回転サブマージアーク溶接のアークセンサによる倣い制御方法
【課題】フラックスに覆われているためアーク発生地点を目視できない回転サブマージアーク溶接においても、アークセンサによる的確な倣い制御を可能とする。
【解決手段】粒状フラックス20下で溶接ワイヤ22と母材間、あるいは溶接ワイヤ間にアークを発生させ、これにより生じる高熱を利用してサブマージアーク溶接を行う際に、アークの回転円における溶接進行方向の前方中心点Cfとアーク電圧波形又はアーク電流波形の間に規則性がある所定回転条件範囲で、Cfを中心とする左右対称な所定積分領域のアーク電圧値又はアーク電流値の積分値SLとSRの差が一定値となるように狙い位置を制御する。
【解決手段】粒状フラックス20下で溶接ワイヤ22と母材間、あるいは溶接ワイヤ間にアークを発生させ、これにより生じる高熱を利用してサブマージアーク溶接を行う際に、アークの回転円における溶接進行方向の前方中心点Cfとアーク電圧波形又はアーク電流波形の間に規則性がある所定回転条件範囲で、Cfを中心とする左右対称な所定積分領域のアーク電圧値又はアーク電流値の積分値SLとSRの差が一定値となるように狙い位置を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転サブマージアーク溶接のアークセンサによる倣い制御方法に係り、特に、アーク発生地点がフラックスに覆われており、目視確認をすることができないサブマージアーク溶接においても、狙い位置を的確に制御することが可能な、回転サブマージアーク溶接のアークセンサによる倣い制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に例示する如く、粒状フラックス20下で溶接ワイヤ22と母材10間あるいは溶接ワイヤ間にアークを発生させ、これにより生じる高熱を利用して溶接を行うサブマージアーク溶接が知られている。このサブマージアーク溶接では、母材10の上に予め粒上のフラックス20を堆積しておき、その中に溶接ワイヤ22の先端を突込んで溶接を行う。アークは、フラックス20に覆われて外からは見えない。フラックス20は、大気の遮断、溶接金属の精錬作用に寄与し、スラグ26や溶接ビード28の形成に寄与する。図において、12は裏当て材、24は電極である。
【0003】
このサブマージアーク溶接は、造船や橋梁の板継ぎ溶接や、高層ビルのBOX柱、圧力容器などに広く使用されている。大電流や、多電極の採用が可能なため、高能率(高溶着速度)であり、且つ、溶け込みも深いが、溶接姿勢は、図2に例示するような下向き、又は図3に例示するような水平(横向き)に限られ、その殆んどは下向き施工である。図2、図3において、14は立板(例えばH形鋼材のフランジ)、16は下板(同じくウェブ)である。又、運棒方法は、殆んどがストレートであり、一部で揺動させている事例もある。
【0004】
図2に例示した下向き姿勢では、太径ワイヤ、高電流溶接が適用され、高能率・高品質(深溶け込み、ビード外観良好)であるが、溶接姿勢が下向きとなるようにワーク姿勢を変更する必要があり、H形鋼材の場合はウェブ片側の1継手ずつしか施工できない。
【0005】
一方、図3に例示した水平姿勢では、H形鋼材の場合でもウェブ両側の2継手同時施工が可能であるが、重力の作用でビード垂れが発生し、図3に例示したような水平隅肉溶接では、立板14側の上脚長不足やアンダカットが発生しやすい。更に、脚長が長い大脚長側では、垂れ気味となり、ビード止端部形状も悪く、水平姿勢での1ラン10mm以上の大脚長隅肉溶接の実用化は非常に困難であった。
【0006】
アーク溶接の適用のほとんどは自動台車(装置)によるものであるが、サブマージアーク溶接の場合、アーク発生地点がフラックスに覆われており、目視確認をすることが出来ないため、本当の狙い位置調整は非常に難しい。従来技術としては、(1)溶接対象部材に接触させたガイドローラに沿って台車を走行させ、部材と電極位置関係を保つ、ガイドローラなどによる機械式倣いや、(2)台車レールを狙い位置に沿って設置するレール走行式、あるいは、(3)先端部にローラ部を設けたポテンショメータ(位置センサ)を溶接対象部材に押し当てて位置制御する方法などがあるが、いずれも倣い精度が低かった。
