説明

回転伝達装置

【課題】軸方向長さの短い小型コンパクトな軽量の回転伝達装置を提供することである。
【解決手段】第1軸1の大径部2の外周にカム面8を設け、大径部2の外側に設けた外輪3の内周に円筒面7を形成し、その円筒面7とカム面8との間に組込んだ円板状のローラ11を磁性体から成るアーマチュア9の片面に設けられた径方向溝10内に収容する。アーマチュア9と大径部2の相互間にスイッチばね13を組込んでローラ11が係合される位置にアーマチュア9を弾性保持する。外輪3の開口端部内にロータ18を圧入し、そのロータ18に電磁石22を対向する。電磁石22の電磁コイル22aに対する通電によりロータ18にアーマチュア9を吸着し、そのアーマチュア9と第1軸1の相対回転によりローラ11を円筒面7およびカム面8に係合させて第1軸1の回転を外輪3に伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力の伝達と遮断の切換えに用いられる回転伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の回転伝達装置として、特許文献1に記載されたものが従来から知られている。この回転伝達装置は、大径部を有する入力軸の外側に上記大径部を覆う外輪を設け、その外輪と大径部との間に2方向クラッチを組込み、その2方向クラッチのオン、オフを電磁クラッチにより制御するようにしている。
【0003】
ここで、2方向クラッチは、外輪の内周に円筒面を形成し、大径部の外周には上記円筒面との間で周方向の両端が狭小のくさび状空間を形成するカム面を設け、そのカム面と円筒面との間に組込まれたローラを外輪と大径部間に組込まれた保持器で保持し、その保持器にスイッチばねのばね力を付与して、ローラがカム面および円筒面に対して係合解除される中立位置に保持器を弾性保持している。
【0004】
一方、電磁クラッチは、2方向クラッチの保持器に回り止めされ、かつ軸方向に移動可能に支持されたアーマチュアと、外輪に回り止めされて上記アーマチュアと軸方向で対向するロータと、そのロータと軸方向で対向する電磁石とから成り、前記電磁石の電磁コイルに対する通電によりロータにアーマチュアを吸着し、その吸着面に作用する摩擦抵抗により入力軸と保持器とを相対回転させてローラを円筒面とカム面に係合させるようにしている。
【0005】
上記の回転伝達装置においては、外輪と入力軸の大径部間に組込まれた2方向クラッチがローラを係合子とするメカニカルタイプの2方向クラッチであるため、電磁クラッチによってトルクの伝達と遮断とを切換えるようにした回転伝達装置に比較してトルク容量が大きいという特徴を有している。
【特許文献1】特開平10−59011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来の回転伝達装置においては、メカニカルタイプの2方向クラッチと、その2方向クラッチのオン、オフを制御する電磁クラッチとを軸方向に並設した部品点数の多い構成であるため、回転伝達装置の軸方向長さが長く、また、重量も重く、用途によってはサイズ的な制約によって使用することができない場合があり、小型化および軽量化を図るうえにおいて改善すべき点が残されていた。
【0007】
この発明の課題は、軸方向長さが短い部品点数の少ない小型コンパクトな軽量の回転伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明においては、内方部材と、その内方部材の外側に設けられた外方部材と、その外方部材の内周と内方部材の外周間に組込まれて軸方向に移動可能な磁性体から成るアーマチュアと、そのアーマチュアの一側面に形成された径方向溝内に収容され、前記アーマチュアが内方部材と外方部材の一方に結合されて他方に対する相対回転時に内方部材の外周および外方部材の内周に係合する係合子と、前記内方部材または外方部材のいずれにも回転トルクが入力されない時に係合子を内方部材の外周および外方部材の内周に係合させるように内方部材または外方部材に対するアーマチュアの位置を弾性力でセットするスイッチばねと、前記係合子がアーマチュアの径方向溝から軸方向に抜け出るのを防止する脱落防止手段と、前記外方部材の内周又は内方部材の外周に固定されて前記アーマチュアの他側面と軸方向で対向するロータと、静止部材に支持されて前記ロータと軸方向で対向し、通電によりロータにアーマチュアを吸着させる電磁石とから成る構成を採用したのである。
