説明

回転工具のソケット構造

【課題】外嵌対象にソケットを外嵌させる際の作業性を向上させることができるソケット構造を提供。
【解決手段】筒状に形成されたソケット本体2と、該ソケット本体内に収容された複数の筒状体3とを備え、ソケット本体及び各筒状体は、軸線方向に開放してボルト頭部又はナットNを内部に導入する開口部を備えると共に、それぞれが対応する異なる大きさのボルト頭部又はナットに外嵌可能に構成され、各筒状体は、それぞれの軸線が同一となるように他の筒状体の内側に収容されると共に、それぞれの軸線がソケット本体の軸線と同一となるようにソケット本体の内側に収容されており、さらに各筒状体は、外嵌可能な大きさよりも大きいボルト頭部又はナットと当接してソケット本体の開口部から離間する方向にソケット本体の軸線に沿って変位するように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト頭部又はナットにソケットを外嵌させてボルト又はナットを回転させる回転工具のソケット構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルトやナットの締付けを行なったり緩めたりする際には、ボルト又はナット(以下、回転対象と記す)を回転させる回転工具が用いられている。該回転工具は、ボルト頭部又はナットに外嵌させるソケットを備えるものが知られており、例えば、ソケットレンチのように、棒状に形成されたレンチ本体の一端部にソケットが備えられているものや、架線された状態の電線に取り付けられた設備の回転対象に対して遠隔位置から作業する際に用いられる間接活線工具のように、絶縁棒の先端部にソケットを備える先端工具が取り付けられたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
前記ソケットは、筒状の形状を有し、軸線方向に開放する開口部からボルト頭部又はナット(以下では、外嵌対象と記す)を内部に導入して外嵌するように構成されている。そして、外嵌対象にソケットを外嵌させた状態で、ソケットを軸にレンチ本体や間接活線工具の先端部を回動させることによって回転対象にトルクが伝わるように構成されている。
【0004】
ところで、ボルトやナット(回転対象)は、その用途に応じてボルト頭部又はナット(外嵌対象)の大きさが異なるものが使用されている。例えば、外嵌対象が平面視において正六角形状である場合には、対向する辺同士の間の間隔(即ち、正六角形の内接円の直径)が様々に設定されており、これによって外嵌対象の平面視における大きさが様々なものとなっている。
【0005】
このため、外嵌対象にソケットを外嵌させる際には、外嵌対象の大きさに対応したソケットを備える回転工具を用いる必要がある。例えば、異なる大きさの外嵌対象に対応した2つのソケットを備え、外嵌対象の大きさに合わせて2つのソケットが使い分けられるように構成されたソケットレンチ(特許文献2参照)や、外嵌対象の大きさに合わせてソケットを取り換え可能に構成されたソケットレンチ(特許文献3参照)が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−279800号公報
【特許文献2】特開平11−156737号公報
【特許文献3】特開2000−271874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような回転工具は、ソケットが外嵌対象に対応するものであるか否かを判断する際には、実際にソケットを外嵌対象に外嵌させて確認する必要があるため、対応したソケットを見つけ出すまでにソケット毎に確認作業を繰り返し行なう必要がある。また、外嵌対象の大きさに応じてソケットの使い分けや取り換え作業も必要となる。このため、大変作業性が悪いものとなっている。
【0008】
そこで、本発明は、大きさの異なる複数の外嵌対象に対しても、上述したような確認作業を繰り返し行なったり、ソケットの使い分けや取り換え作業を行なったりする必要が無く、外嵌対象にソケットを外嵌させる際の作業性を向上させることができるソケット構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる回転工具のソケット構造は、ボルト頭部又はナットにソケットを外嵌させた状態でボルト又はナットを回転させる回転工具のソケット構造であって、筒状に形成されたソケット本体と、該ソケット本体内に収容された複数の筒状体とを備え、ソケット本体及び各筒状体は、軸線方向に開放してボルト頭部又はナットを内部に導入する開口部を備えると共に、それぞれが対応する異なる大きさのボルト頭部又はナットに外嵌可能に構成されており、各筒状体は、それぞれの軸線が同一となるように他の筒状体の内側に収容されると共に、それぞれの軸線がソケット本体の軸線と同一となるようにソケット本体の内側に収容され、さらに各筒状体は、外嵌可能な大きさよりも大きいボルト頭部又はナットと当接してソケット本体の開口部から離間する方向にソケット本体の軸線に沿って変位するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