【0007】
即ち、機械式倣いやポテンショメータを利用した位置制御では、あくまでガイドローラやセンサを接触させている部分と電極の位置関係を制御できるだけであり、部材の交差部や開先ルート部などを正確に倣うことはできない。又、溶接中の熱変形への対応もできない。更に、タンデム溶接や多パス溶接の場合、先行電極や前パスのビード形状に対して狙い位置を設定したいが不可能である等の問題点を有していた。
【0008】
ここで、図2に例示したような下向き溶接の場合は、適切な溶接条件の裕度が広いため、倣い精度は大きな問題にならないが、図3に例示したような水平姿勢の場合、狙い位置条件の裕度が狭いため、ビード不良(立板側の上脚長不足やアンダカット)に繋がるという問題点を有していた。
【0009】
一方、フラックスを使わないガスシールドアーク溶接においては、出願人が特許文献1で提案したように、図4に示す如く、溶接ワイヤ22の先端を回転させる回転アーク溶接における溶接線倣い制御が提案されている。図において、23はアークである。
【0010】
図5にアーク回転位置の定義の一例を示す。ここでは、アークの回転円において溶接進行方向の前方中心点をCf、後方中心点をCr、立板14側をR側、下板16側をL側とする。
【0011】
又、ノズル回転軸25と直交する軸線21上に溶接トーチの狙い位置xpをとり、溶接トーチの狙い位置が溶接線WLと一致しているときのxpをxp=0とし、xp=0を中心に、立板14側(図5のアーク回転位置で示すとR側)をプラス、下板16側(図5のアーク回転位置で示すとL側)をマイナスと定義する。
【0012】
アークセンサ溶接線倣い制御方法では、図5に示すようにアークの1回転毎にCf点を中心に左右(L,R)同一の位相角θの範囲(例えば5°<θ<180°)で、例えばアーク電圧値を積分し、立板(R)側のアーク電圧値の積分値SRと下板(L)側のアーク電圧値の積分値SLとの差(SR−SL)をアークセンサの出力として取り出し、(SR−SL)の値及び符号により、溶接トーチの狙い位置を自動修正する。
【0013】
すなわち、アークセンサの出力(SR−SL)は、図6(A)に示すように、溶接トーチの狙い位置が溶接線と一致しているとき(xp=0)、SR−SL=0となるから、そのままで溶接を進行させる。また、図6(B)に示すように、溶接トーチの狙い位置が下板16側にずれているとき(xp<0)、アーク長は立板14側の方が下板16側よりも長くなり、SR−SL>0となるから、溶接トーチの狙い位置を立板14側へ修正するよう指令を与える。また、図6(C)に示すように、溶接トーチの狙い位置が立板14側にずれているとき(xp>0)、アーク長は下板16側の方が立板14側よりも長くなり、SR−SL<0となるから、溶接トーチの狙い位置を下板16側へ修正するよう指令を与える。
【0014】
図5から明らかなように、xp=0、SR−SL=0を中心として、アークセンサの出力(SR−SL)は符号が正負反転するから、溶接トーチの狙い位置が立板14側または下板16側にずれているときは、常にSR−SL=0となる方向へ溶接トーチの狙い位置を修正すればよい。
【0015】
従って、回転ガスシールドアーク溶接で用いられているアークセンサによる溶接線倣い制御を、サブマージアーク溶接にも適用することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平3−114670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、発明者がガスシールドアーク溶接の技術をサブマージアーク溶接にそのまま適用しようと試みたところ、上手くいかないことが判明した。即ち、ガスシールドアーク溶接では、回転周波数によらずCf信号とアーク電圧波形の関係が図7に示す如くとなり、アーク電圧波形が規則性を有するが、サブマージアーク溶接では、図7に示すような理想的な回転アーク溶接−電圧波形の関係を得ることができなかった。