【0009】
ここで、係合子は、ローラであってもよく、あるいはスプラグであってもよい。ローラを係合子として採用する場合は、外方部材の内周と内方部材の外周における一方に円筒面を形成し、他方にその円筒面との間で周方向の両端が狭小のくさび状空間を形成するカム面を設け、そのカム面と円筒面との間にローラを組込むようにする。
【0010】
一方、スプラグを係合子とする場合は、外方部材の内周および内方部材の外周に円筒面を形成し、その対向する円筒面間にスプラグを組込み、このスプラグを保持するアーマチュアを内、外に分割し、一方の分割アーマチュアを内方部材又は外方部材に固定し、他方の分割アーマチュアにスイッチばねの弾性力を付与して円筒面に対して係合する姿勢にスプラグを保持する。
【0011】
上記係合子として、金属板のプレス成形品やアルミニウムあるいは合成樹脂の成形品から成るものを採用することによってコストの低減を図ることができる。
【0012】
係合子がアーマチュアの径方向溝から軸方向に抜け出るのを防止する脱落防止手段として、内方部材の外周に取付けられ、前記アーマチュアが前記ロータに吸着される状態でそのアーマチュアの一側面との間に係合子の厚み以下の間隔をおいて対向する環状のストッパプレートから成るものを採用することができる。
【0013】
この発明に係る回転伝達装置において、外方部材と内方部材は、いずれに回転トルクを入力してもよい。例えば、内方部材に回転トルクを入力する使用状態において、電磁石の電磁コイルに対する通電の遮断状態では、スイッチばねの弾性力により、内方部材に対してアーマチュアが所定の位置に弾性力で保持されていることにより、係合子はくさび状空間の狭小部に押し込まれた状態になって外方部材の内周および内方部材の外周に係合しているため、内方部材または外方部材に入力される回転トルクがスイッチばねの反発力と同じ方向に作用する場合には、その回転トルクは係合子から外方部材または内方部材に対して伝達される。
【0014】
また、同じく電磁石の電磁コイルに対する通電の遮断状態において、内方部材に対してスイッチばねの弾性力に抗する向きに回転トルクを入力すると、係合子は係合された位置からずれて外方部材の内周または内方部材の外周に対して係合しない状態になる。そして、係合子は、アーマチュアと一体になって相対回転を始め、それ以後は安定してアーマチュアと一体に同速度で回転する。そのため、内方部材または外方部材に入力される回転トルクは、外方部材または内方部材に伝達されずに外方部材と内方部材は空転する。
【0015】
また、この発明に係る回転伝達装置における電磁石の電磁コイルに通電すると、ロータにアーマチュアが吸着される。その際、ロータが外方部材に取付けられていると、アーマチュアおよびそのアーマチュアに保持された係合子が外方部材に連結される。そして、スイッチばねの弾性力に抗する向きの回転トルクが内方部材に入力されると、内方部材に対してアーマチュアおよび係合子が相対回転し、係合子がくさび状空間の狭小部に押し込まれて外方部材の内周および内方部材の外周に係合する。その係合によって内方部材の回転が外方部材に伝達される。
【0016】
一方、ロータが内方部材に取付けられていると、アーマチュアおよび係合子が内方部材に連結されて外方部材とアーマチュアおよび係合子が相対回転し、その相対回転により係合子がくさび状空間の狭小部に押し込まれて内方部材の外周および外方部材の内周に係合する。その係合により、内方部材の回転が外方部材に伝達される。
【0017】
このようにしてこの発明の回転伝達装置は、電磁石の電子コイルの通電時には、内方部材または外方部材に対するアーマチュアの相対回転により、またはスイッチばねの弾性により二方向クラッチになり、電磁石の電磁コイルに対する通電を遮断すると、スイッチばねの弾性によりアーマチュアが係合子を係合位置に配置する場合に、一方向のみの回転トルクが伝達されて一方向クラッチになる。
【0018】
ここで、上記回転伝達装置をオイルやグリース等の潤滑下で使用する場合は、ロータとアーマチュア間に介在する潤滑剤の粘性によりアーマチュアがロータに吸着状態に保持されて誤作動するということを防止するため、ロータとアーマチュアの対向面間に離反ばねを組込んでロータから離反する方向にアーマチュアを付勢するのが好ましい。この場合、ロータに離反ばねの一部を収容する窪みを設けることによって軸方向長さのコンパクト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
