回折構造表示体
【課題】通常の観察状態で見る方向により白黒反転表示ができ、かつ、レーザー光を照射することで真贋判定情報を再生することができ、より高い偽造防止効果が達成可能な回折構造表示体を提供する。
【解決手段】画像面11上の中心Oを通る特定方向の中心から一方の方向の外れた位置に第1の画像12が配置されてなる原画像のフーリエ変換像13の位相情報を位相データを4値以上の多値化をして深さとして記録したホログラム14からなる第1のパターン領域と、画像面21上の中心Oを通る特定方向の中心から他方の方向の外れた位置に第2の画像22が配置されてなる原画像のフーリエ変換像23の位相情報を位相データを4値以上の多値化をして深さとして記録したホログラム24からなる第2のパターン領域とが並列されて配置されてなる。
【解決手段】画像面11上の中心Oを通る特定方向の中心から一方の方向の外れた位置に第1の画像12が配置されてなる原画像のフーリエ変換像13の位相情報を位相データを4値以上の多値化をして深さとして記録したホログラム14からなる第1のパターン領域と、画像面21上の中心Oを通る特定方向の中心から他方の方向の外れた位置に第2の画像22が配置されてなる原画像のフーリエ変換像23の位相情報を位相データを4値以上の多値化をして深さとして記録したホログラム24からなる第2のパターン領域とが並列されて配置されてなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折構造表示体に関し、特に、通常の観察状態で見る方向により白黒表示パターンが反転可能で、かつ、レーザー光を照射すると真贋判定情報が再生される回折構造表示体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
預貯金用カード、クレジットカード等のカード類には、それらの真正性を保証する意味で、回折格子やホログラムが適用されていることが多い。また、模造品が出回りやすい高額商品若しくはそのケース等にも、やはりそれらの真正性を保証する意味で回折格子やホログラムが適用されていることが多い。
【0003】
回折格子やホログラムが上記の例以外の種々の分野の物品にも適用されているのは、ホログラム等が製造若しくは複製の困難性を有しているからであり、また、外観的には干渉色を有していて目をひきやすく、意匠的にも優れており、さらに場合によっては、剥がそうとすると破壊して、他に転用できない構造とすることが可能である等のメリットを有しているからである。
【0004】
このようなホログラムとして、原画像のフーリエ変換像の位相情報を多値化して深さとして記録したホログラム(CGH)を用いるものが特許文献1にて提案されている。このフーリエ変換像の位相情報を多値化して深さとして記録したホログラム(CGH)は、レーザー光を当てると、原画像がスクリーン面上等に投影再生される。このホログラム(CGH)は、図10に示すように、次の(1)〜(7)の各ステップを順次行うことで得られる。
(1)まず、原画像を形成する。原画像は任意に決定された画像でよく、文字、数字、図形若しくは記号、絵画、アニメーション、又は、写真等の何れでもよい。
(2)次に、原画像からコンピュータを用いて原画像をフーリエ変換処理することにより、原画像のフーリエ変換像を作成する。
(3)振幅=1とする。
(4)フーリエ逆変換を行う。
(5)振幅を元の振幅とする(位相はそのままとする。)。
この後、(2)に戻り、「フーリエ変換→フーリエ逆変換」を繰返した後、所定の条件を満たすフーリエ変換像が得られたと判断された時点で停止する。
(6)停止後、位相データを抽出する。
(7)位相データの多値化を行って、所定の段数の深さ情報とする。
【0005】
原画像に基づく位相データの多値化は、例えば、2値化、4値化、8値化、若しくは、16値化等であり得る。
【0006】
一方、方向の揃った複数の直線状の凸部又は凹部からなり、その方向が互いに異なる複数の光散乱能異方性を持つ領域からなるものが特許文献2にて提案されている。図11に示すように、数字“9”の文字領域20aとその数字“9”を囲む領域20bとでは、平行に並ぶ多数の直線状の凸部又は凹部の方向が相互に直交しており、各領域の凸部又は凹部の方向に直交する方向から見ると、その領域は周囲光の散乱のため相対的に白色に見え、その凸部又は凹部の方向から見るとその方向には周囲光が散乱されないため相対的に黒色に見える。したがって、図11の場合、右上乃至左下方向から見ると、文字領域20aが白色に、囲む領域20bが黒色に見える。それと直交する左上乃至右下方向から見ると、白黒が反転して、文字領域20aが黒色に、囲む領域20bが白色に見える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−122233号公報
【特許文献2】特開2008−107472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のホログラム(CGH)も、特許文献2の光散乱能異方性を持つ媒体も偽造防止用の記録体あるいは表示体として用いられるものであったが、特許文献1の場合はその記録体に意匠性、装飾性あるいは視覚効果の点から必ずしも十分なものではなかった。他方、特許文献2の表示体の場合、隠し情報として真贋判定情報を記録しておくことはできない。
【0009】
本発明は従来技術のこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、通常の観察状態で見る方向により白黒反転表示ができ、かつ、レーザー光を照射することで真贋判定情報を再生することができ、より高い偽造防止効果が達成可能な回折構造表示体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の回折構造表示体は、画像面上の中心を通る特定方向の中心から一方の方向の外れた位置に第1の画像が配置されてなる原画像のフーリエ変換像の位相情報を位相データを4値以上の多値化をして深さとして記録したホログラムからなる第1のパターン領域と、画像面上の中心を通る特定方向の中心から他方の方向の外れた位置に第2の画像が配置されてなる原画像のフーリエ変換像の位相情報を位相データを4値以上の多値化をして深さとして記録したホログラムからなる第2のパターン領域とが並列されて配置されてなることを特徴とするものである。