【0018】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、ガスシールドアーク溶接の倣い制御をそのまま適用したのでは、倣い制御が上手くいかないサブマージアーク溶接の条件を適切に制御して、アークセンサによる倣い制御を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、粒状フラックス下で溶接ワイヤと母材間、あるいは溶接ワイヤ間にアークを発生させ、これにより生じる高熱を利用してサブマージアーク溶接を行う際に、アークの回転円における溶接進行方向の前方中心点Cfとアーク電圧波形又はアーク電流波形の間に規則性がある所定回転条件範囲で、Cfを中心とする左右対称な所定積分領域のアーク電圧値又はアーク電流値の積分値の差が一定値となるように狙い位置を制御するようにして、前記課題を解決したものである。
【0020】
ここで、前記所定回転条件範囲を、回転周波数3Hzより大きく、且つ、30Hzより小さくすることができる。
【0021】
又、前記所定積分領域を、Cfを中心とする左右90°の領域とすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、サブマージアーク溶接においても、アークセンサによる倣い制御が可能となる。従って、フラックスによりアークは見えないが、近傍の部材などを基準に狙い位置を制御するわけではなく、発生しているアーク自体の電流、電圧データによりアーク発生地点で狙い位置を制御できるため、熱変形及び先行電極や前パスのビード形状への対応が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明が対象とするサブマージアーク溶接の原理を示す斜視図
【図2】下向き溶接の例を示す断面図
【図3】水平隅肉溶接の例を示す断面図
【図4】ガスシールドアーク溶接における回転アーク溶接の様子を示す斜視図
【図5】アークの回転位置の定義を示す図
【図6】溶接トーチの狙い位置とアークセンサの出力の関係を示す図
【図7】理想的な回転アーク溶接−電圧波形の例を示す図
【図8】本発明の原理を説明するための、7HzでのCf信号とアーク電圧/電流波形の関係の例を示す図
【図9】同じく3HzでのCf信号とアーク電圧/電流波形の関係の例を示す図
【図10】同じく30HzでのCf信号とアーク電圧/電流波形の関係の例を示す図
【図11】本発明の第1実施形態の概要を示す斜視図
【図12】同じく積分領域を示す図
【図13】同じく制御回路を示す図
【図14】本発明の第2実施形態の概要を示す斜視図
【図15】本発明の第3実施形態の概要を示す斜視図
【図16】第3実施形態の電極配置を示す図
【図17】本発明の第4実施形態の概要を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0025】
回転サブマージアーク溶接について、発明者が、直径1.6mmの溶接ワイヤの先端を回転径3mmで、溶接ビードを掻き下げるように反時計方向CCWに回転させてトーチ角度50°、溶接速度40cpmで実験を行ったところ、所定回転条件範囲、例えば回転周波数3Hzより大きく、且つ、30Hzより小さいときに、Cf位置とアーク電圧/電流波形の間に、図8(回転周波数7Hzの例)に示す如く、前方Cf位置でピーク電圧となり、後方180°位置でボトム電圧となる規則性が得られた。3Hz及び30Hzで、Cf信号と電圧(電流)信号に規則性の無いデータを、それぞれ図9及び図10に示す。
【0026】
なお回転条件範囲には、回転径の限界も存在し、その他、回転ピッチで規定することもできる。
【0027】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その第1実施形態は、シングル回転サブマージアーク溶接において、図11に示す如く、溶接ワイヤ22の先端を回転周波数3Hz〜30Hzで反時計方向CCWに回転させて掻き下げる際に、図12に示す如く、Cfを中心とする左右90°の所定積分領域でアーク電圧値を積分して積分値SLとSRの差(SL−SR)の値を検出し、これが一定値(例えば0)となるように狙い位置を制御するようにしたものである。なお、(SL−SR)の値の目標値を0以外として、狙い位置を溶接先からオフセットさせても良い。
【0028】
本発明を実施する場合に用いられるアークセンサ溶接線倣い制御装置のブロック回路図を図13に示す。
【0029】