上記のようにこの発明の回転伝達装置においては、スイッチばねにより、係合子が外方部材の内周および内方部材の外周に対して弾性的に係合しており、回転トルクの一方向の伝達ができると共に、電磁石の電磁コイルに対する通電時には係合子が内方部材または外方部材と相対回転して係合し、通電を遮断すると、前記相対回転を起こさずに前記係合を起こさない。そのため、回転トルクの他方向への適宜の伝達が可能となり、すなわち、外方部材と内方部材の間で回転トルクの一方向または二方向への伝達を選択的に行なうことができる。
【0020】
また、係合子を介して回転トルクを伝達するため、トルク容量の大きな回転伝達装置を得ることができる。特に、係合子を保持するアーマチュアとロータとを軸方向に対向配置し、そのロータに対して電磁石を軸方向に対向配置した部品点数の少ない簡単な構成であり、軸方向長さの短い小型コンパクトな軽量の電磁式回転伝達装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1乃至図4は、この発明に係る回転伝達装置の第1の実施形態を示す。
【0022】
図1(I)(II)に示すように、内方部材としての第1軸1は大径部2を軸端部に有し、その大径部2を覆うようにして外方部材としての外輪3が設けられている。
【0023】
外輪3は端板4を有し、その端板4に第2軸5が設けられている。また、外輪3は第1軸1に対して同軸上に配置され、第1軸1の軸端部に設けた軸受6によって外輪3と第1軸1とは相対的に回転自在とされている。
【0024】
外輪3の内周には円筒面7が形成され、一方、第1軸1の大径部2の外周には上記円筒面7との間で周方向の両端が狭小のくさび状空間を形成する複数のカム面8が周方向に等間隔に設けられている。
【0025】
大径部2の外周と外輪3の内周間にはアーマチュア9が組込まれている。アーマチュア9は磁性体から成り、そのアーマチュア9の外輪端板4と対向する一側面には複数の径方向溝10が等間隔に形成され、各径方向溝10内に係合子としてのローラ11が組込まれている。
【0026】
ローラ11は円板状をなしている。このローラ11は外輪3の円筒面7および大径部2のカム面8に対する係合によって第1軸1と外輪3の相互間で回転トルクを伝達するため、その伝達トルクの大きさに応じて材質を適宜に決定する。
【0027】
例えば、大きなトルクを伝達する場合は、高い硬度を必要とするため、鉄等の磁性体で形成する。このとき、ローラ11は切削により形成してもよい。あるいはプレス打抜きにより形成してもよい。
【0028】
一方、小さなトルクを伝達する場合は、アルミニウムや合成樹脂等の非磁性体でローラ11を形成してもよい。この場合、ローラ11は成形によって形成することができるため、コストの安いローラ11を得ることができる。
【0029】
大径部2には第1軸1の軸端側の一側面にばね収納凹部12が形成され、そのばね収納凹部12内にスイッチばね13が組込まれている。
【0030】
スイッチばね13はC形をなし、その両端には外向きに長短一対の押圧片13a、13bが設けられている。短部の押圧片13aは、ばね収納凹部12の周壁に形成された切欠き14に保持され、長部の押圧片13bは、アーマチュア9に設けられた切欠部15内に挿入されて、切欠き14および切欠部15の端面を周方向に相反する方向に弾性力で押圧しており、アーマチュア9は時計回り方向に、第1軸の大径部2は反時計回り方向に弾性力で回転付勢されたとき、アーマチュア9がセットされた配置に従動したローラ11が円筒面7およびカム面8に対して係合されている。
【0031】
なお、第1軸1の軸端部には環状のストッパプレート16が嵌合され、そのストッパプレート16は第1軸1の軸端部に取付けた止め輪17によって大径部2の一側面に衝合する状態に保持されている。このストッパプレート16は、ばね収納凹部12の開口を閉塞し、スイッチばね13がばね収納凹部12の開口から抜け出るのを防止している。また、ストッパプレート16は、後述するロータ18にアーマチュア9が吸着される状態でそのアーマチュア9との間にローラ11の厚み以下の間隙が確保される位置に配置されて径方向溝10からローラ11が抜け出るのを防止している。また、ロータ18からのアーマチュア9の離反量を制限している。
【0032】
アーマチュア9の他側方には磁性体から成るロータ18が設けられている。ロータ18は外周および内周に同方向に向く円筒部18a、18bを有し、外側円筒部18aは外輪3の開口端部内に圧入されて外輪3と一体化されている。