斯かる構成によれば、ボルト頭部又はナット(以下、外嵌対象と記す)にソケットを外嵌させる際に、外嵌対象の大きさに対応していない筒状体(言い換えれば、外嵌対象に対応するソケット本体又は筒状体よりも内側に位置する筒状体)のみが外嵌対象と当接してソケット本体の開口部から離間する方向に変位し、変位した筒状体よりも外側に位置するソケット本体或いは筒状体が外嵌対象に対して外嵌可能な状態となる。このため、大きさの異なる複数の外嵌対象を1つのソケットで外嵌することができ、上述したような確認作業を繰り返し行なったり、ソケットの使い分けや取り換え作業を行なったりする必要が無く、外嵌対象にソケットを外嵌させる際の作業性を向上させることができる。
【0011】
また、ソケット本体の内部には、各筒状体が変位する方向に対向する方向に向かって各筒状体を付勢する付勢手段が備えられており、変位した状態の筒状体からボルト頭部又はナットが離間した際に、該筒状体が変位前の位置に復帰するように構成されていることが好ましい。
【0012】
斯かる構成によれば、ソケット本体の内部に備えられた付勢手段によって変位した状態の筒状体が変位前の位置へ復帰するように構成されていることで、異なる大きさの外嵌対象に順次ソケットを外嵌させて作業するような場合であっても、1つの外嵌対象にソケットを外嵌させた後に他の外嵌対象へソケットを外嵌させる際、筒状体の位置が変位前の位置に常に復帰した状態となるため、ソケット本体及び各筒状体に外嵌対象を迅速に外嵌させることができ、作業性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、大きさの異なる複数の外嵌対象に対しても、上述したような確認作業を繰り返し行なうことがなく、外嵌対象にソケットを外嵌させる際の作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係るソケット構造を備えるソケットを示した断面図。
【図2】(a)は、本実施形態に係るソケット構造を備えるソケットにナットが外嵌された状態を示す断面図、(b)は、(a)の状態からナットが離間した状態を示す断面図。
【図3】本実施形態に係るソケット構造を備える回転工具の一例を示した側面図。
【図4】本実施形態に係るソケット構造を備える回転工具の他の例を示した側面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図1〜4を参照しながら説明する。
【0016】
本実施形態に係るソケット構造は、ボルトやナット(以下、回転対象と記す)を回転させる際に用いられる回転工具に備えられたソケット1の構造に関するものである。該ソケット1は、ボルト頭部又はナット(以下、外嵌対象と記す)に対して外嵌可能に構成され、回転対象の回転方向に対して外嵌対象と係合するように構成されている。具体的には、ソケット1は、図1に示すように、筒状に形成されたソケット本体2と該ソケット本体2の内部に収容された複数の筒状体3とから構成されている。
なお、以下の説明において、平面視とは、ソケット本体2、筒状体3、及び回転対象を軸線方向に沿って見た状態であり、断面とは、ソケット本体2及び筒状体3の軸線に直交する断面である。
【0017】
ソケット本体2は、軸線方向の一端部に、軸線方向に開放する開口部2cを備え、該開口部2cから外嵌対象を内部に導入可能に構成されている。具体的には、ソケット本体2は、板状(具体的には、円盤状)に形成された本体底部2aと、該本体底部2aの外周の全域に亘って一体的に形成された本体壁部2bとから構成されており、本体壁部2bの一端部(本体底部2aから離れた側の端部)に開口部2cが形成されると共に、本体底部2aと本体壁部2bとによって囲まれた内部空間が開口部2cから外部へ開放するように構成されている。
【0018】
本体底部2aは、中央部に貫通孔2dを備えており、ボルトに螺合されたナットにソケット1を外嵌させた際に、貫通孔2dにボルト軸が挿通可能となるように構成されている。また、本体底部2aの外周部には、本体底部2aに対して交差する方向(具体的には、直交する方向)に向かって形成された本体壁部2bの他端部が連結されている。
【0019】
本体壁部2bは、本体底部2aの外周の全域に亘って一体的に形成されており、平面視における外周形状が円形状となるように形成されている。また、本体壁部2bは、平面視における一端部の内周形状(開口部2cの形状)が多角形状(具体的には、正六角形状)となるように形成されている。
【0020】
本体壁部2bは、ソケット本体2の内部に収容された筒状体3と摺接する内周面を備える先端側壁部21bと、該先端側壁部21bよりも本体底部2a側に位置する基端側壁部22bとから構成されており、先端側壁部21bの先端部に開口部2cが形成されている。先端側壁部21bは、内周面がソケット本体2の軸線に沿って形成されており、内周面の断面形状が多角形状(具体的には、正六角形状)となるように形成されている。これにより、先端側壁部21bの内側には多角形状(具体的には、正六角形状)の断面を有する内部空間が形成されている。そして、該内部空間が開口部2cから外部へ開放するように構成されている。
【0021】
先端側壁部21bの内周面は、基端側壁部22bの内周面よりもソケット本体2の中心側に位置するように形成されている。即ち、先端側壁部21bによって形成される内部空間の断面形状は、基端側壁部22bによって形成される内部空間の断面形状よりも小さくなるように構成されている。これにより、先端側壁部21bの内周面と基端側壁部22bの内周面との間に段差部2eが形成されている。該段差部2eは、筒状体3に形成された突起部3d(突出部3dについては後述する)と係合することによって筒状体3がソケット本体2の外部へ抜け落ちてしまうのを防止する抜落防止手段の一部を構成している。
【0022】
ソケット本体2は、対応する大きさの外嵌対象に対して外嵌可能に構成されている。具体的には、ソケット本体2は、開口部2cから内部に差し入れられた特定の大きさの外嵌対象に対して先端側壁部21bが外嵌するように構成されている。より詳しくは、ソケット本体2は、先端側壁部21bの内周面の断面形状が外嵌対象の外周形状に対応するように形成されている。本実施形態では、先端側壁部21bの内周面の断面形状は、正六角形状の外周形状を有する外嵌対象に対応するように、正六角形状に形成されている。
【0023】
そして、ソケット本体2を外嵌対象に外嵌させた際に、外嵌対象の外周面の略全体が先端側壁部21bの内周面に接触し、ソケット本体2と外嵌対象とが外嵌対象の回転方向に係合するように構成されている。これにより、ソケット本体2を外嵌対象に外嵌させた状態で外嵌対象を回転させることが可能となっている。また、ソケット本体2は、外嵌対象が内部に差し入れられた状態で、外嵌対象の略全体が先端側壁部21bの内側に収容されるように構成されている。
【0024】
本実施形態で用いられる外嵌対象は、平面視において正六角形状となるように外周面が形成されたボルト頭部やナットであり、このような外嵌対象の場合、その大きさとは、平面視における正六角形の対向する辺同士の間の間隔(即ち、正六角形の内接円の直径)で表すことができる。本実施形態では、ソケット本体2(具体的には、先端側壁部21b)が外嵌可能な外嵌対象の大きさとしては、特に限定されるものではないが、例えば、斯かる間隔が30mm程度となるような外嵌対象が挙げられる。
【0025】
ソケット本体2は、外周面に環状の本体溝部2fが複数形成されている。該本体溝部2fは、ソケット本体2の周方向に沿って環状に形成されると共に、ソケット本体2の一端部側から他端部側に向かって所定の領域に複数形成されている。このような本体溝部2fが形成されていることによって、ソケット1を指などで把持する際に滑り止めとして作用することとなる。
【0026】
各筒状体3は、軸線方向の一端部に、軸線方向に開放する開口部3aを備え、該開口部3aから外嵌対象を内部に導入可能に構成されている。具体的には、各筒状体3は、筒状に形成された壁部から構成されており、軸線方向の一端部に開口部3aが形成されると共に他端部には開口部3bが形成され、壁部によって囲まれた内部空間が開口部3a,3bから外部へ開放するように構成されている。また、各筒状体3は、軸線に沿って形成された内周面と外周面とを備えており、該内周面及び外周面は、断面形状が多角形状(具体的には、正六角形状)となるように形成されている。
【0027】
各筒状体3は、断面形状の大きさがそれぞれ異なるように形成されている。そして、各筒状体3は、それぞれの軸線が同一となるように他の筒状体の内側に収容されると共に、それぞれの軸線がソケット本体の軸線と同一となるようにソケット本体の内側に収容されている。
【0028】
各筒状体3のうち、断面形状が最も大きい筒状体3(以下、第1筒状体31と記す)は、外周面の形状がソケット本体2(具体的には、先端側壁部21b)の内周面の形状に対応するように形成されている。具体的には、第1筒状体31は、先端側壁部21bの内周面に沿うように形成されると共に、該内周面の略全体に摺接する摺接領域を外周面に備えている。そして、第1筒状体31は、外周面(具体的には、摺接領域)を先端側壁部21bの内周面に摺接させた状態で軸線方向に沿って変位可能となるように構成されている。
【0029】
さらに、第1筒状体31の外周面は、先端側壁部21bの内周面と周方向に係合するように形成されることで、第1筒状体31が先端側壁部21bの内部で周方向に回転しないように構成されている。具体的には、第1筒状体31の外周面(より詳しくは、摺接領域)は、その断面形状が先端側壁部21bの内周面の断面形状に対応する多角形状(具体的には、正六角形状)に形成されており、先端側壁部21bの内周面の略全体に摺接するように構成されている。これにより、第1筒状体31が先端側壁部21bの内部で周方向に回転しないように構成されている。
【0030】
第1筒状体31以外の各筒状体3(以下では、各内側筒状体3と記す)は、それぞれが異なる大きさの断面形状となるように構成されている。本実施形態では、第1筒状体31よりも断面形状が小さい第2筒状体32と、該第2筒状体32よりも断面形状が小さい第3筒状体33と、該第3筒状体33よりも断面形状が小さい第4筒状体34とが備えられている。そして、第1筒状体31の内部に第2筒状体32が収容され、該第2筒状体32の内部に第3筒状体33が収容され、該第3筒状体33の内部に第4筒状体34が収容されるように構成されている。
【0031】
各内側筒状体3は、それぞれの外周面の形状が自身よりも外側に位置する筒状体3の内周面の形状に対応するように形成されている。具体的には、各内側筒状体3は、自身よりも外側の筒状体3の内周面に沿うように形成されると共に、該内周面の略全体に摺接するように形成された摺接領域を外周面に備えている。また、各内側筒状体3は、自身よりも外側に位置する筒状体3の内周面に外周面(詳しくは、摺接領域)を摺接させた状態で軸線方向に沿って変位可能となるように構成されている。
【0032】
さらに、各内側筒状体3の外周面は、自身よりも外側の筒状体3の内周面と周方向に係合するように形成されることで、各内側筒状体3が周方向に回転しないように構成されている。具体的には、各内側筒状体3の外周面(より詳しくは、摺接領域)は、その断面形状が摺接する筒状体3の内周面の断面形状に対応する多角形状(具体的には、正六角形状)形成されており、摺接する筒状体3の内周面の略全体に摺接するように構成されている。これにより、各内側筒状体3は、それぞれの外周面に摺接する筒状体3の内部で周方向に回転しないように構成されている。
【0033】
各筒状体3(第1筒状体31及び各内側筒状体3)は、対応する大きさの外嵌対象に対して外嵌可能に構成されている。具体的には、各筒状体3は、開口部3aから内部に差し入れられた特定の大きさの外嵌対象に対して外嵌するように構成されている。より詳しくは、各筒状体3は、内周面の断面形状が外嵌対象の外周形状に対応するように形成されている。本実施形態では、各筒状体3の内周面の断面形状は、正六角形状の外周形状を有する外嵌対象に対応するように、正六角形状に形成されている。
【0034】
そして、各筒状体3を外嵌対象に外嵌させた際に、外嵌対象の外周面の略全体が各筒状体3の内周面に接触し、各筒状体3と外嵌対象とが外嵌対象の回転方向に係合するように構成されている。これにより、各筒状体3を外嵌対象に外嵌させた状態で外嵌対象を回転させることが可能となっている。また、各筒状体3は、外嵌対象が内部に差し入れられた状態で、外嵌対象の略全体が内側に収容されるように構成されている。
【0035】
各筒状体3に外嵌される外嵌対象は、ソケット本体2に外嵌されるものと同様の外周面の形状を有するものであり、その大きさとしては、特に限定されるものではないが、例えば、対向する辺同士の間の間隔が24mm程度となる外嵌対象が第1筒状体31に外嵌され、斯かる間隔が22mm程度となるような外嵌対象が第2筒状体32に外嵌され、斯かる間隔が19mm程度となるような外嵌対象が第3筒状体33に外嵌され、斯かる間隔が17mm程度となるような外嵌対象が第4筒状体34に外嵌されるように構成されている。
【0036】
各筒状体3は、軸線方向に沿った長さ(開口部3aと開口部3bとの間の長さ)がそれぞれ異なるように形成されている。具体的には、断面形状の大きさが大きくなる順に軸線方向に沿った長さ(以下、軸方向長さと記す)が短くなるように形成されている。また、各筒状体3は、それぞれの開口部3aの位置が軸線に直交する同一平面上に位置するように他の筒状体3の内部に収容されると共に、各開口部3aの位置がソケット本体2(詳しくは、先端側壁部21b)の開口部2cと略同一平面上に位置するようにソケット本体2の内部に収容されている。
以下では、各筒状体3の開口部3aの位置とソケット本体2の開口部2cの位置とが上述したような位置となる状態を初期状態とする。
【0037】
初期状態において、各筒状体3の他端部同士の間には、段差が形成されている。具体的には、各筒状体3は、軸線方向長さが異なるように形成されているため、断面形状の大きさが小さい順(内側から順)に、それぞれの他端部の位置がソケット本体2の開口部2cに近くなるように構成されている。
【0038】
各筒状体3は、他端側の外周面から突出する突出部3dを備えている。該突出部3dは、各筒状体3の周方向の略全域に一体的或いは断続的に形成されたものであって、各筒状体3の他端部よりも先端側に位置するように形成されている。
【0039】
また、各突出部3dのうち最も外側の筒状体3(第1筒状体31)に形成された突出部3dは、初期状態においてソケット本体2の内側に形成された段差部2eにソケット本体2の軸線方向に沿って当接するように構成されている。一方、第1筒状体31以外の筒状体3(各内側筒状体3)に形成された各突出部3dは、初期状態において、それぞれが形成されている筒状体3の外周面に摺接する筒状体3の他端部にソケット本体2の軸線方向に沿って当接するように構成される。
具体的には、初期状態において、第4筒状体34の突出部3dが第3筒状体33の他端部に、第3筒状体33の突出部3dが第2筒状体32の他端部に、第2筒状体32の突出部3dが第1筒状体31の他端部にソケット本体2の軸線方向に沿って当接するように構成される。
【0040】
このように構成されることで、ソケット本体2の開口部2cの開口方向に向かって、最も外側の筒状体3がソケット本体2に係止されると共に、各内側筒状体3がそれぞれの外周面に摺接する他の筒状体3に係止されることとなる。
具体的には、初期状態において、第4筒状体34の突出部3dが第3筒状体33の他端部に係止され、第3筒状体33の突出部3dが第2筒状体32の他端部に係止され、第2筒状体32の突出部3dが第1筒状体31の他端部に係止され、第1筒状体31の突出部3dが段差部2eに係止されることとなる。
【0041】
このように構成されることで、各筒状体3は、ソケット本体2の開口部2cよりも外側に移動することがなくなり、ソケット本体2の内部から抜け落ちるのが防止される。つまり、ソケット本体2に形成された段差部2eと各筒状体3に形成された突出部3dとによって、各筒状体3がソケット本体2の内部から抜け落ちるのを防止する抜落防止手段が構成されている。
【0042】
また、各筒状体3は、後述する付勢手段4が当接する付勢手段当接部31dを備えている。該付勢手段当接部31dは、各筒状体3の他端部と突出部3dとの間に形成された段差(具体的には、本体底部2a側に凹状となる段差)であって、該段差の内側において突出部3dに付勢手段4が当接するように構成されている。
【0043】
各筒状体3は、初期状態から軸線に沿ってソケット本体2の開口部2cから離間する方向(以下、変位方向と記す)に変位可能に構成されると共に、初期状態に復帰するように構成されている。具体的には、ソケット本体2(具体的には、基端側壁部22b)の内部には、各筒状体3の変位方向に対向する方向に向かって各筒状体3のそれぞれを付勢する付勢手段4が配置されている。該付勢手段4は、各筒状体3の他端部側に形成された付勢手段当接部31dに当接して各筒状体3をソケット本体2の開口部2c側に付勢するように構成されている。
【0044】
これにより、各筒状体3は、各筒状体3を変位方向へ変位させる力が取り除かれた際に初期状態に復帰可能となる。また、抜落防止手段によって各筒状体3がソケット本体2から抜け落ちないように構成されているため、付勢手段4によって付勢された状態であっても各筒状体3の初期状態が維持される。
【0045】
