説明

回転工具支持装置

【課題】回転工具に発生する瞬間的な反力が操作側に伝達されることを抑制できる回転工具支持装置を提供する。
【解決手段】回転工具支持装置1は、一端に工具が着脱可能に連結される回転軸51及び回転軸51に駆動力を発生させる本体部52を有する回転工具50を支持する回転工具支持装置1であって、本体部52を保持する本体保持部18と、本体部52を回転方向及び回転軸方向に移動可能に支持する本体支持部20と、本体支持部20に連結されて回転工具50を任意の位置に移動させるための操作が加えられる操作入力部28と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転工具支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動ドライバー等の回転工具に過大な負荷が作用した場合に、回転工具の動力伝達を解除すると共に、解除されたことを自動的に検出できる技術が開示されている(特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1の技術は、回転工具に過大な負荷が作用すると、クラッチスリーブと動力伝達フランジとの間ですべりを生じることで工具の回転が停止する。さらに、クラッチスリーブと動力伝達フランジとの間にすきまを生じてエアー漏れを生じ、これにより工具の回転が停止したことを自動的に検知できる。
【0004】
特許文献1の技術によれば、電動ドライバー(回転工具)によるねじの締め付けの最中に、トルクの大きさが一定値を超えて、これ以上ねじが締まらなくなるようなねじ締付け完了の瞬間になると、クラッチが外れて回転軸の回転が停止する。これにより、ねじの損傷、タップの折損等が回避できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−136338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電動ドライバーでは、ねじ締付け完了の瞬間に、回転軸の急激な回転停止による瞬間的な反力(停止時最大トルクと同等な反力)が発生する。
また、電動ドライバーの駆動開始(ねじの締付け開始又は取外し開始)の瞬間においても、回転軸の急激な回転開始による瞬間的な反力(起動時最大トルクと同等な反力)が発生する。これらの最大トルク(瞬間最大トルク)と同等な反力は、小さなねじ(例えば呼び径がM3〜M5)を使用する場合であっても発生する。
【0007】
電動ドライバーに発生する瞬間的な反力は、電動ドライバーに重力バランサーを連結した場合においては、その大部分が重力バランサーに伝達される。しかし、瞬間的な反力の一部は、電動ドライバーを把持する作業者(操作側)にも伝達される。このため、電動ドライバーを長時間連続して使用すると、例えば作業者の手首が腱鞘炎になってしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みて提案されたものであり、回転工具に発生する瞬間的な反力が操作側に伝達されることを抑制できる回転工具支持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る回転工具支持装置は、一端に工具が着脱可能に連結される回転軸及び前記回転軸に駆動力を発生させる本体部を有する回転工具を支持する回転工具支持装置であって、前記本体部を保持する本体保持部と、前記本体部を回転方向及び回転軸方向に移動可能に支持する本体支持部と、前記本体支持部に連結されて前記回転工具を任意の位置に移動させるための操作が加えられる操作入力部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、前記本体支持部は、回転往復用軸受を介して前記本体部を支持することを特徴とする。
【0011】
また、前記操作入力部と前記本体部の間に、前記操作入力部と前記本体部を回転軸方向において離間させるように付勢する付勢部を備えることを特徴とする。
【0012】
また、前記本体保持部に、前記回転工具の重力を相殺して保持する重力バランサーが連結されることを特徴とする。
【0013】
また、前記回転工具は、電動ドライバー装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る回転工具支持装置は、回転工具の起動時及び停止時に瞬間的な反力が発生した際に、この反力が操作側に伝達されることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る回転工具支持装置の全体構成を示す図である。
【図2】回転工具支持装置の主要部を示す平面図である。
【図3】回転工具支持装置の主要部を示す側面図である。
【図4】回転工具支持装置の主要部を示す上面図である。
【図5】回転工具支持装置の主要部を示す縦断面図(図2のE−E断面図)である。
【図6】回転工具支持装置の主要部を示す横断面図(図2のF−F断面図)である。
【図7】回転工具支持装置の主要部を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る回転工具支持装置1の全体構成を示す図である。図1において、紙面左側方向をX方向、紙面裏側から表側方向をY方向、紙面下側方向をZ方向とする。
図2〜図7は、回転工具支持装置1の主要部(反力キャンセラー20等)を示す図である。
【0017】
電動ドライバー(回転工具)50は、ねじを締結するためのドライバービット等(不図示)を一端に着脱可能な回転軸51と、回転軸51に回転駆動力を発生させるモータ等を収納する本体部52と、を有している。
【0018】
回転工具支持装置1は、電動ドライバー50を保持する本体保持部18と、電動ドライバー50の駆動開始時や駆動停止時に発生する瞬間的な反力を吸収する反力キャンセラー20と、電動ドライバー50の作業者(操作者)が把持する操作部材28と、を備えている。
【0019】
工具固定板(本体保持部)18は、本体部52の中間部において電動ドライバー50に固定される部材であり、例えば矩形状のブロック形に形成される。また、工具固定板18は、その中心に電動ドライバー50の本体部52を挿入(螺合)した状態で固定する工具固定孔18aが形成される。すなわち、工具固定板18は、電動ドライバー50の本体部52を外側から固定して支持する。
そして、工具固定板18は、一対のブラケット17によって両端側から挟み込まれるようにしてねじ止めされる。さらに、工具固定板18には、ブラケット17を介して重力バランサー9が連結される。
【0020】
重力バランサー9は、電動ドライバー50の本体部52が回転軸51の回転方向(軸周り方向)への回転を抑止しつつ、本体部52を間接的に保持する。つまり、電動ドライバー50の回転軸51が回転する際に、本体部52が回転軸51の回転方向とは反対側に回転することを抑止するものである。
【0021】
重力バランサー9は、ベース10を介して床面上に固定された支柱11と、支柱11の軸方向にスライド可能であると共に軸周り方向に回転可能に取り付けられた元金具12と、元金具12に対して一端側が回転可能に取り付けられた元アーム13と、を備えている。
また、重力バランサー9は、元アーム13の他端側が回転可能に取り付けられた中間金具14と、中間金具14に対して一端側が回転可能に取り付けられた先アーム15と、先アーム15の他端側に回転可能に取り付けられた先金具16と、を備えている。
【0022】
重力バランサー9は、元アーム13と先アーム15に取り付けたバネ(不図示)の弾性力により電動ドライバー50の重力を相殺することにより、電動ドライバー50に小さな力が与えられるだけで、電動ドライバー50を3次元方向へ移動させて任意の位置に保持できる。
また、重力バランサー9は、電動ドライバー50の駆動時(回転軸51の回転時)に、本体部52が回転軸51の回転方向とは反対側に回転することを抑止する。
【0023】
反力キャンセラー(本体支持部)20は、電動ドライバー50が回転方向に移動できるように、本体部52を支持するものである。
また、反力キャンセラー20は、電動ドライバー50が回転軸方向に移動できるように、本体部52を支持するものでもある。
そして、反力キャンセラー20には、作業者が把持するための操作部材28が連結される。具体的には、後述する回転往復用軸受21の外筒23の外周面に操作部材(操作入力部)28が取り付けられる。
【0024】
電動ドライバー50の回転軸51の駆動開始時及び駆動停止時においては、本体部52に瞬間的な反力が発生する。反力キャンセラー20は、本体部52に発生した瞬間的な反力を吸収して、瞬間的な反力が操作部材28に伝達しないように抑制する。
【0025】
反力キャンセラー20は、本体部52に対して工具固定板18を介して間接的に取り付けられた回転往復用軸受21を備えている。
回転往復用軸受21は、内筒22と、内筒22の外周側に配置された外筒23と、内筒22と外筒23との間隙に配置された複数のボール24と、ボール24の配列位置を保持するボールケージ25と、から構成される。
【0026】
複数のボール24は、内筒22と外筒23の間隙に配置されて、内筒22と外筒23との摩擦係数を小さくするものである。複数のボール24は、荷重負荷が均等に配分されるように、ボールケージ25によって千鳥状に配列されている。
【0027】
ボールケージ25は、内筒22と外筒23の間隙に収納される円筒状に形成され、複数のボール24を収納している。各ボール24は、ボールケージ25に収納されているものの、その一部がボールケージ25の内周側及び外周側から外部に露出する。そして、露出する部分が内筒22の外周面及び外筒23の内周面にそれぞれ接している。このため、外筒23は、内筒22に対して、回転方向(Z軸回り)に滑らかに回転可能であると共に、上下方向(Z方向)にも滑らかに移動可能になっている。
【0028】
図5及び図6に示すように、工具固定板18の上面には、工具固定孔18aの外側同心円上に、リング状凸部である内筒固定環18bが形成される。そして、内筒固定環18bの外周面に対して、内筒22の一端側の内周面が嵌合して、固定される。
これにより、回転往復用軸受21(内筒22)は、工具固定板18に対して、回転往復用軸受21の回転軸が電動ドライバー50の回転軸に一致するように固定される。
【0029】
また、反力キャンセラー20は、内筒22と外筒23の回転軸方向における一方側の移動を規制するCリング26と、内筒22が固定された工具固定板18と外筒23の間に設けられた複数の圧縮スプリング(付勢部)27と、を備えている。
【0030】
内筒22の上側端部の外周面には、Cリング26が嵌め込まれている。Cリング26は、外筒23の−Z方向への移動限界を規定するものである。つまり、外筒23は、その上側端部がCリング26に接触するまでは、内筒22に対して−Z方向への移動が可能であるが、Cリング26を超えて−Z方向に移動できないようになっている。
【0031】
一方、外筒23の下側端部と内筒22が固定された工具固定板18の上面の間には、4つの圧縮スプリング27が、本体部51を中心にして四方に設けられている。
このため、外筒23は、内筒22に対して−Z方向へ移動するように押付けられる。言い換えれば、内筒22は外筒23に対して+Z方向へ移動するように押付けられる。
したがって、工具固定板18を介して内筒22に固定された電動ドライバー50(本体部52)は、外筒23に固定された操作部材28に対して+Z方向へ移動(離間させるよう)ように押付けられる。
【0032】
以上のように構成された回転工具支持装置1において、作業者は、回転工具支持装置1の操作部材28を操作して、電動ドライバー50を任意の位置に移動させることができる。
【0033】
そして、回転工具支持装置1は、ねじの締め付け作業の際には、次のように作用する。
電動ドライバー50の回転軸51の先端には、ドライバービット(不図示)が装着される。
作業者は、回転工具支持装置1の操作部材28を操作して、電動ドライバー50に取り付けたドライバービットを締め付け対象のねじ(ねじ頭)に当接させる。
【0034】
さらに、回転工具支持装置1の操作部材28を操作して、電動ドライバー50をねじに向けて押付ける(+Z方向に移動させる)。これにより、電動ドライバー50のZ方向の位置は変わらないものの、操作部材28のみが+Z方向に移動する。反力キャンセラー20の4つの圧縮スプリング27が縮んで、内筒22に対して外筒23が移動するからである。
【0035】
次に、電動ドライバー50を起動して、ねじの締結を開始する。ねじの締結が開始されると、回転軸51の始動に伴って、本体部52に瞬間的な反力は発生する。
この瞬間的な反力の大部分は、工具固定板18をから重力バランサー9に伝達される。
【0036】
また、瞬間的な反力の一部は、工具固定板18に固定されている内筒22(回転往復用軸受21)にも伝達される。
しかし、回転往復用軸受21は、内筒22と外筒23が、電動ドライバー50の回転方向と同一の回転方向に円滑に回転可能になっているので、内筒22に伝達された瞬間的な反力の一部は、回転往復用軸受21に吸収される。このため、外筒23に固定された操作部材28には、瞬間的な反力の一部は伝達されない。
したがって、電動ドライバー50(操作部材28)を操作する作業者には、反力は伝達されず、腱鞘炎などの被害を受けることがない。
【0037】
そして、ねじの締結を続けると、ねじと電動ドライバー50が徐々に+Z方向に移動し始める。
ねじは、締結に伴って+Z方向に進行する。これに伴って、電動ドライバー50は、反力キャンセラー20の4つの圧縮スプリング27が圧縮状態から開放状態に変化する。つまり、4つの圧縮スプリング27の作用により、外筒23に固定された操作部材28に対して、工具固定板18を介して内筒22に固定された電動ドライバー50は、+Z方向へ押付けられるように移動する。
このため、電動ドライバー50(操作部材28)を操作する作業者は、従来のように、ねじの締結の進行に伴って、電動ドライバー50(操作部材28)を+Z方向に移動させる必要がない。
したがって、電動ドライバー50の操作者は、ねじの締結作業の際に、電動ドライバー50を締め付け対象のねじに当接させるだけで済むので、作業の省力化が図られる。
【0038】
以上のように、本実施の形態に係る回転工具支持装置1では、電動ドライバー50の起動時に瞬間的なトルクが発生した際に、この反力が操作部材28を介して操作者に伝達されることを抑制することができる。
【0039】
すなわち、電動ドライバー50に発生したトルクの反力の大部分は、工具固定板18を介して重力バランサー9に伝わって吸収、解消される。また、重力バランサー9により吸収しきれなかった反力の一部が反力キャンセラー20に伝わるものの、回転往復用軸受21により吸収、解消されるので、操作部材28から操作者に伝達されない。
【0040】
同様に、電動ドライバー50の回転軸51の回転が急停止する場合や、ねじを締め込むためのインパクト(打撃)を発生させる場合においても、本体部52に瞬間的な反力は発生する。
そして、この瞬間的な反力の一部は、工具固定板18に固定されている内筒22にも伝達されるが、回転往復用軸受21により吸収、解消される。このため、外筒23に固定された操作部材28には、瞬間的な反力の一部は伝達されないので、電動ドライバー50の操作者は腱鞘炎などの被害を受けることがない。
【0041】
また、ねじを締結する場合に限らず、締結されたねじの取り外す場合であって、回転工具支持装置1を用いることにより、作業の省力化が図られる。
つまり、締結されたねじの取り外す際に、ねじは−Z方向に進行する。これに伴って、電動ドライバー50も、反力キャンセラー20の4つの圧縮スプリング27を開放状態から圧縮状態に変化させながら−Z方向に移動する。
したがって、電動ドライバー50(操作部材28)を操作する作業者は、従来のように、締結されたねじの取り外しの進行に伴って、電動ドライバー50(操作部材28)を−Z方向に移動させる必要がない。
【0042】
なお、上述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0043】
例えば、本実施形態では、回転工具として電動ドライバー50を例に挙げて説明したが、これに限らない。電動研磨装置、電動ドリルなどの回転工具であってもよい。
【0044】
また、反力キャンセラー20が回転往復用軸受21を備える場合について説明したが、これに限らない。すなわち、回転移動と往復移動を一体型の軸受を用いて実現する場合に限らない。例えば、回転往復用軸受21に代えて、回転軸受とボールスプラインなどを組み合わせた構成としてもよい。
【0045】
また、圧縮スプリング27に代えて、内筒22と外筒23を軸方向において反発させる反発磁石を用いる場合であってもよい。
【0046】
工具固定板18に連結される機構は、重力バランサー9に限らない。工具固定板18を介して、本体部52が回転軸51の回転方向と反対方向に回転することを抑止できるものであればよい。
【0047】
また、本実施形態では、作業者が操作部材28を操作する場合について説明したが、ロボットアームにより操作部材28を操作する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…回転工具支持装置、 9…重力バランサー、 18…工具固定板(本体保持部)、 20…反力キャンセラー(本体支持部)、 21…回転往復用軸受、 26…Cリング、 27…圧縮スプリング(付勢部)、 28…操作部材(操作入力部)、 50…電動ドライバー(回転工具)、 51…回転軸、 52…本体部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に工具が着脱可能に連結される回転軸及び前記回転軸に駆動力を発生させる本体部を有する回転工具を支持する回転工具支持装置であって、
前記本体部を保持する本体保持部と、
前記本体部を回転方向及び回転軸方向に移動可能に支持する本体支持部と、
前記本体支持部に連結されて前記回転工具を任意の位置に移動させるための操作が加えられる操作入力部と、
を備えることを特徴とする回転工具支持装置。
【請求項2】
前記本体支持部は、回転往復用軸受を介して前記本体部を支持する
ことを特徴とする請求項1に記載の回転工具支持装置。
【請求項3】
前記操作入力部と前記本体部の間に、前記操作入力部と前記本体部を回転軸方向において離間させるように付勢する付勢部を備える
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の回転工具支持装置。
【請求項4】
前記本体保持部に、前記回転工具の重力を相殺して保持する重力バランサーが連結されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の回転工具支持装置。
【請求項5】
前記回転工具は、電動ドライバー装置であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の回転工具支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−71202(P2013−71202A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211775(P2011−211775)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】