説明

回転切削装置

【課題】切削用液剤及び空気が周辺から供給され、回転切削工具の先端部から切削用液剤の霧状体を噴射するにあたり、良質な霧状体を安定的に噴射する。
【解決手段】本発明の回転切削装置は、切削用液剤と空気との混合気を供給管4、カバー3の第1供給路b、チャック装置2の第2供給路c,d、チャック装置の中心部空洞(絞り前室d、絞り24a、絞り後室e)、回転切削工具1の第3供給路gの順で通して給送する。第1供給路と第2供給路とは、カバーとチャック装置との相対回転に伴って開口同士が対向することで間欠的に接続し、第2供給路が流体を絞りに向けて噴射し、前室は第2供給路から拡径して形成され、絞りは第2供給路の最小径より小径に形成され、後室は回転切削工具の後端面の周縁と絞りの下流側円錐状内面とが密着周接することにより、当該後端面と当該下流側円錐状内面とにより形成され、前室は後室より大容量に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリル等の回転切削工具の先端部から切削用液剤と空気とが混合した霧状体を噴射する回転切削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転切削加工において切削部の潤滑・冷却等のために、切削部(切刃や被削材)に対し切削油、水溶性クーラント等の切削用液剤を供給することが行われている。
切削部に対する切削用液剤の供給は、回転切削工具の外部から供給する外部供給方式のほか、回転切削工具に設けられた孔から供給する内部供給方式が用いられている(特許文献1−3参照)。
【0003】
内部供給方式において切削用液剤の供給路は、その流路中心が始終回転中心に配置されて構成された中心供給型が好ましい。中心供給型であれば、非回転部から回転部への供給路の接続が比較的容易であるし、供給路内を流れる流体への遠心力の影響を軽減できる。
しかし、中心供給型は、回転中心で全体を貫く貫通路のある機械構成に限定されるから、採用の幅が狭い。そのため、回転主軸の工具保持端において回転中心から離れた周辺から切削用液剤を供給し、装置内部にて供給路を回転中心へ引き回す周辺供給型も採用される。
周辺供給型であれば、回転切削工具を回転駆動する機械構成に制限を受けないから、既存の旋盤など様々な回転系工作機械に広く採用することができる。その反面、周辺供給型であると、非回転部から回転部への供給路の接続は、回転中心から所定の半径だけ離れた部位で行わなければならないし、供給路を少なくとも一箇所において曲成する必要もある。また、回転中心から離れた供給路では供給路内を流れる流体への遠心力の影響が比較的大きくなるという不利な面もある。
【0004】
近時、切削用液剤と空気とが混合された霧状体を供給することに優位性があると知られている。霧状にて供給することにより、切削部に対し少量で均一に切削用液剤を供給することができ、加工効率、刃具寿命の向上とともに、切削用液剤の節減とクリーン性や作業効率の向上を推進できるほか、油の霧状体と水の霧状体とを混合して供給することまで可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−181743号公報
【特許文献2】実公平7−35699号公報
【特許文献3】実公平5−13476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の周辺供給型の回転切削装置で切削用液剤と空気とが混合された霧状体を供給するには、次のような問題がある。
従来の周辺供給型の回転切削装置にあっては、切削用液剤と空気とが混合した霧状体を回転主軸の周辺から供給しても、回転切削工具の先端部に設けられた噴射口から霧状体が良好に噴射されることはなく、一部が液状化して出たり、霧状体が噴出されるも間欠的、脈動的に噴出されたりと、霧状体を安定的に噴射することは困難である。また、その影響で回転切削工具内の供給路を細径化すること、従って小径の回転切削工具を適用することに困難性があった。
霧状体の噴出が不安定化する原因は、回転主軸の周辺から供給された霧状体が遠心力によって供給路の内壁に当たり再液状化すること、再液状化により供給路内に溜まった液体が霧状体の流れに作用して噴出を間欠的、脈動的にし、噴出を不安定にすることにあると考えられる。
