなペアQ−Aからなる第2の集合を作成する。これは、正解ペアの質問の言換えになっている質問に対する応答は、正解文と同じ意味を表すか、正解ペアの質問に対する正しい応答となっているためである。そうした応答は不正解選択肢として不適切である。したがって、ステップ120において集合C’から第2の集合を削除して新たにC’とする。
【0040】
以上の処理で、集合C’には、応答が正解の応答Aとは異なる意味となっているペアのみが残されている。したがって、集合C’の中の任意のペアのうちの質問を抽出し、不正解選択肢とすることができる。しかし、多肢選択式問題としては、できるだけ正解と紛らわしい不正解選択肢を設けることが望ましい。そこで本実施の形態ではさらに次のような処理を行なう。
【0041】
すなわち、集合演算部92は、ステップ122において、集合C’のうち、応答が正解の応答Aと類似しないペアのみからなる第3の集合を作成する。第3の集合内の各応答は、正解用ペアの応答と非類似であるから、これが正解用ペアの応答とともに他の選択肢として採用された場合には、正解用の応答と全く異なり明らかに誤りと分る選択肢が存在することになる。それでは、受験者が惑うことがなく、試験練習用問題として適性に欠けるものとなるから、このような第3の集合を不正解用選択肢の集合から排除する。すなわち、ステップ124において、集合C’から第3の集合を削除して新たな集合C’とする。この処理により、集合C’に残るペアの応答は、いずれも正解の応答Aに類似しているが、その言換えではない文となる。これらを選択肢とすることで、多肢選択式問題がより難しいものとなる。
【0042】
ステップ126では、このようにして作成された集合C’から必要な数だけの任意の応答を抽出し、不正解選択肢とする。
【0043】
問題作成部94は、このようにして抽出された不正解用の応答Aを、正解用ペア(Q,A)の応答Aと組合わせて、応答の選択肢が2個以上存在する多肢選択式問題を作成し、ハードディスク54に一つの問題として出力する(ステップ128)。
【0044】
さらにステップ130では、問題作成の終了条件が成立したか否かを判定する。終了条件が成立すれば処理を終了する。終了条件が成立していなければステップ110に戻り、次の問題の作成を開始する。終了条件としては、例えば所定個数の問題を作成し終えたか否かを採用することができる。
【0045】
こうして作成された多肢選択式問題においては、条件および応答の正しい組合わせは1個しか存在しない。また不正解選択肢はいずれも正解の選択肢と紛らわしいものとなり、多肢選択式問題として適正な問題が作成される。
【0046】
以上に説明した不正解選択肢の抽出のための基準を図7に表形式でまとめてある。
【0047】
図7を参照して、行204は、正解用ペアが(Q3,A3)であることを示している。
【0048】
行200は、正解の応答A3と非類似の応答A1を有するペア(Q1,A1)は、不正解選択肢を作成するためのペアとしては不適切であることを示している。
【0049】
行202は、応答がPARAPHRASE(A3)に属する質問応答ペア(Q2,A2)は、不正解選択肢を作成するためのペアとしては不適切であることを示す。
【0050】
行206は、質問がPARAPHRASE(Q3)に属する質問応答ペア(Q4,A4)は、不正解選択肢を作成するためのペアとしては不適切であることを示す。
【0051】
行208は、質問応答ペア(Q1,A1)、(Q2,A2)、(Q3,A3)、(Q4,A4)を除いた不正解用選択肢の集合から選択した質問応答ペア(Q5,A5)は、不正解選択肢を作成するためのペアとしては適切であることを示している。
【0052】
[動作]
次に、図3に示した問題自動作成装置82の動作を、適宜図6のフローチャートを参照しながら説明する。
【0053】
質問の作成が指示されると、正解選択部90は、コーパス80の中から、任意の質問応答ペア(Q,A)を正解用ペアとして選択し、質問Qを問題の条件、応答Aを正解の選択肢とする(図6のステップ110)。
【0054】
集合演算部92は、コーパス80から正解ペア(Q,A)を差し引いた集合C’=C−(Q,A)を求めたのち(ステップ112)、第1の集合を求める(ステップ114)。そして集合C’からこの第1の集合を削除して新たな集合C’とする(ステップ116)。集合演算部92はさらに、第2の集合を作成する(ステップ118)。新たなC’からこの第2の集合を削除して新たな集合C’とする(ステップ120)。集合演算部92はさらに、第3の集合を作成する(ステップ122)。そして集合C’からさらにこの第3の集合を削除して最終的な不正解用選択肢の集合C’とする(ステップ124)。
【0055】
このような処理により、不正解用選択肢の集合C’には、正解ペア(Q,A)の条件Qに対して、応答Aと同じく正解となりうる応答も、応答Aと非類似の応答も含まれていないことになる。
【0056】
次に、問題作成部94は、不正解用選択肢の集合C’に含まれる任意の条件応答ペアから選択した1個または複数個の不正解用の応答Aを、正解用ペア(Q,A)の応答Aと組合わせて問題を作成する(ステップ126)。
【0057】
こうして作成した問題は、適当に整形された後、ハードディスク54に多肢選択式問題集として蓄積される。
【0058】
利用者から多肢選択式問題を提供するよう要求があった場合には、この多肢選択式問題集から何らかの方式にしたがって多肢選択式問題を選択し、選択された多肢選択式問題の問題文の音声データを要求のあったパーソナルコンピュータまたはモバイル機器等に出力し、あわせて選択肢のテキストを送信して画面に表示させ、その中から利用者に応答を選択させる。利用者の応答が受信されると、その応答が正解応答の選択肢と一致しているか否かを判定し、正解・誤りの判定結果を送信し、次の問題を実行する。
【0059】
このような問題の作成処理および出力が、受験者から要求がある度に繰返され、受験者に対して数多くの問題が提供される。
【0060】
この実施の形態によれば、問題作成は人手によることなく自動で行われるから効率が良い上、コスト削減にもつながる。また、選択肢の数を自在に選択できるから、選択肢の組合わせの自由度を格段に向上できる。さらに、コーパス80に自然な対話の条件応答ペアまたはその他種々の条件応答ペアを用意しておくことで、より高度な問題の自動作成も可能となる。
【0061】
またこの実施の形態では、正解用ペア(Q,A)の応答Aと非類似な応答を有する質問応答ペアの集合(第3の集合)も不正解用選択肢の集合から削除している。したがって、受験者が惑うような選択肢を付加することができ、試験練習用として好適な問題を作成することができる。
【0062】
[変形例]
上記した問題自動作成装置82は英語のリスニングに関する多肢選択式問題を作成するものである。しかし本発明はリスリング問題に限定して適用可能なわけではなく、また英語の問題に限定されるわけでもない。テキストを提示する問題に適用することも可能であるし、音声言語であればどのような言語についても適用できる。
【0063】
また以上の実施の形態では、条件が質問であり応答が質問に対する解答である場合を例にとって説明した。しかし、本発明はそのような実施の形態には限定されない。例えば、図8に示すように、絵や写真等の画像Pと、説明文S、Sjを複数提示して、画像の説明として適切なものを選択する形式の問題であってもよい。この場合は、絵または写真等の画像Pと説明文Sとのペアを集めたコーパス{(P,S)}を作成しておき、画像Pを条件に、説明文Sを応答に、それぞれ置換えて、前述した処理を行なうことにより、問題作成を自動で行わせることができる。二つの画像が等価か否かを判定することが画像のみに基づいては困難な場合もあるが、そうした場合には何らかの定型的な説明を画像に付しておくことが有効である。この説明は、応答としての説明文とは別のものである。
【0064】
また、図9に示すように、文章Cとともに要約S、Sjを複数提示して、文章Cに合致する要約を選択する形式の問題であってもよい。この場合は、文章Cと要約Sのペアを集めたコーパス{(C,S)}を作成しておき、文章Cを条件に、要約Sを応答に、それぞれ置換えて前述した処理を行なうことにより、問題作成を自動的に行なわせることができる。
【0065】
また、翻訳を複数提示して、原文に合致する翻訳を選択する形式の問題であってもよいし、単語の定義を複数提示して、単語に合致する定義を選択する形式の問題であってもよい。1個の質問と複数個の応答からなる問題ではなく、複数個の質問と1個の応答が与えられ、応答に対してもっとも適した質問を選択させる形式の多肢選択式問題であってもよい。この場合には、前述した実施の形態において、質問を応答に、応答を質問に、それぞれ置換えて前述した処理を行なうことにより、問題作成を自動的に行なわせることができる。
【0066】
上記した実施の形態では問題を音声データで出力しているが、問題をテキストで出力してもよいことはもちろんである。また問題の音声データをコーパスに保持することなく、音声合成によってテキストから問題の音声を発生させるようにしてもよい。さらに、選択肢の各々の音声を順次発生させて利用者に聞かせ、その中から解答を選択させるような実施の形態も考えられる。
【0067】
上記した実施の形態では、多肢選択式問題として英語等の語学に関するものを想定している。しかし本発明はそのような実施の形態には限定されない。質問として利用できる何らかの条件と、それに対する正しい応答とからなるペアをコーパスとして収集できるものであれば、どのようなものを対象とする場合でも、適切な多肢選択式問題を自動的に、短時間で効率的に多数作成することができる。
【0068】
今回開示された実施の形態は単に例示であって、本発明が上記した実施の形態のみに制限されるわけではない。本発明の範囲は、発明の詳細な説明の記載を参酌した上で、特許請求の範囲の各請求項によって示され、そこに記載された文言と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含む。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】この発明の一実施の形態に係る問題自動作成プログラムを実行するコンピュータシステムの外観図である。
【図2】図1のコンピュータシステムのブロック図である。
【図3】この発明の一実施の形態に係る問題自動作成装置82の構成を示すブロック図である。
【図4】多肢選択式問題の一例を示す図である。
【図5】コーパスの一例を示す図である。
【図6】図3の問題自動作成装置82による問題作成処理の内容を示すフローチャートである。
【図7】問題作成処理の内容をまとめた表である。
【図8】多肢選択式問題の他の例を示す図である。
【図9】多肢選択式問題のさらに他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
40 コンピュータ
80 コーパス
82 問題自動作成装置
90 正解選択部
92 集合演算部
94 問題作成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が、条件と、この条件に対する応答とからなる複数の条件応答ペアを含むコーパスから、任意の条件応答ペアを正解用ペアとして選択するための正解選択手段と、
前記正解選択手段により選択された正解用ペアと、前記正解用ペアの応答と等価な表現の応答を有する条件応答ペアの集合と、前記正解用ペアの条件と等価な表現の条件を有する条件応答ペアの集合とを前記コーパスから除くことにより、不正解用選択肢候補の集合を求めるための不正解候補集合作成手段と、
前記求められた不正解用選択肢候補の集合に含まれる任意の条件応答ペアから選択した所定個数の不正解用の応答を、前記正解用ペアの応答と組合わせることにより、前記正解用ペアの条件に対応する応答を選択させる多肢選択式問題を作成するための問題作成手段とを含む、問題自動作成装置。
【請求項2】
さらに、前記不正解候補集合作成手段により作成された不正解用選択肢候補の集合から、前記正解用ペアの応答と非類似の応答を有する条件応答ペアの集合を削除した不正解用選択肢の集合を前記問題作成手段に与えるための手段を含む、請求項1に記載の問題自動作成装置。
【請求項3】
前記条件応答ペアにおける条件は質問であり、応答は当該質問に対する解答である、請求項1または請求項2に記載の問題自動作成装置。
【請求項4】
前記条件応答ペアにおける条件は画像であり、応答は当該画像についての説明文である、請求項1または請求項2に記載の問題自動作成装置。
【請求項5】
前記条件応答ペアにおける条件は文章であり、応答は当該文章についての要約である、請求項1または請求項2に記載の問題自動作成装置。
【請求項6】
前記問題作成手段により所定個数の多肢選択式問題が作成されるまで、前記正解選択手段、前記不正解候補集合作成手段、および前記問題作成手段を繰返し動作させるための手段をさらに含む、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の問題自動作成装置。
【請求項7】
コンピュータにより実行されると、当該コンピュータを、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の問題自動作成装置として動作させる、問題自動作成のためのコンピュータプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−126242(P2006−126242A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310551(P2004−310551)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「大規模コーパスベース音声対話翻訳技術の研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】