【0011】
この場合、前記第1の画像及び前記第2の画像が、画像面の中心を通る特定方向を挟んで±45°の範囲であって、その中心からその特定方向の画像面の最大値の2分の1の範囲内に配置されて、前記第1のパターン領域のホログラムと前記第2のパターン領域のホログラムが記録されているいることが望ましい。
【0012】
また、前記第1のパターン領域と前記第2のパターン領域とが並列してなる表示体部分の周囲に密にあるいは離して別の回折格子からなる表示領域、別のレリーフホログラムからなる表示領域の少なくとも一方が配置されているようにすることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、通常の観察状態で見る方向により白黒反転表示ができ、かつ、レーザー光を照射することで真贋判定情報を再生することができ、意匠性、装飾性、視覚効果を備えながら、高い偽造防止効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】原画像として点光源を用いる場合のフーリエ変換像の位相情報を多値化して深さとして記録するホログラムを説明するための図である。
【図2】本発明の回折構造表示体に用いるホログラムの1つの実例を示す図である。
【図3】本発明の回折構造表示体に用いるホログラムの他の実例を示す図である。
【図4】本発明による回折構造表示体を作製順に従って説明するための図である。
【図5】本発明による回折構造表示体の1つの実施例の配置を示すための図である。
【図6】図5の回折構造表示体の白黒反転観察が可能なことを説明するための図である。
【図7】本発明による回折構造表示体の真正性を確認するための配置を示す図である。
【図8】原画像面上において画像が配置可能な領域を示す図である。
【図9】本発明による回折構造表示体に別の回折格子や別のレリーフホログラムからなる表示領域を配置して構成したカードを示す図である。
【図10】公知の原画像のフーリエ変換像の位相情報を多値化して深さとして記録したホログラムの作製手順を示す図である。
【図11】公知の複数の光散乱能異方性を持つ領域からなり、白黒が反転して見える表示体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の回折構造表示体の実施例の説明をその原理の説明に基づいて行う。
【0016】
図1は、原画像として点光源を用いる場合のフーリエ変換像の位相情報を多値化して深さとして記録するホログラム(CGH)を説明するための図であり、正レンズのフーリエ変換作用を用いて説明する。
【0017】
焦点距離fの正レンズLの前側焦点Fを通り光軸に直交する平面を原画像面とし、正レンズLの後側焦点を通り光軸に直交する平面をホログラム面Hとする。正レンズLの光軸を水平方向にとり、原画像面上の光軸に直交する水平方向にx軸、垂直方向にy軸、ホログラム面H上の光軸に直交する水平方向にp軸、垂直方向にq軸をとる。原画像面上のy軸上の光軸(原点)から負方向に離れた位置に点光源Pが位置しているとき、すなわち、原画像として、原画像面の中心から垂直方向に外れた位置に点光源Pが位置している画像のフーリエ変換像を考える。点光源Pから出た球面波は正レンズLで平面波に変換され、点光源Pと正レンズLの中心を通る直線方向に進む平面波となってホログラム面Hに入射する。図1(a)は平面図、図1(b)は側面図であり、正レンズLで平面波に変換された光束の等位相面Sは、平面図でみたとき、ホログラム面Hに平行になってホログラム面に入射し、側面図でみたとき、ホログラム面Hに対して角度をなして入射する。そのため、ホログラム面Hに記録されるこの点光源Pのフーリエ変換像の等位相位置(等位相面Sとホログラム面Hの交差点(線))は、水平方向(p方向)に延びる平行線となる。等位相位置として、例えば位相π及びその奇数倍の位置を最も深い位置とし、2π及びその整数倍の位置を最も高い位置としとする場合、最も高い位置の分布はホログラム面H上で水平方向(p方向)に延びる等間隔の平行線(干渉縞)となる。点光源Pがy軸上の原点から正方向にずれている場合も同様である。
【0018】
この検討から分かることは、原画像面上の中心から所定方向(上記の例ではy軸方向)に点光源Pがずれて位置していると、そのフーリエ変換像の等位相線(干渉縞)はそのずれ方向と直交する方向(上記の例ではp軸方向)に延びる直線となることである。
【0019】
原画像は通常点光源Pではないが、点光源Pの集合と考えることができるので、原画像面上の中心から所定方向を挟んで両側に原画像面上の中心からずれて配置された原画像のフーリエ変換像は、その所定方向と直交する方向に平行な等位相線とその所定方向と直交する方向に小さな角度をなして延びる等位相線とを多数重畳したものとなる。
【0020】
図2は1つの実例を示す図であり、(a)は原画像、(b)はフーリエ変換像を示す図であり、原画像は原画像面の中心から垂直上方向(+y方向)の外れた位置に文字“D”が位置しているもので、その原画像のフーリエ変換像は、等位相線(干渉縞)Bが水平方向(p方向)に略向くように分布しているものであることが分かる。
【0021】
このように、画像面の中心から所定方向の外れた位置に原画像が位置している原画像のフーリエ変換像は、等位相線(干渉縞)Bがその所定と直交する方向(特定方向)あるいはその直交する方向に対して小さな角度をなして延びるものとなる。
【0022】
このような位相像の記録媒体(ホログラム(CGH))は、その特定方向に並列して延びる曲線状の多数の凸部又は凹部Bからなるものであり、図2(b)の実施例で言えば、ホログラム(CGH)の前面から入射した光をその曲線状の凸部又は凹部Bに直交する方向、すなわち、±q方向に散乱する光散乱能異方性を持つものとなる(特許文献2)。