遠心力に負けないように単に霧状体の供給圧を高めても、却って供給路の曲成部で霧状体が内壁に当たり再液状化するために、同様の結果を避けることは困難である。
【0007】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、切削用液剤及び空気が回転主軸の周辺から供給され、該回転主軸に保持された回転切削工具の先端部から切削用液剤と空気とが混合した霧状体を噴射するにあたり、良質な霧状体を安定的に噴射することができる回転切削装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、回転切削工具を掴持し回転主軸に固定されるチャック装置と、
前記チャック装置の外周面の一部を一周に亘って密着滑動可能に覆う筒状部を有し非回転に保持されるカバーとを備え、
切削用液剤と空気との混合気を圧送する供給管から、当該混合気を、前記カバーに形成された第1供給路、前記チャック装置に形成された第2供給路、前記チャック装置の回転中心部に形成された中心部空洞、前記回転切削工具にその後端面と先端部との各開口を連通するように形成された第3供給路の順でこれらの流路を通して給送し、前記切削用液剤の霧状体を前記回転切削工具の先端部の開口から噴射する回転切削装置であって、
前記第1供給路は、前記筒状部の周壁を内外方向に貫通して形成され、
前記供給管は、前記第1供給路の外側開口に接続され、
前記第2供給路は、一端が前記外周面に開口し、他端が前記中心部空洞に開口して形成され、
前記第1供給路と前記第2供給路とは、前記カバーと前記チャック装置との相対回転に伴って、前記第1供給路の内側開口の少なくとも一部と前記第2供給路の外側開口の少なくとも一部とが対向することで接続し、前記第1供給路の内側開口が前記外周面により覆われるとともに前記第2供給路の外側開口が前記カバーの内周面により覆われることで切断され、
前記中心部空洞内の回転軸上の位置に絞りが構成され、前記絞りにより前記中心部空洞が当該絞りの前室と後室とに分けられ、
前記第2供給路は、前記前室に接続され、
前記第2供給路が前記混合気を前記絞りに向けて噴射するように配置され、
前記前室は、前記第2供給路から拡径して形成され、
前記絞りは、前記第2供給路の最小径より小径に形成され、
前記後室は、前記第3供給路に接続され、
前記後室は、前記回転切削工具の後端面の周縁と前記絞りの下流側円錐状内面とが周接することにより、当該後端面と当該下流側円錐状内面とにより包囲されて形成され、
前記前室は、前記後室より大容量に形成されている回転切削装置である。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記第2供給路の全部又は内側開口を含む一部は、前記供給管の混合気出射口の内径以下の内径に形成されている請求項1に記載の回転切削装置である。
【0010】
請求項3記載の発明は、前記第2供給路の外側開口は、下流側に対して拡幅して形成され、周方向の最大内寸が軸方向の最大内寸より大きく形成されている請求項1又は請求項2に記載の回転切削装置である。
【0011】
請求項4記載の発明は、前記第2供給路の外側開口は、周方向に沿った両端部が中央部に向かって徐々に拡幅するように形成されている請求項3に記載の回転切削装置である。
【0012】
請求項5記載の発明は、前記第2供給路の前記外側開口の下流に続く流路は、当該外側開口の中心位置よりも回転方向後方にオフセットした位置に形成されている請求項3に記載の回転切削装置である。
【0013】
請求項6記載の発明は、前記チャック装置は、
締付によって縮径することにより前記回転切削工具を掴持する掴持ピースと、
前記絞りを構成する絞りピースと、
前記掴持ピース及び前記絞りピースを前端側から受け入れ内側に保持し、後端が前記回転主軸に締結される筒状のホルダと、
前記掴持ピースに係合し、前記ホルダに羅合して、前記掴持ピースの外テーパを前記ホルダの内テーパに押し付けて前記締付を実現するナットと、
前記絞りピースと前記ホルダの内周面との間を封止するO−リングとを有し、
前記ホルダには、前記カバーと密着滑動する前記外周面が構成されるとともに、前記第2供給路が形成され、さらに前記ホルダの内周面に後端側が狭くなって前記O−リングを係止する段差部が周設され、
前記絞りピースには、前記絞りに向かって縮径する円錐状内面が前記絞りの両側に形成され、その上流側円錐状内面の周囲に後端面が設けられ、
