説明

回転印用無端印字ベルト

【課題】 従来の回転印用無端印字ベルトにおける台座と台座の間の湾曲面もしくは扁平面の面とりだけでは、交差角部の応力集中を十分に減少させることができず、長期間にわたる使用によって交差角部に亀裂を生じさせていた。
【解決手段】 ベルト基材上に複数の台座及び印字部を形成した回転印用無端印字ベルトにおいて、台座と台座の間隔を略円形に形成してなることを特徴とする回転印用無端印字ベルト。また、前記回転印用無端印字ベルトが連続気泡を有する多孔質材で構成されている回転印用無端印字ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転印に使用される無端印字ベルトに関するものであって、特に、浸透印タイプの回転印に使用される連続気泡を有する多孔質材を用いた無端印字ベルトにも用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
数字や英字からなる印字体を台座の上に形成した無端印字ベルトを橋架片に引張屈曲させて架設した回転印としては、実公昭37−2515号等が知られており、連続気泡を有する多孔質材を用いた無端印字ベルトを架設した回転印としては、特公昭47−046786号、実開昭49−124111号、特開昭53−009630号等が知られている。
従来の無端印字ベルトは、ベルト基材に台座を立設しているが、その交差角部は直角に近い角度でシャープに交差されているため、ベルトを回転させている最中に交差角部に相当大きい応力が集中し、ここから亀裂が発生して台座がベルト基材から剥離してしまうことがあった。特に、印材として多孔質材を使用した場合は、素材強度が弱いので一層亀裂が発生しやすかった。
そこで、ベルト基材と台座の交差角部を比較的大なる湾曲面もしくは扁平面の面とりを施してなる無端印字ベルトが考案され、実開昭58−039873号として公開された。当該考案は、橋架片に引張屈曲させて架設した無端印字ベルトが、交差角部の応力集中を減少して亀裂の発生を防止するように構成されている。
【0003】
【特許文献1】特公昭47−046786号公報
【特許文献2】実開昭49−124111号公報
【特許文献4】特開昭53−009630号公報
【特許文献5】実開昭58−039873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、実開昭58−039873号による湾曲面もしくは扁平面の面とりだけでは、交差角部の応力集中を十分に減少させることができず、長期間にわたる使用によって交差角部に亀裂を生じさせていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ベルト基材上に複数の台座及び印字部を形成した回転印用無端印字ベルトにおいて、台座と台座の間隔を略円形に形成してなることを特徴とする回転印用無端印字ベルト。また、前記回転印用無端印字ベルトが連続気泡を有する多孔質材で構成されている回転印用無端印字ベルト。
【発明の効果】
【0006】
従来は台座と台座の間に水平状態で存在していたベルト基材が、本発明回転印用無端印字ベルトでは常に曲線状態を保った状態で存在している。
よって、交差角部の応力集中を完全に無くし、長期間にわたる使用によっても交差角部に亀裂を生じさせることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
本発明の無端印字ベルトは、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などの素材、加硫剤、充填剤、添加剤、気泡形成材等を混練した後シート化したマスターバッチを、所要の台座と印字部を凹状に彫刻した金型に収容し、更にその上面に化学繊維や綿などの補強布を重ねて加圧加熱し、その後離型して金型の彫刻通りに凸状に形成された板状の中間体を製造し、次に中間体の一方の端と他方の端を接着して無端環状体とし、これを所要幅に切断して得られる。
金型は、台座と台座の間に水平になる部分ができないように、真円或いは楕円又はその組み合わせといった凸状の略円形に彫刻することが必須である。これにより、完成した無端印字ベルトの台座と台座が結ばれるベルト基材の部分は、直角に近いシャープな交差角部や水平部分が形成されず、凹状の真円或いは楕円又はその組み合わせといった略円形が形成される。
また、本発明の無端印字ベルトは、非多孔質材であっても多孔質材であっても前述の効果を発揮するが、一般的に連続気泡を有する多孔質材の方が強度が弱いため、多孔質材に本発明の構成を採用した場合の方が亀裂が発生しない恩恵を受けるものと思われる。
【0008】
本発明で用いることができる素材としては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が用いられる。熱硬化性樹脂としては、天然ゴム、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、クロロプレン、ポリウレタンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム等などを用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエチレン系熱可塑性エラストマー、ポリプロピレン系熱可塑性エラストマー、ポリブチレン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリジエン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化物系熱可塑性エラストマー、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂などを用いることができる。
本発明において素材としてゴム系素材を用いる場合は、硫黄、セレン、テルル、塩化イオウなどの公知の加硫剤が用いられる。その使用比率は素材100部に対して2〜30部程度使用する。
本発明においては必要に応じて充填剤が用いられる。使用可能な充填剤としては、公知のカーボンブラック、微粉ケイ酸、人工ケイ酸塩、炭酸カルシルムなどがあり、とりわけカーボンブラックはゴムと強力な結合をするので好ましい。その使用比率は素材100部に対して約40〜60部程度使用する。
さらに、本発明においては通常使用されている添加物を使用することができる。例えば、アミン類などの老化防止剤、エチレングリコール・ジエチレングリコール・トリエチレングリコール・ポリエチレングリコール・プロピレングリコール・ジプロピレングリコール・トリプロピレングリコール・ポリプロピレングリコール・グリセリン・ワセリン・可塑剤・プロセスオイルなどの軟化剤、ステアリン酸・亜鉛華などの加硫助剤、グアニジン類・チアゾール類・チラウム類・スルフェンアミド類・ジチオカルバミン酸塩類などの加硫促進剤などを有効量添加することができる。
また、本発明の無端印字ベルトを多孔質材とする場合は、気泡形成剤を配合する。気泡形成剤としては、塩化ナトリウムや塩化カルシウム等のアルカリ金属塩、ペンタエリスリトールなどを用いることができ、2〜100μmの粒径のものが好ましく用いられる。
本発明では補強材によって補強しても良い。しかし、補強材は必須構成要素ではなく、無端印字ベルトの補強が必要な場合のみ使用すれば良いのであって、必ずしも必要となるものではない。補強材を使用する場合は、厚み0.5mm以下の織編物が主に用いられる。材質としては、主に綿、絹、羊毛、アセテート、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、アクリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、フッ素系フィラメント、ポリクラール、レーヨン、ナイロン、ポリエステルなどの繊維を平織り布や綾織り布、各種編物布や不織布とした布を用いることができる。特に、極微細繊維といわれる繊度1d以下の合成繊維を使用した織編物は、耐インキ性、インキの流通性、強度、ほつれ、耐熱性、接着性、回転性、耐久性などに優れているので、最も好ましい。例えば、シルフローラX(商品名:東洋紡績株式会社製)、ザヴィーナミニマックス、クラウゼンMCF、ベルセイムハイテクロス(商品名:KBセーレン株式会社製)がある。
【0009】
本発明無端印字ベルトを作成する際の金型は、ベルト基材の部分を彫刻し、次に台座を彫刻し、次に印字部を一番深く彫刻してなる。台座と台座の間隔の部分に水平になる部分ができないように、真円或いは楕円又はその組み合わせといった凸状の略円形に彫刻する。
これにより、完成した無端印字ベルトの台座と台座が結ばれるベルト基材の部分は、直角に近いシャープな交差角部や水平部分が形成されず、凹状の真円或いは楕円又はその組み合わせといった略円形が形成される。
本発明では、台座と台座の間隔に水平部分ができないよう略円形の凹状を形成することが目的であるので、金型による無端印字ベルトの形成に限定されない。例えば、加熱した丸金棒を直接押し当てて該当部分を溶融して略円形を形成する方法、炭酸ガスレーザやYAGレーザといった各種レーザ光を用いて該当部分を加熱昇華して略円形を形成する方法なども用いることができる。
【実施例】
【0010】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。
(実施例)
ブタジエン−アクリロニトリル共重合体(NBR)100部に対し重量比で硫黄3.5部、亜鉛華5部、加硫促進剤5部、ワセリン、DBP等からなる軟化剤30部、カーボンブラック50部、老化防止剤2部、80〜100メッシュ(0.149〜0.176mm)の塩化ナトリウム微粉末800部、150〜250メッシュ(0.062〜0.103mm)のバレイショデンプン微粉末及びサッカロース微粉末各100部を加え混練し、厚さ2.5mmの未加硫シートを作成した。
これをベルト基材部分が0.5mm・台座部分が1mm・印字部部分が1mmの深さに文字等を彫り込み、台座と台座の間を半径1mmの真円凸状に形成した金型に収容し、100番手の双糸を縦150本/インチ、横100本/インチの密度の平織りにした綿布をのせ、200kg/cm2の圧力を加えて150℃の温度下で15分間加硫した後、離型して塩化ナトリウムおよび糖を水洗いして完全に洗除し、更に脱水乾燥したところ、連続気泡を有する多孔質材で構成される中間体を得た。
次に、中間体の一方の端のゴムを剥がした接着部に、ゴム溶剤に溶かした未加硫ゴムを塗布した後、他方の端の接着部と加硫接着して無端環状体を得て、これを所要幅に切断し、ベルト基材部分が0.5mm・台座部分が1mm・印字部部分が1mmであって台座と台座の間が半径1mmの真円凹状に形成された多孔質無端印字ベルトを得た。
このようにして得られた無端印字ベルトに400cps(25℃)の高粘度の染料系インキを吸蔵させたところ、インキ吸蔵量も充分で、にじみやかすれのない鮮明な印影が得られた。
また、回転印に組み付けたところ、スムーズな回転を長期間維持することができ、かつ、比較的強い張力で無端印字ベルトを架橋しても長期間交差角部に亀裂が入ることはなかった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来の無端印字ベルトの一部切り欠き図
【図2】本実施例で使用する金型の断面図
【図3】本実施例の無端印字ベルトの一部切り欠き図
【図4】本実施例の回転印の一部拡大図
【符号の説明】
【0012】
1 金型の上型
2 金型の下型
3 ベルト基材
4 台座
5 印字部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト基材上に複数の台座及び印字部を形成した回転印用無端印字ベルトにおいて、台座と台座の間隔を略円形に形成してなることを特徴とする回転印用無端印字ベルト。
【請求項2】
前記回転印用無端印字ベルトが連続気泡を有する多孔質材で構成されている請求項1に記載の回転印用無端印字ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−214840(P2010−214840A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65714(P2009−65714)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(390017891)シヤチハタ株式会社 (162)