【0033】
ここで、外輪3が磁性体から成る場合、外輪3の開口端部に非磁性体から成る円筒状のロータガイドを接続し、そのロータガイド内にロータ18の外側円筒部18aを圧入して、ロータ18から外輪3に磁気が漏洩するのを防止しても良い。
【0034】
ロータ18の内側円筒部18bは第1軸1の外側に設けた軸受19によって回転自在に支持されている。
【0035】
ロータ18のアーマチュア9に対する対向面には環状の窪み20が形成され、その窪み20内に組込まれた離反ばね21はロータ18から離反する方向にアーマチュア9を付勢している。
【0036】
ロータ18の外側円筒部18aと内側円筒部18b間には電磁石22が組込まれている。電磁石22は電磁コイル22aと、その電磁コイル22aを支持するコア22bとから成り、コア22bは静止部材23に支持されて固定の配置とされている。
【0037】
第1の実施形態で示す回転伝達装置は上記の構造から成り、図1(I)、(II)および図2は電磁石22の電磁コイル22aに対する通電の遮断状態を示し、アーマチュア9は離反ばね21の押圧によってロータ18から離反している。また、スイッチばね13の弾性力によってローラ11は円筒面7およびカム面8との対向面間に形成されたくさび状空間の狭小部に押し込まれて係合している。
【0038】
このため、図1(II)に示す矢印と反対方向に、第1軸1に回転トルクが入力されて第1軸1が反時計回りに回転すると、その回転は大径部2のカム面8からローラ11を介して外輪3に伝達され、第1軸1および外輪3が一体に反時計回りに回転してクラッチは反時計回りに接続された状態になる。
【0039】
この電磁コイル22aに対する通電の遮断状態では、第1軸1に前記と逆方向である時計回りに回転トルクが入力されて第1軸1が回転するときは、ローラ11は係合された位置から離れる方向にスイッチばね13の弾性力に抗してわずかに移動(相対回転)するが、それ以後はローラ11がアーマチュア9と同じ速度で回転するので、ローラ11は外輪3の円周面7および第1軸1のカム面8に対して係合しない。そのため、第1軸1または外輪3に入力される回転トルクが外輪3または第1軸1に伝達されずにこれらは空転する。
【0040】
ところで、第1軸1の回転状態において、電磁石22の電磁コイル22aに通電すると、図3の一点鎖線で示すように、コア22b、ロータ18およびアーマチュア9の相互間に磁気回路aが形成されてロータ18にアーマチュア9が吸着され、そのロータ18を介してアーマチュア9が外輪3に結合される。
【0041】
このため、第1軸1に時計回りに回転トルクが入力された際にもアーマチュア9は相対回転し、その相対回転によって図4に示すように、ローラ11が外輪3の円筒面7および大径部2のカム面8に係合する。このため、第1軸1の時計回りの回転はローラ11を介して外輪3に伝達され、上記外輪3が第1軸1と同方向に回転する。
【0042】
このように、第1の実施形態で示す回転伝達装置においては、電磁コイル22aに対する通電と遮断とによりローラ11を係合および係合解除させることができるため、第1軸1と外輪3との間で時計回り方向へ回転トルクの伝達と遮断とを行なうことができ、反時計回り方向へ常に回転トルクの伝達を行なうことができる2方向クラッチとなる回転伝達装置を実現することができる。
【0043】
また、アーマチュア9は、ローラ11を保持する機能を有するため、部品点数の低減化を図ることができると共に、回転伝達装置の電磁クラッチ内に2方向クラッチのローラ11を組込んだ構成であるため、軸方向の長さの短い従来に見られない小型コンパクトな軽量の回転伝達装置とすることができる。
【0044】
図5(I)、(II)は、この発明に係る回転伝達装置の第2の実施形態を示す。この実施形態では、外輪3の内周にカム面24を設け、大径部2の外周に円筒面25を形成している。この場合、ロータ18の内側円筒部18bを第1軸1に圧入してその第1軸1にロータ18を固定し、そのロータ18の外側円筒部18aを外輪3の開口端部内に組込んだ軸受26で回転自在に支持する。
【0045】
また、スイッチばね13をアーマチュア9のロータ18に対する対向面に形成された環状溝12´内に収容し、そのスイッチばね13の両端に設けられた長短一対の押圧片13a、13bのうち短部の押圧片13aをアーマチュア9に形成された径方向溝10と一部兼用の切欠き27に挿入し、長部の押圧片13bは外輪3の内周に形成された切欠部28内に挿入している。このようにしてスイッチばね13により切欠き27および切欠部28の周方向で対向する端面を相反する方向に押圧し、その押圧によってローラ11がカム面24および円筒面25により形成される狭小な楔空間に挿入されて係合されるようにアーマチュア9を弾性保持している。