前記ホルダの後端側の開口は、前記ホルダが前記回転主軸に締結されることにより塞がれ、
前記ナットの羅合回転により前記締付が実施されるとともに、前記回転切削工具の後端を前記絞りピースの下流側円錐状内面に押し当てて当該絞りピースを後方へ付勢し、前記O−リングを前記絞りピースの前記後端面と前記ホルダの前記段差部とで挟圧保持することにより前記前室及び前記後室が完成され、
前記第2供給路は前記O−リングより後端側で前記前室に開口する請求項1から請求項5のうちいずれか一に記載の回転切削装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、供給管から圧送された切削用液剤と空気との混合気は、第1供給路と第2供給路との間欠的な接続により内圧を下げることなく限定された接続期間に集中して第2供給路へ圧送され、遠心力に負けるともなく絞りから離れた内壁に衝突することもなくそのまま絞りに向けて噴射され、再液状化が抑制されつつ円滑、迅速に回転軸上に配置された絞りに到達する。
絞りの前室において切削用液剤の霧状化が不十分な場合にも、この絞りの作用により切削用液剤を十分に霧状化して、その後、回転軸上又はその近傍に集中配置された絞り後室及び第3供給路を通して給送することにより遠心力による切削用液剤の再液状化を抑制しつつ切削用液剤の霧状体を回転切削工具の先端部から噴射することができるという効果がある。
【0015】
また本発明によれば、絞り前室は第2供給路より拡径して形成され、絞りは第2供給路の最小径より小径に形成され、絞り前室は絞り後室より大容量に形成されている。
したがって、第1供給路と第2供給路との接続期間において、絞り前室に切削用液剤と空気の加圧体が蓄えられ、絞り前室は最高圧に達する。絞り前室に蓄えられた切削用液剤と空気の加圧体は絞りにより徐々に送出されるから、第1供給路と第2供給路との切断期間においても絞り前室の内圧は、急降下が抑えられて比較的緩やかに低下する。そして内圧の低下が著しくなる前に、次の第1供給路と第2供給路との接続期間を迎え、比較的小さな上昇で絞り前室は最高圧に復帰する。その結果、回転切削工具の先端部からの噴射の脈動を抑えて安定的に切削用液剤の霧状体を回転切削工具の先端部から噴射することができるという効果がある。すなわち、絞りを設け、相対的に大面積・大容量の絞り前室を設けることによって、脈動変化を緩和させるという効果がある。
【0016】
第2供給路の全部又は内側開口を含む一部は、供給管の混合気出射口の内径以下の内径に形成されていることが好ましい。
また、第2供給路の外側開口は、下流側に対して拡幅して形成され、周方向の最大内寸が軸方向の最大内寸より大きく形成されていることが好ましい。
さらに、第2供給路の外側開口は、周方向に沿った両端部が中央部に向かって徐々に拡幅するように形成されていることが好ましい。
また第2供給路の外側開口の下流に続く流路は、当該外側開口の中心位置よりも周方向にオフセットした位置に形成されていることが好ましい。
このようにすることにより、第1供給路と第2供給路との接続期間を適度に確保し、供給管から圧送される混合気を第2供給路に円滑に導入し、内圧を下げることなく再液状化を抑制しつつ絞りに向けて強力に噴射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る回転切削装置の主要部を断面で示した要部側視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る供給管の接続部分の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るコレットホルダの斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るコレットホルダの部分側面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るチャック装置に構成された第2供給路開閉機構を示す断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るチャック装置に構成された第2供給路開閉機構の開角度を計算するための補足図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るチャック装置に構成された絞り前室の圧力の時間変化を示すグラフ(実線)である。破線グラフは比較例に係る。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0019】