図において、31はアーク電圧検出器、32は溶接電流検出器、33はスイッチで、ここではアーク電圧検出器31の方に接続している。溶接電流により制御する場合は、スイッチ33を溶接電流検出器32側へ切り替える。
【0030】
35はアーク回転位置検出器で、図5に示したアーク回転位置(Cf、R、Cr、L)を検出する。36はタイミングパルス発生器であって、アーク回転位置検出器35によって検出されたアーク回転位置を入力し、積分領域が所定の角度範囲になるようにタイミングパルスをそれぞれアーク電圧EaのL側積分器37とR側積分器38に指令する。
【0031】
タイミングパルス発生器36によって指令される角度範囲は、本例においては、左右0°〜90°である。この角度範囲は、予め設定されているものであり、本例では上述のように0°〜90°に設定されているが、これに限られるものではなく、左右対称であれば良い。
【0032】
39は、L側積分器37によるL側積分値SLとR側積分器38によるR側積分値SRとの差を演算する差動アンプで、この差動アンプ39によりアークセンサ出力(SL−SR)が求められる。
【0033】
求められたアークセンサ出力(SL−SR)は、溶接線倣い制御回路40に入力する。溶接線倣い制御回路40では、差動アンプ39の偏差信号に基づいて倣い距離が演算され、この演算結果に基づいてモータ41が制御され、溶接トーチ47が倣い制御される。
【0034】
本実施形態においては、立板14側の溶け込みを広くして、上脚脚長を伸ばすことができる。
【0035】
次に、図14を参照して本発明の第2実施形態を説明する。本実施形態は、第1実施形態と同様のシングル回転サブマージアーク溶接において、溶接ワイヤ22を第1実施形態と逆の時計方向CWに掻き上げ回転するようにしたものである。
【0036】
本実施形態においては、下板16側の溶け込みを広くして、下脚脚長を伸ばすことができる。
【0037】
次に、図15を参照して本発明の第3実施形態を説明する。本実施形態は、タンデム回転サブマージアーク溶接において、先行電極24Aの溶接ワイヤ22Aを回転させないストレート運棒とし、後行電極24Bの溶接ワイヤ22Bの先端を、反時計方向CCWの掻き下げ回転とするようにしたものである。
【0038】
先行電極24Aのノズル回転軸25Aと後行電極24Bのノズル回転軸25Bの配置例を図16に示す。
【0039】
本実施形態においては、後行電極24Bの溶接ワイヤ22Bの回転により、立板14側の溶け込みを広くして、上脚脚長を伸ばすと共に、先行電極24Aへの対応が可能となる。
【0040】
なお、図17に示す第4実施形態のように、先行電極24Aの溶接ワイヤ22Aの先端も、例えば時計方向CWへ掻き上げ回転させて、下板16側の溶け込みを広くし、下脚脚長を伸ばすこともできる。
【0041】
なお、前記実施形態においては所定回転周波数範囲が3Hzより大きく、且つ、30Hzより小さくされ、所定積分領域が、Cfを中心とする左右90°の領域とされていたが、所定回転周波数範囲や所定積分領域は、これに限定されず、例えば回転径に応じて変えることができる。
【0042】
本発明の適用対象も、水平隅肉溶接に限定されず、下向き溶接や開先形状を有する平板の突合せ溶接を対象とすることもできる。
【符号の説明】
【0043】
14…立板
16…下板
20…フラックス
22、22A、22B…溶接ワイヤ
24、24A、24B…電極
28…溶接ビード
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転サブマージアーク溶接のアークセンサによる倣い制御方法に係り、特に、アーク発生地点がフラックスに覆われており、目視確認をすることができないサブマージアーク溶接においても、狙い位置を的確に制御することが可能な、回転サブマージアーク溶接のアークセンサによる倣い制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に例示する如く、粒状フラックス20下で溶接ワイヤ22と母材10間あるいは溶接ワイヤ間にアークを発生させ、これにより生じる高熱を利用して溶接を行うサブマージアーク溶接が知られている。このサブマージアーク溶接では、母材10の上に予め粒上のフラックス20を堆積しておき、その中に溶接ワイヤ22の先端を突込んで溶接を行う。アークは、フラックス20に覆われて外からは見えない。フラックス20は、大気の遮断、溶接金属の精錬作用に寄与し、スラグ26や溶接ビード28の形成に寄与する。図において、12は裏当て材、24は電極である。