【0023】
ただし、後で説明するように、ホログラム(CGH)に位相を記録する際に位相データの多値化を2値化ではなく、それ以上の4値化、8値化、16値化等を行うと、記録される等位相線(干渉縞)Bはブレーズド化され、図2の実施例の場合で言えば、原画像“D”の偏り方向である+q方向に大部分の周囲光が散乱する特性になる。
【0024】
図3は他の実例を示す図であり、(a)は原画像、(b)はフーリエ変換像を示す図であり、原画像は原画像面の中心から垂直下方向(−y方向)の外れた位置に文字“GENUINE”が位置しているもので、その原画像のフーリエ変換像は、図2の場合と同様に、等位相線(干渉縞)Bが水平方向(p方向)に略向くように分布しているものであることが分かる。
【0025】
このように、画像面の中心から所定方向の外れた位置に原画像が位置している原画像のフーリエ変換像は、等位相線(干渉縞)Bがその所定と直交する方向(特定方向)あるいはその直交する方向に対して小さな角度をなして延びるものとなる。
【0026】
このような位相像の記録媒体(ホログラム(CGH))は、その特定方向に並列して延びる曲線状の多数の凸部又は凹部Bからなるものであり、図2の実施例で言えば、ホログラム(CGH)の前面から入射した光をその曲線状の凸部又は凹部Bに直交する方向、すなわち、±q方向に散乱する光散乱能異方性を持つものとなる(特許文献2)。図3の実施例の場合も同様である。
【0027】
ただし、後で説明するように、ホログラム(CGH)に位相を記録する際に位相データの多値化を2値化ではなく、それ以上の4値化、8値化、16値化等を行うと、記録される等位相線(干渉縞)Bはブレーズド化され、図2の実施例の場合で言えば、原画像“D”の偏り方向である+q方向に大部分の周囲光が散乱する特性になり、図3の実施例の場合で言えば、原画像“GENUINE”の偏り方向である−q方向に大部分の周囲光が散乱する特性になる。
【0028】
本発明は、このような画像面の中心から所定方向の外れた位置に原画像が位置している原画像のフーリエ変換像の位相情報を位相データを4値以上の多値化をして干渉縞をブレーズド化して記録したホログラム(CGH)を2つ用いるものものである。
【0029】
以下、本発明による回折構造表示体をその作製順に従って説明する。図4(a)/(1)、(b)/(1)に示すように、それぞれ図2(a)、図3(a)に示すような原画像を用意する。すなわり、図4(a)/(1)の原画像12は、原画像面11の中心Oから垂直上方向(+y方向)の外れた位置に文字“D”が位置しているものであり、図4(b)/(1)の原画像22は、原画像面21の中心Oから垂直下方向(−y方向)の外れた位置に上下反転した文字“GENUINE”が位置しているものである。
【0030】
それぞれの原画像面11、21を特許文献1の(1)〜(6)と同様にしてフーリエ変換したフーリエ変換像13、23は、それぞれ図4(a)/(2)、(b)/(2)に示
すようにな位相データを持つもので、曲線は等位相線を模型的に示しているが、原画像12、22に対してそれぞれ図2(b)、図3(b)のような等位相線Bが分布したものである。そして、それぞれのフーリエ変換像13、23を、特許文献1の(7)のように行うことで、それぞれ図4(a)/(3)、(b)/(3)に示すようにな位相データを4値以上の多値化したホログラム(CGH)14、24が得られる。
【0031】
図4(a)/(4)、(b)/(4)はぞれぞれホログラム(CGH)14、24のq軸に平行な直線A−A’に沿って取った断面図を模式的に示す図であり、ホログラム(CGH)14、24の位相分布を示す等位相線Bの断面形状は、各々の凸部の断面鋸歯状をしており、このホログラム(CGH)14、24を透過型で使用する場合も、レリーフ面等に反射コーテングを施して反射型で使用する場合も、断面鋸歯状面の斜面が屈折面あるいは反射面として作用し、回折格子のブレーズド面と同様に回折光あるいは散乱光を特定方向に集中させる作用を持つようになり、図4(a)/(3)、(4)のホログラム(CGH)14は、前面から入射した光を原画像12側である+q方向に偏って散乱する。他方、図4(b)/(3)、(4)のホログラム(CGH)24は、前面から入射した光を原画像22側である−q方向に偏って散乱するものとなる。
【0032】
そこで、本発明においては、例えば図5に示すように、表示体の並列する2つの領域、図5の文字“A”の内側と外側に、この実施例に場合は、文字“A”の内側領域31に図4(a)/(3)の位相データを4値以上の多値化したホログラム(CGH)14を配置し、文字“A”の外側領域32に図4(b)/(3)の位相データを4値以上の多値化したホログラム(CGH)24を配置して表示体1を構成する。
【0033】
このような表示体1は、図5の斜め下方から表示体1を観察すると、文字“A”の内側領域31のホログラム(CGH)14は、表示体1の前側から入射した周囲光を主として斜め上方に散乱するため、斜め下方の観察者の眼には達しないで相対的に暗く見え、文字“A”の外側領域32のホログラム(CGH)24は、表示体1の前側から入射した周囲光を主として斜め下方に散乱するため、斜め下方の観察者の眼に達して相対的に明るく見える。そのため、表示体1は斜め下方から観察すると、図6(a)に示すように文字“A”が相対的に白色の背景に黒い文字として観察できる。
【0034】
今度は、表示体1を180°回転させて上下を逆にして見ると、文字“A”の内側領域31のホログラム(CGH)14は、表示体1の前側から入射した周囲光を主として斜め下方に散乱するため、斜め下方の観察者の眼に達して相対的に明るく見え、文字“A”の外側領域32のホログラム(CGH)24は、表示体1の前側から入射した周囲光を主として斜め上方に散乱するため、斜め下方の観察者の眼には達しないで相対的に暗く見える。そのため、表示体1は斜め下方から観察すると(あるいは、図5の斜め上方から観察すると)、図6(b)に示すように文字“A”(上下反転した“A”)が相対的に黒色の背景に白い文字として観察できる。