図1、図2、図3に示すように本発明の一実施形態に係る回転切削装置は、回転切削工具としてのドリル1と、チャック装置2と、カバー3と、供給管4と、コネクタ5とを備える。
チャック装置2は、コレットチャックであり、コレット21と、コレットホルダ22と、コレットナット23と、絞りピース24と、O−リング25とを備える。
【0020】
チャック装置2はドリル1を掴持する。
コレットホルダ22は、両端にそれぞれテーパ面を備えた筒状で、コレットホルダ22の後端が回転主軸6に外嵌され、皿ボルト7によってコレットホルダ22と回転主軸6とが締結固定される。これによりコレットホルダ22の後端開口は塞がれる。
【0021】
さらに組立てるには、皿ボルト7によって締結した後、コレットホルダ22の前端開口からO−リング25を挿入する。コレットホルダ22の内周面に、前端側に対し後端側が狭くなって形成された段差部22aが周設されている。O−リング25は段差部22aに係止され、それ以上後端側に移動しないように規制される。
【0022】
その後、コレットホルダ22の前端開口から絞りピース24を挿入する。絞りピース24には、絞り24aに向かって縮径する円錐状内面24b,24cが絞り24aの両側に形成され、その上流側円錐状内面24bの周囲に後端面24dが設けられている。コレットホルダ22の後端面24dがO−リング25の前端に突き当たって止まる。
上流側円錐状内面24bと、下流側円錐状内面24cとは、それぞれ絞り24aにほぼ頂点を配置する円錐状である。また両者はほぼ同一傾斜角である。したがって、コレットホルダ22の前側半分と後側半分とを対称に構成し、裏表無しに使用可能としてもよい。
【0023】
その後、コレットホルダ22の前端開口にコレット21の後端部を挿入し、コレット21後端部の外テーパ面をコレットホルダ22前端部の内テーパに合わせる。また、ドリル1をコレット21に挿入する。
コレットホルダ22の前端部外周には雄螺子22bが設けられており、コレットナット23をコレットホルダ22の雄螺子22bに羅合させて、コレットナット23を締め付ける。遅くとも本締めの開始時には、ドリル1の後端を絞りピース24の下流側円錐状内面24cに当接させる。
コレットナット23はコレット21の前端部に係合しコレット21の前端方向の移動を規制する。したがって、コレットナット23を締め付けると、コレット21の外テーパがコレットホルダ22の内テーパに押し付けられる。
【0024】
すると、コレット21は締付によって縮径することによりドリル1を掴持する。それと同時に、ドリル1の後端は絞りピース24の下流側円錐状内面24cに押し当てられて絞りピース24を後方へ付勢し、O−リング25を絞りピース24の後端面24dとコレットホルダ22の段差部22aとで挟圧保持する。O−リング25は絞りピース24とコレットホルダ22の内周面との間を封止する。
これにより絞り前室e及び絞り後室fが完成する。このとき、O−リング25の断面が挟圧方向(回転軸方向)に圧縮変形することにより、その封止性が高められるとともに、コレットナット23の締め付けに伴うドリル1の後退が許容されてコレット21によるドリル1の掴持が完結できる。
チャック装置2の回転中心部に形成された中心部空洞は、絞り24aにより絞り前室eと絞り後室fとに分けられ、回転軸M上に絞り24aが構成される。
絞り後室fは、ドリル1の後端面の周縁と絞り24aの下流側円錐状内面24cとが密着周接することにより、ドリル1の後端面と当該下流側円錐状内面24cとにより包囲されて形成される。絞り前室eは、絞り後室fより大容量に形成される。
【0025】
一方、回転主軸6はベアリング8を介して外筒フレーム9に支持されている。
カバー3は筒状体で、後端が外筒フレーム9に外嵌されて非回転に固定される。このとき、カバー3の前端側の筒状部3aは、コレットホルダ22の外周面22cを一周に亘って密着滑動可能に覆う。筒状部3aには、その周壁を内外方向に貫通する第1供給路bが形成されている。
【0026】
切削用液剤と空気との混合気を圧送する供給管4は、第1供給路bの外側開口にコネクタ5を介して接続される。
図2に示すように、供給管4は二重管構造を有しており、内管4aによって切削用液剤が所定の圧力で矢印方向に圧送され、外管4bによって空気が所定の圧力で矢印方向に圧送される。供給管4の先端にはノズル4cが付設される。このノズル4cにおいて切削用液剤が霧状化し切削用液剤と空気とが混合した混合気となり、第1供給路bへ送出される。
供給管4の図示しない根元方向には、エアーバルブ及び切削用液剤のバルブが設けられ、エアーバルブにより空気の供給量が調整され、切削用液剤のバルブにより切削用液剤の供給量が調整され、その結果、切削用液剤と空気の混合比が調整される。
コネクタ5は、第1供給路bの内周に設けられた雌螺子に羅合固定される中空ボルト5aと、中空ボルト5aの外端開口に嵌入されたニップル5bとで構成される。
ニップル5bに供給管4の先端部のノズル4cが嵌入されて、供給管4が装着される。
【0027】
コレットホルダ22には第2供給路が形成されている。第2供給路(c+d)は、下流側の細径部dと、この細径部dに対して拡幅して形成され外側開口c1を最大面積とする拡幅部cとで構成されている。細径部dは、供給管4の混合気出射口aの内径以下の内径に形成されている。
【0028】
第2供給路は、一端が外周面22cに開口し、他端が絞り前室eに開口する。よって第2供給路の細径部dと絞り前室eとが接続されている。第2供給路の細径部dはO−リング25より後端側で絞り前室eに開口する。
第2供給路の外側開口c1(図3参照)は、コレットホルダ22の回転に伴って第1供給路bと第2供給路の拡幅部cとを連通させるように配置される。
第2供給路は、その外側開口c1から内側開口d1に辿ったとき前方へ遷移するように回転軸Mに対し傾斜した直線状に形成されている。第2供給路の流路中心軸と回転軸Mとの交点とほぼ同位置に、絞り24aが配置される。かかる配置とすることにより、第2供給路の細径部dから噴射される流体が絞り24aに向けて噴射されることとなる。
給送の円滑のため、第2供給路を皿ボルト7側に膨らんだ曲線状に形成した方が良いが、直線状の方が加工は容易である。曲線状に形成する場合にも最終的に第2供給路から噴射される流体が絞り24aに向けて噴射されるように第2供給路を配置する。
【0029】
カバー3の筒状部3aの内周面とコレットホルダ22の外周面22cとの間には、供給路からの漏れを防止するX−リング10,10が前後に保持されている。
【0030】
ドリル1に第3供給路g,gが形成されている。第3供給路g,gは、一端がドリル1の先端部に開口し、他端がドリル1の後端面に開口する。ドリル1の先端部の開口は、切削用液剤の霧状体の噴射口となる。この噴射口はドリル1の先端に形成される切刃の逃げ面に配置され前方に向けて開口する。また、他の噴射口としてドリル1の先端部の側部に第3供給路g,gの開口を形成してもよい。
絞り前室eは、第2供給路の細径部dから拡径して形成されている。絞り24aは、第2供給路の最小径(細径部dの径)より小径に形成されている。絞り後室fは、第3供給路g,gに接続されている。
【0031】
以上の構造により本回転切削装置は、切削用液剤と空気との混合気を、供給管4、第1供給路b、第2供給路(c+d)、中心部空洞(絞り前室e→絞り24a→絞り後室f)、第3供給路g,gの順でこれらの流路を通して給送し、切削用液剤の霧状体をドリル1の先端部から噴射する。
【0032】
次に、図3から図6を参照して、第2供給路及びその開閉機構につき説明する。
図3、図4に示すように第2供給路の外側開口c1は、周方向の最大内寸c2が軸方向の最大内寸c3より大きく形成されている。
本実施形態に拘わらず第2供給路に拡幅部cを設けずに、第2供給路の全体を供給管の混合気出射口の内径以下の細径部dとしてもよい。しかし、本実施形態のように第2供給路の導入部に上記形状の外側開口c1を有する拡幅部cを設けることにより、第1供給路bと第2供給路cとの接続期間を適度に確保しつつ、供給管4から圧送される混合気を第2供給路(c+d)に円滑に導入することができる。
【0033】
また図4に示すように第2供給路の外側開口c1は、周方向に沿った両端部が中央部に向かって徐々に拡幅するように形成されている。
また図4に示すように第2供給路の外側開口c1の下流に続く細径部dは、外側開口c1の中心位置よりも周方向にオフセットした位置に形成されている。
図5(a)又は図6において矢印で示すようにコレットホルダ22は回転する。したがって、細径部dは外側開口c1の中心位置よりも回転方向後方にオフセットした位置に形成されている。
以上の構成により、供給管4から圧送される混合気を第2供給路の拡幅部cで導き、第2供給路の細径部dに円滑に導入することができる。
【0034】
本実施形態において拡幅部cはエンドミルにより加工されたものである。細径部dの中心軸方向と平行にエンドミルを配置してコレットホルダ22の外周部を切削することにより、図示のような形状が得られる。
【0035】
図5に示すように、第1供給路bと第2供給路(c+d)とは、カバー3とコレットホルダ22との相対回転に伴って、第1供給路bの内側開口の少なくとも一部と第2供給路の外側開口c1の少なくとも一部とが対向することで接続し、第1供給路bの内側開口がコレットホルダ22の外周面22cにより覆われるとともに第2供給路の外側開口c1がカバー3の内周面により覆われることで切断される。
したがって、図5(a)→(b)→(c)の変化期間が、第1供給路bと第2供給路(c+d)との接続期間となり、図5(c)→(a)の変化期間が、第1供給路bと第2供給路(c+d)との切断期間となる。
【0036】
図6に示すように、第1供給路bの内径をφAとする。本実施形態において第1供給路bの内径φAは、第2供給路の外側開口c1の周方向の最大内寸c2に等しく形成される。すなわち、φA=c2である。
コレットホルダ22の外径とカバー3の筒状部3aの内径とは実質的に等しく、φBとする。
以上の条件によると、第1供給路bと第2供給路(c+d)との接続期間に進行する相対角は図示の角θの4倍、すなわち、4θとなる。これを第2供給路開閉機構の開角度と称することとする。φB=22mmの場合、φA=c2=10mmとすることにより良好に霧状体を噴射することができた。この場合、第2供給路開閉機構の開角度4θは、図6に示す幾何学的関係から114°と計算される。φBが22mmと異なる場合でも、開角度4θが114°程度となるように構成することが好ましい。
【0037】
ここで改めて本回転切削装置の動作につき説明する。
本回転切削装置を使用するには、まず、回転主軸6を駆動するモータを起動して回転主軸6を回転させる。すると、回転主軸6、チャック装置2、ドリル1は、一体回転する。
次に、供給管4のエアーバルブを所望の開度に開け、続いて切削用液剤のバルブを所望の開度に開ける。
すると、上述したように供給管4の内管4aから噴射される切削用液剤が霧状になって外管4bから噴射される空気と混合して、ノズル4cにおいて切削用液剤と空気との混合気が生成されて、コネクタ5を介して第1供給路bへ送出される。
ノズル4cから噴射された混合気は、第1供給路bと第2供給路(c+d)との切断期間においては、外周面22cでせき止められるが、その分内圧は高められ、第1供給路bと第2供給路(c+d)との接続期間において第2供給路の拡幅部cに集中的に圧入される。拡幅部cに進入した混合気は、拡幅部cの工夫された形状によって第2供給路の細径部dに導かれる。
細径部dに進入した混合気は、内側開口d1から出射し絞り前室e内の空間を飛翔して、絞り24aに噴射される。
そして、絞り24aによって再霧状化が行われて、絞り後室f、ドリル1内の第3供給路g,gを通って、切削用液剤の霧状体がドリル1の先端部から噴射される。
【0038】
以上のように、供給管4から圧送された切削用液剤と空気との混合気は、第1供給路bと第2供給路(c+d)との間欠的な接続により内圧を下げることなく限定された接続期間に集中して第2供給路(c+d)へ圧送され、遠心力に負けるともなく絞り24aから離れた内壁に衝突することもなくそのまま絞り24aに向けて噴射され、再液状化が抑制されつつ円滑、迅速に回転軸上に配置された絞り24aに到達する。
そして、絞り前室eの前端側のほぼ全面が上流側円錐状内面24bにより形成されており、絞り前室eの側部は上流側円錐状内面24bの最大径部に内径が略一致したO−リング25により封止され、絞り前室eの後端側も第2供給路の内側開口d1より後方に空間を造ることなく密閉されているから、液溜りし易い空間はない。切削用液剤の一部が再液状化しても、そのほとんどが上流側円錐状内面24bに捕らえられて絞り24aにより再霧状化する。