【0046】
他の構成は第1の実施形態と同一であるため、同一部品には同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
また、作用および効果については第1の実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0048】
図6(I)、(II)はこの発明に係る回転伝達装置の第3の実施形態を示す。この第3の実施形態では、大径部2の外周および外輪3の内周を円筒面29、30とし、その円筒面29、30間に係合子としてのスプラグ31を組込んでいる。
【0049】
ここで、スプラグ31は所定の大きさの板体から成り、起立状態の姿勢で高さが低く、重心回りに回転することで高さが次第に高くなり、両端に設けられた弧状面31a、31bが円筒面29、30に係合する外形状が分銅形のカムの形態である。また、起立状態の姿勢では両端の弧状面31a、31bが円筒面29、30に対して非係合である。
【0050】
また、アーマチュア9を径の異なる二つの分割アーマチュア9a、9bに二分割し、その小径側の分割アーマチュア9bを大径部2に固定し、その小径側の分割アーマチュア9bに対して大径側の分割アーマチュア9aを回転自在としている。
【0051】
さらに、スイッチばね13両端の短部の押圧片13aと長部の押圧片13bのうち、前者を小径側の分割アーマチュア9bに形成された切欠き32に挿入し、後者を大径側の分割アーマチュア9aに設けられた切欠部33に挿入して、切欠き32および切欠部33の周方向で対向する端面を相反する方向に押圧し、その押圧によってスプラグ31が円筒面29、30に対して係合されるように大径側の分割アーマチュア9aと小径側の分割アーマチュア9bを相対回転した状態で弾性的に保持している。
【0052】
他の構成は第1の実施形態と同一であるため、同一部品には同一の符号を付して説明を省略する。
【0053】
第3の実施形態で示す回転伝達装置において、電磁コイル22aに対する通電の遮断状態では、スプラグ31は図6(II)に示すように、円筒面29、30に対して係合される位置に保持されている。このため、第1軸1に反時計回りの回転トルクが入力されて回転するとその回転は外輪3に伝達される。
【0054】
同じく通電の遮断状態で、第1軸1が時計回りの回転トルクが入力されて回転すると、その回転はスイッチばね13の弾性変形により、スプラグ31は起立状態になって高さが低くなり、回転トルクは外輪3に伝達されず第1軸1がフリー回転する。
【0055】
一方、第1軸1が図6(II)の矢印で示す反時計回りに回転する状態において、電磁コイル22aに通電すると、第1軸1に反時計回りの回転トルクが入力された場合には、スイッチばね13で傾斜したスプラグ31がさらに傾斜する方向に力を受けるので、上述した通電遮断状態と同様に、第1軸1の回転は外輪3に伝達される。
【0056】
この状態から第1軸1に時計回りの回転トルクが入力されると、大径側の分割アーマチュア9aがロータ18に吸着され、第1軸1に固定された小径側の分割アーマチュア9bと大径側の分割アーマチュア9aが相対回転し、その相対回転によりスプラグ31が重心回りに回転して傾き、図7に示すように、両端の弧状面31a、31bが円筒面29、30に係合する。その係合により、第1軸1の回転がスプラグ31を介して外輪3に伝達され、外輪3が第1軸1と同方向に回転する。
【0057】
なお、小径側の分割アーマチュア9bと大径側の分割アーマチュア9aの相対回転によりスイッチばね13が弾性変形する。この変形を利用して、電磁コイル22aに対する通電を遮断すると、スイッチばね13の復元弾性により大径側の分割アーマチュア9aが回動され、スプラグ31は起立状態になって高さが低くなり円筒面29、30に対して係合解除され、第1軸1から外輪3への回転トルクの伝達が遮断される。
【0058】
上記第3の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、軸方向長さの短い小型コンパクトな軽量の回転伝達装置を得ることができる。
【0059】