【0035】
したがって、本発明の表示体1は観察者が裸眼で観察するとき、表示体1を通常の状態で観察するときと、表示体1を180°回転させて上下を逆にして観察するときとでは、2つのホログラム(CGH)14、24の相対配置で決まるパターンの白黒が反転して見えるものとなり、意匠性、装飾性、視覚効果の高いものとなる。
【0036】
そして、このような表示体1を用いたカード10を例に、真正性証明の方法を説明すると、図7に示すように、本発明による真正性証明用の回折構造表示体1にレーザー光源41を用いて、所定の波長のコヒーレント光であるレーザー光42を真上から照射する。レーザー光42のビーム径は、回折構造表示体1の領域31、32よりも小さくてもよいが、両領域31、32にかかる大きさの方が好ましい。この照射により、領域31のホログ
ラム(CGH)14、領域32のホログラム(CGH)24に予め多値化された深さ情報情報として記録されている原画像“D”及び“GENUINE”が回折光44a、44bによって再生される。再生された像を予め準備された基準像と比較し、同一であるか、若しくは、異なるかの判定を行うことにより、真正性の確認を行うことができる。
【0037】
したがって、表示体1からある程度離れたある面43を想定すると、例えば、向かって右の43aの区域でホログラム(CGH)14の記録像“D”を、向かって左の43bの区域でホログラム(CGH)24の記録像“GENUINE”を観察することができるので、面43を箱の上板とし、レーザー光源41及び真正性証明用の回折構造表示体1の固定台(図示せず)等を備えた器具を準備し、箱の上板の43a及び43bの各区域に透過型スクリーンを設けておく等しておけば、この器具を用いて、再生された像を判定することが可能であり、真正性証明用の回折構造表示体1の真正性を確認することが、簡便にできる。
【0038】
ところで、図2、図3の説明では、画像面の中心からy軸の+y方向あるいは−y方向の外れた位置にホログラム(CGH)14、24として記録する画像(文字)“D”、“GENUINE”を配置するとしたが、y軸に直交する方向にその画像がどの程度広がっていてもよいか説明しなかった。y軸に直交する方向への広がり方が少ない程、等位相線(干渉縞)Bの向きがy軸に直交する方向に向くことになり、その等位相線(干渉縞)Bでの散乱方向も狭くなるため、ホログラム(CGH)14の領域31とホログラム(CGH)24の領域32の白黒反転が顕著に観察できるようになり、望ましい。
【0039】
図8に、実際上に原画像面11、21の中心Oから+y方向に外れる場合の画像を配置可能な領域をハッチ領域として示す。原画像面11、12の中心Oからy軸を挟んで±45°の範囲にフーリエ変換像として記録する画像を配置すれば、白黒反転が容易に観察できるようになる。また、中心Oから+y方向の原画像面11、12の最大値の2分の1の範囲内に配置するのが望ましい。その中心Oから+y方向の最大値の2分の1を超えると、ホログラム(CGH)14、24から再生される像(図7の“D”及び“GENUINE”)が歪んでしまい、好ましくない。
【0040】
ところで、本発明による回折構造表示体には、以上のような画像面上の中心を通る特定方向の中心から一方の方向の外れた位置に画像が配置されてなる原画像のフーリエ変換像の位相情報を位相データを4値以上の多値化をして深さとして記録したホログラムと、画像面上の中心を通る特定方向の中心から他方の方向の外れた位置に画像が配置されてなる原画像のフーリエ変換像の位相情報を位相データを4値以上の多値化をして深さとして記録したホログラムとを並列して構成した表示体1だけでなく、図9に示すように、別の回折格子からなる表示領域3や別のレリーフホログラムからなる表示領域2を表示体1の周囲に密にあるいは離して配置することで、複雑で意匠効果のより高い表示体を持つカード10を構成するようにしてもよい。
【0041】
以上、本発明の回折構造表示体の原理と実施例を説明してきたが、本発明はこれら実施例に限定されず種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によると、通常の観察状態で見る方向により白黒反転表示ができ、かつ、レーザー光を照射することで真贋判定情報を再生することができ、意匠性、装飾性、視覚効果を備えながら、高い偽造防止効果を達成することができる。
【符号の説明】
【0043】
f…焦点距離
L…正レンズ
F…前側焦点
H…ホログラム面
P…点光源
S…等位相面
B…等位相線(干渉縞、凸部又は凹部)
O…原画像面の中心
1…表示体
10…カード
11、21…原画像面
12、22…原画像
13、23…フーリエ変換像
14、24…ホログラム(CGH)
20a…文字領域
20b…文字領域を囲む領域
31…内側領域
32…外側領域
41…レーザー光源
42…レーザー光
43…面
43a…右の区域
43b…左の区域
44a、44b…回折光
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折構造表示体に関し、特に、通常の観察状態で見る方向により白黒表示パターンが反転可能で、かつ、レーザー光を照射すると真贋判定情報が再生される回折構造表示体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
預貯金用カード、クレジットカード等のカード類には、それらの真正性を保証する意味で、回折格子やホログラムが適用されていることが多い。また、模造品が出回りやすい高額商品若しくはそのケース等にも、やはりそれらの真正性を保証する意味で回折格子やホログラムが適用されていることが多い。
【0003】