さらに、回転軸M上又はその近傍に集中配置された絞り後室f及び第3供給路g,gを通して給送することにより遠心力による切削用液剤の再液状化を抑制しつつ切削用液剤の霧状体をドリル1の先端部から噴射することができる。
【0039】
本実施形態においては、絞り前室eは第2供給路の細径部dより拡径して形成され、絞り24aは第2供給路の最小径より小径に形成され、絞り前室eは絞り後室fより大容量に形成されている。
これにより、混合気の間欠的導入を採用していても、ドリル1の先端部から噴射される霧状体の脈動変化を緩和させるという効果がある。これにつき図7を参照して説明する。
【0040】
図7は、第1供給路bと第2供給路(c+d)との接続期間を1周期の約1/3、切断期間を1周期の約2/3とした場合を示す。図7に示す実線グラフは本実施形態に係る絞り前室eの圧力の時間変化を示し、破線グラフは、本実施形態に対して絞りを大きくした比較例(中心部空洞内を全く絞らない場合を含む)の圧力の時間変化示す。但し、供給管4内のエアー圧を約0.5MPaとする。
【0041】
第1供給路bと第2供給路(c+d)との接続期間T1において、絞り前室eに切削用液剤と空気の加圧体が蓄えられる。接続期間T1の終期で絞り前室eは最高圧(約0.5MPa)に達する。
本実施形態にあっては、絞り前室eに蓄えられた切削用液剤と空気の加圧体は絞り24aにより徐々に送出されから、切断期間T2においても絞り前室eの内圧は、急降下が抑えられて比較的緩やかに低下する。これに対し比較例にあっては、内圧は急降下し切断期間T2の後期においては大気圧まで低下する。
一方、本実施形態にあっては、内圧の低下が著しくなる前に、次の接続期間T3を迎え、比較的小さな上昇で絞り前室eは最高圧(約0.5MPa)に復帰する。その結果、ドリル1の先端部からの噴射の脈動を抑えて安定的に切削用液剤の霧状体をドリル1の先端部から噴射することができる。
これに対し比較例にあっては、内圧は、最高圧(約0.5MPa)と大気圧との間の変化を繰り返すから、噴射の脈動変化が著しくなる。
【0042】
比較例において脈動変化を抑えるには、接続期間T1,T3の割合を大きくするか、第2供給路の流路径を大きくする必要がある。
しかし、接続期間の割合を大きくすれば、混合気が導入される際の流速が低下し、遠心力に負けて内壁にあたり再液状化するおそれがある。流路径を大きくすれば、切削用液剤が溜まる空間が増加して好ましくない。
これに対し本実施形態によれば、接続期間T1,T3の割合が小さく、かつ、第2供給路の流路径が小さくても、その分、絞り前室eに短期集中的に高圧で混合気を高速導入して導入時の再液状化を防ぎ、そして、第2供給路の最小径よりさらに小径の絞り24aを設け、相対的に大面積・大容量の絞り前室eを設けることによって、絞り前室eに混合気の加圧体をチャージして、チャージした混合気の加圧体を切断期間T2に亘って絞り24aにより絞って少量ずつドリル1内の第3供給路g,gへ供給することで、例え第3の供給路g,gが比較的細い小径のドリルであっても、脈動変化が抑えられた安定的な霧状体の噴射が可能となる。
【0043】
なお、以上の実施形態においては、回転切削工具をドリルとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、リーマ、エンドミル等の他の回転切削工具を適用しても良いことは勿論である。
【符号の説明】
【0044】
1 ドリル
2 チャック装置
3 カバー
4 供給管
5 コネクタ
6 回転主軸
7 皿ボルト
8 ベアリング
9 外筒フレーム
21 コレット(掴持ピース)
22 コレットホルダ
22a 段差部
22c 外周面
23 コレットナット
24 絞りピース
24a 絞り
24b 上流側円錐状内面
24c 下流側円錐状内面
24d 後端面
25 O−リング
a 混合気出射口
b 第1供給路
c 第2供給路の拡幅部
c1 第2供給路の外側開口
d 第2供給路の細径部
d1 第2供給路の内側開口
e 絞り前室
f 絞り後室
g 第3供給路
M 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転切削工具を掴持し回転主軸に固定されるチャック装置と、
前記チャック装置の外周面の一部を一周に亘って密着滑動可能に覆う筒状部を有し非回転に保持されるカバーとを備え、