【0003】
このサブマージアーク溶接は、造船や橋梁の板継ぎ溶接や、高層ビルのBOX柱、圧力容器などに広く使用されている。大電流や、多電極の採用が可能なため、高能率(高溶着速度)であり、且つ、溶け込みも深いが、溶接姿勢は、図2に例示するような下向き、又は図3に例示するような水平(横向き)に限られ、その殆んどは下向き施工である。図2、図3において、14は立板(例えばH形鋼材のフランジ)、16は下板(同じくウェブ)である。又、運棒方法は、殆んどがストレートであり、一部で揺動させている事例もある。
【0004】
図2に例示した下向き姿勢では、太径ワイヤ、高電流溶接が適用され、高能率・高品質(深溶け込み、ビード外観良好)であるが、溶接姿勢が下向きとなるようにワーク姿勢を変更する必要があり、H形鋼材の場合はウェブ片側の1継手ずつしか施工できない。
【0005】
一方、図3に例示した水平姿勢では、H形鋼材の場合でもウェブ両側の2継手同時施工が可能であるが、重力の作用でビード垂れが発生し、図3に例示したような水平隅肉溶接では、立板14側の上脚長不足やアンダカットが発生しやすい。更に、脚長が長い大脚長側では、垂れ気味となり、ビード止端部形状も悪く、水平姿勢での1ラン10mm以上の大脚長隅肉溶接の実用化は非常に困難であった。
【0006】
アーク溶接の適用のほとんどは自動台車(装置)によるものであるが、サブマージアーク溶接の場合、アーク発生地点がフラックスに覆われており、目視確認をすることが出来ないため、本当の狙い位置調整は非常に難しい。従来技術としては、(1)溶接対象部材に接触させたガイドローラに沿って台車を走行させ、部材と電極位置関係を保つ、ガイドローラなどによる機械式倣いや、(2)台車レールを狙い位置に沿って設置するレール走行式、あるいは、(3)先端部にローラ部を設けたポテンショメータ(位置センサ)を溶接対象部材に押し当てて位置制御する方法などがあるが、いずれも倣い精度が低かった。
【0007】
即ち、機械式倣いやポテンショメータを利用した位置制御では、あくまでガイドローラやセンサを接触させている部分と電極の位置関係を制御できるだけであり、部材の交差部や開先ルート部などを正確に倣うことはできない。又、溶接中の熱変形への対応もできない。更に、タンデム溶接や多パス溶接の場合、先行電極や前パスのビード形状に対して狙い位置を設定したいが不可能である等の問題点を有していた。
【0008】
ここで、図2に例示したような下向き溶接の場合は、適切な溶接条件の裕度が広いため、倣い精度は大きな問題にならないが、図3に例示したような水平姿勢の場合、狙い位置条件の裕度が狭いため、ビード不良(立板側の上脚長不足やアンダカット)に繋がるという問題点を有していた。
【0009】
一方、フラックスを使わないガスシールドアーク溶接においては、出願人が特許文献1で提案したように、図4に示す如く、溶接ワイヤ22の先端を回転させる回転アーク溶接における溶接線倣い制御が提案されている。図において、23はアークである。
【0010】
図5にアーク回転位置の定義の一例を示す。ここでは、アークの回転円において溶接進行方向の前方中心点をCf、後方中心点をCr、立板14側をR側、下板16側をL側とする。
【0011】
又、ノズル回転軸25と直交する軸線21上に溶接トーチの狙い位置xpをとり、溶接トーチの狙い位置が溶接線WLと一致しているときのxpをxp=0とし、xp=0を中心に、立板14側(図5のアーク回転位置で示すとR側)をプラス、下板16側(図5のアーク回転位置で示すとL側)をマイナスと定義する。
【0012】
アークセンサ溶接線倣い制御方法では、図5に示すようにアークの1回転毎にCf点を中心に左右(L,R)同一の位相角θの範囲(例えば5°<θ<180°)で、例えばアーク電圧値を積分し、立板(R)側のアーク電圧値の積分値SRと下板(L)側のアーク電圧値の積分値SLとの差(SR−SL)をアークセンサの出力として取り出し、(SR−SL)の値及び符号により、溶接トーチの狙い位置を自動修正する。
【0013】
すなわち、アークセンサの出力(SR−SL)は、図6(A)に示すように、溶接トーチの狙い位置が溶接線と一致しているとき(xp=0)、SR−SL=0となるから、そのままで溶接を進行させる。また、図6(B)に示すように、溶接トーチの狙い位置が下板16側にずれているとき(xp<0)、アーク長は立板14側の方が下板16側よりも長くなり、SR−SL>0となるから、溶接トーチの狙い位置を立板14側へ修正するよう指令を与える。また、図6(C)に示すように、溶接トーチの狙い位置が立板14側にずれているとき(xp>0)、アーク長は下板16側の方が立板14側よりも長くなり、SR−SL<0となるから、溶接トーチの狙い位置を下板16側へ修正するよう指令を与える。
【0014】
図5から明らかなように、xp=0、SR−SL=0を中心として、アークセンサの出力(SR−SL)は符号が正負反転するから、溶接トーチの狙い位置が立板14側または下板16側にずれているときは、常にSR−SL=0となる方向へ溶接トーチの狙い位置を修正すればよい。
【0015】
従って、回転ガスシールドアーク溶接で用いられているアークセンサによる溶接線倣い制御を、サブマージアーク溶接にも適用することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平3−114670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、発明者がガスシールドアーク溶接の技術をサブマージアーク溶接にそのまま適用しようと試みたところ、上手くいかないことが判明した。即ち、ガスシールドアーク溶接では、回転周波数によらずCf信号とアーク電圧波形の関係が図7に示す如くとなり、アーク電圧波形が規則性を有するが、サブマージアーク溶接では、図7に示すような理想的な回転アーク溶接−電圧波形の関係を得ることができなかった。
【0018】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、ガスシールドアーク溶接の倣い制御をそのまま適用したのでは、倣い制御が上手くいかないサブマージアーク溶接の条件を適切に制御して、アークセンサによる倣い制御を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、粒状フラックス下で溶接ワイヤと母材間、あるいは溶接ワイヤ間にアークを発生させ、これにより生じる高熱を利用してサブマージアーク溶接を行う際に、アークの回転円における溶接進行方向の前方中心点Cfとアーク電圧波形又はアーク電流波形の間に規則性がある所定回転条件範囲で、Cfを中心とする左右対称な所定積分領域のアーク電圧値又はアーク電流値の積分値の差が一定値となるように狙い位置を制御するようにして、前記課題を解決したものである。
【0020】
ここで、前記所定回転条件範囲を、回転周波数3Hzより大きく、且つ、30Hzより小さくすることができる。
【0021】
又、前記所定積分領域を、Cfを中心とする左右90°の領域とすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、サブマージアーク溶接においても、アークセンサによる倣い制御が可能となる。従って、フラックスによりアークは見えないが、近傍の部材などを基準に狙い位置を制御するわけではなく、発生しているアーク自体の電流、電圧データによりアーク発生地点で狙い位置を制御できるため、熱変形及び先行電極や前パスのビード形状への対応が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明が対象とするサブマージアーク溶接の原理を示す斜視図
【図2】下向き溶接の例を示す断面図
【図3】水平隅肉溶接の例を示す断面図
【図4】ガスシールドアーク溶接における回転アーク溶接の様子を示す斜視図
【図5】アークの回転位置の定義を示す図
【図6】溶接トーチの狙い位置とアークセンサの出力の関係を示す図
【図7】理想的な回転アーク溶接−電圧波形の例を示す図
【図8】本発明の原理を説明するための、7HzでのCf信号とアーク電圧/電流波形の関係の例を示す図