回折格子やホログラムが上記の例以外の種々の分野の物品にも適用されているのは、ホログラム等が製造若しくは複製の困難性を有しているからであり、また、外観的には干渉色を有していて目をひきやすく、意匠的にも優れており、さらに場合によっては、剥がそうとすると破壊して、他に転用できない構造とすることが可能である等のメリットを有しているからである。
【0004】
このようなホログラムとして、原画像のフーリエ変換像の位相情報を多値化して深さとして記録したホログラム(CGH)を用いるものが特許文献1にて提案されている。このフーリエ変換像の位相情報を多値化して深さとして記録したホログラム(CGH)は、レーザー光を当てると、原画像がスクリーン面上等に投影再生される。このホログラム(CGH)は、図10に示すように、次の(1)〜(7)の各ステップを順次行うことで得られる。
(1)まず、原画像を形成する。原画像は任意に決定された画像でよく、文字、数字、図形若しくは記号、絵画、アニメーション、又は、写真等の何れでもよい。
(2)次に、原画像からコンピュータを用いて原画像をフーリエ変換処理することにより、原画像のフーリエ変換像を作成する。
(3)振幅=1とする。
(4)フーリエ逆変換を行う。
(5)振幅を元の振幅とする(位相はそのままとする。)。
この後、(2)に戻り、「フーリエ変換→フーリエ逆変換」を繰返した後、所定の条件を満たすフーリエ変換像が得られたと判断された時点で停止する。
(6)停止後、位相データを抽出する。
(7)位相データの多値化を行って、所定の段数の深さ情報とする。
【0005】
原画像に基づく位相データの多値化は、例えば、2値化、4値化、8値化、若しくは、16値化等であり得る。
【0006】
一方、方向の揃った複数の直線状の凸部又は凹部からなり、その方向が互いに異なる複数の光散乱能異方性を持つ領域からなるものが特許文献2にて提案されている。図11に示すように、数字“9”の文字領域20aとその数字“9”を囲む領域20bとでは、平行に並ぶ多数の直線状の凸部又は凹部の方向が相互に直交しており、各領域の凸部又は凹部の方向に直交する方向から見ると、その領域は周囲光の散乱のため相対的に白色に見え、その凸部又は凹部の方向から見るとその方向には周囲光が散乱されないため相対的に黒色に見える。したがって、図11の場合、右上乃至左下方向から見ると、文字領域20aが白色に、囲む領域20bが黒色に見える。それと直交する左上乃至右下方向から見ると、白黒が反転して、文字領域20aが黒色に、囲む領域20bが白色に見える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−122233号公報
【特許文献2】特開2008−107472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のホログラム(CGH)も、特許文献2の光散乱能異方性を持つ媒体も偽造防止用の記録体あるいは表示体として用いられるものであったが、特許文献1の場合はその記録体に意匠性、装飾性あるいは視覚効果の点から必ずしも十分なものではなかった。他方、特許文献2の表示体の場合、隠し情報として真贋判定情報を記録しておくことはできない。
【0009】
本発明は従来技術のこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、通常の観察状態で見る方向により白黒反転表示ができ、かつ、レーザー光を照射することで真贋判定情報を再生することができ、より高い偽造防止効果が達成可能な回折構造表示体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の回折構造表示体は、画像面上の中心を通る特定方向の中心から一方の方向の外れた位置に第1の画像が配置されてなる原画像のフーリエ変換像の位相情報を位相データを4値以上の多値化をして深さとして記録したホログラムからなる第1のパターン領域と、画像面上の中心を通る特定方向の中心から他方の方向の外れた位置に第2の画像が配置されてなる原画像のフーリエ変換像の位相情報を位相データを4値以上の多値化をして深さとして記録したホログラムからなる第2のパターン領域とが並列されて配置されてなることを特徴とするものである。
【0011】
この場合、前記第1の画像及び前記第2の画像が、画像面の中心を通る特定方向を挟んで±45°の範囲であって、その中心からその特定方向の画像面の最大値の2分の1の範囲内に配置されて、前記第1のパターン領域のホログラムと前記第2のパターン領域のホログラムが記録されているいることが望ましい。
【0012】
また、前記第1のパターン領域と前記第2のパターン領域とが並列してなる表示体部分の周囲に密にあるいは離して別の回折格子からなる表示領域、別のレリーフホログラムからなる表示領域の少なくとも一方が配置されているようにすることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、通常の観察状態で見る方向により白黒反転表示ができ、かつ、レーザー光を照射することで真贋判定情報を再生することができ、意匠性、装飾性、視覚効果を備えながら、高い偽造防止効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】原画像として点光源を用いる場合のフーリエ変換像の位相情報を多値化して深さとして記録するホログラムを説明するための図である。
【図2】本発明の回折構造表示体に用いるホログラムの1つの実例を示す図である。
【図3】本発明の回折構造表示体に用いるホログラムの他の実例を示す図である。
【図4】本発明による回折構造表示体を作製順に従って説明するための図である。
【図5】本発明による回折構造表示体の1つの実施例の配置を示すための図である。
【図6】図5の回折構造表示体の白黒反転観察が可能なことを説明するための図である。
【図7】本発明による回折構造表示体の真正性を確認するための配置を示す図である。
【図8】原画像面上において画像が配置可能な領域を示す図である。
【図9】本発明による回折構造表示体に別の回折格子や別のレリーフホログラムからなる表示領域を配置して構成したカードを示す図である。
【図10】公知の原画像のフーリエ変換像の位相情報を多値化して深さとして記録したホログラムの作製手順を示す図である。
【図11】公知の複数の光散乱能異方性を持つ領域からなり、白黒が反転して見える表示体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の回折構造表示体の実施例の説明をその原理の説明に基づいて行う。
【0016】
図1は、原画像として点光源を用いる場合のフーリエ変換像の位相情報を多値化して深さとして記録するホログラム(CGH)を説明するための図であり、正レンズのフーリエ変換作用を用いて説明する。
【0017】
焦点距離fの正レンズLの前側焦点Fを通り光軸に直交する平面を原画像面とし、正レンズLの後側焦点を通り光軸に直交する平面をホログラム面Hとする。正レンズLの光軸を水平方向にとり、原画像面上の光軸に直交する水平方向にx軸、垂直方向にy軸、ホログラム面H上の光軸に直交する水平方向にp軸、垂直方向にq軸をとる。原画像面上のy軸上の光軸(原点)から負方向に離れた位置に点光源Pが位置しているとき、すなわち、原画像として、原画像面の中心から垂直方向に外れた位置に点光源Pが位置している画像のフーリエ変換像を考える。点光源Pから出た球面波は正レンズLで平面波に変換され、点光源Pと正レンズLの中心を通る直線方向に進む平面波となってホログラム面Hに入射する。図1(a)は平面図、図1(b)は側面図であり、正レンズLで平面波に変換された光束の等位相面Sは、平面図でみたとき、ホログラム面Hに平行になってホログラム面に入射し、側面図でみたとき、ホログラム面Hに対して角度をなして入射する。そのため、ホログラム面Hに記録されるこの点光源Pのフーリエ変換像の等位相位置(等位相面Sとホログラム面Hの交差点(線))は、水平方向(p方向)に延びる平行線となる。等位相位置として、例えば位相π及びその奇数倍の位置を最も深い位置とし、2π及びその整数倍の位置を最も高い位置としとする場合、最も高い位置の分布はホログラム面H上で水平方向(p方向)に延びる等間隔の平行線(干渉縞)となる。点光源Pがy軸上の原点から正方向にずれている場合も同様である。
【0018】
この検討から分かることは、原画像面上の中心から所定方向(上記の例ではy軸方向)に点光源Pがずれて位置していると、そのフーリエ変換像の等位相線(干渉縞)はそのずれ方向と直交する方向(上記の例ではp軸方向)に延びる直線となることである。
【0019】
原画像は通常点光源Pではないが、点光源Pの集合と考えることができるので、原画像面上の中心から所定方向を挟んで両側に原画像面上の中心からずれて配置された原画像のフーリエ変換像は、その所定方向と直交する方向に平行な等位相線とその所定方向と直交する方向に小さな角度をなして延びる等位相線とを多数重畳したものとなる。
【0020】
図2は1つの実例を示す図であり、(a)は原画像、(b)はフーリエ変換像を示す図であり、原画像は原画像面の中心から垂直上方向(+y方向)の外れた位置に文字“D”が位置しているもので、その原画像のフーリエ変換像は、等位相線(干渉縞)Bが水平方向(p方向)に略向くように分布しているものであることが分かる。
【0021】
このように、画像面の中心から所定方向の外れた位置に原画像が位置している原画像のフーリエ変換像は、等位相線(干渉縞)Bがその所定と直交する方向(特定方向)あるいはその直交する方向に対して小さな角度をなして延びるものとなる。
【0022】
このような位相像の記録媒体(ホログラム(CGH))は、その特定方向に並列して延びる曲線状の多数の凸部又は凹部Bからなるものであり、図2(b)の実施例で言えば、ホログラム(CGH)の前面から入射した光をその曲線状の凸部又は凹部Bに直交する方向、すなわち、±q方向に散乱する光散乱能異方性を持つものとなる(特許文献2)。
【0023】
ただし、後で説明するように、ホログラム(CGH)に位相を記録する際に位相データの多値化を2値化ではなく、それ以上の4値化、8値化、16値化等を行うと、記録される等位相線(干渉縞)Bはブレーズド化され、図2の実施例の場合で言えば、原画像“D”の偏り方向である+q方向に大部分の周囲光が散乱する特性になる。
【0024】
図3は他の実例を示す図であり、(a)は原画像、(b)はフーリエ変換像を示す図であり、原画像は原画像面の中心から垂直下方向(−y方向)の外れた位置に文字“GENUINE”が位置しているもので、その原画像のフーリエ変換像は、図2の場合と同様に、等位相線(干渉縞)Bが水平方向(p方向)に略向くように分布しているものであることが分かる。
【0025】
このように、画像面の中心から所定方向の外れた位置に原画像が位置している原画像のフーリエ変換像は、等位相線(干渉縞)Bがその所定と直交する方向(特定方向)あるいはその直交する方向に対して小さな角度をなして延びるものとなる。
【0026】
このような位相像の記録媒体(ホログラム(CGH))は、その特定方向に並列して延びる曲線状の多数の凸部又は凹部Bからなるものであり、図2の実施例で言えば、ホログラム(CGH)の前面から入射した光をその曲線状の凸部又は凹部Bに直交する方向、すなわち、±q方向に散乱する光散乱能異方性を持つものとなる(特許文献2)。図3の実施例の場合も同様である。
【0027】
ただし、後で説明するように、ホログラム(CGH)に位相を記録する際に位相データの多値化を2値化ではなく、それ以上の4値化、8値化、16値化等を行うと、記録される等位相線(干渉縞)Bはブレーズド化され、図2の実施例の場合で言えば、原画像“D”の偏り方向である+q方向に大部分の周囲光が散乱する特性になり、図3の実施例の場合で言えば、原画像“GENUINE”の偏り方向である−q方向に大部分の周囲光が散乱する特性になる。
【0028】
本発明は、このような画像面の中心から所定方向の外れた位置に原画像が位置している原画像のフーリエ変換像の位相情報を位相データを4値以上の多値化をして干渉縞をブレーズド化して記録したホログラム(CGH)を2つ用いるものものである。
【0029】
以下、本発明による回折構造表示体をその作製順に従って説明する。図4(a)/(1)、(b)/(1)に示すように、それぞれ図2(a)、図3(a)に示すような原画像を用意する。すなわり、図4(a)/(1)の原画像12は、原画像面11の中心Oから垂直上方向(+y方向)の外れた位置に文字“D”が位置しているものであり、図4(b)/(1)の原画像22は、原画像面21の中心Oから垂直下方向(−y方向)の外れた位置に上下反転した文字“GENUINE”が位置しているものである。
【0030】
それぞれの原画像面11、21を特許文献1の(1)〜(6)と同様にしてフーリエ変換したフーリエ変換像13、23は、それぞれ図4(a)/(2)、(b)/(2)に示
すようにな位相データを持つもので、曲線は等位相線を模型的に示しているが、原画像12、22に対してそれぞれ図2(b)、図3(b)のような等位相線Bが分布したものである。そして、それぞれのフーリエ変換像13、23を、特許文献1の(7)のように行うことで、それぞれ図4(a)/(3)、(b)/(3)に示すようにな位相データを4値以上の多値化したホログラム(CGH)14、24が得られる。
【0031】
図4(a)/(4)、(b)/(4)はぞれぞれホログラム(CGH)14、24のq軸に平行な直線A−A’に沿って取った断面図を模式的に示す図であり、ホログラム(CGH)14、24の位相分布を示す等位相線Bの断面形状は、各々の凸部の断面鋸歯状をしており、このホログラム(CGH)14、24を透過型で使用する場合も、レリーフ面等に反射コーテングを施して反射型で使用する場合も、断面鋸歯状面の斜面が屈折面あるいは反射面として作用し、回折格子のブレーズド面と同様に回折光あるいは散乱光を特定方向に集中させる作用を持つようになり、図4(a)/(3)、(4)のホログラム(CGH)14は、前面から入射した光を原画像12側である+q方向に偏って散乱する。他方、図4(b)/(3)、(4)のホログラム(CGH)24は、前面から入射した光を原画像22側である−q方向に偏って散乱するものとなる。
【0032】
そこで、本発明においては、例えば図5に示すように、表示体の並列する2つの領域、図5の文字“A”の内側と外側に、この実施例に場合は、文字“A”の内側領域31に図4(a)/(3)の位相データを4値以上の多値化したホログラム(CGH)14を配置し、文字“A”の外側領域32に図4(b)/(3)の位相データを4値以上の多値化したホログラム(CGH)24を配置して表示体1を構成する。
【0033】
このような表示体1は、図5の斜め下方から表示体1を観察すると、文字“A”の内側領域31のホログラム(CGH)14は、表示体1の前側から入射した周囲光を主として斜め上方に散乱するため、斜め下方の観察者の眼には達しないで相対的に暗く見え、文字“A”の外側領域32のホログラム(CGH)24は、表示体1の前側から入射した周囲光を主として斜め下方に散乱するため、斜め下方の観察者の眼に達して相対的に明るく見える。そのため、表示体1は斜め下方から観察すると、図6(a)に示すように文字“A”が相対的に白色の背景に黒い文字として観察できる。
【0034】
今度は、表示体1を180°回転させて上下を逆にして見ると、文字“A”の内側領域31のホログラム(CGH)14は、表示体1の前側から入射した周囲光を主として斜め下方に散乱するため、斜め下方の観察者の眼に達して相対的に明るく見え、文字“A”の外側領域32のホログラム(CGH)24は、表示体1の前側から入射した周囲光を主として斜め上方に散乱するため、斜め下方の観察者の眼には達しないで相対的に暗く見える。そのため、表示体1は斜め下方から観察すると(あるいは、図5の斜め上方から観察すると)、図6(b)に示すように文字“A”(上下反転した“A”)が相対的に黒色の背景に白い文字として観察できる。
【0035】
したがって、本発明の表示体1は観察者が裸眼で観察するとき、表示体1を通常の状態で観察するときと、表示体1を180°回転させて上下を逆にして観察するときとでは、2つのホログラム(CGH)14、24の相対配置で決まるパターンの白黒が反転して見えるものとなり、意匠性、装飾性、視覚効果の高いものとなる。
【0036】
そして、このような表示体1を用いたカード10を例に、真正性証明の方法を説明すると、図7に示すように、本発明による真正性証明用の回折構造表示体1にレーザー光源41を用いて、所定の波長のコヒーレント光であるレーザー光42を真上から照射する。レーザー光42のビーム径は、回折構造表示体1の領域31、32よりも小さくてもよいが、両領域31、32にかかる大きさの方が好ましい。この照射により、領域31のホログ
ラム(CGH)14、領域32のホログラム(CGH)24に予め多値化された深さ情報情報として記録されている原画像“D”及び“GENUINE”が回折光44a、44bによって再生される。再生された像を予め準備された基準像と比較し、同一であるか、若しくは、異なるかの判定を行うことにより、真正性の確認を行うことができる。
【0037】
したがって、表示体1からある程度離れたある面43を想定すると、例えば、向かって右の43aの区域でホログラム(CGH)14の記録像“D”を、向かって左の43bの区域でホログラム(CGH)24の記録像“GENUINE”を観察することができるので、面43を箱の上板とし、レーザー光源41及び真正性証明用の回折構造表示体1の固定台(図示せず)等を備えた器具を準備し、箱の上板の43a及び43bの各区域に透過型スクリーンを設けておく等しておけば、この器具を用いて、再生された像を判定することが可能であり、真正性証明用の回折構造表示体1の真正性を確認することが、簡便にできる。
【0038】
ところで、図2、図3の説明では、画像面の中心からy軸の+y方向あるいは−y方向の外れた位置にホログラム(CGH)14、24として記録する画像(文字)“D”、“GENUINE”を配置するとしたが、y軸に直交する方向にその画像がどの程度広がっていてもよいか説明しなかった。y軸に直交する方向への広がり方が少ない程、等位相線(干渉縞)Bの向きがy軸に直交する方向に向くことになり、その等位相線(干渉縞)Bでの散乱方向も狭くなるため、ホログラム(CGH)14の領域31とホログラム(CGH)24の領域32の白黒反転が顕著に観察できるようになり、望ましい。
【0039】
図8に、実際上に原画像面11、21の中心Oから+y方向に外れる場合の画像を配置可能な領域をハッチ領域として示す。原画像面11、12の中心Oからy軸を挟んで±45°の範囲にフーリエ変換像として記録する画像を配置すれば、白黒反転が容易に観察できるようになる。また、中心Oから+y方向の原画像面11、12の最大値の2分の1の範囲内に配置するのが望ましい。その中心Oから+y方向の最大値の2分の1を超えると、ホログラム(CGH)14、24から再生される像(図7の“D”及び“GENUINE”)が歪んでしまい、好ましくない。
【0040】
ところで、本発明による回折構造表示体には、以上のような画像面上の中心を通る特定方向の中心から一方の方向の外れた位置に画像が配置されてなる原画像のフーリエ変換像の位相情報を位相データを4値以上の多値化をして深さとして記録したホログラムと、画像面上の中心を通る特定方向の中心から他方の方向の外れた位置に画像が配置されてなる原画像のフーリエ変換像の位相情報を位相データを4値以上の多値化をして深さとして記録したホログラムとを並列して構成した表示体1だけでなく、図9に示すように、別の回折格子からなる表示領域3や別のレリーフホログラムからなる表示領域2を表示体1の周囲に密にあるいは離して配置することで、複雑で意匠効果のより高い表示体を持つカード10を構成するようにしてもよい。
【0041】
以上、本発明の回折構造表示体の原理と実施例を説明してきたが、本発明はこれら実施例に限定されず種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によると、通常の観察状態で見る方向により白黒反転表示ができ、かつ、レーザー光を照射することで真贋判定情報を再生することができ、意匠性、装飾性、視覚効果を備えながら、高い偽造防止効果を達成することができる。
【符号の説明】
【0043】
f…焦点距離
L…正レンズ
F…前側焦点
H…ホログラム面
P…点光源
S…等位相面
B…等位相線(干渉縞、凸部又は凹部)
O…原画像面の中心
1…表示体
10…カード
11、21…原画像面
12、22…原画像
13、23…フーリエ変換像
14、24…ホログラム(CGH)
20a…文字領域
20b…文字領域を囲む領域
31…内側領域
32…外側領域
41…レーザー光源
42…レーザー光
43…面
43a…右の区域
43b…左の区域
44a、44b…回折光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像面上の中心を通る特定方向の中心から一方の方向の外れた位置に第1の画像が配置されてなる原画像のフーリエ変換像の位相情報を位相データを4値以上の多値化をして深さとして記録したホログラムからなる第1のパターン領域と、画像面上の中心を通る特定方向の中心から他方の方向の外れた位置に第2の画像が配置されてなる原画像のフーリエ変換像の位相情報を位相データを4値以上の多値化をして深さとして記録したホログラムからなる第2のパターン領域とが並列されて配置されてなることを特徴とする回折構造表示体。
【請求項2】
前記第1の画像及び前記第2の画像が、画像面の中心を通る特定方向を挟んで±45°の範囲であって、その中心からその特定方向の画像面の最大値の2分の1の範囲内に配置されて、前記第1のパターン領域のホログラムと前記第2のパターン領域のホログラムが記録されているいることを特徴とする請求項1記載の回折構造表示体。
【請求項3】
前記第1のパターン領域と前記第2のパターン領域とが並列してなる表示体部分の周囲に密にあるいは離して別の回折格子からなる表示領域、別のレリーフホログラムからなる表示領域の少なくとも一方が配置されていることを特徴とする請求項1又は2記載の回折構造表示体。
【請求項1】
画像面上の中心を通る特定方向の中心から一方の方向の外れた位置に第1の画像が配置されてなる原画像のフーリエ変換像の位相情報を位相データを4値以上の多値化をして深さとして記録したホログラムからなる第1のパターン領域と、画像面上の中心を通る特定方向の中心から他方の方向の外れた位置に第2の画像が配置されてなる原画像のフーリエ変換像の位相情報を位相データを4値以上の多値化をして深さとして記録したホログラムからなる第2のパターン領域とが並列されて配置されてなることを特徴とする回折構造表示体。
【請求項2】
前記第1の画像及び前記第2の画像が、画像面の中心を通る特定方向を挟んで±45°の範囲であって、その中心からその特定方向の画像面の最大値の2分の1の範囲内に配置されて、前記第1のパターン領域のホログラムと前記第2のパターン領域のホログラムが記録されているいることを特徴とする請求項1記載の回折構造表示体。
【請求項3】
前記第1のパターン領域と前記第2のパターン領域とが並列してなる表示体部分の周囲に密にあるいは離して別の回折格子からなる表示領域、別のレリーフホログラムからなる表示領域の少なくとも一方が配置されていることを特徴とする請求項1又は2記載の回折構造表示体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−22389(P2011−22389A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167691(P2009−167691)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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