切削用液剤と空気との混合気を圧送する供給管から、当該混合気を、前記カバーに形成された第1供給路、前記チャック装置に形成された第2供給路、前記チャック装置の回転中心部に形成された中心部空洞、前記回転切削工具にその後端面と先端部との各開口を連通するように形成された第3供給路の順でこれらの流路を通して給送し、前記切削用液剤の霧状体を前記回転切削工具の先端部の開口から噴射する回転切削装置であって、
前記第1供給路は、前記筒状部の周壁を内外方向に貫通して形成され、
前記供給管は、前記第1供給路の外側開口に接続され、
前記第2供給路は、一端が前記外周面に開口し、他端が前記中心部空洞に開口して形成され、
前記第1供給路と前記第2供給路とは、前記カバーと前記チャック装置との相対回転に伴って、前記第1供給路の内側開口の少なくとも一部と前記第2供給路の外側開口の少なくとも一部とが対向することで接続し、前記第1供給路の内側開口が前記外周面により覆われるとともに前記第2供給路の外側開口が前記カバーの内周面により覆われることで切断され、
前記中心部空洞内の回転軸上の位置に絞りが構成され、前記絞りにより前記中心部空洞が当該絞りの前室と後室とに分けられ、
前記第2供給路は、前記前室に接続され、
前記第2供給路が前記混合気を前記絞りに向けて噴射するように配置され、
前記前室は、前記第2供給路から拡径して形成され、
前記絞りは、前記第2供給路の最小径より小径に形成され、
前記後室は、前記第3供給路に接続され、
前記後室は、前記回転切削工具の後端面の周縁と前記絞りの下流側円錐状内面とが周接することにより、当該後端面と当該下流側円錐状内面とにより包囲されて形成され、
前記前室は、前記後室より大容量に形成されている回転切削装置。
【請求項2】
前記第2供給路の全部又は内側開口を含む一部は、前記供給管の混合気出射口の内径以下の内径に形成されている請求項1に記載の回転切削装置。
【請求項3】
前記第2供給路の外側開口は、下流側に対して拡幅して形成され、周方向の最大内寸が軸方向の最大内寸より大きく形成されている請求項1又は請求項2に記載の回転切削装置。
【請求項4】
前記第2供給路の外側開口は、周方向に沿った両端部が中央部に向かって徐々に拡幅するように形成されている請求項3に記載の回転切削装置。
【請求項5】
前記第2供給路の前記外側開口の下流に続く流路は、当該外側開口の中心位置よりも回転方向後方にオフセットした位置に形成されている請求項3に記載の回転切削装置。
【請求項6】
前記チャック装置は、
締付によって縮径することにより前記回転切削工具を掴持する掴持ピースと、
前記絞りを構成する絞りピースと、
前記掴持ピース及び前記絞りピースを前端側から受け入れ内側に保持し、後端が前記回転主軸に締結される筒状のホルダと、
前記掴持ピースに係合し、前記ホルダに羅合して、前記掴持ピースの外テーパを前記ホルダの内テーパに押し付けて前記締付を実現するナットと、
前記絞りピースと前記ホルダの内周面との間を封止するO−リングとを有し、
前記ホルダには、前記カバーと密着滑動する前記外周面が構成されるとともに、前記第2供給路が形成され、さらに前記ホルダの内周面に後端側が狭くなって前記O−リングを係止する段差部が周設され、
前記絞りピースには、前記絞りに向かって縮径する円錐状内面が前記絞りの両側に形成され、その上流側円錐状内面の周囲に後端面が設けられ、
前記ホルダの後端側の開口は、前記ホルダが前記回転主軸に締結されることにより塞がれ、
前記ナットの羅合回転により前記締付が実施されるとともに、前記回転切削工具の後端を前記絞りピースの下流側円錐状内面に押し当てて当該絞りピースを後方へ付勢し、前記O−リングを前記絞りピースの前記後端面と前記ホルダの前記段差部とで挟圧保持することにより前記前室及び前記後室が完成され、
前記第2供給路は前記O−リングより後端側で前記前室に開口する請求項1から請求項5のうちいずれか一に記載の回転切削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−67875(P2011−67875A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218392(P2009−218392)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】