【図9】同じく3HzでのCf信号とアーク電圧/電流波形の関係の例を示す図
【図10】同じく30HzでのCf信号とアーク電圧/電流波形の関係の例を示す図
【図11】本発明の第1実施形態の概要を示す斜視図
【図12】同じく積分領域を示す図
【図13】同じく制御回路を示す図
【図14】本発明の第2実施形態の概要を示す斜視図
【図15】本発明の第3実施形態の概要を示す斜視図
【図16】第3実施形態の電極配置を示す図
【図17】本発明の第4実施形態の概要を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0025】
回転サブマージアーク溶接について、発明者が、直径1.6mmの溶接ワイヤの先端を回転径3mmで、溶接ビードを掻き下げるように反時計方向CCWに回転させてトーチ角度50°、溶接速度40cpmで実験を行ったところ、所定回転条件範囲、例えば回転周波数3Hzより大きく、且つ、30Hzより小さいときに、Cf位置とアーク電圧/電流波形の間に、図8(回転周波数7Hzの例)に示す如く、前方Cf位置でピーク電圧となり、後方180°位置でボトム電圧となる規則性が得られた。3Hz及び30Hzで、Cf信号と電圧(電流)信号に規則性の無いデータを、それぞれ図9及び図10に示す。
【0026】
なお回転条件範囲には、回転径の限界も存在し、その他、回転ピッチで規定することもできる。
【0027】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その第1実施形態は、シングル回転サブマージアーク溶接において、図11に示す如く、溶接ワイヤ22の先端を回転周波数3Hz〜30Hzで反時計方向CCWに回転させて掻き下げる際に、図12に示す如く、Cfを中心とする左右90°の所定積分領域でアーク電圧値を積分して積分値SLとSRの差(SL−SR)の値を検出し、これが一定値(例えば0)となるように狙い位置を制御するようにしたものである。なお、(SL−SR)の値の目標値を0以外として、狙い位置を溶接先からオフセットさせても良い。
【0028】
本発明を実施する場合に用いられるアークセンサ溶接線倣い制御装置のブロック回路図を図13に示す。
【0029】
図において、31はアーク電圧検出器、32は溶接電流検出器、33はスイッチで、ここではアーク電圧検出器31の方に接続している。溶接電流により制御する場合は、スイッチ33を溶接電流検出器32側へ切り替える。
【0030】
35はアーク回転位置検出器で、図5に示したアーク回転位置(Cf、R、Cr、L)を検出する。36はタイミングパルス発生器であって、アーク回転位置検出器35によって検出されたアーク回転位置を入力し、積分領域が所定の角度範囲になるようにタイミングパルスをそれぞれアーク電圧EaのL側積分器37とR側積分器38に指令する。
【0031】
タイミングパルス発生器36によって指令される角度範囲は、本例においては、左右0°〜90°である。この角度範囲は、予め設定されているものであり、本例では上述のように0°〜90°に設定されているが、これに限られるものではなく、左右対称であれば良い。
【0032】
39は、L側積分器37によるL側積分値SLとR側積分器38によるR側積分値SRとの差を演算する差動アンプで、この差動アンプ39によりアークセンサ出力(SL−SR)が求められる。
【0033】
求められたアークセンサ出力(SL−SR)は、溶接線倣い制御回路40に入力する。溶接線倣い制御回路40では、差動アンプ39の偏差信号に基づいて倣い距離が演算され、この演算結果に基づいてモータ41が制御され、溶接トーチ47が倣い制御される。
【0034】
本実施形態においては、立板14側の溶け込みを広くして、上脚脚長を伸ばすことができる。
【0035】
次に、図14を参照して本発明の第2実施形態を説明する。本実施形態は、第1実施形態と同様のシングル回転サブマージアーク溶接において、溶接ワイヤ22を第1実施形態と逆の時計方向CWに掻き上げ回転するようにしたものである。
【0036】
本実施形態においては、下板16側の溶け込みを広くして、下脚脚長を伸ばすことができる。
【0037】
次に、図15を参照して本発明の第3実施形態を説明する。本実施形態は、タンデム回転サブマージアーク溶接において、先行電極24Aの溶接ワイヤ22Aを回転させないストレート運棒とし、後行電極24Bの溶接ワイヤ22Bの先端を、反時計方向CCWの掻き下げ回転とするようにしたものである。
【0038】
先行電極24Aのノズル回転軸25Aと後行電極24Bのノズル回転軸25Bの配置例を図16に示す。
【0039】
本実施形態においては、後行電極24Bの溶接ワイヤ22Bの回転により、立板14側の溶け込みを広くして、上脚脚長を伸ばすと共に、先行電極24Aへの対応が可能となる。
【0040】
なお、図17に示す第4実施形態のように、先行電極24Aの溶接ワイヤ22Aの先端も、例えば時計方向CWへ掻き上げ回転させて、下板16側の溶け込みを広くし、下脚脚長を伸ばすこともできる。
【0041】
なお、前記実施形態においては所定回転周波数範囲が3Hzより大きく、且つ、30Hzより小さくされ、所定積分領域が、Cfを中心とする左右90°の領域とされていたが、所定回転周波数範囲や所定積分領域は、これに限定されず、例えば回転径に応じて変えることができる。
【0042】
本発明の適用対象も、水平隅肉溶接に限定されず、下向き溶接や開先形状を有する平板の突合せ溶接を対象とすることもできる。
【符号の説明】
【0043】
14…立板
16…下板
20…フラックス
22、22A、22B…溶接ワイヤ
24、24A、24B…電極
28…溶接ビード
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状フラックス下で溶接ワイヤと母材間、あるいは溶接ワイヤ間にアークを発生させ、これにより生じる高熱を利用してサブマージアーク溶接を行う際に、
アークの回転円における溶接進行方向の前方中心点Cfとアーク電圧波形又はアーク電流波形の間に規則性がある所定回転条件範囲で、
Cfを中心とする左右対称な所定積分領域のアーク電圧値又はアーク電流値の積分値の差が一定値となるように狙い位置を制御することを特徴とする回転サブマージアーク溶接のアークセンサによる倣い制御方法。
【請求項2】
前記所定回転条件範囲が、回転周波数3Hzより大きく、且つ、30Hzより小さいことを特徴とする請求項1に記載の回転サブマージアーク溶接のアークセンサによる倣い制御方法。
【請求項3】
前記所定積分領域が、Cfを中心とする左右90°の領域であることを特徴とする請求項1に記載の回転サブマージアーク溶接のアークセンサによる倣い制御方法。
【請求項1】
粒状フラックス下で溶接ワイヤと母材間、あるいは溶接ワイヤ間にアークを発生させ、これにより生じる高熱を利用してサブマージアーク溶接を行う際に、
アークの回転円における溶接進行方向の前方中心点Cfとアーク電圧波形又はアーク電流波形の間に規則性がある所定回転条件範囲で、
Cfを中心とする左右対称な所定積分領域のアーク電圧値又はアーク電流値の積分値の差が一定値となるように狙い位置を制御することを特徴とする回転サブマージアーク溶接のアークセンサによる倣い制御方法。
【請求項2】
前記所定回転条件範囲が、回転周波数3Hzより大きく、且つ、30Hzより小さいことを特徴とする請求項1に記載の回転サブマージアーク溶接のアークセンサによる倣い制御方法。
【請求項3】
前記所定積分領域が、Cfを中心とする左右90°の領域であることを特徴とする請求項1に記載の回転サブマージアーク溶接のアークセンサによる倣い制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図13】
【図14】
【図15】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図13】
【図14】
【図15】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−56553(P2011−56553A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209744(P2009−209744)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】
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