なお、第3の実施形態において、大径側の分割アーマチュア9aを外輪3に固定し、小
径側の分割アーマチュア9bを回転自在にしてスイッチばね13を係止しても同様の効果が得られ、その場合は、ロータ18を第1軸1に固定する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】(I)はこの発明に係る回転伝達装置の第1の実施形態を示す縦断正面図、(II)は(I)のイ−イ線に沿った断面図
【図2】図1(I)のロータ部位を拡大して示す断面図
【図3】図1に示す回転伝達装置のロータに対するアーマチュアの吸着状態を示す断面図
【図4】図1に示す回転伝達装置のローラの係合状態を示す縦断側面図
【図5】(I)はこの発明に係る回転伝達装置の第2の実施形態を示す縦断正面図、(II)は(I)のロ−ロ線に沿った断面図
【図6】(I)はこの発明に係る回転伝達装置の第3の実施形態を示す縦断正面図、(II)は(I)のハ−ハ線に沿った断面図
【図7】図6に示す回転伝達装置のスプラグの係合状態を示す縦断断面図
【符号の説明】
【0061】
1 第1軸(内方部材)
3 外輪(外方部材)
7 円筒面
8 カム面
9 アーマチュア
9a 大径側の分割保持器
9b 小径側の分割保持器
10 径方向溝
11 ローラ(係合子)
13 スイッチばね
13a 短部の押圧片
13b 長部の押圧片
14 切欠き
15 切欠部
18 ロータ
20 窪み
21 離反ばね
22 電磁石
22a 電磁コイル
23 静止部材
24 カム面
25 円筒面
29 円筒面
30 円筒面
31 スプラグ(係合子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内方部材と、その内方部材の外側に設けられた外方部材と、その外方部材の内周と内方部材の外周間に組込まれて軸方向に移動可能な磁性体から成るアーマチュアと、そのアーマチュアの一側面に形成された径方向溝内に収容され、前記アーマチュアが内方部材と外方部材の一方に結合されて他方に対する相対回転時に内方部材の外周および外方部材の内周に係合する係合子と、前記内方部材または外方部材のいずれにも回転トルクが入力されない時に前記係合子を内方部材の外周および外方部材の内周に係合させるように内方部材または外方部材に対するアーマチュアの位置を弾性力によりセットするスイッチばねと、前記係合子がアーマチュアの径方向溝から軸方向に抜け出るのを防止する脱落防止手段と、前記外方部材の内周又は内方部材の外周に固定されて前記アーマチュアの他側面と軸方向で対向するロータと、静止部材に支持されて前記ロータと軸方向で対向し、通電によりロータにアーマチュアを吸着させる電磁石とから成る回転伝達装置。
【請求項2】
前記内方部材の外周と外方部材の内周における一方に円筒面を形成し、他方にその円筒面との間で周方向の両端が狭小のくさび状空間を形成するカム面を設け、そのカム面と円筒面に対して係合および係合解除される係合子をローラとした請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項3】
前記内方部材の外周と外方部材の内周のそれぞれに円筒面を形成し、その両円筒面に対して係合および係合解除される係合子をスプラグとし、前記アーマチュアを内、外に二分割し、一方の分割アーマチュアを内方部材、又は外方部材に固定し、他方の分割アーマチュアにスイッチばねの弾性力を付与して円筒面に対して係合する姿勢にスプラグを保持した請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項4】
前記係合子がプレス成形品から成る請求項1乃至3のいずれかに記載の回転伝達装置。
【請求項5】
前記係合子が、アルミニウム又は合成樹脂の成形品から成る請求項1乃至3のいずれかに記載の回転伝達装置。
【請求項6】
前記アーマチュアをロータから離反する方向に付勢する離反ばねを設けた請求項1乃至5のいずれかに記載の回転伝達装置。
【請求項7】
前記ロータに離反ばねの一部を収容する窪みを設けた請求項6に記載の回転伝達装置。
【請求項8】
前記脱落防止手段が、内方部材の外周に取付けられ、前記アーマチュアが前記ロータに吸着される状態でそのアーマチュアの一側面との間に係合子の厚み以下の間隔をおいて対向する環状のストッパプレートから成る請求項1乃至7のいずれかに記載の回転伝達装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate