説明

回動部材のダンパー装置

【課題】部品点数が少なく、回動部材の回転動作に対して安定した緩和効果を奏する新規な回動部材のダンパー装置を提供する。
【解決手段】取付基部2,3に対し、支持軸4,5を介し、該支持軸4,5の軸心4L,5L回りに回動可能に支持されると共に、付勢手段6によって前記軸心4L,5L回りの一方向に回転付勢力が付与された回動部材1において、前記回転付勢力による回転動作を緩和する為、前記取付基部3と回動部材1との間に介装されるダンパー装置であって、前記支持軸5に対してその軸心5L回りに相対摺接が可能な状態で外嵌されたエラストマーからなる制動部材7と、該制動部材7の外周に外装され、該制動部材7を締め付ける環状ばね部材8とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車の室内に設置されるアシストグリップやコンソールボックスの蓋等のように、一方向に回転付勢力がかかった状態で使用される回動部材において、前記回転付勢力による回転動作を緩和する為に組み込まれるダンパー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の室内に設置されるアシストグリップとして、常時は、ばね等の付勢手段によって、ドア上部の側壁乃至は天井壁に沿った待機位置に保持され、使用時には、グリップ本体を把持し前記付勢手段の付勢力に抗して引き下げるよう回転させて所定の使用位置になるよう構成されたものが広く採用されている。このようなアシストグリップの場合、使用後、グリップ本体を手離すと、前記付勢手段の回転付勢力によって、グリップ本体が勢いよく跳ね上がるよう回転し、天井壁等に衝突して衝撃音が発生し、これが使用者(乗員)に不快感を与えることにもなる。その為、前記アシストグリップのグリップ本体とその取付基部との間に、前記回転付勢力による回転動作を緩和する為のダンパー装置が組み込まれている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−96982号公報
【特許文献2】特許第3610535号公報
【特許文献3】特開2001−58535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されるダンパー装置は、グリップ体(グリップ本体)に一体とされた支承軸を、車体側に固定される粘弾性的なプラスチック材からなる成形体の孔にプレス嵌めし、成形体と支承軸との間で相対運動が可能なように構成されている。このように、成形体と支承軸との相対運動可能な摩擦力を伴った嵌合関係によって、戻しばね(グリップ体を支承軸の軸心回りの一方向に回転付勢する付勢手段)による回転動作を緩和し、グリップ体の室内壁等に対する衝撃を抑制することができる。しかし、この回転動作を緩和する機能の主体が粘弾性的なプラスチック材からなるから、支承軸との間で摩擦力を伴った相対運動を繰り返してゆくうちに、プラスチック材に圧縮永久ひずみが生じ、前記回転動作に対する初期の緩和機能から低下することが予想される。また、プラスチック材と支承軸との間の摩擦力はプラスチック材の性状(粘弾性)によるから、そのコントロールが難しく、しかも、経時的に粘弾性が変化し、これがグリップ体の回転トルクの変動をもたらす。
【0005】
特許文献2に示されるアシストグリップは、支承軸に直交する面間で圧接する制動面と制動部材とにより、前記と同様に戻しばねによる回転付勢力を緩和するよう構成されている。しかし、制動面と制動部材とは、戻しばねの軸方向の弾発力によって圧接される為、本来ねじり弾発力を発揮する戻しばねは、ねじり度合いによって軸方向の弾発力が変化し、従って、制動面と制動部材との摩擦力による回転運動の抑制作用の設定が難しいと考えられる。また、特許文献3に示されるアシストグリップは、前記と同様の戻しばねによって一方向に回転付勢されるグリップ本体と、このグリップ本体を回動可能に軸支する固定側との間にシリコン等の高粘度の粘性剤を介在させて、戻しばねによる回転動作を緩和するよう構成されている。この場合、構造的に部品点数が多くなることは否めなかった。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、部品点数が少なく、回動部材の回転動作に対して安定した緩和効果を奏する新規な回動部材のダンパー装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る回動部材のダンパー装置は、取付基部に対し、支持軸を介し、該支持軸の軸心回りに回動可能に支持されると共に、付勢手段によって前記軸心回りの一方向に回転付勢力が付与された回動部材において、前記回転付勢力による回転動作を緩和する為、前記取付基部と回動部材との間に介装されるダンパー装置であって、前記支持軸に対してその軸心回りに相対摺接が可能な状態で外嵌されたエラストマーからなる制動部材と、該制動部材の外周に外装され、該制動部材を締め付ける環状ばね部材とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の回動部材のダンパー装置において、前記支持軸が前記取付基部に固着され、前記制動部材が前記回動部材に固定されていること、或いは、前記支持軸が前記回動部材に固着され、前記制動部材が前記取付基部に固定されていること、のいずれであっても良い。また、前記制動部材の前記支持軸との相対摺接部には、潤滑剤が施与されているものとしても良い。この場合、前記制動部材の前記支持軸に対する前記相対摺接部には、前記潤滑剤を保持する凹凸が形成されているものとしても良く、或いは、少なくとも前記制動部材の前記支持軸に対する相対摺接部が、潤滑性物質を含有するエラストマーからなるものとしても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明のダンパー装置が適用される回動部材は、取付基部に対し、支持軸を介し該支持軸の軸心回りに回動可能に支持され、前記付勢手段によって前記軸心回りの一方向に回転付勢力が付与される。この回転付勢力による回転動作は、前記取付基部と回動部材との間に介装されるダンパー装置によって緩和される。従って、前記付勢手段の付勢力に抗して、回動部材を回転させた後、この付勢力によって回転復帰動作をする際、ダンパー装置によってその回転動作が緩和される。そして、このダンパー装置による前記回転動作の緩和は、前記支持軸に対してその軸心回りに相対摺接が可能な状態で外装された制動部材によってなされ、該制動部材を構成するエラストマー特有の摩擦機能が発揮される。しかも、該制動部材の外周には、環状ばね部材が該制動部材を締め付けるよう外装されているから、制動部材が支持軸に対して弾接するようになっている。従って、部品点数も少ないにも拘わらず、制動部材の安定した弾接状態を長く保つことができる。
【0010】
本発明の回動部材のダンパー装置において、前記支持軸が前記取付基部に固着され、前記制動部材が前記回動部材に固定されている場合、回動部材の回転動作と共に、制動部材が固定状態の支持軸の軸心回りに回転し、制動部材の相対摺接部において前記緩和機能が発現される。また、前記支持軸が前記回動部材に固着され、前記制動部材が前記取付基部に固定されている場合、回動部材の回転動作と共に、支持軸がその軸心回りに回転し、固定状態の制動部材との嵌合部において前記緩和機能が発現される。ここでの二種の態様は、同様の機能を奏するものあり、設計仕様に基づき適宜採択されるものであるが、部品の組付け性を考慮すると、前者が望ましく採用される。
【0011】
本発明の回動部材のダンパー装置において、前記制動部材の前記支持軸との相対摺接部に潤滑剤を施与した場合、この潤滑剤の施与によって、前記回転動作の緩和機能の適宜調整がなし得ると共に、前記エラストマーの支持軸との相対摺接部での磨耗、更には、制動部材の支持軸に対する固着を抑え、その結果、安定的な緩和機能を維持させ、制動部材の長寿命化も図ることができる。この場合、前記制動部材の前記支持軸に対する前記相対摺接部に、前記潤滑剤を保持する凹凸を形成するようにすれば、潤滑剤による前記作用がより効果的に発揮され、且つ、その持続性がより向上する。また、前記潤滑剤の施与に代え、少なくとも前記制動部材の前記支持軸に対する相対摺接部が、潤滑性物質を含有するエラストマーからなるものとすれば、組付け時に潤滑剤を施与する作業が不要とされ、且つ、経時的な前記潤滑作用の減退も抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るダンパー装置の一実施形態が適用されたアシストグリップの一例を示す概略的部分破断正面図である。
【図2】図1におけるX部の拡大図である。
【図3】図2におけるY−Y線矢視断面図である。
【図4】同実施形態に用いられる制動部材の支持軸との相対摺接部の他の形状の例を示す概略的断面図である。
【図5】同相対摺接部の形状の更に他の例を示す概略的断面図である。
【図6】本発明に用いられる環状ばね部材における変位と荷重との関係を示すグラフである。
【図7】同ダンパー装置の変形例を示す図2と同様図である。
【図8】本発明に係るダンパー装置の他の実施形態を示す図2と同様図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は本発明の回動部材のダンパー装置が適用されるアシストグリップの一例を示している。図例の回動部材としてのアシストグリップ1は、自動車の室内側壁部乃至は天井壁部(以下、室内壁部と言う)に取付けられるもので、自動車の乗員が手で把持し得る棒状のグリップ本体部10と、その両端に屈曲連成された一対の取付脚部11,12とよりなる。グリップ本体部10と取付脚部11,12とは、硬質合成樹脂の一体成型体からなり、図示のように横長の略U字形に形成されている。このアシストグリップ1は、自動車室内の壁部に不図示の止具等によって固定された取付基部2,3に対し、互いに同心の支持軸4,5を介して、これら支持軸4,5の軸心4L,5L回りに回動可能に取付けられている。
【0014】
一方の支持軸(以下、付勢側支持軸と言う)4は、取付基部(以下、付勢側取付基部と言う)2に固着されている。具体的には、付勢側取付基部2は、基部片2a,2bからなる二股状に形成され、また、付勢側支持軸4は、その先端にセレーション部4aを備えており、一方の基部片2aを貫き、対向する他方の基部片2bにこのセレーション部4aを圧入することにより、付勢側取付基部2に軸回転不能に固着されている。前記付勢側支持軸4の固定状態では、一方の取付脚部(以下、付勢側取付脚部という)11に、付勢側支持軸4が貫通されており、付勢側取付脚部11は、付勢側支持軸4を介して、付勢側取付基部2の基部片2a,2bに挟まれるよう、且つ、付勢側支持軸4の軸心4L回りに回動可能に支持されている。付勢側取付脚部11と付勢側取付基部2の基部片2aとの間には、付勢側支持軸4に嵌装されたコイルばね(付勢手段)6が弾装されている。このコイルばね6の一端は付勢側取付基部2(基部片2a)に固定乃至係止され、他端は付勢側取付脚部11に固定乃至係止されている。このような弾装状態のコイルばね6はトーションばねとして機能し、付勢側取付脚部11は、該コイルばね6によって常時矢印R方向に回転付勢状態とされる。これによって、アシストグリップ1には、軸心4L,5L回りの一方向(矢印Rに沿った方向)の回転付勢力が付与され、該アシストグリップ1は、外力が付与されない限り、前記室内壁部に当接した状態で待機維持される。
【0015】
他方の支持軸(以下、制動側支持軸と言う)5は、取付基部(以下、制動側取付基部と言う)3に固着されている。具体的には、制動側取付基部3は、基部片3a,3bからなる二股状に形成され、また、制動側支持軸5は、その先端にセレーション部5aを備えており、一方の基部片3aを貫き、対向する他方の基部片3bにこのセレーション部5aを圧入することにより、制動側取付基部3に軸回転不能に固着されている。前記制動側支持軸5の固定状態では、他方の取付脚部(以下、制動側取付脚部という)12に、制動側支持軸5が貫通されており、制動側取付脚部12は、制動側支持軸5を介して、制動側取付基部3の基部片3a,3bに挟まれるよう、且つ、軸心5L回りに回動可能に支持されている。制動側取付脚部12には、エラストマーの成型体からなる制動部材7が、制動側支持軸5と同心状に取付けられている。
【0016】
前記制動部材7を構成するエラストマー材としては、エチレンプロピレンゴム(EPM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリルゴム(ACM)、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)、シリコーンゴム(VMQ)、フロロシリコーンゴム(FVMQ)、フッ素ゴム(FKM)、ブチルゴム、エチレンプロピレンジェン共重合ゴム(EPDM)等のゴム材、熱可塑性エラストマー(オレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、スチレン系等)等が好ましく採用される。
【0017】
前記制動部材7によるダンパー装置の構成について、図2及び図3も参照して更に詳細に説明する。前記制動側取付脚部12は、制動部材7を収納する横穴状の空所120を備え、その開口部側(基部片3a側)に断面形状が多角形(図3に示す例では正六角形)の保持凹部121が形成されている。制動部材7は、外形状が保持凹部121と同形状に形成された環状基部70を保持凹部121に圧入することによって、制動側取付脚部12に相互に回動不能に固定された状態で、前記空所120内に収納されている。制動側取付脚部12と制動部材7との固定は、例示のような多角形状部同士の圧入嵌合による場合に限らず、他の噛み合い形状部分の圧入嵌合や、接着剤による場合、或いは、アシストグリップ(樹脂)1と制動部材(エラストマー)7との同時成型によってなされるようにしても良い。環状基部70の内周部の径は、制動側支持軸5の外径より大とされ、制動側取付脚部12と制動部材7との固定状態では、環状基部70と制動側支持軸5との間に環状空間705が形成される。
【0018】
制動部材7は、前記環状基部70より前記空所120内の奥側(基部片3b側)に向け延出された環状のリップ部71を片持ち状に有し、その内周部が後記する制動側支持軸5との相対摺接部72とされている。この相対摺接部72は、図2では軸心5L方向に沿った断面形状が凹凸形状とされ、その最小内径が制動側支持軸5の外径よりやや小さく設定されている。前記環状基部70におけるリップ部71とは反対側の部分には外向きの鍔状部73が形成され、前記制動側取付脚部12と制動部材7との固定状態では、前記保持筒部121の開口周縁部にこの鍔状部73が密着するようになされている。前記リップ部71の最大外径は、前記空所120の内径より小さく、制動部材7が制動側支持軸5に外嵌された状態で、リップ部71と空所120の内壁との間に空間が確保されるように設定されている。そして、リップ部71の外周に、該リップ部71を求心方向に締め付ける細径のコイルスプリングからなる環状ばね部材8が引張り状態で嵌装されている。即ち、環状ばね部材8は、コイルスプリングを円環状に形成したものであり、自然状態においては、その環状部の内径が、リップ部71の外周に形成された環状ばね部材8を装着する為の周溝75(後記する)の溝底部の外径より小さく設定されている。更に、リップ部71の基部の肉厚H1がリップ部71の肉厚H2より小さく形成されている。
【0019】
前記制動部材7は、図示のように、前記二股状の制動側取付基部3に固着された制動側支持軸5に外嵌されるが、前記リップ部71の相対摺接部72の内径と制動側支持軸5の外径との大小関係、及び、環状ばね部材8のリップ部71に対する前記嵌装状態によって、相対摺接部72が制動側支持軸5の外周に弾性的に圧接する状態とされる。また、リップ部71の基部の肉厚H1がリップ部71の肉厚H2より小さく形成されていることにより、制動部材7が制動側支持軸5に外嵌された状態では、リップ部71が基部において弾性変形し、前記相対摺接部72の制動側支持軸5の外周に対する弾性的な圧接状態がより安定的になされる。図2では、この弾性的に接する部分に潤滑剤gが施与されている。潤滑剤gとしてグリースや固体潤滑剤等が用いられる。そして、この状態で、制動側取付脚部12が、制動部材7と共に、制動側支持軸5に対してその軸心5L回りに回動可能に支持される。前記リップ部71は、環状基部70より片持ち状に延出され、且つ、制動部材7が制動側支持軸5に外嵌された状態で、リップ部71と空所120の内壁との間に空間が確保されるよう設定されているから、この外嵌の際におけるリップ部71の遠心方向への膨大化、更には、アシストグリップ1の回動時における径方向の変位等を許容することができる。
【0020】
また、前記リップ部71の先端側外周部に、前記周溝75が形成されている。この周溝75には、前記環状ばね部材8が収容され、周方向に引っ張り状態でリップ部71に装着される。この周溝75における前記リップ部71の先端側の溝壁部76は、遠心方向に張出すように形成され、前記環状ばね部材8の外れを防止する抜け止め部とされている。制動部材7の制動側支持軸5に対する支持状態において、制動部材7における前記環状基部70のリップ部71の反対側の端面は、二股状の制動側取付基部3の一方の基部片3aに、後記する制動機能の一部を担うよう弾性的に接している。このような、制動側取付脚部12、該制動側取付脚部12に固定された制動部材7、制動側取付基部3、該制動側取付基部3に固定された制動側支持軸5、及び、制動部材7のリップ部71の外周に嵌装された環状ばね部材8の組付構造によってアシストグリップ1のダンパー装置が構成される。
【0021】
前記ダンパー装置を備えたアシストグリップ1の動作について説明する。当該アシストグリップ1は、図1に示すように、使用しない時には、前記コイルばね6の回転付勢作用によって、グリップ本体部10が上方に押し上げられ、自動車の室内壁部(不図示)に沿った状態に維持されている。自動車の乗員がグリップ本体部10を手で把持し、手前に引き下げるよう操作すると、アシストグリップ1は、前記コイルばね6の付勢弾力に抗し、前記軸心4L,5Lの回りに矢印R方向とは逆方向に回転し、乗員の安定した乗車姿勢に適した位置に維持される。そして、乗員がグリップ本体部10を手離すと、アシストグリップ1には、前記コイルばね6によって矢印R方向に回転付勢力が付与されているから、アシストグリップ1は軸心4L,5Lの回りに矢印R方向に回転して元の待機位置に戻ろうとする。この時、制動側取付脚部12と制動側支持軸5との間に、前記制動部材7が介装されているから、リップ部71の相対摺接部72と、制動側支持軸5との弾性的摺接による制動作用によって、アシストグリップ1の回転動作が緩和され、アシストグリップ1がゆっくりと回転し、室内壁部に強く当接することなく前記待機位置に戻る。従って、グリップ本体部10を手離した時のアシストグリップ1の急激な動きに伴う不愉快な音の発生がなく、乗員が驚かされたり、戸惑いを覚えたりすることがない。また、衝撃によるアシストグリップ1の毀損等が生じる懸念もない。
【0022】
前記制動部材7におけるリップ部71の外周には、環状ばね部材8が引張り状態で嵌装されているから、この求心方向への締め付け力によって、リップ部71の相対摺接部72と制動側支持軸5の表面との弾性的な相対摺接が安定的になされ、制動部材7を構成するエラストマーに経時的な圧縮永久ひずみや磨耗が生じても、この安定した状態を長く保つことができる。特に、環状ばね部材8としてのコイルばねは、その特性として、図6の変位と荷重との関係を示すグラフのように、変位量(伸長量)の変化に比べて荷重の変化が小さい領域rを有している。従って、環状ばね部材8を、この領域rになるような伸張状態でリップ部71の外周に外装するようにすれば、求心方向への締め付け力を受けたリップ部71は、制動側支持軸5との相対摺接部72において極めて安定した制動機能を発揮する。ここでの領域rになるような伸張状態は、環状ばね部材8の自然状態における前記内径と、前記周溝75の溝底部との寸法関係によって設定される。更に、環状ばね部材8を金属製のコイルばねからなるものとすれば、経時的なばね特性の変化が少なく、これによって、より安定した制動機能を得ることができる。
【0023】
本実施形態では、制動部材7の仕様(エラストマー材の材質等)を変更せずとも、環状ばね部材8の前記ばね特性を適宜選択することにより、ダンパー装置として要求される所望の摩擦力を容易に設定することができる。更に付言すれば、制動側支持軸5に対するリップ部71の圧接力は、制動部材7の弾性力の他に、環状ばね部材8の締め付け力に応じて設定される。即ち、制動部材7については、比較的、弾性力が低くなるよう設定しても、その分を補うような環状ばね部材8を用いることで所望の制動トルク(摩擦力)を得ることができる。従って、制動部材7だけで所望の制動トルクを得ようとする場合に比べて、リップ部71が制動側支持軸5との接触面で固着することを抑制することができる。
【0024】
また、図2の例では、前記相対摺接部72に潤滑剤gが施与されているから、アシストグリップ1の前記回転動作の緩和機能の適宜調整がなし得る。加えて、制動部材7の制動側支持軸5との相対摺接部72でのエラストマーの磨耗、更には、制動側支持軸5に対する固着を抑え、前記相対摺接の持続的安定化と、制動部材7の長寿命化も図ることができる。潤滑剤gの施与に代え、前記制動部材7を構成するエラストマー材に、例えばフッ素樹脂等の潤滑性物質を練り込んで自己潤滑性を高める処置を施すようにすれば、組付け時に潤滑剤を施与する作業が不要とされ、且つ、経時的な前記潤滑作用の減退も抑えることができる。この場合、相対摺接部72のみが潤滑性物質を含有するエラストマーから構成されるようにしても良い。
【0025】
前記潤滑剤gが施与される前記相対摺接部72の形状として、図2に示すような断面が波形の凹凸形状とすれば、潤滑剤gの保持性が良く、潤滑剤gによる前記作用の持続性が向上する。この場合、図2に示すように、前記周溝75は、制動部材7の軸方向において、相対摺接部72の凹部と一致する位置に形成されていることが望ましい。図4及び図5は、相対摺接部72の形状の他の例を示している。図4の例では、周方向の凹条72a及び凸条72bの複数が、前記軸心5L方向に沿って繰り返す凹凸形状とされている。また、図5の例では、多数のディンプル72c(一部の図示を簡略化している)とディンプル72cが形成されていない部分とによる凹凸形状とされている。これら凹凸の形成により、相対摺接部72における潤滑剤gの保持性が高められる。このような形状は、制動部材7を成型する為の金型の作製がし易く、好ましく採用されるが、他の凹凸形状(例えば、ディンプル72cに代え多数の小突起の形成)も除外されるものではない。
【0026】
図7は、上記実施形態のダンパー装置の変形例を示している。図7において、制動部材7の前記環状基部70におけるリップ部71とは反対側(基部片3a側)の部分には、更に内向きの鍔状部74がリップ状に形成され、この鍔状部74の先端が制動側支持軸5の外周に接するように形成されている。そして、この鍔状部74も含む環状基部70におけるリップ部71とは反対側の端面が、制動側取付基部3の基部片3aに弾性的に接するように形成されている。これによって、制動部材7による制動機能が助長される。また、潤滑剤gを施与した場合には、この鍔状部74によって外部漏出が防止され、潤滑剤gによる潤滑作用の持続性を高めることができる。その他の構成は、図2に示す例と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0027】
図8は、本発明に係るダンパー装置の他の実施形態を示している。この実施形態においては、制動側支持軸5がアシストグリップ1の制動側取付脚部12に固着され、制動部材7が制動側取付基部3に固定状態で取付けられている。制動側取付脚部12は制動側取付基部3を挟むよう脚片部12a,12bからなる二股状に形成され、前記制動側支持軸5は、一方の脚片部12a及び制動側取付基部3を貫通し、他方の脚片部12bに固着されている。制動側支持軸5は、前記と同様に先端部にセレーション5aを有し、このセレーション5aを制動側取付脚部12の脚片部12bに圧入することにより、制動側取付脚部12に対して固着されている。制動側取付基部3は、前記と同様自動車室内の壁部に不図示の止具等によって固定され、制動側取付脚部12は、制動側取付基部3に対し、制動側支持軸5と共にその軸心5L回りに回動自在に支持される。
【0028】
制動側取付基部3には、前記と同様のエラストマーの成型体からなる制動部材7が、制動側支持軸5と同心状に取付けられている。制動側取付基部3には、図2の例に示す制動側取付脚部12における空所120及び保持凹部121と同様の空所30及び保持凹部31が形成されている。制動部材7は、外形状が保持凹部31と同形状に形成された環状基部70を保持凹部31に圧入することによって、制動側取付基部3に固定された状態で、前記空所30内に収納されている。制動部材7は、前記環状基部70より前記空所30内の奥側(脚片部12b側)に向け延出された環状のリップ部71を片持ち状に有し、その内周部が前記と同様に制動側支持軸5との相対摺接部72とされている。この相対摺接部72の断面形状も図2に示す例と同様であり、その最小内径が制動側支持軸5の外径よりやや小さく設定されている。前記環状基部70におけるリップ部71とは反対側の部分には外向きの鍔状部73が形成され、前記制動側取付基部3と制動部材7との固定状態では、前記保持筒部31の開口周縁部にこの鍔状部73が密着するようになされている。前記リップ部71の最大外径は、前記空所30の内径より小さく、制動部材7が制動側支持軸5に外嵌された状態で、リップ部71と空所30の内壁との間に空間が確保されるように設定されている。また、リップ部71の外周に、該リップ部71を求心方向に締め付ける細径のコイルスプリングからなる環状ばね部材8が前記と同様に嵌装されている。
【0029】
前記制動部材7は、図示のように、制動側取付基部3に固定された制動側支持軸5に外嵌されるが、前記リップ部71の相対摺接部72の内径と制動側支持軸5の外径との大小関係、及び、環状ばね部材8のリップ部71に対する前記嵌装状態によって、相対摺接部72が制動側支持軸5の外周に弾性的に接する状態とされる。図8の例でも、この弾性的に接する部分に前記と同様の潤滑剤gが施与されている。前記リップ部71は、環状基部70より片持ち状に延出され、且つ、制動部材7が制動側支持軸5に外嵌された状態で、リップ部71と空所30の内壁との間に空間が確保されるよう設定されているから、この外嵌の際におけるリップ部71の遠心方向への膨大化、更には、アシストグリップ1の回動時における径方向の変位等を許容することができる。また、この支持状態において、制動部材7における前記基部70におけるリップ部71とは反対側の端面は、二股状の制動側取付脚部12の脚片部12aに制動機能の一部を担うよう弾性的に接している。
【0030】
従って、制動側取付脚部12、該制動側取付脚部12に固定された制動側支持軸5、制動側取付基部3、該制動側取付基部3に固定された制動部材7、及び、制動部材7のリップ部71の外周に嵌装された環状ばね部材8の組付構造によってアシストグリップ1のダンパー装置が構成される。この例におけるダンパー装置は、制動側支持軸5及び制動部材7の固定対象が前記実施形態と異なるが、制動側支持軸5及び制動部材7の弾性的相対摺接関係は同様であり、その奏する作用効果も同様であるので、ここではその説明を割愛する。この例において、制動部材7の構造を、図4、図5及び図7の例と同様にすることはもとより可能である。
【0031】
尚、前記の実施形態では、自動車のアシストグリップに適用した例について述べたが、これに限らず、例えば、コンソールボックス、自動車に装備された灰皿、家電製品、家庭用ダストボックス等の各種蓋等のように、軸心回りの一方向に回転付勢力が付与された回動部材であれば、本発明のダンパー装置を適用することにより同様の作用効果を得ることができる。また、アシストグリップ1の構造、取付基部2,3の構造、制動部材7の構造及びその固定構造等も、実施形態に限定されるものではない。更に、リップ部71における相対摺接部72の形状は、例示のものに限定されず、例えば、周方向に不連続な形状、即ち、全周が制動側支持軸5に摺接するものに限らず、一部が摺接するものであっても良い。加えて、制動側支持軸5の断面形状も、円形に限らず他の形状とすることも可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 アシストグリップ(回動部材)
2 取付基部(付勢側)
3 取付基部(制動側)
4 支持軸(付勢側)
5 支持軸(制動側)
6 コイルスプリング(付勢手段)
7 制動部材
72 相対摺接部
72a,72b 凹条、凸条(凹凸)
72c ディンプル(凹凸)
8 環状ばね部材
g 潤滑剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付基部に対し、支持軸を介し、該支持軸の軸心回りに回動可能に支持されると共に、付勢手段によって前記軸心回りの一方向に回転付勢力が付与された回動部材において、前記回転付勢力による回転動作を緩和する為、前記取付基部と回動部材との間に介装されるダンパー装置であって、
前記支持軸に対してその軸心回りに相対摺接が可能な状態で外嵌されたエラストマーからなる制動部材と、該制動部材の外周に外装され、該制動部材を締め付ける環状ばね部材とを含むことを特徴とする回動部材のダンパー装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回動部材のダンパー装置において、
前記支持軸が前記取付基部に固着され、前記制動部材が前記回動部材に固定されていることを特徴とする回動部材のダンパー装置。
【請求項3】
請求項1に記載の回動部材のダンパー装置において、
前記支持軸が前記回動部材に固着され、前記制動部材が前記取付基部に固定されていることを特徴とする回動部材のダンパー装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の回動部材のダンパー装置において、
前記制動部材の前記支持軸との相対摺接部には、潤滑剤が施与されていることを特徴とする回動部材のダンパー装置。
【請求項5】
請求項4に記載の回動部材のダンパー装置において、
前記制動部材の前記支持軸に対する前記相対摺接部には、前記潤滑剤を保持する凹凸が形成されていることを特徴とする回動部材のダンパー装置。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の回動部材のダンパー装置において、
少なくとも前記制動部材の前記支持軸に対する相対摺接部は、潤滑性物質を含有するエラストマーからなることを特徴とする回動部材のダンパー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−81868(P2012−81868A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229772(P2010−229772)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】