付勢手段4は、各筒状体3のそれぞれを独立して付勢するように構成されている。具体的には、付勢手段4は、各筒状体3と本体底部2aとの間にそれぞれ配置された複数の弾性部材から構成されている。弾性部材としては、特に限定されるものではないが、本実施形態ではコイルバネが用いられる。具体的には、外径の大きさが異なる4つのコイルバネが用いられ、各コイルバネが他のコイルバネの内側に配置された状態で各筒状体3と本体底部2aとの間に配置されている。各コイルバネは、付勢手段当接部31dにおいて、突出部3dに当接すると共に筒状体3の他端部の外周面に密着するように一端側が形成されている。これにより、付勢手段4が意図せずに各筒状体3から外れてしまうのを防止することが可能となっている。
【0046】
各筒状体3は、図2に示すように、ソケット1を外嵌対象に外嵌させる際に、外嵌可能な大きさよりも大きい外嵌対象によって変位方向に押し込まれて変位するように構成されている。具体的には、各筒状体3は、それぞれが特定の大きさの外嵌対象を外嵌するように構成されているため、外嵌対象の大きさに対応していない筒状体3が外嵌対象によってソケット本体2の内側に押し込まれることとなる。これにより、押し込まれた筒状体3よりも外側に位置する筒状体3或いは先端側壁部21bの内周面が露出し、斯かる筒状体3或いは先端側壁部21bに外嵌対象が外嵌可能となる。
【0047】
例えば、図2(a)に示すように、ボルト軸Pに螺合されたナットNの大きさが第2筒状体32に対応した大きさである場合、第3及び第4筒状体33,34がナットNによってソケット本体2の内部へ押し込まれて変位し、第2筒状体32の内周面が露出することで、第2筒状体32にナットNが外嵌される。また、図2(b)に示すように、ナットNをソケット1から離間させることによって、ソケット本体2の内部に押し込まれていた第3及び第4筒状体33,34が付勢手段4によってソケット本体2の開口部2c側に移動し、初期状態に復帰することとなる。このように、外嵌対象の大きさに応じて対応しない筒状体3が変位し、対応する筒状体3が露出することで、大きさの異なる複数種類の外嵌対象に対してソケット1を外嵌させることができる。
【0048】
本実施形態のようなソケット構造を有するソケット1を備える回転工具としは、例えば、図3に示すようなソケットレンチLが挙げられる。該ソケットレンチLは、棒状に形成されたレンチ本体L1の一端部にソケット1が連結されたものである。
【0049】
ソケットレンチLは、ソケット1に外嵌対象を外嵌させた状態でソケット1を軸にレンチ本体L1を回動させることにより、外嵌対象を外嵌した状態のソケット1を一方向に回転させるように構成されている。具体的には、ソケットレンチLは、レンチ本体L1を一方向に回動させた際にソケット1が一方向(正方向)に回転し、レンチ本体L1を他方向に回動させた際にはソケット1が回転しないように構成されたラチェット構造をレンチ本体L1に備えている。
【0050】
また、レンチ本体L1は、ソケット1を回転させる方向を切り替える切替レバーL2を備えている。該切替レバーL2は、レンチ本体L1を一方向に回動させた際のソケット1の回転方向を正方向から逆方向(或いは、逆方向から正方向)に切替えるように構成されている。
【0051】
上記のようなソケットレンチLは、ソケット1が上述したようなソケット構造を有しているため、レンチ本体L1に複数のソケット1を備えずとも1つのソケット1のみで複数の大きさの外嵌対象に対応することができる。このため、ソケットがレンチ本体を挟んで対向する位置に2つ備えられている従来のソケットレンチの場合のように、一方のソケットと他方のソケットを順次使用する際に、切替レバーを操作する必要がなく、作業性を向上させることができる。
【0052】
具体的には、ソケットを2つ備える従来のソケットレンチは、レンチ本体を一方向に回動させた際に一方のソケットが正方向に回転するように切替レバーを切り替えた状態で他方のソケットを使用した場合、レンチ本体を同一方向に回動させた際に他方のソケットが回転しない状態となってしまう。このため、他方のソケットが回転するように切替レバーを操作することが必要となるが、本実施形態のソケットレンチLは、1つのソケット1で複数の大きさの外嵌対象に対応できるため、切替レバーL2の操作を行なうことなく、大きさの異なる外嵌対象にソケット1を外嵌させて回転させることができる。
【0053】
また、1つのソケット1のみで複数の大きさの外嵌対象に対応することができるため、レンチ本体L1を挟んでソケット1に対向する位置にハンマー部L3を備えることができ、該ハンマー部L3によって部材の打ち込みを行なうなどの作業を行なうことが可能となる。
【0054】
また、活線(充電している高圧架線など)に連結された設備の回転対象に対してソケットレンチLを用いる際には、レンチ本体L1の手で把持する領域に絶縁性を施したり、ソケット1自体を絶縁性を有する素材で形成したりすることが好ましい。
【0055】
また、他の回転工具としては、例えば、図4に示すように、間接活線作業に用いられる先端工具Tが挙げられる。該先端工具Tは、上述したソケットレンチLと同様にラチェット機構を備えると共に、切替レバーL2を備えている。
【0056】
間接活線作業は、操作棒Bの先端に先端工具Tを連結した間接活線工具を用いて、活線に対して遠隔地点から作業を行なうため、本実施形態のような構造を有するソケット1が先端工具Tに備えられていることで、外嵌対象の大きさが異なる複数の回転対象が存在している場合にも、ソケット1の交換を行なうなどの手間を省くことができると共に、交換を行なう際に先端工具Tが活線に接触するといった事故が起こるのを抑制することができる。
【0057】
また、ソケット1自体に絶縁性を持たせることで、先端工具Tが充電されることがなくなるため、回転対象の近傍に位置する他の設備に地絡防止の防具を取り付けたりする手間を省くことができ、作業性を向上させることができる。
【0058】
以上のように、本発明にかかる回転工具のソケット構造によれば、大きさの異なる複数の外嵌対象に対しても、上述したような確認作業を繰り返し行なうことがなく、外嵌対象にソケットを外嵌させる際の作業性を向上させることができる。
【0059】
即ち、前記回転工具のソケット構造は、外嵌対象にソケット1を外嵌させる際に、外嵌対象の大きさに対応していない筒状体3のみが外嵌対象と当接してソケット本体2の開口部2cから離間する方向に変位し、変位した筒状体3よりも外側に位置するソケット本体2或いは筒状体3が外嵌対象に対して外嵌可能な状態となる。このため、大きさの異なる複数の外嵌対象を1つのソケット1で外嵌することができ、上述したような確認作業を繰り返し行なったり、ソケットの使い分けや取り換え作業を行なったりする必要が無く、外嵌対象にソケット1を外嵌させる際の作業性を向上させることができる。
【0060】
また、ソケット本体2の内部に備えられた付勢手段4によって変位した状態の筒状体3が変位前の位置へ復帰するように構成されていることで、異なる大きさの外嵌対象に順次ソケット1を外嵌させて作業するような場合であっても、1つの外嵌対象にソケット1を外嵌させた後に他の外嵌対象へソケット1を外嵌させる際、各筒状体3の位置が変位前の位置に常に復帰した状態となるため、ソケット本体2及び各筒状体3に外嵌対象を迅速に外嵌させることができ、作業性の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0061】
1…ソケット、2…ソケット本体、2a…本体底部、2b…本体壁部、2e…段差部、3…筒状体、3d…突起部、21b…先端側壁部、22b…基端側壁部、P…ボルト軸、N…ナット、T…先端工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト頭部又はナットにソケットを外嵌させた状態でボルト又はナットを回転させる回転工具のソケット構造であって、
筒状に形成されたソケット本体と、該ソケット本体内に収容された複数の筒状体とを備え、ソケット本体及び各筒状体は、軸線方向に開放してボルト頭部又はナットを内部に導入する開口部を備えると共に、それぞれが対応する異なる大きさのボルト頭部又はナットに外嵌可能に構成され、
各筒状体は、それぞれの軸線が同一となるように他の筒状体の内側に収容されると共に、それぞれの軸線がソケット本体の軸線と同一となるようにソケット本体の内側に収容されており、
さらに各筒状体は、外嵌可能な大きさよりも大きいボルト頭部又はナットと当接してソケット本体の開口部から離間する方向にソケット本体の軸線に沿って変位するように構成されていることを特徴とする回転工具のソケット構造。
【請求項2】
ソケット本体の内部には、各筒状体が変位する方向に対向する方向に向かって各筒状体を付勢する付勢手段が備えられており、変位した状態の筒状体からボルト頭部又はナットが離間した際に、該筒状体が変位前の位置に復帰するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の回転工具のソケット構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−240420(P2011−240420A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112531(P2010−112531)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)